インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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ようやく次の話をUPする事が出来ました。
長らく更新が無かったのに感想を書き込んでくれた読者様がいたからこそ、モチベーションを失わず書く事ができました。
ありがとうございます。
拙い作品ですが、楽しんで頂ければ幸いです。


第73話 学園祭・準備

 

 企業がISに代わる抑止力としてアームズ(A)フォート(F)の建造に力を入れ始めた頃、IS学園には学園祭という一大イベントが迫っていた。

 生徒達はみな迫る祭りに心躍らせ、準備に慌しく動きまわり、放課後を過ごしていく。

 そんな中、1年1組に在籍する薙原晶(NEXT)は、買出しを頼まれていた。

 

「――――――材料が足りない? 結構な量があったと思ったけど?」

「そうなの。でも織斑先生に聞いたら、『お前達大分注目されてるが、それで足りるのか』って言われちゃって」

「あれだけあって足りないって、一体どれだけの客を見込んでるんだ?」

「私も十分だと思ったんだけどね、よくよく考えてみればウチのクラスってさ――――――」

 

 話していたクラスメイトが晶を指差し、次いで教室内で話している専用機持ち達を指差していく。

 

「――――――これだけの有名人が揃っているコスプレ喫茶なら、一度は行ってみようって思う人は多いかも」

「そうかもしれないが、そんなに来るか?」

「1人1回の入店とは限らないでしょ。世の中にはリピーターってのがいるんだから」

「素人の出し物に、そんなに来るかね?」

 

 どこまでも懐疑的な晶に、クラスメイトはチッチッチッと人差し指を振りながら答えた。

 

「甘い!! 晶君は甘すぎる。スイーツ並に甘いよ。分かってるの? 織斑君は草食系のイケメン。晶君はインテリ系のイケメン。その他専用機持ちはアイドルなんか歯牙にもかけない美少女揃い。これでお客が来ない訳ないじゃない」

 

 この類の経験に乏しい晶は、世間一般での専用機持ちや代表候補生の扱いを思い出してみた。

 確かにアイドル的な扱いだ。

 写真集は出ているし、雑誌にも載るし、テレビにも出演する。

 加えて彼女達の容姿は飛び抜けている。

 そんな彼女達がメイドのコスプレをして、「ご主人様」と言ってくれるようなコスプレ喫茶をやるとなればどうだろうか?

 更にもう1つ付け加えるなら、専用機持ち以外のクラスメイト達も十分な美人揃いだ。

 晶は数瞬考えて、集客予想を大幅に上方修正した。

 

「……………確かにそうか。なら俺が買出しに行ってこよう。何を買ってくれば良い?」

「えっ? 行ってくれるの?」

「今みんな準備で忙しいだろ。身軽な人間が行くのが一番だ」

「ありがとう!! でも自宅の方は良いの?」

「大丈夫。自宅の防衛システムは完璧さ」

 

 元々要塞のように強固な作りになっているのだが、それに加えて今は、光学迷彩装備のパルヴァライザーが張り付いている。

 アレの目を掻い潜って自宅を攻撃するなど、まず不可能だろう。

 

「ならお願いしても良い」

「勿論」

「あ、そうだ。誰か連れて行く?」

 

 クラスを見回すと親しい専用機持ち達は、各グループの纏め役やら着せ替え人形になっていたりする。しかも皆楽しそうだ。それを中断させて、買い物に付き合わせるのは少しばかり酷だろう。

 

「いや、1人で行ってくるよ。皆にはそのまま作業を続けさせてくれ」

「りょーかい。てっきりシャルロットさんやセシリアさん辺りを連れて行くと思ったんだけど」

「デートなら別の機会に気兼ねなくするよ。今そんな事したら、クラスから恨まれる」

「分別があって何より。じゃっ、宜しくね」

「ああ、行ってくる」

 

 こうして晶は1人買い物へと出かけて行ったのだが……………予期せぬトラブルに会い、戻るのが少々遅れる事になるのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 買い物を終えた晶が歩いていると、ふと視界に入った喫茶店で、山田先生がスーツ姿の男と話しているのが見えた。

 男の方は後姿しか見えないが、中々仕立ての良いスーツを着ている。

 これで山田先生が楽しそうに話をしているなら、デートと思うところだが表情が硬い。

 どこぞの悪徳セールスにでも引っ掛かったんだろうか? そんな事を思った晶は、NEXTの集音センサーを限定起動。会話を拾ってみた。

 

「――――――ですから、この時期にスカウトするのは止めて欲しいんです。家族に接触するのも」

「おや、IS学園教師の言葉とも思えません。例年、優秀なISパイロットの争奪戦は早くから行われているじゃありませんか」

「それにしたってもう少し後の話です。ISの基本機動訓練すら終わっていないのに――――――」

「説得力がありませんね」

 

 男は山田先生の言葉を途中で遮り、更に続けた。

 

「他のクラスならまだしも、あの織斑千冬が担任で、専用機持ち6人を擁する1年1組が行っている放課後のチーム戦は、業界内では注目の的ですよ。しかも発案者は、あの薙原晶(NEXT)。その直接指導を受ける彼女達の価値をご存知ですか? IS業界において彼女達の獲得は、もはや至上命題と言って良い」

「ですが彼女達はまだ学びの途中。そこに雑音を入れて、彼女達の成長を邪魔して欲しくないんです」

「こんな生徒思いの教師に見守られた生徒達は幸せですね。3年後が楽しみです」

「なら――――――」

 

 男は再び山田先生の言葉を遮り続ける。

 

「ですが我が社だけが手を引いたのでは引き損です。スカウトしてくる全ての企業の手を引かせられますか?」

「それは………」

「出来ないでしょう。なら我が社としては、今後の為にも人材確保(スカウト)をしない訳にはいきません」

 

 ここまで聞いた晶は少し考えた。

 スカウトが悪い事とは思わない。それでモチベーションを上げる子もいるだろう。しかし今聞いた話が本当なら、恐らく相当熾烈なスカウト合戦になっているはず。今そんな雑音をクラスメイトの耳に入れるが、本当に彼女達の為になるだろうか?

 

(…………多分、ならないよな)

 

 そしてスカウトとなれば金が絡む。今まで見た事もないような大金を前にして、正常な判断力を保てる人間はそういないだろう。スカウトされる本人も、その家族も。

 なので晶は、山田先生に協力する事にした。

 喫茶店に入り、偶然を装って2人に近づく。

 

「あれ、山田先生じゃないですか。こんなところでどうしたんですか? もしかして仕事サボッてデートですか?」

 

 大人を冷やかす悪ガキのような笑みを浮かべながら近づく。

 

「晶君!? なんでここに?」

「学園祭の買い出しですよ。途中で先生が見えたんで、デートかと思って冷やかしにきました。あまり楽しそうな雰囲気じゃありませんでしたけど」

 

 そう言いながら視線をスーツの男に向ける。すると男は立ち上がり自己紹介を始めた。

 

「まさかこんなところで、あのNEXTに会えるとは――――――申し遅れました。私、ソニックブラスト社(※1)のジョン・ハルリックと申します。以後お見知りおきを。後、こんな素晴らしい女性と本当にデート出来ていたら嬉しかったのですが、残念な事に仕事ですよ。平社員の辛いところです」

「それはご愁傷様。仕事中に口説かなかったのかい?」

「ついさっきまで熱烈なラブコールを送っていたんですが、残念ながら振られてしまいまして」

「山田先生は身持ちが固いからね。――――――で、何の話をしていたのかな? スカウトなんて言葉が聞こえてきたけど」

 

 下手な言い訳はさせない。

 そんな視線を向けると、スーツの男は素直に口を開いた。

 

「ええ。我が社は貴方のクラスメイトに熱い視線を向けています。将来のIS業界を担う人材として、是非とも我が社で働いて欲しいと思っています」

「全員まだまだヒヨっ子だ。随分気の早い話だな」

最強の単体戦力(NEXT)から見ればそうかもしれませんが、貴方の直接指導を3年間受けられるクラスメイトです。まずハズレは無いでしょう。それは貴方自身の実績が証明している」

「たった数ヶ月の指導だ。これから先どうなるかなんて分からないぞ」

「ご謙遜を。貴方が直接指導している専用機持ち達の訓練スコアが、歴代のレコードを次々塗り替えているのはご存知でしょう」

「それは彼女達の努力の結果だ」

「なるほど。国の代表となるべく、ある種のエリート教育を受けてきた彼女達はそうかもしれませんね。ですが織斑一夏と篠ノ之箒についてはどうでしょうか? あの2人はISに搭乗して僅か数ヶ月。にも関わらず、片や第二次形態へ移行(セカンドシフト)し、片や単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)を自在に使いこなすまでに至っている。しかも織斑一夏に至っては、アメリカ・イスラエルが威信をかけて開発した“銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”を単機で圧倒している。他の専用機持ちが束になっても時間稼ぎしか出来なかった“銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”を、単機でです。素人を僅か数ヶ月であそこまで育てるなど、並の者には出来ません」

「本人の努力と機体の相性だな。近接特化でエネルギー兵器を無効化する白式と、エネルギー弾を主兵装とする“銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”とじゃ相性が悪すぎる」

「それにしたって並外れた実力が無ければ、“銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”を単機で撃破など出来ないでしょう」

 

 スーツの男は、コーヒーを一口飲んで更に続けた。

 

「素人をあそこまで鍛え上げた。その他の代表候補生達も成長著しい。後、数日しか指導していないイギリスの候補生達も、今までの平均値を上回る成長を見せている。これだけの事をしている貴方の指導を3年間受けられるクラスメイト達に、我々(企業)が注目しない理由があると思いますか?」

 

 数瞬、沈黙する晶。

 この場でこの男を引かせる事は簡単だろう。だが、この男1人を引かせたところで意味がない。

 スカウト合戦そのものが、出来ないように仕向けられなければ意味がない。

 しかしそれもハードルが高い。

 クラスメイト(彼女達)を獲得するメリットは、その将来性だけじゃないからだ。

 主要各国ほぼ全ての代表候補生と顔見知りな上、単機で“銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”を圧倒した織斑一夏と、束の護衛であるNEXT()とも知り合いという強力な人脈。企業からしてみれば、IS学園の1年1組は、既にある種のブランドになっているのだろう。

 是非ともスカウトしたいという企業心理は、察するに余りあった。

 

「優秀な人材をスカウトしたいという気持ちは良く分かる。人材は人財というからな。だが俺としては、やはりスカウト合戦で周囲を騒がすのは遠慮して欲しい。彼女達の成長に悪影響が出ないとも限らない。だから素直に待ってくれないかな。今ここでお互いに対立して、“そこそこの人材”しかスカウト出来ないよりも、“そこそこ以上の人材”がスカウト出来た方が、そっちとしても良いだろう」

「それは勿論そうですが、抜け駆けしようとする企業に対してはどうするのですか?」

 

 晶はとても楽しそうに、そして意地悪で邪悪な笑みを浮かべながら答えた。

 

「特になにも。ただ友達と話している最中に、抜け駆けした会社の恥部がポロッと出るかもしれないな。なに、クラスの雑談の中での話だ。誰も本気になんてしないと思うよ」

 

 言ったのが、他の誰かだったらスーツの男も笑い流せただろう。

 だがこの男の背後には、篠ノ之束と更識楯無がいる。その2人が調べようと思えば、殆どの事は丸裸も同然だ。必然的に情報の精度は恐ろしく高い。そんな男が意図的に悪意を持って情報をこぼす――――――スーツの男の背に、冷や汗が流れた。

 

「分かりました。我が社は手を引きましょう」

「我が社は、ね。他に連絡しないのは、この機会にライバル企業を潰してもらおうとか、思ってたりするのかな」

「まさか。そんな事をしたら、今後企業間で干されてしまいます。早いところ連絡して、他への貸しにしておきますよ」

「賢明な判断だ」

「それでは、失礼します」

 

 こうして席を立った男が勘定を済ませ、店を出るのを見届けた晶は「ふぅ」と溜息をついた。

 それを山田先生が複雑な表情で眺めている。

 

「どうしたんですか?」

「いえ、ありがとうございます。あのままだったら押し切られていました」

「にしては浮かない顔ですね」

「教師が生徒に助けられたんですよ。少しは心境を察して下さい」

 

 少し拗ねたような顔で答える山田先生は、どこか可愛いらしかった。

 

「先生が生徒思いだから協力したんですよ。それに良いじゃないですか。生徒が助けようと思う教師なんて中々いないと思いますよ」

「そんな事ありません。学園には良い先生が沢山いますよ。――――――ところで、これから戻りですか?」

「はい。先生も?」

「ええ。この時期は忙しいですから」

 

 そうして2人が店を出たところで、急に天気が崩れて雨が降ってきた。

 

「雨か。飛んで行けば楽なんだけど………」

「教師の前で、ISの無断展開なんて止めて下さいね」

「分かってますよ。コンビニで傘でも――――――」

 

 買っていこう、と言おうとしたところで、山田先生が「あっ」と何かを思い出した。

 

「待って下さい。確か鞄の中に傘が――――――」

 

 そう言って取り出されたのは、女性用のやや小さめな折り畳みの傘。

 晶は一瞬先の未来を想像し、想像通りの台詞が聞こえてきた。

 

「さっ、晶君行きましょうか」

 

 傘をさし、その下に招く山田先生。所謂相々傘だ。

 

「あ、いや、でもそれだと先生も濡れちゃうじゃないですか」

 

 傘は小さく、2人を完全に覆う事はできない。だが彼女は気にした様子もなく、晶を傘の下に引っ張り込んだ。

 

「何言ってるんですか。そのまま帰ったら貴方も荷物も濡れちゃうじゃないですか。このくらいなら傘を買うまでもありません」

 

 こうして相々傘で歩き始めた2人だったが、途中で雨が横殴りになり、学園に着く頃には揃ってびしょ濡れになっていたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一方その頃、晶のいない教室を見て(監視)いた束は、少し腹を立てていた。

 自分の男に執事のコスプレをさせて、他人に奉仕させるとはどういうつもりだ。腹立たしい。

 しかもどうやら執事以外の格好もさせて、客と写真を撮らせるという企画まであるらしい。

 束の中で、発案者であるラウラの株が物凄い勢いで下がっていく。

 だが、ふと彼女は思った。

 

(………自分が行ってビックリさせたら面白そうだね)

 

 ニヤリ。

 この場に晶が居たら、全力で止めてくれと言ったに違いない邪悪な笑みが浮かぶ。

 そうして彼女の思考が加速し始める。

 

(うん。そうだ。当日いきなり、直接行ったら、晶はどんな顔するかな。ちーちゃんも箒ちゃんも、さぞ驚くだろうなぁ~)

 

 天災()は自分の欲望に忠実に、学園祭当日の計画を練り始めた。

 人ごみで騒がれるのは少し面倒だから、変装して行こう。ついでに展示会なんてイベントが他であったから、何か作品を放り込んで注目を集めさせておこう。その他様々なアイデアが、脳裏を駆け巡っていく。

 

(うん。楽しい事になりそうだ。ドイツっ娘も、たまには良い事をするじゃないか)

 

 物凄い勢いで下がっていたラウラの株が回復していく。

 そしてもう1つ、是非ともやっておかなければならない事があった。

 

泥棒猫(楯無)に邪魔されちゃたまらないから、簡単だけど面倒な仕事っていうのを、増やしといてあげようかな)

 

 手元のキーボードを操作し、学園のサーバーに侵入。

 生徒会長の決済を必要とする電子書類を大量に増やしておく。

 

(ふふふ…………これで泥棒猫(楯無)は出て来れない。準備は完璧!!)

 

 と思っていたのは彼女だけでは無かった。

 ある意味似た者同士である束と楯無。

 故に思考も読みやすい。

 楯無はこの時、「もしかしたら学園祭に束博士が出てくるかも」なんていう噂を流す事で、しっかり邪魔する為の布石を打っていたのだった。

 

 

 

 第74話に続く

 

 ※1:ソニックブラスト社(登場作品:ACFF)

  ブースター関連について高い技術力を誇る企業。

 

 




今回は学園祭の準備と言いつつ、注目されているクラスメイトのお話がメインでした。
ものすごーくアバウトに言うなら、IS学園1年の平均ステータスが50くらいだとしたら、1年1組は60~70程度に底上げされています。そして数ヶ月でコレなので、3年後は恐ろしい事に………。
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