ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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神を超える一振りを

これからのダンジョン探索の事を考えて私達は懇意のなかである【タケミカヅチ・ファミリア】と共に17階層を目指し『小遠征』を行うことになった。

長期間のダンジョン探索を視野に入れた、迷宮滞在のお試し版を行うべく私達は17階層まで進んだまでは良かったのだが……。

 

「前衛壁役(ウォール)のクソッタレどもおおおおおおおお!?その汚ねえ尻(ケツ)にもっと力ぁ込めて守れぇ!!」

 

響き渡る怒声の後に続く、巨人の咆哮と莫大な衝突音。

私達は今、リヴィラの街の冒険者達と共に階層主であるゴライアスの討伐に巻き込まれている。

運が悪いことに私達の小遠征を行う日とリヴィラの街の冒険者がゴライアスを討伐する日が重なってしまい止む得ず私達は階層主の討伐に巻き込まれた。

異常事態(イレギュラー)も含めて三度目の階層主、ゴライアスとの戦闘に私は呆れるように息を吐いて加速する。

ヘルハウンド、ライガーファングを斬り伏せながら私はゴライアスに接近して右足を切り裂く。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

「浅いか……」

 

スキル『連撃烈火(コンボレイジング)』によって強化した私でも完全にゴライアスの足を切断することは叶わなかった。

魔法を使えばあるいはと思ったが、【舞闘桜】は体力、精神力(マインド)の消費が激しく燃費が悪い。

危なくなったら使用するが今はまだ早い。

足を切り裂かれたゴライアスにリヴィラの街の冒険者は次々と攻撃を開始する。

しかし、ゴライアスの公式(ギルド)推定はLv.4。

ここにLv.4の冒険者はいない上に私を含めてLv.3は数える程度しかいない。

ついでに雑兵(モンスター)の数が多い為に階層主に手を回すことは出来ずにいる。

仕方ない、少し危険を冒すか……。

 

「お、おい!【舞姫】!何でお前がこっちに向かってんだ!?」

 

前衛壁役(ウォール)の一人がそう叫んでいるように私はゴライアスに背を向けて大盾を持っている冒険者目掛けて全力で駆け出す。

驚愕する冒険者を私は無視して駆けるとゴライアスが私に目掛けて拳を振り上げる。

背後から向かってくるゴライアスの拳を一瞥して私は大盾に足をつけて上空に跳んでゴライアスの拳を回避する。

ゴライアスの腕を足場に駆け出す私は移動しながら詠唱を口にする。

 

「【凍てつく白き厳冬 顕現するは氷の世界】」

 

足元に輝く桜色の魔法円(マジックサークル)。

ブリザードをゴライアスの顔に目掛けて放ちゴライアスの顔を凍らせる。

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

跳躍して夜桜と紅桜で凍り付いたゴライアスを刻み込む。

凍り付いたゴライアスの顔を何度も刻み続けてそれによってスキルにより攻撃の威力を上げていく私はついにゴライアスの顔に夥しい亀裂が刻まれ、粉砕した。

 

「ふぅ」

 

地面に着地する私の後ろでゴライアスは灰へと姿を変える。

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!』

 

階層主の討伐に歓声を上げるリヴィラの街の冒険者。

 

「むむ、出遅れてしまったか」

 

歓声が上がる中で一人、褐色の肌と眼帯をした女性が唇を尖らせながら歩み寄って来た。

 

「いやはや、たいした腕前だ。手前も交ざろうと思っておったがその前に終わらせてしまうとは」

 

「それなら危険を冒す必要はありませんでしたね、【単眼の巨師(キュクロプス)】」

 

【ヘファイストス・ファミリア】の団長、椿・コルブランド。

Lv.5の第一級冒険者がくるのなら私も無茶をする必要性は皆無だったな。

 

「二つ名で呼ばないでくれ。怪物(モンスター)のようでその名は好かん。手前は大いに不服なのだ」

 

「それは失礼。椿さん」

 

二つ名を嫌う椿さんに訂正して名前で呼ぶと快く頷く。

 

「貴女ほどの実力者がどうして中層に?」

 

「ふむ。久しぶりに迷宮(ダンジョン)で暴れたくなった。そしてヴェル吉をからかいにきた」

 

「……そうですか」

 

ヴェルフ、ご愁傷様……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階層主との戦闘を終えて待っていたのは醜い戦利品の奪い合いだが、全て私が手に入れた。

勿論、金にがめつい冒険者達は文句を言ってきたが。

 

『止めをさしたのは私だ。文句があるなら実力で示せ』

 

得物をちらつかせてそう言うと誰も文句は言わず素直に従ってくれた。

所詮は冒険者。文句を言わせない腕っぷしがあれば問題はない。

戦利品を手に入れた私はベル達と合流して地上に帰還することを促そうと思って二人を探すと椿さんがヴェルフに冷然と告げた。

 

「才能だろうが『血』であろうが、あるもの全てを注ぎ込まねば子供(われわれ)は至高の武器には至れん。お前が惚れ込んでいるあの女神(ばけもの)の領域など、夢のまた夢だ」

 

全ての鍛冶師(スミス)が焦れる神の領域に辿り着く為にはその血までも利用しろ。

椿さんは言外にそう告げる。

それにヴェルフは強烈な反発心をむき出しにして我を貫こうとする。

そこで椿がベルの短剣を折った。

技ではなく単純な武器の優劣にヴェルフは椿に負けた。

 

「何だこれは、鈍か?」

 

鍛冶師の頂点に立つ椿さんは底冷える声音でヴェルフの心を穿つ。

己のやり方では神の領域の輪郭すら見えないまま寿命が尽いてしまう。

上級鍛冶師(ハイ・スミス)となったヴェルフを椿さんは責めるように睨み付ける。

 

「この程度の武器を打つ者は腐るほどいる。己の適性を見誤るな、ヴェルフ・クロッゾ」

 

忠告と共に去ろうとする椿さんの前に私は立つと椿さんは足を止めて私と目を合わせる。

 

「手前に何か用か?」

 

「いえ、用という程ではありません。ただ同感しただけですよ、貴女の言葉に。確かにまだ見ぬ領域に辿り着く為には利用できるものは全て利用して使えるものは全て使わなければその領域に至ることは出来ないでしょう」

 

私の言葉に椿さんの後ろにいるベルとヴェルフは私に視線を向ける。

 

「ですが、今まで何人の鍛冶師が貴女のように全てを注ぎ込んで、辿り着くことが出来たのでしょうか?」

 

「何……?」

 

「いや、そうしてでも辿り着くことができなかった。それが神の領域のはずだ。椿さん、貴女は先駆者と同じ道を歩んで神の領域に辿り着くことが出来るんですか?」

 

「ほう、手前では不可能とそう申したいのか?鍛冶師でもないお主に手前の歩んできた道を否定すると?」

 

右眼を細める椿さんに私は苦笑を浮かべて首を横に振る。

 

「まさか。私は冒険者であって鍛冶師ではありません。これはただの素人の戯言です。ああそうだ、戯言ついでにもう一言。私はヴェルフの鍛冶師としての信念を肯定します。そして、信じています。ヴェルフ・クロッゾは貴女を、いえ、神ヘファイストスをも超える至高の武器を作りあげると」

 

「桜……」

 

「前ばかり見ていると後ろから追いかけてくる者に一矢報いられますよ?」

 

先程のヴェルフの意趣返しのように忠告する私に椿さんは口角を上げる。

 

「はっはっはっはっ!久しぶりだ!手前にそこまで言い切れる者がまだおったとは!」

 

腹を抱えて大笑いする椿さんは目じりに溜まった涙を拭う。

 

「お主、いや、桜と呼ばせてくれ。桜はヴェルフに惚れておるのか?」

 

「はぁ!?お前何って――」

 

「ええ、惚れてますよ」

 

「ええっ!?」

 

「ヴェルフの鍛冶の腕に」

 

私と椿さんのやり取りに驚く二人に私達は笑みを漏らす。

 

「桜。手前はお前が気に入った。ヴェルフに愛想尽きたらいつでも来るがいい」

 

「ええ、そうならないことを願いますよ」

 

互いに笑みを浮かばせながら椿さんは去って行く。

 

 

 

 

 

 

天井の水晶(クリスタル)の光が消えた、18階層の『夜』。

予定外のゴライアスの戦闘に心身ともに消耗した私達は『小遠征』を中止としてリヴィラの街で宿を取ることになった。

曰くがつくが金がない私達にとっては背に腹は代えられない。

他の宿が高すぎる為に私達は仕方なくその曰くつきの宿で一晩過ごすことになった。

 

「どうしたんだ?ヴェルフ」

 

「桜か……」

 

私は宿を抜け出して同じく宿を抜け出していたヴェルフの隣に歩み寄る。

 

「随分元気がないみたいだけどそんなに椿さんが言ったことが気になるのか?」

 

遠くの酒場から聞こえてくるささやかな笑い声を聞きながら街を眺めつつ私はヴェルフに尋ねた。

 

「……はぁ、やっぱお前には隠せれねえか」

 

観念したかのように頭を掻き毟るヴェルフ。

 

「ああ、あいつの言う通り俺は魔剣鍛冶師としてでなければあの神(ひと)のもとに辿り着けないんじゃないかってそう考えちまう」

 

「クロッゾの魔剣の凄さは黒いゴライアスや戦争遊戯(ウォーゲーム)で知ったけど神ヘファイストスはそれ以上の武器を作ることが出来るのか?」

 

「ああ、俺は一度あの神(ひと)の一振りの剣を見たことがある。あれは究極の一だ。何の力も持たない、人が到達できる可能性だ」

 

熱を帯びるヴェルフの言葉に私は静かに耳を傾ける。

 

「俺は、あれを超える武器を作ってみたい」

 

胸の高さまで上げた右手を強く握りしめる。

ベルが姉さんを憧憬し追いかけようとしているように、ヴェルフもまた神の領域に至らんと高みを求めている。

 

「なら作ればいいじゃん」

 

悩むヴェルフに私は簡潔に答えるとヴェルフは呆気を取られたかのように眼を見開いた。

 

「お前なぁ、簡単に言うなよ……」

 

「じゃあヴェルフは作れないとでも言うのか?私の知っている専属鍛冶師(スミス)は己の信念を曲げてまで魔剣に縋ろうとしない鋼鉄の意思と猛火のような熱意を胸に秘めているはずだけど?」

 

挑発に近い笑みを浮かべて告げる私にヴェルフは負けずに笑みを浮かべた。

 

「言ってくれるじゃねえか……ああ、そうだな、ここで曲げたらお前達の専属鍛冶師(スミス)は名乗れねえ」

 

自身の頬を叩いて気合を入れ直したヴェルフの瞳からもう迷いは見えない。

吹っ切れたみたいだな……。

 

「やってやろうじゃねえか……ッ!俺は絶対にあの神(ひと)を超える武器を作ってみせる。その時は桜、お前が使ってくれ」

 

「いいのか?」

 

「ああ、いや、むしろ俺はお前に使って欲しい。俺の我儘(しんねん)を肯定してあいつにあそこまで啖呵切ってくれたお前が使い手なら俺も満足だ」

 

ヴェルフが打つ神ヘファイストスを超えた武器か……。

使ってみたくないと言えば嘘になるな。

私は紅桜を抜いて刀身をヴェルフに見せる。

 

「ヴェルフ。この紅桜は神ヘファイストスが打った刀だ」

 

「これが………ッ!?」

 

「ああ、そしてこの刀は私が満足できるほどの業物だ。だからこれを超える刀をいつかヴェルフの手で打ってくれ」

 

「任せろ」

 

笑みを浮かばせて私達は互いに契りを結ぶ。

ヴェルフは神ヘファイストスを超える刀を打ち、私がそれを使う。

私はその日が来るのを楽しみにしている。

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