ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
「ところで、ヴァレンシュタインさん」
「お姉ちゃんだよ」
「・・・・・・アイズさん」
「お姉ちゃんだってば」
「・・・・・・・・」
「お姉ちゃん」
ディムナさんと話が終えた私はディムナさんの好意に甘んじて武器を一つ頂くことになったのだが、出ようとした際にティアナの余計な一言のおかげで先ほどからアイズ・ヴァレンシュタインがこの調子だ。
アイズ・ヴァレンシュタインってこんなキャラだったか?
私の覚えている範囲では妹を欲しがるようなキャラではなかったはずだが。
でも、これじゃ話が進まないし、仕方がない。
「姉さん。これでいいですか?」
「うん、でも敬語はいらないよ」
嬉しいのか薄っすら頬を赤く染めながら私の頭をなでるアイズ・ヴァレンシュタイン改め姉さんに私は内心で溜息を吐く。
「それで姉さん。武器庫はどこ?」
私がそう問いかけると姉さんは足を止めると私たちの目の前に一つの部屋の前に到着した。
「ここだよ」
姉さんはドアを開けると中には多くの武器が管理されていた。大剣、細剣、短剣、弓、槍など数多くの武器が存在していた。
「この中から好きなものを選んでいいよ」
その一言に私は武器庫の中へ入って手短にある一本の剣を手に取る。
「振ってみても?」
「いいよ」
許可を取り、一振りしてみる。
ふむ。この剣は私には少し軽いし、扱うには壊れやすいか。
剣を元に位置に戻して次の武器を物色し始めると奥にある一つの武器に目が留まった。
私が目に留まったのは一本の刀。それが気になった私はそれを取り、鞘から刀を抜くと最初に目についたのは黒い刀身だった。その黒い刀身に光を当てると桜色に輝く。
「姉さん。この武器は?」
「えっと・・・・」
「夜桜。それがその武器の名前だよ」
首を傾げる姉さんの後ろから現れたディムナさんが答えた。
というより来てたんだ。
「昔、東洋の鍛冶師が鍛えた業物だ。
「そうですか」
夜桜・・・・私と同じ名前に桜がつく刀か。
「それではこれを頂戴してもよろしいでしょうか?」
「ああ、かまわないよ」
ディムナさんに了承を得て私は夜桜を腰に括り付ける。
これからダンジョンへ行って試してみたいが、流石に朝までダンジョンで潜ってここにきているんだ。帰ってひと眠りしてからにしよう。
「それでは私はこれで」
「うん。バイバイ」
「ああ、ロキ・ファミリアに入りたくなったらいつでも言ってくれ」
最後の最後まで諦めず言ってくるディムナさんに若干関心しながら私は
「・・・・・あんた、いつまでそうやっているつもりよ?」
「・・・・・・」
へファイトス・ファミリア、北西のメインストリート支店の執務室で紅眼紅髪の女神へファイトスが呆れたような声音をこぼす。
神の宴があった次の日からヘスティアはへファイトスに頭を下げ続けている。
その理由は自分の子供達、ベルと桜に武器を作って貰う為。
へファイトスは初めはヘスティアの頼みを一蹴したが、頭を下げ続けているヘスティアにへファイトスの方が弱り切ってしまった。
「・・・・ヘスティア、教えてちょうだい。どうしてあんたがそうまでするの?」
顔の半面ごと右眼を覆う眼帯を指で軽くなぞりながら、声を真っ直ぐに飛ばす。
「・・・あの子達の、力になりたいんだ!」
ヘスティアは土下座の恰好を崩さず、吐き出すように答えた。
「ベル君は変わろうとしているっ。一つの目標を見つけて、ベル君は、高く険しい道のりを走り出そうとしている!危険な道だ、だから欲しい!ベル君を手助けしてやれる力が!あの子の道を切り開ける、武器が!」
視線を床に縫い付けたまま、ヘスティアは続ける。
「桜君はまだよくわからない!けど、ボクが初めて桜君と話した時、凄く寂しい眼をしていた。暗闇のなかをさ迷っている、一人、孤独で生きている寂しい眼を。だから、そんな闇を切り裂く武器が今の桜君には必要なんだ!」
神が神に願う行為。それは本音を包み隠さずさらけ出し、自分という存在をぶつけるための儀式でもあった。神を動かすに足りる想いが、吐露をもって証明する。
「ボクはあの子達に助けられてばっかだっ!ていうか、ひたすら養ってもらっているだけだ!ボクはあの子達の主神なのに、神らしいことは何一つだってしてやれてない!」
最後は絞り出すようにして、ヘスティアはぐっと体を強張らせた。
「・・・・何もしてやれないのは、嫌なんだよ・・・・」
消え入りそうな弱弱しいその言葉は、しかしへファイトスを動かすに足りた。
この時、偽らざるヘスティアの想いを、彼女は認めたのだった。
「・・・・・わかったわ。作ってあげる、あんたの子達にね」
ばっと瞠目した顔を振り上げたヘスティアに、へファイトスは肩をすくめてみせる。
「私が動かなきゃ、あんた梃子でも動かないでしょうが」
「・・・・うんっ、ありがとう、へファイトス!」
「―――で、言っておくけど、ちゃんと代価は払うのよ。何十年何百年かかっても、絶対にこのツケは返済しなさい」
「わ、わかっているさっ。ボクだってやる時はやるんだっ。ああいいとも、いいさ、ベル君と桜君へのこの愛が本物だって、身をもってへファイトスに証明してあげるよ」
「はいはい、楽しみに待っているわ」
目を閉じて胸を張ってみせるヘスティアの言葉を話半分に聞きながら、へファイトスは壁に作り付けされた飾り棚へ向かった。
細長い棚には新品同然に磨き抜かれているショートハンマーが数点並べられている。
「あんたの子達が使う得物は?」
「え・・・えっとベル君はナイフだけど?桜君のほうは・・・」
「何?自分の子が使う得物も把握していないの?」
半眼するへファイトスだが、ヘスティアは首を激しく左右に振る。
「いや、そうじゃないんだ。桜君は数日前に冒険者になったばっかりでいつも剣を使っていたけど桜君は何でも使えるみたいなんだ」
「それはずいぶんと多才ね」
ヘスティアの言葉にへファイトスは正直に関心の声を上げる。すると、ヘスティアが何かを思い出すように手を叩く。
「あ、そういえば前に剣じゃなくて東洋の刀?の武器がいいって」
「へぇ、その子は東洋人なの?」
「ん~、どうだろう?見た目はヴァレン何某に似ていたしな。とりあえず刀を打ってくれよ!へファイトス!」
「はいはい」
神ヘスティアが出かけて三日目の朝。まだ神ヘスティアは帰ってきていない。
いったい何をしているのやらと考えながら私は迫ってくるキラーアントを一刀両断する。
綺麗に両断されたキラーアントは灰へと変わるなか、私は新しい武器である夜桜を見る。
ベルより早く起きてから7階層までずっと使ってきたが刃こぼれ一つしていない。
これを作った鍛冶師は相当な腕の立つ職人なのだろう。
「感覚的にそろそろ昼頃か。出るとしよう」
今日はガネーシャ・ファミリアが毎年行う
魔石を拾って上へと上がって行きダンジョンを出るとすでに祭りに盛り上がっていた。
先に換金を済ませるか、それともこのまま祭りに向かうかと考えていると視界に見覚えのある黒髪ツインテールが目に入った。
「おおっ!桜君」
「神ヘスティア。今までどちらに?」
何を隠そう私とベルの主神だ。どこで何をしていたのかは知らないがベルが寂しかっていたことを伝えようとしたが神ヘスティアの姿を見て口に出さなかった。
体中汚れて、目の下のはクマができていた。更によく見たら肌の色も普段より白い。
あきらかに体調不足だ。本当になにをしていたののやら。
「そうだ!ベル君を見なかったかい?というより一緒じゃないのかい?」
「ベルより早めにダンジョンに潜っていましたからね。ダンジョンの中では会わなかったので恐らく祭りに参加でもしているのでしょう。デートに誘えるチャンスでは?」
「ベル君とデート!こうしちゃいられない!」
叫びながら人ごみの方へと走っていく神ヘスティア。だけど慌てて戻ってきた。
「はぁはぁ、そうだった、桜君にも渡したい物があったんだ・・・」
息を切らしながら背中に背負っているものの一つを取り出す。
それは刀だった。夜桜のように刀身が黒い刀とは正反対ともいえる紅く炎のように輝く刀を神ヘスティアは私の前にその刀を突きだした。
「紅桜。
「そうですか。それではありがたく頂戴します」
紅桜を受け取ろうと掴むが神ヘスティアが離してくれない。それに怪訝していると神ヘスティアが真剣な表情で私に言う。
「桜君。ボクは君が目的の為に無茶をしようが何をしようが何も言わないし、聞かない。だけど、これだけはわかってほしい。ボク達は家族だ。これを使うときはボクやベル君だと思って頼ってくれ」
今の言葉に私は一瞬何も言えなかった。
普段は子供のような言動でマスコットと言っていいくらい駄目神のはずなのに、今の言葉、眼差しは間違いなく慈悲深い女神だった。
やはり、神は神か・・・・。
私はその場で膝を付き、丁重に女神ヘスティアより頂いた紅桜を受け取る。
「ありがたく頂戴します。神ヘスティア」
頂戴した紅桜を夜桜とは反対側の腰に括り付ける。
「さてと、それじゃボクはベル君のところに行くね!うおおおおおおお!ベルく~~ん!どこだーーーーーーい!」
またいつもの駄目神に戻った神ヘスティアは人ごみの中を大声で走って行った。
「さて、私も行くとしよう」
闘技場へ向かおうとした瞬間、不意にあることに気付いた。
紅桜はいったいどこで手に入れたのか?
紅桜はロキ・ファミリアの武器庫で見てきた物と大して変わらない武器だ。少なくとも零細ファミリアの私たちが手に入らない程。
それだけじゃない。神ヘスティアは私にもと言っていた。
ということはベルにも私と同等かそれ以上の物を渡すはずだ。
ということはまさか体を・・・・・・・いや、流石にそれはないか。なら、借金か。
「
万が一にも借金だったら軽く説教するとしよう。
そう頭を悩ませているといつかの嘗め回されるような視線を感じた私は視線を感じた方へ振り向く。今度はすぐには消えなかった。
今でもずっと私を見ている。
間違いなく誘われていることに気付いた私は正体を突き詰めるために視線を感じる方へ足を動かすと闘技場の舞台裏へと足を運んでいた。
奥へ進めばモンスターの唸り声が聞こえた。それだけではなく何人かが腰を抜かしている。近づいて見ると瞳の焦点が定まっておらず、毒にやられたというわけでもない。
そして、こんなことが出来るのは間違いなく女神だ。
「あら、やっと来てくれたのね」
奥から聞こえた美しい声。声のする方を向くと一人の女神がいた。
長い銀髪に全てを虜にするようなプロポーション。美を表現するなら間違いなく今、目の前にいる女神で例えるだろう。
「貴女ですか?私をここに招いたのは?」
「ええ、ヘスティアには悪いけど、貴女にも興味があるもの」
上品そうに笑う姿さえ美しいとも思える。だけど、目の前にいる女神の手には鍵が握られている。それに今の言葉。私にも興味があるということは私以外にも興味を示す相手がいるということ。そして、神ヘスティアには悪い。ということは。
「女神。貴女のもう一人の狙いはベルですか?」
「ええそうよ。ふふ、頭の回転が早い子は好きよ」
否定しない。狙いは私とベル。だけどベルがここにいないということはここに招いたのは私だけ。そして、手に持っている鍵。
「モンスターを解き放つつもりですか?そんなことをしたら関係のない人たちにも被害が出ますよ?」
「あら、優しいのね。でも大丈夫。そんなことはしないわ。ちょっとこの子にちょっかい出してもらうだけだから」
女神の前には檻の中に閉じ込められているシルバーバック。11階層クラスのモンスター。いくらスキルで急成長しているベルとはいえ勝てるかわからない。
「・・・・いいのですか?万が一にベルが死んでしまうかもしれませんよ」
「そうなったら悲しいわね。でも、万が一そうなったら私の中で彼を愛してあげる。それだけよ」
「・・・・・・・」
その言葉に私は改めて自分の主神がまだよかったと確信した。狙って選んだとはいえ、少なくとも私はこの女神はお断りだ。
死してなお、縛り続ける。私はそんなのごめんだ。
私の生き方も人生も運命もその先だって誰かに縛られていられるほど私は寛容ではない。
無言で私は夜桜と紅桜を抜く。
武器を抜いた私を見て女神の後ろから大男が現れる。
「オッタル。相手をしてあげて」
「仰せのままに。フレイヤ様」
女神フレイヤより前へ出てくる獣人の大男を見てすぐに気付いた。このオッタルという大男。間違いなくワンちゃんや姉さん、ディムナさんより強い。
そして、もう一つ気付いたことがあった。
オッタル。二つ名は猛者。そして、都市最強のLv7の冒険者。
まったくこんな化け物を戦わせ為に私を招くとは。神とはどれだけ娯楽に飢えているというのやら。
「フレイヤ様の命令だ。こい」
猛者の言葉と同時に私は夜桜と紅桜を握りしめて走った。