インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
ドクン。ドクン。ドクン。
目的地に近付くに従って、心臓が高鳴っていくのが分かる。
これから俺は、俺以外の人間の命を背負う行動=救出作戦を行おうとしている。
自分の不始末で自分がくたばるのは許せるが、他人の命が関わると、こんなにも緊張するものか。
だが弱音を吐ける相手などいない。
ふと、俺が放り込まれたこの世界、インフィニット・ストラトスの原作で、篠ノ之束博士が言っていた言葉を思い出した。
『世界が平等であったことなど一度もない』
確かにその通りだ。
どういう訳か、この世界に放り出された瞬間から俺には、“ネクスト傭兵だった男”、“最後のORCA”、“IS起動適性EX-S”というレッテルが貼られていた。
どうしてかは分からない。
だがこの世界で、俺は博士にそういう人間だと認識された。
レギュ1.15で使っていた愛機を模したISまで作ってもらいながら、今更「こんな怖い事は出来ません」等と言えるはずがない。
もし捨てられでもしたら、行く場所が無い。
だから俺は恐怖を飲み込む。我慢をする。傭兵という役割を演じる。
「自己診断プログラム。ロード」
自身を落ち着かせるかのように、小声で呟く。
―――SYSTEM CHECK START
→HEAD:063AN02 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK
→CORE:EKHAZAR-CORE・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK
→ARMS:AM-LANCEL ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK
→LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK
→R ARM UNIT :07-
→L ARM UNIT :
→R BACK UNIT :
→L BACK UNIT :HL
→SHOULDER UNIT :
→R HANGER UNIT :ワイヤーガン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK
→L HANGER UNIT :有線式小型カメラ ・・・・・・・・・・・・・・・・OK
―――STABILIZER
→CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK
→CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK
→LEGS BACK :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK
→LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK
→LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK
→LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK
→LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK
―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR
無機質なメッセージが脳内を流れていった後、俺は右隣を飛ぶIS=ラファール・リヴァイヴを纏う紫色の髪の美女に声をかける。
無論、男であるとばれないようにマシンボイスでだ。
「ここから先は、ミッションプランの通りに」
「本当に、信じて良いの?」
「お前の装備では万一の事態に対応出来ない。それだけの話だ」
努めて事務的に答えるが、彼女が聞きたかったのはそういう事じゃなかったらしい。
「そうじゃない。何で助けてくれるの? 妹を助け、新しい戸籍を与え、でも私に何も求めない。これで勘繰るなという方が無理な話よ」
何も求めなかった?
博士に話したのは、要約してしまえば『恩を押し付けて手駒にする』だ。
それを認めたからこそ、今回の救出作戦だと思ったんだが・・・・・まぁ、俺には関係の無い話か。
飼い主が求めていないというなら、でしゃばる必要も無い。
「博士は君に、平穏な人生を歩んで欲しかったんだよ。ISを取り上げなかったのは、君が理不尽な暴力を知っているからだ。家族を理不尽に奪われていた君なら、力の使いどころを間違えたりしないだろう」
「篠ノ之博士・・・・・」
今まで、随分辛かったのだろう。
彼女の表情が歪む。
が、俺は気付かない振りをして続けた。
「次のコンタクトは1時間後だ。抜かるなよ」
「そっちこそ、妹を頼むわよ。もし失敗なんてしたら、分かってるんでしょうね?」
目元を拭いながら答える彼女=本作戦における呼称<アロー1>に、俺は海中潜行をしながら右手を上げて答える。
ここから先、目標救出までは単独行動だ。
作戦自体は至って簡単。
救出目標がいる断崖絶壁の古城まで、海中から接近。近付いたところでISを戦闘起動。
相手に対応する時間を与えず救出して離脱開始。と同時に<アロー1>が作戦区域に突入、離脱を援護。
そして合流したら救出目標を<アロー1>に渡し、役割交代。俺が追っ手の足止め or 撃破。
<アロー1>はそのまま離脱。恐らく、もう会う事もないだろう。
そんな事を考えながら、被発見率を下げる為に各種システムを停止・切断していく。
―――エネルギーシールド停止。
―――アクティブセンサー停止。
―――コアネットワーク切断。
―――衛星リンク切断。
―――07-MOONLIGHT:EN供給停止。
―――ACACIA:EN供給停止。
―――RDF-O700:EN供給停止。
―――HLC02-SIRIUS:EN供給停止。
―――051ANAM:EN供給停止。
―――アクティブステルス・・・・・063ANEM未装備につき使用不可。
欲を言えばアクティブステルスが欲しいところだが、専用装備である063ANEMは現在、束博士が製作中だ。
全く、こんなところまで再現しなくても・・・・・と思わなくも無い。
確かアクティブステルスは、ISでは標準装備だったはずだ。
が、このネクストISでは専用装備が必要。その分本体性能は高いから良いのだが、ちょっと羨ましくもある。
まぁ、無いものねだりをしても仕方が無いし、海中からの接近なら、陸地と違って視認される危険性は低い。
多分、アクティブセンサーを使わなければそうそう発見されたりはしないだろう。
そうして、深く静かに潜水艦のように、目標へ近付いていく。
(ちなみに余談だが、ノーマルISでエネルギーシールドを停止させて海中に潜ろうものなら操縦者が溺れてしまう)
そうして進むこと50分。無事古城の真下まで到着するが、まだ海中からは出ない。
非合法組織がこういう古城を使っているんだ。当然、侵入が予想される崖下なんかは、センサートラップがあるだろう。
ハンガーから有線式の小型カメラを取り出し(ISの量子変換機能は使っていない)、そっと海面へと浮かべ崖の様子を伺う。
小型故にISの高性能なセンサーには及ばないが、トラップの有無を判断するだけなら、スターライトスコープ(月や星の光を増幅して視界を得る)とサーマルビジョン(物体から放出される赤外線を可視化)機能しかないコレだけでも十分だろう。
すると案の定、
「・・・・・熱源数17か」
カメラが捕らえた映像を、即座にISが分析。解析結果が脳内に流れてくる。
―――形状特性より赤外線センサー12。監視カメラ5。
―――効果範囲を視覚化。
更に、俺の視界内に赤く染まった空間が表示される。あの範囲に入ると、センサーに引っかかるという事か。
しかもセンサーは可動式らしく、赤く染まった空間は常に動いている。
が、動いているという事は当然隙間も出来る訳で。
「タイミングは・・・・・1、2、3、1、2、1、2、3、4、か。よし」
ここまで来たならネクストISを戦闘起動して、ブースターで上がってしまっても良いのだろうが、アクティブステルスが使えない以上、やれば確実に気付かれる。気付かれていない今、そんなリスクを背負う必要は無い。
俺はハンガーから取り出したワイヤーガンで崖を登り、古城の壁面に取り付く。
「・・・・・ふぅ、ようやくここまで来たか」
時計を確認すれば、<アロー1>との合流まで5分を切っていた。
だが焦りは禁物だ。
今度は音響センサーを使って、古城内部の音を拾っていく。
まさか城全体に防音処置を施しているはずも無いだろう。予想に違わず、中の会話が聞こえてきた。
『ったく、いつまでこんなところにいれば良いんだ?』
『ぼやくなよ。基地1つ完全に潰されたおかげで実戦部隊が緊急招集されているんだ』
『ハッ、レプリカコアとは言えISが5機か? 戦争が出来る戦力だな』
『違いない。しかし、この嬢ちゃんも不憫だな。姉がIS操縦者だったばかりに』
『もう用済みなんだろ?』
『ああ』
『だったら、少し楽しんでも問題無いよな?』
『や・・・・・やめ・・・・・・て』
迷っている時間は無かった。
思考トリガー。
―――エネルギーシールド起動。
―――アクティブセンサー起動。
―――コアネットワーク接続。
―――衛星リンク接続。
―――07-MOONLIGHT:EN供給開始→起動完了。
―――ACACIA:EN供給開始→起動完了。
―――RDF-O700:EN供給開始→起動完了。
―――HLC02-SIRIUS:EN供給開始→起動完了。
―――051ANAM:EN供給開始→起動完了。
脳内を流れる無機質なメッセージ。瞬時に立ち上がっていくシステム群。
それを支えるのはネクスト技術が応用され、通常のISコアとは比べ物にならないEN出力と反応速度を誇るネクストISコア。
圧倒的で莫大なエネルギーが瞬時に伝達され、刹那の間に戦闘起動を完了。
ここから先は、時間との勝負だ。
レーザーブレードで外壁を切り裂き、内部へ突入。
アクティブセンサーによって得られた内部MAPと、先の音響センサーで得られた位置情報を重ね合わせ場所を特定。
「運が良かった!!」
幸い、救出目標がいる場所はすぐそこだった。
壁を2枚もぶち抜けば辿り着ける。
更にカメラアイのサーマルビジョンを起動。
壁越しに、3人分の熱源を捕らえる。
1人は体形的に女性。2人の男が迫りながら手を伸ばしている。
「間に合え!!」
全身装甲というネクストISの特性を生かし、自身を弾丸として突撃。
壁をブチ抜いて男達と女の間に割って入る。
間合いは既にクロスレンジ。
声を上げる間も、反応する時間も、与えてなんてやらない。
問答無用でレーザーブレードを一閃。圧倒的熱量で文字通り消し炭になる男達。
初めて人の命を奪った罪悪感を、“戸惑えば、待っているのは自分の死”と言い聞かせ飲み込む。
突然の事態に、驚きの表情を隠せない女。
顔を確認。間違い無い。救出対象だ。
説明する時間も惜しかった俺は彼女を抱き抱え、自身が空けた穴から古城の外へ脱出し<アロー1>へ連絡。
「<ネクスト>より<アロー1>へ。要救助者確保。これより脱出する」
「こちら<アロー1>。確認したわ。良く助けて―――」
「喜ぶのは後だ。チッ、流石に早い!!」
センサーがIS起動時特有のエネルギー波形を感知。数は5。
急速接近中。
―――敵IS全機、射撃用レーダー作動。
無機質なメッセージが脳内を駆けていく。
マズイ。
一瞬、両手で抱えている彼女に視線を落とす。
幾らPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー=慣性制御)範囲を拡大しているとは言っても、本格的な戦闘機動をしようものなら命は無いだろう。
どうする? 瞬間、刹那の閃き。
(待てよ。PICを一方向のみに限定して集中制御すれば、生身でもネクストISの加速に耐えられるか?)
ISにシミュレートをコマンド。
即座に結論が返ってくる。
―――対象スキャンデータより予想値算出。
―――仮定条件。PIC単一方向集中制御。
―――OB(オーバードブースト)+メインブースターの最大出力に耐えられる推定最大時間は20秒。
―――それ以上で身体機能に致命的な損傷が発生する可能性大。
―――対象の安全を考慮するのであれば15秒。
―――サイドへの
上等だ!!
思考トリガー。
―――PIC制御範囲拡大。及び制御方向を前方に固定。
―――空気抵抗低減の為、エネルギーシールドを前方へ伸びるコーン状へ変形。
―――OB起動。メインブースター最大出力。
ネクストISの背部装甲板が展開。普段は使用されない大型ブースターが露出。
そこへ光が収束していき、直後、地上に彗星が出現する。
音速を超えた衝撃で海が割れ、更に超音速領域に突入。
僅か1秒弱で時速3000kmに迫り、音を遥か彼方に置き去りにして突き進む。
が、安心は出来ない。
敵ISの性能は未知数だし、そもそもこちらは長時間この状態を維持出来ない。
―――安全リミットまで5、4、3、・・・・・。
脳内に流れる無機質で無慈悲なカウントダウン。
何とか距離を稼げてはいるが、減速が始まればすぐに追いつかれるだろう。
どうする。
危険を承知で加速を続けるか?
―――2、・・・・・
レーダーに<アロー1>の機影が移るが、まだ遠い。
―――1、・・・・・
抱き抱えている彼女に再度視線を落とす。
キュッと目を閉じ、恐怖に震えている。
当たり前だ。
突然こんな状況に放り込まれたら、誰でもこうなる。
―――0
駄目だ。もし無理をして何かあれば、この作戦そのものの意味が無くなる。
減速開始。
敵機及び<アロー1>との距離がみるみる近付いてくる。
だがこの速さなら、僅かに先んじて<アロー1>と合流出来る。
そして、
「リア!!」
「姉さん!!」
互いの無事を喜び抱き合う姉妹。
出来るならこのままそっとしておいてやりたいが、状況がそれを許してくれない。
「・・・・・早く行け。もう会う事も無いだろうが、達者でな」
そう言って俺は2人に背を向け、迫る敵機に向き直る。
「ちょっと待って。5対1よ。勝てるの?」
勝てる訳が無い。言外にそんな意味が込められた言葉。
正直、俺もそう思う。
こちらの実戦経験は今回で2度目。相手は豊富。
本心を言ってしまえば怖いの一言だ。
全てを放り出して逃げてしまいたい。
だけど、俺は知っている。
特別な事じゃない。
世の中大体のものは金で買えるが、信用は買えないんだ。
ここでもし2人を裏切り、そして束博士を裏切れば、絶対これから先ロクな人生にならない。
だからそんな事はやらない。
無理? 無茶? 無謀?
クソ食らえだ。
負けたら死ぬ。それだけの話だ。
だったら勝利の可能性を1%でもあげる為に、思考する。演技をする。俺は傭兵だと自分自身に信じ込ませる。
「ふん。たかが5機程度に勝てない奴が、あの人の下にいられると思うか? 余計な心配はしないで早くいけ。家族が大事なんだろう? 死なせたくないんだろう? なら振り返るな。行け!!」
「ありがとう。死なないで」
レーダーの、背後にあった光点が遠ざかっていく。
そして代わりに近付いてくる5つの光点。
ここに至って、言葉に意味は無かった。
ロックオン警報。と同時に放たれる弾丸。
警告すら無い明確な殺意。
俺はサイド
こうして俺の、2度目の対IS戦闘の幕は切って落とされたのだった。
―――リア・フェルトに迫る男達の魔の手―――
XINN様より頂きました。感謝です!!
諸事情により途中挿入だと都合が悪いので、
一番最後に追加してます。
救出直前の光景です。
―――リア・フェルトに迫る男達の魔の手―――
第4話に続く