ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
「ハッ!」
迷宮都市オラリオ。その都市最強の冒険者Lv7の猛者、オッタル相手に私は夜桜で一閃するが、オッタルは素手で攻撃を防いだ。
「軽いな」
「それはまだまだ駆け出しですから、ねッ!」
先程神ヘスティアより頂いた新しい武器、紅桜で横切りで攻撃をするに大してオッタルはプロテクターで防ぐ。
だけど、それは想定内。防がれると同時に私は両手に握っていた夜桜と紅桜を手放してがら空きの腹部へと一撃当てる。だが、オッタルはビクともしなかった。いや、それどころか攻撃すら通じていなかった。
「弱い」
「うっ!」
お返しと言わんばかりか私の腹部へオッタルの拳が貫通し、大量の血が私の足元へと落ちる。だが、【不死回数】のスキルのおかげで風穴が空いていた腹部はすぐに元に戻る。
「致命傷の傷が消えた。いえ、元に戻ったが正しいのかしら?変わったスキルを持っているのね」
傷が消えた私を見て神フレイヤは楽しそうに見ていた。それに対してオッタルは私に何もしてこなかった。
「こい」
ただ一言私にそう言った。私を倒すのが目的ではなくあくまで神フレイヤが見ているこの状況で私の実力を測るのがオッタルの目的なのだろう。そして、今の一撃は前にワンちゃんの躾の時に見せたものを知った上で攻撃したのだろう。
私は夜桜と紅桜を握りしめて構えるが、ハッキリ言って全然勝てる気がしない。
レベルもそうだけど、経験も実力も潜り抜けてきた死戦の数が違いすぎる。
私の攻撃はオッタルにとって蚊に刺される程度。それに対してオッタルの攻撃は手加減された状態でも一撃で死ぬ。
・・・・・・・なに?この無理ゲー・・・・。
正直、今すぐにでもこの場を逃げ出したいけど目の前にいるオッタルはそれを許さないだろう。神フレイヤが私をここから逃がしてもいいという命令がない限りは。
今、私が出来ることは主に三つ。
一、戦う。不快だけど、神フレイヤは私のことを気に入っている。神フレイヤが満足するまで戦うか、誰かがここに来るまでオッタルの攻撃を凌ぐか。
二、逃走。相手は最強の冒険者だが、無敵ではない。人前まで逃げることが出来たら逃げられるだろうけど万が一捕まれば神フレイヤの機嫌を悪くする可能性もある。
三、降伏。相手が悪かったと諦める。
三はしたくない。というかしない。いくら相手が神で最強の冒険者だろうと降伏なんてしたくない。いや、それなら二も同じか。
自分で考えた選択なのに結局のところ一つしか道はないとは。
内心で自分自身に呆れる私は覚悟を決める。
それに気づいたのかオッタルの表情が更に強張る。
「そうだ、それでいい。貴様の実力をフレイヤ様に見せろ」
やはり、あくまで私の実力を知る為が目的か。それなら勝てるとは言えないが倒す方法はある。私はもう一度オッタルに向かって攻撃する。単発での攻撃が意味がないのは先ほどで身をもって知った。なら、オッタルより三歩先を読んだところに反撃される隙を与えず攻撃し続ける。
右、左、上、下、斜め。ありとあらゆる方向の三歩先のところで攻撃を繰り返す。それでも実力差が違いすぎる為、簡単に避けられ防がれる。
だけど、それでいい。こんなことで勝てるとは流石に思っていない。
問題は更にその先。読みとタイミングを外したら終わりの一発勝負。これに賭けるしかない。まだ、神フレイヤもオッタルも知らない私のもう一つの武器で倒す。
ガキンと金属と金属がぶつかり合う音がこの場に鳴り響く。その音の原因は紅桜とオッタルが身に着けているプロテクターがぶつかり合った音。
防いだ腕に力が入っている。間違いなく攻撃をするつもりなのだろう。今!!
「あら」
「む」
夜桜と紅桜を手放して私はオッタルの攻撃をギリギリで回避することに成功。回避したことに神フレイヤとオッタルは驚嘆する。その隙に私はオッタルの背後にしがみつくことに成功した。
「・・・・・俺の背後を取ったことは褒めてやる。だが、その程度で俺に勝てると思っているというなら愚策だ」
オッタルの言う通り。確かにいくら背後をしがみついているとはいえ、すぐにほどかれるだろう。絞めようにも腕力不足。関節技をしようにも戦闘中に筋肉を緩める程オッタルは甘くはないだろう。だけど、数秒あればいい。
「・・・・確かにその通りだ。だけどこれであんたを倒せる」
「どういう・・・・」
私の言葉に怪訝していたオッタルだがすぐに気付いたのだろう。私が魔法を使おうとしていることに。
「【凍てつく白き厳冬 顕現するは氷結の世界】」
早口で詠唱を終わらせた私は凍り付いていくオッタルの背を蹴って離れる。
そして、数秒もしないうちにオッタルは全身凍り付いた。
「はぁ、はぁ、」
ほぼ全魔力を注ぎ込んで発動した魔法に足元がふらつくが、夜桜と紅桜を拾い神フレイヤの方を向く。
「これで残るは貴女一人ですよ。神フレイヤ」
「驚いたわ。まだ冒険者として日が浅いと思っていたけど魔法まで使えていたのね」
最強の冒険者オッタルを倒したというにも関わらず余裕を崩さない神フレイヤ。
まだ他に護衛でも連れてきているのかと疑問を抱いていたがそれは大きな間違いだった。
背後から聞こえる砕ける音。振り返るその先にはたった今氷漬けにしたオッタルの姿が。
「嘘だろ・・・?」
思わず口に出した。確実に倒したとは思ってはいなかった。だけど、氷から脱出するのに時間がかかると思っていた。少なくとも神フレイヤの暴挙を止められるぐらいの時間は稼げると予測していた。
「惜しかったな」
まるで何事もなかったかのようにオッタルの無情な拳は私を吹き飛ばすのに十分なほどの威力があり、私は吹き飛ばされたところで力なく倒れる。
「こら、オッタル。殺しちゃ駄目よ。彼女も私のものにするのだから」
「致命傷は避けましたので死んではおりません」
オッタルの言う通り、殴られる瞬間ギリギリ致命傷は避けて殴ってきた。
だけど、これ以上打つ手も対抗する手も私にはなかった。
いくら先を読もうが、策を張り巡らせようが全てを実力で跳ね返してしまう。
これがLv7。猛者の実力の片鱗。
ここまでか・・・・・・。
まだ戦おうと思えば【不死回数】のカウントはまだ残っている。自分で一度死んで全回復すれば戦おうと思えば戦える。だけど、打つ手がない以上もうどうすることもできない。
相手は最強の冒険者。このまま気を失ったふりをしてやり過ごすとしよう。
ベルやベルとのデートを楽しんでいるであろう神ヘスティアには悪いが、もう私ではどうすることもできない。
諦めよう。そう思った時、視界に神ヘスティアから頂いた紅桜が入った。
ごめん・・・・ベル・・・・申し訳ありません・・・・神ヘスティア・・・・。
紅桜を見て思い浮かべるベルと神ヘスティアに内心謝罪する。
『ボクとベル君の愛の結晶ってことで「ラブ・ダガー」とか!!』
突然聞こえたこの場にはいないはずの主神であるヘスティアの声。
驚く私だが、神ヘスティアの隣にいる紅眼紅髪の女神との会話が続く。
まるでその時の光景をビデオに撮ってあるかのように話が進んでいった。
『やめいっ、駄作臭ぷんぷんじゃないのッ・・・・。でも、そうね、コレは神の武器としか形容しようがないし・・・・
紅髪の女神がそうつぶやく。二人の女神の前に置かれているのは漆黒のナイフと紅の刀。
『桜君の方は決まっているんだ!紅桜!
『あんたにしてはいい名前ね。でもいいの?ヘスティア。この刀はナイフのように
紅髪の女神の問いに神ヘスティアは首を縦に振る。
『いいんだ。ボクが桜君に出来ることはキッカケを与えるだけだ。少なくとも今のボクに出来ることはそれだけだ』
神ヘスティアは紅桜を持って慈悲深くも哀しい表情で紅神の女神に言う。
『でも、出来ることならこれをボクやベル君だと思って頼って欲しい。家族がいる、帰る場所がある。目的の為に前を走るだけじゃなく後ろにも大切なものがある。今は無理でもいつか桜君がそれがわかってくれる日が来るのをボクは信じている』
神ヘスティアの言葉に私は言葉も出なかった。確かに紅桜を私に渡した時にもそのようなことを言っていた。だけど、あれは主神としてと思っていた。
主神として女神としての慈悲的なものだと思っていた。
だけど、それは違った。あの言葉は主神や女神としてだけではなく、一人の家族としての嘘偽りのない言葉だった。
会ってたった数日しかない私を疑おうともせず、受け入れ何とかしようとしてくれる。
今までの人生の中でそんなことは会っただろうか?
いや、なかった。
家族だろうが友人だろうが私の為にここまでしてくれる人なんていなかった。
私自身も考えたことすらなかった。目的を見つけるためにひたすら前だけを見て走り続けた。そんな私の心境を神ヘスティアは見抜いていた。
女神だからだろうか?
神ヘスティアだからだろうか?
そのどちらかはわからない。だけど、これだけは言える。
ここまで信じてくれている我が主神を裏切るわけにはいかない。
私は手を伸ばして紅桜を強く握りしめる。
その時私の背中は炎を宿したかのように熱くなった。
主神を・・・光を・・・・仲間を・・・・私が守る!
桜が倒れて動かず、魂の輝きも弱くなっている。フレイヤはそんな桜を見て少々残念に思っていた。透き通る程綺麗だったベルの魂の輝きに対して精一杯輝こうと頑張っている未熟な輝きだった。それでもフレイヤにとっては興味が引かれた。
未熟ながらもその輝きはとても輝いていた。例えるのなら花が咲く前の蕾の状態。
その蕾が開いたらいったいどれだけ輝くのだろうか?どうやったら開くのだろうか?
それを考えただけでもフレイヤは歓喜、恍惚していた。
ベルへとちょっかい出すつもりだったが、偶然にもダンジョンから出てきた桜を発見。
そして、招き寄せてオッタルと戦わせた。
結果は予想とは違ったが桜の完全な敗北。倒れて動かない桜の魂が弱くなっていくのを見てフレイヤは未熟な輝きのその先が見えないことに残念に思いながらモンスターを閉じ込めている檻の鍵を開けよとした時。
「ッ!!」
弱まっていく魂の輝きが突然強くなったことに気付いたフレイヤ。
先ほどまで動かなかった桜が立ち上がっていた。武器を持っていた。
そして、今、蕾が開いた。
「【瞬く間に散り舞う美しき華】」
唱えたのは先ほどとは違う魔法の詠唱。
「【夜空の下で幻想にて妖艶に舞う】」
魔法の詠唱を止めようと動こうとするオッタルをフレイヤは手で制した。
「【暖かい光の下で可憐に穏やかに舞う】」
「うふふふふっ・・・・・・!?見せてちょうだい、貴女の輝きを」
「【一刻の時間の中で汝は我に魅了する】」
開こうとしている桜の輝きをフレイヤは歓喜、恍惚していた。
「【散り舞う華に我は身も心も委ねる】」
オッタルはいつでも動けるように臨戦態勢に入る。
「【舞う。華の名は桜】」
詠唱が終え、桜は魔法を発動する。
「【舞闘桜】!!」
魔法が発動され、桜の全身から魔力が溢れ出た。その溢れ出た魔力は桜の全身を巡り覆う。そして、桜が握りしめている夜桜と紅桜にも魔力が覆われる。
夜を現すように怪しく輝く夜桜。
光を現すように紅く輝く紅桜。
桜を含めたその光景にフレイヤは喜びを隠すことが出来なかった。
だけど、フレイヤが喜んでいるのはその光景だけではなかった。
蕾だった桜の魂が開いた。
眩しく輝いているにも関わらずその輝きは目を奪われるほど美しく穏やかに輝いていた。
今まで見たこともないその魂の輝きとその魂の持ち主である桜自身にもフレイヤは目を奪われていた。出来ることならもっとこの輝きを見ていたかった。
だけど、フレイヤには時間がなかった。
ベルにちょっかいを出すためにガネーシャ・ファミリアが捕らえているモンスターを解き放とうとしているのだから。桜が来てもうだいぶ時間が経つ。
もうすぐガネーシャ・ファミリアが来る頃合だろうと思いフレイヤは残念な気持ちになりながらオッタルに命令する。
「勿体ないけどすぐに終わらせてオッタル。でも、間違っても殺しちゃ駄目よ」
「仰せのままに」
フレイヤより前へ出るオッタルに桜は突っ込んだ。それも先ほどとは明らかに違う程速く動いていた。それを見たオッタルは先ほど桜が発動した魔法は身体能力を強化させるものだと思った。可能であれば桜がフレイヤの寵愛を受けるに相応しいか見極めたいところだが自身の主神であるフレイヤの命令はすぐにでも終わらせること。
軽く息を吐いて向かってくる桜の攻撃を躱して尽かさず気絶させる程度に拳を放った。
「ッ!?」
だけど、放った拳は桜に躱されたことにオッタルは驚愕した。
勿論、手加減はした。気絶程度に収めるぐらいに加減はしたが今放った攻撃は魔法を発動する前の桜では反応すら出来ない程、いや、Lv1の冒険者には反応することさえ出来ないはずなのに。桜はまるで舞うかのようにオッタルの攻撃を躱した。
「・・・・・なるほど。そういう魔法か」
だけど、猛者の二つ名は伊達じゃなかった。たった一度の攻防で桜の魔法を見極めた。
桜の魔法は身体強化だけではなかった。全身に覆っている魔力にカラクリがあった。
全身に魔力の膜のようなものを張っていることで見えなくても膜に触れただけで攻撃が察知することが出来る。
「面倒だ」
すぐに終わらせなければならない命令を主神から出されている以上今の桜の魔法は面倒でしかなかった。
「仕方がない」
そう言い終えるオッタルに桜は尽かさず攻撃を繰り返す。先ほどよりも速く、重く、鋭い攻撃だが、実力差がありすぎる桜とオッタルではいくら桜が強化されようがオッタルにとっては意味もなかった。オッタルは攻撃してくる桜の腕を掴み、桜を宙へぶら下げる状態で腕をへし折った。
「ああっ!!」
悲鳴を上げる桜。だけど、歯を食いしばってもう片方に握られている紅桜でオッタルに斬りかかるだが、強化された状態でもその攻撃は躱されてオッタルの拳が桜の腹部に直撃した。
「かは」
血を吐く桜。魔力が切れたのか全身に覆っていた魔力が消える。それを見たオッタルは桜を離す。オッタルの足元へ倒れる桜にオッタルは告げる。
「悔しいなら俺を超えてみろ」
それだけを告げて主神であるフレイヤの元へ歩くとフレイヤはすでにモンスターを九匹モンスターを解き放っていた。
「そちらも終えたのね。あら?ふふふ」
オッタルに視線を向けるとフレイヤは楽しそうに声を出して笑った。そのことに怪訝するオッタルだが、フレイヤがオッタルの頬を指す。気になったオッタルも自身の頬に触れると僅かながらに血が垂れていた。
「彼女はどうだったかしら?」
「間違いなく強くなるでしょう。少なくとも貴方の寵愛を受けるに相応しいぐらいには」
それがオッタルが桜に対する評価だった。知る者が聞けば驚きを隠せないその評価にフレイヤも満足そうに頷く。
「そう。ではこれからも彼女に期待しましょう。オッタル、彼女を人目の付くところまで運んであげて頂戴」
「はっ」
オッタルに抱えられる桜。その桜の頬をフレイヤは優しく撫でる。
「また会いましょう」
それだけを告げると桜を人目の付くところに置くとフレイヤとオッタルはその場から姿を消した。
「・・・・・桜」
それから数十分後。偶然にも倒れている桜を発見したアイズとロキ。アイズに背負われて桜はロキ・ファミリアの