ネット版 仮面ライダーハイセ ドント! アンダーカバー ~喰種だって出しゃばりたいッ!~ 作:黒兎可
暗転した場所で、丸椅子の上に座る男性。背中をこちらに向けて、黒い白衣を身にまとっている。髪は長いというより、切るのを面倒がっているのか適当に束ねている。
そんな彼が、ちらりとこちらに身体を向けた。人の良さそうな顔をしているが、少し疲れている印象である。ひげはうっすらと生えており、メガネに、首には聴診器を巻いていた。
「――やぁ。理性と本能の狭間に囚われた皆さん。
私は笛口アサキ。喰種の赫子に目がないドクターです」
特に妻の赫子の形状の美しさといったら、と何かを語ろうとした瞬間、口から涎が垂れかけ、じゅるりと袖で拭った。
※
今は使われなくなった、とあるコンテナハウス。空き地の管理も行き届いて折らず、一見して廃墟のそれだ。そんな場所に看板も立てず、ひっそりと経営しているのが笛口アサキの診療所だ。
喰種の医者として、今日もやってくる患者たちを、食糧と引き買えに診ているのだ。
さて。目の前の患者に対して、アサキは微笑みながらアドバイス。
「カズオさん。貴方の場合生活サイクルも栄養バランスも完璧ですから、そうなるとやはり精神的な所が原因かと。赫子の調子にも影響がありますから、何か発散するところを考えては?」
「やはり、もっと踊るしかないのか俺は……」
赫子を仕舞い、ありがとうございます、と頭を下げて立ち上がった男。髪はちょっとおかっぱっぽい、スマートな男性だ。冴えない容姿と優しげな声が印象的である。扉を開けて外に出ると、アサキの愛娘に優しげな声で手を振るようなやりとりが聞こえてきた。
それにほっこりしながら扉を閉め、アサキは少しだけ暗い表情を浮かべた。
カルテを付けながら、アサキは少しだけため息。
「毎日毎日、平和で結構ですが……。ここの区の感じにも慣れてきて、赫子も見慣れて来てるんですよねぇ。ここらで一発、何か私をときめかせてくれるような赫子は来ないものですかねぇ……。
次の方、どう――」
ぞ、とアサキが言った瞬間、診察室の扉が勢い良くぶっ飛ばされた。
扉と共に部屋の中にぶっ飛ばされてきたのは、長身の男性である。少々濃い顔つきながら、何故か妙にしなを作っている。診察室の机の上に倒れたと同時に、彼は「あぁん、ヤモリったら大・胆♡」と恍惚な声を上げた。
「あ、あな、たは――ヤモリさん?」
「やあ久しぶり。先生?」
ふっと微笑み、倒れこんだ男性を適当に地面に転がして椅子に座ったのは、大柄な白いスーツの男性だ。ネクタイは鱗のような模様が描かれており、顔形は中々にいかつい。
ぱきり、と指を慣らす彼に、アサキは思わず一歩下がった。
(13区のジェイソンこと、ヤモリ。共食いを繰り返して既にその身は赫者へと至ろうとしている。
何よりその特性は共食いというよりも、その趣味趣向であるところの被虐、拷問のごとき行為に裏づけされた残虐性。一度目にした赫子は、何とも荒々しい鱗赫だった……。
しかし、何も退屈を紛らわしたいと思った矢先に何故彼なんだッ!?)
奥で震えているだろう娘と妻の方に注意を向けながら、アサキはヤモリに聞いた。
「よ、要件を伺いましょうか?」
「嗚呼。道具の調子を見て欲しいんだよ。ほら、僕、沢山使ってるから自分だけじゃ手入れが間に合わなくってさ」
そう言いながら取り出したのはペンチだ。だが一見した通りの只のペンチにあらず。押さえつければ喰種の身体さえねじ切る類の道具となっているそれは、元はと言えばアサキの医療器具の技術をベースとしたものだった。
力の強弱関係に開きがある喰種の診療も行うアサキだったが、ヤモリは勝手が完全に違った。彼はそもそも医療を必要としない前提で動いており、一定数の喰種が彼を「先生」と扱うのに対して、ヤモリは彼に支配的な態度をとる。家族を人質に取られているような状況が続いており、アサキは彼の言う事には逆らえなかった。
ヤモリもヤモリで手加減の度合いを弁えているのか、アサキに対して依頼する範囲は、さほど多くはない。娘の誕生日には服を送ってくることもあるくらいだが、もっとも基本的には相手の気分次第というところだった。
一度バラバラに分解して各パーツを磨き、一度彼に手渡す。
ばきん、ばきんと調子を確認した後、ヤモリは躊躇なく、一緒に連れてきた男の鼻をニッパーで摘み、もいだ。
「――ああああん、痛いじゃないのヤモリ!」
「お前を紹介するつもりもなかったのに、付いてきたんだから使用点検くらい付き合えよ」
顔面を押さえながら抗議する男。診療所に血が飛沫する。
ヤモリは楽しそうに笑い「また来るよ。娘さんも元気でね」とだけ言い残し、二人そろってコンテナハウスを出て行った。
深く、深く息を吐くアサキ。彼等の足音が聞こえなくなってから、すぐさま急ぎ足で扉を開け、ベッドで震えていた妻子に走る。
「お父さん――」「あなた……ッ!」
「ヒナミ、リョーコ!」
涙を浮かべながら、ひしと抱きしめ合う。
(嗚呼、退屈で結構じゃないか。平和で結構じゃないか。私には家族がいるのです。この平和さえ守る事ができるのでしたら――)
「リョーコ、その蝶のような赫子で私を包みこんでくれ! 癒してください!」
「あなた、ヒナミの前でマニアックなプレイを要求するの止めなさい」
首をかしげる娘の前で、抱擁しながらも母親は父親の頭に軽くチョップを入れた。
次は20:00予定