インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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今回は前回の後始末&ストロベリーな回です。
読まれる方は、口直し用のブラックコーヒーの準備をお勧めします。


第56話 奇妙な関係?

 

 夏休みのIS学園。

 降り注ぐ陽光が緑を色鮮やかに輝かせ、生徒達が思い思いの休みを満喫している中、薙原は生徒会長室を訪れていた。

 

「――――――それで、何の用かしら?」

 

 入るなり机で仕事をしていた楯無の、ジロッとした視線が突き刺さる。

 誰がどう見ても不機嫌だが、ここで引いてしまっては来た意味が無くなってしまう。

 

デュノア社の一件(第55話)は見事だった。だが、シャルロットの事について話がある」

「そう? どんな話かしら?」

 

 手元の書類に視線を落としながらのそっけない返事。

 だが晶は構わず、机の前まで近付いてから喋り始めた。

 

「――――――信じられないかもしれないが、俺は一度墜とされかけた事があってな。シャルロットにはその時に助けて貰った。命の恩人なんだよ」

「え?」

 

 想像すらしていなかった言葉に、楯無の顔が上がる。

 誰が信じられよう。

 専用機6機を相手にして一発の被弾も許さない男が、最強の単体戦力(NEXT)が墜とされかけた? どんな冗談だそれは?

 

「そんな見え透いた嘘をついて。出来の悪い嘘は、自分の首を絞めるわよ」

「いいや。本当さ。詳細は話せないが、シャルがいなければ俺は間違いなく死んでいた。そんな命の恩人が害されかけたんだ。だから怒った」

 

 しかし返ってきた言葉も、表情も、真剣そのもの。冗談だと笑い飛ばせるような雰囲気では無かった。

 

「本当?」

「ああ。幻滅したか?」

「そんな事無いけど。信じられない」

 

 無理も無い話だった。

 楯無は立場上、一般公開されているよりも多少詳しくNEXTのスペックデータを知っているが、知っているだけに信じられない話だった。

 

「学園に来てからの俺しか知らなければ、そうだろうな。でも本当なんだ」

「それは・・・・・・悪い事をしたわね。そういう人、他にはいない?」

 

 何とも言えない気まずさが楯無を襲う。

 告白した相手の、命の恩人を害したのだ。

 知らなかったでは済まされない。

 

「俺の周囲で何かする気なら、せめて一言言って欲しい」

「分かったわ。今回は、ごめんなさい」

「いや、こっちも悪かった。俺へのハニートラップなんて真っ先に考えられるんだから、警護してるお前と、対応を相談しておくべきだった。俺の怠慢だよ」

 

 互いの視線が合わさること数秒。

 訪れる微妙な沈黙。

 それを破ったのは晶だった。

 

「――――――その、なんだ。今回こういう事があったが、お前とは仲良くやっていきたいと思ってる。受け入れてくれるか?」

 

 差し出される右手。

 椅子から立ち上がり、手を取る楯無。

 

「ええ。今回は、お互いの間に問題点が見つかって良かった。そう考えましょう」

「そうだな。問題があるなら改善すれば良い」

 

 こうして楯無の機嫌は直ったのだが、直ったら直ったで、今度はシャルロットへの対抗心がムクムクと湧き上がってきた。

 何せ晶の対応を見ていれば、どれだけ彼女を大事にしているのかが良く分かる。

 告白した身としては、自分もそう扱って欲しいと思うのは自然な事だろう。

 

「ところで、1つ聞いてもいいかしら?」

「何だ?」

「例え契約が無くなったとしても、私が同じような目にあったら助けてくれる?」

「勿論だ。だから―――――――――」

 

 晶は少し言い淀むが、意を決して続く言葉を口にした。

 

「だから、もう少し束と仲良くしてくれると嬉しい」

 

 喜んだのも束の間。続いた言葉に楯無の機嫌が垂直降下を始める。

 

「へぇ、あの引きこもり兎と?」

「あ、ああ。俺としては会う度に喧嘩しないで、もう少し仲良くしてくれると嬉しいんだが・・・・・・」

「ふぅ~ん。そうねぇ」

 

 泥棒猫(楯無)の思考が高速回転を始める。

 これは、堂々と奪う良いチャンスかもしれない。

 ニヤリとした笑みが晶の後悔を誘うが、時既に遅し。

 

「そういえば、今って夏よね。海で泳いだら気持ち良いでしょうね。ところで泳げる?」

「勿論だ」

「それは良かったわ。じゃぁ――――――」

 

 懐から携帯が取り出され、秘書という立場上、どうしても知る必要があった束の番号がコールされる。

 (無論、今まで一回も使用された事は無いが)

 

『――――――何、泥棒猫』

『ちょっとこれから晶と海に行ってくるから、家から出ないでね』

 

 プチッ。

 言いたい事を一方的に言って通話OFF。

 誰が何をどう考えても喧嘩売ってる台詞だった。

 直後、晶の携帯からコール音。取ると、

 

『ちょっと晶!! 今のアレなに!?』

 

 相当ご立腹だった。

 

『いや、俺もなにがなん――――――』

 

 最後まで喋る前に、楯無に携帯を奪い取られた。

 

『本当なら2人っきりで行きたいところだけど、晶が仲良くして欲しいって言うから、“仕方なく”貴女も連れていってあげようと思って』

『そう言うわりには、いきなり電話切ったね』

『だって貴女なら途中で電話切りそうだもの。だから先に切って、掛け直させたの。それなら話も聞くでしょう。違う?』

『いちいちやり口が気に食わないね』

『腹立てて来ないなら、それでも良いわよ。むしろ来ないで、2人でゆっくり楽しむから。でも私は優しいから、一度晶を家に帰らせてあげる。行くかどうかは、その時までに決めなさい。待ち合わせ場所は後でメールするから』

 

 そしてまた、返事も聞かずに通話OFF。

 

「お、おい。楯無?」

「私達はね、コレくらいが丁度良いのよ」

「いや、そういう事じゃなくてな・・・・・・」

「大丈夫。私達なりに仲良くやるわ。私達なりにね。それよりも男なんだから、上手く纏めるくらいの甲斐性は見せてよね」

 

 突然の超々高難度ミッションにたじろぐ晶を他所に、楯無は更に話を進めていく。

 

「行き先は・・・・・・・・・そうね。小笠原諸島あたりが良いかしら? あそこなら無人島も沢山あるし」

「お、おい?」

「足はどうとでもなるし、キャンプ用品は確か家にあったわね。後は――――――」

 

 数瞬考え込んだ彼女は、懐から再度携帯を取り出し自宅をコール。

 

『――――――あ、もしもし私。キャンプ用品一式持ってきてくれないかしら。時間? 勿論、最速でよ』

 

 こうしてあっという間に準備が進められていく中、仕方なく自宅に戻った晶を待っていたのは――――――。

 

「・・・・・・・・・で、どういう事か説明してくれる?」

 

 青筋を浮かべた恋人()だった。

 

「い、いや。どうもこうも―――――――――」

 

 迫力に圧倒されながら、事情を説明する晶。

 その甲斐あって、どうにか30分程で台風は収まってくれた。

 

「ふぅん。晶は、私に、あの泥棒猫と仲良くして欲しいんだ」

「あ、ああ。俺としては会う度に喧嘩しないで、もう少し仲良くしてくれると嬉しいんだが・・・・・・」

「ふぅ~ん。そうねぇ」

 

 先程と全く同じやりとり。

 そして引きこもり兎()が辿った思考も、泥棒猫(楯無)と同じようなものだった。

 

(・・・・・・これは、どっちが一番かを思い知らせる良いチャンスね)

 

 ニヤリとした笑みが晶の後悔を誘うが、やはり時既に遅し。

 

「良いわよ。仲良くして欲しいっていうならしてあげる。私達なりにね」

 

 見惚れずにはいられない程の、満面の笑み。だが逆にそれが、更なる不安を煽る。

 

「あ、ああ。頼むよ」

「それじゃぁ準備してくるから、ちょっと待っててね」

 

 こうして晶は成り行きで、両手に華で海という、男なら誰しも羨むデートに突入する事となった。

 だがその実態は、選択肢を1つ間違えばバッドエンド直行という死亡フラグ回避ゲーム。

 嫌な予感がしてならなかった当人は、しばらくの間どうやって上手くやるかを、強化人間の演算能力を最大限活用して考えていたのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そして出発前、いきなり問題が発生した。

 切っ掛けは、篠ノ之束と更識楯無の服装。

 今更言うまでも無い事だが、2人とも美人でスタイル抜群。性格は少々尖っているが、あの程度は男として許容範囲内。なので2人がどんな服装をしていようが、2人とも上手く褒めて平穏無事に乗り切れると晶は思っていた。

 後になって思えば甘過ぎる事この上ないほど甘い見通しだが、何故か本人はそう思っていた。

 が、そんな目論見はいきなり木っ端微塵に粉砕されたあげく、世の男どもの嫉妬(?)が形となったのか、突発的無理ゲーイベントが発動。

 なんと、篠ノ之束と更識楯無の服装が全く同じだったのだ。

 白を基調としたデザインのサマードレスと両手首のシルバーブレスレット。履いているミュールも同じ。

 着ている本人の魅力が最大限に生かされるシンプルなファッション。

 2人とも良く似合っているのだが、元々仲の良くない2人が全く同じ服装で、惚れた男の前に立てばどうなるだろうか?

 考えるまでも無く、互いの視線が合わさった瞬間、バチッと火花が散り始めていた。

 

(ちょっ・・・・・・勘弁してくれ)

 

 世の男の99.9%には無視されるような内心の悲鳴を他所に、兎と猫のバトルがスタートする。

 

「へぇ、この私と同じ服装って事は中身で勝負する気? ふふん、この天才と張り合おうっていうのかい?」

「引きこもりの分際で何言ってるのよ。貴女なんて晶がいなかったら、ただの社会不適合者じゃない」

「天才が凡人に合わせる必要は無いよ。大体、私の男をなに呼び捨てにしてるのさ」

「あら、それは貴女が決める事じゃないわ。本人が嫌がってないんだもの。別に良いじゃない」

 

 いつもなら、ここでムキになって反論する束だが、今日の彼女は一味違った。

 

「――――――それもそうか。3号さんの涙ぐましい努力だもんね。私が一々目くじらを立てる程でもないか」

 

 肩にかかる髪を優雅に払いながら、己こそがナンバー1だと揺らぎもしない。

 予想外の反応だが、この程度で狽えるような可愛い性格なら、更識は名乗れない。

 

「へぇ、そう。なら本妻公認で、晶って呼んでも言いのね」

「なっ!? 公認なんて――――――」

「たった今、『目くじらを立てる程でもない』って言ったわよね?」

「なんて可愛げの無い!!」

「だって可愛くしてたら、欲しいものは手に入らないもの」

 

 こんなやりとりを聞いていた晶のテンションは、どんどん下がっていった。

 勿論、男としては嬉しい限りだ。

 こんな美女2人に求められるなんて、幸せ以外の何ものでもないだろう。

 だが顔を合わせる度にこれでは、気の休まる暇が無い。

 

(――――――今度、シャルの所にでも行こうかな)

 

 何となく癒しが欲しくてそんな事を考えたのがいけなかったのか、晶の懐から携帯のコール音。

 誰かと思い着信者を見てみれば、シャルロット・デュノア。

 たらりと、冷や汗が頬を流れ落ちる。

 

(悪いシャル。今は出れない)

 

 そう思い無視を決定。

 携帯を懐に戻そうとした時、今まで言い争っていた2人は何かを感じたのか、ススッと近付いて来て、見事なコンビネーションで携帯を奪取。

 着信者を確認した束と楯無が、ニヤッと意地悪な笑みを浮かべ通話ボタンをON。

 晶の耳に押し当てた。

 

(うっ、嘘っ!?)

 

 この状況で、別の女からの電話に出たいと思う男がいるだろうか?

 まずいないだろう。

 しかし繋がれてしまった以上、話すしかない。

 

『ひ、久しぶりだな。どうした?』

『うん。これと言って用事がある訳じゃないんだけど、声が聞きたいなぁって思って。今、大丈夫かな?』

 

 2人を見れば、切ったらダメ、というジェスチャー。

 

『あ、ああ。大丈夫』

 

 なので話を始めると、束が右側から体をピッタリと寄せ、楯無が左腕に抱きついてきた。

 女性特有の柔らかい感触が気持ち良いが、何をされるのか分からない今、それを楽しむ余裕も無い。

 

(こいつら、さっきまで喧嘩してたよな? 何を考えてるんだ?)

 

 晶の思考を過ぎる尤もな疑問。そしてふと気付く。

 

(・・・・・・まさかこいつら、俺を困らせて楽しむ気か?)

 

 その通りだった。

 女の手が男の体を這い回り、電話に意識を集中させて貰えない。

 

『――――――どうしたの?』

『い、いや。何でもない。ちょっと物を落しただけだ』

 

 何とか取り繕う。

 しかしこういう真似をされたら、何としてでも普通に会話を続けたくなる。

 この男は(薙原晶)は、そういう男だった。

 

『そうなんだ。こっちは毎日分刻みのスケジュールとパーティに呼ばれて大変だよ。誰もかれもが僕をシンデレラと言うけど、皆が見てるのは僕じゃなくて博士と晶。2人の名前って凄いね。皆、僕みたいな小娘に頭を下げていくんだよ』

『俺はともかく、束はな。何せISを実用化した実績がある』

『確かにそうだけど、晶の話も色々出てるよ』

『俺の? どうせ碌な話じゃないだろう?』

『ううん。意外と気さくだとか、人を育てるのが上手いとか、そんな話』

『自分の事じゃないみたいだ』

『謙遜し過ぎだよ。クラスでも、純粋に晶と話したいっていう子は多いんだよ』

『それは嬉し――――――イタッ』

 

 束と楯無が、それぞれ両脇腹をギュッと抓っていた。

 

『どうしたの? 大丈夫?』

『ああ、大丈夫。紙で指を少し切っただけだ』

『気をつけてね』

『ありがとう。でも人を育てるのが上手いって、俺が面倒見たのは専用機持ちの6人だけだぞ。それだけで上手いっていうのは・・・・・・・・・・・・』

『ショウ、それこそ謙遜し過ぎ。素人だった一夏を、たった数ヶ月で最新鋭IS(銀の福音)と互角に戦えるまで鍛え上げて、尚且つ第二次形態移行(セカンド・シフト)までさせてるんだよ。これで上手くないんだったら、世界中のIS教官は下手くそって事になっちゃう』

『いや、それは本人の努力と才能があってこその話で――――――』

『強くなりたい本人が努力するのは当たり前。才能があってもそこまで行けるのはほんの一握り。本国に戻ってるセシリアやラウラが何て言ってるか知ってる?』

『嫌な予感がするが、一応聞いておこう』

『2人ともね、同じ候補生とか同僚にこう言ってるんだって。『あの人(薙原晶)の訓練はもっと厳しくて的確だった』って』

『勘弁してくれ。俺はそんなに大した事はしてない』

 

 嘘偽り無い本音だった。

 晶自身の感覚としては、どんな時でもしぶとく生き残れるように、ピンチの時に心が折れないように、日頃から劣勢とはどういうものかを叩き込んでおいただけの事。後は、本当に勝ちに来る人間は、どんな悪どい手段でも平気で使うと教えただけ。特別な事なんて何もしてない。

 

『そう思ってるのは本人だけだよ。もうこっちじゃ、束博士の護衛はトレーナーとしても優秀だって皆思ってる』

『生徒が良かっただけだと思うんだけどな』

『僕も?』

『勿論だ。というより、今の専用機持ちの連携はお前がいてこそ成り立ってる。だから俺がトレーナーとして認められているというなら、その半分はお前のお蔭だよ』

『そんな。僕なんて・・・・・・・・・・・・』

 

 掛け値無しの褒め言葉と携帯から聞こえてくる嬉しそうな声に、2人の眉が急角度に釣り上がっていく。

 晶は束と楯無のそんな表情に気付いていたが、取り消す気は無かった。

 ここで遠慮なんてしたら、これから先やっていけない。

 なのでこの男()は、そのまま突っ走る事にした。

 人間ブレーキを踏んだ方が安全と分かっていても、アクセルを踏まなければいけない事もあるのだ。

 

『そっちこそ謙遜するなよ。あれだけクセの強い5人を万遍無くフォロー出来るなんて、誰でも出来る事じゃない』

『そ、そうかな?』

『そうとも。だから周囲には気を配ってくれ。この前楯無が言っていたと思うが、専用機持ちの攻略を考えた場合、お前の優先度はかなり高い。良からぬ事を考える輩がいないとも限らない』

『心配してくれるの?』

『当たり前だ』

『当たり前か。そうなんだ。嬉しいなぁ』

 

 携帯から聞こえてくる嬉しそうな声に、抱きついている2人の機嫌が更に下降。

 ついには2人揃って両足をグリグリ踏み始めた。

 なのでそろそろ反撃する為に電話を切ろうと思った晶だったが、その矢先、シャルの爆弾発言によって切るに切れない状況へ追い込まれてしまった。

 

『ねぇショウ』

『ん?』

『僕がそっちに戻ったらさ、デートしようよ』

 

 聞き間違いようの無い直球ど真ん中の台詞に、抱きついていた束がついに口を出してきた。

 

『ちょっと凡人。2番のくせに随分積極的じゃないか』

『その声、束博士ですか? 大丈夫です。お借りするのは日中だけですから。博士の大事な時間まで奪おうだなんて思っていません。2番は2番らしく、余った時間を少しくれればそれで満足です』

『――――――わ、分かってるなら良いのよ』

 

 余りにも平然と言い返されたので、思わず認めてしまった束。

 次いで楯無。

 

『夏休み終了間際まで、予定はキッチリ入っていたはずだけど?』

『父が大分頑張ってくれていますので、多分一週間くらいは早く終わらせられるかと』

『・・・・・・・・・・どんだけ頑張ってるのよ。あの規模の会社再編なら、大分手間なはずだけど』

『本妻の影響力排除と社の再編は、父も前から考えていたみたいで、今回のを機に風通しを良くするって言ってました。なので早く戻れそうです。デートの邪魔はしないで下さいね』

この前の一件(第55話)もあるし、邪魔なんてしないわ。大体そんな事したら、小悪党みたいで格好悪いじゃない』

『本当ですか?』

『信じる信じないは、そっちの自由よ』

『じゃぁ信じておきます』

『随分簡単に言うのね』

『さっきの『小悪党みたいで格好悪い』っていうのは、多分本心でしょう? そんな姿、恋人には見せたくないですもんね』

『言うじゃない』

『私達の出会いは最悪でしたけど、デュノア社の一件を見ていて少し考えを変えました。貴女は貴女の考えがあって動いている。そしてショウへの想いも本物だと思う。でなければ、あんなに綺麗な形でデュノア社を僕に渡したりはしなかったはずだ』

『・・・・・・・・・・年下にそう言われるのって、結構恥ずかしいんだけど』

『この前のささやかなお返しだと思って下さい』

『・・・・・まぁ、頑張りなさい。切るわよ』

『はい』

 

 毒気を抜かれてしまった楯無は、携帯を晶の懐に戻す。

 何故か束がニヤニヤしていた。

 

「猫さんは意外と純情なんだ」

「なっ!? 違うわよ!! そうした方がメリットがあったからそうしただけよ」

「ふぅ~ん。そうなんだ」

 

 これっぽっっっっちも信じていない返事に、楯無の頬がカッと赤くなる。

 そこへ晶が追撃。

 

「今までのお前も良いが、そういうお前も良いな」

「なっ、何言ってるのよ!! 大体、私がそんな・・・・・・・・・・」

「他人に見せる必要は無い。俺の前だけ――――――イデッ!!!!」

 

 極々自然に出てきた口説き文句に、本妻()のヒールが晶の足にめり込んだ。

 

「痛い。痛いって!!」

「私の前で泥棒猫を口説くって、どういうつもり?」

「いや、そんなつもりは――――――」

「私がそう聞こえたからそうなの。口説くなら私が先じゃなきゃダメ。良い?」

「わ、分かったから。痛いって」

「本当に分かってくれた?」

「本当だって!!」

 

 こうして遊びに行く前から前途多難な晶だったが、遊びに行ってからはもっと苦労する羽目になった。

 何せお互い罵りあい悪口を言い合い、仲良しの『な』の字も見えない2人が、ふとした拍子に酷く息のあったコンビネーションで迫ってくるのだ。

 惚れた弱みもあったが、こんな天才2人の口撃を凌げるような話術を持ち合わせているはずもなく、晶は終始タジタジだったという。

 もっともその分のお返しは夜にしたらしいが、詳しい事を知るのは当人達のみであった――――――。

 

 

 

 第57話へ続く

 

 

 


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