インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
本編初期で助けた姉妹のその後と、デュノア社第三世代機開発の裏側であったことです。
とある都市のストリート。その一角にある目立たない雑居ビルに、小さな探偵事務所があった。
従業員は1名。事務所が自宅を兼ねているくらいだから、その小ささが伺える。
そんな事務所で、紫色の髪の女性がテレビを見ていた。
歳の頃は20歳前後。髪は艶やかで、胸元付近まである癖の無いセミロング。そして切れ長の瞳と桜色の唇、頬から顎先にかけてのラインは、異性が振り向かずにはいられない魅力を生み出していた。
スタイルも、その容姿に見合うものだ。
探偵らしい地味なスーツに身を包んではいるが、起伏に富んだ曲線が、否応無く女性らしいボディラインを想像させる。
そんな彼女はテレビに映る晶を見て、感慨深げな小さな笑みを浮かべた。
(私も、妹も、あの人に助けられたのよね)
彼女の名はレイラ・フェルト。
かつて妹を人質に取られ、やむなく悪行に加担した過去を持つIS乗りだ。
彼女は更に思う。
(あの時助けられなかったら、どうなっていたのかしら? まだ
全く汚れていない戸籍だ。
一度裏社会に堕ちた人間にとって、それがどれほど得難いものであるかは、堕ちた人間にしか分からないだろう。
お陰で全ての過去を失ってしまったけど、代わりに安全な生活を手に入れる事が出来た。
妹も、それなりに有名なスクールに入れる事が出来た。
幾ら感謝してもしきれないとはこの事だろう。
ただ、荒事から完全に足を洗えた訳ではなかった。
時折束博士から、調査依頼が来るようになったのだ。
相手は主に企業や資産家、或いはマフィアなど多岐に渡る。
普通に考えれば、個人で調査するには厳しい相手ばかりだ。
だが
助けられたあの日、新しい戸籍と一緒に、それまで使っていた愛機も渡されていたからだ。
つまり実戦装備のISを、個人所有しているという事だ。
そしてISの力を使えば、相手が本格的な対策をとっていない限りはどうとでもなる。
また“天災”と言われる博士だが、依頼主としてはとても上等だった。
何せ事前情報は正確な上に、報酬も良い。
これだけでも十分に恵まれているが、装備品やメンテ用パーツの提供まであるのだ。
(………にしてもコレ、反則的な性能よね)
彼女は
提供された幾つかの装備は、特殊部隊員や非合法活動を行う者なら、喉から手が出るほど欲しくなるような物ばかりだった。
レイラは空間ウインドウをオープン。愛機のスペックデータを表示させる。
―――Status Window
機体名称:ラファール・リヴァイヴ(※1)
R ARM UNIT :
L ARM UNIT :
R BACK UNIT :
L BACK UNIT :
EXTENTION :
O.PARTS
OP-S-SCR(実弾ダメージ軽減)
OP-E/SCR(エネルギーダメージ軽減)
OP-S/STAB(安定性上昇)
OP-E/CND(ジェネレーター容量UP)
OP-ECMP(ロック解除パルス信号)
OP-L/BRK(ブレーキング性能強化)
OP-L/TRN(旋回性能上昇)
OP-M/AW(レーダーミサイル表示機能追加)
OP-R/INIA(レーダー範囲拡大)
OP-CLPU(放熱効率上昇)
―――Status Window
ラファールは元々汎用性に優れた良い機体だが、その中でも前期型と後期型がある。
前期型は2枚の可動シールドと2枚のウイングスラスターを持つ、機動力と防御力を両立したタイプ。(TV版)
後期型は可動シールドとウイングスラスターを廃し、代わりに既存兵器の殆どを無改造で取り付け可能な、多目的ハードポイントを持つタイプ。(新装小説版)
レイラが使っているのは前期型だ。
そしてラファールと言えば、“飛翔する武器庫”と言われるほどの
博士曰く「大した事ない」レベルらしいが、使っている本人からしてみれば、まるで別の機体だ。たった数パーセント機体性能を向上させるのに、世の研究者がどれほど苦労しているか知っているのだろうか?
更に搭載武装が減った分は、各武装の質を上げる事で対処されていた。
背部にある
左腕
そして提供された武装で特筆すべきは、右腕装備の
これは大口径バズーカに匹敵する威力を誇りながら、弾速、リロード、命中精度の全てを満たす傑作武装で、現在市場に流れているどんな武装よりも優秀だった。
仮に敵がこんな物を装備していたら、すぐさま逃げ帰りたいところだ。
(だけど私がコレを売り払って、姿を眩ますとは考えなかったのかしら?)
今まで幾度と無く脳裏を過ぎった疑問だが、今回も同じ結論に行き着いた。
束博士の切り札である
世界最強の単体戦力というだけでなく、指導教官としても類い稀な手腕を持つ彼は、既に2人だけでいた時のように、気軽に動ける身では無い。
だから博士は、新しい手駒を欲したのだろう。
もし仮に、これだけの装備提供を受けて裏切ったらどうなるだろうか?
(多分、私に関わるあらゆるデータが改竄されるわね。最上級に良くて楽に死ねる。最悪は………デュノア前経営陣の100倍くらい苦しむのかしら?)
尤も彼女に、束や晶を裏切る気は無かった。
新しい生活を、特に妹に健全な将来を残してくれた2人を、裏切るなど出来るはずがない。
そう思ったところで、妹が学校から帰ってきた。
「ただいま~」
「あら、お帰りなさい」
帰って来た妹の両手には、大きく膨らんだスーパーのレジ袋があった。
どうやら、夕食を買ってきてくれたようだ。
「お姉ちゃん自分で買ってくるから良いのに」
「何言っているの。お仕事大変なんでしょ」
「夕食買いに行く時間くらいあるわよ」
「探偵って大変でしょ。このくらいの手伝いはさせてよ」
「お姉ちゃんは大丈夫だから、友達と遊んできても良いのよ。それにリアだったら、彼氏の1人くらいいても良いと思うんだけど」
姉の贔屓目かもしれないが、
少し幼さは残るが、活発そうな顔立ちと瞳。少し長めの髪はポニーテールにされ、活発そうな印象を更に強めている。
スタイルだって、同年代の中では良い方だろう。
「友達とはちゃんと遊んでるから心配しないで。でも彼氏は………学校の子って、貧弱な男ばっかりでイヤ。薙原さんみたいに、強くて格好良い人が良い」
「リア、それは高望みし過ぎ」
「でもイヤ。まぁ薙原さんは高望みし過ぎにしても、周りの男ってみんな綺麗事とか耳障りの良い言葉しか言わないんだもん。何か下心が透けて見えてイヤなの」
姉思いで良い妹なのだが、1つだけ困ったところがあった。
誘拐され、乱暴されかけたところを助けられたせいか、男を見る目が非常に厳しくなってしまったのだ。
気持ちは分からなくもない。
束博士を護る世界最強の単体戦力に、白馬の王子様のように
憧れてしまうのも仕方ないだろう。
それに彼は戦闘力だけでなく、ISの指導教官としても卓越している。
何せ全世界で10人といないセカンドシフト者の内、2人は彼の指導によるものだ。
今やどんな大金を払ってでも、彼の指導を受けたいという者は大勢いた。
(そんな人と比べられたら、誰でも見劣りしちゃうわよね)
尤も
彼に憧れるのは、アイドルに憧れるファンみたいな心境だろう。
だから煩く言うよりも、時間が解決してくれるのを待った方が良い。
TVに映る
「ところでお姉ちゃ――――――」
「あら、ちょっと待ってね」
見ていた番組が終わり、リアが何か言おうとしたところで、コアネットワークを通じてメッセージが入った。
差出人は篠ノ之束博士。
視界内に仮想ウインドウが展開され、IS所有者であるレイラにのみ見えるよう、メッセージが表示される。
―――依頼内容―――
デュノア社特殊情報回収班に同行し、エレクトリカル・オルドー社研究施設を調査する。
収集情報により報酬の上乗せあり。
防衛部隊の存在が確認されているが、可能な限り隠密行動に徹すること。
止むを得ない場合のみ交戦を許可する。
ミッション開始時間(現地時刻)
○○○○年△△月××日 23:15
成功報酬
10万$(日本円で約1200万円)
―――依頼内容―――
移動時間を考えれば、すぐに行かなければ間に合わない。
「………リア、ごめんなさいね。お仕事入っちゃった」
「ううん。いいよ。気をつけてね」
「ありがとう。私がいない間、戸締りはちゃんとね」
「子供じゃないんだから、大丈夫」
暫しの抱擁の後、レイラはコートを羽織り、キャリーバッグ1つという身軽な格好で事務所を出て行った。
そうして残されたリアは、勉強道具の入った鞄から、『進路希望調査』と書かれた1枚のプリントを取り出した。
「これ、どうしよう………」
何となく眺めた後、テーブルの上に置いて、もう一度眺める。
提出期限は明日。出来るなら、姉と相談して決めたかった。
学校からは十分な余裕を持って配られていたが、中々決められず、姉に相談しようと思ったら、依頼を受けて行ってしまった。
キャリーバッグを持って行ったという事は、最低でも数日は戻らないだろう。
(………本当、どうしよう)
リアには、どうしても行きたい学校があった。
姉は反対するかもしれない。そして難しいのも知っていた。やって駄目なら諦めもつく。だが何もしないで諦めるのは嫌だった。
その学校はIS学園。
例年ですら倍率1万倍を超える超々難関校。まして来年は、
加えて言えば、来年は何処の国も選考基準が厳しくなると聞く。
1人でも優秀な人間を送り込んで、あの
そんな中で、普通の学生である自分が受けても、受かる可能性は殆ど無い。
(………でも、ゼロじゃない。出さなかったら、ゼロ)
かなり長い時間悩んだ後、彼女は第一志望欄に『IS学園』と書いて、プリントを鞄に入れたのだった――――――。
◇
それから暫く経ったある日、無事仕事を終え日常に戻っていたレイラは、事務所で新聞を読んでいた。
コーヒーを飲みながら読んでいる記事の見出しは、『デュノア社、第三世代機の開発に成功する』だ。
記事の内容が本当なら、オプション換装によって、あらゆる状況に対応可能なマルチロール機らしい。
噂ではアルファベット26文字に対応する装備(※2)があるようだが、記事にされているのは基本となる3種類のみだ。
TYPE-A(ASSAULT)
長距離移動用装備。
背部に新開発した飛行ユニットを装備し、長時間の作戦行動を可能とした装備。
自衛用にバズーカなど、単発だが強力な火器を備える。
TYPE-D(DESTROY)
接近戦用装備。
敵勢力に対する面制圧を目的とする。
重機関砲、クラッカー、ロケット弾など、大量の接近戦用火器を持つ重装接近戦タイプ。
TYPE-S(SUPPORT)
長距離支援用装備。
遠距離用のレールキャノンや誘導ミサイルなどを多数装備する。
長射程用の複合照準器と機体支持用のジャッキもあり、命中精度を向上させている。
無論今までこのような発想が無かった訳では無い。だが今回デュノア社が発表した新型は、今までのマルチロール機を一気に過去の物としてしまうほど意欲的だった。
専門家の分析によれば、機体本体はあくまでISとしての基本性能、機動力や反応速度といった部分に焦点を当てる事で、大幅な性能向上に成功したらしい。また機体に多くの機能を盛り込まなかった為、設計的な余裕を得たこの新型は、将来の末永いアップデートにも対応可能という事だった。
そして新開発されたオプション装備群は、個々に見れば既存技術の組み合わせで目新しいものは無い。ただしオプション装備群には、今まで消費エネルギーの高さからISへの搭載が見送られていた機器が、幾つも組み込まれているようだった。この為カタログスペック上ではマルチロール機でありながら、それぞれの分野の特化機に匹敵する性能を得ていた。
(凄いわね。でも………)
レイラは
(………博士はオプションパーツのみで、
新型の限界性能が公表されるはずなど無いので、記事にあるスペックデータは、あくまで予測値でしかない。故に正確な比較ではないが、
将来的なアップデートを含めれば新型に分があるだろうが、現時点なら、まだ戦える性能差だ。
そう思ったところで、妹が学校から帰ってきた。
「お姉ちゃん、ただいま」
「おかえりなさい」
帰って来た妹の両手には、大きく膨らんだスーパーのレジ袋があった。
どうやら、夕食を買ってきてくれたようだ。
「お姉ちゃん自分で買ってくるから良いのに」
「何言っているの。お仕事大変なんでしょ」
「夕食買いに行く時間くらいあるわよ」
「探偵って大変でしょ。このくらいの手伝いはさせてよ」
以前と全く同じやりとり。
平和な日常の一コマ。
だが今日は、妹の様子が少し違っていた。
どことなくソワソワして、落ち着きが無い。
荒事のような拙い気配は感じないが………。
「リア、お姉ちゃんに何か言いたい事があるの?」
「うーん、流石探偵。やっぱり分かっちゃうか。あのね、コレなんだけど………」
そう言いながら妹が鞄から取り出した物は、IS学園入学試験、
「リア、これって!?」
「うん。駄目もとで出したら通っちゃって」
これに焦ったのはレイラだ。妹はもしかしたら純粋な思いでIS学園を目指したかもしれない。だが2人の戸籍は
万一偽造したものだとバレれば、今の生活を失う事になる。
そんな恐怖を感じた時、予想だにしなかった人物から、コアネットワークで通信が入った。
相手は――――――
(こ、こちらレイラ・フェルト。何の御用でしょうか!?)
緊張に、僅かに声が震える。
無理も無かった。過去助けられた時、彼は束博士を護る只のボディガードだった。だが今は違う。世界最強の単体戦力にして、世界最高のIS教官の1人。普通なら、一介のISパイロットが会えるような相手では無い。
(そんなに緊張しないで欲しい。1つ聞きたい事があって、連絡させて貰っただけなんだ)
(聞きたいこと、ですか)
このタイミングで聞かれるような事など、レイラには1つしか思い浮かばなかった。
(ああ。IS学園来年度入学希望者の中に、君の妹の名前があった。あれほどの目にあって、何故危険が付きまとうISパイロットを目指そうと思ったのか。それを知りたくてね)
姉妹が知る由も無い事だが、この質問は束の意向でもあった。
2人に与えた戸籍は完璧で、どんなに洗っても後ろ暗い事は出て来ない。束や晶との接点も出て来ない。だがもしもIS学園に入学した妹が迂闊な事を話せば、多少面倒な事になる可能性があった。
妹本人はどうとでもなる。だが姉は現在、束にとって、それなりに使い勝手の良い駒なのだ。余り目立つような真似はして欲しくない。この場の返答次第では、今後の対応を考えなくてはいけなかった。
(私もつい先程聞いたばかりで、詳しい話は何も。本人に替わっても良いでしょうか?)
(周囲に人は?)
(大丈夫です)
(ならウインドウに切り替えようか)
(分かりました)
この後姉妹の前に空間ウインドウが展開され、志望動機を問われた
拙い言葉ではあったが彼女の思いは、『自分が助けられたように、理不尽な暴力に苦しめられている人を助けてあげたい』というものだった。
交渉のプロではない彼に、その言葉が本心かどうかなど分からない。だが、本気のようには見えた。
(………どうするかなぁ)
安全性を最優先にするなら、IS学園を受験させるべきではないだろう。
しかし危険だからと言って、受験を止めさせるのも違う気がする。
そうして暫く考え込んだ後、彼は口を開いた。
『………分かった。そう思うなら頑張ってみると良い。ただ、俺と君は会った事の無い他人という扱いだ。そこは分かってくれるかな』
『はい。下手に知り合っていると、危険だからですね』
『そうだ』
年頃の少女にとって、“有名人との関係を他人に話せない”というのは、とても忍耐を要求する事だろう。だがリアにとっては違っていた。むしろ他人に知られて、俗な話のネタにされる方が耐え難かった。
助けられたあの日、あの時、あの光景は、自分だけのものだ。
そして何より、“秘密を共有している”という事実が、彼女にとっては心地良かった。
この後、憧れの人に励まされた彼女は必死の努力の末、見事IS学園への入学を勝ち取るのだった――――――。
―――フェルト姉妹―――
XINN様より頂きました。感謝です!!
―――フェルト姉妹―――
続く?
※1:ラファール・リヴァイヴ
第02話に登場した時は武装表記の際、『SHOULDER UNIT』と書いていましたが、
3系武装使用に合わせ『EXTENTION』と書くようにしました。
誰も気にする人などいないかもしれませんが、一応念のため。
※2:アルファベット26文字
元ネタはガンダムF90
ちなみにこの姉妹がヒロイン枠に入る事は無いと思います。
でも妹と五反田蘭でコンビを組ませてみたいなぁ~などとは思っています。