インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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第03話 救出

 

 ドクン。ドクン。ドクン。

 

 目的地に近付くに従って、心臓が高鳴っていくのが分かる。

 これから俺は、俺以外の人間の命を背負う行動=救出作戦を行おうとしている。

 自分の不始末で自分がくたばるのは許せるが、他人の命が関わると、こんなにも緊張するものか。

 だが弱音を吐ける相手などいない。

 ふと、俺が放り込まれたこの世界、インフィニット・ストラトスの原作で、篠ノ之束博士が言っていた言葉を思い出した。

 

『世界が平等であったことなど一度もない』

 

 確かにその通りだ。

 どういう訳か、この世界に放り出された瞬間から俺には、“ネクスト傭兵だった男”、“最後のORCA”、“IS起動適性EX-S”というレッテルが貼られていた。

 どうしてかは分からない。

 だがこの世界で、俺は博士にそういう人間だと認識された。

 レギュ1.15で使っていた愛機を模したISまで作ってもらいながら、今更「こんな怖い事は出来ません」等と言えるはずがない。

 もし捨てられでもしたら、行く場所が無い。

 だから俺は恐怖を飲み込む。我慢をする。傭兵という役割を演じる。

 

「自己診断プログラム。ロード」

 

 自身を落ち着かせるかのように、小声で呟く。

 

 ―――SYSTEM CHECK START

    →HEAD:063AN02 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →CORE:EKHAZAR-CORE・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →ARMS:AM-LANCEL ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    

    →R ARM UNIT  :07-MOONLIGHT(レーザーブレード)・・・・・・・・OK

    →L ARM UNIT  :ACACIA(アサルトライフル) ・・・・・・・・・・・OK

    →R BACK UNIT  :RDF-O700(レーダー)・・・・・・・・・・・・・・OK

    →L BACK UNIT  :HLC02-SIRIUS(ハイレーザーキャノン) ・・・・・・OK

    →SHOULDER UNIT :051ANAM(フレア) ・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →R HANGER UNIT :ワイヤーガン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →L HANGER UNIT :有線式小型カメラ ・・・・・・・・・・・・・・・・OK

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2・・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01 ・・・・・・・・・・・・・・・・・OK

 

 ―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR

 

 無機質なメッセージが脳内を流れていった後、俺は右隣を飛ぶIS=ラファール・リヴァイヴを纏う紫色の髪の美女に声をかける。

 無論、男であるとばれないようにマシンボイスでだ。

 

「ここから先は、ミッションプランの通りに」

「本当に、信じて良いの?」

「お前の装備では万一の事態に対応出来ない。それだけの話だ」

 

 努めて事務的に答えるが、彼女が聞きたかったのはそういう事じゃなかったらしい。

 

「そうじゃない。何で助けてくれるの? 妹を助け、新しい戸籍を与え、でも私に何も求めない。これで勘繰るなという方が無理な話よ」

 

 何も求めなかった?

 博士に話したのは、要約してしまえば『恩を押し付けて手駒にする』だ。

 それを認めたからこそ、今回の救出作戦だと思ったんだが・・・・・まぁ、俺には関係の無い話か。

 飼い主が求めていないというなら、でしゃばる必要も無い。

 

「博士は君に、平穏な人生を歩んで欲しかったんだよ。ISを取り上げなかったのは、君が理不尽な暴力を知っているからだ。家族を理不尽に奪われていた君なら、力の使いどころを間違えたりしないだろう」

「篠ノ之博士・・・・・」

 

 今まで、随分辛かったのだろう。

 彼女の表情が歪む。

 が、俺は気付かない振りをして続けた。

 

「次のコンタクトは1時間後だ。抜かるなよ」

「そっちこそ、妹を頼むわよ。もし失敗なんてしたら、分かってるんでしょうね?」

 

 目元を拭いながら答える彼女=本作戦における呼称<アロー1>に、俺は海中潜行をしながら右手を上げて答える。

 ここから先、目標救出までは単独行動だ。

 作戦自体は至って簡単。

 救出目標がいる断崖絶壁の古城まで、海中から接近。近付いたところでISを戦闘起動。

 相手に対応する時間を与えず救出して離脱開始。と同時に<アロー1>が作戦区域に突入、離脱を援護。

 そして合流したら救出目標を<アロー1>に渡し、役割交代。俺が追っ手の足止め or 撃破。

 <アロー1>はそのまま離脱。恐らく、もう会う事もないだろう。

 そんな事を考えながら、被発見率を下げる為に各種システムを停止・切断していく。

 

 ―――エネルギーシールド停止。

 

 ―――アクティブセンサー停止。

 

 ―――コアネットワーク切断。

 

 ―――衛星リンク切断。

 

 ―――07-MOONLIGHT:EN供給停止。

 

 ―――ACACIA:EN供給停止。

 

 ―――RDF-O700:EN供給停止。

 

 ―――HLC02-SIRIUS:EN供給停止。

 

 ―――051ANAM:EN供給停止。

 

 ―――アクティブステルス・・・・・063ANEM未装備につき使用不可。

 

 欲を言えばアクティブステルスが欲しいところだが、専用装備である063ANEMは現在、束博士が製作中だ。

 全く、こんなところまで再現しなくても・・・・・と思わなくも無い。

 確かアクティブステルスは、ISでは標準装備だったはずだ。

 が、このネクストISでは専用装備が必要。その分本体性能は高いから良いのだが、ちょっと羨ましくもある。

 まぁ、無いものねだりをしても仕方が無いし、海中からの接近なら、陸地と違って視認される危険性は低い。

 多分、アクティブセンサーを使わなければそうそう発見されたりはしないだろう。

 そうして、深く静かに潜水艦のように、目標へ近付いていく。

 (ちなみに余談だが、ノーマルISでエネルギーシールドを停止させて海中に潜ろうものなら操縦者が溺れてしまう)

 そうして進むこと50分。無事古城の真下まで到着するが、まだ海中からは出ない。

 非合法組織がこういう古城を使っているんだ。当然、侵入が予想される崖下なんかは、センサートラップがあるだろう。

 ハンガーから有線式の小型カメラを取り出し(ISの量子変換機能は使っていない)、そっと海面へと浮かべ崖の様子を伺う。

 小型故にISの高性能なセンサーには及ばないが、トラップの有無を判断するだけなら、スターライトスコープ(月や星の光を増幅して視界を得る)とサーマルビジョン(物体から放出される赤外線を可視化)機能しかないコレだけでも十分だろう。

 すると案の定、

 

「・・・・・熱源数17か」

 

 カメラが捕らえた映像を、即座にISが分析。解析結果が脳内に流れてくる。

 

 ―――形状特性より赤外線センサー12。監視カメラ5。

 

 ―――効果範囲を視覚化。

 

 更に、俺の視界内に赤く染まった空間が表示される。あの範囲に入ると、センサーに引っかかるという事か。

 しかもセンサーは可動式らしく、赤く染まった空間は常に動いている。

 が、動いているという事は当然隙間も出来る訳で。

 

「タイミングは・・・・・1、2、3、1、2、1、2、3、4、か。よし」

 

 ここまで来たならネクストISを戦闘起動して、ブースターで上がってしまっても良いのだろうが、アクティブステルスが使えない以上、やれば確実に気付かれる。気付かれていない今、そんなリスクを背負う必要は無い。

 俺はハンガーから取り出したワイヤーガンで崖を登り、古城の壁面に取り付く。

 

「・・・・・ふぅ、ようやくここまで来たか」

 

 時計を確認すれば、<アロー1>との合流まで5分を切っていた。

 だが焦りは禁物だ。

 今度は音響センサーを使って、古城内部の音を拾っていく。

 まさか城全体に防音処置を施しているはずも無いだろう。予想に違わず、中の会話が聞こえてきた。

 

『ったく、いつまでこんなところにいれば良いんだ?』

『ぼやくなよ。基地1つ完全に潰されたおかげで実戦部隊が緊急招集されているんだ』

『ハッ、レプリカコアとは言えISが5機か? 戦争が出来る戦力だな』

『違いない。しかし、この嬢ちゃんも不憫だな。姉がIS操縦者だったばかりに』

『もう用済みなんだろ?』

『ああ』

『だったら、少し楽しんでも問題無いよな?』

『や・・・・・やめ・・・・・・て』

 

 迷っている時間は無かった。

 思考トリガー。

 

 ―――エネルギーシールド起動。

 

 ―――アクティブセンサー起動。

 

 ―――コアネットワーク接続。

 

 ―――衛星リンク接続。

 

 ―――07-MOONLIGHT:EN供給開始→起動完了。

 

 ―――ACACIA:EN供給開始→起動完了。

 

 ―――RDF-O700:EN供給開始→起動完了。

 

 ―――HLC02-SIRIUS:EN供給開始→起動完了。

 

 ―――051ANAM:EN供給開始→起動完了。

 

 脳内を流れる無機質なメッセージ。瞬時に立ち上がっていくシステム群。

 それを支えるのはネクスト技術が応用され、通常のISコアとは比べ物にならないEN出力と反応速度を誇るネクストISコア。

 圧倒的で莫大なエネルギーが瞬時に伝達され、刹那の間に戦闘起動を完了。

 ここから先は、時間との勝負だ。

 レーザーブレードで外壁を切り裂き、内部へ突入。

 アクティブセンサーによって得られた内部MAPと、先の音響センサーで得られた位置情報を重ね合わせ場所を特定。

 

「運が良かった!!」

 

 幸い、救出目標がいる場所はすぐそこだった。

 壁を2枚もぶち抜けば辿り着ける。

 更にカメラアイのサーマルビジョンを起動。

 壁越しに、3人分の熱源を捕らえる。

 1人は体形的に女性。2人の男が迫りながら手を伸ばしている。

 

「間に合え!!」

 

 全身装甲というネクストISの特性を生かし、自身を弾丸として突撃。

 壁をブチ抜いて男達と女の間に割って入る。

 間合いは既にクロスレンジ。

 声を上げる間も、反応する時間も、与えてなんてやらない。

 問答無用でレーザーブレードを一閃。圧倒的熱量で文字通り消し炭になる男達。

 初めて人の命を奪った罪悪感を、“戸惑えば、待っているのは自分の死”と言い聞かせ飲み込む。

 突然の事態に、驚きの表情を隠せない女。

 顔を確認。間違い無い。救出対象だ。

 説明する時間も惜しかった俺は彼女を抱き抱え、自身が空けた穴から古城の外へ脱出し<アロー1>へ連絡。

 

「<ネクスト>より<アロー1>へ。要救助者確保。これより脱出する」

「こちら<アロー1>。確認したわ。良く助けて―――」

「喜ぶのは後だ。チッ、流石に早い!!」

 

 センサーがIS起動時特有のエネルギー波形を感知。数は5。

 急速接近中。

 

 ―――敵IS全機、射撃用レーダー作動。

 

 無機質なメッセージが脳内を駆けていく。

 マズイ。

 一瞬、両手で抱えている彼女に視線を落とす。

 幾らPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー=慣性制御)範囲を拡大しているとは言っても、本格的な戦闘機動をしようものなら命は無いだろう。

 どうする? 瞬間、刹那の閃き。

 

(待てよ。PICを一方向のみに限定して集中制御すれば、生身でもネクストISの加速に耐えられるか?)

 

 ISにシミュレートをコマンド。

 即座に結論が返ってくる。

 

 ―――対象スキャンデータより予想値算出。

 

 ―――仮定条件。PIC単一方向集中制御。

 

 ―――OB(オーバードブースト)+メインブースターの最大出力に耐えられる推定最大時間は20秒。

 

 ―――それ以上で身体機能に致命的な損傷が発生する可能性大。

 

 ―――対象の安全を考慮するのであれば15秒。

 

 ―――サイドへのクイックブースト(QB)使用時、対象の死亡率99.98%

 

 上等だ!!

 思考トリガー。

 

 ―――PIC制御範囲拡大。及び制御方向を前方に固定。

 

 ―――空気抵抗低減の為、エネルギーシールドを前方へ伸びるコーン状へ変形。

 

 ―――OB起動。メインブースター最大出力。

 

 ネクストISの背部装甲版が展開。普段は使用されない大型ブースターが露出。

 そこへ光が収束していき、直後、地上に彗星が出現する。

 音速を超えた衝撃で海が割れ、更に超音速領域に突入。

 僅か1秒弱で時速3000kmに迫り、音を遥か彼方に置き去りにして突き進む。

 が、安心は出来ない。

 敵ISの性能は未知数だし、そもそもこちらは長時間この状態を維持出来ない。

 

 ―――安全リミットまで5、4、3、・・・・・。

 

 脳内に流れる無機質で無慈悲なカウントダウン。

 何とか距離を稼げてはいるが、減速が始まればすぐに追いつかれるだろう。

 どうする。

 危険を承知で加速を続けるか?

 

 ―――2、・・・・・

 

 レーダーに<アロー1>の機影が移るが、まだ遠い。

 

 ―――1、・・・・・

 

 抱き抱えている彼女に再度視線を落とす。

 キュッと目を閉じ、恐怖に震えている。

 当たり前だ。

 突然こんな状況に放り込まれたら、誰でもこうなる。

 

 ―――0

 

 駄目だ。もし無理をして何かあれば、この作戦そのものの意味が無くなる。

 減速開始。

 敵機及び<アロー1>との距離がみるみる近付いてくる。

 だがこの速さなら、僅かに先んじて<アロー1>と合流出来る。

 そして、

 

「リア!!」

「姉さん!!」

 

 互いの無事を喜び抱き合う姉妹。

 出来るならこのままそっとしておいてやりたいが、状況がそれを許してくれない。

 

「・・・・・早く行け。もう会う事も無いだろうが、達者でな」

 

 そう言って俺は2人に背を向け、迫る敵機に向き直る。

 

「ちょっと待って。5対1よ。勝てるの?」

 

 勝てる訳が無い。言外にそんな意味が込められた言葉。

 正直、俺もそう思う。

 こちらの実戦経験は今回で2度目。相手は豊富。

 本心を言ってしまえば怖いの一言だ。

 全てを放り出して逃げてしまいたい。

 だけど、俺は知っている。

 特別な事じゃない。

 世の中大体のものは金で買えるが、信用は買えないんだ。

 ここでもし2人を裏切り、そして束博士を裏切れば、絶対これから先ロクな人生にならない。

 だからそんな事はやらない。

 無理? 無茶? 無謀?

 クソ食らえだ。

 負けたら死ぬ。それだけの話だ。

 だったら勝利の可能性を1%でもあげる為に、思考する。演技をする。俺は傭兵だと自分自身に信じ込ませる。

 

「ふん。たかが5機程度に勝てない奴が、あの人の下にいられると思うか? 余計な心配はしないで早くいけ。家族が大事なんだろう? 死なせたくないんだろう? なら振り返るな。行け!!」

「ありがとう。死なないで」

 

 レーダーの、背後にあった光点が遠ざかっていく。

 そして代わりに近付いてくる5つの光点。

 ここに至って、言葉に意味は無かった。

 ロックオン警報。と同時に放たれる弾丸。

 警告すら無い明確な殺意。

 俺はサイドクイックブースト(QB)で弾丸を回避、そのまま戦闘機動に突入。

 こうして俺の、2度目の対IS戦闘の幕は切って落とされたのだった。

 

 

 

 第4話に続く

 

 

 

 


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