インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
戦闘用パーツ群を
普通、誰も地下下水道から追跡されている等とは思わないだろうから、当然と言えば当然かもしれない。
だが郊外に出たところで問題が発生した。
追跡に使っていた、人が通れるサイズの地下下水道が無くなってしまったのだ。
となれば下水道から出て追うしかないのだが、そうなれば被発見率は格段に跳ね上がる。
しかも今は夜。
ブースターの光はさぞかし目立つだろう。
―――どうする?
判断に迷ったジャック君は、自身の量子コンピューターで幾つかの行動をシミュレーション。
そうして弾き出された結論は、
幸い今、目標が走っているのは森の中。
更にその先には廃工場があるから、隠れる場所には事欠かない。
ブースター炎も、目標を大きく迂回して行けば、発見される事も無いだろう。
―――行動決定。
それが最も高確率で、
―――Overd Boost Ready
露出した大型ブースターに、かん高い音と共に大量のエネルギーが供給され、小さな光が灯る。
だが瞬く間に大きくなり、
―――GO!!
光が弾けた直後、膨大な推力が吐き出された。
仮に、ここにIS関係者が居たなら呆然としただろう。
何せどう見ても明らかに重量級の機体が、
しかもこの後の光景を見たら、何と言っただろうか?
ジャック君は、その速度を“維持したまま”森の中に突入。
AIらしい精密な機動で木々を避わしながら、夜の森を駆けていくのだった。
◇
一方その頃、追跡されている事など知りもしないオータムは、山田真耶の使い道について考えていた。
今回上からは「拉致ってこい」と言われただけで、詳しい事は何も聞かされていない。
だがこの人選を見るに、どう考えてもNEXT絡みで使うと考えるのが自然だろう。
しかしどうやって使う?
在り来たりなところとしては、人質にしてNEXT技術の入手だろう。
だがオータムは、それが通じるとは思えなかった。
何せドイツは自国の衛星を乗っ取られ、太平洋上で行われた模擬戦では、指定領域に侵入した物は有人無人問わず全て撃破している。
そこまでやる奴らが、人質1人の為に要求を呑むとは思えなかった。
(・・・・・となると目的はやっぱり、近しい人間に危険が迫った時、どう動くのかを見る為かい?)
長い髪をかき上げながらそう思ったオータムは、連れてきた男共が、ある事を期待しているのに気付いた。
視線の先にあるのは、無防備な姿を晒す山田真耶。
着ている物は色気の欠片も無いが、スタイルは随分生意気だ。
出ている所は出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。
更に前空きパジャマのボタンが幾つか空いているおかげで、白い清楚なブラと深い谷間が丸見えになっている。
なるほど、つっこむしか能の無い男共が期待する訳だ。
だからつい考えてしまった。
こいつが泣き叫んでいるところを撮って、映像を送ってやったらどうなるだろうか?
さぞかし面白い事になるに違いない。
そんな暗い愉悦に思いを馳せていると、いつの間にか森を抜け、廃工場に差し掛かっていた。
◇
―――目標、領域内への侵入を確認。
廃工場に先回りし、散乱する機材に隠れていたジャック君は、静かに身を起して背部装甲板を展開。
露出した大型ブースターにエネルギーが送り込まれていく。
ここから先は、たった1つのミスも許されない。
普通の人間なら、まず不可能と言えるレベルの技術が要求される。
何せ黒いワンボックスカーの背後から
シミュレーション上、掛けられる時間は僅か数秒。
どんなに多く見積もっても5秒以内。もし越えるような事になれば、
危険な方法だが、これが現状ジャック君が取りえる最善の手段だった。
大型ブースターから膨大な推力が吐き出され、通り過ぎた車を猛追。
全センサーを戦闘出力で稼動。
―――1秒経過。
車内の情報を収集。
人数6。
運転席1、助手席1、中央座席3、後部座席1。
生体データ確認。
中央座席、中央が救出対象。
―――2秒経過。
車体の左斜め後方にポジショニング。
右腕
高出力レーザーが、車体側面の鍵を抉り取る。
―――3秒経過。
追いつくと同時に空いた右手で、ドアをこじ開け、尚且つ腰部ジョイントを旋回。
上体を捻り、左手を車内に突き入れる。
―――4秒経過。
山田真耶の襟元を掴み引き寄せると同時に、右足で車体を蹴り反動で離れる。
―――5秒経過。
「お、追っ手!?」
中の人間が反応するが、もう遅い。
バックブーストで距離を取りつつ、救出目標を右腕に持ち替える。
そして空いた左腕を車へと向け、
「に、にげ――――――」
直後、至近距離から対IS用グレネードの直撃を受けた車は爆散。
だが爆発の直前、1機のISが飛び出していたのを、ジャック君は見逃さなかった。
◇
(何なんだ。アレは!?)
辛うじて
そして相手も、オータムを見上げていた。
明らかに既存のISとは違う
(まさか・・・・・まさかまさかまさかまさか!! NEXT二号機じゃないだろうな!!)
何せオータムは亡国機業のエージェント。
IS関係の荒事もあるだけに、NEXT関連の情報も入手していた。
だから知っている。
アレと戦場で会ったが最後、生き残る手段は無いと。
しかしエージェントとしての冷徹な思考が、無意識の内に
結果、とある事に気付いた。
(・・・・・エネルギー反応が、小さい?)
正しいかどうかは別として、亡国機業が入手したデータでは、戦闘状態にあるNEXTのエネルギー反応は桁違いのものだった。
なのに奇襲してきた奴の反応は、普通のISレベルだ。
(NEXT二号機じゃ・・・・・ない?)
この時オータムは、限りなく正解に近い答えに辿り着いたが故に、致命的なミスを犯した。
仕方の無い事だったのかもしれない。
更に言えば、NEXTと戦闘になれば敗北は必至だが、相手が普通のISで、しかも救出した人質で片手が塞がっているとなれば、戦闘力は激減する。
となれば、選択肢は限られていた。
このまま離脱して、組織に失敗したと報告するか。
ここで一戦交えて、人質奪還の上、謎のISの情報を入手するか。
2つに1つ。
気位の高いオータムが、前者を選べるはずも無かった。
(やってやろうじゃないか!!)
操縦者の意志に反応し、
その先端にある砲門のロックが解除されると同時に、FCSが
と同時に敵は動き出していた。
バックブーストで距離を取りつつ、左腕をオータムに向けてグレネード発射。
しかし弾速の遅いグレネードなど、単発で撃たれたところで怖くは無い。
無難な機動でヒラリと回避。
そして反撃しようとしたところで、敵は反転。
キィィィンというかん高い音を響かせた後、脇目もふらず離脱を図った。
「チッ、待ちやがれ!!」
後を追いながら装甲脚の砲門で攻撃。全8門が次々と火を吹いていく。
だが敵は、機体を左右に振って弾丸の雨を潜り抜け、廃工場に進入。
オータムも同様に進入しながら攻撃を続けるが、外れた弾丸が散乱する機材を破壊し、撒き散らし、爆発を起こし工場内を破壊し尽していく。
そんな中、彼女はふと思った。
(何故、廃工場に逃げ込んだ? 本気で離脱する気なら、市街地へ向かえば――――――まさか!?)
全身を貫く悪寒。
その瞬間、敵機が振り返り――――――。
◇
廃工場に逃げ込んだジャック君は、背後からの攻撃を避わしつつ
幸い敵の激しい攻撃でいたる所が破壊されて、爆発が起きているから、気付かれる可能性は殆ど無い。
そして敵は、こちらを追うのに夢中で機動が単純だ。
シミュレーション通りに動いている。
なのでジャック君は
しかし敵への直接攻撃が目的じゃない。
救出目標を抱えている今、正面切っての撃ち合いは危険過ぎる。
だから、一撃で消し飛んでもらう。
レーダーに表示されている青い光点は、投げ捨てたカートリッジの位置情報。
迫る赤い光点は敵。
―――
そして、2つの光点が重なる瞬間、
―――
左右2機ずつ、計4機ある大型ブースターのうち、右側2機を緊急停止。
結果、当然の如く崩れる推力バランス。
更に右足を地面に着け軸足とする事で、OBの推力をそのまま旋回速度に転化。
―――トリガー。
と同時に緊急停止させたブースターの再起動開始。
放たれた閃光が、狙い違わずカートリッジを直撃。
グレネード22発分の爆発が、敵を包み込む。
そして丁度1回転したところでブースターの再起動が完了。
再び膨大な推力が吐き出され、バランスを取り戻したジャック君は、そのまま離脱していくのだった。
後に残ったのは絶対防御のお蔭で“辛うじて”生きているだけのオータムと、爆発の余波で崩壊が始まった廃工場だけだった・・・・・。
◇
一方その頃、束宅では・・・・・。
「うんうん。まずまずだね」
モニターに表示されているテスト結果に満足した
そもそも今回、あの教師が誘拐されるのを見逃したのは、ジャック君がどの程度自律行動出来るのかを調べる為。
勿論、理論上はあの状況下でも問題無く、行動可能だと分かっていた。
しかし何事にもイレギュラーというのは存在する。
日常生活程度なら問題無くても、様々な判断が要求される非日常的な状況では、問題が出るかもしれない。
だから今回は見逃して、テストケースとして使わせてもらった。
とは言っても、あの教師の安全に全く配慮しなかった訳じゃない。
いなくなると彼が困るだろう事は容易に想像がついたから、万一の事態に備えて高々度上空に、フルステルス状態でIBISを待機させておいた。
これなら、例え何があろうと対応できる。
そんな万全の体制で臨んだのだけど、最後に1つ問題が残ってしまった。
あの誘拐犯、グレネード22発分の爆発に巻き込まれて尚、生き残ったらしい。
ISの生みの親としては、絶対防御の性能を喜ぶべきなのかもしれないけど、今回ばかりは死んでくれていた方が都合が良かった。
何せ今IBISに止めを刺させれば、確実に“何かがいた”証拠として残ってしまう。
あんな小物1匹の為に、“もう1機ISがいた証拠”を残すなんてリスクは犯せなかった。
なので仕方なく抹殺を諦めたところに、ジャック君から通信が入った。
―――救出目標は、どのように扱うのか?
「そうだねぇ・・・・・」
1人呟き考えていると、また通信が入った。
今度は
『―――珍しいね。私に直接なんて』
『ええ、私も連絡なんてしたくなかったわ。でも、貴女以外には分からない事だと思うから』
『へぇ、何かな?』
『郊外の廃工場で何かあったようだけど、知っている事は無い?』
『さぁ? 何があったの?』
この時少しばかり口元がニヤついてしまったのは、仕方の無い事だと思う。
だってそうでしょう?
困っている
『IS級のエネルギー反応が2つ』
『学園に登録してある機体は調べたの? 後、日本で
『その程度を調べもせずに連絡すると、本当に思っているの? 全部白よ。だから貴女に連絡したの』
『ふぅ~ん。知らないなぁ。あ、そういえば――――――』
私は口元の笑みを、抑えられなくなった。
『――――――1年1組の副担任、何て言ったっけ? 山田真耶だっけ? 彼女って今どうしてるの?』
『珍しいわね。貴女が他人を気にするなんて』
『そう? 彼のクラスの副担任だからね。どんな人間かは多少気にかけてるよ』
『この時間だし、ぐっすり寝てるんじゃないの? 最近忙しいみたいだし』
『そうなんだ。でも、そっちもこんな時間まで仕事とは大変だね。早く寝た方が良いんじゃない』
勿論、寝れる訳が無いんだけどね。
何て言ったって、面倒な後始末をして貰うんだから。
『言われなくても寝るわよ。貴女と違って人を使えるんだから』
『そんな事無いわよ。さっきもちょっと連絡があってね』
『連絡?』
『うん。貴女と同じような用件で連絡してきたんだけどね。その人、緑色のショートカットの女性を、廃工場の近くで発見したんだって。あ、後は黄色いパジャマを着てたって。誰だろうね? 映像までは送ってこなかったから分からないけど』
ギリッ!!
モニターに映る泥棒猫の表情は変わらなかったけど、小さくそんな音が聞こえた。
『へぇ~、IS級のエネルギー反応があった場所に? 何か関係があるかもしれないわね。その人は確保してあるの?』
『してるみたいだけど、お仕事の関係上、顔は晒したくないんだって』
『なら何処か安全な場所に、その人を置いておいて頂戴。こちらから回収に行くわ』
『いいよ。場所は追って連絡するね。っとそうだ。その人から伝言が1つあったんだ』
『何かしら?』
ここで私は一呼吸置き、とてもイイ笑顔で言ってやった。
『「遅かったな」だって。何を言いたいのかは分からないけど、言えば分かるって言ってたよ。何か心当たりがあるのかな?』
『・・・・・さぁ? こちらに向けた言葉なら、貴女が知る必要は無いでしょう』
『それもそうだね。じゃぁ、お休み』
その後、山田真耶は無事に保護されたが、この一件は更識家によって、徹底的な情報隠蔽が行われた。
まず本人は薬品で眠らされており、誘拐された記憶そのものが無い為、そのまま自宅のベッドに戻された。
翌日、少々首が痛くて寝巻きの襟元が汚れていたと言っていたが、本人に分かるのはその程度である。
次に廃工場での戦闘は、不審火が不法投棄されていた爆発物に引火した、という事で片付けられた。
幸い死傷者が0であったのと、“偶然”起きた有名人のスキャンダルが話題になった為、世間の目はそちらに釘付けとなった。
だから一般人は、廃工場の一件などすぐに忘れてしまった。
が、この頃から裏社会に1つの噂が流れ始めた。
―――IS持ちの傭兵がいる、と。
―――眠ったまま誘拐される山田先生―――
XINN様より頂きました。感謝です!!
諸事情により途中挿入だと都合が悪いので、
一番最後に追加してます。
睡眠中なので眼鏡はしていません。
―――眠ったまま誘拐される山田先生―――
第43話に続く