ネット版 仮面ライダーハイセ ドント! アンダーカバー ~喰種だって出しゃばりたいッ!~ 作:黒兎可
「ま、以上が俺の調べた範囲の出来事だ。あんまり当たって欲しくなかった勘なんだがよ」
「そうですか」
守峰さんの言葉に、俺は深く息を吐いた。
三月も中盤。以前一度、二月の中ごろに俺は彼と再会していた。その時に一緒の作戦に出ていた捜査官と遭遇したり、あるいは突然現れた喰種と戦ったこともあり、その後の会食はさすがにお流れとなってしまった。
今日は久々にお互いの都合が付いたため、こうして顔を合わせているところだった。
「喰種も怖いが人間も怖い、という感じだと思ったね。俺は。そういう意味じゃ、あのねーちゃんが庇ってた方はそっちさんに任せるにしても、なんだかなぁ……」
「その、オトカゼを名乗っていた彼女は?」
「娘さんが運よく来たタイミングで回復してな。今は入院しちゃいるが……。ちなみにこれ娘サンの写真だ、亜門サン。見るか?」
「いや、それは別に……」
そうかい、と言いながら彼は位牌の前に置いてあったジョッキをあおり、枝豆を一房。指で押して飛び出たそれを、余裕という風に口に入れた。
「……守峰さん、仮にも警察官なのだから、こんな時間から飲んでいて大丈夫なんですか?」
「構いやしねぇよ。ま、ちょっと嫌ぁな流れがあったってのもあるが……。そのうちまた、そっちと共闘することになるかもしれねぇ」
「どういうことです?」
こっちは情報規制が敷かれてるから、まだ言えねぇ、と彼は肩をすくめた。
「だが、忙しくなりそうなことに違いはねぇ。そっちに回らないうちに終わらせられればめっけもんだよ。
まぁとりあえず、俺が思うのはだ……。やっぱり一面的な見方だけってのは、どっちにしても歪んじまうんだなぁって感じだな」
今回の裏だって、発見できたのが奇跡的なくらいだし、と彼は笑った。
店を後にして、俺は昼下がりの駅前を歩く。
守峰さんの言葉を反芻し、どうしても、心中で渦巻く得体の知れない気持ち悪さ。体感的なものではなく、これは精神的なものだ。
自分たちのような存在が生まれなければ良いと書いた、小春さん――。
脳裏で眼帯の喰種、ハイセのあの顔にもだぶらせながらも、しかしどうしても、納得が完全には出来ていない。
「ラビット……」
かつて共に捜査をしていた、若い補助の草場さん。彼を事実上再起不能に追い込み、真戸さんを捜査官引退にまで追い込んだ切っ掛けとなった喰種。俺と眼帯との遭遇の切っ掛けでもあったか。
あの喰種の行動にも、何か別な側面があるというのだろうか?
真戸さん曰く「下手にあちらに警戒されると、現状の謎のバランスが崩壊してしまうかもしれない。何にしても市民の安全のため、一時とはいえ耐えねばならないという度し難い状況だよ」とのことで、彼の独断により放置されている。
その口ぶりからして真戸さんは正体や事情についてもおおよそアタリをつけているのではないかと俺は思っているが、しかし彼は頑として語らない。「時期尚早だよ亜門くん」と笑われるだけだった。
真戸さんも、真戸さんでどこか調子が変わってきているようにも思う。以前ほど張り詰めた空気を纏わせてはいない、というべきだろうか……。あるいは、能力的に折れてしまったせいもあるのか。
やるせなさと湧き上がる怒りに拳を強く握り、俺は再度、奮起しようと顔を上げて頬を叩く。
「―ーよし!」
「やぁ」
「!?」
と、そんなことをしていると。
駅前の本屋から、見覚えのある青年のような方が出ていらっしゃった。……見た目に反して年は上で、俺や、いやCCGにとってもかなり大きな存在。
彼の名は有馬貴将。CCGの生ける伝説。あるいは死神。
……そんな彼が、頭にニット防を被って、黒いコートを羽織って、片手に紙袋を下げていた。
「……と、特等?」
「久しぶり。今日は?」
「ああ、えっと、知り合いと少し。特等は?」
「富良くんの家に呼ばれたから、お土産くらい買って行けって宇井に言われた」
「そ、そうですか……」
完全に私服だったが、どうやら本当にオフのようだった。
それより、思っていた以上に富良上等とは仲が良いのだろうか……? 以前「同級生」と紹介されはしたが。
その後、少しの間特等と世間話のようなことをした。真戸さんの下で捜査のイロハを学び、真戸さんが一線を引いてからの今日までのことなど。
「以前書いてあった眼帯の喰種、確かクインケドライバーをしていたね」
「はい」
「なるほど」
何かを納得したように、有馬特等は無表情に頷いた。
何を納得したのかを聞こうとして――俺は、思わず目を見開いた。
特等の肩から見えたカップルのような二人。少女の方が少年を無理に引っ張っているようにも見える。そのうちの片方の歩き方に、何か言い知れぬ既視感を覚えた。
思わず走り出し、彼らの肩を叩く。
「すまない。少し時間をくれないか? 数分もかからない」
「あ゛? 何言って……ッ!?」
CCGのロゴを確認すると、少女の方はあからさまに嫌そうな反応を示した。一方少年の方は首をかしげている。
そして――少年は、俺から見て右に眼帯を付けていた。
「左目……、いや、済まない。ヒト違いだった」
「へ? あ……、あははそうですか」
「……ん?」
だが。どうしてか俺は、彼の顔をまじまじと見てしまう。
何だろう。この微妙な感情の乗った微笑み。そしてどこかで見覚えがあるようなこの髪型というか――。
「ちょっと、もう良いんでしょ! カネキ、映画間に合わないから」
「へ? あ、トーカちゃ――」
俺が静止するよりも先に少女の方があわてたように少年の手を引いた。映画……、映画か。
思わず反射的に「すまない」と声をかけてしまったが、少年は困ったように少しだけ頭を下げた。
「どうした?」
「あ、いえ。……どこか見覚えがあるような気がしたもので」
「喰種のか?」
特等の言葉に、俺は首をかしげる。確かに抱いた違和感は、喰種のように思えるが。だがしかし、何か微妙なこの感覚は……?
「……なるほど」
思考に埋没する俺の隣。有馬さんは、走り去る少年少女の方を見て、静かにそうつぶやいた。
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