ネット版 仮面ライダーハイセ ドント! アンダーカバー ~喰種だって出しゃばりたいッ!~ 作:黒兎可
暗転した場所で、丸椅子の上に座る男性。背中をこちらに向けて、黒い白衣を身にまとっている。髪は長いというより、切るのを面倒がっているのか適当に束ねている。
そんな彼が、ちらりとこちらに身体を向けた。人の良さそうな顔をしているが、少し疲れている印象である。ひげはうっすらと生えており、メガネに、首には聴診器を巻いていた。
「――やぁ。理性と本能の狭間に囚われた皆さん。
私は笛口アサキ。喰種の赫子に目がないドクターです」
特に妻の赫子の形状の美しさといったら、と何かを語ろうとした瞬間、口から涎が垂れかけ、じゅるりと袖で拭った。
※
今は使われなくなった、とあるコンテナハウス。空き地の管理も行き届いて折らず、一見して廃墟のそれだ。そんな場所に看板も立てず、ひっそりと経営しているのが笛口アサキの診療所だ。
喰種の医者として、今日もやってくる患者たちを、食糧と引き買えに診ているのだ。
「次の方、どうぞー」
さて。
「変なのキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!」
「変なのとは……失礼な同業者だよねぇ」
扉を開けた喰種は、動物の耳のようなものの付いたフードを被った、全身に包帯をまとった相手だった。更にその上から吸血鬼とかが着ていそうな、赤と黒のマントを纏っているので格好に一貫性がない。
妙にテンションの高い声を上げたものの、一応は来客である。患者かどうかは「同業者」という言葉から怪しくはなったが、ともあれ一度謝罪し、席に座るよう促した。
「やあどうも。エトだよ。某所で医者まがいのこともやってるよー(まぁ死神ドクターだけど)」
「どうも、笛口アサキです……?(今何か呟きが聞こえたような気が)」
「やーやーどうも。なんだか知り合いの男の子から、赫子に目がない医者が居るって聞いてネ。ちょっと話してみたくなったんだ。
他のお客さん来たら出るから、それまで話をしようよ」
「男の子……? それはともかく、話とは?」
「どうやったら赫子が強くなるかとか、色々かなー。例えば私のなんだけど」
ぞぞぞ、と纏っていたマントに口が複数出現する。ぎょっとするアサキ。そしてマントは口々に「エトしゃん」だの「びっくり」「サプライズ」だの小声で会話をはじめた。
「そうか……、そのマントさては赫子ですね!!」
「そういうこと。ドライバー付けたら分離したし、まあそのままにしておくのもがさばるから薄く伸ばしてみたんだよねー。ほら、こっちの方が(死神博士)らしいじゃん?」
「(何かまた小声が聞こえた気がするけど……)しかし、しゃべる赫子とはまた珍妙な」
「これはこれで、扱う分には普通に使えるから結構便利なんだけどねー。治療中はよく言う事聞いてくれるし」
「ちょっと、触らせてもらっても?」
赤い手袋を装着したアサキに、エトは特に気にせずマントを差し出した。
アサキはそれを少し手に取り、じっと顔を近づけて分析する。
(手触りは普通のマントだがどこか革のような質感がある。そして口が開いた箇所は裏側が膨れて、最低限の声帯のような器官が発生している? わざわざそうなる以上はそうなるだけのイメージが必要なはずだが、聞いている限り口の会話は別個になっている以上、大本にイメージがあるということか。
しかし何よりそれよりも気になるのは……この包帯の下、一体どんな種類の赫子が詰まっているのか。組織に属してると言った以上、また同業者である以上赫子をそうそう露出させることはないだろうが、しかしどうしても知りたい。彼女の真価を――)
アサキの視線が、マントの下、椅子に座ったためローブから露出した、中途半端に包帯が巻かれた足が露出している。ただしアサキの意識は彼女の身体などにはない。
マントから手を離すと、さっとローブに手をかけようとするアサキ。それをさっと手で払って、座りながらエトは一歩後退した。
「な、何? どうしたの?」
「ガードは固いか……、こうなれば――ッ」
日中、妻帯者とは思えない速度で自分より身長の小さな彼女の服(?)を脱がせようと躍起になる医者の姿がそこにはあった。
対してエトは、本気で抵抗していた。心なし声が震えてる。平常時の彼女を知っていれば何事かと目を見張る光景であるが、どちらかと言うと彼女の恐怖は当たり前にありえる勘違いから派生してる類のものだ。赫子を出さないあたり既に勘違いの最たるものであるが、もっとも彼女自身、相手を殺そうとしていないだけまだマシな対応と見るべきか、気が動転していると見るべきか。
「こ、これはあくまで研究の一環だから……、一環だからちょっと、大人しくして――」
「ちょ、止めて、格好とか痴女い自覚はあるけど他人に剥かれる趣味はないから! 流石に! って、やめ――見えちゃうから! ちょっと妻帯者!?
きゃあああああッ!!!!」
『――
「うをっふ!?」
腰にドライバーを装着し、レバーを落としたエト。診療所の一室が一瞬真っ赤に染まり、というか輝き、数秒後には猛烈な勢いで扉を開けて逃走するエトの姿が。
突然の事態に驚いた妻、笛口リョーコは、急いで室内に駆け込む。
床で大の字に倒れたアサキは、天井を見ながらぼそりと呟いた。
「赫者か。……流石にそこまで行かないと無理か。
あっはははははは――!」
大笑いを上げる旦那の姿を見て、彼女は軽く頭を抱えながらも抱き起こした。
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