インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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第42話 ジャック君の大冒険(後編)

 

 戦闘用パーツ群を呼び出し(コール)、フォックスアイの姿となったジャック君の追跡劇は、途中までは何事も無く上手く行っていた。

 普通、誰も地下下水道から追跡されている等とは思わないだろうから、当然と言えば当然かもしれない。

 だが郊外に出たところで問題が発生した。

 追跡に使っていた、人が通れるサイズの地下下水道が無くなってしまったのだ。

 となれば下水道から出て追うしかないのだが、そうなれば被発見率は格段に跳ね上がる。

 しかも今は夜。

 ブースターの光はさぞかし目立つだろう。

 

 ―――どうする?

 

 判断に迷ったジャック君は、自身の量子コンピューターで幾つかの行動をシミュレーション。

 そうして弾き出された結論は、創造主(束博士)から送られてくる位置情報を元に、先回りするというもの。

 幸い今、目標が走っているのは森の中。

 更にその先には廃工場があるから、隠れる場所には事欠かない。

 ブースター炎も、目標を大きく迂回して行けば、発見される事も無いだろう。

 

 ―――行動決定。

 

 それが尤も高確率で、命令(オーダー)を遂行出来ると判断したジャック君は、地下下水道から飛び出し背部装甲板を展開。

 

 ―――Overd Boost Ready

 

 露出した大型ブースターに、かん高い音と共に大量のエネルギーが供給され、小さな光が灯る。

 だが瞬く間に大きくなり、

 

 ―――GO!!

 

 光が弾けた直後、膨大な推力が吐き出された。

 仮に、ここにIS関係者が居たなら呆然としただろう。

 何せどう見ても明らかに重量級の機体が、瞬時加速(イグニッションブースト)と同等の速度を叩き出しているのだ。

 しかもこの後の光景を見たら、何と言っただろうか?

 ジャック君は、その速度を“維持したまま”森の中に突入。

 AIらしい精密な機動で木々を避わしながら、夜の森を駆けていくのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一方その頃、追跡されている事など知りもしないオータムは、山田真耶の使い道について考えていた。

 今回上からは「拉致ってこい」と言われただけで、詳しい事は何も聞かされていない。

 だがこの人選を見るに、どう考えてもNEXT絡みで使うと考えるのが自然だろう。

 しかしどうやって使う?

 在り来たりなところとしては、人質にしてNEXT技術の入手だろう。

 だがオータムは、それが通じるとは思えなかった。

 あいつら(束とNEXT)は、自分の我を押し通す為なら、他にどれ程被害が出ようが必ず押し通す。

 何せドイツは自国の衛星を乗っ取られ、太平洋上で行われた模擬戦では、指定領域に侵入した物は有人無人問わず全て撃破している。

 そこまでやる奴らが、人質1人の為に要求を呑むとは思えなかった。

 

(・・・・・となると目的はやっぱり、近しい人間に危険が迫った時、どう動くのかを見る為かい?)

 

 長い髪をかき上げながらそう思ったオータムは、連れてきた男共が、ある事を期待しているのに気付いた。

 視線の先にあるのは、無防備な姿を晒す山田真耶。

 着ている物は色気の欠片も無いが、スタイルは随分生意気だ。

 出ている所は出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。

 更に前空きパジャマのボタンが幾つか空いているおかげで、白い清楚なブラと深い谷間が丸見えになっている。

 なるほど、つっこむしか能の無い男共が期待する訳だ。

 だからつい考えてしまった。

 こいつが泣き叫んでいるところを撮って、映像を送ってやったらどうなるだろうか?

 さぞかし面白い事になるに違いない。

 そんな暗い愉悦に思いを馳せていると、いつの間にか森を抜け、廃工場に差し掛かっていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ―――目標、領域内への侵入を確認。

 

 廃工場に先回りし、散乱する機材に隠れていたジャック君は、静かに身を起して背部装甲板を展開。

 露出した大型ブースターにエネルギーが送り込まれていく。

 ここから先は、たった1つのミスも許されない。

 普通の人間なら、まず不可能と言えるレベルの技術が要求される。

 何せ黒いワンボックスカーの背後からオーバードブースト(OB)で迫りつつ、ハイレーザーを車体側面にかすらせてドアを鍵ごと抉り、追いつくと同時にこじ開けて、山田真耶を救出するというもの。

 シミュレーション上、掛けられる時間は僅か数秒。

 どんなに多く見積もっても5秒以内。もし越えるような事になれば、救出目標(山田真耶)の安全度は格段に下がっていく。

 危険な方法だが、これが現状ジャック君が取りえる最善の手段だった。

 大型ブースターから膨大な推力が吐き出され、通り過ぎた車を猛追。

 全センサーを戦闘出力で稼動。

 

 ―――1秒経過。

 

 車内の情報を収集。

 人数6。

 運転席1、助手席1、中央座席3、後部座席1。

 生体データ確認。

 中央座席、中央が救出対象。

 

 ―――2秒経過。

 

 車体の左斜め後方にポジショニング。

 右腕WH04HL-(HI-レーザー)KRSW(ライフル)をトリガー。

 高出力レーザーが、車体側面の鍵を抉り取る。

 

 ―――3秒経過。

 

 WH04HL-(HI-レーザー)KRSW(ライフル)を量子化。

 追いつくと同時に空いた右手で、ドアをこじ開け、尚且つ腰部ジョイントを旋回。

 上体を捻り、左手を車内に突き入れる。

 

 ―――4秒経過。

 

 山田真耶の襟元を掴み引き寄せると同時に、右足で車体を蹴り反動で離れる。

 

 ―――5秒経過。

 

「お、追っ手!?」

 

 中の人間が反応するが、もう遅い。

 バックブーストで距離を取りつつ、救出目標を右腕に持ち替える。

 そして空いた左腕を車へと向け、

 

「に、にげ――――――」

 

 CR-WL95G(ハンドグレネード)発射。

 直後、至近距離から対IS用グレネードの直撃を受けた車は爆散。

 だが爆発の直前、1機のISが飛び出していたのを、ジャック君は見逃さなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

(何なんだ。アレは!?)

 

 辛うじてアラクネ(IS)の緊急展開が間に合ったオータムは、驚愕の表情で空中から、謎のIS(ジャック君)を見下ろしていた。

 そして相手も、オータムを見上げていた。

 明らかに既存のISとは違う全身装甲(フルスキン)が、嫌でも最悪の事態を考えさせる。

 

(まさか・・・・・まさかまさかまさかまさか!! NEXT二号機じゃないだろうな!!)

 

 何せオータムは亡国企業のエージェント。

 IS関係の荒事もあるだけに、NEXT関連の情報も入手していた。

 だから知っている。

 アレと戦場で会ったが最後、生き残る手段は無いと。

 しかしエージェントとしての冷徹な思考が、無意識の内に謎のIS(ジャック君)を観察。

 結果、とある事に気付いた。

 

(・・・・・エネルギー反応が、小さい?)

 

 正しいかどうかは別として、亡国企業が入手したデータでは、戦闘状態にあるNEXTのエネルギー反応は桁違いのものだった。

 なのに奇襲してきた奴の反応は、普通のISレベルだ。

 

(NEXT二号機じゃ・・・・・ない?)

 

 この時オータムは、限りなく正解に近い答えに辿り着いたが故に、致命的なミスを犯した。

 仕方の無い事だったのかもしれない。

 山田真耶(人質)を奪還されれば、当然仕事は失敗となり、面白く無い事になる。

 更に言えば、NEXTと戦闘になれば敗北は必至だが、相手が普通のISで、しかも救出した人質で片手が塞がっているとなれば、戦闘力は激減する。

 となれば、選択肢は限られていた。

 このまま離脱して、組織に失敗したと報告するか。

 ここで一戦交えて、人質奪還の上、謎のISの情報を入手するか。

 2つに1つ。

 気位の高いオータムが、前者を選べるはずも無かった。

 

(やってやろうじゃないか!!)

 

 操縦者の意志に反応し、アラクネ(IS)背部に折り畳まれていた8本の装甲脚が展開。

 その先端にある砲門のロックが解除されると同時に、FCSが謎のIS(ジャック君)を敵と認識、ロックオンする。

 と同時に敵は動き出していた。

 バックブーストで距離を取りつつ、左腕をオータムに向けてグレネード発射。

 しかし弾速の遅いグレネードなど、単発で撃たれたところで怖くは無い。

 無難な機動でヒラリと回避。

 そして反撃しようとしたところで、敵は反転。

 キィィィンというかん高い音を響かせた後、脇目もふらず離脱を図った。

 

「チッ、待ちやがれ!!」

 

 後を追いながら装甲脚の砲門で攻撃。全8門が次々と火を吹いていく。

 だが敵は、機体を左右に振って弾丸の雨を潜り抜け、廃工場に進入。

 オータムも同様に進入しながら攻撃を続けるが、外れた弾丸が散乱する機材を破壊し、撒き散らし、爆発を起こし工場内を破壊し尽していく。

 そんな中、彼女はふと思った。

 

(何故、廃工場に逃げ込んだ? 本気で離脱する気なら、市街地へ向かえば――――――まさか!?)

 

 全身を貫く悪寒。

 その瞬間、敵機が振り返り――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 廃工場に逃げ込んだジャック君は、背後からの攻撃を避わしつつCR-WL95G(ハンドグレネード)のカートリッジを取り外し、そっと床に投げ捨てた。

 幸い敵の激しい攻撃でいたる所が破壊されて、爆発が起きているから、気付かれる可能性は殆ど無い。

 そして敵は、こちらを追うのに夢中で機動が単純だ。

 シミュレーション通りに動いている。

 なのでジャック君は救出目標(山田真耶)を左腕に持ち替え、右手にWH04HL-(HI-レーザー)KRSW(ライフル)呼び出した(コール)

 しかし敵への直接攻撃が目的じゃない。

 救出目標を抱えている今、正面切っての撃ち合いは危険過ぎる。

 だから、一撃で消し飛んでもらう。

 レーダーに表示されている青い光点は、投げ捨てたカートリッジの位置情報。

 迫る赤い光点は敵。

 

 ―――慣性制御(PIC)レベル最大。

 

 そして、2つの光点が重なる瞬間、

 

 ―――オーバードブースター(OB)、片肺停止。

 

 左右2機ずつ、計4機ある大型ブースターのうち、右側2機を緊急停止。

 結果、当然の如く崩れる推力バランス。

 更に右足を地面に着け軸足とする事で、OBの推力をそのまま旋回速度に転化。

 クイックブースト(QB)に迫る高速旋回で振り向き、投げ捨てたカートリッジをロックオン。

 

 ―――トリガー。

 

 と同時に緊急停止させたブースターの再起動開始。

 放たれた閃光が、狙い違わずカートリッジを直撃。

 グレネード22発分の爆発が、敵を包み込む。

 そして丁度1回転したところでブースターの再起動が完了。

 再び膨大な推力が吐き出され、バランスを取り戻したジャック君は、そのまま離脱していくのだった。

 後に残ったのは絶対防御のお蔭で“辛うじて”生きているだけのオータムと、爆発の余波で崩壊が始まった廃工場だけだった・・・・・。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一方その頃、束宅では・・・・・。

 

「うんうん。まずまずだね」

 

 モニターに表示されているテスト結果に満足した()は、背もたれに寄り掛かりながら背伸びをした。

 そもそも今回、あの教師が誘拐されるのを見逃したのは、ジャック君がどの程度自律行動出来るのかを調べる為。

 勿論、理論上はあの状況下でも問題無く、行動可能だと分かっていた。

 しかし何事にもイレギュラーというのは存在する。

 日常生活程度なら問題無くても、様々な判断が要求される非日常的な状況では、問題が出るかもしれない。

 だから今回は見逃して、テストケースとして使わせてもらった。

 とは言っても、あの教師の安全に全く配慮しなかった訳じゃない。

 ()にとってはどうでも良い凡人だけど、晶にとってはそれなりに使い勝手の良い相手。

 いなくなると彼が困るだろう事は容易に想像がついたから、万一の事態に備えて高々度上空に、フルステルス状態でIBISを待機させておいた。

 これなら、例え何があろうと対応できる。

 そんな万全の体制で臨んだのだけど、最後に1つ問題が残ってしまった。

 あの誘拐犯、グレネード22発分の爆発に巻き込まれて尚、生き残ったらしい。

 ISの生みの親としては、絶対防御の性能を喜ぶべきなのかもしれないけど、今回ばかりは死んでくれていた方が都合が良かった。

 何せ今IBISに止めを刺させれば、確実に“何かがいた”証拠として残ってしまう。

 あんな小物1匹の為に、“もう1機ISがいた証拠”を残すなんてリスクは犯せなかった。

 なので仕方なく抹殺を諦めたところに、ジャック君から通信が入った。

 

 ―――救出目標は、どのように扱うのか?

 

「そうだねぇ・・・・・」

 

 1人呟き考えていると、また通信が入った。

 今度は泥棒猫(更識)からだ。

 

『―――珍しいね。私に直接なんて』

『ええ、私も連絡なんてしたくなかったわ。でも、貴女以外には分からない事だと思うから』

『へぇ、何かな?』

『郊外の廃工場で何かあったようだけど、知っている事は無い?』

『さぁ? 何があったの?』

 

 この時少しばかり口元がニヤついてしまったのは、仕方の無い事だと思う。

 だってそうでしょう?

 困っている泥棒猫(更識)を見れるんですもの。

 

『IS級のエネルギー反応が2つ』

『学園に登録してある機体は調べたの? 後、日本で緊急発進(スクランブル)がかかっている機体は?』

『その程度を調べもせずに連絡すると、本当に思っているの? 全部白よ。だから貴女に連絡したの』

『ふぅ~ん。知らないなぁ。あ、そういえば――――――』

 

 私は口元の笑みを、抑えられなくなった。

 

『――――――1年1組の副担任、何て言ったっけ? 山田真耶だっけ? 彼女って今どうしてるの?』

『珍しいわね。貴女が他人を気にするなんて』

『そう? 彼のクラスの副担任だからね。どんな人間かは多少気にかけてるよ』

『この時間だし、ぐっすり寝てるんじゃないの? 最近忙しいみたいだし』

『そうなんだ。でも、そっちもこんな時間まで仕事とは大変だね。早く寝た方が良いんじゃない』

 

 勿論、寝れる訳が無いんだけどね。

 何て言ったって、面倒な後始末をして貰うんだから。

 

『言われなくても寝るわよ。貴女と違って人を使えるんだから』

『そんな事無いわよ。さっきもちょっと連絡があってね』

『連絡?』

『うん。貴女と同じような用件で連絡してきたんだけどね。その人、緑色のショートカットの女性を、廃工場の近くで発見したんだって。あ、後は黄色いパジャマを着てたって。誰だろうね? 映像までは送ってこなかったから分からないけど』

 

 ギリッ!!

 モニターに映る泥棒猫の表情は変わらなかったけど、小さくそんな音が聞こえた。

 

『へぇ~、IS級のエネルギー反応があった場所に? 何か関係があるかもしれないわね。その人は確保してあるの?』

『してるみたいだけど、お仕事の関係上、顔は晒したくないんだって』

『なら何処か安全な場所に、その人を置いておいて頂戴。こちらから回収に行くわ』

『いいよ。場所は追って連絡するね。っとそうだ。その人から伝言が1つあったんだ』

『何かしら?』

 

 ここで私は一呼吸置き、とてもイイ笑顔で言ってやった。

 

『「遅かったな」だって。何を言いたいのかは分からないけど、言えば分かるって言ってたよ。何か心当たりがあるのかな?』

『・・・・・さぁ? こちらに向けた言葉なら、貴女が知る必要は無いでしょう』

『それもそうだね。じゃぁ、お休み』

 

 その後、山田真耶は無事に保護されたが、この一件は更識家によって、徹底的な情報隠蔽が行われた。

 まず本人は薬品で眠らされており、誘拐された記憶そのものが無い為、そのまま自宅のベッドに戻された。

 翌日、少々首が痛くて寝巻きの襟元が汚れていたと言っていたが、本人に分かるのはその程度である。

 次に廃工場での戦闘は、不審火が不法投棄されていた爆発物に引火した、という事で片付けられた。

 幸い死傷者が0であったのと、“偶然”起きた有名人のスキャンダルが話題になった為、世間の目はそちらに釘付けとなった。

 だから一般人は、廃工場の一件などすぐに忘れてしまった。

 が、この頃から裏社会に1つの噂が流れ始めた。

 

 ―――IS持ちの傭兵がいる、と。

 

 

 

 第43話に続く

 

 

 


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