インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
北緯33度、東経179度。高度50m。太平洋のほぼ中央。
雲1つ無い晴れた空の下。見渡す限りの青い海。
そこに、
―――SYSTEM CHECK START
→HEAD:063AN02・・・・・・・・・・・・・・OK
→CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・・OK
→ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・・・・OK
→LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・OK
→R ARM UNIT :
→L ARM UNIT :
→R BACK UNIT :
→L BACK UNIT :
→SHOULDER UNIT :M
→R HANGER UNIT :-
→L HANGER UNIT :-
―――STABILIZER
→CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK
→CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK
→LEGS BACK :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・OK
→LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK
→LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK
→LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK
→LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK
―――
→コジマ粒子による擬似慣性制御エミュレートモード
―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR
全てのチェックを終えたところで、束と更識から通信が入った。
『こちら束。IBISは配置についたよ』
『こちら更識。ポジションについたわ』
『・・・・・そうか』
『緊張してるの?』
言葉少なく答えた俺に、束がそんな事を問いかけてきた。
緊張? 俺が?
ああ、そうか。言葉少なく答えたから、そう聞こえたのか。
『確かに、ISに慣れる前は死にかけた。
気付けば、そんな言葉が漏れ出ていた。
この広い場所で、リミッター付きとは言え、存分にやれる事が嬉しくてたまらなかった。
だからだろうか?
自分でも気付かないうちに溜め込んでいた感情が、止められなかった。
『ああ、狭かった。窮屈だった。人目を気にしながら力を振るうのが煩わしくて仕方が無かった。――――――束、お前の剣がどういう存在か、記録じゃなく実演で見せよう。そして更識も、お前の後ろ盾がどういう存在か、良く見ておくと良い。ああ、楽しみだ』
俺の高揚した精神に、NEXTが反応。
無機質なメッセージが脳内を流れていく。
―――AMS接続。最大深度。
―――フルリンクモード。
波の音や日の光に加え、人の身では決して感じられない各種センサー系の情報全てが、今まで以上にクリアに、ダイレクトに、鮮明に伝わってくる。
これが・・・・・これが本当のリンクスが視る光景。
周囲の全てが手に取るように分かる。
そんな感動を感じている最中、俺の感覚器となったセンサー系が、近付く5機の専用機を捉えた。
今まで以上に早く、正確に、鮮明に。
『・・・・・来たか。じゃぁ、後は手筈通りに』
『分かったよ。交信終――――――泥棒猫、足を引っ張らないでね。交信終了』
『引きこもり兎こそ、下手を打たないでね。交信終了』
あいつら、仲が良いんだか悪いんだか。
さて、と。
こちらも始めるか。
近付いてきた専用機チームに通信を繋ぐ。
その距離。525.15m。
『逃げ出さずに良く来たな』
『誘ったのはそっちだし、こんなチャンス逃せる訳ないだろ』
真っ先に答えたのは一夏だ。
『やる気があって何よりだ。只、先に言っておくぞ。今回はちょっとばかり厳しめに、より実戦に近い形でやるからな。気を抜いたら、一瞬で逝けるぞ』
『それこそ今更だろう? むしろそれをやらないお前だったら、偽者かと疑うよ』
『良い返事だ一夏。他の皆も、その覚悟があると思っていいな?』
皆それぞれから、肯定の返事が返ってきた。
『オーケーだ。なら、早速始めようか』
すると専用機持ちは、各々が能力を最大限に生かせるポジションに散って行った。
まぁ、性能的に見て妥当なフォーメーションだろう。
そうして、演習開始のカウントダウンが始まった。
―――3。
専用機組の表情が引き締まり、戦意を込められた視線と共に銃口が向けられる。
―――2。
対する俺は、焦るでもなく気負うでもなく自然体。
戦うという一点において、他の追随を許さない戦闘思考が走り始める。
―――1。
ミサイルは、まだだ。
さぁ、始まるぞ。
―――0。
◇
衝撃的。
その光景は、その一言につきた。
必殺の意志を持って仕掛けた先制攻撃。
白式と甲龍による前後からのクロスラインアタック。
同時に、シュヴ
例え各国のエース級といえども撃墜必至の必殺の布陣。
それを
と同時に90度ターン。右腕装備の銃身の尖ったライフルを遠心力で加速。白式の横っ腹に突き刺しワントリガー。
左側から迫ってくる形になった甲龍に対しては、振り下ろそうとしている刀身に、無造作に左腕を向けトリガー。
発射された弾丸が刀身に命中。
VTRが巻き戻されるかのように刀身が弾き上げられ、続く弾丸がエネルギーシールドを削り取っていく。
結果、データリンクで示されている両機のシールドエネルギーがいきなり半減。
こちら側の、“相手を動かさせる"という思惑がいきなり頓挫。
更に、死角から放たれたはずのビット攻撃すらも、背後に目がついているかの如く、理想的な回避機動で回避されていく。
「なんて、なんて出鱈目なっ!!」
思わず叫んでしまったが、この程度は、これから始まる事のほんの序章に過ぎなかった。
全機に通信が入る。
『じゃぁ、始めようか。頼むから、アッサリ墜ちてくれるなよ』
只の的を相手にしているかのような、何処までも上から見た物言い。
正直、何様のつもりだと言いたかった。
しかしNEXTの攻撃を見て、私は言葉を失う。
怒涛の如く垂れ流されるミサイル。
愛機が、オートでカウントしていく。
1、2、3・・・16・・・32・・・・・・64・・・・128・・・・256・・・・・・512・・・・・・。
瞬く間にレーダーが、いや視界そのものがミサイルで埋め尽くされていくのを見て、完全回避は不可能と判断。
よってレールガンで迎撃開始。
遠距離用兵器を持つ他の機体も、同じように迎撃を始めた。
しかし、
『何ですの、コレは!?』
全くの同意見だった。
艦隊戦をしているんじゃ無いんだぞ!!
IS4機の全力迎撃で押されているとは、どういう火力をしているんだ!?
迎撃によってレーダーから消えるミサイルの光点座標が、徐々に近付いてくる。
更に、
『みなさん気をつけて!! 弾道の違うやつがありますわ!!』
最後方で全体を見渡していたイギリス代表候補生が叫ぶと、同時にデータリンクで情報が送られてきた。
両翼から回り込み、我々を挟み込むような軌道で迫るミサイル。
数は少ないが、放っておけるものでは無い。
『右は私がやる。左は―――』
『私がやる!!』
言い終える前に、中国の代表候補生が左翼に展開。
見えない弾丸、龍咆で迎撃を開始。
私も同様に始めるが、この瞬間、正面からの攻撃を支えるのはラファールとブルーティアーズのみ。
4機ですら支えられなかった攻撃が、2機で支えられるはずが無い。
ほんの数秒の間に、瞬く間に押し込まれていく。
しかも、ここにきてビット兵器の弱点が露呈した。
『クッ、申し訳ありません。ビットのエネルギーが危険域ですわ。戻します!!』
独立兵器であるが故の稼働時間の短さ。
しかも大量のミサイルを迎撃する為、後先を考えない全力稼動。
長く持つはずがなかった。
更にそこへ、
『高エネルギー反応5!! 大物がいますわ!!』
再び、イギリス代表候補生からの通信。
あからさまに目立つように放たれた、緑色の光を放ちながら垂直上昇していく5発のミサイル。
だが、そちらを迎撃しようとすれば他のミサイルに対して手薄になってしまう!!
そんな中、NEXTは更なる追撃を放ってきた。
迎撃により乱れ咲く爆光の中を突き抜け、姿を現した数発の大型ミサイル。
いや、違う。分裂した?
既に迎撃の限界に来ていた我々は、選択の余地なく回避機動に入る。
だが、分裂したミサイル群の性能は、異常という一言につきた。
『何なのコレ!!』
『なんですの!? この追尾性は!!』
『これがNEXTの新兵器。振り切れない!!』
『クソッ、どうすれば!!』
どれだけ逃げようとも、猟犬の如く追いかけてくる。
厄介な!!
だが幾ら追ってこようと、動きを止めてしまえば。
そう思い、
『ダメだラウラ!!』
近くにいた白式が軌道変更。
足を止めた私を力強く抱き抱え、
『き、貴様ッ!! 何をする!!』
『それはこっちの台詞だ。いきなり墜とされる気かよ!!』
『何を―――』
続く言葉を、私は口にする事が出来なかった。
視界に映る直前まで居た場所。
そこに、いつの間にか左右から迫っていたミサイルが牙を向いていた。
更にワンテンポ遅れて、正面から叩き込まれる分裂ミサイル。
背筋に冷たいものが走っていった。
もしもあそこでAICを使っていたら、左右からのミサイルでダメージを貰い、AICが消えたところで正面からミサイルの直撃という悪夢のようなコンボ。
『す、すまない。助かった』
『仲間だろ。気にするなよ。それよりも突っ込むから援護を頼む。このまま撃たせ続けたらジリ貧だ』
『援護は良いが、他の奴らはどうする。追われているぞ』
この時私は、織斑一夏は多少なりとも悩むと思っていた。
だが返って答えは、
『放っておく。遠距離用兵器を持たない俺に出来る事は、追撃を撃たせない事。それだけだ。後は、あいつらを信じるしかない』
思わずニヤリとしてしまうくらい、とても良いものだった。
『分かった。良いだろう。――――――道は私が作る。お前は、ただ
白式から離れた私は、迫ってきたミサイルをワイヤーブレードとプラズマ手刀で切り裂きながら言い放った。
『ああ。分かった!!』
◇
ほう? 意外だな。
一夏とラウラの連携機動を見て、俺は素直にそう思った。
何が意外かって、ラウラが素直に連携を組んでいる事もそうだが、あのラウラが、一夏に迫るミサイルの露払いに徹しているところだ。
勿論、白兵戦機を張り付かせて、ミサイルの発射を妨害しようという戦術上の意図はあるだろうが、それを差し引いても、あのラウラが完全にサポートに徹しているというのが、俺としては意外だった。
鈴もその動きに同調。こちら迫ってきている。
だが悪いな。
だから先に、いつも世話になっている2人に墜ちてもらおう。
丁度良くかたまっている事だし。
日頃の感謝も込めて、これから先の糧になるように。盛大にな。
俺は通信を繋いだ。
『シャル。セシリア。お前達がどれほど努力を重ねたのかは、見せてもらった。だからこちらも見せよう』
NEXTが俺の意志に従い、背部装甲板を展開。
現れた大口径ブースターに光が収束していく。
『これから先、もしも多対一という状況に陥った時に、必ず役に立つはずだ』
―――ASSEMBLE
→R BACK UNIT :W
→L BACK UNIT :W
→SHOULDER UNIT :
※1:LR登場兵器。目標を自動的に追尾・攻撃する小型兵器を射出する兵器。
淡い緑の光が各部ハードポイントを包み込み、新たな武装がセットされると同時に、光の収束も終わる。
瞬間、俺の身体は前方へと強力に押し出され、
更にオービット射出。
6機の小型兵器が先行し、2人の頭上を押さえる。
当然、向こうは回避機動に入るが、そんな事はさせない。
OBの加速力そのままに、左サイドへの
追加ブースターの推力も上乗せされたソレは、一瞬とは言えNEXT本来の速度を俺に与え、2人の反応速度を遥かに凌駕。
がら空きの側面へとポジショニング。
そこで再び、
今度は彼女達の背後へ回り込み、最後にもう一度
残る側面へとポジショニング。
勿論この間、
結果、出来上がるのは単機による包囲十字砲火。
頭上からはオービット兵器によるレーザーの雨。
周囲360度からは、マシンガンとアサルトライフルによる弾丸の嵐。
逃れられるはずが無い。
瞬く間にラファールとブルーティアーズの装甲が砕け散り、成す術も無く墜ちていく。
最後に、通信が入った。
『こういう時に容赦が無いのは分かってたけど、女の子の肌を傷物にした罪は重いんだよ。後で埋め合わせを要求したいな』
『私もですわ』
元気そうな声に聞こえるが、絶対防御が発動していたのは確実だ。
なのにこういう風に言ってくれるのは、「この程度は大丈夫」という意思表示だろうか?
痛い目をみたのだから、恨み言の1つも言っていい筈なのに。
何て良い女だろう。
こういう気遣いは、無下にしちゃいけない。
『分かったよ。色々と一段落した後にな』
一瞬、背筋にゾクッと寒気が走ったのは、多分気のせいだろう。
そうに違いない。違いないったらない。
『やったぁ』
『約束・・・・ですわよ』
一応、墜ちていく2人をセンサーで確認しておく。
顔は狙わなかったから大丈夫だと思うが・・・・・上腕と大腿部にアザか。
もしかしたらスーツの下にも出来ているかもしれないが、謝る気は無い。
目的の為、必要だからやったんだ。
それにこういう場面で手を抜く事こそ、彼女達に対する侮辱だからな。
海に落ちる前に、2人が山田先生に回収されたのを確認した俺が3人に向き直ると、丁度
一際大きな爆光。綺麗な緑色の光が、青い海を鮮やかに染め上げている。
さて、ようやくここまで来たか。
そんな事を考えながら、俺は残った3人をロックオン。
残りの仕事に取り掛かるのだった。
第36話に続く