インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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第08話 トラップ!!

 

 とある秘密基地のオペレータールーム。

 そこでは南極基地にハックを仕掛けてきた束博士に対して、必死の防衛戦が行われていた。

 

「侵食率20% 速すぎます!! 第一防壁。一、二、三号機全て解体されました。第一層データ領域の削除間に合いません!!」

「第一層は現時点を持って破棄。第一層オペレーターは第二防壁の強化に入れ」

 

 統括オペレーターが手早く指示を出していくが、十分に冷房の効いた部屋であるにも関わらず額に浮かぶ汗が、相手の強さを表していた。

 

「当たって欲しくない予想ほど良く当たる。まさか本当に直接乗り込んでくるとはな」

 

 まだハックを仕掛けられてから20秒程しか経っていない。

 なのに全五層の防壁のうち、第一層が博士の手に落ちている。

 知ってはいたが、恐るべき手腕だった。

 しかも向こうは、普通ならば必ず使わなければならないはずのトラップだらけのアクセス経路を、ISを経由して直接アクセスすることでパスしている。

 これでは元々用意していた作戦が使えない。

 だが、統括オペレーターは“IS経由の直接アクセス”というところに勝機を見出していた。

 

「おい。先程撃破された無人IS 1号機、アレはまだ動くか?」

「胴体と右腕しか残っていませんが、辛うじて動きます」

「なら這いつくばってでもいい、さっき奴が設置した端末の元まで行かせろ。――――――既存のシステムを使わず、IS経由で直接アクセスしているというなら、使っているのは恐らくコアネットワーク。システム的には未確認ISが中継器の役割をして、先程設置した端末を使ってのアクセスだろう。なら設置した端末には、送信先の情報が、すなわち束博士の位置情報があるはず。勿論無い可能性もあるが、反撃の切っ掛けくらいは掴めるはずだ」

「了解しました。すぐに」

 

 副官が端末にコマンドを打ち込むと、遠く離れた南極基地で腕と胴体だけになった無人ISがゆっくりと這いずりながら端末に近付いていく。

 そして、その上空では未確認ISと無人IS 2機が戦闘を繰り広げていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「クソッ!! やりずらい!!」

 

 俺は悪態をつくが、敵機の動きは変わらない。

 片方を撃墜しようとすれば、残った1機が即座にシステムを狙う。

 こちらの目的がハックである以上、システムを守らざるえない。

 敵は無人機だが、背後には明らかに人の意志が見える狡猾な動きだった。

 更に言えば、今こちらには遠距離用装備が無い。

 “ラピッド・スイッチ”を使って装備変更をしようとそれは変わらない。

 レーザーライフル、ハイレーザーキャノン、プラズマキャノン、アサルトライフル。

 いずれも近~中距離用装備だ。遠距離戦に徹されると打つ手が無い。

 生きて帰れたら、次は必ずスナイパー装備とミサイラー装備を作ってもらおう。

 そう考えるが、それも無事に帰れたらの話。

 今は!!

 QB(クイックブースト)で放たれた砲撃を回避。レーザーライフルで反撃するが、距離が離れすぎていて容易く回避される。

 どうする? このままじゃジリ貧だ。

 考えろ。どうすれば懐まで入れる?

 ネクストの機動力ならほんの数秒で事足りる。

 その数秒をどうすれば作り出せる?

 今の俺の装備は、

 

 ―――ASSEMBLE

    →HEAD:063AN02

    →CORE:EKHAZAR-CORE

    →ARMS:AM-LANCEL

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS

    

    →R ARM UNIT  :EB-R500(レーザーブレード)

    →L ARM UNIT  :ER-R500(レーザーライフル)

    →R BACK UNIT  :RDF-O700(レーダー)

    →L BACK UNIT  :SULTAN(プラズマキャノン)

    →SHOULDER UNIT :063ANEM(ECM)

    →R HANGER UNIT :-

    →L HANGER UNIT :-

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01

 

 この装備で、どうすれば切り抜けられる?

 思考の最中、閃き。

 ここは南極。下は当然雪原。つまりは水分の塊。

 迷っている時間は無い。

 プラズマキャノンをアクティブにし、地面に向けてブーストダイブ。

 敵が無人機だっていうなら!! コレでどうだ。

 十分に地面に近付いたところでプラズマキャノン発射。

 超高温の弾体が雪原と接触した瞬間、水蒸気爆発で光学カメラがブラックアウト。

 だがそれは敵も同じはず。そして着地と同時に063ANEMを起動。

 プラズマキャノンで発生したECMと合わせて、光学観測及びレーダーから完全に姿を消す。

 ここでOB(オーバードブースト)起動。

 かん高い起動音も、起動の初期モーションも、爆発に紛れて敵からは見えない。

 爆発に紛れ、刹那の間に時速3000kmに迫る超加速。

 音を遥か彼方置き去りにして無人ISに迫る。

 反応すら許さずブレード一閃。エネルギーシールドと共に本体をも切り裂くが、両断するには至らない。

 が、折込済みだ。

 左腕装備のER-R500(レーザーライフル)の銃身を剣としてボディに突き刺す。

 そのまま、QB(クイックブースト)で高速旋回。

 遠心力で引き裂きながら、残った1機に向き直り、勢いのままに突撃。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「・・・・・ここまでだな」

 

 とある秘密基地にいる統括オペレーターは、南極基地上空で無人ISが撃墜されたのを見て、そんな言葉を漏らした。

 傍らに立つ副官が答える。

 

「では、次の段階に?」

「ああ。もう十分だ」

「了解しました。――――――丁度、無人ISが端末に取り付いたようです」

 

 統括オペレーターが、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「束博士本人のところならまだしも、端末の防壁如きでこちらのハックを止められると思うなよ。ここのシステムは?」

「リソースの58%を確保しています。理論上、南極基地のシステムと同等の処理速度です」

「気取られる前に終わらせるぞ。確保した全リソースを投入して端末の防壁を解体。第一班もこの作業にかかれ」

「了解しました。――――――総員聞いたな。ここが正念場だ。かかれ!!」

 

 階段状になっているオペレータールームに副官の声が響く。

 そして始まるのは、結果が見えている勝負。

 束博士は天才であり、真っ当な勝負どころか、相当のハンデをつけてもこちらの負けは覆せない。

 それは、悔しいがこの場にいる者全ての共通認識だった。

 だが、今回に限りそれが覆る。

 何故なら、使っているハードウェアに直接細工を出来るという反則が使えるのだから。

 更に言えば、端末に取り付いた無人ISは、無人機という特性上、対電子戦用装備が充実している。

 機能の大半を喪失しているとは言え、それのら装備はまだ、機能を失っていなかった。

 束博士お手製とは言え、ただの端末如きに防げるようなものでは無い。

 そして放たれる起死回生の一手。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「え? まさか!?」

 

 束博士が気付いた時は、全てが手遅れだった。

 自分が今使っているシステムが、直接ハックされている!?

 つまりそれは、居場所が特定されたという事に他ならない。

 

「うそ、ウソ、嘘!? どうやって? コアネットワークを使ってハックしてるんだよ? ISじゃなきゃ使えないネットワークに繋いでるココをハックするなんて、どうやって?」

 

 しかしすぐに気付く。

 今回のハックの弱点を。

 

「まさか、端末から情報を引き抜いて場所を特定したの! どうやって? 人の手で直接? いや、そんな人の手でどうこう出来るような柔い作りにはしなかった。――――――まさか、まさかまさかあの無人機。あれだけやられても機能停止していなかった?」

 

 即座に正解まで辿り着いたのは天才故か。

 だが分かったところで、居場所を知られたという事実が覆る訳ではない。

 ここから先は時間との勝負だった。

 よって、手製のアタックプログラムの中でも、相当に凶悪なものを幾つか起動。

 一瞬で端末の制御権を奪い返し、完全攻略間近だった南極基地の中枢システム、その基幹プログラムに自己増殖型ウィルスを送り込んで暫く使い物にならなくした後、端末に自壊命令を送り今後利用されないようにしておく。

 直後、アジトを守る広域センサー群から、敵が先手を打っていたのを示すような情報が送られてきた。

 

「軍隊? そういえばどこかの国が大規模演習をしてるって話が・・・・・」

 

 船体を確認すれば、フランス・イギリス・ドイツのものだと分かる。

 しかも一隻や二隻じゃない。

 空母を中心とした大規模艦艇群。幾つかの艦には、展開済みのIS反応もある。その数11機。

 冗談抜きで一国の総戦力に匹敵する戦力がこのアジトを、北海にある他に誰も住んでいないこの無人島を、包囲しようと展開を始めていた。

 

「まさか。私をダシにして軍隊を動かしたの?」

 

 その通りであった。

 各国の思惑がどうであれ、一致していたのは、身柄を確保してしまえば後はどうとでも出来るという事。

 そんな決断をさせるほどに、ISという分野において束博士は最先端を突き進んでいた。

 

「どうしよう・・・・・」

 

 親友である織斑千冬ですら滅多に見た事が無いような、困った表情。

 だが、浮かぶ表情は絶望のソレでは無い。

 

「やろうと思えば抜け出せるけど・・・・・」

 

 こうして考えている間にも、包囲網は狭まっていくが、考えるのは別の事だった。

 アレを使うか否か。

 天才科学者の常として、“こんな事もあろうかと”切り札は用意してある。

 異世界の傭兵。最後のORCA。あの青年が、正確に言えば持っていたメモリーに記録されていたネクスト技術と、各種AF(アームズフォート)の情報。

 特に、“最新にして最強の魔剣”AFアンサラーとネクスト技術が応用されたアレを使えば、あの程度の数を蹴散らすのに数秒とかからないだろう。

 しかし、一度使ってしまえば世界の知るところになる。

 そしてアレを万人が見たとき、下手をすれば、いや下手をしなくても世界の敵と言われかねない。

 当たり前だ。

 比喩でなく冗談でなく、一国の総戦力を数秒で殲滅出来るような兵器を個人が持つなど世界が許すはずがない。

 そして何より親友に迷惑がかかる。

 それは望むところじゃない。だから考える。この場面を切り抜ける方法を。

 得意のハッキングは・・・・・ダメ。

 こちらに向かってくる以上、それなりの対応策を用意しているだろう。

 特に、稼働中のISに対してハッキングなんて不可能だ。

 自身がそう作ったのだから、確実に不可能だと言える。

 

「・・・・・・・・・・」

 

 手札が無かった。

 使うしか無いのだろうか?

 そんな考えが脳裏をよぎり、どんどんと大きくなっていく。

 が、ふとあの青年の事を思い出す。

 傭兵なんて信用できる人種じゃないが・・・・・ダメで元々。

 話をしてみる位はしても良いだろう。

 99%、何かしら理由をつけて見捨ててくるだろうと思いながら、通信を繋いだ。

 

「どうした?」

 

 こちらが何かを言う前に、通信を繋いだ事自体が意外という表情と言葉が返ってきた。

 

「勿論。用があるから呼んだんだよ。実はちょっとマズイ事になっててね」

「貴女がマズイという位だ。相当マズイんだろうな」

「うん実は――――――」

 

 そうして切り札以外の事は、現状を包み隠さず話している間、彼は黙って聞いていた。

 そして聞き終わった後に一言。

 

「つまり、助けに行けばいいんだな?」

 

 と事も無げに言い放った。

 

「ちょっ!? 話を聞いていたの? 5対1で死にかけた人間が、11対1をしようっていうの!! しかも相手は援護を受けられるのに、そっちは一切の援護無しなんだよ。勝率なんて0%じゃないか」

 

 思いもよらぬ返答に慌ててしまう。

 束の頭脳をもってしても、勝てる可能性が見当たらないのに。

 常人がこの戦力差で勝てると思っているのだろうか?

 そんな事を思っていると、予想外の言葉を叩きつけられた。

 ありありと不満を見て取れる表情で。

 

「そっちこそ、俺を舐めているのか? この世界の誰も知らない。でも貴女だけは知っている。リンクスがどういう存在なのか。俺が誰なのか。何をしていたのかを。――――――さぁ、言ってみろ。篠ノ之束。俺が、誰なのかを」

 

 束を背筋を、ゾクリと何かが走り抜ける。

 そうだ。この男は、

 

「最悪の反動勢力ORCA旅団最後の生き残り。宇宙への道を切り開く為、億人の人間を清浄な空から、汚染された大地に引きずりおろした大罪人にして救済者」

「そうだよ。俺はそんなエゴの塊のような人間さ。それに貴女は、この世界で生きる手段を与えてくれた恩人。その人の危機に駆けつけないで、何時その恩を返すと言うんだ? 待っていてくれ。南極からソコまでだとちょっと遠いが、邪魔するものは全て粉砕してでも駆けつける」

 

 本気だ。間違い無く本気で彼はやる気だ。

 故に束は、彼を間に合わせる為に、本来言う気は無かったとある事実を教える事にした。

 

「・・・・・君のISには、1つリミッターがかけられている」

「ん?」

「それを作る時に私が言った言葉を覚えているかい?」

「あ、ああ。確か『君の機体を再現できる』だったな」

「そうだよ。そして、それはもう1つ意味があるんだ。再現しかしていないという意味のね」

「なに?」

「君の元々の愛機に使われていたコジマ技術。その慣性制御能力はISに使われているPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー=慣性制御)に比べて酷く限定的なものなんだよ。まぁ、その限定的な能力で10m級の機体を制御しているんだから、ネクスト技術は凄いんだけど。何が言いたいかと言うと、君のISは、IS本来の慣性制御能力を殆ど使っていない。あくまで、ネクストを再現しているだけなんだ」

「つまり、それは・・・・・」

「PIC制御を、コジマ粒子エミュレートモードからノーマルモードに切り替えれば、機動性が桁違いにあがる。でも注意して、その場合、QBだけで時速3000kmを越えて、OB起動の巡航速度は4000kmオーバー。メインブースターも最大出力にしたら、瞬間最高速5000kmを越える。そして空気抵抗の無い宇宙空間なら28400km、第一宇宙速度を叩き出すモンスターマシンになる。人が操れる次元じゃないよ」

 

 だが彼から返ってきたのは、ニヤリとした笑みと自信に満ちた言葉。

 

「何だ。それならソブレロに追加ブースター装備と同じくらいか。ありがとう。それなら、思っていたよりも早く助けに行けそうだ」

 

 通信が切れると同時に、画面に表示していたMAP上の光点が、凄まじい速度で移動を始める。

 上、つまり空に向かって。

 

「まさか・・・・・」

 

 思わず束は呟く。

 確かに今、『空気抵抗の無い宇宙なら』とは話した。

 だがそれをやれば、嫌でも世界中から注目される。

 傭兵家業を営んできた人間にとって、それは望ましくないはずだ。

 そこまでさせなくても、ここの防衛設備なら十分に時間が稼げる。止めさせるべきだ。

 束の理性はそう判断する。

 しかし感情は、別の判断を下した。

 そこまでして自分を助けに来てくれるというのが、何故だか嬉しかった。

 恩を返す為と本人は言っているが、それでも、その為に文字通り命と人生をかけてくれる人が、世の中にどれだけいるのだろうか?

 そう思うと、思わず目元が緩んでしまう。

 

「・・・・・馬鹿だよ君は。でも、こういう馬鹿は嫌いじゃないよ」

 

 博士の言葉が他に誰も居ない部屋に消え、彼女はハッピーエンドを迎える為の下準備に動き始めた。

 

 

 

 第9話に続く

 

 

 

 


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