ネット版 仮面ライダーハイセ ドント! アンダーカバー ~喰種だって出しゃばりたいッ!~ 作:黒兎可
<――リオwithあんていく 2――>
今日の僕は、あんていくの非番。
カネキさんの協力の元、いつもなら
「大丈夫かなぁ、トーカさん」
お店を出る前、休憩室で見たトーカさんは肩で息をしながら、色とりどりの食物が所狭しと入れられた、人間のお弁当を食べていた。
大丈夫かと聞こうとしても追求は拒否するし、カネキさんなら何か知ってるだろうか……。
「待てよッ!! おい貴未!」
そんなことを考えながらの捜索中、というよりもその帰り道。20区へ向かう途中、ある学校? の入り口のあたりで、ニシキさんの姿を確認した。
彼は女のヒトと一緒に居て、何か口論したらしい。彼の制止を振り切って、彼女はどこかへと行ってしまった。
しばらく彼女の背中を見つめると、とぼとぼとこちらの、出口の方に歩いてくる。
「……あ゛?」
「こ、こんにちは」
「何やってんだシマシマ。こんなところで……って、探してんだったな。例の」
「あ、はい……」
「どうしようもなくなったら言えよ? 俺もまぁ、暇だったら少し手伝ってやらねぇこともねぇから」
色々と言い方が遠回り過ぎないだろうか、このヒト。
「んだよ。何ニヤついてんだよ」
「あ、いえいえ。……さっきのヒトって、恋人さんですか? ケンカしてたみたいですけど」
「チッ。何見てんだよ……。まーそーゆーことだ。人間だけどよ」
「へぇ……」
意外だ。なんとなくだけど、てっきりそういうのをとっかえひっかえしていたイメージがあった。あるいはみんな一緒に付き合ってるとか。
でもなんとなく、彼がなんであんていくで働いているのか。その一端を知ったような気がした。
「……オイ、何だその間は」
「へ? あ、いやいや、何でも」
「あー。たく……。
俺のコト良いっていう女居たらしくて、それで妬いてるんだよ。別にんなことどーでも良いってのに。そのうちどっか連れて行かなきゃ駄目だな、ありゃ。
レポート終わった後からご機嫌取りだ。ったくメンドクセー」
なんとなく、僕らは歩きながら話を続けていた。
「モテるんですね」
「へっ。まぁな。大体表面的なことしか見えてねーよーな連中ばっかだがよ」
「……あのヒトは、特別なんですね」
「ハァ……。
お前、付き合うなら喰種の女にしておけよ。色々面倒クセーことばっかだから。
記念日がどーのこーの、デートスポットも調べなきゃなんねぇし。知識ねぇからんなモン言ったって出てこねぇよ」
「トーカさんとか、学校に通ってると思いますけど……」
「ありゃ半分は人間の女みてーなもんだ。メンドクセーから止めとけよ。カネキ見てりゃわかんだろ」
「なんだかんだ言って、ニシキさんって真面目にそういうこと叶えようとしてますよね」
「うっせぇよ。テキトーだっての。ったくメンドクセー」
ニシキさんはそう言いながら、自販機で僕にも缶コーヒーを買ってくれた。
その時に見た手首のブレスレット。遠目で見た感じ、気のせいじゃなければあの女のヒトの腕にもついていたような気がする。
「仲直り、出来ると良いですね」
「シバくぞお前」
「なんで!?」
ニヤニヤ笑いながら軽くアイアンクローをかますニシキさんから、僕は軽く悲鳴を上げながら逃げた。
軽いじゃれあい、という感じではあったけど、戦闘態勢に入ってないと僕はあんまり強くないのだ。こういう恐ろしさには弱かった。
走っていると、不意にトーカさんの後姿を見つけた。
声をかけようかと思ったけど、彼女の隣にヒトが居たのを見て、声をかけるのをためらった。
僕やニシキさんには見せないような。かといってお客さん相手の作り笑いとも違う。そんな自然な笑みを、彼女は隣の少女に向けていた。
彼女たちは、同じ服を着ていた。ということは、つまりそういうことなんだろう。同級生、クラスメイト。
ただ、そういうよりは――普通に友達って言ったほうが、しっくりくる。
「でさ、アイツおかしいのよ。絶対何か隠してるって」
「えー、ホントに? ――」
……楽しそうだな。
学校か。……記憶の有無にかかわらず、そこはたぶん僕にとって未知のエリアだ。同年代の人間がたくさん集まって勉強している場所。まったくもって想像もつかない。
そんなところで、トーカさんはあの子たちと一緒に居るんだ……。
たくさん、人間のことも勉強したんだろう。じゃないと会話もかみ合わないはずだ。
あんていくでのツンとした一面でも、カネキさんの前で見せる照れ隠しの一面でもない。僕にとって今の彼女は、浮かべている笑顔以上に意外な一面だった。
毎日積み重ねているだろうその努力。彼女はとても頑張り屋だった。
「じゃ、またね。あ、これこれ。深夜に食べたくなったら食べて!」
「補習午後からなのにまた作ってきたのかよ……」
「せっかくだから彼氏さんと一緒に――」
「だー、もう違うっての! じゃ、またね」
「トーカさん」
「!? あ、アンタいつから――」
僕の存在に気づいて、明らかにトーカさんはあわてた。
「友達ですよね?」
「……悪い?」
「いえ。なんか、羨ましいなーって。楽しそうで。
でも、それ……」
彼女の手に握られている包み。たぶん中はお弁当箱が入ってるんだろう。
トーカさんは、それを隠すようする。
「馬鹿みたいって思ってるでしょ」
「いえ、そんなことは――」
そまま走り去る彼女。僕は今朝方、体調が悪そうにしていたトーカさんのことを思い出した。
「……友達が自分のために作ったものだから、がんばって食べていた」
それは……、何というか、哀しいなぁ。
トーカさんの優しさと、それだけで覆いきれない喰種の生き方が。
数日後。繁華街で。
「……おや? 君は先日の」
「!?」
前にヒナミちゃんと一緒に出歩いた日に、出会った捜査官の女性から声をかけられた。
「やはり君か。この間は助かった、礼を言う。父には好評で、後は本人用に作るだけなのだが」
「あ、いえ、どうも……」
「私は真戸アキラと言う。せっかくだ、礼もかねて軽食でも一緒にどうだ?
幸い時間が空いている」
捜査官の前で食事!? 何だその自殺行為は。
いや、でも変に抵抗したら危ないか? ヒナミちゃんが今日は居ないって言うのが幸いかもしれない。
レストランなんか行ったらそれこそ追い詰められてしまうので、僕はなんとなく、近くにあった喫茶店に足を運んだ。
……? って、あれは高槻泉?
「どうした?」
「あ、いえ、何でもないです……」
喫茶店の奥でパソコン? を広げて、彼女はなにやらカチカチとタイピングしていた。もう新作を作っているのだろうか……。
ウェイトレスのヒトに、僕はサンドウィッチを注文した。以前古間に伝授してもらって以来、いまだに時々練習している。味の判定含めて、ある程度はお墨付きだ。いくら捜査官でも、これを見抜くのはかなり難しい……、はず。
僕は珈琲とサンドウィッチ。アキラさんはチョコレートドーナッツとエスプレッソ。
「いただきます――」
手を拭き、両手にとって一口。
それと同時に口の中に広がる、この風味と味の酷さをどう形容したら良いだろう。舌にまとわり付く、この妙に臭みを伴う風味は……、塩だったか。後から来る何ともいえないまだるっこしい味わいは甘み。じゃきじゃきと弾力を伴い口の中にうっすら痛みさえ覚えるこれはレタス。そこからもれる水分が、ただの水とそう変わりないだろうに僕の口の中を不快感で満たす。続けて広がる、この吐瀉物めいた酸味。何だ、この独特なソースは……?
「なんだこれはぁ!?」
「!」
「野菜のシャキシャキ感、肉の旨みはもちろんだけど、全体を調和する、ほんのり香る風味……、あんまり体験したことのない味だぞ? ベースはサウザンっぽいけど、それでいてこう動物的な――」
味に付いて色々考えている僕に、アキラと名乗った彼女は意表をつかれたように妙な表情をしていた。
「そうだ、ブイヨンだ! 鳥のブイヨンをベースにしているんだ! だからこんなに美味しいんだ!
上手いことバランスがとれているんだ、よく考えられている!」
そんなことを言っていると、店の奥から店長らしきヒトが出てきて、僕の講評(?)に色々言ってくれたりした。将来は料理人になったらどうか、というようなことさえ言ってくれる。
しばらく店長と話した後、椅子に座ると彼女は微笑が引きつった。
「ずいぶんこだわりがあるんだな、君は……。いきなりしゃべったから、驚いたぞ」
「あ、いえ、すみません。どうにもこれには目がなくって。作るのはあんまり得意じゃないんですけど」
「ふむ。……喜んでくれたなら幸いだ」
その後しばらくして、なんとかやりすごして僕は彼女と別れる事が出来た。
なんとか乗り切った……。脳裏には魔猿様の得意げな顔が浮かぶ。
改めて思うのは、トーカさんはすごい。
僕は自分の身を護るためにこういうことをしたけれど……、彼女は自ら進んで、やっているんだ。友達のために。友達と居るために。
お店につくとすっかり夜で、トーカさんがちょうど出てくるところだった。
「あっ」
「……ん」
それだけ言って帰ろうとするトーカさん。僕は、なんとなくそれを呼び止めた。
「どした?」
「あの……、少し、一緒に歩きませんか?」
「……いいけど」
「カネキさん、今日は……?」
「なんか月山と一緒に出て行った。後でとっちめてやる」
「あ、あはは……」
「で、アンタは何か成果出たの?」
「んー、今日はいまいち……」
なんで一緒に歩こうと言ったのか。正直、僕にもよく分かってない。
ただ、なんとなく言わなきゃいけないような。聞かなきゃいけないようなことがある気がしたんだ。
以前に比べて、僕がマシになってきたと言うトーカさん。そろそろ研修もとれるんじゃない? と半笑いする彼女に、僕は聞いた。
「……トーカさん。僕は、馬鹿だって思わない」
「……?」
「前に、そんなこと言ってましたよね。人間の食べ物食べて、馬鹿だって思ってるだろって。
でも……、僕はそう思いません。だって、それだけ友達が大事で、友達の思いを無駄にしたくなって、思ってのことだから」
「……」
「そういうのって、すごく素敵なことだと思います。確かに僕らの身体には良くないのかもしれないけど……」
「……違うの、そうじゃないの」
トーカさんは、肩をすくめて、自嘲するように笑った。
「私は……、カネキにも言ってないんだけどさ? 人間みたいになりたかったの」
「……」
「ああいうことしてれば、もしかしたらいつか味覚が変わって、依子たちと本当に楽しむことが出来るんじゃないかって。結局、成果も何もないし。そりゃ、カネキでさえ味覚が変わってから、今まで戻ったって話も聞かないのにね。
みんなの中にいて、やっぱり思うのよ。私は――コイツらとは違うんだって。バケモノなんだって」
彼女の独白に、僕は言葉を続けられなかった。
「楽しかったけどさ。でも寂しかった。
形だけじゃなくって。私は……、私は、人間みたいになりたい。そしたら、依子たちのことももっと全部わかってやれるのに。本当に、友達になれるのに」
今みたいに、隠し事とかなくてさ、と。段々と、その語調が強くなっていく。
「そしたらきっと、もっと何かが見えてくるんだと思う。思いたいのよ」
「……」
「怖いのよ。一人になるのが。
カネキだって……、一人にしないでって言って。たぶんそれを聞いてくれたから、一緒に居てくれるんだと思ってるけど……。でも、それだっていつかふらっと、居なくなってしまうような気がする」
「……カネキさんのこと、好きなんですか?」
「……わかんない。たぶん、そうなんじゃないかって思う気もするけど。依存してる気もする」
居た堪れない、という顔をして、トーカさんは下を向く。
そして、僕は気づいた。嗚呼これは――嫉妬だ。たぶん嫉妬だ。
怖いところもあって、弱いところもあって。でも誰より人一倍頑張り屋で。カネキさんや店長に次いで、存在が僕の中で大きいというのもあるかもしれない。でもそんなひたむきな彼女の姿が、僕には眩しい。
その眩しさが、欲しい。
カネキさんに向けられてるその感情が。
でも、それは出来ない。だってそれは、カネキさんに向けられているからこそ発生している感情なのだから。
でも、だからこそ僕は――。
「僕は、トーカさんが好きです」
「……え?」
戸惑うような彼女に、僕は「大丈夫」と続けた。
「だから、きっと大丈夫ですよ。カネキさんも、たぶん」
「……」
「トーカさんのそういう、ひたむきなところが僕は好きですよ。
だから例え全部が全部、純粋な好きとかじゃなかったとしても、努力して、きっとなんとかなります」
言いながら僕は、意識がはるか遠くに引っ張られるような錯覚を覚えた。
左目の奥の痛みなんかとは違う。身体が鉛のように重く、言うことを聞かない。腕なんかぶるぶると震えて、声もちょっと変になってきが気がする。
まるで、自分の身体が自分の身体じゃないみたいだ。
それでも、僕は笑顔を浮かべた。カネキさんがそうしているように。
しばらく押し黙ってから、力が抜けたような笑みを彼女は浮かべた。
「……ありがと、リオ」
「……いいえ!」
また明日、あんていくで。そう言って、彼女と僕は別れた。
マンションに向かう彼女を見送りながら、僕は電柱に身を預けた。
しばらく、ここから動けそうになかった。
隠し事をして、それを貫き通すってホント、大変なんだなぁと。僕は改めて、自分の好きになった
以上で終了となります。お疲れ様でした。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、章タイトルを全て並べるとちょっとしたネタバレ? があります