インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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XINN様よりブルーティアーズ・レイストームのイラストを頂けました。
ありがとうございます!!
一番最後に掲載しております。



第88話 2人目のセカンドシフト(イラスト有り)

 

 空港奪還と巨大兵器の撃破から数日たったある日の夜。セシリアは学園寮の自室で、NEXTの戦いを思い出していた。

 特に巨大兵器と相対した時の機動は、イグニッションブースト(瞬時加速)のような高等技術を使わずとも、激しい弾幕をかい潜れるというお手本のような機動だった。

 見るべきところは多く、良いところを上手く吸収出来れば、ISパイロットとしてまた1つ成長出来るだろう。

 だが問題も見つかった。いや、今更気付かされたと言うべきか。

 ブルーティアーズの機体コンセプトは遠距離型。スナイパーライフルでの長距離攻撃と、ビット兵器による手数で勝負する機体だ。

 しかしこの武装構成には、ある致命的な弱点が存在していた。

 これはパイロットの腕とは別次元の問題だ。

 1つ1つの武装について考えてみよう。

 スナイパーライフルの一撃は重い。武器の命中精度も高い。だがバラ撒くタイプの兵器でない以上、射手が正確に相手を狙う必要がある。不殺を志すなら、より集中が必要になる。

 ビットは多角的に敵を攻撃出来る優れた兵器だ。だがコントロールするのはパイロットの意思。複数の敵に対して同時にビットを差し向ければ、どうしても制御が甘くなる。不殺の為コントロールに集中したなら、今度は機体制御が甘くなり、撃墜される危険性が高くなる。

 未だ一度も起動に成功していない偏向射撃(フレキシブル)。これは放ったレーザーをパイロットの意思で“曲げる”というレーザー兵器の常識を覆すものだが、集中が必要である以上、ビットと同様多対一には向かない。集中によって機体制御が甘くなれば、どうしても撃墜の危険性が高くなってしまう。

 これらの武器特性を考えた時、ブルーティアーズの設計思想が見えてきた。

 すなわちこの機体は、“ISはISでしか倒せない”という、ある意味IS同士の一騎打ちを前提にしているのだ。

 

(ですが一騎打ちでは駄目なのです。私の願いは、本当の戦場での不殺。その為には――――――)

 

 IS同士の戦闘なら、そもそも不殺という事そのものを余り考えなくて良い。

 絶対防御という他に類を見ない優秀な防御システムが、パイロットを護ってくれるからだ。

 しかし先日見たNEXTの戦場、大隊規模のパワードスーツや巨大兵器などを相手取る場合、今のブルーティアーズでは力不足だった。

 どれほど上手くライフルやビットを使ったところで、NEXTと同じ結果など出せないだろう。

 まして不殺のまま無力化など、無理だと言わざるを得なかった。

 

(――――――多数の相手を同時に、速やかに狙い撃てる。そんな装備が必要ですわ)

 

 不殺を志したその時から、彼女はあらゆるIS用装備を調べていた。が、そんな都合の良いものは存在しなかった。

 加えて言えば、ここでブルーティアーズが試験機であるという事実が、重く圧し掛かっていた。

 BT兵器使用に最適化されている本機は、他の実戦配備型のISに比べ拡張領域(パススロット)が少ない。つまり状況に応じた装備変更で状況に対処する、という方針が取れないのだ。

 

(――――――私では、届かないというのですか?)

 

 諦めにも似た感情が脳裏を過ぎる。だが彼女は諦めていなかった。

 それは何故か?

 セカンドシフトがどれほど規格外の性能をもたらすか、身を持って体験しているからだ。

 シルバリオ・ゴスペル(銀の福音)は広域攻撃能力の強化。

 白式は近接戦闘能力の強化。

 いずれも全体的に底上げしながら、機体特性を大きく伸ばす形で進化している。

 なら、ブルーティアーズは?

 元が遠距離型で、命中精度と手数を重視した機体なら、それらの特性が大きく伸びるはず。

 不思議と、そんな確信があったからだ。

 そうしてふと外を見ると、先ほどまで見えていた月が雲に隠れ、横殴りの強い雨が降っていた。

 時折雷が落ち、轟音が響き渡っている。

 

(雷ですか。久しぶりに見………)

 

 この時、彼女の脳裏に閃きが走った。

 今までの訓練と実戦経験が結び付き、心の中に“何か”が生まれる。

 上手く言葉に出来ないが、その閃きに可能性を見た彼女は、その“何か”について思考を巡らせていく。

 再び落ちる雷。

 煌めく雷光が、急速に“何か”のイメージを形作っていく。

 そうして形作られたイメージを、彼女の愛機(ブルーティアーズ)は読み取った。

 主の強固な意志と共に。

 突如として脳裏に流れるシステムメッセージ。

 

 ―――パイロットの意志を確認。

 

 ―――進化方針決定。

 

 ―――蓄積経験値リミットオーバー。

 

 ―――セカンドシフト条件クリア。

 

 ―――進化開始。

 

 次々と送られてくるメッセージは、ブルーティアーズ新生の産声だった。

 機体が格納されている量子空間で、機体が再構築されていく。

 

 ―――高効率レーザー発生機関、“LAY”構築開始。(※1)

 

 ―――精密光学誘導システム-1“MT-SYSTEM”構築開始。(※1)

 

 ―――精密光学誘導システム-2“MO-SYSTEM”構築開始。(※1)

 

 ―――強化型広域データリンクシステム構築開始。

 

 ―――多目的オペレーションシステム構築開始。

 

 ―――ビットコントロールシステム再構築開始。

 

 ―――内装系再構築開始。

 

 ―――装甲形状再構築開始。

 

 そうして次々と送られてくる機体の各種性能値は、特殊型とも言うべき偏ったものだった。

 まず機体本体だけを見た場合、内装系の全面的な見直しによる省エネ・高効率化に加え、物理装甲を薄くする事で、新装備搭載用の積載量を稼いでいる。これにより機体重量を上げる事無く新装備が使用可能になり、ブースター周りの強化と合わせて、機動力の理論値は第4世代機(紅椿)と同等以上になっていた。

 尤も機動力という一点だけを見れば、白式・雪羅には及ばない。アレは近接特化型で、元々機動力に重きを置いている。単純に比較する事自体が間違いだろう。

 また内装系強化の恩恵により、レーザー兵器主体であるにも関わらず、量産機以上の継戦能力を示していた。

 ここまでなら単純に、非常に優秀な機体と言えるだろう。

 だが、確かな欠点も存在していた。

 物理装甲が薄くなった分の防御力をエネルギーシールドに依存した事により、被弾時のエネルギー消費が激しくなってしまったのだ。

 更に元々少なかった拡張領域(パススロット)が新装備により圧迫され、格納可能な装備が非常に限られてしまっていた。

 つまり状況の変化に装備変更で対応する、という方針が殆ど取れない機体になってしまったのだ。

 加えて新装備の使用に特化した特殊な進化をしてしまった為、パワーアシスト機能は第1次形態を下回っていた。仮に他のISと純粋な力比べという状況に陥った場合、下手をすればそのまま組み伏せられる可能性すらあった。

 しかしそれら欠点を差し引いても、ブルーティアーズが生み出した新装備群は強力だった。

 新たに構築された高効率レーザー発生機関(LAY)と2種類の精密光学誘導システムは、偏向射撃(フレキシブル)の仕様を更に推し進めたもので、一度ロックオン・発射してしまえば、ハイパーセンサー認識下にある限り、機体側でレーザー誘導を行ってくれるというものだ。無論機体側の誘導に、パイロットの意思を反映させる事も出来る。

 つまりパイロットが武器だけを狙うと決めていた場合、不殺のままに無力化する事が出来る。

 戦場でセシリアの願い(不殺)を実現する為の、根幹となるシステムだった。

 

(――――――凄い)

 

 彼女は驚きを隠せなかった。

 だがこれで終わりでは無かった。

 ブルーティアーズは今までの経験全てを、余す所無くこのセカンドシフトに注ぎ込んでいたのだ。

 ビットの高性能化とコントロール用イメージインターフェースの改善、加えて今までの蓄積データから、ある程度の自律行動を可能とし、パイロットの負担が大幅に軽減されていた。

 また先日束博士お手製のオペレーションシステムを使った経験により、“味方を使う”という事を学習していたBTコアは、通信能力の強化と多目的オペレーションシステムを構築。味方機との効果的な連携を可能としていた。

 そうして全ての再構築が完了した時、最後にBTコアから、第2次形態のイメージが流れてきた。

 まず目についたのは、有機的な一対二枚の純白の翼。

 次いで両手足。パーツの大胆なシェイプアップにより、生身の人間が纏う防具と変わらないサイズにまで小型化されている。流麗なデザインと合間って、マルチフォームスーツ(IS)のような無骨さは微塵も感じられない。

 腰部には新たに、膝上まであるスカート状の装甲が形成されていた。両サイドに1機ずつ、腰裏に2機のBT兵器が懸架されている。

 胸部装甲は狙撃時に腕の動きを妨げないよう、必要最小限の範囲の胸当てとなっていた。結果少々女性的な膨らみが強調される形になっていたが、性能と引き換えなら些細な問題だろう。

 肩部非固定装備(アンロックユニット)は、懸架されるBT兵器の高性能化に伴い大型化し、彼女の身長とほぼ同じ大きさにまでなっていた。流麗で曲線、白色を基調として構成されたデザインは、彼女を左右から包み込む翼のようだ。

 頭部装備の超高感度ハイパーセンサー「ブリリアント・クリアランス」は、外見はそのままだったが、その性能は第1次形態とは比較にならないほど強化されていた。元々センサー系が優秀であった事を考えれば、恐らく索敵性能は既存IS中最高だろう。

 主武装たるレーザースナイパーライフルは、威力・命中精度・弾速・射程距離が大幅に向上していながら、リロード性能が据え置きという、スナイパーライフルとして正統かつ凶悪な進化を遂げていた。

 そしてこの機体を見た者の第一印象は“天使”だろう。

 純白のドレスに蒼い鎧を纏った天使。

 背部にある一対二枚の翼と、翼のように見える肩部非固定装備(アンロックユニット)が、そのイメージを強調している。

 余りにも印象的な姿に、少々気恥ずかしい気がしないでもないセシリアだったが、同時に良いとも思ってしまった。

 不殺を志すなら、こんな姿も良いだろう。

 

(これが、新しいブルーティアーズ。私の新しい力。名前は――――――)

 

 こうして全ての再構築が終了した時、彼女の次の行動は決まっていた。

 不殺を志したあの日、足手纏いにならないだけの力を得た(セカンドシフトした)なら、思いを告げると決めていたのだから――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そうして横殴りの雨が降り注ぐ中、セシリアは晶を、アリーナ入り口に呼び出していた。

 恐らく彼女がやろうとしている事は、世界一物騒な告白だろう。

 しかし彼女は、それで良いと思っていた。

 乙女らしく恥じらいのある告白も良いが、新しい自分を見せるならこれ以外の方法は無い。

 そんな事を思っていると、制服姿の思い人()が現れた。

 傘を差していないのに濡れていないのは、IS部分展開の応用だろう。

 

「こんな時間に、どうしたんだ?」

 

 彼女の前に立った晶が口を開いた。

 セシリアは答える。

 

「こんな時間に御呼び立てして申し訳ありません。つい先程、第二次形態への移行(セカンドシフト)が適いましたので、他の誰よりも、まず貴方に見て欲しかったのです」

 

 この言葉に、晶は驚きを隠せなかった。

 本人が並々ならぬ努力をしているのは知っていたし、足掻いているのも知っていた。いずれセカンドシフトするだろうとも思っていた。しかしそれは、まだ先だと思っていたからだ。

 

「そうか。ついにやったんだな。おめでとう」

 

 素直な褒め言葉。

 だが彼女は首を横に振った。

 

「その言葉、今暫く取っておいて頂けませんか」

「何故?」

「私と、一戦交えて頂きたいからです。私の願いは不殺。この新しい力が、それを適えるに足る力かどうか、貴方に見て欲しいのです」

 

 真っ直ぐな視線が晶を射貫く。

 彼はこういう人間が嫌いでは無かった。

 確かに不殺は、人によっては甘いと言うだろう。しかし無理に感情を押し殺してトリガーを引くより、よほど人間らしいと思えた。まして彼女は不殺のリスクを認め、他者にそれを押し付けない。あくまで自分が出来る範囲で行おうとしている。

 そんなところは、とても好感が持てた。

 

「分かった。見せて貰おうか。お前の新しい力を」

 

 応えた晶は、マスターキーを使ってアリーナの扉を開いた。

 本来は教員しか持っていないはずだが、彼はアリーナを使う機会が何かと多い為、持たせて貰っていたのだ。

 そうして2人並んでアリーナに行く途中、セシリアが口を開いた。

 

「新しい私に、驚かないで下さいね」

「随分自信があるようだな」

「それはもう。今でしたら、一夏さんとだって良い勝負が出来ますわ」

 

 今現在1年生専用機持ちの中で、一夏の勝率はかなりのものだった。

 まだまだ荒削りなところは多いが、最初期からNEXT()の指導を受けているだけあって(つまり一番叩きのめされた回数が多い)、勝負所に対する嗅覚が随分と鋭くなっていたのだ。

 そして本人の思い切りの良さに加え、白式・雪羅はセカンドシフトした近接特化型。機動性、攻撃速度、一撃の破壊力、継戦能力のいずれもが、第3世代機を遥かに上回る。少々の腕の差など問題にはならなかった。

 今1対1で良い勝負が出来るのはラウラだろう。流石特殊部隊の隊長をしていただけあって、近接型が嫌がる戦い方というのを心得ている。

 次点でシャルロット。だがこちらは市街地や山岳などの地形効果を利用出来るなら、という条件付きだ。むしろ第2世代機のラファールで、第3世代のセカンドシフト機を相手に出来る方がおかしい。彼女が第3世代機を手に入れたらどうなるか楽しみだ。

 箒は第4世代機(紅椿)の性能もあって、ある程度勝負にはなるのだが、機体の汎用性を使いきれていなかった。距離によって攻撃を上手く使い分けられれば、もっと良い勝負になると思うのだが………。

 そして対一夏戦で一番苦労しているのは鈴だった。得意とする戦闘距離が重なっている為、どうしても機体性能差の影響を受けてしまうのだ。加えて言えば、白式・雪羅の零落白夜は当たれば一撃必殺。そんなものをフェイントで使われれば、嫌でも意識せざるを得ない。見せ技と分かっていても対処せざるを得ず、その隙を突かれるという負けパターンが多かった。

 そんな相手と、彼女は良い勝負が出来ると言ったのだ。

 晶は思わずニヤリと笑ってしまった。

 

「言ったな。前言撤回は無しだぞ」

「致しませんわ」

 

 彼女も笑いながら答える。

 これから一戦交えるとは思えないほど気安いやり取り。

 そうして2人は施設内部の扉を開き、広いアリーナの中央で向かい合った。

 

「一応聞いておこう。どこまでやる?」

「愚問ですわ。私の願いは不殺。それが出来るという証明をするのなら、貴方が手に持つ武器を破壊する、という以外に私の勝利条件がありますか?」

「良いだろう」

 

 晶が了承したところでアリーナのシールドシステムが稼動し、2人が観客席から隔離される。

 これで少々派手にやったところで、周囲に被害は出ない。

 加えて束が電子的にアリーナを掌握。例えここで何が起ころうと、一切記録には残らない。

 彼女も興味があったのだ。凡人の理想が、ISにどういう進化をもたらしたのか。

 

「では」

「始めようか」

 

 その後の行動は、申し合わせたかのように同じだった。

 2人同時にISを展開してバックブースト。

 互いに距離を取りながら武装をアクティブ。

 セシリアはスナイパーライフルを照準しつつビットを展開。

 晶も右腕に装備したレーザーライフル(ER-R500)を照準しつつ、左背部に装備したオービット(WB26O-HARPY)展開。

 互いの銃身から光が放たれると同時に、射出された両者のビット群が一斉に行動を開始する。

 そして世界初、ビット兵器同士による射撃戦が始まった。

 放たれた多数のレーザーがアリーナの地面を焼き、観客席を護るシールドに無数の波紋を残しては消えてゆく。にも関わらず撃ち合うビットの数は減っていない。2人は全てのビットを同時にコントロールし、射撃・回避・移動といった行動を取らせているのだ。

 しかもそれらを行いながら、自身らも射撃戦を行っている。

 セシリアがセカンドシフトする前なら、この時点で決着がついていただろう。

 この時点で晶は、セシリアの評価を引き上げた。

 空いていた左腕に、ガトリング砲(GAN01-SS-WG)をコールする。

 銃身が回転を初め、次々と吐き出される弾丸にセシリアは回避を余儀なくされる。

 だがその状態でも、彼女はビットの制御を失わなかった。

 速やかに自身とビットを弾幕の範囲から退避させつつ反撃。その動きに乱れは見られない。

 NEXT()クイックブースト(QB)で反撃を回避しつつ、右背部にミサイル(PLATTE01)を、肩部に連動ミサイル(BELTCREEK03)をコールする。

 これを見たセシリアが嬉しそうに笑った。

 

(何か考えがあるのか? 面白い。凌げるなら、凌いでみろ。セシリア・オルコット)

 

 装備したミサイルに全弾発射をコマンド。

 総計320発。並のISなら逃れる事など不可能だ。

 この攻撃に対し、何とセシリアはその場に停止。空中に浮遊したまま口を開いた。

 

「これが新生ブルーティアーズの、新しい力ですわ」

 

 そう言いながら突き出された左手に、雷光の輝きが灯る。

 この瞬間、晶の脳裏にある種の閃きが走った。

 それは危機感かもしれないし、期待感かもしれなかった。

 ただ確かな事は、彼はこの瞬間に何か感じ、防御行動と回避運動を取ったという事だった。

 左腕ガトリング砲をリリースし、代わりにコールした剣盾複合兵装(EB-R500)をシールドモードで起動。

 直後晶は、自分が見た光景を、一瞬とは言え信じられなかった。

 彼女の手から放たれた一筋の雷光が、空中で幾度も屈折しながらミサイルとビットを迎撃していき、最後には構えていたシールドにまで届いたのだ。

 流石にダメージまでは通らなかったが――――――。

 

(――――――あの数を迎撃した上で、こちらに攻撃を届かせた!?)

 

 恐るべき力だった。

 レーザーを“曲げる”偏向射撃(フレキシブル)は、ブルーティアーズが元々持っていた能力だが、今の攻撃は“曲げる”どころじゃない。

 弾速を落とす事なく幾度もレーザーを屈折させている。

 つまり普通の回避運動では回避出来無いということ。ダメージを受けたくないなら、切り払うか盾で受けるか迎撃する必要があるだろう。

 

(ISは、ここまで進化するものなのか!?)

 

 平静を装いつつ、晶は内心で歓喜していた。

 自分を打倒しうる2人目の出現は、本当なら喜ばしく無いんだろう。だが自分の教えで、彼女自身の努力があったにせよ、ここまで成長した姿を見せてくれたのだ。嬉しく無いはずがない。

 自然と、晶の口は動いていた。

 

「――――――凄いな。今の、一発しか撃てない訳じゃないんだろう?」

「勿論です。この力は、私の願いを形にする力。一発しか使えないのでは、お話になりませんわ」

「なるほど」

 

 BTコアがどうやってこれほどの力を生み出したかは分からない。

 だがそこに彼女の意思があったのは間違いない。純粋に願いを追い求めた結果が、今の彼女だ。

 晶は続けて口を開いた。

 

「――――――新しい名を、教えてくれないか」

 

 ブルーティアーズのセカンドシフトした姿は、純白のドレスに蒼い鎧を纏った天使のような姿だ。

 新しい名前も、それに準じたものだろうと思っていたが、返ってきた名は少々意外なものだった。

 

「ブルーティアーズ・レイストーム(※1)」

光の嵐(レイストーム)か。名前通りの性能なら、恐ろしい事になるな」

「試してみますか?」

 

 挑発的に彼女が笑う。

 答えは1つしか無かった。

 

「勿論じゃないか」

 

 返事と共に、NEXTは全武装ををリリース。

 新たな武装をコールする。

 

 →R ARM UNIT  :04-MARVE(アサルトライフル)

 →L ARM UNIT  :051ANNR(ライフル)

 →R BACK UNIT  :EC-O307AB(破壊天使砲)

 →L BACK UNIT  :EC-O307AB(破壊天使砲)

 

 この武装を見たセシリアは、驚きと共に歓喜した。

 背部のあの装備は、かつてIS学園に無人機が侵入した時、上空からアリーナに撃ち込まれた実戦装備。6本の光の柱が地面に突き刺さるあの光景は、今でも彼女の記憶に鮮明に焼きついていた。

 そして放課後のトレーニングでは、まだ一度も使われていない。

 

「嬉しいですわ。それを向けるに足る相手と、認めてくれたのですね」

「認めよう。よくそこまで磨き上げた。そしてだからこそ、言わせて貰おう」

 

 セシリアは嬉しかった。今まで背中を追い掛けるだけだった相手が認めてくれたのだ。だが同時に、雰囲気が変わった事も感じ取っていた。

 晶の言葉は続いていく。

 

「覚悟しておくと良い。お前はもう只の専用機持ちとは見られない。俺と同じ、単体戦略兵器として見られるだろう」

 

 彼女は一瞬、言われている意味が分からなかった。

 こうして戦っているからこそ分かる。セカンドシフト機と言えど、NEXTがその気になれば決着は一瞬だ。にも関わらず、NEXTと同じ単体戦略兵器?

 隔絶した戦闘能力の差を知るが故に、彼女はどうしても“同じ”という部分に違和感を覚えた。

 だがそれは、彼女の視点でしかなかった。

 彼女の願いを形にする新しい力は、ハイパーセンサー認識下にある限り、レーザーを確実に目標へと誘導する。

 同じISであるなら、盾で防ぐ、切り払う、迎撃する、最悪機体を守るエネルギーシールドで受けるなど防御手段もあるだろう。

 しかし通常兵器にそんな手段は取れない。

 戦闘機の速力と運動性ではレーザーを避わせない。

 戦車の装甲ではレーザーを防げない。

 パワードスーツでは運動性も速力も装甲も足りない。

 つまり不殺を願った彼女の新しい力は、力持たぬ者(IS以外)を、誰よりも効率的に虐殺可能な力だった。

 そこに思い至った時、彼女は理解した。

 NEXTのような戦闘力は無い。白式・雪羅のような突破力も無い。シルバリオ・ゴスペル(銀の福音)のような広域攻撃能力も無い。

 だがこの新しい力は、存在そのものが抑止力になる。

 数の暴力を覆す質となったのだ。

 

「わ、私が………」

 

 手に入れた力の大きさに気付き、戸惑うセシリア。

 そんな彼女に対し、晶の言葉は更に続いていく。

 

「だから、もう一度言おう」

 

 左手のライフル(051ANNR)が向けられる。

 

「覚悟しておけ。単体戦略兵器たるお前を墜とせるなら、あらゆる手段が使われるだろう。お前の不殺に付け込むゲスも必ず出て来る。そんな時は、どうする?」

 

 意地悪な問いだった。

 そして晶は、セシリアには答えられないと思っていた。しかし彼女は彼が思っていた以上に、不殺が抱え込むリスクと向き合っていた。

 

「理想と現実は違う。分かっているつもりです。ですから、警告は1回だけ。武器を穿たれて、それでも尚向かってくる相手に、何を手加減する必要がありましょうか? 己の命をかけて向かってくるなら、それは全力を持って戦うに値する敵と判断致しますわ」

 

 彼女が実際の戦場でそれを出来るかどうかは分からなかったが、この返事を晶は本気と取った。

 だからこそ、彼の返事は苛烈なものとなった。

 

「そうか。なら――――――」

 

 ブルーティアーズ・レイストームのセンサー群が一斉に反応する。

 NEXTのエネルギー反応が急速上昇。

 

(これは!?)

 

 計測された数値は、かつてIS学園に無人機が侵入した時と同等クラス。つまり、戦闘出力だ。

 

「――――――見せてくれ。お前の全力を」

 

 セシリアの背筋を、ゾクリと冷たいものが走る。そして同時に思う。

 薙原晶は、戦闘において手抜きをしない。そんな男が戦闘出力を使ってまで、全力を見せて欲しいと言ったのだ。

 

(こんな機会(チャンス)、恐らく二度とありませんわ)

 

 彼女は即座に決断した。今回は、機体が大破する寸前まで酷使する。いや、コアさえ無事なら大破したって構わない。

 戦闘出力のNEXTと1対1で戦えるなど、そうある事では無い。

 今全てを出し切らなければ、必ず後悔する。

 

「分かりましたわ。では、踊って下さいませ。私とブルーティアーズ・レイストームの奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」

 

 この後の戦闘は、僅かな時間で決着が付いた。

 セシリアは武器破壊という目標を達成できず、セカンドシフトしたばかりの真新しい機体は、酷使され大破寸前という酷い有様だ。

 イギリスのIS関係者が見れば、余りの酷さに怒鳴り散らしたかもしれない。

 しかし彼女にとって、今回の戦闘はそこまでする価値のあるものだった。他では決して出来ない貴重な経験だ。値千金と言っても良い。

 そして決着が付いた後、大地に四肢を投げ出して倒れている彼女は、空を見上げていた。

 振っていた雨はいつの間にか止み、綺麗な満月が見えている。

 

「――――――大丈夫か?」

 

 近付いてきた晶の声に視線を動かす。

 彼女自身は既にクタクタでボロボロだというのに、彼は涼しい顔をしている。疲れている様子も無い。

 全力を尽くして尚この差だ。セカンドシフトして少しは近づけたかと思ったが、まだまだらしい。

 

「ええ。大丈夫ですわ。少し疲れただけですもの」

「そうか。少しやり過ぎたかと思ったが、良かった良かった」

「あら、貴方に手加減が難しいと思われる程度には、私強くなれたのですか?」

「さて、どうだろうな? ただ、やり過ぎたと思うくらい、戦ってて楽しかったよ」

 

 そう話す晶の表情は、子供のように屈託の無いものだった。

 

「褒め言葉と取らせて貰いますわ。――――――そうだ。起きるのに手を貸して頂けませんか?」

「ん。ああ、気づかなくてすまない」

 

 差し出された手を掴むセシリア。

 だが彼女は起き上がるのではなく、逆に手を引っ張り、晶を自分の胸元に倒れこませた。

 

「ちょっ、どうした?」

「私ね、セカンドシフトしたらやろうと決めていた事がありますの」

「それは?」

「その前に、1つ答えて下さい。今の私は、戦場で貴方の隣に立てますか? 足手纏いになりませんか? 戦う者として、実力は足りていますか?」

 

 セシリアの視線が、至近距離から晶を射抜く。

 嘘は許さないという真剣な表情だ。

 だから彼も本気で答えた。

 

「戦ってみて分かった。お前の第2次形態は歪な進化をしている。恐らくお前の願い(不殺)を適える為に、様々な部分を削ったんだろう。そのせいか、パワーアシスト機能や防御が弱い。元々白式のような近接機体との相性は良くなかったが、それが更に先鋭化している。恐らく、いや確実に近接戦闘能力は第3世代機に劣る。鍔迫り合いなんてしようものなら、一方的に打ち負けるだろう」

 

 改めて指摘される弱点に、彼女の表情が曇る。

 

「――――――だが懐に入られず射撃戦に徹する事が出来れば、今のお前に勝てる奴はそういないと思う。レーザーは全て高次元の偏向射撃(フレキシブル)の上に、部位を狙い撃てる精密照準。スナイパーライフルの威力・弾速・リロード・射程距離も高水準。仮にお前と戦うなら、レーザーの切り払いと全方位の知覚が最低条件になる。後衛を務めてくれるなら、並大抵のミッションは随分楽になるだろうな」

「なら………」

「ああ。戦えるだろう。だが十分に注意して欲しい。お前にとって連続被弾は命取りだ」

 

 穏やかな表情になるセシリア。

 彼女の両手が、そっと晶の背中に回された。

 

「心配してくれるのですね。ありがとうござます。そしてやっと、ここまで来る事ができましたわ。ようやく、この言葉を口に出来ます。セカンドシフトしようと決めたあの日から、ずっと胸にしまっていた言葉を」

 

 彼女は一度言葉を区切り、改めて彼を見つめ直した。

 

「――――――他に女性がいる事は承知しています。それでも、お慕いしていますわ。晶さん。そして私は戦場で貴方の隣に立ちます。1人では出来ない事も、2人でなら出来るでしょう。私は、貴方の2番機になりますわ」

 

 背中に回された両手が、ゆっくりと晶を抱き寄せる。

 互いの顔が近付いていき、唇が重な――――――。

 

『ちょっと待ったーーーーーーーー!!』

 

 アリーナ内に設置されているスピーカーから、不機嫌な束の声が響き渡った。

 

『ちょっと凡人!! セシリア・オルコット!! なに人の男に堂々と手を出そうとしてるのさ!! 淑女って他人の男を寝取る事を言うの!? 晶も晶だよ。雰囲気に流され過ぎ!!』

 

 次いで2人の前に、空間ウインドウが展開される。

 映し出されるのは、額に青筋を浮かべた束だ。

 

『フフフフフフフフ、ねぇ晶。私が今回観戦してるって知ってるよね。それなのにそこで小娘とキスなんてしちゃうんだ~。この私の目の前で。ねぇ、何か申し開きってある?』

 

 晶の体を、冷や汗がダラダラと流れ落ちる。

 そして束の視線が、ギロリとセシリアに向いた。

 

『凡人。ちょっと君、私の家に来なさい。少しお話しようか。勿論、拒否権なんて無いからね』

「た、束。余り手荒な事は………」

『大丈夫。ちょっと、ほんの少しお話するだけだから。――――――さっさと連れて来なさい』

 

 少しばかり低くなっている声に2人揃ってビクッとなり、その揃った反応が、また青筋が増やしていく。

 こうしてセシリアは赤の他人として初めて、束の自宅に足を踏み入れた。

 加えて泊まったとなれば、他に類を見ない稀有な経験だろう。

 だがその夜何があったのかは、彼女は決して語ろうとしなかった。

 尤も大破寸前の機体が直されていたあたり、束も抹殺する気は無かったようであるが――――――。

                               

 ―――ブルーティアーズ・レイストーム―――

                               

 武装非展開状態

 

【挿絵表示】

 

 武装展開状態

 

【挿絵表示】

 

                               

 ―――ブルーティアーズ・レイストーム―――

                               

 

  

 第89話に続く

 

 ※1:“LAY”・“MT-SYSTEM”・“MO-SYSTEM”・レイストーム

 元ネタはSTGの名作(と作者は思っている)レイストームから。

 随分前ですがセシリアちゃんの不殺を考えた時、某種ガンを

 元ネタにする案は真っ先に浮かびましたが、セシリアちゃん

 は某種ガン主人公のような超人ではないのであえなく却下。

 絶対の命中精度を持つレイストーム主人公機からネタを拝借

 させて頂きました。

 

 

 




セシリアさん超強化&告白の回でした。
セカンドシフトによって発生するモロモロの事は次回になる予定です。

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