ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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信じる桜

戦場である大草原では地獄絵図が広がっていた。

ゴライアスの標的となったモルド一派は悲鳴を上げる。

逃げようとしてもゴライアスの太腕により紙屑のように吹き飛ばされ、逃げようとした冒険者にゴライアスは口内を爆発させた。

 

『――――――――――――アァッ!!』

 

大音声と共に放たれた衝撃波、『咆哮(ハウル)』。

魔力を込め純粋な衝撃を放出される飛び道具。

 

『オオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

天を仰いで雄たけびを上げるゴライアスが呼んだのはモンスター達。

 

「ひ、ひぃいいいいいいいいいいいっ!?」

 

四方から襲いかかってくるモンスター達に応戦せざるをえないモルド達。

 

「ハァ!」

 

襲いかかってくるモンスターを斬り裂く桜に疾走するリューは真っ直ぐゴライアスに攻撃を続ける。その後に続くように桜花や命がリューに続く。

 

「ベルに感謝しろよ!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

モルドの襟首を掴んでモンスターがいないところに投げ飛ばす桜。

 

「桜様!無茶苦茶すぎます!」

 

「腐っても冒険者だ。あの程度で死にはしない」

 

前例もあるしな、と呟く桜はベルと一緒に他の冒険者を助けながらゴライアスに向かった。草原へ転がった桜花と命にゴライアスは開いた口を照準させる。

 

「【燃えつきろ、外法の業】」

 

ヴェルフの魔法により『咆哮(ハウル)』は大爆発。

怯んでいるそこへ桜はゴライアスに斬りかかる。

 

「ハァアアアア!」

 

斬りかかるがゴライアスの硬い皮膚にはたいした傷をつけることはできなかった。

強度は同じぐらいかそれ以上と思いながら桜は続けて斬りかかろうとしたがゴライアスは口を桜へ照準する。

 

「ふっ!!」

 

『グッ!?』

 

リューがゴライアスの後頭部を強襲して『咆哮(ハウル)』の射撃角度をずらさせる。

 

「助かった!」

 

「桜!無茶はやめなさい!」

 

「今回ばかりは無茶をしないと勝てないだろう」

 

再び斬りかかる桜にリューもゴライアスに攻撃しながら眉目がかすかに歪んだ。

目の前にいるゴライアスの潜在能力(ポテンシャル)はLv.5に届くと判断したリューはゴライアスの脚を狙う。

 

『ゥゥ――――――オオオオオオオオァアアアアアアアアアアアッ!!』

 

目障りだと激高するようにゴライアスは両腕を振るい怒声を上げた。

ゴライアスと戦っているとアスフィが駆け付けてきた。

街の冒険者が援軍として来ていた。

後方より魔法の一斉射撃の準備を行うためその注意を引き付けなければならなかった。

リューとアスフィが一番危険な囮役を引き受ける。

残った他の冒険者もゴライアスを倒さんとばかりそれぞれの得物を持って動き出す。

 

「【凍てつく白き厳冬 顕現するは氷結の世界】」

 

並行詠唱しながら魔法円(マジックサークル)を展開させて短文詠唱を行った桜はゴライアスの腕を使って跳んでゴライアスの眼を狙って氷の槍を突き刺してゴライアスの視界を奪った。

 

『ゥゥオオオオオオオオオオッ!!』

 

視界を奪われたゴライアスは声を上げる。

 

「よし、これで時間を稼げる」

 

後方で魔法の詠唱を行っている冒険者の詠唱を完成させる為に時間稼ぎに徹する桜。

休む暇なく他の冒険者と一緒にゴライアスの脚を狙う桜。

 

「前衛、引けえぇっ!でかいのぶち込むぞ!」

 

魔導士達の詠唱が完了して号令を聞いた桜達はすぐにゴライアスから離れた。

魔導士達は杖を振り上げて、魔法円(マジックサークル)の輝きが弾け、次の瞬間、怒涛のような一斉射撃が火蓋を切る。

 

『――――――――――――――――――ッッ!?』

 

連続で見舞われる多属性の攻撃魔法。その中には一部魔剣の攻撃も加わり、ゴライアスの巨躯が放火の光に塗り潰された。

魔導士達の一斉射撃が止み、ゴライアスは片膝を地に着けて口からは蒸気のような白い呼気が、消耗の深さを物語るように大量の血を吐き出した。

 

「ケリをつけろてめえ等ぁ!!たたみかけろおおおおっ!」

 

チャンスとばかり、頭を垂れているゴライアスに向かって行く冒険者。

その中で違和感を感じたリューと桜は足を止めた。

そして、その違和感はすぐに判明した。

ゴライアスは冒険者や魔導士達につけられた傷が癒えていき、完全になかったものになりゴライアスは勢いよく立ち上がった。

 

「自己再生!?」

 

叫ぶアスフィに迂闊に接近した冒険者は唖然と立ちつくしてゴライアスは巨大な両腕を頭上高く振り上げて足元へと振り下ろす。

 

「―――――――――――――――」

 

大草原が、割れた。

その衝撃波に魔導士も含めた多くの冒険者が倒れ込んだ。

更には追い打ちをかけるように『咆哮(ハウル)』を放つゴライアス。

立っている冒険者はもはや数えた方が早い程ゴライアスにやられた。

 

『オオオオオオオオオオオオッ!!』

 

「あいつ、またモンスターを・・・・・!?」

 

二度目のモンスターの召喚に声に階層中にモンスターが応じた。

絶望的な状況。

それでもまだ希望はあった。

 

「ベル!溜めろ!」

 

ゴライアスと戦いながら桜はベルに向かって叫んだ。

その言葉の意味にベルはすぐに気付き、蓄積(チャージ)を開始した。

英雄願望(アルゴノゥト)】。起死回生のスキル。

その一撃でならいくら頑丈なゴライアスでも倒せる。

ベルは蓄積(チャージ)を始める。

その間、桜達はゴライアスの注意を引きつけながら時間を稼ぐ。

リュー、アスフィ、桜は諦めずに懸命にゴライアスに攻撃を加える。

ゴライアスの攻撃を互いに助け合いながら戦闘を繰り返す。

なまじに知能があるのか、ゴライアスは鋭いリューの一撃と攻撃するたびに強くなる桜の攻撃が無視できない。

 

「はぁ・・・はぁ・・・・」

 

「桜!一旦下がりなさい!」

 

呼吸を切らし始める桜の身を案じるようにリューが叫ぶ。

Lv.4のリューとアスフィと違って桜はLv.2.

二人に比べれば体力が切れるのが早いのは当然だ。

それでも桜は引くことはなかった。

前へ足を踏み込み、腕を上げて刀を振り続ける。

 

「私は・・・・諦めない・・・・ッ!」

 

諦めず動き続け、攻撃し続ける桜の言葉に強い意志が窺わされた。

チリンと鐘の音が聞こえた。

 

「溜まった・・・・!」

 

白光の粒子の収束が、止まった。

蓄積(チャージ)が終わったベルは右手を握り締めて地を蹴った。

暴れ回るゴライアスに接近して射程距離にゴライアスを収める。

 

「クラネルさん!?」

 

モンスターの周囲を行き交うリューが接近に気付き、それに伴って冒険者達の視線も集まる。

 

「離れろ!」

 

桜の声にリュー達は退避する。

そして、ゴライアスと僅かと言える距離を残してベルは足を止める。

 

『―――――――――――――オォッ!!』

 

「【ファイアボルト】!!」

 

強烈な『咆哮(ハウル)』に対してベルの右手から放たれた大炎雷は『咆哮(ハウル)』を突き破ってゴライアスの頭部を一過――――撃ち貫いた。

だけど、それは失敗だった。

胸部を狙ったはずのベルの【ファイアボルト】は出力に弾道が定まらず、敵の頭部に命中して多くの冒険者が勝ったと信じ込もうとした直後。

夥しい赤い粒子が、巨人の首元から発生した。

戦慄と絶望に抱き竦められる冒険者の視線の先でゴライアスは再生した。

頭部を失ってもゴライアスは生きていた。

愕然と立ちつくすベルをゴライアスは睨むつける。

 

「――――――ベルッ、逃げなさい!!」

 

平静をかなぐり捨てたリューの叫び声の横を桜は通り過ぎる。

ベルを助ける為に必死に駆け付ける。

だが、ゴライアスの『咆哮(ハウル)』が一手速く放たれてベルは吹き飛ばされる。

そこにゴライアスは背に溜められた極腕が大気を食い千切って繰り出される。

 

「ベル!?」

 

回避不可能の巨人の鉄槌に桜は悲痛の声を上げる。

だけど、次の瞬間、彼は現れた。

 

「―――――」

 

盾を持って後方よりベルの目の前へと飛び出す桜花。

ゴライアスの攻撃を盾で防ぐが衝撃までは防げず桜花とベルは殴り飛ばされる。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

巨人の雄叫びに打ちすえられながら、二人は宙を舞った。

 

「ベル君――――」

 

その光景を目撃したヘスティアは丘から駆け出した。

 

「ベル様―――」

 

リリはなり振り構わず。戦場の一角へと走り出した。

 

「ベル・・・・」

 

震える声でヴェルフは、届かないその名を呼んだ。

 

『意地と仲間を秤にかけるのは止めなさい』

 

ヴェルフの頭に主神であるヘファイストスの声が蘇り自身の胸を穿った。

また繰り返すのかと・・・・。

自分の意地のせいで桜を今度はベルまでも守れなかったと自責の念がヴェルフを責める。

 

「くそっっ!!」

 

ヴェルフは大刀を放り捨てて、東の森へと駆け込んでいった。

 

「・・・・・・・」

 

桜は吹き飛ばされたベルの方向を一度見て瞑目するように瞼を閉じる。

そして、目を見開きながら詠唱を始める。

 

「【瞬く間に散り舞う美しき華】」

 

足元に桜色の魔法円(マジックサークル)が展開される。

 

「【夜空の下で幻想にて妖艶に舞う。暖かい光の下で可憐に穏やかに舞う。一刻の時間の中で汝は我に魅了する。散り舞う華に我は身も心も委ねる】」

 

詠唱を歌う桜にゴライアスは剛腕を繰り出す。

だけど、桜は並行詠唱しながらも縋るかのように詠唱を止めなかった。

 

「自暴自棄なってはいけない!詠唱を中断しなさい桜!」

 

ベルがやられて自暴自棄のように詠唱する桜を止めようとするリュー。

 

「【舞う。華の名は桜】」

 

だけど、桜は歌うのをやめなかった。

 

「【舞闘桜】!!」

 

魔法を発動した桜は駆け出してゴライアスの一閃。

 

「諦めるな!!」

 

階層にいる冒険者達に桜は叫んだ。

 

「希望はまだ生きている!」

 

ゴライアスと戦いながら桜は冒険者達に叫ぶ。

 

「だから立ち上がれ!勝つ為に!!」

 

叫ぶ桜の言葉は何の根拠もなかった。

だけど、強大なゴライアスと向かい合い、戦い、諦めずに何度も駆け出す桜の姿に絶望に浸かっていた多くの冒険者の瞳に光が宿った。

絶望的状況下の中で桜は舞って戦うその姿に、存在に冒険者達は立ち上がった。

 

「てめえらああああああ!あんな小娘に言われて恥ずかしくねえのか!?武器を取って戦いやがれええええええええええええええ!!」

 

『―――――ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

桜の声とボールスの喝により再び戦意を取り戻す冒険者達。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

ゴライアスは吠えた。

目を色を変えて桜を睨み付ける。

お前は俺の敵だと言わんばかりに桜を睨む。

桜も負けずに睨み返す。

 

「勝負だ!ゴライアス!」

 

衝突し合うゴライアスと桜。

剛腕を振るうゴライアスに二刀流を使っての連続攻撃を繰り返す桜。

 

「ハァァァアアアアアアアアアアア!!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

力と再生で押すゴライアスに対して回避しながらも夜桜と紅桜で斬りつけていく桜。

 

『――――――――アァッ!!』

 

不意打ちと言わんばかりにゴライアスは『咆哮(ハウル)』を放つ。

 

「ハァッ!!」

 

だけど、桜はその『咆哮(ハウル)』を切り裂いた。

その光景に疑わんとばかりに目を見開く冒険者達。

桜の魔法、【舞闘桜】を発動している時、桜の全身と武器に魔力を纏っている。

魔力を込めて衝撃として放出している『咆哮(ハウル)』。

魔力でなら魔力を打ち消すことができると推測していた桜は一か八かの賭けに勝ち、『咆哮(ハウル)』を切り裂いた。

そして、ゴライアスと桜に当てられてリュー達も動き出した。

 

「【――――今は遠き森の空。無窮の夜天で鏤む無限の星々】」

 

桜ばかりに意識を向けないように並行詠唱しながら鋭い動きでゴライアスを翻弄する。

 

「【愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】」

 

攻撃、移動、回避、詠唱、この四つの行動を高速で同時展開するリュー。

それを見た命も動き出す。

自分の不甲斐無さを実感しながらも桜の声に闘志を燃やす命も負けじと詠唱を始める。

 

「【掛けまくも畏き―――】」

 

精神力(マインド)をこの一撃に。

 

「【いかなるものも打ち破る我が武神よ、尊き天より導きよ。卑小のこの身に巍然たる御身の神力を】」

 

詠唱を進めるリューと命。

 

「衆目の前では使いたくなかったのですが・・・・!」

 

詠唱を進めるリューと命。

戦いを続けている桜を見てアスフィも自身のとっておきの魔道具を使った。

 

「――――『タラリア』」

 

(サンダル)を手で撫でると二翼一対の翼を広げて、飛翔した。

飛翔靴(タラリア)。【万能者(ペルセウス)】の至上魔道具。

飛翔したアスフィはゴライアスの眼に斬撃を入れる。

 

『―――――――――――――――――ッッ!?』

 

絶叫を上げるゴライアス。

 

「【―――――来れ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何者よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】」

 

仰け反り、片手を手で押さえるゴライアスに詠唱が終えたリューはゴライアスと向かい合う。

 

「桜!離れなさい!」

 

リューの言葉に桜は離れると同時にリューは魔法を行使する。

 

「【ルミノス・ウィンド】!!」

 

緑風を纏った無数の大光玉。一斉放火された星屑の魔法がゴライアスに叩き込まれる。

 

『アアアアアア―――――――――――――ッッ!!』

 

光玉を今なお被弾しながらゴライアスは突進した。

損傷と治癒を繰り返して強引に突破する。

 

「【天より降り、地を統べと――――――――神武闘征】!!」

 

ゴライアスが突進してくるなかで命の魔法が完成した。

 

「【フツノミタマ】!!」

 

ゴライアスの直上、一振りの剣が出現し、直下すると同時にゴライアスの足元に魔法円(マジックサークル)にも似た複数の同心円。

ゴライアスは命の魔法により重力の檻に閉じ込められる。

 

『~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッ!?』

 

半径10Mに及ぶ巨大なドーム状の力場。

巨大な口から大呻吟が漏れ出す中で効果範囲内の大草原が円状に陥没、崩壊する。

だけど、閉じ込められたゴライアスも重力の結界から出ようと自身の身を持ち上げる。

押さえつけよとする命だが純粋な力勝負ではゴライアスには勝てず破られる。

 

「おまえ等ァ!死にたくなかったらどけぇえええええええええ!!」

 

森から駆け出してきたヴェルフは白布から炎を凝縮したとも思われる深紅の長剣、『魔剣』を握りしめていた。

たった一撃で砕けてしまう魔剣の名をヴェルフは叫んだ。

 

「火月ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

その瞬間、誰もが目を炎の色に焼かれた。

放たれた深紅の轟炎はゴライアスの巨躯さえも覆い、燃焼の猛り声とともに蹂躙した。

 

『―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ァァァァァ!?』

 

ゴライアスの自己再生さえも追いつかない轟炎。

その威力に誰もが戦慄した。

これが『海を焼き払った』とまで言われた『クロッゾの魔剣』だと。

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

雄叫びを上げながら桜はその轟炎の中に突っ込んだ。

轟炎を恐れずに桜は炎の中で舞い、戦う。

その光景に誰もが畏怖して魅せられた。

食人花(ヴィオラス)の時とはまた違うその舞いに、その美しさに、その光景に冒険者達は目を奪われていた。

それはモンスターであるゴライアスさえも例外ではなかった。

自己再生すら追いつかない炎の中で自分に向かって攻撃してくる桜にゴライアスは恐怖を感じながらも美しいとさえ思った。

 

『――――――ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

だからこそゴライアスは吠えた。

倒さなければならないと。目の前で自分に向かって来ている()を。

再生が追いついていないボロボロの自身の剛腕に力を込めて桜に放った。

自身の最大である巨人の鉄槌を。

 

「っ!?」

 

「桜!?」

 

その鉄槌は桜に直撃して吹き飛ばされた桜にリューは叫ぶ。

轟炎の中、ゴライアスは勝ったと思った時、吹き飛ばされた桜は叫んだ。

 

「いけええええええええええええええベルゥゥウウウウウウウウウウウウウッ!!」

 

そこでゴライアスは初めて気付いた。

白い光を帯びる黒大剣を携え、大鐘楼(グランドベル)の音色を高らかに響かせながら疾駆しているベル・クラネルの存在に。

桜が叫ぶまで気付くことができなかった。

いや、気づかされなかった。

桜が身を挺してまでゴライアスの注意を引き付けていたから。

桜は誰よりも信じていた。

ベルなら立ち上がると。

ベルならゴライアスを倒してくれると。

だからこそ桜はゴライアスの意識がベルに向けられないように誰よりも早く前へ出た。

誰よりも長く戦った。

全てはベルが手に入れた『英雄の一撃』を信じて。

 

―――――ありがとう。

 

桜の頭の中でベルの声が聞こえた。

幻覚に近いその声に桜は笑って答えた。

 

「いけ・・・・英雄(ベル)・・・・」

 

桜は気付いていた。

自分には『英雄』の『器』がないことに。

桜はわかっていた。

自分は『英雄』にはなれないことに。

ベルを見ていて桜はそれに気づかされた。

なら、自分は英雄(ベル)を守ろう。

放っておけない英雄を助けよう。

英雄の傍にいよう。

英雄を救おう。

英雄の道を作ろう。

これからもその先もずっと・・・・・・・・。

馬鹿みたいに英雄(ベル)を信じて。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

炸裂する純白の極光は桜達の視界を埋めつくし、誰もが目を腕で覆った。

ゴライアスの雄叫びをかき消すベルの咆哮、そして凄まじい轟音。

それが聴覚の機能を数瞬奪った後、最後に残ったのは・・・・決着の静けさだった。

視界が回復した者から目を開けるとそこには右腕と、上半身を失ったゴライアスと黒大剣を振り抜いた大勢で固まっているベルの姿。

その光景に誰もが何も言わずに立ちつくした。

 

「・・・・・消し飛ばし、やがった」

 

呆然とこぼれ落ちたヴェルフの言葉に全てが動き出す。

そして、ゴライアスは灰へと変わり、大量の灰の上にドロップアイテム『ゴライアスの硬皮』が残される。

 

『――――――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

次の瞬間、大歓声が起き起こった。

終わりが告げられた戦いにリヴィラの街の冒険者は歓喜を分かち合っていた。

 

「まったく貴女は本当に無茶をする」

 

「・・・・ごめん」

 

リューに肩を借りながら立ち上がりベル達のところへ向かう桜。

 

「桜君!?」

 

「桜様!?」

 

「桜!」

 

「桜!?」

 

桜の安否が気になるかのように桜に駆け付けるベル達に桜も手を上げながら応える。

 

「桜君!君という奴は本当に本当に・・・・・!?」

 

涙を流しながら桜の無事に安堵するヘスティア。

 

「本当に心配するこっちの身にもなってください!」

 

無茶をした桜に怒るリリ。

 

「魔剣の炎のなかに突っ込むんじゃねえよ!肝が冷えたぞ!」

 

怒鳴るヴェルフ。だが、僅かに瞳に涙が溜まっていた。

 

「・・・・・・・・ごめん」

 

怒られた桜はバツが悪そうに謝る。

 

「でも、桜が無事でよかった・・・・」

 

桜の無事に安堵するベルに桜は笑みを浮かばせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ・・・ああっ、嗚呼!」

 

一人取り残されたヘルメスは南の草原で歓声の中心にいるベルを真っ直ぐ見つめ、瞳を爛々と輝かせていた。

 

「見たぞ、このヘルメスが確と見たぞ!貴方の孫を!貴方の置き土産を!」

 

ここにいない何者かに声を飛ばすように興奮に身を委ねる。

 

「才能がない!?馬鹿を言うな、貴方の目もとうとう腐ったか!?」

 

ヘルメスは狂喜と言っても相応しいほどに、口を吊り上げた。

 

「喜べ大神(ゼウス)、貴方の義孫は本物だ!貴方の【ファミリア】が遺した、最後の英雄(ラスト・ヒーロー)だ!!」

 

ヘルメスは歓声の声を続ける。

 

「あぁ、神託(オラクル)なんて専門外なんだが・・・・ああっ!言わずにいられない!」

 

ヘルメスは芝居がかかった口調で告げた。

 

「動く、動くぞ!時代が動く!十年後か五年後か一年後か、あるいは明日やもしれない!この場所で、このオラリオの地で、時代を揺るがす何かが起きる!」

 

それは神の直感。

多くの英雄の器達がこの地に揃ったこのオラリオの街でヘルメスは叫んだ。

 

「見守る、見守るぞ!必ずやこの目で見届けてみせる!歴史に刻むだろう大事を、英雄達の行く末を、その生と死を!」

 

そして、ヘルメスは一人の少女、桜へと視線を向ける。

 

「【舞姫】、いや、柳田桜よ!例え君に英雄の器がなかろうと俺は見届けよう!君の道を、君の生き様を、君の信じるものを、このヘルメスは見届けよう!」

 

それも神であるヘルメスの直感。

英雄の器を持たない桜がこの先起こるであろう神の悪戯という試練を。

桜が何を思い、何を願うかを。

そして、ヘルメスは叫ぶ。

 

「親愛なる彼等が紡ぐ、【眷属の物語(ファミリア・ミィス)】を!」

 

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