インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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第28話 強襲ミッション-1(前編)

 

「無人機の解析が完了した」

 

 そう言って(薙原晶)を呼び出した束は、明かにイラついていた。

 

「・・・・・とりあえず説明するよ」

 

 いつもならあるはずの、おちゃらけた雰囲気が全く無い。

 大きく空間投影されたウインドウに、無人機が表示され、それに解析データが重ねられていく。

 各パーツの耐久力から反応速度、限界積載量、最大エネルギー出力など、兵器にとっては機密と言える全てのデータが丸裸にされていく。

 この短い期間でそこまで調べ上げたのは、流石としか言いようがない。

 その中に、予想外と言えば予想外だが、予想通りと言えば予想通りのデータが1つあった。

 人型兵器とくれば、お馴染みの考えの1つだ。

 

「・・・・・なるほど、未完成の戦闘用AIの代わりに、人の脳を使ったか。確かに人型兵器のコントロールユニットとしては、極めつけに優秀だからな」

 

 これが無人機という、使い勝手の良い兵器が表に出てこない理由だろう。

 こんなものを出せるはずが無い。

 そんな事を思っていると彼女は、ウインドウを見ながら淡々と言葉を紡ぎ始めた。

 

「彼等はね、汚したんだ。私が作ったISを。こんな不出来な代物で。ちょっと出来の悪いAIを搭載している位なら、まぁ多少手心を加えてあげようとも思ったけど、コレは許せない。こんな不出来で不細工で不完全な代物を、ISだなんて認めない。存在そのものを許さない」

 

 一度言葉を区切った束の、極低温の凍てついた視線が俺を見据えた。

 

「だから完全に、完璧に破壊してきて。コントロールユニットの生産場所はもう押さえてあるから、後は晶が頷いてさえくれれば、すぐにでも始められる」

 

 ・・・・・なるほど。根底にあるのは、自分の作品を汚された事に対する怒りか。

 しかも犠牲者に対しては一言も無いあたり、他人から見たらろくでなしだろう。

 だが俺にとって、そんな事はどうでもよかった。

 今ここで犠牲者の事を持ち出してどうする?

 どうにもならないさ。

 むしろ少しでも酷いと感じたなら、冷静に、冷徹に、二度と同じ物を作る気が起きないように、全力で叩き潰してやるべきだろう。

 だから、

 

「断るはずが無いだろう。場所は?」

「ドイツ南部にあるツークシュピッツェ山。そこの地下施設」

 

 新しく展開された空間投影ウインドウに、マップデータが表示される。

 周囲に人里は無く、広大な自然が広がっている。

 何も事情を知らなければ、さぞかし爽快で楽しめる光景だっただろう。

 だがそんな中に、侵入用経路はあった。

 人目につき辛く、大型車両が通れる程度には大きい洞窟。

 そこが、施設への入り口。

 奥に複合装甲の多重隔壁があるようだが、NEXTの火力なら関係無い。

 

「―――なるほど。こういう場所か。なら次は移動手段だが、VOBは?」

「勿論準備してあるよ。後、拡張領域(パススロット)への格納アルゴリズムも最適化してあるから、もう使い捨てにしなくて大丈夫」

「それは良いな。目標は施設の完全破壊だが、データを抜き出す必要は?」

「破壊前に、施設内にあるはずのデータベースを見つけて欲しい。存在は確認したんだけど、独立回線で手が出せない。多分そこに、今まで何体の無人機が作られたか、管理用データが残っているはずなんだ。そのデータが欲しい」

「了解した。では、俺の出撃をどうやって誤魔化す? 流石に他国への無断侵入がバレると、後が厄介だ」

サテライト(監視衛星群)も含めて、こっちで対処する。目標到達まで、一切邪魔はさせない。勿論帰りも」

「それは心強い」

 

 この後、幾つかの点を煮詰めた俺はハンガーに移動。

 VOBとのドッキングと、装備の最終確認を行っていた。

 

 ―――SYSTEM CHECK START

    →HEAD:063AN02・・・・・・・・・・・・・・OK

    →CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・・OK

    →ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・・・・OK

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・OK

    

    →R ARM UNIT  :03-MOTORCOBRA(マシンガン)・・・OK

    →L ARM UNIT  :SAMSARA(プラズマライフル)・・・・・・・・・・・OK

    →R BACK UNIT  :CP-49(ロケット)・・・・・・・・・・・・・・OK

    →L BACK UNIT  :061ANR(レーダー)・・・・・・・・・・・・・OK

    →SHOULDER UNIT :051ANEM(ECM) ・・・・・・・・・OK

    →R HANGER UNIT :外部アクセス用端末

    →L HANGER UNIT :熱光学迷彩ローブ

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・OK

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    

 ―――VANGUARD OVERED BOOST

    →MAIN BOOST-1・・・・OK

    →MAIN BOOST-2・・・・OK

    →MAIN BOOST-3・・・・OK

    →MAIN BOOST-4・・・・OK

    →MAIN BOOST-5・・・・OK

    →SUB BOOST-1 ・・・・OK

    →SUB BOOST-2 ・・・・OK

    →SUB BOOST-3 ・・・・OK

    →SUB BOOST-4 ・・・・OK

    →SUB BOOST-5 ・・・・OK

    →SUB BOOST-6 ・・・・OK

    →SUB BOOST-7 ・・・・OK

    →SUB BOOST-8 ・・・・OK

    

 ―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR

 

 そうして、束からの通信が入った。

 

『――――――準備は良い?』

『全システムオールクリア。問題無し』

『じゃぁ、始めるよ』

『ああ』

 

 全長4m程もあるVOB。

 それを固定しているアームが動き、水平状態から、打ち上げロケットのような垂直状態へ移行。

 先端にドッキングしている俺は持ち上げられ、天井と向かい合う形になった。

 続いて、天井部の隔壁が順次開放され始める。

 と同時に束が、IS学園上空を監視するサテライト(監視衛星群)、及び此処を監視する全ての電子機器を掌握。

 全ての障害が取り除かれる。

 

『――――――NEXT、出るぞ』

 

 こうして俺は、一路目的地へ向けて飛びだって行った。

 だがこの時、“運命のいたずら”とすら言えるような、どうしようもないところで、既に作戦が綻んでいるなど俺達には知る由も無かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ドイツ軍IS配備特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ基地。

 その整備用ハンガーで、(クラリッサ)はラウラ隊長とシュヴァルツェア・レーゲン(隊長の愛機)の仕上がりについて話していた。

 

「――――――隊長。仕上がり具合は如何ですか?」

「機体側については問題無い。要求通りに仕上がっている。が、レールガンはもう少し調整が必要だな。破壊力があるのは良いが、これではリロードが遅過ぎる」

「しかし以前のパーツに戻しますと、今度はリロードが早くとも威力が出ません」

「整備班の方でカスタム出来ないか?」

「我が部隊の整備班は優秀ですが、既にカスタムでどうにか出来る部分は残っていないと、先程泣き付かれました」

「そうか。ならメーカー側の新パーツ待ちか。いつ搬入予定だ?」

「予定では3日後ですが、急がせますか?」

「急がせろ。向こう(IS学園)に行くまでには仕上げたい」

 

 ここ最近、隊長の熱の入れようは凄まじいものがあった。

 以前は向こう(IS学園)に行くのは時間の無駄だと言って憚らなかったのに、今では楽しみにしている節すらある。

 だがそれも、無理の無い事かもしれない。

 何せあそこには、世界最強の単体戦力たるNEXTがいる。

 更に織斑教官もおられるとなれば、楽しみにされるのも仕方が無いというもの。

 などと思っていると、

 

「そういえば、お前は以前NEXTに直接会っていたな。私見で構わん。印象を言ってみろ」

「そうですね――――――」

 

 適切な言葉を探すこと数瞬。

 出てきたのは、

 

「戦士、でしょうか。それも理性的に暴力を振るえる、戦場で最も相対したくないタイプの」

「・・・・・お前にそこまで言わせるか」

「あくまで私の印象ですから、間違っている可能性もあります。ですが、そう外れていないとも思っています」

「根拠は?」

「NEXTが初めて我々の前に姿を現した時の戦力比は、ISに限定しても11対1。しかもISという前衛がいるなら、艦船はその火力を最大限に生かせます。そんな状況で私と彼は話ましたが、声に一切の迷いがありませんでした。まぁ、声だけでしたらマシンボイスで誤魔化されたという可能性もありますが、機体制御にも一切のブレが見られなかったとなれば話は別です。アレは恐らく、交渉が決裂した瞬間に始める気でした」

「11対1でか? 普通なら自殺行為だな」

「ええ、普通でしたら」

「だが、そこで要求を呑んだお前の判断は正しかった。戦っていたら、本当に全滅の可能性すらあっただろう。先のIS学園襲撃事件。アレが、お前の判断の正しさを裏付けた。何だあの化け物は。情報部のレポート以上ではないか」

 

 言葉とは裏腹に、隊長は実にイイ表情を浮かべていた。

 最も“良い”ではではなく、“イイ”であるあたり、何を考えているのかは分からないが。

 それにしても、今回投入された新武装の数々。何だアレは?

 桁外れの破壊力を持つアサルトライフル。

 ISの反応速度を持ってしても、反応出来るかどうか分からない超弾速のレールガン。

 文字通り一撃で敵機を葬り去った近接武装。

 そして最大レベルで固定されていたというアリーナの遮断シールドを、紙を貫くように容易く貫通した三連装レーザーキャノン。

 だが何より恐るべきは、

 

「イギリスとフランスの代表候補生が戻っていったピット、そこ狙われた時の反応。明らかに読んでいましたね」

「ああ。それが恐ろしいところだ。隔絶した性能に振り回されること無く、戦場を見回している。本職の軍人以上に戦いに長けている。なるほど、確かにお前の言う通りに戦士だな。――――――それはそうとクラリッサ、お前のISは既に調整が完了していたな?」

「はい。先日完了しております」

「ならば少し模擬戦に付き合え。話している間に、このレールガンでも戦えそうな戦術を思いついた。形にしておきたい」

「了解しました。お手伝いさせて頂きます」

 

 私はインカムのスイッチを入れ、オペレーターをコール。

 

ハーゼ02(クラリッサ)より00(オペレーター)へ。これよりハーゼ01(ラウラ隊長)と共に模擬戦を行う。空いている場所はあるか?』

『00より02へ。予定外演習ですので、演習地が些か基地から遠くなります。01の権限を使えば近くを使えますが、如何致しますか?』

 

 通信を聞いていたのか、隊長は首を横に振る。

 

『予定外である事はこちらも承知している。よってそれには及ばない。使える場所は何処だ?』

『第三演習場(ツークシュピッツェ山北部にあるヴァルヒェン湖付近)になります。オペレートは必要ですか?』

『いらん。01と私だぞ』

『失礼しました。では最後に演習目的をどうぞ。手続きはこちらでしておきます』

『機動演習とでも申請しておいてくれ』

『了解しました。では、お気をつけて』

 

 この時、私は思ってもいなかった。

 ドイツ国内で、しかもこの模擬戦が原因で、再びNEXTと出会う事になろうとは――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 出撃した(薙原晶)は目視によって発見される確率を下げる為、ユーラシア大陸を横断する直線ルートではなく、一度北側へ大きく迂回するルートを取っていた。

 具体的には、オホーツク海から(人口密度の低い=発見される確率が下がる)ロシア連邦を縦断する形で東シベリア海へ抜け、そこからは大きく北極側に膨らむ楕円軌道で北極海を横断。グリーンランド海へ向かい、ここでようやく南下。

 グリーンランド海、ノルウェー海、北海と順に抜け、ドイツには北部から侵入。

 束のバックアップもあり、ここまでは何ら問題無くこられた。

 だが、ここで問題が発生した。

 

『そんな、こんな急にだなんて』

『どうした?』

『ドイツのIS配備特殊部隊が、予定進路上で演習を始めたんだ。事前情報は全く無かったのに』

『何事にもイレギュラーは付き物さ。仕方が無い。まだ知られた様子は無いな?』

『それは大丈夫だけど、流石に目視されるとどうしようも無いよ』

『あちらさんの高度は?』

『今は低いね。100m。でも機動演習をしているみたいだから、下手をしたらすぐに上がってくるよ』

『・・・・・上がってこない事を祈るか。――――――こっちは高度20000mまで上昇して、地下施設の直上まで侵攻。そこでVOBをリリース(拡張領域へ戻し)、フリーフォールで侵入口まで行く』

『分かった。熱光学迷彩を持っていって正解だったね。落下中の姿はそれで隠せる』

『全くだ』

『でも減速タイミングはシビアだよ。PICを使えばエネルギー反応でバレるから、極短時間のエネルギー反応しか示さないQB(クイック・ブースト)で、着地可能速度まで減速しなきゃいけない。それもブースター炎を隠すなら、本当に地上ギリギリ。木々の高さよりも尚下になる。そしてそれでも、相手の目を誤魔化せるとは限らない』

『嫌になるほど分の悪い賭けだな。が、ここまで来て作戦中止なんてのは無しだ。もう一度ここまで来れるチャンスがあるとも限らないし、叩けるものは、叩ける時に叩いておきたい』

『同感だね』

『なら、作戦続行だ』

『うん』

 

 そうして高度を上げた俺は、演習領域に差し掛かった。

 アクティブセンサーは働かせていないので正確な情報は分からないが、サテライト(監視衛星群)を掌握している束からのデータリンクによれば、演習している2機は高度100~500mあたりを、鋭角的な機動で飛行している。

 模擬戦でもしているのだろう。

 だがこのままなら、気付かれずに済みそうだ。

 と思ったが、世の中そう甘くは無かった。

 2機のISが、戦闘機動を行いながら徐々に南下を始めたのだ。

 つまり、俺の進行方向と同じ方向に。

 

 ―――この時、薙原も束も知る由も無い事だが、2機のIS(=ラウラとクラリッサ)は、演習に熱が入り始めていた。それもヴォーダン・オージェを使ってしまう程に―――

 

『・・・・・拙いな。そろそろ直上だ。運任せってのは嫌いなんだがな』

『私もだよ』

『だが今回ばかりは仕方が無い。行くぞ!!』

 

 VOBをリリース(拡張領域へ戻し)、本体のブースターも停止。

 そしてハンガーから熱光学迷彩ローブを取り出し装着。

 姿を空に溶け込ませ、高度20000mからのフリーフォール開始。

 大地が徐々に近付いてくる。

 いや、実際は相当な速さで近付いているのだが、超音速戦闘をするNEXTにとって、この程度の速さはどうって事無い。

 近くの2機に、存在をバレないようにするという条件さえ無ければ、着地にも問題は無い。

 だがその条件が、着地の難易度を大幅に引き上げていた。

 なにせ減速タイミングが僅かでも早ければ、ブースター炎で位置がばれる。

 かと言って遅ければ、着地時の衝撃音で気付かれる。

 しかもPIC制御は無しときた。

 迫る大地に焦る心を抑え、慎重に、慎重にタイミングを図る。

 

 ―――まだ、まだだ。

 

 更に大地が迫る。普通のパラシュートなら、もう開かないと間に合わない。

 

 ―――まだだ!!

 

 手の端に、木の葉が触れた。

 

 ―――今!!

 

 QB(クイック・ブースト)による大減速。

 PIC制御をしていない今、Gがダイレクトに俺を襲う。

 だが強化されている肉体は、意識を手放す事なく次の動作を実行。

 僅かに残った慣性を、両膝で吸収する。

 

『着地成功。これより、地下施設に侵入する』

『気をつけて。――――――そして悪いニュースだよ。ブースター炎を見られたみたい。演習をしていた2機が怪しんでいる。通信を聞いている限り、まだ特定はされていないみたいだけど、多分時間の問題』

『チッ』

 

 思わず舌打ちしてしまう。

 どうする?

 一度身を隠してやり過ごすか?

 しかし隠れてどうする?

 熱光学迷彩は装備しているが、所詮姿を隠しているだけ、ハイパーセンサーで念入りに探られたら誤魔化しきれないだろう。

 しかも今のQBで、ローブの一部焦げてしまっているから、見つかる可能性は更に高くなっている。

 ならECMは?

 もっと駄目だろう。

 下手に使おうものなら、「ここが怪しい場所です」と大声で叫んでいるのと変わらない。

 つまり隠れるのは愚策か。

 なら、ここから先はスピード勝負!!

 そう考えた俺は即座に洞窟へ入り、視認される恐れが無くなったところで、熱光学迷彩ローブをパージ。

 自壊機能が働いて消し炭になったソレを確認しつつ、全兵装を立ち上げて奥へ、地下施設入り口へと向かう。

 こうしてミッションは、新たな局面に突入した。

 発生したイレギュラーが、ロクでも無い事を呼び込まなければ良いんだが・・・・・そんな事を思いながら。

 

 

 

 第29話に続く

 

 

 


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