インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
惰弱な人間の集まり。
無論、中には例外もいるだろうが、大多数の人間がそうである事は疑っていなかった。
ISをファッションと勘違いしているような人間の集まりだと。
しかし転入当日の放課後、いきなりその認識が覆された。
「
ここはIS学園アリーナのオペレーションルーム。
既に知っている事ばかりの退屈な授業が終わった後、寮で同室となったシャルロット・デュノアから声を掛けられた。
もし良かったらクラスの自主練習を見に来ないか、と
「由紀は
正面の大型ディスプレイに映し出されるのは、量産型IS“打鉄”と“ラファール”を用いた3on3バトル。
ルールは至って簡単で、敵チームのISを全機行動不能にすれば勝利というもの。
だが加えられた2つの要素が、通常とは異なる戦術をチームに要求する。
1つは、アリーナ内に2箇所設置されている補給ポイント。
これがある限り減ったシールドエネルギーの回復が可能となるから、ここの確保と敵が確保しているポイントを、如何に破壊するかが鍵となってくる。
そしてもう1つはオペレーターの存在。
相手の武装とフォーメーションの解析を専門とする後方担当が1人いるだけで、前線メンバーがどれだけ楽になるかなど、言うまでも無い。
勿論、実戦部隊に所属していた私から見れば、所詮学生の動き。
まだまだ穴だらけだ。
正直、問題点を指摘しようと思えば、幾らでも出来るだろう。
だがISに触れ始めて日が浅い連中。動きが荒くて当たり前。
「箒さん。聖華機、優機とエンゲージ。足止め――――――駄目!! 優機に抜けられた!! 相川さん、お願い!!」
だから見るべきはソコじゃない。
このゲームそのものだ。
シャルロットから受けた説明では、このゲームの目的は“生徒のIS操縦技術向上”だ。
だが、それなら補給とオペレーターという要素は必要無い。
単純な3on3で十分だ。
なのに余計な要素が入っているのは、別の目的があるから。
それは何か?
考えるまでも無い。
戦術上の重要な要素の1つである補給タイミングと、地味で目立たないが欠かせない存在であるオペレーターの価値を認識させる事。
この2つだろう。
今アリーナを駆け巡っている本人達に、自覚は無いのかもしれない。
しかしこんなゲームを繰り返していれば、嫌でも気付く。
「
大型ディスプレイには打鉄を追撃し、補給ポイントのすぐ傍を通るラファールの姿が映し出されていた。
直後、補給ポイントに弾丸が撃ち込まれ誘爆。
巻き込まれたラファールのシールド残量が0に。
そんな映像を見ながら、私はこのゲームを提案したという
こちらに対して、何もアクションを起さないのだろうか?
先日の反応を見れば、ドイツでの一件を快く思っていないのは明白。
なのに何らアクションが無い。
それどころか、今こうして同じオペレーションルームにいても、気にしている様子が無い。
全くの自然体。
意図的に無視している様子でもあれば、また違うのだが・・・・・。
焦燥、苛立ち、不安。様々な感情が心を乱していく中、突然掛けられた声で、私は現実に引き戻された。
「自主練習の様子はどうかな?」
シャルロットだ。
いつの間にか、人が安心しそうな人懐っこい表情で隣に立っている。
「・・・・・悪くは無い。だが、動きに無駄が多いな」
「まだ始めて、そんなに経ってないからね。でも1年生のこの時期で、ここまで動けるなら凄いと思うよ。私だって、同じだけの搭乗時間の時に、ここまで動けたかどうか」
自分の身に置き換えてみれば、確かに頷ける話ではあった。
「そうだな。ところでこの訓練に補給とオペレーターという要素を加えたのは、やっぱり
「うーん。確かに晶の意見ではあったけど、正確に言うなら“試行錯誤している間にこの形になった”が正しいかな」
「試行錯誤?」
「うん。この訓練、初めからこの形だった訳じゃないんだ。雛形を作ったのは彼だけど、どうしたらもっと良く出来るかって皆で話し合って、色々形を変えて、そしてこの形になったんだ。だから全部彼が決めた訳じゃないんだよ」
「そうだったのか」
何となくだが、全て自分で決めていたイメージがあったので、少々意外な発見だった。
そして同時に思う。
やはり武力のみの男では無かったか、と。
ISをファッションと勘違いしているような連中が相手なら尚更だろう。
だが奴は雛形を与え、後は自分達で考え・実行させる事で、全体の底上げと効率化を図ったのか。
やるな。
だが待てよ。
この場合、クラスメイトが自主的に動こうと思うだけの、何かが必要だと思うのだが・・・・・。
「1つ聞いていいか」
「何かな?」
「この訓練。勝った方には何かあるのか?」
「月~木までの勝ち星を計算して、上位4チームは金曜に専用機持ちと戦えるんだけど・・・・・多分みんなが頑張る目的はそっちじゃないんだよね」
どういう事だ?
最新技術を詰め込んだ専用機と戦える以上の、何かがあると言うのか?
私は何も言わず、シャルロットの次の言葉を待った。
「上位4チームは戦った後、その日限定で専用機持ちが専属コーチとして付く事になってるんだ」
なるほど。
戦った後のアフターフォローも完璧という事か。
抜け目無いな。
「戦う専用機はどういう風に決めてるんだ?」
「自由に相手を選べるのは勝ち星が1番多いチームだけ。2位以下は、専用機組みがジャンケンで順番を決めてるからランダム。ちなみにこれの面白いところは、4位のチームでもNEXTと当たる可能性があるって事」
「ほぉ、面白いシステムだな」
「でしょう? 流石に晶も、この時は手加減してくれるみたいだしね」
「この時は?」
「うん。“この時は”」
そう強調した彼女は眼前に空間ウィンドウを展開し、専用機が映る映像を見せてくれた。
「これは?」
「僕達専用機持ちとNEXTとの訓練映像。晶って、かなり容赦無いよ。僕達の事を思ってだっていうのは、分かってるんだけどね」
その映像は、驚愕の一言に尽きた。
本来それなりの実力を持つはずの専用機持ち達が、恥も外聞も無く必死に機体を振り回し、ロックオンを外そうとしている。
だがNEXT相手に、生半可な機動が通じるはずも無い。
次々と撃ち込まれる実弾と光学兵器群。
削られるエネルギーシールドと物理装甲。発動する絶対防御。
「訓練で、ここまでやるのか!?」
「初めはIS操縦で出遅れていた一夏を、スパルタで鍛える為に始めたやつだったんだけどね。いつの間にか随分強くなっちゃって油断出来なくなってきたから、今は僕達もこの形。――――――だから、毎回毎回気が抜けないんだ。何せ下手をしたら本当に一瞬、一撃で撃墜判定。嫌でもあらゆる事に気を配るようになるよ。それこそ味方の位置、連携タイミング、フィールドにある障害物まで全部」
言葉が出ないとは、まさにこの事だった。
確かに、
そして同時に戦慄する。
こんな事を卒業まで繰り返せば、この専用機持ち共は、どれだけの実力に達しているのだろうか、と。
私はそんな事を思いながら、自主練習を眺め続けた。
◇
放課後のクラストレーニングが終わった後、束の自宅でシャワーを浴びながら、
ドイツの一件での仕返しという意味もあるから、キッチリやっておきたいんだが、俺から行動を起こすとしたら切っ掛けが必要だ。
知らない振りをして、NEXTとシュヴ
基本戦闘能力が違い過ぎて、弱いもの苛めにしかならない。
いや待てよ。考え方を変えよう。
極端な話、VTシステムの存在さえ表に出せれば、ドイツに痛い目を見させるという、こっちの目的は達成出来るんだ。
なら多少残念ではあるが、原作通り一夏にやらせるか?
いや駄目だ。
俺が原作に介入してるおかげで、タッグマッチそのものがおかしな事になっている。
今日クラスのHRで織斑先生が、専用機持ち同士のコンビは禁止と言ってきた。
理由を尋ねてみれば、専用機持ち同士は既に、連携訓練をしているからだそうだ。
まぁ確かに、頷ける話ではある。
クラス対抗戦時の戦闘を見る限り、連携はそれなりに機能していると見れるだろう。
なら教育者としては、他の人間にも、そういう事を学んで欲しいと思うのが自然だろう。
しかしこれは原作には無かった流れだ。
当然これだと、一夏&シャルロットVSラウラ&箒というカードが成立しない。
どうする?
そんな思考を巡らせながらシャワーを終え、私服に着替えてダイニングのソファでくつろいでいると、ひっっっじょうに機嫌の悪そうな束が入ってきた。
これは・・・・・何かあったな。
思い当たるところとしては、ドイツから持ち帰ったデータだが、分析で何か分かったのか?
無言で近付いてきた束が、俺の隣に“私不機嫌です”と言わんばかりにボスッと腰を降ろした。
「・・・・・どうした?」
「晶。とりあえずラウラっていう小娘のISを壊してきて」
「いきなりだな。事情を説明してくれ」
「コレ」
細く綺麗な指がパチンと弾かれ、目の前に展開される空間ウィンドウ。
表示された情報は―――――――――
そうかそうか。束の方で情報を掴んでくれたか。
これで動ける。
だが油断は禁物だ。
このVTシステムが、原作通りの物とは限らないのだから。
故に、説明してもらう事にした。
「Valkyrie Traceシステム。通称VT。過去モンド・グロッソの
相変わらず傍若無人で素適な理由だが、1つ気になる事があった。
「そういうシステムが搭載されているって事は、それを作る施設があるって事だろう? そっちは良いのか?」
「それについては大丈夫。以前、施設も基礎研究データも根こそぎ破壊しておいたから。そしてドイツから回収したデータを分析した限り、動いているのは、あの小娘のISに搭載されているプロトタイプだけ。――――――だから、壊して」
「了解した。精々派手にぶっ壊そう。俺もちょっと、仕返しはしてやりたいと思っていたしな。しかし全損させるとなると・・・・・・・・・・」
どうすれば、弱いもの苛めに見えないようにやれるだろうか?
そんな事を改めて考えると、ふと閃くものがあった。
何も1対1に拘る必要は無くないか?
NEXTとノーマルISとの戦力差は歴然。
1対1なら弱いもの苛めでも、5対1ならハンデとして成立する。
確か、まだ使っていない装備があったな。
考えが徐々に纏まっていく。
「・・・・・なぁ束」
「なに?」
「白式なら、装甲パーツが全損しても修理してくれるか?」
「突然だね。いっくんの白式なら良いけど、どうして?」
「なに、1対1でやったら今後外での活動に、影響が出そうなくらいの弱いもの苛めになるから、1年生の専用機持ち全員を集めた5対1で模擬戦。その中でやろうと思ってね。ただ1人だけ集中的に狙うと色々勘繰られるから、他の奴も同じようにやる。集める名目はそうだな・・・・・NEXT新武装のテスト相手。これでいこう」
「新武装って、確かまだ使ってないのは・・・・・」
「幾つかあるけど、ミサイルを使おうと思っている」
俺の言葉に、珍しく束の表情が変わる。
「ノーマルISのミサイルとは物が違うよ。アリーナなんかで使ったら、下手をしなくても観客席ごと吹き飛んじゃう」
「だから場所は、太平洋のど真ん中。許可を取るのが面倒臭そうだが、俺がやると言えば頷かないところは無いさ。そして、そこでVTシステムの存在が明かされれば、色々と面白い事になると思わないか?」
「なるほど。良いね。でも1つだけ、いっくんにやり過ぎたら駄目だよ」
「やり過ぎる気は無いが、それなりにはやらせてもらう。――――――アイツは強く成りたいって言ってるんだ。下手な手加減なんてしたら、アイツに対して失礼だ」
「むぅ。男ってこれだから・・・・・」
“私不満です”とばかりに、少しだけ頬を膨らませる束。
しかし決して怒っている訳では無い可愛らしい表情は、間近で見ていた俺にとって、ちょっとばかり破壊力があり過ぎた。
本心を言う口とは裏腹に、手が別行動を始める。
「そう言わないでくれ。本人から鍛えて欲しいって言われているのもあるが、ああいう真っ直ぐな人間を見ていると、つい応援したくなる」
「分かったよ。・・・・・ところで、動いているこの手は何かな?」
「何だろうな? すぐに分かると思うけど」
「ふふ。そうだね。すぐに分かる事だったね」
そうして部屋の照明が徐々に落ちてゆき、俺達2人は・・・・・。
◇
翌日。朝のHRには随分と早い時間。
特に聞かれて拙い話でも無いので、盗聴対策が施された面談室は使っていない。
なので周囲には、朝早くから出勤している先生方がちらほらと。
そして本人はいないが、山田先生の机の上にジャック君の手作り人形が置かれているあたり、大分気に入ってくれたようだ。
「で、こんな朝早くから何の用だ?」
「少しお願いがありまして」
「ほぉ、お前がか? 場所は変えなくて良いのか?」
「隠すような事でもありませんから、ここで良いです」
「何だ。こんな時間に来るから、それなりの話かと思ったぞ」
俺はニヤッと笑みを浮かべ一言。
「いいえ。話の内容は、それなりどころか極上ですよ」
「お前の口からそういう言葉を聞くと、不吉な予感がしてならないんだが、何を考えている? まさか、要らん騒ぎを起す気ではないだろうな?」
何かを感じ取ったのか、織斑先生の表情が少し厳しいものになっていく。
「そんなに怖い顔をしないで下さい。只、学園外での演習を許可して欲しいだけです。ちょっと新装備のテストをしたいんですが、アリーナだと手狭なので」
ザワッ。
周囲にいた先生方の視線が一斉にこちらを向いた。
「・・・・・どこが、隠すような話でも無いだ。その一言で動き出す組織なんて腐る程あるだろうが」
「そうかもしれませんね。――――――ああ、そうだ。仮想敵機は1年の専用機持ち、全員にやってもらおうと思ってるんですよ」
「そっちにリミッターは付くんだろうな? NEXTの戦闘速度なら、5対1でもハンデにすらならん」
「ある程度は。でも、それを聞いてくるって事は、承諾と受け取って構いませんね」
「私の一存で決められる話ではないので、後で会議にかける。が、IS学園の存在理由を考えれば断られる事は無いだろう。後、場所は何処を考えているんだ?」
「確実に被害が出なさそうな場所。太平洋のど真ん中を考えてます。なので学園側には、各国への交渉をお願いしたい」
「・・・・・やれやれ。本当に、極上に面倒な話を持ってきたな」
「苦労をかけて申し訳無いとは、思ってるんですけどね」
「お前、実際は1mm足りとも思っていないだろう」
今俺は自分でも、とても“イイ”笑顔をしていると思った。
“良い”ではなく“イイ”笑顔だ。
「勿論じゃないですか。先生は使う為にいるんですから」
「お前・・・・・やっぱり
と言いながらも、先生が心底嫌がっているようには見えなかった。
どちらかと言えば、手の掛かる子供に頼られて喜ぶ姉御みたいな、そんな感じがした。
なのでつい、言ってしまった。
「束と同じですか? 最高の褒め言葉です」
「やめろ。あいつが2人なんて、私を過労で病院送りにする気か? ――――――ちょっと待て、今“束”と呼び捨てにしたのか? 前は“博士”と呼んでいたと思ったが?」
「そうでしたか?」
「いや、間違いない」
織斑先生。どうやら何か勘付いたらしい。
こちらを探るように、更に続けてきた。
「そう言えばお前、最近よく束の家に行っているな。何をしているんだ?」
「色々ですよ」
肩を竦めながら答えて、お茶を濁しておく。
別に話しても良いが、流石に職員室でするような話でも無いだろう。
しかし、追撃は思いの他しつこかった。
「昨日の夜電話で話したんだが、声が妙に艶っぽくてな。お前、何時に帰ってきたんだ?」
「予想がついてるなら、それ以上言わないで下さい。流石に、話のネタにされるのは面白くない」
「弄り甲斐の無い奴め。だが・・・・・そうか。あいつの事、頼むぞ」
「言われるまでもありません」
この後職員室を後にした俺は、登校してきた専用機持ち全員を説得。
原作には存在しない、イレギュラーなイベントへの参加を取り付ける事が出来た。
そうして、その3日後。
驚愕の一報が世界中を駆け巡る。
―――NEXT VS 1年生代表候補生チーム。
―――1対5の変則バトル。
―――目的、NEXT武装のテスト
―――日時、IS学園主催タッグマッチの3日後。正午開始。
―――場所、北緯33度、東経179度。(太平洋のほぼ中央)
こうして俺は、明確な意図をもって原作を無視した。
恐らくこれ以降、原作知識の精度は底無しに下がっていくだろう。
だがそれも仕方が無い。
俺というイレギュラーが存在する以上、原作と同じはずが無いんだから・・・・・。
第34話に続く