インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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第06話 ひと時の休息

 

 あれから、戦闘でボロボロになった俺(=薙原晶)が原作ヒロインの1人、シャルロット・デュノアの家に運び込まれてから3日。

 不調を訴えていた身体も大分回復し、ネクストISの方も順調に自己再生が進んでいる。

 恐らく今日の夜中。どんなに遅くても明日の朝には完全に回復するだろう。

 そうなれば、ここにいる理由はもう無い。

 彼女に礼の一言でも言って、出て行けば良いだろう。

 雲に隠れた薄暗い月の光で、未だ振り続ける雨を窓辺で眺めながら、俺がそんな事を考えていると、

 

「ただいま」

 

 と、シャルロットが帰ってきた。

 手には、外出する時には持っていなかった紙袋がある。

 

「おかえり。雨の中ご苦労様」

「ホントにだよ。何もこんな雨の中で、合同演習なんてしなくても良いのにさ」

 

 差していた傘を傘立てに入れ、肩についた僅かな雨を払い入ってくるシャルロット。

 彼女が外出していた理由。

 それは父の会社からの呼び出しだったらしい。

 何でも、フランス軍の演習に呼び出されたらしかった。

 時期的に見て、俺自身の事を無関係と思うのは余りにも楽観的過ぎる。

 となれば明確な目的があると考えるのが妥当だろう。

 理由は幾つか考えられるが・・・・その予想はシャルロットの言葉によって修正に迫られた。

 

「でも今回の演習は凄かったな。フランス、イギリス、ドイツの3国合同演習。遠くからチラッとしか見えなかったけど、イギリスとドイツの第三世代機の姿もあったな」

 

 驚きの表情が出そうになるのを辛うじて抑える。

 ちょっと待て。イギリスとドイツの第三世代機って事は、ブルー・ティアーズとシュヴァルツェア・レーゲンか!?

 シャルロットがIS学園に行ってないって事は原作開始前だと思うが、その段階ならトライアル中のはず。にも関わらず引っ張りだしてIS戦力を揃えただと? 最新技術の塊である第三世代機を合同軍事演習の場で晒しただと?

 内心で流れる冷や汗。

 これは・・・・・想像以上にマズイ事になっている気がする。

 楽観的に見るのは簡単だが、自分の命がかかっている以上そんな事は出来ない。

 

「ところで今回随分急な話だったみたいだけど、色々と大変じゃなかった?」

「本当、大変だったよ。軍事演習自体は元々予定されていたみたいだけど、どういう訳か最高司令部が計画を前倒しするって言い出したみたいで。本当、何を考えてるんだろうね?」

 

 これは・・・・・絶対ヤバイ。最高司令部が動いているってどういう事だよ。

 あの戦闘は、そんなに軍を刺激してしまったか?

 

「お、お偉いさんってのは何時でも気まぐれだからな。ところで、合同演習って何機くらい出てたんだ?」

 

 内心の動揺を表に出さないよう答えながら会話を続ける。

 今は、少しでも情報が欲しい。

 

「ん~、1、2・・・・・確認できただけで11機かな。フランス、ドイツ、イギリスの正規軍から2機ずつに、企業傘下の機体が3機。それに空母とその護衛艦を含む通常戦力」

 

 まて、ちょっと待て。何だその大戦力での演習は!?

 確か原作じゃドイツ国内のIS総数は10機だから、単純計算すれば、一国のほぼ総戦力に匹敵する戦力が演習に投入されている事になる。それに空母とその護衛艦を含む通常戦力も投入しているだと? 単純な打撃力だけで見ればIS部隊に及ばないそれらが投入された理由・・・・・IS部隊では出来ない事・・・・・対電子戦や索敵能力か?

 

「は、はは。それはまた何とも豪勢な演習だな。でもそこまでしたって事は、大規模戦闘を念頭においた演習だろう? 欧州ってそんなに緊迫した情勢じゃなかったと思うが?」

「うん。でもね、つい先日フランス・イギリス・ドイツのIS部隊にスクランブルがかかっていたって話を聞いたから、多分それと無関係じゃないと思うんだ」

「まぁ・・・・・無関係じゃないだろうな」

 

 しばしの沈黙。

 そして彼女が口を開く。

 

「その傷って、IS戦闘で負ったんだよね?」

「そうだ」

「戦ったのって何処だったの?」

「戦闘情報に関する事は喋れない」

「なら、これは僕の独り言。――――――詳しい事は分からないけど、つい先日、北海で所属不明の未確認機が、恐らくISと思われるものの戦闘が確認されているんだ」

「それで?」

 

 何が目的だろうか?

 言葉少なく先を促す。

 

「でもその日各国の、少なくとも欧州で出撃したISは無かった。どこかの国が嘘をついている可能性もあるけど、IS部隊の動向は各国目を光らせているから、嘘ならすぐに分かると思う」

「まぁ、当然だな。相手のだした情報を鵜呑みに出来るなら、諜報機関なんていらないしな」

「うん。そして君も知っていると思うけど、ISコアの総数は決まっている」

 

 俺が沈黙を守っていると、彼女は話を続けた。

 

「だから、仮にその戦闘でISが撃墜されたとするなら、数が合わなくなる。それが軍部を焦らせた。製造出来ないはずのISコアの製造に成功した組織があると。そして、それはそのまま軍事バランスの崩壊を意味するから。今回の演習は、その組織に対する牽制と、焦りの裏返し」

 

 ここで俺は言葉を挟んだ。

 

「悪くない考えだが、そう考えた理由は?」

「君が、それを聞くかな? 傷だらけの姿で現れた、表に出ていない男のIS操縦者。姿は見ていないけど、“NEXT”と名付けられた新型。そして今回の演習。考えられる要素は幾つもあるよ」

「・・・・・仮に、それが事実だとしてどうするつもりだ?」

 

 この時、俺は最悪の選択肢をも行動予定に含めていた。

 

「何もしないよ。初めに言った通り、困っている人を助けるのに理由なんていらないじゃないか」

「理由になってないだろう!? 俺の存在が、君に迷惑をかけるかもしれないんだぞ!!」

 

 思わず声を荒げてしまう。

 が、彼女は何でもないことのように切り返してきた。

 

「自分の事しか考えられない酷い人は、そんな風に他人を気遣ったりしないよ」

「馬鹿だよ・・・・君は」

「命の恩人に対して、酷い言い方だなぁ。じゃぁ、悪い男に騙された馬鹿な女からの贈り物。何時までもISスーツしか着る物が無いのは困るでしょ」

 

 そう言って彼女は持っていた紙袋を差し出してきた。

 受け取って中身を見れば、下着と黒いGパンとジャケットに白いTシャツ。至って普通のカジュアルな服装。

 

「・・・・・すまないな。何から何まで。世話になりっぱなしだ」

「僕がやりたくてやっているんだから良いんだよ」

「それでもだよ。―――隣の部屋を使わせてもらっても良いかな? 折角買ってきてくれたんだ。着替えたい」

 

 シャルロットが快くOKを出してくれたので、早速隣の部屋で着替える。

 が、その前にナノセコンドだけ、ほんの一瞬だけネクストISのセンサーを起動。

 盗聴器の類をチェックしておく。

 彼女を信用していない訳じゃないが、自分の身を守れるのは、結局のところ自分しかいない。

 こういう事で手を抜いて、良い事なんて何一つ無いからな。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 隣の部屋で着替える彼を待っている間、シャルロットは「これで良かったのだろうか?」と自問していた。

 話している最中は全く迷っているそぶりを見せなかったが、それほど迷いが無かった訳じゃない。

 むしろ大いに迷っていた。

 状況を見れば、彼が未確認ISの操縦者である事は間違いないだろう。

 世間一般で言う“正しい判断”をするなら、すぐにしかるべき場所に連絡を取るのが正解だ。

 だけど、それをするのはどうしても躊躇われた。

 何故だろうか?

 しばらく考えてみて思う。

 恐らく、自分と同じように道具として扱われる人間を増やしたく無かったんだろう。

 何せ彼は、世界で2人目の男のIS操縦者。

 いや、実戦経験や新型を持っているのを考えれば、極東に出現した特異体よりも欲しいと思う組織は幾らでもあるだろう。

 自国フランスだって例外じゃない。

 むしろ、IS開発で隣国に遅れをとっている分、新型機は喉から手が出るほど欲しいはずだ。どんな手段を使ってでも。

 その時、大多数の利益の為に彼の意志は欠片も考慮されず、ただの道具として扱われる。

 それが嫌だったんだと、シャルロットは思った。

 自分の行動で、他者の人生を決定的に捻じ曲げる事に、“自分と同じ、道具のような人生”を与えてしまう事が耐えられなかったんだと、今更ながらに理解していた。

 つまり彼が心配なのではなくて、自分の身が可愛かっただけ。

 

「・・・・・最低だな僕は。父の事を言えないじゃないか」

 

 誰にも聞こえない程の小さな呟きが漏れる。

 丁度その時、

 

「待たせた。おかしいところは無いかな?」

 

 隣の部屋で着替えていたショウが出てきた。

 

「え? あ、うん。とても似合ってるよ」

 

 不意をつかれた問いかけだったが、答えは本心からだった。

 長過ぎず短過ぎない、クセの無いサラサラの黒髪。切れ長な黒い瞳。整った容姿。

 そして黒を基本とした服装は、自分でコーディネイトしたとは言え、ファッション雑誌の男性モデルのようだった。

 

「そうか? あんまり服装に拘ったことってなくてな。でも動きやすくて良いな」

 

 彼は腕や肩を動かしながらそんな事を言う。

 

「服を選ぶ基準は動きやすさなの?」

「勿論。ゴチャゴチャアクセサリーをつけるのは好きじゃない。大体、面倒臭くないか?」

「ゴチャゴチャアクセサリーを付けるのが好きじゃないってところは僕も同じだけど、面倒臭いっていうのは頂けないな。君は元が良いんだから、もう少しオシャレにも気を使おうよ」

 

 すると彼は、

 

「あ~~、面倒だな。正装でも無いのに鏡の前に立って、延々と髪とか服装のチェックかい? 考えただけでも気が滅入るな」

「何もそこまでしようだなんて言ってないよ。ただちょっとだけ、自分を良く見せる努力をしようっていう話。人間、初対面の印象は大事だよ」

「まぁ、確かにその通りなんだが」

 

 彼は心底面倒臭そうにそんな事を言う。

 あれ? 普通の男の子って、自分を格好良く見せたいって思うものじゃないのかな?

 同年代に見えるのに、同年代とは違う感じ。

 実戦経験のせい? ううん。多分違う。性格? これも違う気がする。じゃぁ何だろう?

 違和感が気になって、彼をじっと見つめる。

 

「な、なぁ、そんなにじっと見られると対応に困るんだが・・・・・」

 

 彼が微妙に視線を逸らし、赤面しながらそんな事を言う。

 

「え? あ、ああ。うん。ごめんなさい。他にはどんな服が似合いそうかなぁって考えちゃって」

 

 とっさに出た嘘。

 でも少しだけ本当の事。

 

「そんな。これ以上買ってもらうなんて悪いよ」

「誰も買ってあげるなんて言ってないよ。頭の中で色々な服を着せ替えてみただけ」

「ちなみにどんな服を?」

 

 私はちょっとだけ考えるそぶりを見せてから、目の前にウィンドウを表示。ファッション雑誌のデータをコール。

 まず呼び出したのは――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 彼女と話す時間はあっという間だった。

 気付けば、夕食の時間はとうに過ぎ去り、2人して腹の虫が鳴ってようやく時間に気付く始末。

 

「ちょっと待っててね。今はご飯を作るから」

 

 そう言って彼女ははにかみながらエプロンをつけ、キッチンに入って行く。

 時計を見れば、丁度21時。

 

「何か手伝うことないかな? 流石に作ってもらってばかりは悪い」

「じゃぁお皿出してもらっていい? そこと、そこのお皿。出したら皮剥き。料理は出来なくても、それくらいは出来るでしょ?」

「まぁ、そのくらいならな」

 

 言われるままに食器棚から皿を出し、ジャガイモの皮を剥いていく。

 昨日は上手く動かなかった指を使って。

 

「手、動くようになったんだね」

 

 隣に立つシャルロットがそんな事を言う。

 

「ああ。ゆっくり休ませてもらったおかげで、身体の調子も随分良くなった。君には、幾ら感謝しても足りないくらいだ」

「そんな事ないよ」

「そんな事あるさ。君が誰も呼ばないでいてくれたおかげで、そして手当てしてくれたおかげで、こうして生きていられる」

「・・・・・1つ、聞いても良いかな?」

「答えられる事なら」

「大丈夫。秘密な事は聞かないから。―――聞きたいのは、どうしてあんなになるまで戦えたの? 痛かったでしょ? 怖かったでしょ? なのに何で戦えたの? 絶対防御のあるISであそこまでなるなんて、普通じゃない。普通はあんなになるまで戦えないよ」

「そうだな・・・・・」

 

 数瞬思案する。

 話して、理解してくれるだろうか?

 別に大した理由じゃないんだ。

 どこぞのテンプレの主人公のように、過去に重たい話がある訳じゃない。

 ただ裏切った時に、失敗した時に帰る場所が無かっただけ。

 後は、

 

「世の中ね。大体の物は金で買える。でもね、信用や信頼の類は金じゃ買えないんだ。そして暴力を扱う者にとって、それらを失う事は、時として自分の命に関わる。だから命懸けで果たした。それが理由の1つ」

「1つ?」

 

 シャルロットは手を動かしながら聞き返してくる。

 

「そう。1つ。もう1つは馬鹿げた理由さ。後悔したくなかった。それだけさ。あの時、明らかに数的不利な状況で、負けも死もすぐそこにあった。降伏して命乞いをすれば助けてくれるかな? そんな考えもよぎった。でもしなかったのは、多分やったら絶対に後悔すると思ったから。怖くても無様でも虚勢を張り続けた。それだけだよ」

 

 返ってこない言葉。沈黙の時間。

 幻滅されただろうか?

 

「・・・・・やっぱり、思った通り」

「何がだ?」

 

 彼女は包丁を動かしていた手を止めて、こちらを見上げながら答えた。

 

「君は良い人だよ。悪人は自分をそんな風には言わない。自分を良く大きく見せようとする。でも君は違った」

「そんな事は無い」

「ううん。コレばっかりは違うって断言してあげる」

「君に断言されてもな」

「僕の父がデュノア社の社長なのは知っているよね。その関係でね、人を見る目には少し自信があるんだ。だからもう一回言うよ。コレばっかりは違うって断言してあげる」

「よく言う。まだ女の色気も無い歳のクセに。でもまぁ、そう言われて悪い気はしない。ありがとう」

 

 俺の言葉に、皮の剥かれたジャガイモを手元の包丁でリズミカルに切り始めていた彼女は、

 

「お礼を言われて悪い気はしないね。もっと言おうか? そして訂正してよ。女の色気も無いだなんて。コレでも、それなりに出るところは出てるんだよ」

「止めてくれ。言葉の価値というか重みが無くなる。そして訂正はしない。俺はもうちょっとメリハリがついている方が好みだ」

「恩人に対して酷い言い草だね。もうちょっと女性を持ち上げる事を覚えるべきだよ」

 

 そんな話をしながら作られていく食事。

 料理人が良いせいか、美味しそうな匂いが漂う。

 いや、事実美味しいのだろう。

 だがそれが味わえるのも、そして楽しい会話も、これが最後だった。

 無機質なメッセージが脳内を流れていく。

 

 ―――AMSダメージリポート

    →神経組織の再生完了。

    →戦闘行動に問題無し。

    

 ―――ネクストISダメージリポート

    →全パーツ再生完了。

    →戦闘行動に問題無し。

 

 此処に、これ以上いる理由はもう無い。

 長居は必ず迷惑をかけてしまうだろう。

 だからこれが最後。

 最後の食卓を楽しんで、楽しませて、助けてくれた礼を言って、そして出て行こう。

 そんな事を思いながら、俺は最後のひと時を過ごしていった。

 

 

 

 第7話に続く

 

 

 

 


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