最近起きたユグドミレニア一族の時計塔からの離反。
それだけでもかなり大事ではあるのだが、更に思いもよらない事が起きた。
ユグドミレニア一族の長、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。彼は日本の冬木にあった筈の大聖杯、それを起動させたのだ。
実はこの大聖杯、60年前の大戦中に盗まれてからずっと行方不明であった。ダーニックはその時に大聖杯と共に姿を消し、それ以来消息不明となっていた。今回のことから推測するに、大聖杯起動の準備をしていたのだろう。
大聖杯とは、聖杯戦争と呼ばれる大規模な儀式を行うための礼装であり、万能の願望器である。
7人の、マスターと呼ばれる魔術師が互いに英霊、英雄が死後人々に祀り上げられる事によって精霊の域にまで至った亡霊。彼らをサーヴァントと呼ばれる特殊な使い魔として召喚し、争わせ、聖杯を奪い合う。
それが聖杯戦争だ。
当然魔術協会は部隊を派遣しこれを阻止しようとした。だが、先にダーニックが召喚したサーヴァントによって部隊は壊滅し、阻止に失敗した。
しかし、その部隊の生き残りが大聖杯の予備システムを作動させ、本来7騎しか召喚されない筈の聖杯戦争を14騎まで召喚できるようにする事に成功。
7対7、二つの陣営に分かれ争う『聖杯大戦』となったのである。
今回の事は確かに魔術師にとっては大事だ。聖杯大戦など前例は全くない。
しかし、それは柳成にとっては大事ではない。
柳成は時計塔には所属しないフリーランスの魔術師だ。
いや、魔術使いといった方が正しいだろう。
彼は依頼を受けてから行動を起こす人間だ。
依頼がない限り、そういった内輪の揉め事には無関係なのだ。
ならばなぜ、柳成は焦っているのか。
簡単な話だ。依頼が来たのである。それも魔術協会から。
事を重大に捉えているのか、それとも彼を使わなければならない理由があるのか。
それはわからないが兎に角この事について関わる心算のなかった柳成は驚き、焦った。
そもそも柳成は魔術使いとして、時計塔や魔術協会を含むそういった組織からは酷く嫌われていて、依頼などこない筈だったのだ。
さらには依頼の内容も問題だ。
その依頼とは『ユグドミレニア一族への潜入』。
ユグドミレニアに一族の者として潜り込み、内部から計画を阻止する、いわばスパイである。
危険な依頼だ。バレれば命は無く、完遂した後も同様である。だからこそ、嫌われている柳成に白羽の矢が立ったのだろう。
丁度良く、ユグドミレニアの1人が、まだ日本にいる。柳成も今は日本にいるため、それも今回の依頼の理由だろう。
本来なら断るべき依頼。
しかし、柳成は『依頼を断らない』ことで有名な男なのだ。更にそれに誇りを持っていた。
ここで断っては柳成の誇りに傷がつく。
焦りを抑え、柳成は出かける準備を始めた。
◆◆◆
日本のとある場所。
ジメジメし薄暗い一つの部屋。
そこには2人の男女がいた。
男の方は魔法陣のようなものを熱心に床に描いている。
女の方はそれをどこか虚ろな目で眺めている。
しばらくして描き終わったのだろう、男は立ち上がり魔法陣から一歩後ろに下がる。
これから男はある儀式を行う。日本の冬木市で60年ごとに行われる聖杯戦争。それに必要なサーヴァントの召喚である。
男は深呼吸をして目を瞑る。
これから行うのは神秘。かつて歴史に名を刻んだ者たちの召喚。故に、男は些か緊張していた。
そして決心し、目を開け息を吸い、英霊を召喚するための詠唱を紡ぐ。
ーーその前に、背後から喉を貫かれた。
そのまま声を発する前に首を切り離され、音も無く床へと落ちていく。
ゴトリ、と音が鳴った。
間に合った。柳成は安堵し、ナイフに付いた血を拭う。
いくら日本が小さな島国だとはいえ、どこにいるかもわからない人間を探すのは極めて難しい。藁の山から針を見つけるようなものだ。
柳成は自分の情報網を駆使し、ユグドミレニア一族の1人、相良豹馬を見つけ出すことにした。
だが一箇所に絞ることはできず、故にいくつか候補が絞れたところで、しらみ潰しに探したのだ。
先ほど召喚直前で止められたものの、あと数分遅ければ失敗していただろう。
彼の足元には血だまりと、首と胴が離れた死体。
殺す必要は無かったが、ギリギリだったため止むを得ず殺したのだが、どうやら見られたようだ。
柳成は部屋にいた女性に目を向ける。
今は柳成の手によって眠っているが、このままでは気付かれるのは時間の問題である。
だからといって、殺すというのも気が引けた。
先ほどは本当に止む無くであったが、本来なら柳成は殺しを厭う人間だ。それにこの女性に罪はない、とも思っていた。
そこで彼は苦手な記憶操作を行使することにした。
もしかしたら違う記憶も消える可能性があるが、その時は仕方がないと割り切った。彼は殺しは厭うが、それ以外には関心はないのだ。
女性の記憶を消し終わり、柳成は死体に目を向ける。
それの右手には、まだ不思議な模様が赤く光っていた。
令呪。
聖杯戦争の参加資格であり、サーヴァントへの絶対命令権を表すものだ。全3画あり、使うごとに減っていく。無くなればサーヴァントへ命令することはできなくなる。
サーヴァントとはかつて存在した英雄。当然、プライドの高いものも存在する。そのため、サーヴァントたちを縛り付けておく為に、令呪は必要なのだ。
柳成は死体に近づいていく。
先ほども言った通り、令呪は必要不可欠なものである。
そのため、もしマスターとしての資格を奪いたいのなら、令呪を奪う必要がある。
潜入するためにはマスターとして振る舞わなければならないので、柳成はどうあっても令呪を奪わなければならないのだ。
柳成は令呪の残る右手を切り取った。
その瞬間、先ほどまで赤く光っていた令呪は急に色を失い、数秒後には跡形も無く消えてしまった。一瞬の出来事だった。
彼は聖杯戦争のシステムについて詳しくない。
今も、令呪のことはよくわからないが、とりあえず必要らしいから取っておこう、という軽い気持ちで切り取ったのだ。そのため、まさか消えるとは思っていなかった柳成は呆然とする。
だがすぐに柳成は気を取り直す。
それは、背後で起こっている事のせいだった。
魔法陣が輝き始めたのだ。
誰も詠唱はしていないし、起動させようともしていない。
だが魔法陣はますます輝きを増していき、魔力による突風まで吹き始めた。
思わず柳成は顔を覆う。その間にもどんどん輝きは増し風は吹き荒れ。
そして。
唐突に、音が消えた。
風が止み、光も収まってから、柳成は顔を上げた。
目の前にいたのは黒い人間。
ところどころが破れ千切れた漆黒の襤褸布をローブのように羽織り、顔には割れてしまって左目にしか付いていない髑髏のような仮面をつけ、顔の下半分は切れ端のような黒い布で覆われている。唯一露出している右目は紅く、血の色を想わせる。肌の色からして中東系だろうか。
「問おう。」
「お前が俺の、マスターか」
運命が動き始めた。
なんでハサンはあんなに不遇なんだろう。
zeroではほぼ見せ場無くアイオニオンにやられるし、staynightではそもそもなんか違う奴いるし。
なんなの?さっちんポジなの?
それなら仕方ないな(錯乱)
この小説は作者の主観と自己満足でできています。