インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
――――――行く為の下準備等々な回です。
デュノア社第3世代IS発表の後、その新型がフランス代表候補生、シャルロット・デュノアの手に渡るのは確定事項だった。
だが1つ、重大な問題が残されていた。
それは新型へのコア移植を、何処で行うのかという事だ。
ISという超兵器は、機体もパイロットの事を学習する。
そしてその経験の蓄積が、セカンドシフトへと繋がるのだ。
つまり新しい機体が出来たからと言って、単純に乗り換えれば良いという訳では無い。
シャルロットの今までの努力や経験を無駄にしない為には、今彼女が使っているISコアを、新型に移植する作業が絶対に必要だった。
そして本来ならば、デュノア社の施設で行うのが筋なのだが………。
(娘を1人で帰国させてコア移植を行うか? いいや、ダメだ。もうすぐ
娘の幸せを願う父親。デュノア社社長、アレックス・デュノアは悩んでいた。
(いや駄目だ。仮にIS学園でコア移植を行えるとしても、今回の新型はイグニッション・プランに参加する最新鋭機。コア移植という最も無防備になる瞬間を海外で行うなど、国内から大反対されるに決まっている)
1番良いのは薙原晶にシャルロットとフランスまで来て貰う事なのだが、束博士最強の切り札が、そう簡単に動けるはずもない。
そんな時だった。一本の電話が入ったのは――――――。
『――――――あ、お父さん。僕だよ。シャルロットだよ』
『ああ、シャルか。どうしたんだ?』
『うん。晶から伝言があって』
『彼から?』
少々意外な話かもしれないが、アレックスと薙原晶との間に、個人的な友好関係というのは無い。
全てを取り返してくれた恩人ではあるのだが、個人的に会って友好を深め合うような関係ではなかった。
せいぜい良好なビジネスパートナーと言ったところだろう。
そんな彼から、伝言?
『うん。驚かないでね』
娘の嬉しそうな声から察するに、悪い話ではないだろう。
『はっはっは、この私がそう簡単に驚くはず無いだろう』
『本当? じゃあ言うね。今月の日本の連休に合わせて、アンサラーフランス工場の視察に行くんだって。ついでに言うなら、“もしスケジュールに余裕が出来たら”、デュノアの研究施設を見学したいって』
『な、なんだとっっっ!?』
驚かないはずが無かった。
このタイミングでフランスへ来る?
デュノア社の施設を見学したい?
これは、まさか………。
『あははっ、やっぱり驚いた』
『それは驚くさ。後、1つ教えてくれないかな』
『なに?』
『お前も、来るんだろう?』
『勿論だよ。2人っきりかどうかは分からないけど、僕と晶がフランスに行くのは確実』
『他に来る可能性がある人は?』
『正直ちょっと分からないかな。セシリアとラウラあたりは可能性があるけど、向こうも色々あるだろうから』
『分かった。万全の準備を整えておく。飛行機は準備しておくから、彼に伝えておいてくれないかな』
『うん。分かった。じゃあね』
そうして電話が切られた後、アレックスは思わずガッツポーズをしてしまった。
このタイミングでフランスへ来るという事は、間違いなく、こちらの事情に配慮しての事だろう。
それはつまり、シャルロットがそれを受けられるだけ大事にされているということ。
娘の幸せを願う父として、こんな良い事はない。
嬉しくて、誰彼構わず言いふらしてしまいたいところだ。
だがグッと堪える。
直接連絡を取らず娘を使ってきたという事は、騒がれたくないという事だ。
実際に動けばニュースになるのは間違いないだろうが、直前まで嗅ぎ付けられないに越した事はない。
ならその意図を汲むのが正しい選択だろう。
そうしてアレックスは有能な社長らしく、部下達に指示を出していく。それに部下達も良く応えた。
表立って言う事は出来ないが、デュノア社が誰のお陰で持ち直せたのか、社長以下上層部の人間は皆、良く知っているのだ。
だから命令が降りた時に、誰も理由を聞かないし、何も言わない。
誰もが自分の仕事を着々とこなし、恩人を迎える為の準備をしていく。
その様はある意味、社長のアレックスが嫉妬しそうなほどだった。
だが、何処から漏れるか分からず、誰に嗅ぎ付けられるか分からないのが情報である。
確かにデュノア社の対応は完璧だった。
細心の注意を払った結果、情報漏洩も無く、各種の手続きも無事完了した。
しかし今やデュノア社は、彼らが自覚している以上に注目を集める存在となっていた。
何せ束博士から発電衛星試作二号機を借り受けられたばかりか、欧州方面における
今やその動向は、あらゆる企業の注目するところだった。
そのデュノア社が、保有している
たったそれだけの事が他企業の情報網に引っ掛かり、ドッグに入っている時間から通常整備ではなく、入念な分解整備が行われている事を突き止められたのだ。
そして何も問題の起きていない機体を、使用ローテーションから外して入念な分解整備に回す理由など、そう多くは無い。
まだ知られていない大きな問題があったか、入念な整備を必要とする程、大事な用事があるかだ。
加えて今この時期というのがあった。
デュノア社が第3世代機を発表し、社長の愛娘は第2世代機を使っていて、その愛娘は篠ノ之束博士と薙原晶のお気に入り。
ここまで情報が出揃っていれば、彼の訪仏が予測されるまで、そう時間は掛からなかった――――――。
◇
一方その頃、IS学園面談室。
盗聴される心配の無いこの部屋で、薙原晶は織斑先生と話していた。
「この時期にフランスへ? ………そうか。ラファールのコア移植か」
彼女は全ての説明を聞くまでもなく、理解を示した。
「はい。表向きはフランス工場の視察ですが」
「行くだけでも名目が必要とは、お前も難儀な立場になったな」
「全くです」
「ただ、お前がフランスに行った時点で本当の目的などバレバレだぞ。シャルロットの立場、知らない訳ではないだろう」
「勿論です。騒がれずに入国出来れば言う事無しですが、まぁまず無理でしょう。出発まで騒がれなければ御の字です」
「こっそり行く手段なら、幾らでもあるんじゃないのか?」
過去の出来事を指して揶揄する千冬だが、晶は肩をすくめながら答えた。
「“手段を問わなければ”という但し書きが付きますよ。悪い事をしに行く訳じゃないので、真っ当に行きます」
「そうしてくれ。これ以上の厄介事を起こしてくれるなよ」
笑いながら言う彼女だが、その言葉は本心だった。
生徒として見た場合、薙原晶は手の掛からない出来の良い生徒であると言えた。だが同時に問題児でもあった。時折起こす問題の規模が、一々大きいのだ。
一番最近のもので言えば、国際IS委員会からの、各国正規パイロット達への教導依頼だ。
学校でそんな事を行うとなれば、当然色々な下準備が必要になってくる。
それでも教導そのものは、特に問題無いだろう。
正規パイロット故にプライドも高いだろうが、
問題は別にあった。
事の発端は、パイロット選考から漏れた国に恨まれるのを嫌がったIS委員会が、晶に選考を丸投げした事に始まる。
建前的には、「薙原君が教導するんだから、薙原君がメンバーを選んでね」というお願いだ。
彼はため息をつきながらも、それを受けた。どうせ何処からどう選んでも、選ばれなかったところは文句を言うだろう。なので真面目に選ぶという考えを破棄した彼が、くじ引きという古典的な方法を考えていた矢先――――――とある噂が流れた。
誰が言い出したのかは分からないが、「薙原はISパイロットを格付けしていて、その上位者が今回の教導に呼ばれる」という噂だ。
初め彼は、それを気にしていなかった。
所詮は根も葉もない噂。一々反応した方が面倒な事になるし、噂などいずれ消える。そう思ったからだ。
だが事態は、彼の予想を超えて動き始める。
多くのISパイロットにとって、そして表裏問わず武力を扱う者にとって、
そんな存在に、上位者として認められる。
もし本当なら、様々な事に対するアドバンテージになるだろう。
そうして噂はいつしか一人歩きを初め、晶が気づいた時には、格付けリストが本当に存在しているかのように扱われていた。
こうなると、もう幾ら否定しても遅い。
むしろムキになって否定するほど、格付けリストがあると思われてしまう。
晶は否定するタイミングを逸したのだ。
結果どうなったかと言うと、初回教導メンバーに選ばれた者達は、世間一般でも各種業界でも、既に他のISパイロットとは別格の扱いになっていた。
教導を始める前なのに、である。
「外野が勝手に盛り上がってるだけですよ」
「それで済まないのは、お前も分かってるんだろう」
「ええ。まぁ………」
彼としては不本意極まりなかったが、なってしまったものは仕方が無い。彼女達が世間からの扱いに恥じないパイロットになれるよう、しっかり指導してあげるのが前向きな選択だと思い、諦める事にした。
そう思っていると織斑先生は、この話題は終わりとばかりに別の話題を口にした。
「そういえばお前、以前フランスで動いた事があったな。アレ以来、フランスには行ってないんだろう?」
「ええ」
晶がIS学園に来たばかりの頃、
「向こうに行ったら、盛大に歓迎されるだろうな」
「いりませんよ。もう成功報酬は貰っています。それに連休明けには戻ってくるんですから、余計な事をしている時間なんてありません」
「お前はそう思っていても、向こうは違うだろうな。何せ多くの人命と首都の危機を救ったヒーローだ。必ず、色々呼ばれるぞ」
織斑先生はニヤニヤと笑っている。
他人の苦労を喜ぶ、意地悪い笑みだ。
「………面倒な」
「そう言うな。有名人なら誰もが通る道だ」
「先生も通った道ですね」
「そうだ。うっとおしい事この上ない。しかし他人の苦労話を聞くのは楽しいからな。戻ってきたら是非、何があったのか聞かせてくれ。束が激怒してお前が怒られるような話だとなお良い」
「例えばハニトラに引っ掛かったとか?」
「あったら最高だな」
「分かりました。織斑先生に手当たり次第喰い散らかすように脅されたって、束に言っておきます」
「それはヤメロ。私が束に殺される」
この後2人の雑談は暫し続いたのだが、その中で千冬が、
初めは、晶の何気ない一言だ。
「そういえば最近、束が後片付けを覚えたんですよね」
「な、なに!?」
「帰るとね、偶に服が綺麗に折り畳まれている事があるんですよ」
「う、嘘だろう?」
「いえホントに。研究の合間にやってくれてるみたいだから毎日じゃないけど、それでも洗ってくれたり、アイロンかけてくれたり、クローゼットにしまってくれたり………」
その後の話を、千冬は聞いていなかった。
あの束が、自分の男の為とは言え、後片付けを覚えた!?
対して自分の部屋を思い浮かべると………散乱した衣服の数々が思い出される。
もう一度束の姿を思い浮かべる。何故かイメージされるのは何時もの能天気な奴の顔ではなく、愛しい男の為に頬を赤らめながら家事をする、千冬的にありえない姿だ。
(………いかん。何故か知らないが凄く負けた気がする)
そう思った千冬は、とりあえず部屋の掃除をしようと心に決めるのだった――――――。
◇
一方その頃、騒動の種は晶達の知らぬところで芽吹いていた。
事の発端はデュノア社が、束の研究情報を違法な手段で入手していたエレクトリカル・オルドー社に対し、
研究情報は速やかに、そして秘密裏に回収された。証拠は一切残されていない完璧な仕事だ。
そうして回収された情報を元に、デュノア社は第3世代ISを完成させ、更なる躍進を果たしていく。
では、奪われた方はどうなっただろうか?
結論から言えば、大ダメージだ。
なのにその情報は奪われ、バックアップデータは根こそぎ破壊された。
決して少なくない資金と人員を投入してまで、研究していたものがだ。
状況的にデュノアが怪しいのは、オルドー側も分かっていた。
たとえ証拠が無くても、奪われたのはISの権威である束博士の研究情報で、その後間を置かずしてデュノアが第3世代機を完成させたとなれば、疑うなという方が無理だろう。
そんな状況の中で、エレクトリカル・オルドー社本社ビルの一角。
ある重役室の中で、でっぷりと腹の出た男がいきり立っていた。
「クソッ!! 揃いも揃って使えん奴らめ!!」
今、この男の社内での立場は限りなく不味かった。
欧州IS委員の1人に束の研究情報を横流しさせたのが、社内の政敵に知られ、その責任を問われそうになっているのだ。
デュノアの
(ここまで来て、全てを失うのか!!)
政敵は次期社長の座を争うライバル。今回の一件を使わないはずがない。
ここぞとばかりに、追い落としてくるだろう。
(クソッ、こんなところで終わってたまるか!!)
男は必死に考える。
状況的には既に詰んでいるのだが、当人だけがそれを分かっていない。
いや、分かっていても諦められない。
最近は他企業の後塵を拝しているとは言え、大企業の重役。それも社長の椅子に手が届くほどとなれば、確実に人生の勝ち組だ。
それがこのまま行けば、一転して負け組となる。
今まで押し退け、追い落とし、散々食い物にしてきた奴らの顔が思い出された。
最後は決まって、必死になって「助けてくれ」と懇願してきた惨めな奴ら。
(冗談じゃない。私は、あんな風にはならない!!)
何か、強力な一手が必要だった。
自分への疑いを晴らし、尚且つ政敵を失脚させられるような一手が。
勿論、そんな都合の良い物はない。
デュノアの
だが追い込まれた人間に、そんな正論など通じない。
ただ自分が助かりたいが為に、全ての犠牲を許容する。黒い考えが芽生えるまで、そう時間は掛からなかった。
彼の手が電話を取り、告げる。
「――――――私だ。やって貰いたい事がある」
この時、男が依頼したのは時間稼ぎだった。
時間さえあれば、今までに作り上げたコネクションと資金を総動員して、スケープゴートを用意出来る。そう思ったのだ。
世間でちょっとした不幸が起きるだろうが、そんなのは知った事ではない。
外部協力者が準備の為に、
彼の認識は、その程度だった。
持ち込まれる物が、
◇
フランスで騒動の種が芽吹いている頃、ドイツ軍IS配備特殊部隊、通称“黒ウサギ隊”は、特殊任務の最中にあった。
下された命令は、とあるテロリストの隠れ家の制圧。
本来ならば、対人戦を専門とする部隊が行うべき任務だ。
だが“黒ウサギ隊”にこの任務が回ってきた理由は、その装備にあった。
テロリストが某国から流出した生物兵器を所持しているとの情報があった為、全環境下で行動可能なISと、BC兵器に対し一定の耐性を持つ装備、
作戦領域で
『―――α小隊、目標制圧完了。損害無し』
『―――β小隊、目標制圧完了。β3が肩部装甲に被弾していますが損傷軽微。行動に問題ありません』
『―――γ小隊、目標制圧完了。損害ありません』
作戦は順調に推移していた。
『
そして“黒ウサギ隊”の捜索能力は、同パワードスーツを運用する他の部隊と比べて高い水準にあった。
理由はISの存在だ。
パワードスーツのセンサーが捉えた情報を、データリンクでIS側へ送信。IS側でセンサー情報を解析しているのだ。
今更言うまでもない事だが、ISの解析能力はパワードスーツの比ではない。
部下達から送られてくる情報を一括処理したところで、何ら問題無かった。
そうして暫くした後、部下から通信が入る。
『α1より
『どうした?』
『いえ、目標を発見しましたが、数が足りません。情報部の話では12個ですが、10個のみです』
『なに!?』
たった2個。だがこの2個は2発の銃弾とは訳が違う。
情報部によれば、某国から流出した生物兵器に使われているウィルスはレベル4。取り扱うには外界と完全に隔離した施設が必要で、エボラや天然痘ウイルスと同じレベルだ。
使用されれば1個で万単位。下手をすればその10倍単位で死者が出る。
それが、2個。クラリッサの決断は早かった。そしてしたたかだった。
『“衛星通信”で本国へ速やかに知らせろ。後“念のため”、事前情報と食い違いが無いか司令部に確認を取れ』
一瞬部下は首を傾げた。他の部隊なら普通だが、ISがある以上、盗聴対策に万全を期すならコアネットワークを使うはず。
なのに、何故衛星を?
思わず再確認した部下に、クラリッサはニヤリと笑い、『いいんだ』と言って実行させた。
何故なら彼女の狙いは、衛星を使う事にあったからだ。
ドイツは以前、とある一件で保有している衛星群への、最優先アクセスコードを束に渡していた。
ならば衛星を経由している情報は、全てモニターされていると考えて良いだろう。
そして彼女の性格的に、アンサラー計画に影響が出るようなことは、決して許さないはず。
赤の他人の生死に興味は無くても、計画の邪魔になるなら、あらゆる手段を使って潰しにかかる。
そんな確信があったからだ。
軍人としては、些か以上に問題ある判断だろう。
民間人を頼るなど、そんな事が許されたら、軍人の存在意義がなくなる。
例え相手が“天災”と言われる人間でも、だ。
だがこの時、クラリッサは仮に使用された場合の被害を考え、人命を取った。
そしてこの判断が、欧州を救う事になるのだった――――――。
◇
クラリッサが衛星通信を使った数秒後。
自宅で研究していた束は、画面の片隅に幾つかのアイコンが点滅しているのを見つけた。
情報収集用に常時走らせているタスクが、優先度の高い情報を拾ってきたのだ。
(ん~?)
ポチッとアイコンをクリック。
するとクラリッサが本国とやりとりした情報の全てが、画面に表示される。
暗号形式は、束がドイツから衛星へのアクセスコードを受け取る前のもの。
つまり彼女からしてみれば、何の苦労もなく見れてしまう。
(これは………隠そうという意思がない? むしろ私に見せたい? うーーーん)
暫し考える束。
仮にこの情報が本当なら、そして日本や欧州で使われたら、計画に影響が出るのは必至。
それは面白くない。どころか腹立たしい。
(でも研究で忙しいんだよね。…………あっ、いるじゃないか。こういう事が大好きな泥棒猫が。飼い猫に適度に運動させてあげるのも、飼い主の役目だよね)
本人が聞いたら怒りそうな事を思いつつ、束は楯無を呼び出した。
『もしもし
『いきなりね。
『ちょっとドイツで気になる情報が流れてね。嘘か真か確めて欲しいんだ』
束の指が動き、楯無へ情報を転送する。
『ふ~ん。なるほど、ね』
『確かフランスとドイツには足場があったから、動けない事は無いよね?』
『まっ、とりあえず洗ってみるわ。ところでコレ、見つけたらこっちで処理しちゃって良いのかしら? それとも、そっちで使う?』
『こんなのいらないよ。発見したら、“見つけてやったぞ”って恩でもたかーーーーーく売りつけてあげたら』
『了解。でも珍しいわね。貴女がそんな事を言うなんて』
『正式な依頼じゃないけど、明らかに私を利用しようとする意図が感じられたからね。その対価だよ。今度は何を貰おうかな』
『程々にしといてあげなさいよ』
『向こうの出方次第だね』
『奪ってばかりはダメよ。利用価値があるうちは、適度に美味しいおもいをさせてあげないと。その方が、色々働いてくれるわよ』
『なるほど。覚えとくよ』
これで用件は終わりとばかりに、束は通信を切ろうとした。
だが、楯無の方にはまだ聞きたい事があった。
『――――――ところで、晶をフランスに行かせて良かったの?』
『うん。私が良いって言ったんだよ』
『シャルロットと2人っきりなのよ』
『お妾さんにも、偶には御褒美あげないと。学園でも計画でも、色々サポートしてくれてるみたいだし』
『心配じゃないの!?』
『全然。心配しなくてもちゃーんと私の所に帰ってくるもん。あ、
ブチッと通信越しに何かが切れる音が聞こえたが、多分気のせいだろう。
『あ、愛されてる自信が無いですって!! そんな事ある訳ないじゃない。もう私にメロメロなんだから』
『だったら一々オタオタしない』
『あ、アンタに言われるとものすっっっごい腹立つわ………』
『フフン、私、彼の正妻だもの』
この後ちょっとした
彼女達にとっては日常の一コマだ。
こうして晶のフランス行きに合わせるかのように、様々な事が動き始めたのだった――――――。
第92話に続く