ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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竈火の小さな料理店

「春姫。そろそろ出来るから食器を出してくれ」

 

「はいっ!」

 

私はいつものように皆の夕飯を作っている。

前の廃教会の時からベル達の分も作っていたからか今では【ヘスティア・ファミリア】の食事は私が担当している。

というか、ちゃんとしたものを作れるのは私と命だけだ。

残りの皆は一応出来るぐらいだし、料理も教えておいた方がいいだろうか?

料理が完成して食卓へ並べると皆で夕飯にする。

 

「相変わらず桜様は料理上手ですね」

 

「これぐらいなら別にそうでもないぞ?今日は少し手を抜いて作ったし」

 

ダンジョン帰りで疲れていたから少し手を抜いて作った。

 

「それでも凄く美味しいよ」

 

「ありがとう、ベル」

 

皆に褒められながら食事を進めていると神ヘスティアがこんなことを言ってきた。

 

「いっそのこと店でも出してみたらどうだい?ボクは繁盛すると思うよ?」

 

店を出すという神ヘスティアの提案。

食事中の冗談だろうけど、案外いいかもしれないと私は思った。

『豊穣の女主人』でレシピは覚えているし、実際に作っていた。

それに前の世界の料理もこの世界で再現できる。

借金返済と情報収集にいいかもしれないな。

 

「・・・・・・・そうですね。考えてみます」

 

それだけを言って私はどうするか考える。

まずは客席をどうするかだ。

まだ余っている部屋はいくつかあるからそこを改装して作ればいいか。

幸い本拠(ホーム)を改装してくれた【ゴブニュ・ファミリア】とはいい友好関係を作れているし、格安にしてくれるだろう。

食材は商業系の【デメテル・ファミリア】と契約して何とかすればいい。

いくら私達の【ファミリア】が多額の借金を抱えているからとはいえ、勢いがある【ファミリア】には変わりがない。

まぁ、その辺は交渉してどうにかしよう。

 

「よし、じゃ、外装と内装をどうするか考えるとしよう」

 

自室で設計図を作成して、後日。

私は【ゴブニュ・ファミリア】へとやって来てそこの主神ゴブニュに設計図を見せた。

 

「図面に不備もない。この程度なら数日でできる」

 

「そうですか。ではこの通りにお願いします」

 

「ああ」

 

そして、次に【デメテル・ファミリア】へと行き、何とか交渉に成功した。

これでだいたいは何とかなった。

神ヘスティア達には私が店を出すとことを周囲に知らせてもらっている。

命は私のサポートして貰って、ベルと春姫には給仕をしてもらうとしよう。

ティア、神ヘスティア、ヴェルフは裏方を担当してもらうとしよう。

メニューは和食を中心に作るとして後は私の気まぐれで洋食や中華も作ってみよう。

様々な試行錯誤と店に出す料理の試作をしたり、資金調達の為にダンジョンに潜ったりなどしている間にあっという間に数日が経ち。

 

「これが私の店・・・・」

 

店が誕生した。

二つ分の部屋を改装して【ファミリア】の館の一部に店を出そうと考えて要約完成した。

それは喜ばしいことだけど問題はこれからだ。

あくまで【ヘスティア・ファミリア】は探索系の【ファミリア】。

主神であるヘスティアの許可を得ているとはいえ、メインはダンジョン攻略。

いわばこの店は私の副業と考えている。

何かあれば私はダンジョンの方を優先する。

いや、それより前にちゃんと客が来るかも問題か。

来なければ意味がないからな・・・・・。

客席も多くて最大二十人ぐらいしか入れない。

まぁ、元々あった部屋を改装しただけだから仕方がないんだけど。

 

「まぁ、まずは店の名前か・・・」

 

後数時間後に開店する私の店だけどまだ名前が決まっていなかった。

私の店だから『桜の料理店』?

いや、やめよう・・・・。

本拠(ホーム)が『竈火の館』だし、『竈火の小さな料理店』でいいだろう。

シンプルに名前を決めた私は店の中に入って準備に取り掛かる。

キッチンは客席からも見えるようにオープンキッチン。

内装を見て、【ゴブニュ・ファミリア】は私の設計通りに改装してくれたことに感謝しながら準備に取り掛かる。

その前に共通語(コイネー)変態(ヒュアキントス)は入店お断りと書いておこう。

 

「桜殿。もうじきお客が参られます」

 

「ああ、準備は粗方終えたし、問題はない」

 

後数分で開店前に私と命はキッチンで準備を終わらせて客が来るのを待っていた。

問題がないのは確認済みだし、さっき外を覗いてみたけど客もチラホラいた。

ベル達には接客を叩き込んだし、後は私の腕で全てが決まる。

そして、『竈火の小さな料理店』は開店した。

 

「やってきたでーーーーーーーーーーー!!」

 

開店と同時に入ってきた客第一号は【ロキ・ファミリア】主神のロキだった。

それに続くように姉さん達も入ってきた。

 

「桜たんが店開くって聞いて一番に飛んできたんや!桜たんの手料理楽しみにしとるで!?」

 

テンションが高い神ロキをディムナさん達が落ち着かせながら神ロキ達は席に着く。

 

「桜って料理出来るんだね」

 

「まあね。姉さんは作らないの?」

 

私の目の前のカウンター席に座って尋ねてくる姉さんだけど私の答えに肩を落としてシュンと落ち込んでいた。

なるほど、料理できないのか・・・・・。

それに察した私はそれ以上は何も聞かずに次々入ってくる客にベルと春姫が注文を取って私は早速調理に取り掛かる。

命と調理しながら調理を終えていき、料理をベルと春姫に運んでもらう。

 

「ウマっ!?」

 

「確かにおいしいね。これは東洋の料理かな?」

 

「うむ。美味だな」

 

神ロキ、ディムナさん、リヴェリアさん達。他の人達も満足そうに料理を食べている姿を見て始めの感じは上手く掴むことができた。

だけど、予想以上に客も増えてきたことにより大変なのはここからだ。

増えてくる客達に対応できるように私も次々料理を完成させていく。

こういう時、『恩恵』を刻んでいるから大して疲れが出ないのがありがたいな。

料理を出しつつ何とか山を越えた私と命は一息入れると神ロキがカウンター席までやってきた。

 

「そんじゃ、桜たん。しばらくお別れやけどまた来るで」

 

「はい。いつでもいらしてください」

 

挨拶して神ロキ達は店を出て行く。

そっか、そういえばラキア王国がオラリオに向かって来ているんだったな。

軍神アレスが統べているラキア王国。

これまでに五回オラリオに侵攻してきているが、【ロキ・ファミリア】などの大派閥がラキア王国を迎撃している。

しばらくのお別れとは【ロキ・ファミリア】もラキア王国の迎撃に行くということか。

手を止めずに納得する私の前にあるカウンター席に一人座ってきた神がいた。

 

「やぁ、店を開いたって小耳に挟んでね」

 

「・・・・・いらっしゃいませ、愚神ヘルメス」

 

【イシュタル・ファミリア】の厄介事に私達を巻き込んだ愚神ヘルメスが店にやってきた。

 

「ハハ、まだ怒っているのかい?あの時の事はオレも深く反省しているんだぜ?」

 

どの口が言うかと言いたかった。

今になって思えばこの愚神はワザと神イシュタルに私とベルのことを話したのではないかと思えてしまう。

でも、証拠もない為それを証明することもできない。

 

「それにしても桜ちゃんが店を開くとは・・・・情報収集と他の派閥の友好関係を築くつもりかい?」

 

「さぁ、どうでしょう?」

 

相変わらずふざけているように見えて頭がキレる。

この店を開いた理由はもちろん、借金返済や情報収集もあるが、他の派閥と関り合いをもつという理由も含まれている。

この愚神は私の考えをわかっている振りしてあえて尋ねて来るとは。

私も人のことは言えないけど、この愚神も十分に腹黒だ。

いや、ドス黒だ。

まぁ、それはさておきこの前の仕返しでもするとしよう。

私はある料理を愚神の前に置く。

 

「これはこの前にお世話になった私からのお礼です。名付けて『灼熱の業火シチュー』です。どうぞ」

 

マグマのように赤くボコボコと沸騰するシチューを愚神の前に置くと愚神ヘルメスは引きつった笑みを浮かばせながら冷や汗を流す。

 

「さ、桜ちゃん・・・これは仕返しかい?」

 

「いいえ、お礼です。東洋には世話になった方にはお礼参りするという習慣があるんですよ。さぁ、冷める前に食べてください」

 

このシチュー、無駄に時間をかけて作ったのだから。

それから完食した愚神ヘルメスは口を押さえながら涙目で店を出て行った。

あれで懲りるとは思えないけどその時はその時でなんとかしよう。

それからも客は途絶えることなく来て、初日は大成功で収めることができた。

 

「命。後は私だけで大丈夫だから裏の方を手伝ってあげてくれ」

 

「わかりました」

 

客もほとんどいなくなって閉店に近づいている時、ドアが開く音がして客が来たと思った私は顔を上げる。

 

「いらっしゃいま―――っ!?」

 

「こんばんわ」

 

視線の先には神フレイヤがいた。その場にいる客全員も神フレイヤに釘付けになっている。

オッタルがいない所を見て一人で来たのか?

と、思っている私の前に座る神フレイヤ。

 

「注文いいかしら?」

 

「どうぞ」

 

メニューを眺める神フレイヤ。

幸いなことに今はベルは休憩時間で助かった。

ベルまでいたらどうなっていたかわかったもんじゃない。

注文を決めた神フレイヤに私は調理に取り掛かるが、神フレイヤはずっと私を凝視している。

いつも見られているから慣れているといえば慣れているけど、この至近距離で見られるのは落ち着かない。

それにあの愚神ヘルメスと違って神フレイヤは恩がある。

【イシュタル・ファミリア】の時の全責任を背負ってくれた恩がある以上下手な料理を出すわけには行かない。

調理が終えて料理を神フレイヤの前に置くと神フレイヤは早速一口食べた。

 

「美味しいわ」

 

「ありがとうございます」

 

満足そうに言う神フレイヤの様子を見て安堵する。

神フレイヤは食事を終えると私に話しかけてきた。

 

「ご馳走様。美味しかったわ」

 

「ありがとうございます。代金の方はいりません。この間の些細なお礼をさせてください」

 

「あら、気にしなくてもいいのよ」

 

こちらが気になるんだよ。

基本的子供の神ヘスティアや腹黒い愚神ヘルメスや頭がキレる神ロキなどの思考や性格は予測できるけどこの女神だけは何を考えているのかがわからない。

この女神との関りは出来る限り最低限にしておかないと何が起きるかわからない。

 

「・・・・・・・」

 

神フレイヤは少し思案した後、耳に着けていたイヤリングを外して私に手渡してきた。

 

「お代変わりに貰ってちょうだい。貴女にはきっと似合うわ」

 

「しかし・・・」

 

「それじゃあ、お代じゃなく私個人からの貴女にプレゼントするわ。それならいいでしょう?」

 

断ろうとする私に神フレイヤはすかさず言ってきた。

この女神は私の考えでも読めるのか?

【イシュタル・ファミリア】の時の借りを返して関りを消そうとすればまた関りを持たせようとイヤリングまで渡すとは。

神からの贈り物を無下に扱うこともできない以上、受け取るしか選択肢はない。

それを計算してこんな高級そうなイヤリングを付けてきたのか?この女神は。

 

「・・・・・・わかりました。ありがたく頂戴します」

 

結局、私は神フレイヤのイヤリングを受け取るしかなかった。

 

「また会いましょうね、桜」

 

そう言って去って行った神フレイヤの姿が見えなくなってようやく私は一息つけた。

本当にあの女神は何を考えているんだ?

私やベルが欲しいというのは知っている。

だけど、アポロンのような襲撃などはしてこなかった。

唯一してきたことはベルに魔導書(グリモア)が渡るようにしたり、ベルにミノタウロスを差し向けたりしたぐらい。

食べ頃になるまで待つつもりなのか?それとも別の考えがあるか?

・・・・いや、とりあえずは神フレイヤに関しては放置しておこう。

持っているイヤリングをしまって私は後片付けを終わらせる。

只のイヤリングだと助かるのだけど・・・・・。

初日で売り上げも上々。予想以上に上手く行った。

時々は店を開いた方がいいかもしれないな。

また店を開こうと考えた私だった。

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