ネット版 仮面ライダーハイセ ドント! アンダーカバー ~喰種だって出しゃばりたいッ!~ 作:黒兎可
<――亜門鋼太朗の喰種資料整理 ファイル3――>
「義理だ」
「……料理、出来るんだな」
「舐めるな。女子の嗜みだ」
ふふん、とアキラは鼻を鳴らして笑った。
時期は三月の頭。ひなまつりも終わってしばらく過ぎた後。
真戸さんの娘の真戸アキラに呼び出され、俺は1区のラボラトリに来ていた。
アラタG3はさすがに自立飛行モードにする訳にもいかず、彼女が搭乗して来ていた。何をするかと思えば、要するにメンテナンスだ。
「まだまだ実験機としての色が強いからな。今後もバージョンアップは適宜図っていきたい」
そう言いながら、地行博士にバイク状態のそれを手渡し、そしてふと、思い出したようにショルダーバッグの中に手を入れて、小さい包みを取り出した。
「……何だ?」
「日ごろ、父が世話になっているのでな。その礼に作ってみた」
中を確認してみると、チョコレートがふんだんに使われたドーナッツだった。……どう見ても手作りだった。
そこで冒頭の会話になった訳だ。
続けて彼女は「バレンタインでもないから、お返しは期待してない」と言い、そそくさとラボの奥へ移動した。
「いや、しかし……」
アカデミーの食堂で真戸さんが意味深な笑みを浮かべていたのは、これのせいだろうか。
そして何故か、ドーナッツ二つのうちの一つに刺さったフォークの上には「当たり外れあり」と書かれた紙が引っ掛けられていた。……当たり外れ?
ロビーで困惑しながらも、俺はそのうちの一つを手に取った。
「……」
なるほど、外れかこれは。
端的に言って、俺が最初に手に取ったほうは味がしなかった。……びっくりするほど無味無臭だった。食べられなくはないが、何だろう。砂糖が入ってるにもかかわらず、この、むなしさは何だ? この、甘味に対する冒涜感は何だ?
自動販売機でミネラルウォーターを買って、口をすすいでからもう一つを手に取る。
だが、こちらの方は仰天させられた。
このふかふかの食感は手作りならでは、油っぽさが少ない独特な味わいだが、しかしこのチョコレートの豪華さは何だ? 砕かれたチップが食感にメリハリを付けているだけではなく、芳醇なミルクとカカオの螺旋が広がる。
ベースに練りこまれたチョコレート、十中八九市販のそれではあるまい。
さっと、たまたま持ってきていたドーナッツのノートに彼女のその味を記述していく。再現性のないものかもしれないが、しかしこれは美味い。普通に美味かった。
「見た目は変わらないが、味が違うか……。
そうえば、奴は正反対だったな」
ふと、俺の脳裏によぎったのは、とある青年の喰種だった。
奴は眼帯と、鼻から下を覆うようなマスクを付けている。今までに三度、俺の前に姿を現していた。
一度目は真戸さん、俺の元パートナーの連絡を受け、20区のとある高架下へ向かおうとした時。
もう一度はCCGによる、アオギリの樹への大規模攻撃の際。
どちらにおいても、決して敵対した捜査官を殺すことはなかった。俺の目の前で……、逃げろとさえ言った。
三度目にいたっては、暴走しているような喰種を相手に呉越同舟のごとく戦ったくらいだ。
眼帯の喰種――。
「――ハイセ……、あれは一体何を――」
「ドイツ語の勉強か? 亜門一等」
椅子に座って考えていると、アキラが戻ってきた。身にまとった白衣が、とても着慣れている印象だ。
「似合うな」
「そうか。世辞はいらない」
「正直に言っただけだ。それはともかく……、ん? ドイツ語?」
「ハイセはドイツ語だからな。~という名前である、という言葉だ」
なぜそんな意味のわからない言葉を奴は名乗ったのか。
「それはともかく、とりあえずは問題なさそうだ。G3は。
強いて言えば、早いところ免許をとってくれ」
「……善処する」
「頼むぞ。話は変わるが、ドーナッツはどうだった?」
「片方はすさまじく美味だった。俺が食べてきたドーナッツの中でも三本の指には入るんじゃないかというくらい」
「そこまでべた褒めだと逆に怖いものがあるが……、ん?」
と、彼女は俺の隣に置かれた紙袋の、その横に置いてあるメモ書きを手にとり。
ため息をついてから、軽く頭を下げた。
「すまない、亜門鋼太朗。これは同期に手渡す予定だったものだった。もってくるのを間違えた」
「……」
思わず俺は、程ほどにしておいてやれ、と彼女の肩に軽くチョップを入れた。