インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
でもちょっと不幸かも・・・・・・。
IS学園の夏休みが終わり、2学期初日の朝。
晶は束と一緒に朝食を摂っていた。
テーブルの上に並ぶのは、ご飯に味噌汁に魚。後、何故か卵焼きという平凡なもの。味も平均の域を出ない普通のものだが、2人とも味にこだわるような人間ではないし、そんな事よりも“一緒に作った”という過程の方が大事だった。ちなみに魚と卵焼きが少し焦げていて、味噌汁がちょっとしょっぱいのはご愛敬である。強化人間と天才でも、失敗する事はあるのだ。
そんな朝食を摂る中、晶が口を開いた。
「――――――ところで最近妙に機嫌良いけど、何かあったのか?」
「分かる? 君がいるからっていうのもあるけど、もう1つ理由があるんだ。何だと思う?」
「そうだな・・・・・・・・・・・・お前の機嫌が良いって事は、織斑先生か箒さん関連だと思うけど。2人に何かあったのか?」
そこで束は身を乗り出して、嬉しくて堪らないといった感じで続けた。
「そうなの!! 何と!! 箒ちゃんといっくんの仲が少し進んだみたいでね!!」
これには晶も食いついた。身を乗り出して顔を付き合わせて、「マジで?」、すると束はニヤリ。
「大マジなのです」
「どこまで? 状況は?」
「何とチューまで。近くの神社で夏祭りがあった時に、巫女姿の可愛い箒ちゃんにいっくんがさ、森の中で」
「おお!! その後は?」
「それが残念な事に、凄く良い雰囲気だったんだけど、空気を読めないいっくんの友達が呼びに来ちゃって、そこでストップ。でも箒ちゃんの、あの恥じらった顔。可愛いかったなぁ・・・・・・・・・・・・」
「クッ。何て寸止め」
「イヤイヤ、その寸止めな感じがなんとも」
「いや、そこは押し倒そうよ一夏」
「友達いるのに?」
「隠れてこっそり」
「ケダモノ」
「否定はしない」
「しなさいよ!!」
「ヤダ。束と同じ状況になったら押し倒すもん」
聞き間違いようのないストレートな物言いに、束の顔が耳まで真っ赤になった。
「な、何を言ってるのさ。もう!! 早くご飯食べようよ」
素っ気ない返事をする彼女だが、その後の朝食の最中、頬は緩みっぱなしであった。
そうして団欒の時間は瞬く間に過ぎていき、登校時間が近付いてきた。
「――――――もうこんな時間か。それじゃぁ行ってくる」
「行ってらっしゃい。猫には気をつけてね」
「あれも可愛いとこ――――――」
あるんだぞ。と続けようとした晶の言葉は、妙に気迫と気合いの篭った言葉に遮られた。
「き・を・つ・け・て・ね」
こういう時、男は弱い。気付けば無条件に首をカクカクと、縦に振っていた。
「宜しい。じゃぁ行ってらっしゃい」
「ああ。行ってくる」
こうして、晶の新学期は始まるのだった。
◇
IS学園内に住む晶の通学時間は、10分に満たない。そして基本的に登校時間が早い彼は、途中で人に会う事も少ない。しかし今日は、予期せぬ出会いがあった。
とは言っても、殆ど事故のようなものだったが・・・・・・・・・・。
(なんだあれ?)
朝の可愛い束の姿を思い出しながら歩いていた晶は、アリーナ上空で1機、おかしな動きをしているISを発見した。
動き的には恐らく慣らしの最中なんだろうが、どうにも挙動が安定していない。
(・・・・・・見た事無いシルエットだな。カスタム機か?)
見慣れている打鉄やラファールなら、ハイパーセンサーを使わなくても、かなり遠くから判別出来る。
しかし今飛んでいる機体は、打鉄に似ているが全体的な印象がかなり違う。
(・・・・・・しかし危ないな。ブースター制御と慣性制御の同期が上手くいってないのか? 相当振り回されてるぞ)
見ていて危なっかしい事この上ない。
自分がその場に居たのなら、すぐハンガーに戻るよう言っただろう。
だが今の晶にとっては所詮他人事。無理に乱入する必要は無いし、実機を動かしているくらいだ。それ相応の安全対策は施してあるだろう。
そんな至って常識的な事を考えながら、内心で「頑張れよ~」と、他人事のようにエールを送る。
だがそれも、異常が無ければの話だ。
しばらく眺め続けていると、脚部ブースターから黒煙。次いで背部ブースターからも。更に推進力を失い、真っ逆さまに墜ちていく。
「えっ!? 嘘? 安全対策無し!?」
思わず毒づいてしまった晶は、即座にNEXTを展開。落下していく機体を拾い上げるべく接近する。
途中スキャンしてみると、搭乗者は気絶している様子だった。
(相当な負荷がかかったのか? だがそれよりも今は、機体が拙い)
ハイパーセンサーが正しければ、脚部と背部ブースターにエネルギーが過剰供給されている。しかもそれが推力変換されていないから、内部にどんどんエネルギーが溜まっていってる。計測値が既に、仮にこれが第三世代機であったとしても、危険な値を示していた。
(賭けだが、仕方ない!!)
機体が爆発したら搭乗者の命に関わる。よって晶は、暴走している部位を破壊する事にした。
上手くいけば機体の安全装置が働いて、エネルギー供給がストップする。
だがこんな状態だ。装置が正常稼動してくれるかどうかは賭けだった。
―――ASSEMBLE
→R ARM UNIT :
→L ARM UNIT :
※1:BD-0 MURAKUMO
ACⅤ登場武装。装着部位は前腕部。
堅牢な金属で作られた「刃」を用い、対象を斬り裂く折り畳み式の実体ブレード。
ブレードレンジは大型ナイフ程度。
背部・脚部ブースターをブレードで切り飛ばし、機体内部に溜まったエネルギーを強制解放。
と同時に機体側の安全装置が作動したのか、エネルギー供給がストップ。
(上手くいった!!)
とりあえず賭けには勝ったらしい。
地上スレスレで機体を受け止め、着地。
(何で朝からこんな、スリリングな真似を!! ――――――で、こいつ誰だ?)
内心で毒づきながら、学園データベースにアクセス。顔写真で生徒名簿から検索。と同時に、この時間にアリーナ使用許可を取っている人間も検索。
一件のヒットがあった。
氏名 :
性別 :女
所属 :1年4組
IS適性 :A
専用IS :あり
機体名 :打鉄弐式
特記事項:専用機は開発中。現ロシア代表、更識楯無の妹。
(アイツの妹か。だがまずは保健室に連絡して、様子を見てもらうか)
学園の内線で保健室をコール。事情を説明し、医者に来て貰う事にした。
「――――――という訳なので、お願いします」
「分かった。すぐに行くから、少しその場で待っててもらっても良いかな」
「了解です」
そうして待つこと86秒。
白を基調として赤いペイントが施されたパワードスーツ、撃震が2機到着した。明らかに救急車を意識したペイントだ。
「彼女ですか?」
「ええ、お願いします」
そう言いながら晶は、ハイパーセンサーでモニターしていたバイタルデータを転送した。
「なるほど。大して問題は無さそうだけど・・・・・・・・・・」
2機の撃震が横になっている彼女の両側に位置取り、片膝立ちの態勢なる。そして背部に背負っていたコンテナを展開。医療用の撮影機材が準備され、その場ですぐに検査・診察が行われた。
「・・・・・・特に問題は無さそうね。運ぶの、手伝って貰っても良いかしら?」
「良いですよ」
晶は答えながら、牽引用の特殊ロープを
機体のアンカーフックに取り付けていく。
すると――――――。
「あら、そんな無粋な真似しないで、抱き抱えれば良いじゃない。その子も、その方が喜ぶんじゃない?」
ドクターからこんな台詞が出て来る時点で、問題は無いんだろう。そんな事を思いながら晶は、そのまま牽引用ロープを接続。ついでに少し反論しておいた。
「完全展開してるISを、人みたいに抱き抱えられるはず無いでしょう」
遊び心の欠片も無い、至極真っ当な、真っ当過ぎる言葉。彼だって予防線を張るくらいはするのだ。
「つまらないわね。お姫様抱っこして、途中でムラムラして、襲ってくれたら面白かったのに」
「アンタ本当に医者かよ!!」
「勿論よ。騒動は傍から見てるのが1番楽しいんじゃない。保健室に避妊薬もあるから、誰か連れ込んでもいいわよ」
「うわ。最低だコイツ」
「なによ、どうせ束博士や会長と良い仲なんでしょ? 後10人や20人増えたところで大した事ないって」
「大有りだ!!」
NEXTが握り拳を作って力説するという、とても珍しい光景。
だがそんな珍しさを気にもせず、パワードスーツを装着している女医さんは、からかうように言った。
「あら、もう尻に敷かれてるの?」
「そんな訳あるか。――――――早いトコ運ぼう」
舌戦では分が悪いと感じた晶は、強引に話題を打ち切り、ゆっくりと空中に浮かびあがった。
「逃げるの?」
「怪我人が優先だ」
そうして気を失っている
◇
更識簪を保健室に運び、姉に連絡を入れた2分後――――――。
「簪ちゃん!!」
楯無が素晴らしい勢いで保健室に飛び込んで来た。
「大丈夫。気を失ってるだけだから、じきに目を覚ますって医者が言ってた」
「本当!?」
「ああ。だから心配いらない」
「よ、良かった」
見るからに安堵した楯無は、姿勢を正して晶に深々と頭を下げた。
「簪ちゃんを助けてくれて、本当にありがとう。何てお礼を言ったら良いか・・・・・・」
「偶然居合わせただけだ。それよりも1つ聞きたい」
「何かしら?」
「妹さんのISは開発中みたいだが、学園側の、というか生徒側の整備チームはいないのか? 機体をハンガーに戻した時、整備要員が誰もいなかったんだが」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
珍しく軽口が返ってこない。それだけで、何か事情があると察するには十分だった。
「すまない。答え辛いならいい」
「違うの。ただ、私から貴方に言っちゃうと、簪ちゃんが何て思うか・・・・・・・・・・」
「お前から言う? ――――――ああ、なるほど」
楯無の懸念は、すぐに理解出来た。
薙原晶というコネクションを使う事で、頑張っている妹の努力を穢したくないのだろう。
だがそれも、程度によりけりだ。
「部外者の俺が口を出すのも悪いと思うが、整備チームくらいは。今回は運が良かっただけだぞ」
「分かってる。人を付けようとはしたんだけどね。――――――1年1組に
「お前のとこも、姉妹で上手くいってないのか」
「も?」
「ああ。今は仲直りしてるが、束と箒さんも以前仲が悪くてな」
「参考までに、どうやって仲直りしたのか教えてくれないかしら」
「手紙だよ。携帯のメールじゃなくて、紙の手紙で少しずつやり取りしてたんだ」
「随分アナログな手段ね」
「でも特別っていう感じだろう? 試しにお見舞いに来たって事で、メッセージカードの1枚でも残しておいたらどうかな。多分喜んでくれると思うぞ」
一瞬ハッとした表情を浮かべる楯無。いつものポーカーフェイスが見る影も無い。
「それもそうね。ありがとう。早速やらせて貰うわ」
そう言って懐からメモ帳を取り出した楯無は、1枚ページを破き、幾つかのメッセージをしたためた。
「気にするな。人の仲に特効薬は無いからな。焦りは禁物だろう」
「束博士と喧嘩した時、同じ事が言えるかしら?」
「無理だな」
鮮やかに前言を翻す晶に、楯無がジト目になる。
「有言実行しなさいよ」
「いや無理」
「しなさいよ。何なら私のところに来ても良いのよ。仲直りするまで、優しく慰めてあげるから」
「余計に仲がこじれるだろう」
2人にとっては何て事の無い、いつものやり取り。
そんな事をしている間に、
「そろそろ時間か。俺は行くけど、お前はどうする?」
「私も行くわ。学園祭の件で、午前中に処理しておきたい事があるの」
「生徒会長も大変だな」
「仕方ないわ。権力には義務が伴うもの」
「違いない」
こうして姉のメッセージカードがサイドテーブルに置かれ、2人は去って行った。
只2人にとって予想外だったのは、もうとっくに更識簪は目覚めており、会話の全てを聞かれていたという事だった。
初めは
そして会話を聞いてしまった簪の胸中には、様々な感情が激しく渦巻いていた。
(なんで、なんでお姉ちゃんばっかり!!)
ヒーローに憧れる簪にとって、薙原晶という人間はある種の理想だった。
たった1人を護る為にあらゆる困難や障害を乗り越え、学園に来てからは専用機持ちやクラスメート達を更なる高みに押し上げ、学園の外では救出困難と言われる高難度ミッションを幾つも成功させている。
憧れないはずがなかった。そんな存在と、姉は仲良くやっている。聞こえてきた会話からは、友人以上の関係のように思えた。
だが同時に、恨みもあった。
IS開発を独力で行わざるを得なくなってしまった原因の一端は、彼にもあるのだ。
放課後の訓練で
そんな感情が胸中で入り乱れ、彼女は、自分の心に折り合いをつけられないでいた――――――。
◇
「独力でのIS開発? 冗談だろう?」
昼休み。
訪れた生徒会長室で、楯無から
「・・・・・・・・・・本当よ」
「いつもの冗談じゃなくて、本気で?」
「本気でよ」
これが自作の玩具を作っているというのなら、彼もここまでの反応はしなかっただろう。
だが彼女が作っているのは、日本の次期主力ISだ。生半可な妥協が許されるものではない。
「開発を舐めるなと言ってやりたいところだが・・・・・・・・・・」
そう言えない理由があった。
何故なら間接的にだが、独力で開発せざるを得ない状況に追い込んでしまった原因の一端が、晶にあるからだ。
「訓練で、散々壊したからなぁ・・・・・・」
打鉄弐式は倉持技研の預かりだ。そして白式も倉持技研の預かりだ。
だから壊れた白式を倉持技研が直すのは当然だろう。だが搭乗者が貴重な男性。しかも他の専用機との戦闘データが見込めるとなれば、全力で直しにかかったに違いない。例え他の開発プロジェクトを圧迫したとしても。
そして更に言えば、白式の
「何度かそれとなくは言ったんだけどね。私が言うと、ムキになっちゃって・・・・・・・・・・」
「デキの“良過ぎる”姉と“そこそこ”デキる妹か・・・・・・・・・・ますます束と箒さんの関係そっくりだな」
成績を見る限り、更識簪は決して出来の悪い子ではない。むしろ世間一般から見れば、相当に優秀な部類に入るだろう。でなければ、独力でISを弄るなど出来はしない。彼女の不幸は、更識楯無という万能の超人の妹だったという事に尽きる。
「私、どうしたら良いのかしら・・・・・・」
生徒会長の椅子に座り肩を落として悩む楯無に、晶はふと思い付いた事を言ってみた。
「なぁ、少し彼女と話をさせて貰っても良いかな」
「いいけど。何で?」
「いやな、機体をハンガーに戻した時にちょっと機体構成を見せて貰ったんだけど、悩んでる人間特有の癖があったからな。多分彼女、焦る余り考えがゴチャゴチャになってるんじゃないかな?」
「貴方なら、話すだけでそれを解消出来ると?」
「確約は出来ない。でも仮に機体構成で悩んでいるのなら、それなりの助言は出来ると思う」
物凄く今更だが、この男、元々重度のAC中毒でメカ大好き人間である。パーツを1つ1つ吟味し、機体を組み上げ、戦術に適応するかを確かめ、駄目ならトライ&エラーの1000回や2000回は当たり前。
そんな人間の前に、“惜しい”と思えるような設計図をぶら下げたらどうなるだろうか?
「なら、お願いしても良いかしら」
「分かった。放課後にでも声を掛けてみるよ」
「ありがとう」
「別に良いよ。お前には色々やって貰ってるからな」
こうして晶は打鉄弐式の開発に関わる事になったのだが、それが更識簪にどんな影響を与えるかは、まだ誰にも分からなかった――――――。
―――一夏と箒のチュー―――
XINN様より頂きました。感謝です!!
―――一夏と箒のチュー―――
第65話に続く