ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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狐人の妖術

狐人(ルナール)。多岐にわたる獣人の中でも唯一の魔法種族(マジックユーザー)

魔法種族(マジックユーザー)として代表的なエルフとは毛色が異なった魔法を扱うことが多く、希少魔法(レアマジック)にも数えられるその特殊な魔法によって、極東では『魔導士』ではなく『妖術師』『妖術使い』と呼ばれている。

 

希少魔法(レアマジック)か・・・・・」

 

狐人(ルナール)のことについて書庫の本を読み漁ってようやくそれを知ることができたが、どのような魔法を使うのかと『殺生石』のことについてはわからなかった。

やっぱり、極東の神である神タケミカヅチに聞いた方がよさそうだな・・・。

朝の日差しを見て徹夜したな、と思いながら朝食を作りに食堂へと向かうといかにも落ち込んでいますという雰囲気を出している命と会った。

 

「おはよう、命。眠れなかったみたいだな・・・」

 

「桜殿・・・・」

 

意気消沈した声を出す命を見て息を吐きながら食堂に連れて行く。

 

「これから朝食を作るから手伝え。その方が多少は気が紛れていいだろう」

 

手を引っ張って無理矢理連れて行き、キッチンで朝食を作っていると命が口を開いた。

 

「・・・・春姫殿に拒絶されてしまいました」

 

「・・・・・そうか」

 

それだけ返して私は何も言わずに黙って命の話を聞いた。

 

「自分のような人間は、知らないと・・・・言われました」

 

それはそうだろうな、その春姫の言葉は正しい。

そう言わなければ自分だけではなく命にまで被害が出るかもしれなかったはずだ。

 

「桜殿の言うとおり・・・・自分は何もできませんでした・・・・いえ、それどころか春姫殿を傷つけてしまった・・・・自分は、自分は酷い人間です」

 

自分を責める命に私は息を吐いて軽く頭をチョップする。

 

「ああ、お前は酷い人間だ。私の言葉を無視して、感情のままに春姫に会いに行って傷つけてきた。よくわかっているじゃないか」

 

私の言葉を聞いて命は俯く。

 

「なら、次は考えて行動できるだろう?どうすれば春姫を助けられるかをよく考えてみろ。必要なら私やベル達も協力してやる。だから、落ち込むな。春姫を助けたいという命の気持ちは何も間違っていないんだから」

 

命の頬に涙が垂れるのが見えた気がしたが気のせいにしておこう。

 

「・・・・恩にきます。桜殿」

 

「なら、手を休ませるな。もうすぐ皆が起きて来るぞ」

 

「・・・・はいッ!」

 

それから命と一緒に朝食を作って私はティアを起こしてから皆で朝食を食べる。

さて、今日は取りあえずは神タケミカヅチに『殺生石』の事とティアの紹介にでも行くとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を終えて、私とティアは神タケミカヅチと会っていた。

ティアは私が用意した修道(シスター)服をきちんと着ながらも相変わらず私の後ろで隠れながら神タケミカヅチを窺っている。

神タケミカヅチもそんなティアの様子を微笑ましく見ていた。

 

「この子が私達の新しい団員である、ティア・ユースティです」

 

自己紹介する私にティアはペコリと頭を下げて挨拶する。

それを見て私は苦笑しながら神タケミカヅチに謝罪する。

 

「申し訳ございません。少々人見知りが激しいのと訳アリなもので」

 

「何、気にはしないさ。俺が【タケミカヅチ・ファミリア】の主神であるタケミカヅチだ。よろしくしてくれ、ティア」

 

「・・・よ・・・よろしく・・・お願い・・・します」

 

挨拶してまた隠れながらちょくちょく神タケミカヅチを窺うティアに神タケミカヅチは特に気にしてはいなかった。

ティアの紹介が終わり、私はもう一つの本題に入る。

 

「今日訪れたのはティアの紹介と神タケミカヅチに一つお伺いしたいことがありまして参りました」

 

「俺にか?」

 

「はい。『殺生石』について何かご存知でしょうか?」

 

「――――――『殺生石』だと!?」

 

「っ!?」

 

「神タケミカヅチ。落ち着いてください。ティアが怯えています」

 

激変した神タケミカヅチに私が落ち着くように声をかける。

 

「す、すまん、しかし、どこでそれを?」

 

「実は――――」

 

『殺生石』が神イシュタルが持っていること、それと【イシュタル・ファミリア】には狐人(ルナール)の春姫がいることも私は神タケミカヅチに話すと神タケミカヅチは歯を噛み締めていた。

 

「教えては頂けませんか?神タケミカヅチ。貴方の様子から察して余程な物なのでしょう?その『殺生石』というのは」

 

「・・・・・・この事をヘスティアは知っているのか?」

 

「【イシュタル・ファミリア】に狐人(ルナール)の春姫がいることと神イシュタルが『殺生石』を持っていることは既に報告しています」

 

「・・・・・そうか」

 

腕を組んで真剣な表情をする神タケミカヅチは重苦しそうに口を開けた。

 

「『殺生石』は、狐人(ルナール)専用の道具(アイテム)だ」

 

それから神タケミカヅチは話した。

『殺生石』は『玉藻の石』と『鳥羽の石』を素材にして生成する禁忌の魔道具(マジックアイテム)。『玉藻の石』の原料は狐人(ルナール)の遺骨で作られ、狐人(ルナール)の魔法を・・・『妖術』の効果をはね上げる道具(アイテム)

もう一つの『鳥羽の石』は月嘆石(ルナティック・ライト)とも呼ばれ、月の光を浴びることで色を変え、光を放ち、魔力も帯びる特殊な鉱石。

だが、月の光に応じて硬度、威力、効果を変える。

 

「そして、『鳥羽の石』の効果が最大限に発揮されるのは満月の夜。その時、二つの石が融合した『殺生石』は悪魔の石に変わる」

 

「悪魔の石?」

 

訊き返す私に神タケミカヅチは険しい表情のまま言葉を続けた。

 

「石の使用者である狐人(ルナール)の『魂』を封じ込めて、『妖術』を第三者に与える。代償として生贄にされた狐人(ルナール)を、魂の抜け殻に変えるんだ」

 

説明する神タケミカヅチ。

なるほど、確かに悪魔の石だ。一人を犠牲にして『妖術』を第三者に与えるとは胸糞悪いものだ。だけど、まだわからない。

仮に春姫の『妖術』を第三者に与えたとしても【フレイヤ・ファミリア】に勝てるものだろうか?

いくら狐人(ルナール)が持つ希少魔法(レアマジック)でも難しいはずだ。

だけど、神タケミカヅチの話はまだ終わっていなかった。

『殺生石』は砕かれてから本領を発揮する。

その欠片一つ一つに『妖術』が行使できる魔法の発動装置で、効果も変わらず、詠唱も必要としない。

そして、砕かれた破片が紛失したり、壊れた場合は春姫はもう元には戻らない。

 

「・・・・・・」

 

【イシュタル・ファミリア】の狙いはわかった。

春姫の『妖術』、いや、『魂』を『殺生石』に封じ込めて砕き、自分の眷属に春姫の『妖術』を与えて、【フレイヤ・ファミリア】に戦争を仕掛けるつもりなのだろう。

希少魔法(レアマジック)を団員全員に与えることができたら確かに【フレイヤ・ファミリア】に勝機が生まれるかもしれないが、いったい春姫の『妖術』はなんだ?

少なくとも神イシュタルが神フレイヤに勝てると思わせるような『妖術』のはず、いったいそれは・・・・・・・ッ!?

私はそこでエイナが言っていたことを思いだした。

 

『当時【イシュタル・ファミリア】と敵対していた複数の派閥が糾弾してね、ギルドに報告されている公式のLv.より、遥かに団員達の力が上回っているって』

 

公式のLv.より上回っていたが結果は白だった団員の力。

神フレイヤを妬んでいる神イシュタル。

【フレイヤ・ファミリア】に勝機を生み出すほどの『妖術』。

『殺生石』と狐人(ルナール)の春姫。

そして、月・・・・・・。

 

「いや、まさか・・・・」

 

今まで集めた情報を纏めて整理していると一つの結論へとたどり着いた私でも本当にそんな魔法、いや、『妖術』が存在しているのか疑った。

だけど、希少魔法(レアマジック)を持つと言われる狐人(ルナール)に神イシュタルが実力差のある【フレイヤ・ファミリア】に勝てると思わせる程の力。

公式Lv.を上回っていて結果は白だということにも全てが繋がる。

そして、残酷なことに今夜は満月。

 

「まずい・・・・ッ!神タケミカヅチ、大至急、桜花達を連れて『竈火の館』に来てください!もしかしたら今夜、春姫が死んでしまうかもしれません」

 

「何!?それはどういうことだ!?」

 

「詳しい説明はホームで話します。私はこの事をベル達に伝えてきます。ティア、行くぞ」

 

ティアを抱きかかえて私は急いでホームへと帰る。

だけど、ホームには神ヘスティアしかいなかった。

 

「神ヘスティア!ベル達は!?」

 

「え、べ、ベル君達なら冒険者依頼(クエスト)でダンジョンに行ったけどどうしたんだい?そんな血相を変えて?」

 

血相を変えて現れた私に神ヘスティアは驚いているが私は何の冒険者依頼(クエスト)に行ったかを訊くと14階層の食糧庫(パントリー)で、石英(クオーツ)の採掘。報酬は100万ヴァリス。その依頼人(クライアント)は商会。

普通なら贔屓してくれという意味の冒険者依頼(クエスト)だと思うが、このタイミングだと間違いなく【イシュタル・ファミリア】が商人を使って仕掛けた冒険者依頼(クエスト)だろう。

ダンジョンでなら人目を気にせずにベルを攫うこともできる。

というか私が帰ってくるまで待てよ、あいつら。

 

「そういえばベル君と命君がやけにこの冒険者依頼(クエスト)にやる気を出していたけど、まさか・・・・イシュタルが・・・・ッ!?」

 

「・・・・・タイミング的にそうでしょう」

 

そういえば確か娼婦には『身請け』が可能だったな・・・・。

その為に急いでこの冒険者依頼(クエスト)を受けたのかベル達は・・・・ッ!

 

「すまない、桜君。ボクの不注意だ・・・・」

 

謝る神ヘスティアにティアを渡して私もダンジョンへと向かう。

 

「もうすぐ神タケミカヅチ達が来ます。私が戻ってくるまで待っていてください!」

 

ダンジョンへと駆け出す私は急いで14階層にある食糧庫(パントリー)に向かう。

だけど、私が駆け付けた時、そこにいたのはヴェルフとリリだけだった。

遅かったか・・・・・。

そう思いながらヴェルフとリリに応急処置をして竈火の館へと帰還して帰ってくるとティアが杖を持ってヴェルフ達に近づく。

 

「【森林の恵みよ、この者に妖精達の加護を】」

 

杖を構えて詠唱を唱えるティア。

 

「【シルワトゥス】」

 

治癒魔法を発動させるティア。

銀色の光がヴァルフとリリを覆うと二人の傷が癒えた。

これがティアの治癒魔法か・・・。

 

「助かったぜ、ティア」

 

「助かりました。ティア様」

 

傷を治したティアに礼を言うヴェルフとリリだけどティアは顔を真っ赤にして俯き、私の後ろへと隠れた。

そしてヴェルフとリリは私に申し訳なさそうに謝る。

 

「悪い、せめてお前が帰ってくるまで待っていれば・・・」

 

「申し訳ございません。桜様」

 

「過ぎたことはもういい。とりあえず今は私の話を聞け」

 

竈火の館へと帰ってきた頃にはすでに【タケミカヅチ・ファミリア】も来ていた。

全員が集まっていることを確認した私は皆に私の考えを話す。

 

「まず、ベルと命を攫ったのは【イシュタル・ファミリア】だ。さっきの冒険者依頼(クエスト)も【イシュタル・ファミリア】が商会に手を回していたんだろう。ベルを攫うため、命は恐らくそれに巻き込まれたと思っていいだろう」

 

「でも、どうしてベル様を・・・」

 

「そのことに関しては予測はつくがまだ言えない。それより、問題は別にもある。私達が『身請け』しようと考えている春姫についてだ」

 

何でベルを攫ったのかは今はリリ達には伏せておこう。万が一知られたら余計な混乱を招いてしまう。

 

「率直に言う。【イシュタル・ファミリア】は今夜、春姫に『殺生石』を使わせて【フレイヤ・ファミリア】に戦争を仕掛ける可能性がある。そして、万が一に春姫が『殺生石』を使うことがあれば―――――春姫は死ぬ」

 

「おい、ふざけたことを―――」

 

「ふざけてこんなことを言うと思うか?」

 

声を荒げる桜花に神タケミカヅチが肩を掴んで止める。

 

「・・・続けてくれ」

 

神妙な顔で言う神タケミカヅチに私は話を続ける。

『殺生石』を使って春姫の『妖術』を神イシュタルは団員達に与えようとしていることからその後、春姫がどうなるかまで全部話した。

この場にいる全員が驚いている中で神ヘスティアが問いかけてきた。

 

「で、でも、いくらイシュタルでもフレイヤに勝てるのかい?ボクにはそれがわからないんだけど・・・・」

 

「ああ、それは俺も思ったさ、ヘスティア。だけど何か心当たりがあるんだろう?」

 

視線を私に向けて答えを待つ皆に私は口を開けて答えた。

 

「あくまで私の推測ですが・・・・春姫が行使できる『妖術』は恐らく階位の昇華」

 

『なっ!?』

 

私の推測に全員が驚く。

 

「『殺生石』の欠片一つ一つが一時的とはいえ【ランクアップ】出来るとしたら神イシュタルが神フレイヤに戦争を仕掛けるにも納得できます。神イシュタルは春姫を使って神フレイヤを地に這い蹲せようとしているんです」

 

推測に皆が難しい顔をする。

 

「確かに・・・・イシュタルならやりそうだ、いや、絶対にするはずだ」

 

神ヘスティアが納得して他も納得し始める。

 

「ベルや命が巻き込まれた以上、私達ももう無関係ではありません。そこでここにいる皆に提案します。今から【イシュタル・ファミリア】に潜り込んでベル達を救出後、春姫を攫う」

 

「ちょっと待ってください桜様!ベル様達の救出はまだわかります。ですが、春姫様まで手を出したらリリ達は【イシュタル・ファミリア】に・・・・ッ!」

 

「その点に関しては問題ない。既に私がとある【ファミリア】に協力を要請している。少なくとも今夜の春姫を使った儀式さえ止めることができたら【イシュタル・ファミリア】は今夜消滅する」

 

「とある【ファミリア】・・・・・ッ!桜君!まさかフレイヤに会ったのかい!?」

 

「はい。神フレイヤに全責任を背負ってもらい私達はベル達を救出後に春姫を掻っ攫う。それが私が皆に出す作戦であり、提案です」

 

「君はまたそんな無茶を・・・・」

 

私が神フレイヤに会ったことに怒る神ヘスティア。

だけど、今回はこれ以外にいい方法はなかった。今回ばかりは目を瞑ってもらいますよ。

 

「俺は賛成だ。このまま黙ってはいられねえ」

 

「リリも賛成です!絶対にベル様達を取り返しに行きます!」

 

ヴェルフとリリに続くように神ヘスティアや神タケミカヅチ、この場にいる全員が賛成してくれた。

だけど、一人だけ連れて行くわけには行かなかった。

 

「ティア。お前はホームで待っていろ」

 

私の後ろに隠れているティアにホームに待機するように声をかけるが、ティアは勢いよく首を横に振った。

 

「今回は相手が相手だ。まだ『恩恵』を授かったばかりのお前には荷が重い。私の言うことを聞いてくれ」

 

人にまだ恐怖心を抱えているティアに今から行く場所はティアにとって心身共に辛いはずだ。そんなところにわざわざ行く必要なんてない。

 

「・・・・・・・ッ!」

 

だけど、ティアは何度も首を横に振って私の言うことを強く拒絶した。

 

「いき・・・ます・・・・行かせて・・・・ください・・」

 

真っ直ぐな強い目で行かせてくれと訴えてくるティアの目を見て私は内心で息を吐いた。

はぁ、この目、よく見る目だ・・・・。

絶対に譲らない頑固者の諦めない目だ。

強く目で訴えてくるティアに私は折れた。

 

「わかった。但し絶対にヴェルフ達から離れるな。いいな?」

 

行くことを了承した私にティアは嬉しそうに何度も頷いた。

そして、私達は【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)、『女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)』を目指してベル達の救出と春姫を掻っ攫いに行く。

 

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