インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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今回は女の園にいる男2人のお話です。


第90話 羨ましいぞ!!

 

 とある日の休日、織斑一夏は悪友である五反田弾の自宅を訪れていた。

 

「――――――しっかし何だよそれ。お前の話聞いてると、まるで天国じゃねぇか。何人か俺にも寄越せよ」

「何言ってるんだよ。色々大変なんだからな」

「どんな風に?」

「例えば体育の時間、準備運動だったら二人一組でやるんだけどさ――――――」

 

 それから暫しの間、自分がどれほど苦労しているかを切々と語る一夏だったが、その思いは1%も届かなかった。

 彼の話を単純に要約すると、次のようなものだ。

 体育の準備運動では、毎時間別の女の子と組む事になっている。勿論二人一組なので、ブルマーや水着姿の女の子と密着する機会もある訳で、柔らかい感触が色々と………。

 家庭科の授業では家事スキルの高さに黄色い歓声が上がり、最後は「あーん」をして欲しいと迫られて………。

 健康診断では3サイズの測定係をやらされ、あんなところやこんなところに触れてしまい………。

 新しく赴任してきた教師(ナターシャ)には頬にキスされ、そのシーンを箒と鈴に見られたお陰で、放課後の訓練で延々と2人に狙われたり………。

 晶×一夏の薄い本が出回っていたり………。

 

「なぁ一夏、殴って良いか? いや、今すぐ殴らせろ」

「お前!! 自分の薄い本が出回ってるのに我慢しろって言うのか!?」

「うるせぇ。そんな美味しい思いしてるなら少しは我慢しろよ。なんだそのハーレム。やりたい放題じゃねぇか!!」

「お前の考えてるような事したら、大変な事になるよ!!」

「そんな事言って。どうせドサクサに紛れて、じゃない。正々堂々触れるなんて羨まし過ぎるだろうが!!」

「正々堂々なんて触ってねぇ!!」

「ほぉぉぉぉ、本当に、無いんだな?」

「も、勿論じゃないか」

 

 悪友の視線に一瞬たじろぐ一夏。

 ここ最近では、幼馴染の2人とだった。

 箒とは、道場で厳しい打ち合いをした後の事だ。お互い防具を外したところで脚がもつれ、押し倒してしまったのだ。

 そしてどういう倒れ方をしたのか分からないが、片手が胴着の隙間から胸元に入ってしまい、布越しではない暖かで柔らかい感触が直接伝わってきたのだ。しかもお互い見詰め合ってしまい、恥ずかしそうにしながらも抵抗しなかった箒の顔は――――――所用で山田先生が道場に来なければ、どうなっていただろうか?

 鈴とは休日の、自主訓練の後の事だった。

 訓練に付き合ってもらった礼をすると言ったら、「マッサージして欲しい」と言われたのだ。肩揉み程度だろうと2つ返事でオーケーしたら、彼女の希望は足の先から指の先までの全身マッサージ。年頃の女の子の全身を、だ。

 流石に男がするのは拙いだろうと思ったが、「お礼、してくれるんでしょ」と相手から言われてしまえばどうしようもない。

 年頃の女の子の柔らかい感触に戸惑いつつ、何とか平常心を保ちつつマッサージを始めた。

 だが脚の上の方に差し掛かってくると、何かを我慢するようなくぐもった声が聞こえてきた。力加減を間違えたかと思い手を止めると、うっすらと紅潮した顔で振り向かれ、「つ、続けてよ」等と言われたのだ。

 あの時の鈴の表情は痛みではなく、どこか蕩けた………。

 そこまで思った所で、弾の声が聞こえてきた。

 

「怪しいなぁ~」

「な、何だよ」

「いいや。お前が無いって言うなら、そうなんだろうよ。――――――ところでさ、もう1人の男(薙原晶)の方はどうなんだよ」

 

 弾はもう少し一夏を弄ろうと思っていたが、滅多に聞けない話があるのを思い出し、そちらを優先する事にした。

 巷ではヒーローのように言われている薙原晶は、IS学園ではどうなのだろうか?

 

「晶か? うーん、そうだな………訓練とか戦闘が関わら無ければ、割と普通の奴だよ」

 

 あいつの訓練は確かに厳しい。だけど考えても分からない時や出来ない時は、分かりやすく教えてくれる。

 昔言った「鍛えて欲しい」という言葉を、ちゃんと受け止めてくれていた。

 だが弾が聞きたいのは、こういう事では無いだろう。

 

「――――――後、近くにはシャルロットとかセシリアがよくいるかな。あとラウラ」

「シャルロットって、あのシャルロットか? フランス代表候補生にしてデュノア社御令嬢の?」

 

 月刊『ISファン』今月号、その表紙に写る彼女を指差しながら詰め寄る弾。

 物凄い食いつきだった。

 

「お、おう」

「うわっ、羨ましいなぁ。こんな美人で大企業のお令嬢で、しかも優しくて家庭的って言うじゃないか。羨ましいにもほどがある」

「そうか? 普通に話してるだけだぞ」

「何言ってるんだよ。こんな可愛い子と毎日一緒にいるんだぞ。それだけで勝ち組じゃねぇか」

 

 実際には一緒にいるどころか、お昼ご飯を食べさせあう「あーん」をしている事もあるのだが、一夏自身も箒や鈴にして貰っている手前、何も言わなかった。

 

「クッソ、良いなぁ。――――――でさ、セシリアって、このセシリア・オルコットだよな?」

 

 次いで弾が指差したのは、ISファン先月号。表紙に映るのは、クラスメイトのセシリアだ。

 普段のお転婆な態度を完璧に取り繕った、貴族のお姫様の姿があった。

 

(………化けたな)

 

 本人に聞かれたら、レーザーで狙い撃ちにされそうな感想を抱く一夏。

 クラスでの彼女は、割と気さくなのだ。

 ちなみに家庭科の調理実習において、彼女の料理を食べた晶が、無言で水を飲みに行ったのはクラスで語り草になっている。

 

「ああ。そのセシリアだな」

「良いよなぁ。こんな美人で名門貴族の当主様で、揚句モデルだぜ。そんな人がいつも一緒にいるなんて羨まし過ぎる」

 

 セシリアの特集ページをパラパラと開ながら、心底羨ましがる弾。

 そんな時だった。部屋のドアがバタンッ、と勢いよく開かれる。

 

「ねぇお兄、お昼できたよ。さっさと食べに来なさ――――――い、一夏さん?」

「あ、蘭。久しぶり。邪魔してるよ」

 

 ドアを蹴り開け、用件だけ言って去ろうとした弾の妹()に、何事も無かったかのように返事をする一夏。

 思わぬ来客に一瞬固まり、自分の服装を見下ろしてしまう蘭。

 ボタンの外れたホットパンツに、ウェストラインが丸見えの丈の短いキャミソール。そしてずり落ちた肩ヒモ。

 異性に見せるには、少々はしたない格好だ。思い人に見せるなら、尚更だろう。

 大慌てで壁に隠れた彼女は、ホットパンツのボタンを閉め、ずり落ちていた肩ヒモを掛け直しながら尋ねた。

 

「き、来てたんですか」

「今日はちょっと外出。家の様子を見に来たついでに寄ってみた」

「そうですか」

 

 嬉しそうな蘭だが、続いた兄の言葉に、眉が急角度で釣りあがった。

 

「蘭、お前なぁ。ノックくらいしろよ。恥知らずな女だと思われ――――――」

「何で言わないのよ」

 

 妹の迫力に、続く言葉を止められる兄。冷汗を流しながら、謝罪の言葉を口にする。

 

「ああ、言って無かったか? そうか。そりゃ悪かった」

「もう!! お兄ったら」

 

 そんな微笑ましい(?)やり取りの後、蘭は一夏に向き直った。

 

「そうだ一夏さん」

「改まってどうしたの?」

「私ね、来年IS学園受けますから、受かったら色々教えて下さいね」

「えっ!? 確か蘭の学校ってエスカレーター式の、有名な進学校だろ。それを蹴ってまで?」

 

 蘭は平均以上の胸を張って答えた。

 

「大丈夫です。この前の簡易適性検査でA判定が出ていますから。テストだって私の成績なら大丈夫です」

 

 自宅で兄に対する態度からは想像出来ないかもしれないが、彼女は有名私立校「マリアンヌ女学院」で生徒会長を勤める優等生なのだ。

 

「A判定か。凄いじゃないか。入試だって難しいっていうのに凄い自信だな」

 

 座学でも苦労している一夏にしてみれば、蘭のこの自信は羨ましかった。

 ただ本人の為に言っておくなら、彼は決して出来の悪い生徒では無い。普通の学校でなら、成績優秀・スポーツ万能、揚句イケメンという大多数の男子にとって「リア充死ね!!」というような生徒になっていただろう。だが今彼の周囲にいるのは、1万倍とも言われる入試倍率を突破してきた猛者達だ。そんな中に入ってしまえば(座学に限って言えば)、平均的な生徒でしかなかった。

 

「必ず一夏さんの後輩になってみせますからね」

「ああ、楽しみにしてるよ」

 

 こうして一夏が旧交を暖めている頃、IS学園に通うもう1人の男は――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ――――――忙しい1日を送っていた。

 まず朝は束と、大きくて衝撃吸収力に優れたマット(キングサイズのベッド)の上で早朝運動。その後一緒にシャワーを浴びながらもうワンセット。

 遅めの朝食を食べた後、IS学園へ。

 次は生徒会長室で楯無のお手伝いをした後、近接格闘(CQC)と寝技の訓練。特に寝技の訓練はじっくりと念入りに。

 良い汗を流した後は、一緒にシャワーを浴びてお互いの汗を流していた。

 そうして時間は瞬く間に過ぎて行き、午後の4時。晶は1人で街中を歩いていた。

 特に用事がある訳では無かったが、たまにはフラッと出歩くのも良いだろう。

 そうして街中を歩いていると、少し先の車道で、黒塗りのリムジンがウインカーを上げ路肩に止まった。

 何かと思い見ていると、中から意外な人間が出てきた。

 更識簪だ。

 服装も制服ではなく、ワンピースタイプのドレスとボレロ。ワンピースは黒をベースとして所々に白いラインが入っていて、ボレロは白をベースとしてフリルで飾られていた。

 普段の彼女よりも、随分と大人っぽい雰囲気だった。

 身を飾るアクセサリーは、ネックレス・ブレスレット・イヤリングの3点セット。煌びやかな自己主張をするタイプではなく、あくまで本人を引き立てる為の控え目なものだ。

 勿論右手の中指には、アクセサリーとしても使えるクリスタルの指輪(待機状態のIS)があった。

 

(何かのパーティにでも出るのかな?)

 

 そう思っていると、彼女が近付いてきた。

 

「晶さん。こんなところでどうしたんですか?」

「たまにはフラッと出歩くのも良いと思ってね。そっちは?」

「家の用事の帰りです」

「パーティーか何か?」

「はい。家の付き合い、というやつです。更識って、色々な方面に顔が利く分、そういうのも多くて」

「家の付き合いか。大変だな」

「そうでもありませんよ。みんな私の前だと、どういう訳か大人しくなってしまって。多分皆、お姉ちゃんが怖いんでしょうね」

 

 この言葉は正解半分間違い半分であった。

 更識やそれに関わる人達にとって、楯無(当主)が簪を溺愛しているのは周知の事実。下手な事を言って反感を買おうものなら、どうなるか分からない。

 だがそれとは別に、最近は彼女自身も恐れられているのだ。

 その理由は、観察能力。

 今でこそ姉との仲は良好だが、偉大過ぎる姉と比較され続けてきた簪にとって、“嫌な感じのする人には近付かない”という技能は、自身の心の安定を保つ為に必須であった。その結果、知らず知らずのうちに磨かれたのが観察能力。戦闘に応用出来るほどのものでは無いが、“嫌な感じのする人”や“違和感”を感じ取る能力は、更識の選び抜かれた護衛達ですら一定の信用を置いていた。

 そしてある程度本家の事情に通じている者なら、更識の護衛部門が、彼女の感覚に引っ掛かった人間を優先的に洗って(調査)いるのを知っていた。

 つまり彼女に目を付けられるという事は、本家の調査対象になるという事だ。

 恐れられないはずが無かった。

 尤もそんな裏事情を知らない晶は、気楽なものだ。

 

「楯無がねぇ………。案外、本当に簪が怖かったりして。家で傍若無人に振舞ってるとかない?」

「そんな事してません!! みんなお姉ちゃんに遠慮しているだけです」

「怒るって事は怪しいなぁ。お茶を出したメイドに、『入れ直しなさい』とか言ってティーカップ投げつけたりしてるんじゃないの?」

 

 プリプリと怒る姿が可愛くて、つい意地悪をしてしまう。

 すると彼女も意地悪な反撃をしてきた。

 

「ドラマに出て来る意地悪な悪女みたいにですか?」

「そうそう」

「ならここで抱きついて、『酷い!! 私を捨てるんですか!!』とか言えば、晶さん困っちゃいますね」

「色々と大変な事になるから止めてくれ」

「人に駄目って言われると、やりたくなりません?」

 

 言葉とは裏腹に、簪は朗らかな微笑みを浮かべながら、そんな冗談を口にした。

 他愛の無いやり取りだが、楽しくなってきた晶は、つい悪乗りしてしまう。

 

「こんな可愛い子にそこまで思われて、嫌な男はいないさ。そんな事言われたら、お持ち帰りしちゃうよ」

 

 しかしそれは、言ってはいけない台詞だった。

 彼女にとって彼は命の恩人だが、助けた本人はその事を隠し(バレてないと思っている)、お礼の1つもさせてくれない。その他にも、打鉄弐式の開発を手伝ってくれたり等、返しきれない恩があった。

 だから彼女は、彼の言葉を使わせてもらう事にした。

 

「あら、ならまずは雰囲気からですね」

「ん?」

 

 彼女の表情から、冗談ではないと悟ったがもう遅い。

 

「晶さん。これからディナーにご招待したいのですが、受けて頂けますか?」

 

 真っ直ぐな視線が晶を射抜く。

 冗談として受け流すには、真っ直ぐ過ぎる視線だ。そして何より、適当に受け流すには、対人経験が足りていなかった。

 

「いや、でもパーティーの帰りで疲れてるんじゃないか?」

「こう見えてもパイロットです。人並み以上の体力はありますよ」

「ディナーって事は正装だろ。俺、いま私服だし」

「貸し衣装なら5分で用意させます」

「なら――――――」

 

 なおも抵抗しようとする晶に、簪は古今東西、古くから使われている伝家の宝刀を抜いた。

 

「私と一緒は、嫌ですか?」

 

 しかもいつの間にか間合いを詰めており、下から潤んだ瞳で見上げるというオプション付きだ。

 

「………分かった。付き合おう」

 

 結果簪は、見事目標()の撃沈に成功する。

 そしてこの時、彼女の部下達の行動は、実にプロらしかった。

 2人が話している間に、雰囲気が良い店をリストアップ。

 同時進行でスタイリストが、晶に似合いそうな貸衣装を準備。本人の性格を考慮して、比較的大人しいデザインが幾つか選ばれていた。

 部下達の行動に淀みはなく、余計な言葉も無い。

 ただ主の望みを適える為に、自分の仕事(?)を忠実にこなしていく。

 そうして2人の会話が終わった時には、簪の携帯端末に、オススメのお店情報一覧が送信されていたのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時は進み、その日の夜。束宅。

 帰ってきた晶を、束は玄関で出迎えていた。

 

「お帰り。随分遅かったね」

「悪い。少し人に捕まった」

泥棒猫(楯無)の妹に捕まっちゃったんでしょ」

「もしかして見てた?」

「勿論。一部始終をじっくりとね」

 

 ある意味ストーカーだが、そんなのは今更の事なので、晶は全く気にしていなかった。

 そして世間一般的に見れば、彼の今日の行為は浮気だろう。

 だが正妻の余裕とでも言うべきか、束は簪とのディナーなど歯牙にもかけていなかった。

 自分が1番という自信と、幾度と無く肌を重ねてきた温もりが、彼女を落ち着かせていたのだ。

 

「それは恥ずかしいな」

「恥ずかしいならしないの」

「ヤダ」

 

 子供のような返答に、思わず笑ってしまう。

 言ってる内容は「浮気する」と宣言しているに等しいのだが、既に泥棒猫(楯無)はいるし、シャルロットやセシリアもいる。ここに後1人増えたところで大した事はない。もしかしたらもう数人増えるかもしれないが、自分が1番である事に変わりはない。

 なら多少の浮気は笑って許してやるのが、正妻の器量だろう。

 勿論、彼に相応しくない人間を近づける気は毛頭無かったが。

 

「はいはい。大目に見てあげるから。代わりに――――――」

 

 束の細く綺麗な腕が晶の腕に絡められ、身体が密着する。

 そして逃げられなくなった獲物()に、狩人()は告げた。

 

「ちゃーんと、愛してね。今日はとっっっってもお楽しみが多かったみたいだけど、疲れたなんて無しだからね」

「も、勿論じゃないか」

 

 答えながらも焦る晶。

 もしかして………。

 

「朝は私と運動して、お昼は格闘、特に寝技の訓練をじっくりしてたみたいだね。夕方も、食後の腹ごなしに運動。獣のように本能に忠実で、健康的な生活だね」

「た、束?」

「言ったでしょ。一部始終を見ていたって。私も大変だったんだよ。疼いて。でもね、我慢してたの」

 

 束が耳元で囁く。

 男の理性を蕩けさせるような、甘い声だ。

 この後2人は、心ゆくまでお互いの事を確め合うのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時は進み、翌日の更識邸。

 柔らかな日差しと穏やかな風が気持ちの良い朝だ。

 そんな中、楯無は簪の部屋を訪れていた。

 

「ねぇ、かんちゃん。昨日はどうだったの?」

「どうって? お姉ちゃん」

「またまた惚けちゃって。昨日、晶をディナーに誘ったんでしょう」

「え!? お、お姉ちゃん、何で知ってるの?」

「使用人の皆、その噂で持ち切りよ。只のディナーにしては、帰りが随分遅かった事もね」

 

 昨夜を思い出し、簪の顔が紅くなっていく。

 

「んん~。その顔は、中々良いところまでイッたようね。もしかして、最後まで?」

「えっと、その、お、お姉ちゃん。ご、ゴメンなさい」

 

 昨日は一生懸命で気にする余裕すら無かったが、姉と晶との関係を知る簪に、罪悪感が込み上げてくる。

 世間一般的に見れば、姉の男に手を出した悪食な妹だ。

 だが楯無は全く気にしていなかった。それどころか――――――。

 

「かんちゃん。良くやったわ!!」

「えっ?」

 

 褒められる意味が分からず、思わず首を傾げてしまう。

 そんな妹を後ろから抱き抱えながら、楯無は口を開いた。

 

「だって、晶が相手なのよ。彼ならちゃんと貴女を見てくれる。家にしか興味の無い低能でゲスな男より、よっぽど良いわ。かんちゃんだって、権力自慢しか出来ないような男より、よっぽど良いでしょ」

「お姉ちゃんは、良いの?」

「今更よ。ライバル多いから」

 

 また言葉にはしなかったが、楯無が喜ぶ理由はもう1つあった。

 更識家の人間は、自由恋愛など望めないのだ。

 本家直系の伴侶ともなれば、最優先で求められるのは裏社会を生き抜く強さ。性格など二の次だ。

 そんな人間を伴侶にしたら、人並みに幸福で暖かい家庭など、望めるはずもない。

 だが相手が薙原晶という男なら、話は別だった。

 まず戦闘力という点では、文句のつけようが無い。

 何せ世界最強の単体戦力(NEXT)だ。ISだろうが巨大兵器だろうが、彼の前では大して変わらない。踏み潰されるだけの存在だ。

 権力にだって興味が無い訳では無いだろうが、必要な時に必要な事が出来れば良いというスタンスで、普段は全く使おうとしない。むしろ面倒臭いと思っている節があった。

 そして更識姉妹にとって、彼の性格はとても好ましかった。

 家の権力を見るのではなく、常に1人の人間として見てくれる。

 多くの女性を愛せてしまうという欠点はあるが、そのおかげで姉妹共々幸せになれるなら、少しくらい大目にみてあげるのが良い女の器量だろう。

 そんな事を思っていると、簪が口を開いた。

 

「私も、お姉ちゃんのライバルなの?」

「違うわ。仲間よ。2人であの男をメロメロにしてあげるの」

「ふ、2人で!?」

 

 どんな光景を想像したのか、簪の顔が更に紅くなっていく。

 それを見た楯無は、この可愛い妹を少しばかり弄りたくなってしまった。

 

「ねぇ簪。晶はどんな風に、貴女を可愛がってくれたの?」

 

 後ろから抱き抱えたまま、耳元で囁くように問い掛ける。

 ただ一方的に聞いたところで、恥ずかしがり屋な妹は何も言わないだろう。

 なのでまずは、自分から言う事にした。

 

「お姉ちゃんの時はね――――――」

 

 その後の会話は、2人だけの秘密だった。

 ただこの日を境に、更識姉妹の仲はいっそう深まっていったという。

 そして姉妹仲が良好になった更識家は、本家の態勢を盤石な物とし、永きに渡る繁栄の礎を築き上げていくのだった――――――。

 

 

 

 第91話に続く

 

 

 




「リア充爆発しろ!!」と思って頂ければ、作者的には嬉しいところです。
ちなみに欧州3人娘は後で出番があるので、今回はお休み。

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