神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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寡黙な魔法少女。
理知的な黄金聖闘士。

弾まなさそうで、不思議と進んでいく会話に、お互いの秘密と背景が見え隠れする。


話過ぎる二人

「あら、デジェル。ずいぶん早く戻ってきたのね?」

見滝原の町はずれ。とある結界で魔女と戦っていたほむらのもとに、デジェルは再び現れた。

 

「用事は済ませてきたのでな。援護は。。要らなさそうだな」

「私だけで問題ない、けれど。。使い魔がちょっとだけ鬱陶しいから、手伝ってもらえると助かるわ」

 

確かに、揚羽蝶を思わせるような使い魔が数百匹、ほむらのまわりを飛び交っている。

時間停止の魔法を使えるとはいえ、銃や爆弾を主要武装とするほむらにとって、これだけの数を相手取るとなると相当な量の弾薬を消費することになる。

魔法で武器を生み出せないほむらの場合、消費した分はどこかで調達しなければならないのだ。

 

「そうか。では、少しだけ助力するとしよう。フリージング・シールド。。」

 

 

ほむらの周りを、うっすらと霧がとりまいていく。

一見すると何でもない霧。

はじめこそ警戒していた使い魔たちだったが、特に問題ないと判断したのか、群れを成してほむらに襲い掛かる。

 

が、それらが霧に突っ込んだ瞬間、漂う霧は突如、氷の壁へと姿を変えた。

無数の使い魔は、氷に閉じ込められた魚のように動きを封じられている。

 

 

「3体の魔女と戦った時にも見たわね。この氷壁、いったいどんな仕掛けなのかしら?」

「ほむら、君は過冷却、という現象を知っているか?」

そういうとデジェルは懐から眼鏡を取り出して、おもむろに身に着ける。

 

「さぁ。。理科の授業で習ったかもしれないけれど,それが何か関係あるのかしら?」

デジェルの眼鏡に興味があるのか、ちらっと視線をやりつつ、答えるほむら。

 

「水は摂氏零度で氷となることは知っているな。ただ、ゆっくりと冷やしていくと、水は零度よりも低い温度でも氷にならず、液体の状態を保つことがある。それが、過冷却現象だ。そして、過冷却状態の水は、ちょっとした衝撃を与えると急速に結晶化し、氷となる。あとは、わかるな?」

「衝撃。。使い魔が突っ込んだことで、過冷却の霧滴が一気に氷になったということかしら。」

「そういうことだ、トリックはもう一つある。霧の回りに絶対零度の凍気を少しだけ漂わせてあった。ただの霧なら氷の粒に変わるだけだが、絶対零度の凍気が霧と混ざり合うことで氷の結晶形成が劇的に進み、空気中の水蒸気もとりこんで、一瞬のうちに堅硬な氷壁と化した、というわけだ」

 

デジェルはそう言うと、氷壁を軽く小突く。

閉じ込められた数百の使い魔は、氷とともに砕け散った。

使い魔が居なくなって裸同然となった魔女を、難なく撃破するほむら。

 

 

「ずいぶんと手の込んだことをするのね。あなたなら、そこまでしなくても普通に凍らせられるんじゃないかしら?」

「トラップというものは、相手の油断が伴わなければ十全に効果を発揮できない。いかに油断させるか、いかにトラップに呼び込むか、ということだ。そして、魔女の中にも知恵の回るものがいる。そうした輩が同じような罠を仕掛けてこないとも限らないだろう?」

 

「確かに最近の魔女には知能が高いのも居るというし。気を付けるにこしたことはないわね、ありがとう」

珍しく素直に感情を表に出してしまったほむら。そんな自分自身に驚いたのか、照れ隠しなのか、慌てて話題を変える。

 

 

「ところで、眼鏡をかけた戦士って、珍しいと思うのだけど、あなた、もしかして目があまりよくないのかしら?」

 

「かつての戦いの後遺症、だな。君との戦いで見せた、ダイヤモンドダスト・レイという技があっただろう? あれは、私の先代の水瓶座黄金聖闘士であり、わが師でもあるクレストの技なのだ。わが師との命をかけた戦いで、私は真の絶対零度を受け継いだのだが、その代償として目にダメージを負ってしまったのだ。この眼鏡は貰い物だが、なかなかどうして私を助けてくれる」

 

「師匠との戦い?」

 

「聖闘士の中には、アテナの命により数百年を生き続け、のちの世の聖闘士たちの道しるべとなる者がいる。わが師もそうだったのだ。ただ、真の平和を求めて聖戦を幾たびも乗り越え戦いを繰り返しても、いつまでたっても争いの絶えない世を見続けていれば、いかに黄金聖闘士といえども、心の中に迷いや絶望が入り込むこともある。500年以上も生き続けたわが師も例外ではなかった。人間の短い生では真の平和を導くことはできない、永遠の生を生きる存在が必要だと考えてしまったわが師は、結果として人に仇なす者たちに手を貸すこととなってしまった。そんな師を、私はこの手で葬むったのだ」

 

「そう。。あなたたちのような人たちでさえも、何百年間戦いを繰り返しても、目指したものには結局辿り着けなかったのね。。」

 

「一人の人間なら、必ずいつか限界を迎えるだろう。だから私たちは次代に託し、思いを繋ぐのだ。アテナの聖闘士たちは、そうして神話の時代から戦い続けてきたのだ。私も、まもなくもとの時代に戻って聖戦に身を投じることになる。冥王ハーデスが勝利してしまえば、この地上は闇に包まれ、すべての生命は死に絶えることになるのだから。」

 

「そうだったわね。。城戸沙織さんの屋敷で聞いたわ。あなたも243年前の聖域から来た聖闘士だって。そして、数百年を生きた師とは違って、あなたは「この時代」にはいない。ということは、そういうことなのね?」

 

ほむらの表情は、どこか寂し気に見える。

 

 

 

「前聖戦では、79人の聖闘士が戦いに参加したが、生き残ったのは牡羊座と天秤座の黄金聖闘士、たった2名だったとのことだ。こちらに私が居ないということは、そういうことなのだろう。だが、アテナの守る地上は残っている。私は世界のどこかで今でも氷壁の中に閉じ込められているのかもしれないが、自分の務めを果たせた、ということだな」

 

243年前のアスガルド、ユグドラシルの樹のもとで見せられた夢。氷壁の中で息絶える自分自身の姿を思い出しつつ、デジェルは答える。

 

 

 

そういえば、自分はあの時、どこで戦っていたのだろう? 戦地へ向かう途中の風景は、自分が聖闘士になるための修行の地、ブルーグラードのようだったが。

 

逡巡しているデジェル。それを悲しそうに黙って見つめているほむら。

 

 

空気が重い。話題を変えなければ。デジェルが再び口を開く。

 

「そういえば、ほむら、君には師と仰ぐ者は居るのかな?」

 

「ええ、居る。。いや、居たわ」

ほむらの脳裏には、一人の魔法少女の姿が浮かぶ。

 

 

巴マミ。

 

ほむらが魔法少女になったばかりの頃、魔法少女としての戦い方を叩き込んでくれたのは、巴マミだった。

身体能力こそ向上しているけれど、一時的な時間停止を除き戦闘に関わる魔法をもたないほむらがここまで生き残れたのは、巴マミ、そして傍らでほむらを励ましつづけた鹿目まどかの存在あってこそだろう。

 

「私と同じく、銃を手に戦う魔法少女だったわ。私と違って彼女は、魔力が続く限り銃を無限に作り出して戦うスタイルだったのだけれど。魔法の代わりに銃や爆弾を使った戦い方を教えてくれたのは、彼女なの」

「(無数の銃? その魔法少女、心当たりがあるのだが。。)」

つい先日見かけ、今は神闘士たちと行動している一人の魔法少女? もしかすると、彼女のことではないのだろうか?それにしては、少なくとも巴マミはほむらと初対面のような挙動だったが。

 

「居る、ではなく、居た、なのだな」

「そうね。ここの彼女は私の師ではないの。。。いや、彼女ではないの」

「。。。」

「とにかく、今話したこと、気にしないで(なぜかしら、つい話過ぎてしまう)」

「(わかりやすく焦っているな。これも彼女の秘密に関係することなのだろうか?)」

 

 

「(話題を変えなきゃ)その眼鏡、貰い物と言っていたけれど、アテナ。。サーシャから頂いたものなのかしら?」

「あぁ、これか。わが師との戦いの後で、共に行動していた少女、フローライトから貰ったものだ。この眼鏡は彼女の父の形見というべきものなのだが、視力が落ちて不自由している私を見かねて譲ってくれたようだ」

「。。ふーん。ずいぶん親切な子だったのね、その、フローライトって子。。。」

「そういえばその時、「私の中でこの時だけの一般人にだけは絶対になりたくない」と言っていたのだが、どういう意味なのだろうな?」

「。。。」

急にジト目になってデジェルを見つめる、ほむら。

 

「ん? どうしたのだ?」

「さぁ?どういう意味なんでしょうね? ただ、あなた、女性にももう少し気をつけないと、いつか痛い目にあうわよ」

「(なぜほむらは急に機嫌を悪くしたのだろう?)そうか、忠告痛み入る。たしかに、女性と拳を交えることもあるだろうから、肝にめいじておこう」

「なんでそうなるのよっ?! デジェル、どうせなら恋愛小説とかも読んでみたらどうかしら?(この、小宇宙(コスモ)朴念仁っ!)」

 

 

何か話すごとに、どういうわけか妙な空気が漂う。

ただ、初めて会ったときは無表情だったほむらは、今はずいぶんと感情を見せるようになっていた。

デジェルも、彼自身は気づいていないようだが、ずいぶんと饒舌になっている。

 

この二人、相性がいいのか、悪いのか。

 

 

"なぜか機嫌の悪い"ほむらをよそに、デジェルはさきほどのほむらの言葉を反芻していた。

「(彼女の師の話、もしかするとほむらの謎をとく大きな鍵になるかもしれない。そうだ、この時代の乙女座は、何か気づいていそうな様子だったな。話を聞いてみるか)」

 

鹿目まどかのところへ行くというほむらと分かれ、デジェルは城戸沙織の屋敷へと向かっていった。

 


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