インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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今回はの~んびりです。
お楽しみ頂ければ幸いです。


第79話 免許を取ろう

 

 とある日の日曜日。

 晶が自宅のリビングで雑誌を読んでいると、束が研究室から、首をコキコキと鳴らしながら出てきた。

 

「ん~~、疲れた。晶、コーヒー入れて」

「はいよ」

 

 彼女の注文に、雑誌を置いて立ち上がる。

 2人の間では、既に幾度と無く繰り返されてきたやり取りだ。砂糖やミルクの有無など、今更聞くような事は何もない。

 ちょっとした沈黙がリビングに流れる。

 するとソファに座った束が、テーブルの上に置かれた雑誌に目をつけた。

 

「何コレ………車? 晶、車に興味あるの?」

「興味って訳じゃないけど、あれば便利だなぁと思って。こっちの世界の免許は持ってないけどな」

「なら免許、取る? 有れば自由に運転出来るでしょ」

「取れるなら取りたいけど、俺の扱いって、一応高校一年生だろ。法律的に取れないんじゃないか。代表候補生なら多少融通が利くみたいだけど」

「代表候補生如きが融通されるなら、私のガーディアンが融通されないのはおかしいよ」

 

 一遍の疑いもなく言い切る束。

 常人が聞けばおかしな話だが、彼女にとって世界は自分を中心に回っているものだ。故に疑問を差し挟む余地など何処にもない。

 ちなみに自動車運転免許証の取得可能年齢は国によって異なるが、代表候補生は特例措置で、引き下げられている場合が殆どだった。

 その理由として希少なISとそのパイロットを守る為、『IS展開不可能状況における、逃亡手段の確保』という尤もらしい建前があった。だがこの通りに使われた試しはない。というのも代表候補生や専用機持ちともなれば、専属のお抱え運転手やボディガードがついて当たり前だからだ。

 今学園にいる代表候補生達も、自国に戻れば選りすぐり精鋭がその任務に就く事になっていた。

 代表候補生ではない一夏や箒にしても、2人が一言『欲しい』と言えば、速やかに手配されるようになっていた。(その希少性から、相当の厚遇が予想された)

 なお在籍中の日常生活においてそれが禁止されているのは、派閥闘争を防ぐ為である。

 

 閑話休題

 

 束は懐から携帯を取り出すと、親友(千冬)の番号をコールした。

 

『ねぇちーちゃん。1つお願いがあるんだけど』

『お前が頼み事? 聞くのが恐ろしいんだが』

 

 どんな無茶振りをされるのかと思い、予防線を張る千冬。が、“天災()”がそんな事を気にするはずもない。

 

『ん~、たいした事じゃないよ。晶が免許取りたいっていうから、IS委員会にねじ込んでくれないかな』

『寝言は寝てから言え。そしてやるなら自分でやれ。委員会もお前が顔を出せば喜ぶだろうよ』

『え~、あいつらいっつも同じ事しか言わないんだもん。イヤだよ。それにどうせ襲撃の件で委員会に行くんでしょ。そのついでに言ってきてよ』

『断る。私の仕事を増やすな。そして偶には日の下に出て来い』

『学園祭の時に出ていったじゃないか。ね、お願い』

『…………まったく、お前が他人の為に頼み事とはな。正直信じられんよ』

『そう? 私だって必要ならするよ』

 

 かつての束なら、他人の為に動くなど有り得なかっただろう。付き合いの長い千冬だからこそ断言できる。

 だが今は自分の男()の為とはいえ、こういう頼み事が出来るようになった。

 このまま少しずつでも変わっていってくれればと、親友として思わずにはいられない。

 

『それは悪かった。――――――ところで、学園の整備科にISコアが3つ来る事になった。お前が口を利いてくれたのか?』

『ううん。私は何もしてないよ。礼なら晶に言って。あのクソじじい(IS委員会議長)と、直接交渉してくれたんだから』

『クソじじい? 確かに老練な手段を使う御仁だが、いま何か色々な感情が混じっていたな。何があった?』

『まぁ………ちょっとね』

 

 イラッとした思いが束の胸中に蘇る。

 千冬はそれを敏感に感じ取った。

 

『何か厄介事を押し付けられたなら力になるぞ』

『ありがと。別に大した事じゃないんだ。学園襲撃の実行犯(ISパイロット)を押し付けられただけ』

『………超法規的措置か。断れなかったのか?』

『晶が言質を取られちゃってね』

 

 超法規的措置とは、言ってみれば法を超えて行う特別な措置のことだ。

 そして法を超えて行う以上、大抵の場合は秘密裏に行われる。

 人によっては秘密裏に行われる事なら、「その時の約束事なんて破ってもいいんじゃないか」と思う者もいるだろう。

 だがそれは大きな間違いだ。

 秘密裏に行われる事だからこそ、厳密な厳守が求められる。それは己の信用に直結するからだ。

 つまり言質を取られてしまった以上、その交渉内容を反故にする事は、己の信用を投げ捨てる行為と一緒だった。

 

『そういう事には注意してる奴だと思っていたが、珍しいな』

『絶対に呑めないだろう条件を出したら呑まれたって本人は言ってた。――――――あのクソじじいめ』

 

 言うまでもないなく、ISパイロットは美人揃いだ。そんな人間が3人も、自分の男の元に送り込まれれば不機嫌にもなるだろう。

 

『まぁ落ち着け。しかし裏社会の人間を預かったとなると、色々心配事が多いな。どうするんだ?』

『特に何も。首輪だけつけてPMCに放り込んだよ。刃向かえるものならやってみれば良い』

『首輪って、随分簡単に言うな。背後関係がそんなに簡単に洗えるなら苦労はないぞ』

 

 この時、千冬は首輪の意味を勘違いをしていた。

 背後関係や人間関係などを利用した監視と思っていたのだ。だが、束がそんな面倒な事をするはずが無かった。

 

『何言ってるのちーちゃん。文字通りの首輪だよ。発信器・盗聴器、その他沢山仕込んであるから、悪い事しようとしたってすぐに分かる。まぁ、本気で刃向かう気ならどうにかできる程度の代物だけどね』

『人間に首輪とは、余り良い考えとは言えないぞ』

『本当だったら二度と真っ当な人生が送れないところを、首輪程度で送れるなら安いものじゃないかな。PMCで働いてる限りお給料は出るし、国や組織の取引材料にされる事もない。今持っている技能を生かす事もできる。良い事づくめだよ』

『PMCの仕事は基本的に荒事だろう。依頼遂行中に刺客が来たらどうするんだ?』

『何もしないよ。というか来てくれたら嬉しいな。私の心配事が1つ減る』

『預かってる以上、それなりの責任があるはずだが?』

『うん。だから主力装備(パワードスーツ)は、撃震よりもちょっと良いやつ(F-5)を配備してあげたよ。まだ市場に出回ってないヤツだから、十分以上に面倒を見ていると思うな。だからこれ以上は、彼女達の実力次第ってこと』

 

 言葉は冷たいが、新型機(F-5)を配備しているあたり、それなりに面倒を見る気のようだ。

 以前の束だったら問答無用で見捨てていたであろう事を考えると、頼み事の1つくらいは聞いてもいいだろう。

 

『…………そうか。分かったよ。あと話が逸れたが、免許の件は委員会に言っておく。これで良いんだろう?』

『うん!! ありがとう。ちーちゃん』

 

 こうして晶は車の免許を取る事になったのだが、これがまた、ちょっとした騒動を引き起こすのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日、IS学園食堂。

 1年専用機持ちが勢揃いしている中で、晶は唐突に口を開いた。

 

「――――――あ、そうだ。明日から暫く、放課後の自主練少し早めに切り上げるから」

「暫く? 何かあったの?」

 

 皆が思った事を代表して聞いたのは、隣に座るシャルロットだ。

 

「ちょっと車の免許を取りに行く事になった。無いとやっぱり不便でな」

「免許? 良いなぁ。俺も運転してみたいな」

 

 無邪気に言ったのは一夏だ。彼もやはり男の子。車に興味があるのだろう。

 

「なら取るか? 専用機持ちって条件は満たしてるから、申請すれば通ると思うぞ。――――――あ、そういう意味では箒さんもか。どうする?」

 

 思わぬ言葉に2人は顔を見合わせ、一夏が遠慮がちに聞き返してきた。

 

「えっと、もしかして本当に俺達も取れるのか?」

「こんな事で嘘言ってどうする」

「マジで?」

「マジで」

「なら取る!! 車も良いけど、バイクに乗ってみたかったんだ。箒は?」

「………暫く使う機会も無いだろうし、遠慮しておこう。必要になったら取ろうと思う」

 

 しばし考え込んでから答える箒。だが彼女の言葉は本心を語っていなかった。本当のところは、『姉からのプレゼント』というある種のズルで専用機を手に入れてしまった為、専用機持ちの特権を使う事に後ろめたさを覚えたのだ。

 しかし感情が表情に出やすい彼女の心情など、ある程度の対人経験があれば、見抜く事など造作もない。フランス社交界の有名人(シャルロット)が口を開いた。

 

「こういうのは、取れる時に取っておいた方が良いよ。“運転出来ない”と“運転しない”じゃ随分違うからね」

「いや、しかし………」

 

 言葉を濁す箒に、シャルロットは更に続けた。

 

「無理に、とは言わないよ。でも後で苦労してもしらないよ」

 

 随分とオブラートに包んだ言い方だったが、こうまで言われては、箒とて彼女が言わんとしている事は分かった。

 万一の時、もしもISの展開が不可能な時、“車の運転が出来なくて逃げられませんでした”では困るからだ。まして箒の姉は篠ノ之束。かつて一夏が誘拐されたように、どれほどのリスクが有ろうと、身柄を手に入れようという輩は多いだろう。

 

「う、ううん………いや、そうだな。分かった取ろう」

 

 暫しの葛藤の末、肯く箒。

 すると免許の話が出たせいか、話題は自然と、好きな車の事になっていった。

 そして何故か、周囲で一斉にメールを打ち始める一般生徒たち。その送り先は――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 IS学園の食堂で専用機持ち達が楽しく話をしている頃、タレコミ(メール)でその情報を察知した自動車メーカー各社は、一斉に販売戦略の強化を決定していた。

 本人達のガードが固いのは周知の事実だが、それでも『専用機持ちが使っている車』という歌い文句は魅力的なのだ。

 また欲を言えば、周囲の専用機持ち(美少女)も口説き落として、CM起用出来れば文句なしだった。

 そんな思惑があるとある自動車メーカーの会議室では――――――。

 

「――――――ではこれより、緊急の販売戦略会議を始める。まずは状況確認だが、薙原晶の他、織斑一夏と篠ノ之箒の免許取得が確実になった」

 

 会議室がザワリとざわめいた。

 

「従ってこの会議の目標は単純明快だ。“如何にして我が社の車を買って貰うか”これに尽きる。では、各人の活発な意見を期待する」

 

 スッと手を上げる者が1人。

 

「好きな車種などの情報は?」

「情報源がタレコミだけなので確定ではないが、ある程度は分かる。織斑一夏はバイク。格好良い系が好きらしいな。スクーターは論外。篠ノ之箒はコンパクトな自動車がお好みらしい。ただ薙原晶が少し分からない。どうやら外見よりも性能を重視するタイプらしい。本人が割りと活動的。そして彼女(束博士)がいる以上、ある程度内部空間のある車が好みだろう」

 

 別の重役が口を開いた。

 

「ふむ。相手は基本的に時間の無い人間だ。営業担当に一々商品の説明をさせては、相手もイヤになってくるだろう。我が社以外にも猛烈な売り込みが予想されるとなれば尚更だ」

「ならどうする?」

「そこで私は、イベントという形での売り込みを提案する。他の会社にも呼びかけてな」

 

 その重役が提案したのは、IS学園の近くで様々な会社の多種多様な車を展示、そこに晶や一夏、箒を案内するというものだった。加えて言うなら、この3人が来るなら、かなりの高確率で他の代表候補生も来るだろう。一緒に売り込む事が出来れば、会社の増収間違いなしだ。

 

「悪く無い案だが、他の会社が抜け駆けする可能性はどうする? 律儀に約束を守ってくれる保証など何処にも無いぞ」

「先に自動車連盟の名前で、相手にメールを出してしまえば良い。そうすれば抜け駆けした会社は、今後自動車業界で干される事になる。それにイリーガルな手段を用いる輩は、向こうが勝手に排除してくれる。こっちは正々堂々、品質で勝負すれば良い。それに――――――」

「それに?」

 

 一度言葉を区切った重役は、これこそが最も重要な事だと言わんばかりに、全員を見渡してから言葉を続けた。

 

「薙原晶や織斑一夏、篠ノ之箒が買う車となれば、間違いなく確実に、あの“天災”篠ノ之束のチェックを受ける事になる。彼女のチェックをクリアした車なら、どこのどんな市場でも通用するステータスだろう。だから今回拘るのは品質その一点。我が社の製品が最優という事を示せば良い」

「なるほど。王道中の王道で行く訳だな。それだけに会社の自力が問われる。――――――面白い。私はこの案に賛成だが、他の者は?」

 

 会議室に、反対する者はいなかった。

 どのみち今回イリーガルな手段は使えないのだ。

 仮に使って一時的に商品を買わせたとしても、その後の報復が怖すぎる。

 よって今回は正攻法。会議に参加している重役達の認識は、珍しく完全に一致していた。

 そしてこの展示会の話は日本国内を飛び越え、世界中へと広がってく。気付けば世界の主要メーカー全てが参加する、巨大な一大イベントへと変貌していた。

 こうして後日、晶達の手元に案内メールが届くのであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「――――――車の展示会?」

 

 場所はIS学園の職員室。

 薙原晶は織斑先生に呼び出され、ある手紙を受け取っていた。

 その第一声が、先の言葉である。

 自動車メーカーは、晶達を確実に展示会に案内する為、幾つかの手を打っていた。

 とは言ってもイリーガルなものではない。

 話をIS学園に通し、織斑先生経由で直接案内の手紙を渡して貰う。

 只それだけの事だが、この方法、意外と効果的であった。

 何故なら薙原晶という男、少しばかり物事の裏側まで考えてしまうところがある為、免許の話が出た後に自動車メーカーの売り込みが無いのを、少しばかり不思議に思っていたのだ。

 そこへ、この案内である。

 

「なるほど。道理で売り込みがない訳だ」

「行くのか?」

 

 イスに足を組んで座っている織斑先生が、コーヒーを片手に尋ねてくる。

 

「折角こんなイベントを立ててくれたんだ。行って来ますよ」

「珍しく素直だな」

「色々な車が一同に集まるなら、好みの車を探す手間も省けます。それにこういうイベントだと、ちょっと斬新なアイデアを盛り込んだ商品もあるでしょうから、少し楽しみですよ」

「どうせ束を乗せるんだろう? 真っ当な――――――」

 

 真っ当な車にしろ、と言い掛けて、彼女はそれが意味の無い言葉だと気付いた。

 あの女()が、真っ当な車で満足するはずがない。そして晶もあいつの彼氏だけあって、面白いものを好む傾向がある。

 加えて言えば、2人は楽しくなってくると悪乗りする性質だ。その度合いは足し算ではなく掛け算、或いは二乗という、常識人を自負する千冬にとって少々頭の痛いところだった。

 しかも彼は――――――

 

「真っ当? まさか。俺と束が乗る車ですよ。どんなのにせよ、購入した後はフルカスタムに決まってるじゃないですか」

 

 イイ笑顔で、こんな返答をしてくれたのだ。

 彼女が頭を抱えたくなったのも無理からぬ事だろう。束がフルカスタムするとなれば、どんなモンスターマシンになるか分かったものではない。公道を走って良い車かすら危ういものだ。

 なので千冬は常識人として、一応自重して欲しい旨を伝えておく事にした。

 

「頼むから、車の範疇に収まる程度にしてくれよ。目立たない車が1番安全なんだからな」

「分かってますよ。目立ち過ぎると人目を避けるのが大変ですからね」

 

 至極真っ当な言葉のはずなのに、安心出来ないのはどうしてだろうか?

 束が背後にいると、「見られたくないなら光学迷彩でいいじゃない」と言いそうな気がしてならない。

 そんな雰囲気を察したのか、晶はもう一度口を開いた。

 

「大丈夫ですって、いくら束でも、公道を走れないようなカスタムをしたりはしませんよ。きっと」

「そう信じたいところだが、あいつの場合、色々前科があるからな」

「それを言われると弱いですが、一応言っておきます」

「………多少とはいえ、あいつが他人の言う事を聞くとはな。変われば変わるものだ」

 

 しみじみと言う千冬だが、口を開こうとする晶を見て、慌てて次の言葉を口にした。

 

「ああ、惚気話はしなくていいぞ。あいつから散々聞かされてるからな。正直お腹一杯だ」

「デザートは別腹って言いませんか?」

「甘過ぎるのはお断りだ」

 

 こんな話をしていると、山田先生が職員室へ戻ってきた。

 

「あら、晶君。どうしたんですか?」

「企業から手紙が来たみたいなので、受け取りに」

「手紙? どんなのですか?」

 

 晶が開封した中身を見せると、山田先生は手紙を覗き込んだ。

 身長差から深い胸の谷間がよ~く見えるが、気合いと根性でどうにか視線を逸らす。

 

「主要一流メーカー勢揃いじゃないですか。しかも希望するなら、学園関係者を全員招待するって。凄いですね」

「だが他の生徒達に知らせるのは、裏が無いかを確認してからだ。学園が襲撃されたばかりだからな。こちらとしては神経質にならざる得ない。だから晶も、結果が出るまでは黙っててくれ」

「分かりました」

 

 そうして展示会が調べられた結果、陰謀らしきものは確認されなかった。

 これを受けてIS学園は生徒及びその家族に、今回の話を伝達。するとそのタイミングを狙っていたかのように、マスコミ各社が展示会の報道を始め、瞬く間に世間の注目を集めるのだった。

 

 

 

 第80話に続く

 

 

 




今回、珍しく(?)企業は企業として真っ当に活動してます。
でもどこかに変態企業がいて、変な試作品が出てくるかも…………。

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