神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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かつて戦いの決着をもって託されたものが、魔法少女へ再び託される。


託された希望

「こんなところに来ていたのか。」

 

乙女座の黄金聖闘士。バルゴのシャカを探して小一時間。

デジェルは見滝原市の山間にある、小さな寺にたどり着いていた。

 

城戸沙織邸に戻ってみると、シャカは出かけているという。彼の行きそうなところといえば、神仏のおわすところか、ということで神社仏閣を巡ってみたデジェルだったが、果たして推理は正解だったようだ。

 

 

最も神に近い男。

幼い頃から神仏と対話している。

相打ちで消滅したはずなのに、何事もなかったように帰ってきた。

 

デジェルの代における乙女座、アスミタもまたつかみどころのない不思議な男だが、シャカについて聞こえてくる話は、とても同じ人間とは思えないものばかりだった。

 

「先の水瓶座ではないか。私は神仏との語らいで忙しいのだが、そなたは私の邪魔をしにやってきたのかね?」

寺の本堂の中央に一人座し仏像と向き合う、黄金の鎧を纏った男。目を瞑ったままの彼が面倒そうに答える。

 

「瞑想を妨げたのであれば申し訳ない。ただ、私はそなたにぜひとも聞いておきたいことがあるのだ」

「ほう。知の聖闘士と呼ばれるそなたがどのようなことに興味を持ったのか。ぜひ聞いてみたいところだが、実は私もそなたに問うてみたいことがあってな?」

「最も神に近い男からの問いか。ならばまず、そちらから聞かせてもらえるかな?」

「そうか、では早速。。」

 

シャカは、おもむろにデジェルのほうへ向き直ると、おもむろに語り始めた。

 

「デジェルよ、そもそもなぜハーデスとの聖戦が始まったのか、そなたは考えてみたことがあるかな?」

 

 

シャカからの問いは、意外なものだった。

だが、神話の時代より絶えることなく続いてきた聖戦、それがなぜ始まったのか? 聞いたことも考えたこともないことに、デジェルは改めて気が付いた。

 

「そなたも、ハーデスと豊穣の神デメテルとの逸話は知っておろう?」

 

はるか神話の時代のこと。

ハーデスは、ゼウスとデメテルとの間に生まれた娘、コレーに想いを寄せ、ゼウスに唆されたこともあり、強引に冥府へと連れ去ってしまった。

それなのにデメテルは、ハーデスがそのようなことをするはずがない。神々の中でも最も心優しい彼に限ってそのようなことはない、となかなか信じなかった。

コレー自身もまた、そのような経緯にも関わらず、ハーデスの誠実さにひかれ、ハーデスの妻ペルセポネとして冥府にあることを受け入れたという。

そんなハーデスが、なぜ執拗に地上を狙うようになったのか? なぜ、人間の命を奪うことになんの躊躇もなくなったのか?

 

目を閉じたまま、シャカは語り続ける。

 

「もしも神もまた、人と同じく無常の理からは逃れられぬのだとしたら。。そなたたちのアテナ、サーシャを見ていて、ふと気が付いたのだ。よく笑い、楽しみ、悲しみ、怒る。神も感情を露にすることはあるが、特にペガサスたちとともに在るときのアテナは、神というよりはむしろ人の子のようではないか?」

「サーシャさまは、アテナ神殿ではなく、人の子としてごく普通の夫婦のもとに生まれ、その後は兄のアローンとともに孤児院でテンマたちと親交を深められたと聞く。普通の子供として生活し、人間の感情に直接触れ続けてきたことで、まるで人のように感情豊かな性格となられたのであろう。アテナは心優しくも厳格な戦女神と聞いていたので、私たちも最初は驚いたものだ」

「ただ、サーシャは聖域でアテナとして覚醒されたのであろう? ということは、人としての感情が神としての在りように影響を及ぼしているのかも知れぬ。それがよいことなのか否かは、このシャカにもわからぬが」

 

城戸沙織の館に暁美ほむらを迎えた時のこと、まるで少女がかくれんぼをしているかのように鏡の向こうに見え隠れしていたサーシャの姿を思い出しながら、シャカは語る。

 

「神をも揺さぶる感情、か。そうか、シャカよ、そなたはハーデスにもそれが起きたのかもしれない、と考えているのか?」

「さすが、知の聖闘士。察しが速い」

「聖戦が始まってから、ハーデスの在りようは変わっていない。となれば、ハーデスに何かが起きたとすれば、それは聖戦が始まる前ということになるだろう。言い換えれば、優しく純真であったハーデスが、なんらかの理由で邪悪に染まったことこそが、聖戦のきっかけとなったということか。今のところはまだ憶測にすぎないが」

 

そこまで言って、デジェルはふと気が付いた。

聖闘士たちとの戦いを経て、人間らしさを取り戻した2人の神闘士。

感情の揺らぎ、希望から絶望へ転がり落ちることで魔女へと変容する、魔法少女。

なぜ聖戦直前のこの時期に、通常ならあり得ぬような形で、神闘士たちや魔法少女と接点が生まれたのか?

それは単なる偶然なのだろうか。。

 

 

逡巡をはじめたデジェルだが、それを気にかけることもなくシャカが声をかける。

「デジェルよ、今度はそなたの質問に答える番であろう?」

 

「そうであった。シャカよ、私からの問いは至極シンプルだ。暁美ほむらという少女について、そなたは何か気が付いているのか?」

 

アテナの屋敷でシャカが暁美ほむらに投げかけた言葉。

「魂の輪廻から外れつつある者よ。そなたはいったいどこからやって来て、いずこかへ去ろうとしているのか?」

 

それらは、ほむらが隠している何かを見透かしているかのような言葉だった。

シャカは暁美ほむらにいったい何を見たのか?

 

シャカは、静かに語り始める。

 

「違和感、のようなものだ。。実はハクレイ殿より、面白い少女たちが居ると聞いて、暁美ほむらと鹿目まどかを少し前より観察しておったのだ。デジェルよ、そなたにとって、師や友と過ごした修行の日々の思い出は何物にも代えがたいものであろう? しかし暁美ほむらはなんとも奇妙でな。親や兄弟、幼き日々を共に過ごしたであろう人々の影が、あの娘からはまるで見いだせないのだ。そして、あの娘が見つめているのは鹿目まどか、あの娘がどのように行動しようとしているのか、それのみなのだ」

「シャカよ。。そなた、いつの間に。。確かにそれは、私も感じていた。あの二人は、出会ってからまだ数日しか経っていない。それなのに暁美ほむらはなぜあれほど鹿目まどかに執着するのか。鹿目まどかのほむらに対する言動が、出会って間もない普通の友人に対するようなごく当たり前のものだけに、なんとも不可解なのだ」

「暁美ほむらが鹿目まどかにあれほど執着する理由を、鹿目まどかは知らないのか、忘れ去っているのか。いずれにせよ暁美ほむらにとっては残酷なことのはずだが、不思議なものよ」

「そういえば、巴マミという魔法少女と暁美ほむらの関係にも同じような不均衡があるのだ。巴マミは暁美ほむらにとって魔法少女としての師にあたるようなのだが、ほむらは「ここの彼女は師ではない」と言う。そして、暁美ほむらは明らかに巴マミの存在を強く認識しているのに、巴マミはまるで初対面かのようにほむらに接しているのだ」

 

そう語るデジェルの様子を感じてか、シャカの口角が少しあがる。

 

「デジェルよ、そなたも気づきかけているではないか。もし、暁美ほむらの師である巴マミ、そしてほむらに強い拘りを抱かせた鹿目まどかが、この街に居る彼女達ではない、ここではないどこかに居る彼女達なのだとしたら、どうだろう? それを踏まえ私が投げかけた問いに対して、彼女は明確な肯定も否定もせず、ただ動揺を返したのみだった。暁美ほむらにとって、この問いは答えに窮するものであった、とりあえずの答えとしては、これでも充分であろう?」

 

「なるほど。では、魂の輪廻から外れつつある者、というのは何を指しているのだ?」

 

「人というものは、この世に生まれ、流れる時の中で、さまざまな人と出会い分かれ、喜びや不安、希望や絶望に揺さぶられながら育ち、やがて死に至る。それが人であれば逃れられぬ理というものだ。その流れに抗い、ここではないどこかからやってきて、またどこかにある現在を求め彷徨い続けるのであれば、いずれその魂は時の流れからこぼれ落ちるであろうな。輪廻とはすなわち時の流れ。正しい時の流れから外れるということは、輪廻からも外れるということなのだ」

 

「輪廻から外れた魂はどこへ行くというのだ?」

 

「冥界でさえも時の流れとは不可分なのだ。時の流れからこぼれ落ちた魂、落ちゆく先は、虚無しかあるまい」

 

 

 

 

一方そのころ、巴マミは一人、魔女の結界に身を投じていた。

 

魔女を倒し、グリーフシードでソウルジェムの穢れを浄化すると、また次の結界へと突入していく。

鬼気迫る形相で次から次へと魔女を倒していく巴マミの姿は、それまでの華麗でどこか余裕すら漂わせていた彼女とは、まるで別人に見える。

 

「マミ、今日はいったいどうしたんだい?いつもの君らしくないじゃないか?」

「キュウべぇ、あなたは黙ってて! ウロウロしてたら流れ弾にあたるわよっ!」

「わかったよ。とりあえず、僕はここにはいないほうがよさそうだ。用が出来たら呼んでくれ。」

 

キュウべぇが去ったあとも、巴マミは魔女を倒し続けていく。

出来るだけ短時間で、魔力消費を極力抑えるように効率よく戦う様は、暁美ほむらのそれすら思わせる。

 

グリーフシードのストックが10個を超えたところで、巴マミはようやく変身を解いた。

 

「これくらいあれば、十分かしら?」

グリーフシードを見つめると、それを額にあて、一瞬祈るように目を瞑る。

しばしの沈黙ののち、巴マミはおもむろに携帯電話を手にする。

 

 

 

(せ~いんと せ~いや~♪)

 

大音量の音楽を突然鳴らし始めた小さな箱に、ジークフリートはひどく慌てていた。

連絡用にとグラード財団から貸し出されたばかりの携帯電話。アスガルドには無かった、最新の文明の利器。

使い方について一通り説明はうけたものの、いざ使う段になるとなにをどうしていいのかわからない。

なり続ける音楽を止めようと操作してみるが、音はいっこうに鳴りやまない。

周囲の人たちの好奇心に満ちた視線が集まり始めているのに気が付いたミーメは、電話を奪い取りおもむろに通話を始めた。

 

「もしもし、ジークフリートの電話だが。。マミか?いったいどうした?」

茫然としているジークフリートをよそに、ミーメは電話を手に淡々と会話している。

「わかった、それでは今から行く。そのままそこで待っていてくれ」

 

通話を切ったミーメは、ぽかんとしているジークフリートをやれやれという表情でみやる。

「聞いていたな、巴マミのところへ行くぞ」

移動を促すと、ジークフリートの手を引き、周囲の視線から逃れるように足早にその場を去っていった。

 

「ミーメ、おかげで助かったが、ずいぶんと機械の扱いに慣れているのだな?」

「私は神闘士に選ばれるまで、傭兵としてアスガルドの外でも活動していた。よほど特殊なものでもない限り、たいていの機器には対応できるのだ。ところであの着信音はお前が自分で設定した。。わけはないな」

「辰巳からあの機械をもらった時に、たまたま傍に居たアンドロメダ。。瞬がしょきせってい?とやらをいろいろやってくれたのだが。。」

「アンドロメダ、純粋に好意でやってくれたのか、それとも。。あの音を聞くと、ポセイドンに操られていた頃の恐ろしいヒルダさまが仁王立ちしている様が脳裏に浮かぶのだ。もっとこう。。普通の着信音にしたほうがよいぞ」

「。。ちゃくちん。。おん、とは?」

「そこからかっ!?」

 

 

 

そうこうしているうちに、二人は巴マミの待つ町はずれの山林にたどり着いた。

 

「待たせたな。こんな人気のないところに呼び出して、どうしたのだ?」

 

「二人とも、ありがとう。ちょっと。。ね。人の目につかず、周りに迷惑かけずに済む場所を探していたら、こんなところになってしまったの。結界を使えるわけでもないし」

「人払いが必要? マミ、君は何をしようとしているのだ?」

「。。ミーメさん、実は。。お二人に私と戦って欲しいんです。。」

 

マミからの答えは、神闘士二人にとって予想外のものだった。

 

「この間の戦いで私、あらためて思い知ったんです。魔法少女としてはそれなりにベテランのつもりだったのに、あの場ではほとんど何も出来なかった。。お二人や青銅聖闘士さんたち、そしてあの黄金の人が居なかったら、鹿目さんと美樹さんはどうなっていたことかと思うと、自分が許せなくて、このままじゃいけないと思って」

「マミ、私たちが戦っている間、君は必死にまどか達を守っていたではないか? もし星矢たちが来なければ、私たちとて危なかったのだ。気に病むことはないと思うのだが」

 

ジークフリートがフォローを入れるも、マミは聞かない。

 

「もっと!もっと強く!なりたいんです。 私、両親が亡くなって、魔法少女になってからほとんど、独りで戦ってきました。私を慕ってくれた魔法少女も居たけれど、その子とも結局長続きしなくて。そこに鹿目さんたちが現れて、魔法少女に興味を持ってくれて。。もしかしたら、一緒に戦ってくれる魔法少女のとも。。魔法少女になってくれるかもしれないと思って、つい舞い上がってしまったんだと思います。どんなことがあっても魔女からあの子たちを守りぬける強さを持ちたいんです!お願いです!私がもっと強くなれるよう、手合わせしてください!」

 

しばしの沈黙のあと、おもむろにミーメが口を開く。

「本音を言えば、君たちには戦ってほしくない。できれば、できることならばマミにも普通の少女としてこれからを生きて欲しかった。だが、魔法少女である以上、戦いからは逃れられないのも事実。。マミ自身がそう願うのであれば、私たちはその力になろうと思う。まずは私が相手になろう。心して掛かってこいっ!」

 

 

深紅の神闘衣がミーメの体を包む。それを見て、魔法少女へと変身する、マミ。

 

「銃弾でもなんでもいい。私に攻撃を当ててみろ。当然、こちらからも迎え撃つ。少しずつ拳速をあげていくが、避けきれるかな? まずはマッハ0.5だ」

 

ミーメが左手を上げると同時に、マミの周辺を無数の光条が包む。マミは冷静にそれらをヒットする直前でかわすと、リボンを巧みに使い、無数のマスケット銃が現れた宙へと舞い上がる。

 

「何度もあなたたちの戦いを見てきたんですもの。このくらいはよけられて当然。さぁ、次はこちらの番よっ!」

 

一斉に火を噴く無数の銃口。しかし、弾丸がヒットする直前、ミーメの姿はそこから消える。

 

「お互い小手調べといったところね。私もこの程度の攻撃が通用するとは思っていないわ」

「では、これはどうかな。青銅聖闘士なみのマッハ1まで拳速をあげてみよう。いくぞ!」

 

先ほどよりも数と威力を増した拳がマミを襲う。

巧みにかわしてはいるものの、さすがに余裕がなくなっているのか、マミの体を拳がかすりはじめる。

 

「並みの魔法少女や青銅聖闘士なら、この段階ですでにサンドバック状態だろうが、さすがだな。ただ、避けているばかりでは埒が明かな。。っ!」

 

マミの居たところには、いつの間にかリボンでできた大きな球が現れている。拳はリボンに勢いを殺されているのか、マミには届いていないようだ。

そして再び宙へとジャンプするマミ。無数のリボンは今度は筒のように形を変えて、拳からマミをガードしている。無数の銃口が再び火を噴くが、やはりミーメには届かない。

 

 

「3体の魔女を相手にしたときの、私たちの戦い方を真似たか。経験を生かした臨機応変な戦いぶりはさすがだな。では、これではどうだ?」

 

ミーメの放つ拳の速度は先ほどと変わらない。そのはずなのに、今度はわずかながらも拳がマミにヒットし始める。マミの表情に焦りが浮かぶ。

 

「どうして。。なんで拳が当たるの?」

「気づかぬか?同じマッハ1でも拳筋を変えているのだ。先ほどは、すべての拳をマミに向かって放っていた。君もそれを前提として拳筋を読み、リボンをコントロールしていたのであろう? なので今度は、リボンの隙間を抜けるように拳を放っているのだ」

 

「そういうことなのね。それはつまり、私の動きもリボンの軌道も完全に読まれているということ。ならっ!」

 

マミの周りの空間に、まるで蜘蛛の巣のようにリボンが広がる。

時にはリボンを掴み、時には手にしたリボンを張り巡らせたリボンに絡ませ、マミは移動方向をトリッキーに変化させていく。

 

 

「これにも対応したか。相手が強ければ強いほど、自らも強くなっていく。。まるで、フェニックス。。一輝や星矢たちを相手にしているかのようだな」

だんだんと狙いが的確になっていく銃弾を避けながら、驚いた表情を見せる、ミーメ。

 

「だが、君が目指すべきはまだまだ先なのだ。これはどうだ?マッハ5!白銀聖闘士なみの拳速だ。避けられるかな?」

 

目視不可能なほどの速度で、無数の拳がマミを襲う。

 

「どうした? まさかこれで終わりではあるまいな?」

「。。。」

 

もはや全ての拳をかわすのは不可能。

少なからぬ拳がヒットし、マミの動きが鈍る。

 

「(私はもっと強くなりたいの。あの子たちが魔法少女にならなくてもいいように。何があってもあの子たちを守り切れるように。なのに、どうして! 私はどんなに頑張ってもこの程度なの? 力が、力が欲しいっ!聖闘士さんや神闘士さんと肩を並べて戦えるくらい、いや、もっと強く。。)」

 

 

「(さすがにこれ以上は無茶か。いったん仕切りなおすか。。ん?なんだ、この光は。)」

マミを包む淡い金色の光。先ほどまでは無かったそれに、ミーメは気づく。それは、マミの髪に輝くソウルジェムから放たれていた。

 

マミが、無言で立ち上がる。先ほどまで無数の拳に打ちのめされていた彼女とは違う。光に包まれた全身からは、凄まじい闘気があふれ出している。

 

「なんだ、これは。。まるで、小宇宙ではないか?」

 

闘気はやがて無数のリボンへと姿を変えると、四方八方へと爆発的な速度で拡がっていく。ミーメの放った拳は、リボンとぶつかり合ってことごとく相殺されてしまった。

 

マミの勢いは止まらない。無言でミーメのほうを向くと、地を這うような低い軌道で飛び掛かってきた。先ほどとは比べ物にならない速度で。回避は間に合いそうにない。両手でマミを受け止めたものの、ミーメはそのまま数十メートル後ろへ弾き飛ばされてしまった。飛ばされた先には、いつの間にかマミが待ち構えている。今度は右足でミーメを高く蹴り上げると自らも飛び上がり、空中で体を反転させつつオーバーヘッドキックの要領で蹴り落とす。下にはまたしてもマミが居る。

 

なんとか体制を立て直すと、今度はミーメが拳を放つ。

無意識に放った手加減なしの光速拳。最強とうたわれた双子座の黄金聖闘士、サガにも匹敵するといわれた凄まじい威力と速度の光速拳が容赦なくマミを襲う。

 

「やめろ!ミーメ。マミが死んでしまうぞっ!」

慌てて止めに入るジークフリート。しかし彼が次に目にしたのは信じられない光景だった。

ミーメの拳を、マミは全てかわしていたのだ。目視不能な速度で無数の光条を巧みにかわしきった彼女の傍らに、巨大な大砲が現れる。

 

言わずと知れた、マミのフィニッシュ・ブロー、ティロ・フィナーレ。

 

しかも、普段の大砲に比べると砲身が数段大きい。戦艦の主砲を思わせるようなそれをこの至近距離でまともにくらえば、いかに神闘士であろうと無事ではすまないだろう。

何がなんでも発射を防がねば。

冷静さを取り戻したミーメは竪琴を奏で始める。

美しい音色とともに、一人、二人。。瞬く間に数十人のミーメが現れ、それぞれがマミの狙いを攪乱するかのように空中を舞っている。

さしものマミも、どれが本物かわからず戸惑っているようだ。

その隙を彼は見逃さなかった。

 

「ストリンガー・レクイエムっ!」

 

慌てて回避にかかるマミを、竪琴の弦がとらえる。

アスガルドでは、最強の青銅聖闘士、不死鳥フェニックス一輝をも捕らえた強力な拘束。体に幾重にも巻き付いた弦をなんとか解こうともがくマミだが、こうなってしまえばもう逃げようがない。

動けなくなったマミから闘気が急速に消えていく。やっと、我にかえるマミ。

 

 

「途中からよく覚えていないのだけど、わたし、いったいどうしていたの? なんで縛られてるのかしら?」

「やっぱり覚えていないのだな。まさかあそこまで完膚なきまで打ちのめされるとは思わなかったぞ。あの闘気、私たちが持つ小宇宙のようであったが、それも覚えていないのか?」

「えぇ。。 でも、力が欲しい、鹿目さんと美樹さんを守れる力が欲しいと強く思ったら、体の中からなんだかよくわからない何かが沸き上がってきたところまでは、かろうじて覚えているんです」

「そうか。。小宇宙というのは、何も聖闘士や神闘士だけが持つものではない。この星に生きる誰もが宇宙の一部であり、それ故に小宇宙をその内に秘めているのだ。それを感じて燃焼させることが出来る者が聖闘士や神闘士となれるのだが、誰もがそうなれるわけではない。マミは強力な魔法少女だが、実は小宇宙を目覚めさせる素質も持ち合わせているのかも知れないな。それとも、小宇宙に目覚める素質を持ち合わせている少女が、強力な魔法少女となれるのか。。?」

「私、もっと強くなれるんですか?」

「小宇宙を自らの力でコントロールできるようになれれば、だがな。そのためには厳しい修行や戦いで自らを磨き上げていくしかないのだ。あの青銅聖闘士たち、ペガサス星矢やフェニックス一輝たちは、幾たびも死地を乗り越え、究極の小宇宙、セブンセンシズへと到達した。マミももしかしたら可能性はあるかもしれない」

「(星矢さんにはこないだ助けてもらったけど、フェニックス一輝って誰だろう?)そうなんですね。すごく難しいのはわかってはいるけれど、ちょっと希望が湧いてきました」

「そうだ。希望をもって闘えば、どんな夢も叶えることが出来るのだ。希望を叶えた結果が魔法少女なのだろうが、魔法少女になってからも希望は持ち続けてよいのだからな」

「希望をもって闘えば。。 どんな夢も叶えられる。。」

 

 

 

「いい感じのところすまないが、魔女だ。この気配は、かなり強力だぞ。すぐに向かわなければなるまい」

すっかり蚊帳の外状態だったジークフリートが、若干申し訳なさそうにミーメとマミに声をかける。

 

3人は、魔女が現れたという見滝原市の病院へと向かっていった。

 


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