Fate/Hasan   作:パラボラ

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第二夜

骸野柳成は飛行機の中でため息を吐いた。

ため息を吐くと幸せが逃げるとはよく聞く言葉だが、ため息を吐くような状況の時点でもう既に幸せは逃げているような気がする、とは彼が昔言っていた言葉だ。

柳成がため息を吐く理由は一つしかない。

数日前の予期せぬ召喚の所為である。

 

 

 

 

 

 

▲▲▲

 

 

 

 

 

 

柳成は暫くの間、目の前の男が言ったことが理解できなかった。

それは混乱の極致にいる所為で思考が停止したのか、はたまた彼の深層意識がそれを理解することを拒んでいるのか。

そんな彼の様子を男は訝む。

 

「......お前はマスターではないのか?それならば殺さなくてはならないが。ーーん。令呪か。やはりマスターはお前だったのだな」

 

言われて柳成は殆ど反射的に右手の甲を見る。

そこには紅く光る、剣に翼が生えているような紋章があった。令呪である。

それを見て漸く、柳成の脳は活動を再開した。

 

「......お前は、英霊、なんだな?」

 

不安なように、しかしどこか確信しているような声で彼は言う。

 

「ああ。今回はアサシンとして現界した」

 

少し特殊なようだがな、と男、アサシンは言う。

柳成は考える。アサシンとは文字通り暗殺者のサーヴァント。それ故正面からの戦闘より、マスターを殺すことに秀でている、と文献に書いてあったことを思い出す。

 

「......暗殺は出来るんだよな?」

 

アサシンにこんなことを訊くのもどうかとは思うが、もしかしたらアサシンとは名ばかりの外れサーヴァントかもしれない。そもそも、相良豹馬は切り裂きジャックを召喚しようとしていたらしい。切り裂きジャックは暗殺者ではなく殺人鬼だ。殺すことは得意でも、暗殺が出来るとは思えない。この男が切り裂きジャックの可能性もある。

そう考え、柳成は言葉を紡いだが。

 

次の瞬間、柳成は背中から壁に叩きつけられた。

 

「...愚問だ。2度と訊くな」

 

アサシンの体勢から、どうやら蹴られたことはわかった。

しかし速すぎた。柳成のような一般人では初動すら見えない。

改めて柳成はサーヴァントの恐ろしさを思い知る。

 

「......あ、ああ。すま、ないな」

 

加減されたのか、なんとか立ち上がることができた柳成。

骨もどうやら折れてはいないらしい。

 

「......」

 

アサシンは立ち上がった彼を見て、無言でその場から消えた。サーヴァントの霊体化だろう。

そんな不遜なアサシンに若干苛立ちを覚えつつ、痛みに堪えながら部屋を後にした。

 

 

 

 

 

▲▲▲

 

 

 

 

 

 

 

柳成はあの出来事を思い出し苛立ちを抑えきれないでいた。ため息は確かに不幸な時にも吐くが、心を落ち着ける時のため息もあるのだ。

間も無く着くというアナウンスが流れる。

彼は念話でアサシンに話しかける。

 

『もう着く。周辺の警戒を』

 

『......』

 

返ってきたのは無言。余計なことを言わないよう、柳成はそれを肯定と捉える。

 

こうして、柳成はルーマニアの地に降り立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

相良豹馬という人物は、どうやらあまり家のことを気にしない人物だったらしいと、柳成は飛行機で読んだ資料からそう推測した。

ユグドミレニア一族とはそもそも、没落寸前の魔術師の家の者や歴史が浅く実力が低い者たちを集めた、血の繋がりのない集団である。組織、といった方が正しいかもしれない。

そんな背景があるため、一族としての結束力は弱いと言える。

相良豹馬はその中でも特に繋がりが弱く、殆ど皆無と言ってもいいほどだったという。

成り替わるには理想の人物。そう柳成は評価した。

相良の顔や名前は、ダーニックは把握していない。ただ日本人だと知っている程度である。

もともとダーニックは相良を戦力として見ておらず、数合わせ程度だったのだろう。

 

柳成はトゥリファスの街を進む。

向かう先はユグドミレニアの拠点、ミレニア城塞。

街の高地にそびえ立つ、呪われた城。

彼は頭の中で城塞付近の地形を思い浮かべ、立ち回りや戦略を考える。

潜入で最も大切なのは信頼だと、彼はそう考えている。

信頼されていれば、その分疑われることが減るためである。

もし少しでも貢献することができれば、その分やりやすくなる、そう考えてのことだった。

 

『止まれ、マスター』

 

アサシンが念話で話しかける。

 

「...何だ」

 

柳成はアサシンのことをよく思っていない。

今も、思考が途切れてしまったことに若干の苛つきを覚えている。

だが同時に、彼はアサシンの実力が確かであることもわかっている。アサシンなしでは勝てないことも。

彼は不本意ながら歩みを止めた。

 

『サーヴァントだ』

 

言いながらアサシンは霊体化を解き、上方を見やる。

いたのは、小柄な剣士であった。

全身を重厚な甲冑に覆われ肌も見ることはできないが、それでもその威圧感から相当な英雄であることが伺える。

剣を持っていることから、セイバーだと推測する。

 

「マスター、奴のステータスは?」

 

「え?」

 

思わず柳成は声を漏らす。

 

「ス、ステータス?」

 

前にも言ったが、柳成は聖杯戦争に詳しくない。

サーヴァントにステータスがある、その事実すら彼は知らなかった。

しかしだからと言ってできない、と答えることはできない。アサシンが必要としている情報だ、おそらくは戦闘において重要な意味を持つのだろうことは容易に分かる。

そしてアサシンの敗北は、そのまま自分の死に直結する。

柳成はわからないながらもなんとかしようと目を凝らし剣士を見る。

すると少しづつ、視界に文字が浮かび始めた。

 

「.......筋力がB+、敏捷と魔力がB、耐久はA...」

 

柳成がステータスを読み上げている時だった。

 

 

ーー金属同士がぶつかり合う音が響いた。

 

 

次いで突風が吹く。

煽られ、柳成は尻餅をつく。

 

「退がっていろ、マスター」

 

そう言ってアサシンは上へと跳ぶ。セイバーもそれを追って上へと跳んだ。

アサシンの声は静かだったが、柳成でもわかるほど硬かった。

柳成はすぐさま立ち上がり、路地へと逃げ込んだ。

 

 

 

 

 

程なくして、二人のサーヴァントは屋上に到達する。

アサシンとセイバーはお互いに離れ、相手の様子を伺う。

アサシンにとって、この戦いは不利である。

理由は得物。

セイバーが持つのは白銀の両手剣。対するアサシンはダークと呼ばれる短剣を両手に持っている。リーチの違いは戦いにおいて重要なことは言わずとも分かる。

さらにはクラスの差。

暗殺を本業とするアサシンのクラスのサーヴァントは総じて正面からの戦闘は得意でない。対して、セイバーは最優のサーヴァントとも呼ばれるほどにバランスが良い上、大体が白兵戦に秀でている。

そのため、アサシンが押されるのは当然のことだ。

そう、その筈だった。

 

「......ハァッ!」

 

裂帛の気合いと共に、アサシンの姿が消える。

セイバーは振り返って、アサシンの強襲を防ぐ。

防がれたアサシンは距離をとり、逆手に持ったダークを構えた。

 

「......くッ!」

 

セイバーが右に飛び退く。

先ほどまでいた場所へ背後から(・・・・)ナイフが通り過ぎる。

 

「当たらんか...」

 

アサシンは当然のことだという口調で呟く。

対するセイバーは驚愕していた。相手のクラスはわからないが、間違いなく三騎士のクラスではない。

それだというのに、セイバーたる自分と互角に渡り合えている。それが驚きで、どうしようもなく腹がたつ。

 

「お前、クラスは?三騎士じゃねえだろうが...」

 

セイバーが初めて口を開く。

高音域の声ではあるが、それだけでは性別すらわからない。

 

「......アサシンだ。見ればわかるだろう」

 

無機質に、無感情にそう返す。

その返答が、さらにセイバーを苛立たせる。

セイバーは目の前のこのサーヴァント、アサシンが嫌いだった。何よりこの態度が気に入らない。

まるで自分を見下しているかのような、自分の言葉に本気で返答する必要などないと、そう思われているように感じた。自分が遊ばれているような、そんな不快感を感じていた。

 

「あん?......チッ、わかったよ」

 

セイバーにマスターから撤退の命令が出る。

 

「...アサシン、次会うときは斬る。覚悟しておけ」

 

そう言って霊体化するセイバー。

アサシンは息を吐く。

彼はセイバーと互角に戦えていた。しかしそれは一時的なもの。アサシンというサーヴァントの特性上、彼は白兵戦もできはするが、三騎士に並ぶには程遠い。

彼が戦えたのは、これがまだ初戦であったからこそだ。

次に会えば、間違いなく斬られるのはアサシンだ。

 

アサシンは苦い顔をしながら霊体化した。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

この戦いを見ていた者たちがいた。

ユグドミレニア一族である。

もともと、セイバーは彼らの根城であるミレニア城塞へと攻め入る予定であった。

セイバーは最優のサーヴァント。攻め込まれれば負けることはなくとも、かなりの損害を被ることは必至。

柳成とアサシンがセイバーと出くわしたのは完全に偶然であったが、ユグドミレニア一族がそれを見ていたのは当然であった。

 

「あのサーヴァント、何者だ?」

 

ミレニア城塞、その玉座に座る者が誰にともなく呟く。

座っているのは"黒"のランサー。

黒の陣営の中でも最強のサーヴァントだ。

そのランサーの問いに答える者がいた。

 

「いえ。......"赤"のサーヴァントと戦闘を行っていた、ということはこちら側でしょう。しかし、あの者はどう見ても切り裂きジャックには見えません。マスターも極東の者ではあるようですが、顔が違うようですね」

 

答えたのはランサーのマスターたるダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。

本来の関係ならば玉座に座っているのはダーニックの筈だが、ランサーが王として名を馳せた英雄ということもあってランサーが玉座についている。

ダーニックの答えに、ランサーは少しの間考え、

 

「ふむ。...迎え入れてみるか」

 

「よろしいのですか?領王よ。もし敵であったら...」

 

「その時は躊躇わず殺す。だがこのままでは敵か味方かもわからぬ。それに、あのサーヴァントはかなりの戦力となる。構わん」

 

「......仰せのままに」

 

 

歯車(運命)は回る。

 

 

 




今回ハサンはセイバー相手に有利に戦っているように見えますが、実際は余り余裕はありません。
また、セイバーが少し静かになっているかもしれませんが、それはアサシンがセイバーの言ったことをことごとく無視しているためです。柳成はそもそも聞こえてません。
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