神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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二人の神闘士は、新たな魔法少女に出会う。そこはかとなく漂う、「不穏な空気」


無限の銃を持つ魔法少女

「まどか、今日もCD買うの付き合わせちゃって、わるいね~っ! ほんと、同じ曲でもいっぱいCDがあって迷うんだけど、こっちとこっち、まどかならどっちがいいと思う?」

鹿目まどかは、ショートヘアのよく似合う活発な少女と、街のCDショップに来ていた。

 

「私は音楽そんなにくわしくないけど、こっちのほうが、なんだか元気いっぱいで好きかなぁ。なんだかさやかちゃんみたいって」

「へへぇ~、あたしおだてたって何にも出てこないぞ~(笑)でも、ありがとっ!決めた、こっちのCDにするね!」

 

ショートヘアの少女、美樹さやかは、楽しそうにその場でくるりと回ると、CDをもってレジに向かった。

 

「これ聞いたら、恭介、いっつも私がそばに居るみたいって喜んでくれるかなぁ」

「うん、きっと喜んでくれると思う。なによりさやかちゃんのプレゼントだもんっ!」

 

二人の少女は足取りも軽く店を出ると、そのままショッピングモールをぶらついている。

「まどか、これ、きっと似合うから、試着してみようよ!」

「え~っ ピンクのひらひら、確かに可愛いけど、ちょっ可愛すぎるかも。。

「まどかは自分の可愛さに無自覚過ぎだぞ~、じゃぁ、その体、あたしが使うから、あたしのと交換しよっ!」

「え~、そんなのヤダよぉ。。」

「なぬ、あたしの体じゃイヤですとっ!?」

 

二人は楽しそうにモールの中を追いかけっこしている。

どこにでもある平和な風景、のはずだった。

 

 

 

「あれ、ここ、どこだろう?さっきまでショッピングモールの中に居たはずなのに?」

美樹さやかは、立ち止まるとあたりを見渡している。

にぎやかだったモールの風景とはうってかわって、あたりは薄暗く異様な空間となっていた。

賑やかに店内を歩いていたはずの人達は皆姿を消し、静まりかえった空間を、野球のボールのようでいて、手足の生えた不思議な生き物が縦横無尽に飛び交っている。

 

「なによこれっ!あんたたち、なんなのっ!?」

想像すらしたことのない光景に怯えながらも、さやかは無意識のうちにまどかをかばうように立ちふさがっている。

 

「さやかちゃん、この感じ、わたし知ってる。。 たしか、「魔女」っていって、私たちじゃとても敵わないの。。とにかく逃げようっ、さやかちゃん!」

「逃げるって、どこに逃げるのさっ!」

「わかんないよぅっ!でも、ここに居てもどうしようもないから、とにかく走ろうっ!さやかちゃん!」

 

まどかは立ち上がると、さやかの手をとって走り出す。今来た方角へと走り出す二人。しかし、どこまで走っても、まるで迷路のように一向に出口にたどり着くことができない。

そうこうしているうちに、空間を舞っていた使い魔たちは二人の存在に気づいて追いかけてくる。

二人と使い魔の距離はしだいに近づき、ついに追いついた使い魔の一匹が、二人を逃がすまいとまどかに体当たりした。倒れこんだ二人に使い魔たちが次々に襲い掛かる。

 

もうダメだっ! まどかが目をつむったその時、まどかに覆いかぶさっていた使い魔たちが、まるでどこかへ吹き飛んだかのように消え去った。

 

「誰かと思えばまた君か。こいつらは私達がなんとかするから、君たちはそのまま伏せていてくれ。」

 

おそるおそる二人が目を開けると、そこには赤と青の鎧をまとった、あの二人の青年が立っていた。

 

二人はまどかとさやかの前に立ちふさがると、おもむろに拳を構える。

青い鎧の青年、ジークフリートの拳が光ると同時に。周囲を舞っている使い魔は次々に消し飛んでいく。

赤い鎧の青年、ミーメが手にしている竪琴からは無数の弦が伸び、それらはまるでムチのようにしなりながら使い魔たちを切り裂いていく。

 

1分もたたないうちに、数百は居たであろう使い魔たちは、残らず消え去っていた。

 

 

 

「一日に2度も魔女に出くわすなんて。。怪我はないか?」

「あ、ありがとうございます。おかげで二人とも大丈夫です。。」

ミーメの問いにまどかが答える。

 

「それならよかった。当面の危機は去ったが、次はこの結界の主と決着をつけねばなるまいな」

ジークフリートの前方にはいつの間にか、得体のしれない巨大な怪物が姿を現していた。

野球のヘルメットのような帽子をかぶってはいるが、その姿はまるで鳥のようで、手にはホースのような細長い物体を握りしめている。

 

「ミーメはその二人を頼む。こいつには私が引導を渡そう。。」

ジークフリートはゆっくりと身構える。

「お前はどんな願いに希望を託し、どんな絶望に至ってそのような姿になったのか。。出来ることならば倒したくないが、このまま逃がすわけにもいかない。絶望の連鎖からはなれ、安らかに眠。。」

 

「ちょっと待って!そいつは私に任せて!」

結界に、少女の声が響きわたる。

一同が振り向くと、そこにはいつの間にか、一人の少女が立っていた。

黄色いクラシカルなドレスに、カールした黄色い髪が鮮やかな少女。彼女の回りには、無数のマスケット銃が浮かんでいる。それらの銃口はすべて魔女のほうを向き、一斉斉射のときを今か今かと待ち構えているようであった。

 

「貴方たちの戦いはじっくり見せてもらったわ。あんな圧倒的で華麗な殲滅戦を見せられたのは初めてかしら。でも、魔女を倒すのは、私たち魔法少女の務め。せめて最後のととめは私に譲ってくれるかしら?」

その言葉が終わるやいなや、少女の回りに浮かぶマスケット銃が一斉に火を噴いた。無数の銃弾は外れることなくすべて魔女に命中していく。

辺りはすさまじい硝煙につつまれてはいるが、魔女に決定打を与えるにはいたっていないようである。

 

魔女は、標的を少女に変えると、ホースから激しく液体を吹きかける。その流れはまるで刃のようにあたりにある得体の知れないオブジェを切り裂いていくが、少女はリボンをロープのように巧みに操り、いともたやすく魔女の攻撃をいなしている。

 

「なかなか手強いじゃない。並の魔女ならさっきの斉射で吹き飛んでいるところだけど、じゃぁこれには耐えられるかしら?」

余裕に満ちた表情で呟く彼女の手には、まるで大砲のような巨大な銃が現れた。

 

「一気に決めさせてもらうわよっ。ティロ・フィナーレ!」

 

巨大な銃からは、まるで大砲の弾のような巨大な弾丸が放たれ、まるで吸い込まれるように魔女へ命中する。轟音とともにあたりを包み込む猛烈な爆煙。

しばらくして煙が晴れると、そこにはもう魔女の姿はなかった。

 

 

 

「これでもう安心ね」

少女は二人の神闘士、二人の少女の前に降り立つと、変身を解いた。まどか達と同じ制服に身を包んだ、まだあどけない少女がそこに居た。

 

「私は見滝原を守る魔法少女、巴マミ。その子たちは、私の中学校の後輩なの。助けてくれてありがとう。結界の中で魔女と戦っていたけれど、貴方たちも魔法少女? というわけではなさそうだけど?」

「私たちは魔法少女ではない。北欧アスガルドの神、オーディーンの戦士、神闘士だ。私はアルファ星ドゥベのジークフリート、こちらはエータ星ベネトナーシュのミーメ。話せば長くなるが、故あってこうして魔女と戦っているのだ」

「そうなのね。神闘士さん。。はじめて聞く名前だけど、貴方たちがそういうなら、とりあえず信じるしかなさそうね。こんなところでもなんだし、よかったらお茶でも飲みながらくわしく話を聞かせてくださいませんか? そうそう、貴方たちも一緒にいかが?」

巴マミは、神闘士たちに興味を持っているようだ。魔女と戦う存在は魔法少女しかいない。そう思っていた彼女の前に、魔法少女以上に強力な存在が現れたのだ。

警戒と好奇心。とりあえず魔法少女にとって危険な存在ではなさそうな二人の戦士だが、素性を知っておくにこしたことはない。マミはそう判断したようだ。

 

「ふーん、マミは相変わらずもの好きだね。ところで君が鹿目まどか、だね。唐突だけど、ボクと契約して魔法少女にならないかい?」

「あら、キュウべぇ。いつの間に来てたの?」

 

聞き覚えのある甲高い声が、結界の消え去った空間に響く。忘れるはずもないその声。243年前の世界と変わらぬその声に、二人の神闘士の顔がこわばる。

声の主は、神闘士の様子には目もくれず、鹿目まどかの前にじっと座っている。

 

「っ!」

ジークフリートは、今にも殴りかからんばかりの勢いだが、それをミーメが無言で制する。

「ミーメ、なぜ止めるっ!」

「(いいからちょっと待て)」

いきり立つジークフリートに小宇宙で語りかけるミーメ。

 

「ちょっと、キュウべぇ。またそうやって何も知らない子をいきなり魔法少女に勧誘してっ。ちゃんと説明しなきゃダメじゃない。」

「いいじゃないか。この少女、鹿目まどかには、最強の魔法少女になれる素質があるんだ。声をかけないなんてもったいないじゃないか?」

「そうなの? でも、それとこれとは話が別。魔法少女が背負い込む宿命の重さを考えたら、ちゃんとリスクを説明して、十分に時間をかけて考えたうえで決断して貰わないと」

 

「(ミーメ。あの魔法少女、巴マミとキュウべぇは、ずいぶんと仲がいいようだな)」

「(そうだ。キュウべぇを倒したところでどうせまた別のキュウべぇが動き出すだけだ。それよりも、ようやく接点を持てそうな魔法少女と接触できたのに、ここで彼女、巴マミとの関係が悪くなりでもしたら面倒なことになる。今は慎重に様子を見ようではないか? とりあえずキュウべぇの勧誘は巴マミが制している。キュウべぇをあえて泳がせつつ、情報をあつめ、機をうかがおう)」

「(それもそうだな。私達が持っている情報はまだ十分ではない。キュウべぇが鹿目まどかを狙っていることには気をつけつつ、様子をみるか)」

「(とりあえず方針は決まったな。おそらく彼女たちは私達の素性をあれこれ聞いてくるだろうが、とりあえず魔女と魔法少女に関することは伏せておくことにしよう。彼女達を絶望に追いやることになりかねない)」

 

 

 

 

「と、いうわけだ。どういう経緯かはわからないが、戦いで命を落としていたはずの私達は、こうしてまた戦うことができるようになった。それと同時に魔女や魔法少女を認識できるようになったのだから、なんらかかの関わりはあるのかもしれない。」

二人の神闘士の話を聞き、3人の少女は半ば呆然としている。

アスガルドという聞いたこともない国で繰り広げられた戦い。アテナとオーディーンに仕える、とても人間とは思えないほどの能力をもった戦士達。自分達の全く知らないところで、人類の行く末を左右するような戦いが神話の時代から続いていること。全てが彼女達の想像を遙かに超えていた。魔法少女ではなく戦いとは全く無縁なまどかとさやかにとっては、想像すらつかない世界だった。

 

「子供の頃からひたすら修行ばかりで、戦士になったら信ずる神のために戦って、傷ついて倒れて。どうしてそこまで自分を犠牲にして戦えるんですか。。?」

巴マミが二人に問う。魔法少女としての戦いも過酷には違いないが、神闘士達はなぜそこまで我が身をなげうてるのか。

 

「アスガルドを守るために選ばれた神闘士としての誇り、そして彼の地に住む人々が少しでも幸せな人生を送り、未来へと営みを繋いでいけるようにするため、とでも言おうか。そうするしかない、と見えるかもしれないが。。」

「犠牲、とは思っていない。戦ってアスガルドを守れたのなら、それは私達にとって何にも代えがたい喜ばしいことなのだ。それに、先だっての戦いで拳を交えた青銅聖闘士たち、私達が倒れても彼らになら安心してアスガルドを託すことができる、そう思いながら逝くことができたのだから、戦士としての私達の人生は誰よりも祝福に満ちていた、と思えるくらいなのだ」

 

彼らが背負う重い宿命にもかかわらず、ジークフリートとミーメの話しぶりは淡々としている。悲壮感どころかまるで夢を語るかのような穏やかな話しぶりに、少女たちの表情からは固さがしだいにとれていく。

 

「魔法少女としてずっと一人で戦ってきて、つらくなったり寂しくなったりすることもあったけど、お二人の話を聞いていたら、なんだか心のつかえがとれたような気がします。元気ださなくっちゃ!」

 

そんな巴マミを、二人の神闘士は複雑な表情で黙って見つめている。

なぜ、このような少女が自分の魂を代償にして魔女と戦う宿命を背負わされ、いずれは討たれる側の魔女にならなければいけないのか。

出来ることなら、魔法少女で居ることをやめて、ごく普通の少女に戻って欲しい。

絶望からは少し遠のけることにはなったが、魔法少女としての彼女の背中を押してしまったかのようで、神闘士たちは少し後悔していた。

 

「ところで。。」

おもむろにジークフリートが話を切り出す。

 

「魔女や使い魔との戦いでは、魔法少女は少なからず魔力を消費するだろう? もしよかったら、私達と共闘しないか? 私達にとってはグリーフシードは無用の長物。それが手に入ったら、それは君のものということでいい。 巴マミ。君にとって決して悪い話とは思わないが?」

 

「そう、ね。正直なところ、最近は魔女だけでなく使い魔もなんだか強くなったようで、ちょっと困っていたところなの。貴方たちさえよかったら、ぜひお願いしたいわ。でも、貴方たちにとって、共闘のメリットはあるのかしら?」

 

「魔女と接触する機会が多ければ多いほど、私達がなぜこのような状況に至ったのかを解き明かす手がかりが得られる可能性が高くなるから、それで十分なのだが。。そうだな。。戦いが終わったらこうしてまたお茶とケーキを楽しませてもらう、ということではどうだ? 極北のアスガルドでは、このような美味な食べ物にはめったにありつけないのだ」

 

「(ジークフリートよ、お前はそんなにこのケーキが気に入ったのか?確かに旨いが。。)」

「(ミーメ、別に食べ物につられたわけではない。こうしてギブアンドテイクの関係にしておけば、巴マミが気を遣わずにすむだろう? 実際、これは旨いのだが。。)」

「(すでに5つ目ではないか。お前がこんなに甘党だったとは)」

「そういうお前も、ずいぶんと。。」

 

 

「ん、ん~っ。えーっと、そんなことなら、頼まれなくてもそうするつもりだったから、大丈夫よ。これで決まりね。楽しみだわっ そうそう、チーム名を決めなきゃね! ピュエラ・マギ・オーディン・トリオ なんてどうかしら?」

「巴マミ、君がそうしたいのなら構わないが。。」

 

「(そんなあっさり受け入れてしまっていいのか?ジークフリート。そのチーム名、なんだか微妙に嫌な予感がするのだが。。)」

「(話の成り行き上仕方ないだろう。とりあえず危険なことにはならないだろうし、おとなしく受け入れておこうではないか。たぶん大丈夫だ、たぶん。。。)」

 

 

こうして、魔法少女と神闘士からなる、変則チームが誕生したのだった。

 


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