インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
「ねぇ、ショウ。これなんてどうかな?」
「晶さん。これはどうかしら?」
シャルとセシリアが、水着を持って来ては俺の前で合わせて聞いてくる。
正直元が良いから何を着ても似合うと思うのだが、彼女達の楽しそうな顔を見ていたら、とてもじゃないがそんな事は言えなかった。
というか、言いたく無かった。
だってこんな楽しそうに聞いてくれるんだ。
ちゃんと答えないと失礼だし、俺自身も楽しまないと損だろう。
そんな事を思っていると、マイクを持った見知らぬ女性がこちらに近付いてきた。
「すみません。少し宜しいでしょうか?」
歳の頃は恐らく二十歳過ぎ。容姿は中の上くらい。
細いフレームの眼鏡と軽くウェーブのかかったロングヘアー、そして人の良さそうな笑顔が印象的だが、初対面の人間はまず疑ってかかるのが基本だ。
しかしそれを表に出すのは、上手い方法じゃない。
世の中、何処で何が役立つか分からないから、とりあえず友好的な関係を結べるなら、結んでおくべきだろう。
敵対するのはいつでも出来るからな。
なのでとりあえず笑顔で応じつつ、万一襲撃者だった場合に備えて、すぐに動けるように自然体で向き直った。
「何ですか?」
「私、インフィニット・ストライプスで記事を書いている
この切り出しは、
妹からの情報では、この薙原という男、とにかくガードが固い。
だからまずは本人を狙わずに、周囲から攻略する。
特にこの2人は、ほぼ常に薙原の左右を固めている程、ピッタリくっ付いているらしい。
なら確実に、例え束博士がいると分かっていても、“淡い恋心”的なものは持っているはずだ。
いや持っているに違いない。
「か、彼女だなんて。そんな事は、ねぇ」
「そ、そうですわ。ええ。そんなんじゃありませんわ」
言葉では否定していても、2人とも明らかに歯切れが悪い。
気のせいか、少し頬も赤い。
こいつまさか、外堀から埋めていく気か?
「あら、あんな楽しそうな顔を見せられる相手なんて、彼氏以外にはいないでしょう? 遠くからでも、凄く良い顔をしてたのが分かったわよ」
「まさか。そんな、ねぇ」
「え、ええ。違いますわ」
シャルとセシリアが互いをチラリチラリと見る。
この流れ、拙いな。
しかもこの女、自分は名乗ったがこっちの名前を聞いてこない。
つまり後から、「本人だとは思いませんでした」って言い訳が通じるようにしてある。
やるな。
対してこちらはどうすれば良いだろうか? どうすればこの流れを止められるだろうか?
暴力的な事なら幾らでもやりようは有るんだが・・・・・。
そうやって俺が悩んでいる間に、なし崩し的に取材が始まってしまった。
「それではまず――――――そうですね。オススメの水着なんてものはありますか? 御二人ともスタイルが凄く良いので、何を着ても栄えると思うのですが、コレと言ったものがあれば是非」
「そうですわね。私はこれですわ」
そう言ってセシリアが選んだのは、青いビキニに同色のパレオがついたもの。
所謂原作で着ていたやつだが、さっき「一番似合ってる」と褒めたやつでもある。
「良いデザインですね。貴女の金髪によく映えそうです」
「そう言って貰えると嬉しいですわ」
ああ、拙い。
何だか外堀が徐々に埋められている気がしてならないが、ここで話をぶった切るのも・・・・・そうやって悩む間に、今度はシャルが答えた。
「僕はこれかな」
選ばれたのは、橙色を基調として黒いラインが入ったビキニ。
こちらも原作で着ていたものだが、やっぱりさっき「活動的なイメージが良いね」と褒めたやつだ。
「御二人ともセンスが良いですね。それとも、彼氏の趣味ですか?」
話の流れを切るならここか。
そう思い行動を起こそうとした時、先に2人が動いた。
「サービスはここまで。インフィニット・ストライプスでISについて書いている人が、僕達を知らないなんて無いですよね? 面白い記事が多いので、よく読んでいるんですよ」
「ええ、そうですわ。そして彼が彼氏というのは魅力的なお話ですが、祭り上げられるのはお断りです」
こいつら。
初めから気付いていて?
「・・・・・あっちゃぁ。演技だなんて人が悪い」
「お互い様です。本当なら色々と罰則ものですよ」
「本当なら、という事は見逃してくれるんですか? フランス代表候補生、シャルロット・デュノアさん」
「今はプライベートなので、面倒事が嫌なだけです。勿論今日取材した事は、全て破棄するのが条件ですよ」
「あら、貴女への取材は許可されていたはずですが?」
「目的が透けて見えますよ」
「さぁ、何の事でしょうか? 私には極普通の一般人と一緒にいるようにしか見えませんが」
シャルと渚子との間で火花が散った時、セシリアが割って入った。
「一緒にいるのが極普通の一般人と、今確かにそう仰いましたわね?」
「ええ、そうですが何か?」
「ならいいではありませんかシャルロットさん。ここに居るのは、何処かの誰かに似た一般人。そして日本の報道関係の方々は、とても礼儀正しいと聞きます。一般人に何の配慮も無く取材なんて致しませんわよね?」
セシリアがニッコリと微笑む。
見ている分には、まさしく淑女の振る舞いだ。
が、言葉の中味を意訳すると、
「配慮しなかったらどうなるか分かってますよね?」
という脅しと大差無い。
そしてその意味は、相手も正しく受け取ったようだ。
顔が少し引きつっている。
「も、勿論じゃないですか。記事を書く時は、相手の同意を得るのが原則ですから」
「そうですわよね。――――――あら、もうこんな時間。そろそろ一夏さん達と合流しませんか?」
極々自然な動作で時計を見たセシリアはこちらに振り向き、そんな事を言った。
「だな。向こうもそろそろ終わってるだろうし」
「そうだね」
俺もシャルも、断る理由なんてある訳が無い。
こうして取材から無事(?)逃れた俺達だったが、こんなものは序の口に過ぎなかった。
――――――5分後
「シャルロットさん。コメントを1つ頂けませんか? 隣の彼を連れて実家に行くという話もありますが?」
――――――8分後
「鈴さん、お隣の彼とはどういう仲で?」
――――――12分後
「ラウラさん。他の専用機持ちについて一言。あとスクール水着について」
――――――20分後
「セシリアさん。本国でパーティが予定されているみたいですが、エスコート役はお隣にいる人ですか?」
――――――22分後
「箒さん。お隣の彼と腕を組んで写真を一枚」
等々。
行く先々でマイクを向けられ、断っている間に次の奴が現れ、逃げても人海戦術で先回りされ、最早買い物どころでは無くなってしまった。
なので俺は、少々本気で逃げる事にした。
と言っても、ISを使う訳じゃない。
せっかく全員いるんだから、皆で楽しく遊びながらさ。
―――コアネットワーク接続
(みんな、聞こえてるか?)
全員が俺の方を見て、小さく頷く。
(単刀直入に言おう。マスコミ共が邪魔だから撒くぞ)
(どうやってだ? 如何に素人とは言え、この人数を撒くのは流石に骨だぞ)
聞き返してきたのは、周囲を見渡していたラウラだ。
確かに現状、俺達は囲まれている。
今は辛うじて身を隠せているが、それもいつまで持つか分からない。
(勿論、由緒正しく古典的な方法でさ)
(古典的? ・・・・・なるほど、まさかこんなところでスパイの真似事とはな)
流石軍人。
俺の考えが分かったらしい。
(私は賛成だ。こういう遊びも悪くは無い)
(ちょっとラウラさん。1人だけ分かってないで、説明して下さいませんこと)
(なに、ここにいるメンバーで服を交換して、イメージチェンジするだけだ。人間の思い込みというのは、意外な盲点を生むからな。―――尤も、制服の私は完全に新調だがな)
(なら鈴さんも買わないといけませんわね。体格の合う相手がいませんのも)
(微妙に腹立つ言い方だけど、アタシは別に良いよ。そろそろ新しいの買おうと思ってたし)
(事実を述べただけですわ。他意はありませんことよ)
(本当?)
(勿論ですわ)
(決まりだな。なら早速始めようじゃないか。幸いすぐそこに個人営業の店もある。買う時は“懇切丁寧に”事情を説明してご協力願おう)
ああ、何だか面白くなってきた。
口元がにやけてしまう。
すると鈴が、
(うわっ。黒い笑みが出てる)
(失礼な。遊ぶ時は楽しく遊ぼうってだけだ)
(そういう事にしといてあげる。でも確かに面白そうね。変装してマスコミ共をやり過ごしつつ、買い物も楽しむなんてスリリングじゃない)
(だろう?)
(何だかスパイ映画みたいだな)
一夏がポロッと言った言葉に、シャルが悪乗りしてきた。
(なら作戦名とか決めてみようか?)
(“007奇跡の脱出”とか?)
(ボンドガールは自分かな? セシリア)
(それも良いんですけど、ここにいるのは7人でしょう。丁度良くコードネームが付けられるじゃないですか)
(なるほど。それっぽくて良いね。じゃぁコードネームはどうしようか?)
こうして悪乗りを始めた俺達は、勢いそのままに突っ走り始めたのだった――――――。
◇
その一時間後、『レゾナンス』のとある場所にいる、とある女の子2人の会話。
「今日専用機持ちが買い物に来てるって話だったけど、いないね」
「デマだったのかな?」
「何かマスコミの人が沢山いたから、隠れちゃったのかな?」
「残念。一目見たかったなぁ・・・・・」
そんな呟きをショートカットの子が漏らした時、目の前を外国人の2人組みが通り過ぎて行った。
「・・・・・うわ、凄い綺麗」
「うん。綺麗だった。でもあれ、男だよね?」
「男であれって、反則じゃない?」
「だよね」
通り過ぎたうちの片方は金髪の青年。
白いスラックスにジャケット、そして白いシャツというシンプルで飾り気の無い格好だが、上流階級を思わせる洗練された物腰が、否応無く“王子様”や“貴公子”といった言葉を連想させる。
もう片方は銀髪の“少年”。いや、正しくは青年に成り掛けの少年。
灰色のハーフパンツとスプライトのTシャツに、白いパーカーを羽織り、野球帽を被っている。
ただ左目付近を怪我しているのか包帯で覆われていて、時折ギュッと“貴公子”の手を握る様が、どうしようもなく他人の保護欲を掻き立てていた。
更に首筋から見える白く綺麗なうなじ。
そして“貴公子”が“少年”を気遣う姿は、BL大好きな腐女子連中にはクリティカルヒットだった。
「ああ。いいなぁアレ。アレで2人っきりになったりしたら――――――」
「確かに。あ、でもあっちも良くない?」
「どこどこ?」
「ほら、あそこ」
指差された場所にいたのは、2人の女性に1人の男。
3人のうち一番右端にいたのは、豊かな金髪をアップにしてサングラスを掛けた女性。
イギリスの国旗がプリントされたTシャツに青いジーンズ。そして蒼いイヤリングとネックレスというシンプルな格好だが、均整の取れたスタイルと綺麗な歩き方はモデルそのもの。
真ん中にいる男は黒髪をオールバックにまとめ、同色の眼鏡とジーンズ。NEXTとプリントされたTシャツに、羽織っているのは赤と白のラインが入ったネルシャツ。
一番左端にいるのは、サラサラとした長い茶色の髪を全て後ろに流した小柄な女性。
赤いミニスカートに茶色のパーカーという活動的な姿が良く似合っている。
そして楽器店の前で何やら話しているところを見ると、バンドを組んでいるのか、それともこれから始める予定なのか、そんな印象を容易く他人に抱かせた。
「あんなバンドだったら、行ってみるのも良いよね」
「追っかけになる?」
「それは歌を聴いてからじゃないと。でもビジュアルは合格点かな」
「そうだね。あ、あれは・・・・・」
「どうしたの?」
「いや、レベルは高いんだけど、初々しいなぁって」
「どこ?」
「あそこ」
今度指差された場所にはいたのは、おっかなびっくり恥ずかしながら手を繋いで歩いている男女。
女性の方は長い黒髪をサイドテールにし、青いジーンズスカートにノースリーブの白いブラウスといった出で立ち。
化粧は殆どしていなくて、“初デートなので頑張ってリップを付けてみました”という程度の、今時珍しい純情っぽい子だ。
男の方も似たようなもので、“初デートなので緊張しています”というのが丸分かりな、初々しい感じだ。
だが元が良いのか、無個性なはずの黒縁眼鏡が、妙に落ち着いた雰囲気をかもし出していた。
そして服装の方も、黒いスラックスに同色のジャケット。そして白いYシャツという、単純故に素材が問われるものを自然と着こなしているあたり、センスは悪く無い。むしろ高レベル。
「私もああいう彼氏が欲しいなぁ・・・・・」
「ムリムリ、今の彼氏で満足しときなさい」
「分かってるけど、偶には夢を見たいじゃない。命懸けで自分を護ってくれる白馬の王子様みたいな」
「IS学園には、実際にそれをやった男が2人いるからねぇ。そういう意味じゃ羨ましいかな」
「いいなぁ」
そんな事を呟きながら、セミロングの子は持っていた雑誌、インフィニット・ストライプスを開いた。
今週発売されたばかりの物で、表紙にデカデカと、『特集!! IS学園の専用機持ち達』と書かれている。
中でも最もページを割かれているのが、織斑一夏と薙原晶。
この2人の扱いは別格だった。
何せ片や初代“ブリュンヒルデ”の弟にして、NEXTの直弟子。
その才能は姉譲りで、
更に言えば、IS学園で行われていたクラス対抗戦。
その時に現れた謎の襲撃者から、他の学生達を命懸けで守り通した若武者。
あの瞬間の映像が公開された時の反響たるや、凄まじいものがあった。
そして片や、ISの生みの親たる篠ノ之束博士自らが、
詳しい情報は公開されていないが、クラス対抗戦で専用機持ち達が苦戦していた謎の襲撃者を瞬殺した事からも、隔絶した戦闘能力を持っているのは間違い無い。
又、フランスで発生した
そういう実績からNEXTの評価は内外で非常に高く、特にフランスでは「是非とも一度我が国に」という声が強まっているらしい。
「・・・・・でもこうして見ると、2人とも雲の上って感じ。正直彼氏になったりしたら、持て余しちゃいそう」
「だから言ったでしょ。今の彼氏で満足しとけって」
「うん。そうするわ」
「じゃぁそろそろ帰る? 専用機持ちも見れなさそうだし」
「だね。帰ろうか」
こうして一般人2人は、目の前を本人達が通っていた事に気付かず、帰ってしまうのだった。
◇
(――――――
ちょっと普段とは雰囲気の違うセシリアや鈴と一緒に歩きながら、俺はコアネットワークに接続。
全員にそんなメッセージを送った。
(こちら
(
(喜んで貰えたようで何よりだ)
(
(ジェームズ・ボンドの気分は味わえたかな?)
(本当にその気分を味わってたら大変だよ)
(それもそうだな。休日はのんびりと過ごすのが一番だ)
その時、遠くからサイレンが聞こえてきた。
何だ? 火事か? 事故か?
耳を澄ませてみれば、幾つかの音が重なっている。
1台や2台じゃない。もっと多い。
(
(
誰も“偶々”だなんて信じてはいないだろうが、世の中建前ってのは大事なんだ。
(それは丁度良かった。で、何て言ってた?)
(街の中央区画にある高層ビルで出火。火の勢いが強くて、随分苦戦しているらしい)
すると一夏が、即座に提案してきた。
(なぁ、助けにいかないか。緊急時のIS使用は認められているし、人助けだ。躊躇う理由なんて無いだろう?)
(反対する訳じゃないが、1つ全員に確認しておきたい)
俺は一度言葉を区切り、全員の意識を引き付けてから言葉を続けた。
(専用ISの7機同時展開での救出ミッションだ。1人でも死者を出したら、世間は俺達の失敗とみなすだろう。俺はいいさ。束さえ無事なら、他の評価なんてどうだって良い。だが他の人間は違うな? 万一失敗したら、数千人の人間を路頭に迷わせる。それでもやるか?)
(今更だよ、ショウ。君と一夏が行くのに引いたりしたら、それこそ笑い話だ。ね、みんな)
シャルが真っ先に参加表明。
残りの面子からも、誰一人拒否する者はいなかった。
(――――――分かった。じゃぁ、行くか!!)
こうして決断を下した俺達は、買い物を中断。
専用ISが7機同時展開するという、豪華な救出ミッションへと臨むのだった。
―――みんなで変装!!―――
XINN様より頂きました。感謝です!!
なお送ってくれた方も服装が少々違うのは分かっていて、
それでも雰囲気を楽しんでくれれば、という事で下さいました。
―――みんなで変装!!―――
第45話に続く