インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
どんどんキナ臭くなってきました。
そして束さんは黒い反面、少し(?)友達思いになりました。
後はピンポイントで糖分補給です。
とある場所のプレゼンテーション会場。
数百人が入れるその会場のメインディスプレイには、画面を分割する形で、先日行われた超々長距離狙撃砲の試射映像と、目標となっている輸送艦の隠し撮り映像が流されていた。
そんな中で、一際大きな喚声があがる。
晶がシャルを退避させた、実質的なミッション失敗を認めたあの瞬間だ。
「――――――さて皆さん。如何でしたか? ご覧の通り、万能の超兵器と言われるISですら、このような状況下では成す術もありません。そしてISは墜とされたが最後、搭乗者も機体も、代えが利きません。故に我々は皆さんに問いましょう。防衛力を数の限られた機体と、個人の才覚に依存してよろしいのですか。代替可能な個人によって、安定して保たれるべきものではないのですか、と」
会場内がざわめく中、プレゼンターは話を続けていく。
「そこで我々企業がご提案させて頂くのは、代替可能な個人とハードウェアによってのみ実現可能な、強力で安定した戦力です。そして皮肉にも、これの登場を予見していたのはあの最強の単体戦力、
出された名前に、参加者の表情が真剣なものへと変わっていく。
何故ならあの男は、単純な戦闘マシンではない。確かな知性を併せ持っている人間だ。
だからこそ、企業の言葉には説得力が生まれる。
あの男が予見していたと言うのなら、少なくとも有効な方法の1つではあるだろう。
「では紹介させて頂きましょう。ISに代わる新たな抑止力を。
メインディスプレイの表示が切り替わり、完成予想図とそのスペックデータが表示される。
もしここに晶が居たなら、何と言っただろうか?
その形は、AC世界のギガベースとうり二つだった。
タンカーを2隻繋いだ双胴船のような外見。400mに迫る全高。全身に配置された兵器群。中でも全長500mを超える超々長距離狙撃砲の存在は圧巻だった。加えて、キャタピラと電磁誘導推進装置を組み合わせた事により、陸海問わず運用可能な万能性。
これだけでは無い。
巨体という圧倒的な積載量を生かして、パワードスーツ母艦としての機能まで併せ持っている。
まさしく、動く要塞だった。
確かにこれならばISに勝てるかもしれない。だが、本当に勝てるだろうか?
当然の疑問が、参加者達の脳裏をよぎった。
そして、それを応えるかのようにプレゼンターが口を開く。
「さて皆さんの中には「これで本当に勝てるのか?」という疑問がある事でしょう。なのでお答えします。――――――勝てます。何故なら、ご覧下さい」
ここで再び画面が切り替わる。
メインディスプレイに表示されるのは、以前アラビア半島で、クラリッサを追い詰めた時に投入された戦力量。
そして次に表示されるのは、ギガベースが持つ戦力量。
比較にすらならなかった。単純な比較をするなら、大人と子供だ。
「如何でしょうか? またこれに加えてギガベースは、指揮下の艦隊やパワードスーツに対して、個別に攻撃目標を指示し統制する能力をも持ち合わせています。これがどういう事か、賢明な皆様ならもうお分かりでしょう。使い古された旧式兵器ですらISを追い込めたのに、そこに統制された強力な射撃能力が加わるのです。勝てないと思いますか?」
表示される様々なデータとプレゼンターの巧みな弁舌が、参加者の思考を誘導していく。
会場内が熱を帯び始めていた。
そしてプレゼンターは、最後の殺し文句を口にする。
「とは言っても、皆さん使ってみない事には安心して買えないでしょう。ですから、お貸ししましょう。そして実感して下さい。我々の提案が正しかったと。無論レンタルですので、整備・補給に関しては格安で応じさせて頂きます。是非とも、ご検討の程をお願い致します」
こうしてプレゼンテーションが終わった後、「レンタルでなら」という事で申し込みをしてくる国が複数があった。
中には弱小国がお金を出し合って、外敵に対する抑止力として使おうという国まであった。
そして、それこそが企業の狙いでもあった。
一度掴んだ力を手放すなど、誰にも出来はしないのだから――――――。
◇
一方その頃、更識家執務室にいた楯無は、束からの電話を受けていた。
『――――――貴女から連絡が来るなんて珍しいわね』
『流石に今回の一件は、ちょっと頭にきたからね』
『かなり煮えくり返ってるわね。落ち着きなさいよ』
『大丈夫。落ち着いてるよ。本当ならすぐにでも犯人を見つけ出して消し飛ばしてやりたいところだけど、まだしてないんだから』
『それは素晴らしい自制心ね。で、何故私に連絡を?』
『大型船改装用のドックと船をすぐに用意して』
『それは良いけど、何をする気?』
『パーツ輸送を
電話越しに聞こえる束の声は、いつもの明るい感じでは無かった。
例えるなら、大噴火直前の火山だ。
これが噴火したら、まさしく天災になるだろう。
そんな相手と話をするのは楯無とて少々怖かったが、何をするのかくらいは知ってく必要がある。なので要領の得ない答えに、もう一度同じ問いを返した。
『だから、何をする気なの?』
そして返ってきた答えを、彼女はすぐに理解出来なかった。
『幾ら物理的に邪魔しようにもさ、海上をマッハで突っ走れば誰も邪魔出来ないよね』
『えっ…………どういう事かしら? 何かの比喩?』
『ううん。本当に輸送艦をマッハで走らせるの。私の邪魔なんて絶対にさせない』
他人が言えば只の戯言として一笑に付されるだろう。
しかし口にしたのが彼女なら、とても冗談では片付けられない。
『本当に出来るの?』
『愚問だね。この束さんがやると言っているんだよ。出来ないはずが無いじゃないか』
『分かったわ。用意しておく。後、仕掛けてきた奴らの事なんだけど――――――』
『――――――放っておいて良いよ』
『えっ?』
楯無としては反撃しようとする束をどう宥めようかと思っていただけに、この返事は予想外だった。
『何さその、「意外です」っていう態度は』
『だって、貴女がやり返さないなんて、どうして? 頭でも打ったの?』
『頭は打ってないし、博愛精神にも目覚めてない、変な宗教にもハマッてない。至って真っ当な判断からだよ』
『理由を聞いてもいいかしら』
『別に良いよ。――――――だってどうせ今回の一件も、トカゲの尻尾切りの準備は済んでるはずだからさ。それを潰したところで何の意味も無い。ただ時間と労力を取られるだけ。なら色々な妨害が入る前に、一刻も早くアンサラーを
『…………驚いた。まさか貴女に、その判断が出来るとは思ってなかったわ』
『本当はやり返したいんだけどね』
悔しさの滲む声。日頃から喧嘩をして性格を知っているだけに、楯無は彼女がどれほど耐えているかが良く分かった。だがそれだけに、1つ腑に落ちない点がある。彼女の性格ならば
『ねぇ、1つ聞いてもいい?』
『なに?』
『何で晶を使わないの?』
すると彼女は、暫し口を閉じてから答えた。
『…………使える訳、ないじゃない。確かに私が調べて、「潰して」ってお願いすればやってくれると思うよ。彼にとって、相手が1万人だろうが100万人だろうが大した違いは無いからね。でもアンサラー計画で注目されている今、そんな事をしたら絶対どこかからか情報が漏れる。結果、私は彼を失う。だからやらないの』
『……………聞かなきゃ良かったわ。まさかこんな大真面目に惚気話を聞かされるなんて』
『惚気とは酷いな。君から聞いてきたんじゃないか』
『こんな答えが返ってくるだなんて思ってなかったわよ』
『それはご愁傷様。何だったらもっと聞く?』
『要らないわよ。――――――で、話を戻すけど、今後はどう動くの?』
『アンサラーの開発を急ぐっていう方針は変わらない。だからね、私は今後開発に専念する』
この言葉に楯無は一瞬、今まで通りではないだろうかと思ってしまった。だが束が態々、「開発に専念する」と言ったのだ。今まで通りであるはずがない。そして思い至る。
『専念って、もしかして…………』
『うん。そのままの意味だよ。これ以降私は、開発以外では動かないものと思ってくれていい』
楯無は驚きを隠せなかった。
今の言葉は裏を返せば、開発以外の全てを任せると言う事。
あの篠ノ之束の関わっているプロジェクトの、開発以外の全てをだ。
少しでも目端の利く人間なら、それがどれほどの事か分かるだろう。
『本気なの?』
『本気だよ。アンサラーは必ず
『分かったわ。雑務はこちらで引き受ける』
『頼むよ』
こうして行われた役割分担により、以降束は、開発を加速させていった。
また楯無には翌日、少しでも仕事が楽になるようにと、幾つかの技術と設計図が提供された。
これにより更識家私設部隊は、世界最先端の装備を有する、強力な部隊へと生まれ変わっていくのだった。
◇
場所は変わり、薙原晶の自室。
そこで部屋の主は、今回の輸送ミッションについて考えていた。
狙撃砲の投入を察知出来なかった。つまり情報戦の段階で負けていたのだが、その部分についてではない。
事前情報と実際が違うなんていうのはよくある事だし、束や楯無が手を抜いていないのも知っている。
だから考えるのは、「超々長距離攻撃をされたらどうするか?」という現場での対応だ。
しかし幾ら考えても、射程100kmの狙撃砲に囲まれた時点で詰みだ。少なくとも単機でどうにか出来る状況じゃない。となれば仲間が必要だが、今回のミッションではその仲間も、狙撃砲で貼り付けにされてしまっている。
(…………やっぱり、あの状況からの逆転は無理だな。狙撃地点は
そうして暫く考えていた晶は、ふと思いついた。
(何もNEXT一機で全部やる必要はないんじゃないのか? 周囲の状況を知りたいなら、無人機を飛ばすっていう手段があるじゃないか)
思い付いてしまえば、極々単純な事だった。
先に見つけてさえしまえば、後はどうとでも出来る。
だがそこで、再び晶は思う。純粋な疑問だ
(待てよ。仮に無人機を使うとして、どうやって制御すれば良いんだ?)
ラジコンのようにコントローラーというのは論外だ。それだと戦闘に入ったらコントロール出来ないし柔軟性に欠ける。
となれば思考制御だろうか? しかしAMS(=Allegory Manipulate System:脊髄や延髄を経て脳とACの統合制御体が直接データをやりとりをするマシン・生体制御システム)制御されているNEXTに、無人機の思考制御なんて出来るのだろうか? 素人考えながら、本体の機動すら危うくなるような気がする。
(無理か? いや、俺1人で考えても仕方が無い。束に聞いてみよう)
そう思った晶は、束の部屋へと向かった。扉は開いており、中には脱がれた服が無造作に放り投げられている。
だが本人はいない。バスルームから水音が聞こえるから、恐らくシャワー中だろう。
(………どうするかな)
一瞬バスルームに乱入というのも考えたが、そうすると大事な話を聞くのが明日になってしまいそうなので、晶はどうにか自制。散らかっている服を片付けたり、或いは洗濯カゴに入れるなどして待つ事にした。
ちなみに全くの余談ではあるが、束は持っている服が意外と多い。不思議の国のアリスVerだけでも無数にあるし、カジュアル・着物・ドレス・スーツのそれぞれだけでも、ウォークインクローゼットが1つ埋まるくらいだ。加えて最近は、バニーさんとか水着とかの種類も増えている。使用目的は……………まぁ人それぞれだろう。閑話休題。
暫くすると、バスローブ姿の束が戻ってきた。
「あれ、どうしたの?」
「1つ聞きたい事があって。NEXTって無人機の制御とか出来るのかな?」
「無人機の程度によるけど、一応可能だよ。どうしたの?」
そこで晶は、考えていた事を話した。
無人機を使い周囲を偵察。伏兵やトラップを早期に発見し、危険に対処するというものだ。
すると束は「なるほど」と肯いた後に、頭を抱えてしまった。何故?
「あ~~~~失敗したかも。その方法なら輸送艦を改造するより楽じゃないか。でももう頼んじゃったし、後々を考えれば無駄にはならないから、まぁいいか」
「どうしたんだ?」
「ん、ちょっとね。私の方でも今回の失敗には思うところがあったから、輸送艦の足を速くするっていう方向でアプローチしたんだ。君が良く知っているアームズフォートの流用だよ」
「…………海上って言ったら1つしかないな。スティグロか」
「正解。アレなら狙撃も魚雷も振り切れる。一度出港したら、もう邪魔なんて出来ない」
「そうか。なら束はそっちの作業に掛かりきりになるな。無人機を作る暇なんてないか」
「確かに掛かりきりになるけど、晶の考えも捨て難いね。――――――そうだ。確か………」
束は眼前に空間ウインドウを展開すると、画面をスクロールさせて何かを探し始めた。そうして暫くすると目的のものを見つけたのか、展開しているウインドウを晶の方へと向けた。
そこには、「Tactical Reconnaissance Support System」と表示されている。直訳すれば、戦術偵察支援システムだ。
「これは?」
「君と出会う前、1人で逃げ回っている時に、色々思う事があってね。無人機を効率的に使えたらって思って、作ってみたんだ。ISの思考入力にも対応しているから、晶の希望に適うと思うよ」
「凄いな。でもAMSの思考制御とバッティングしないのか?」
「ふっふ~ん。愚問だよ。この私を誰だと思ってるんだい。その辺りの制御が出来なかったら、紅椿は完成しなかったよ。あれも思考入力でビットを動かしてるからね」
「なるほど」
「使い方は簡単。インストールして、制御下におく無人機を登録してあげるだけ。そしたら後は、ソフトが事前に設定した通りに動かしてくれる。勿論思考入力があった場合は即座に反応するから、対応力もそれなりにあるよ。あ、あともう1つ。ソフト側に経験が蓄積されるから、使えば使うほど、無人機の行動パターンが豊富になっていくよ」
「それは凄い。ありがとう束。早速――――――」
テストしてみるよ。と言い掛けて、晶は大事な問題が残っているのを思い出した。
コントロールする無人機が無いのだ。
いや、あるにはあるのだが、IBISやパルヴァライザーは自律型だ。加えてこの2機は人目に晒したくないので使用不可だ。
ならどうするべきだろうか?
NEXT用装備となれば、どうしたって束の手を煩わせてしまう。
そうして暫く悩んでいると、彼女が口を開いた。
「ねぇ晶。考えてるのって偵察だけ?」
「攻撃力があるに越した事はないけど、そっちは有ればいいっていう程度かな」
「それならすぐに用意してあげられるかな。ちょっと
「それは嬉しいけど、いいのか? 開発で忙しいんじゃ」
「大丈夫だよ。だって開発以外の雑務は、ぜぇ~んぶ
「え?」
予想外の返事に固まる晶。束は触れ合えそうな距離にまで近付きながら、更に口を開いた。
「私が『開発に専念する』って言ったら、『雑務はこちらで引き受ける』って言ってくれたんだ。だからね、むしろ時間は増えたかな。いやぁ、泥棒猫も良い所あるね。面倒くさい事を引き受けてまで、私と晶の時間を作ってくれるなんて。だから――――――ね」
そうして見上げられた瞳は、何かを期待していた。
まだ乾いていない髪が揺れ、バスローブの隙間から深い谷間が覗いている。
すると晶の両腕は自然と動き、束を優しく抱きしめていた。
伝わってくる感触が、堪らなく愛おしい。
この後2人は、誰にも邪魔される事無く――――――。
第73話に続く
ちょっとしたその後。
次の日の朝。きもちよーく幸せにまどろんでいた束は、流石に楯無に悪いと思ったのか、仕事が楽になるように幾つかの技術と設計図を、提供してあげるのでした。ちゃんちゃん。
如何でしたでしょうか?
これでようやく本格的に、AFが表舞台に出てきました。
後は何か切っ掛けがあれば……………と少しニヤニヤしてしまう作者です。