インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
実は本社への連絡がすっかり忘れられていて………というお話です。
今現在、カラードが
1つは“首座の眷属”の領域にある1号支社。
1つは“獣の眷属”の領域にある2号支社。
どちらも、規模は大きくない。また両文明からスパイ活動を疑われない為に、かつ無制限の出費を防ぐ為に、設立時に以下のような取り決めがされていた。
―――支社設立の目的や取り決め―――*1
設立目的
・他の文明の一般常識を知るため。
・危険宙域や賞金首の情報を得るため。
取り決め内容
・こちらに送る情報は検閲される。(責任をもってしてもらう)
・雇用する者達は支社を置く文明側で選ぶ。
・支社の社屋はコンパクトサイズ。
・人員は少数。情報を送ってもらうだけなので10名以下。
・社の方針として人材は人財なので福利厚生は手厚く。
・お給料は平均より上。中の上くらい。
・事務員扱いであって戦闘要員ではない。
・その他希望があれば随時相談。
―――支社に関する取り決め―――
このような背景があるため本社は、支社に一般情報の収集以外を求めていなかった。しかし本社には本社の都合があるように、雇われた者達には雇われた者達の背景がある。“首座の眷属”は1号支社の初期メンバー(現在のプラチナ・ドロップスの総責任者であるナユと幹部9名)を、第3回や第5回外宇宙ミッションで助けられた者達から選んでいたのだ。悪徳の都から助け出された者達や、惑星遭難がコールされた星の者達だ。
なので1号支社の面々は極々自然に、カラードなら理不尽な暴力や危険に晒されている人達を助けられると思い、支社独自の事業が1つ立ちあげられていた。
それは危険宙域のパトロール。無論、支社の者が直接行う訳ではない。伝手で集めた船乗りと中古のステルス艦を使って………だけではリスクが高いので、少しばかり方法が考えられていた*2。
実際にパトロールするのは無人艦で、有人艦は同一星系内で索敵情報を受け取るだけ、という形だ。理由は単純なもので、完全独立行動を行える程のAIを搭載していないからだ。何せ少ない資金でやり繰りする独自事業なので、正規軍が使っているような高性能AIを買える筈もない。そもそも許可が下りない。加えていえば高性能AIを使っている“首座の眷属”の正規軍ですら、AI任せの単艦行動など余程の事が無ければ行わせていない。これまでの永い歴史で、
つまり軍ですら行っていない事を1号支社が行える訳も無いので、中古のステルス艦1隻と無人艦1隻の編成になったという訳だ。規模としては小さく、細々と行われている、という表現が正しいだろう。
だが約2年の間にあった変化が、状況を変えていた。
1つ目の変化が、この事業を立ち上げた1号支社のメンバー全員がプラチナ・ドロップスに配置転換となった事で、1号支社の者が全員入れ替わっていること。
2つ目の変化が、カラードの信用度が向上したこと。スターゲートハイウェイや積み替え用ステーションの安定稼働、水という資源の適正価格販売、プラチナ・ドロップスというレジャーコロニーの運営、武力のような派手さは無いが、しっかりとした組織基盤が無ければ行える事ではない。
3つ目の変化が、他文明の一般人から見たカラードの知名度だ。第3回や第5回外宇宙ミッションで知られたとは言え、救出劇など一過性に過ぎない。日常生活に戻って平和な時間が過ぎれば、遠からず忘れられていくだろう。しかしスターゲートハイウェイや積み替え用ステーション、水の販売、プラチナ・ドロップスは違う。日常やレジャーで使われるのだ。そして使う度にカラードという名を目にする。1日7万隻の交通量があるスターゲートハイウェイで、或いはレジャーで訪れたプラチナ・ドロップスで。
4つ目の変化は3つ目の変化に付随するもので、既に数年前の出来事となっている第3回や第5回外宇宙ミッションの事が思い返されると共に、“獣の眷属”の領域で行われた第9回外宇宙ミッションの事も知られるようになった*3。
これらの変化は独自事業の追い風となり、パトロール依頼の申し込みが増えていた。
しかし、である。
この独自事業、カラード本社は知らないのだ。旧1号支社の面々は新しいメンバーに引き継ぎをしていたが、引き継がれた方は、本社は当然知っているものと思っていた。また“首座の眷属”は1号支社の動向を知っていたが、たかが中古船2隻。武装も自衛の範囲でしかついていない。全く問題視していなかった。無論活動に何かしらの問題があれば介入しただろうが、パトロールで不審な影を見つければ、律儀に現地の軍やPMC等に連絡を入れてくれる。自身で対処しようと重武装化する兆しもない。活動として、何も問題無いのだ。
そしてパトロール専門のような活動は、意外と需要があった。軍やPMCにとって拘束時間が長いパトロールというのは、目立った成果やお金になり辛い面倒な仕事なので、中々有り難かったのである。
このためパトロールを請け負い、契約金や報酬で船を増やす事で、徐々に事業規模が拡大されていった。今では複数艦を運用して複数の宙域をパトロールする程だ。
一見すると順風満帆に見えるだろう。だが、厄介事は静かに近づいていた。
何故なら悪党側の視点で考えた場合、自分達の行動を探る・監視する目というのは、無い方が良いに決まっている。可能なら排除したい。では、可能だろうか?
悪党としては極々真っ当な思考であり、防衛という視点で見た場合、1号支社は脆弱であった。
支社の建物こそ治安の良い場所にあるが、鉄壁のセキュリティという訳ではない。やろうと思えば社員を直接狙える。船だってそうだ。パトロール特化なため、船速こそあれど強力な船という訳ではない。所詮は中古船。運用で性能を誤魔化しているだけなのだ。また無人艦が損害を受けるだけでも、支社の予算には大きなダメージであった。数隻も沈められれば赤字となり、事業継続は難しくなるだろう。
悪党が選んだのは後者であった。理由は人を狙うより船を狙った方が簡単だから、という事に尽きる、治安の良い場所で人を狙うと、後始末が色々と面倒なのだ。これに対して、パトロール中の無人艦を狙うのはやり易い。何せ危険宙域。司法の目は無いに等しいし、事が済んだ後の離脱も、ワープで簡単に行える。
結果として1号支社は運用していた無人艦を次々と沈められ、事業継続が難しくなってきたところで、本社に連絡が入ったのだった。
―――カラード本社。社長室。
シャルロットから報告を聞いた晶は、小さく溜息をついて言った。
『ま、この程度で済んだなら良いか』
1号支社は設立当初から、本社のコントロールが極めて利きづらい事が分かっていた。
極々当たり前の話だ。社員を選ぶのは“首座の眷属”。やり取りは全て通信。地球人は1人もいない。本社の人間が行く事も無い。隠れて何かをしようと思えば、幾らでもやれるだろう。
このため支社設立時の取り決めは、本社を守る安全対策でもあった。しかし隠れて悪い事、例えば横領などは考えていたが、隠れて良い事をしていたとは………。
晶は少しばかり考えた後、シャルロットに尋ねた。
『この事業を発案した旧1号支社(ナユ達)の面々は、何て言ってるんだ?』
『全員から話を聞いてみたけど、怪しい感じは無かったかな。仕事や待遇に不満があった訳じゃなくて、あの10人ってみんな助けられた人達でしょ。だからカラードならって思ったみたい』
『全く。なら始めからこっちに話を上げれば良いものを』
『始めは上げる気だったみたい。でも小さくても良いから、実績と一緒の方が話を通し易いと思ったみたいで、先に準備を始めて事業を動かして、そこでプラチナ・ドロップスの話が立ち上がってそっちに謀殺されて、いつの間にか連絡がすっぽりと忘れ去られて、そのまま配置転換。で、引き継いだ後任達は本社と話がついていると思って、事業を続けていたみたい』
プラチナ・ドロップス立ち上げの時の仕事量は、確かにかなりエグかった。有り得ない話ではない。
『なるほど。仕事の引き継ぎで、あるあるな話だな』
『どうしようか』
『社員の背景や事業内容を考えれば、厳罰にするような事じゃない。ただ連絡を忘れていた事と、自分達が狙われた際の対処方法まで考えてなかった、という点はお仕置きだな。精々数か月の減給で良いだろ』
『了解。で、本題の狙われた事への対処はどうしようか』
晶の答えは、極めて分かり易いものだった。
『
『だよね』
シャルロットは分かってましたとばかりに、周辺宙域にいると思われる賞金首や宇宙海賊の情報を送ってきた。
『情報の確度は?』
『1号支社の日常業務で集められた情報だから、パトロールしている宙域で活動履歴があるっていうだけかな。だから、もうその宙域にいない可能性も、逆に仲間を呼び寄せて、もっと増えてるかもしれない』
晶は思った。真面目に悪党の居場所を調査すると、時間も手間もかかってしまう。どうせなら悪党どもには自発的に動いて貰って、そこを襲って情報を根こそぎ頂いて、芋づる式に分からせた方が、労力は少なくて済む。
この方針で考えた案をシャルロットに伝えると、彼女はニッコリと笑って「じゃあ、準備するね」と答えたのだった。
◇
地球時間で1週間後。どうにか本社から予算を勝ち取った1号支社は、なけなしの予算で無人艦を購入して事業を続けていた。
しかし、悪党にとっては関係無い。むしろなけなしの予算なら、もうちょっとやってやれば事業停止に追い込めるだろう。
だから悪党は遠慮なく嬉々として、パトロール用の無人艦を潰しにかかってきた。
―――本社の狙い通りに。
無人艦が、煌めく爆光の中に沈んでいく。所詮は中古船を改造した無人艦。高性能AIを搭載している訳でもない。高性能な武器を積んでいる訳でもない。この手の事をやり慣れている奴らにしてみれば、カモでしかない。ワープによる高速接近からワープ妨害とステイシスフィールドを使った強制減速。後は射的ゲームで一方的にタコ殴り。
僅か数十秒で無人艦は宇宙の藻屑に変えられ、悪党どもはワープで速やかに離脱していく。
―――奴らは気付いていなかった。
―――静かに見ている者達がいる事に。
空間潜行艦アリコーン2番艦。ステルス状態で全てを見届けたクルー達は、ブリッジで各々の仕事に取り掛かっていた。全員、元3年1組の一般生徒達だ。
「ターゲット1。進行方向及びワープドイライブ放出エネルギー確認。ワープトンネル逆算開始………………………ワープアウト座標出ました。同一星系内アステロイドベルト直近です」
「ターゲット2。同じです」
「ターゲット3。同じく」
艦長席に座る女性が判断を下した。
「三角飛びで適当な場所を経由して追います。艦首UP30度で2光年をステルスワープ。その後、算出したワープアウト座標手前1万キロ地点に再度ワープします」
ワープの発達した
「了解。艦首UP30度。2光年をステルスワープの後、算出座標手前1万キロ地点にワープします」
そうしてステルス状態を維持したままワープしたアリコーンは、程なくして小惑星をくり抜いた簡易的な基地を発見した。遠距離から光学観測で見る限り、本当に簡易的だ。船を隠す為に適当にくり抜いただけ。パッシブセンサーの反応を見るに、停泊している船は8隻程度だろうか? 大きさ的に、内部に簡易的な居住設備もあるだろう。
艦長席に座る女性は、格納庫にいる2人にコアネットワークを繋いだ。
(あかりん。かなりん。準備は良い?)
(勿論)
(大丈夫だよ)
今回のミッションの目的は2つ。1つはカラードの社章がついた船に手を出したらどうなるかを知らしめること。1つは次の獲物に繋がる情報を奪取すること。
このため立案されたプランは、本当に、欠片も自重されていなかった。
初手でアリコーンの最大火力、艦首無砲塔型荷電粒子砲*4で小惑星の半分を物理的に消し飛ばして、悪党どもの戦意をへし折る。
第二手で内部に突入して残った悪党どもを駆除しつつ、持っている情報を根こそぎ頂く。そして次の獲物を見つける。これの応援要員として呼ばれたのが、
(じゃあ予定通り基地の半分を吹き飛ばすから、後はプラン通りに)
((任されました))
2人がニッコリと良い笑みを浮かべながら返事をして、自身の専用機を展開する。
―――2人のISスーツ姿とISを展開した姿―――
2人のISスーツ姿
2人のISを展開した姿
―――2人のISスーツ姿とISを展開した姿―――
両機共に打鉄をベースとしたカスタム機だが、性能は打鉄の比ではなかった。カラード主要メンバーの専用IS全機に言える事だが、IS学園卒業時点の第三世代機よりも高性能であり、機動力、シールド強度、
サブジェネレーターは純粋に最大出力を増加させるもので、恩恵は多岐に渡る。何故なら最大出力の増加はエネルギー回復量に直結して、ブースト稼働時間やシールド回復速度に影響するからだ。他にも余剰出力が多ければ多い程、負荷の重い装備を使い易くなる。例えるなら単発エンジンを双発エンジンにするようなもの、と言えるだろう。
エネルギーカートリッジシステムは、予め蓄えておいたエネルギーを使って一時的に出力を増強するシステムだ。理論上は純粋に蓄えておいた分のエネルギーを上乗せできる。無論、無茶な上乗せは機体側のダメージとなってしまうが、戦っていれば無茶が必要な瞬間というのは必ずあるため、切り札として非常に心強いシステムであった。
そしてこの2つは元3年1組やハウンド、他にも何人かいる主要メンバーのISには標準装備されていた。
(頼もしいね)
こうして話していると、一緒に突入する2番艦の4人が来てISを展開する。計6人が突入メンバーだ。いずれも一騎当千で、戦闘力という点では申し分ない。だが外を見張る2人を含めても計8人しかいない。これでは討ち漏らしが発生してしまう可能性もある。よって彼女らは、補助戦力として
起動した
(艦首無砲塔型荷電粒子砲の発射シークエンスに入ります)
アリコーンのステルス状態が解除され、艦首部分の装甲板が左右に開いていく。巨大な砲口が露出し、前方にある種の力場によって、無色透明なエネルギーバレルが展開された。
(艦首装甲板及びエネルギーバレル展開完了。主機関出力上昇。70………80………90………100………フルドライブモードへ移行。冷却システム問題無し)
空間潜行艦アリコーンは、スターゲート機能を搭載している艦だ。つまり時空間を捻じ曲げ次元回廊を形成できるような、膨大な出力があるということ。それを転用した荷電粒子砲だ。
(ターゲットを
アリコーン前方にエネルギースフィアが形成される。始めは野球ボール程度だったものが瞬く間に船体の全高を超え、100メートル、200メートル、1000メートル、2000メートル、3000メートル。
エネルギースフィアが小惑星の半分程度のサイズとなり、展開されているエネルギーバレルが軋みをあげ、周囲にプラズマ放射が巻き起こる。
この時点で、小惑星にいた悪党どもは行動を起こした。小惑星全体を覆うエネルギーシールドが展開される。が、津波に対して人間が盾を持ったとして、何が出来るだろうか?
(発射)
荷電粒子砲が1万キロという距離を瞬く間に駆け抜け、小惑星にぶち当たる。エネルギーシールドによる拮抗は一瞬ですらなかった。濡れた薄紙が引き裂かれるかのように破られ、圧倒的な熱量によって小惑星の半分が溶解していく。
これで第一手が終了。次だ。
(ショートワープで接近。接舷します)
アリコーンのワープドライブが起動。1万キロという距離を一瞬で踏み潰し、小惑星に接舷する。
(みんな。お願いね)
こうして6人の突入メンバーと60機の
◇
幾つかの拠点を芋づる式に叩き潰した後日のこと。
晶は旧1号支社の面々、プラチナ・ドロップスの総責任者であるナユと幹部9人を、全員集めて話をしていた。
事が事なので、通信ではなく直接プラチナ・ドロップスに赴いてだ。
「――――――という訳で、君達の背景を考えれば行動理由としては分からなくもないし、損害を与える意図も無かったと思っている。だが本社への連絡を忘れていたのは頂けない。よって減給40%を3ヶ月で、今の立場はそのまま維持とする」
この言葉を聞いて、10人は明らかにホッとした様子だった。心情的な事を考えずに起こった事実だけを見るなら、相当な大失態だからだ。本社無認可でカラードの社章を付けた船を準備して、挙句無人艦とは言え複数艦が撃沈されたのだ。今の1号支社が連絡を入れてくれなければ、信用問題になっただろう。
晶は話を続けた。
「で、お前達が立ち上げた事業だしな。その後どうなったのかも教えておこう。端的に言えば、本社の資金を入れて装備を大幅に更新して事業を続けている」
全員の前に空間ウインドウを開いて、事業情報を見せる。
まず有人運用していたステルス艦は、中古から現在のラインナップの上位機種へと変わっていた。流石に純軍事規格品ではないが、巡洋艦級の割と良い船である。因みにこの手の艦種、それも上位機種となれば中々許可が下りないもので、文明外企業であれば猶更だが、それは運用主体である1号支社の事情が関係していた。“首座の眷属”にしてみれば1号支社は、内部を覗きたい放題、メンバーは全員“首座の眷属”側で選べる、でも運用資金はカラード持ちという、懐の全く痛まないリソースなのだ。本社には数々の実績もある。そんなところが手間暇かかって面倒なパトロールをしてくれるというのだ。向こうにしてみれば、「どうぞどうぞ」というところだろう。後はアラライル大使からの一言が有ったとか無かったとか。
無人艦は現在のラインナップから、フリゲート級と駆逐艦級が導入されていた。前者の役割が足の速さを活かしたパトロール、後者がちょっとした敵程度なら掃討出来るように、という意図である。欲を言えば巡洋艦級を配備したかったが、役割を考えればコストパフォーマンスが悪すぎるという判断だ。
これに加えて、社員のセキュリティにも力が入れられていた。旧1号支社に送られていたイングラム*5のアップデートである。内容は骨格フレームの徹底的な強化による耐久性向上、扱える道具の範囲の拡大、未知の事柄に対する推論能力の強化だ。
意図しているのは、社員が危険に晒された際に耐久力を活かして、或いはその場にある様々な道具を使って、逃げる為の時間を稼ぐこと。戦闘用なら主目的を撃破に設定するところだが、一般社会の中で使う以上、強力な火器は搭載できない。加えて言えば、現地の司法機関が許可を出せる程度の性能でなければならない。“首座の眷属”から見れば低スペックなのは間違いないが、恐らくこの程度の方が許可され易いだろう。
―――閑話休題。
「こんな感じだ。そして、一応言っておこうと思う。今回報告を忘れた事に対して減給という処分を下したが、この事業自体は良くやってくれたと思っている。お陰で
中肉中背の普通っぽく見える元傭兵が言った。
「さっすが社長。話が分かる」
ヒョロガリな男が続いた。
「良かったぁ。減給だけだったら支払い拙かったんだ」
すこーし気位の高そうなロリっ子が言った。
「アンタ。ここのお給料で支払い拙いとか、何買ったのよ」
「地球の
「あれってそんなに高かったかしら? IKとの交換レートを考えたら、そんなに高くならない筈よね。もしかして騙されたんじゃないの?」
「ガレージ込みのフルオプションで大人買いを。ついポチッと」
「おバカ」
「返す言葉もない」
これに晶が反応した。
「お前、
「ええ。外見である程度の性能が推測出来ちゃうのはアレですけど、状況に合わせたアセンブルを考え始めると中々面白くて」
晶は思った。同類みーつけた。
アセンブル廃人という沼に引きずり込む為に、早速と
「何か困った事があったら、そこにアクセスしてみると良い。親切な人が沢山いるから、色々教えてくれると思うぞ」
この初心者用チャットルームと掲示板を卒業する頃には、立派なアセンブル廃人が1人出来上がっているだろう。たのしみぃ♪
「ありがとうございます。後でアクセスしてみますね」
如何にもエリートっぽいオールバックの眼鏡の男が尋ねてきた。
「ところで社長。本社の資金を入れてテコ入れしたという事は、今後拡大していく方針でしょうか?」
「急速な拡大は考えてない。人員の育つペースに合わせないと、組織基盤が緩んで碌な事にならないからな。それに“首座の眷属”との取り決めもあるから、こちらの一存で大きく出来ないというのもある」
「では暫くは手堅く行く、という事ですね」
「そうなるな」
次にお調子者っぽいインテリ眼鏡な女性が喋り始めた。
「社長。話は変わるんですけど、今の1号支社からプラチナ・ドロップスに異動って可能なんですか?」
「難しくはないと思うが、何かあったのか?」
「いえ、ね。偶に1号支社の後輩と話すんですけど、こっちに異動したいって子がいまして。ほら、此処って色々整ってるじゃないですか」
プラチナ・ドロップスの社員用設備は、実はかなり良い。部屋が良いというのもあるが、家族や子供がいても安心して働けるように、学校・病院・保育施設、社員用スーパー等々の生活用施設が完備されているのだ。これに加えてスターゲートハイウェイ直通という立地条件の為、旅行にも行きやすい。
「なるほど。だけど、今すぐ増員の予定は無いかな。やるとしたらアトラクション専用施設を増やす時だけど………ナユ。現状はどうなってる?」
「どのような環境にするか吟味中なので、もう暫くかかると思います。あと、これはアキ*6から聞いた話なのですが、“獣の眷属”にある2号支社でも同じような話が出ているらしいです。なので実際に異動を行うなら、ある程度バランスを取る必要があるかと」
「そうか。じゃあ返事としては、今すぐじゃないけどチャンスはあるってところかな」
「ありがとうございます。後輩も喜ぶと思います」
ここで晶は、ふと思った事をこの場にいる面々に尋ねてみた。
特に誰かを指定した訳ではない。
「今の話を聞いて思ったんだが、カラードって“首座の眷属”の一般市民にどう思われてるんだ? 心象が悪い感じはしないけど、就職先の候補として上がってくる感じなのかな? それとも、ちょっと良く分からない所って感じなのかな?」
THE・普通っぽい娘が答えた。
「チャンスがあって、社員を大事にしてくれるところ、という感じでしょうか」
「育った人材は替えが利かない人財だからな。でも、チャンス?」
「社長は私達をプラチナ・ドロップスの幹部にして、それなりの、いえ結構な待遇で迎えてくれたじゃないですか。それが他の人達には、チャンスを与えてくれるところと映ったみたいで」
晶としてはチャンスを与えたというより、誰に何を任せれば良いか分からなかったので、細かく口出しするのを避けただけなのだが………。あと自分の仕事は極力増やしたくないので、仕事を割り振っただけとも言える。が、なるほど。見方を変えれば、チャンスを与えてくれる場所とも言えるだろう。
「なるほど。でもお前達みたいな大抜擢は、そう何度も無いと思うけどな」
「でも社員の福利厚生には気を使ってくれるじゃないですか。人はそういうところ、見てますよ。私もお友達から、支社は募集を受け付けているのか良く聞かれますから」
この言葉に、晶は他の面々を見た。すると他の面々も肯いている。
「えーと、もしかして、結構来たい人っている感じ?」
ちょっと小太りなおっさんが答えた。
「いますね。私も昔の同僚から、追加募集は無いのかと聞かれますから」
これに恰幅のいいおばちゃんが言った。
「こっちにも同じようなのが来たけど、社長。気をつけた方が良いよ。うまーく入って甘い汁だけ吸おうって輩もいるから」
「それは勿論注意してる。というか、こんなに働いてくれるメンバーが揃ったこと自体が奇跡と思ってる」
「あらお上手。こんなおばちゃんを持ち上げても、何も出てこないよ」
「持ち上げて、気持ち良ーく働いて貰うのも社長のお仕事なので」
「減点。そこはもう少し上手いこと言わないと」
「何事も程々が信条なので」
気軽な軽口トークで話していると、初老の男性が言った。
「社長。仮に来たい者がそれなりにいる場合、何か事業を拡大する等の展望はあるのですか?」
「プラチナ・ドロップスに関して言うんだったら、今のところはアトラクション専用施設を増やす以外の予定は無いかな。そして、そっちの実行はお前達に任せる。勿論報告そのものは上げて貰うが。ただ他の事は………希望してくれている人達が考えるような、華々しい仕事は無いかな。地味なのは沢山あるんだけど、地球人でやらないといけない事だから」
「というと、テラフォーミングした惑星への移民関係ですかな?」
「そういうこと。“首座の眷属”の技術を全面的に導入するなら随分楽になるかもしれないけど、それだと人類が育たない」
「貴方は本当に国父ですな。目先の事ではなく、常に先を見据えていらっしゃる」
「一般で行える事を増やさないと、将来困る。それだけですよ」
初老の男性は思った。将来を見据えて、圧倒的な実行力で物事を進めていく統治者。恐らくこの人は、今後も望まれて統治者の椅子に座り続ける事になるだろう。何かの確証があった訳ではない。だが何故か、そんな事を思ったのだった。
第258話に続く
―――オマケ:アリコーン2番艦のクルー達―――
元3年1組モブA・佐伯 結衣(さえき ゆい)
元3年1組モブB・氷川 玲奈(ひかわ れいな)
元3年1組モブC・紫藤 まりな(しどう まりな)
元3年1組モブD・ 黒川 沙耶(くろかわ さや)
元3年1組モブE・紺野 美咲(こんの みさき)
元3年1組モブF・紅林 椿(くればやし つばき)
―――オマケ:アリコーン2番艦のクルー達―――
組織でのお仕事引き継ぎあるあるなお話でした。
ホウレンソウは大事です。
あと、あかりん&かなりんが大変美人さん。