ネット版 仮面ライダーハイセ ドント! アンダーカバー ~喰種だって出しゃばりたいッ!~ 作:黒兎可
「フロッキー、おいしゅうございましたです」
そんなことを言いながらドーナッツを置き、什造はコーラを音を立てて飲んだ。
行儀が悪いと言うと、適当に「ごめんなさいです」と流した。まったく……。
「でも、なんでイットーはノートつけてるんですか?」
「嗚呼、これはだな。以前アカデミーで少しだけ教えた時に担当したクラスで、身体の弱い女子生徒が居てな。彼女があまり大量に食べられないから、せめて感想だけでもというようなことを言っていたんだ。
それを受けて以来、どうも他人に自分のオススメを教えようと思うと、細かく考えてしまうようになってな。こうして感想や、その時のことなどをまとめているんだ」
「へぇ……。絵、上手ですねぇ」
「味だけではなく、一目で俺がそのときの食感、質感、風味、口内への甘さの広がり方、すっぱさ、苦さ、調和など様々なバランス」
「イットー、グルメですねぇ」
「単により多くの種類を味わいたいだけだ。店舗ごとにたまに限定メニューがったりもするからなぁ。
しかし、グルメか……」
ふと思い出した情報は、喰種「美食家」だ。
いわく、様々な食べ方で人間を貪る。被害者は目だけ刳り貫かれたもの、肌を剥がされ殴り殺された者、内臓器が一部だけ抜き取られていた者など多岐にわたる。時にアスリートの心臓がくりぬかれて倒れていたという情報は、社会的にもそれなりに影響があることもあり、多くの捜査官に共有された。
そして何故か目撃情報が極端に少ない。最近で唯一取れたものによれば、容姿の整った男性であるらしい。だが残念ながら、彼女は目を刳り貫かれてしまっているためモンタージュなどの検証が出来なかった。
「喰種共に味覚があるかどうかは知らないが、生かされたにせよ殺されたにせよ、悲劇しか生んでいない。この状況は間違いなく悪だ」
「ですかねー? あ、ちなみに味はするみたいですよ」
「……」
喰種に育てられた什造の言葉だけに、その情報にはそれなりに重みがあった。
せっかくなので、俺は確認することにする。
「ちなみにだが、人間の食べものを食べるとどう感じるのか、お前は知っているのか?」
「はえ? 興味あるですか? えーっと、確か吐いてたです。ゲロとかみたいに、酷い味がするんじゃないですか?」
「そうか」
喰種にとって人間の食べ物は不純物であるからして、もしや毒物のごとき味がするのだろうか。
あの男も、それを抑えながら俺を……、止めておこう。思考を振り払って、俺はドーナッツを齧った。
しかしこのハニーワッフル、美味だ。特にハチミツとの相性が悪くない。ハチミツは後日買ってみるか。
しかし、このベタベタとしてくるのは少々頂けない。時間経過とともに浸透率が上がっていくせいもあるのだろうが……。
ノートに今日の分の情報を記載していると、什造が再び口を開く。
「そういえば、セットとかで頼まないですねイットー」
「ああ」
「なんでです? コーヒーとか飲まないです?」
「基本的に、甘味に合うのは冷水だ。雑味が薄く、口の中を引き締め、砂糖による甘さのキレを良くしてくれる」
「やっぱりグルメですよー」
什造の、何故か引いたような表情に俺は困惑した。
「い、いや、何か変なことを言ったか?」
「僕もそこまでじゃないってだけです。
でもでも、じゃあ亜門さんが喰種になったら大変ですねー」
「……は?」
俺が喰種になる?
「例え話です。甘味食べられなくなったら、大変じゃないですか?」
「それは……、いや、捜査官としても無論そうだが、確かにな」
ありえない前提の与太話だが、確かにそうなれば。俺が俺自身のアイデンティティを許すことができないだろうし、そして甘味をエンジョイすることが出来なくなる。それは、何とも酷く悲しい話だった。
そして店を出る際。
「セイドーにもお土産買って行くです」
意外と二人は仲が良いのかもしれないと思った。