神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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逃れえぬ罪

「あの者、その後いかがしておるか?」

 

243年前の聖域、その最深部に位置する教皇の間で、2人の男が話している。

 

「素質はまぁまぁ。やる気も十分、というか怖いくらい真面目で手を抜かねぇ。下手するとうちの聖闘士候補生たちよりよっぽど見込みがあるときてる」

「ほう。お前がそのように褒めるとは珍しい」

「ただ、なぁ…」

「ただ?」

 

若いほうの男は、何か言いにくいことがあるのか、口ごもっている。

 

「足りねぇ。聖闘士としてやっていくには、決定的な何かが足りていない」

 

それが何なのか。

結論に達してはいないものの、とにかくそのことについては伝えておく必要がある。

そう考えて言葉にはしたものの明らかに困惑している青年。

一方、老人は我が意を得たり、という表情。

 

「ほう、すでに気づいておるではないか」

「なんだよお師匠、もったいぶりやがる」

「そう怒るな。マニゴルドよ。お前に任せた甲斐があったというものだ」

 

蟹座の黄金聖闘士、マニゴルド。

自らの懸念が間違っていなかったことを確認できたせいか、悪態をつきつつも満足気だ。

 

「あの者はいずれ未来に帰らねばならぬ。戻り次第聖戦だけでなくもう一つの使命に身を投じねばならぬ。孤独な戦いとなるであろうな」

「だからこそ、自らがそれに気づき、克服せねばならぬのだ。志筑仁美に教えるのではなく、導いてやってくれ。苦労をかけるな…」

「…わかってる。糸口は掴みかけてる。ただ、もう少し時間が必要だ。それは頭に入れておいてくれ」

 

そう言うと、マニゴルドはだるそうに腰をあげ、巨蟹宮へと戻っていった。

 

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「アンドロメダ、よく来てくれた」

 

 

現代の見滝原。

巴マミの部屋の中央を占める三角形のガラステーブルを囲んで、5人の男女が座っている。

 

アスガルドの神闘士ジークフリート。

魔法少女巴マミ、美樹さやか。

そして、青銅聖闘士、アンドロメダ瞬。

 

レグルスは打ち合わせのために城戸沙織の屋敷に行っている。

ミーメは、風見野の魔女掃討を手伝って欲しいと、佐倉杏子が言葉巧みに連れ出している。

 

 

ここ数日、ミーメの様子はあきらかにおかしい。

ただ、その理由はジークフリートにもわからない。

 

オーディンの地上代行者たるヒルダに仕える、アスガルドの神闘士。

アルファ星ドゥベのジークフリート。

ベータ星メラクのハーゲン。

ガンマ星フェクダのトール。

デルタ星メグレスのアルベリッヒ。

イプシロン星アリオトのフェンリル。

ゼータ星ミザールのシド。

 シドの影たるゼータ星アルコルのバド。

そして、エータ星ベネトナーシュのミーメ。

 

ジークフリートとハーゲンは幼い頃からヒルダとその妹フレアに仕えていたこともあり面識は深い。

一方で、その他の者たちとは神闘士となってから聖域との戦いが始まるまでのつかの間のひと時を共に過ごしたに過ぎない。

 

一人竪琴を奏でていることの多かったミーメは、他の神闘士とはほとんど交わることはなかった。

決して本心を明かすことはなく、父フォルケルとのことも、ミーメ自身がどのような人生を送ってきたかもほとんど話すことはなかった

 

ミーメの取り乱しようから判断するに、今回の出来事はおそらくミーメ自身が秘める何かに起因するものであろう。

しかし、その何かに迫る術も鍵になる情報も、残念ながらジークフリートは持ち合わせていない。

そしておそらくトールも、仮に生きていれば他の神闘士も。

 

アスガルドの戦いで、ミーメは青銅聖闘士アンドロメダ瞬、そしてフェニックス一輝と激しい闘いを繰り広げた。

一輝の鳳凰幻魔拳を受けたことで、ミーメは心の奥底に封じ込めていたかつての記憶を取り戻したのだという。

フェニックス一輝は未だに神闘士たちの前に姿を現さない。

戦いの場に立ち会った瞬ならば何か心当たりがあるかもしれない。

ジークフリートはそう考えたのだ。

 

「これはあくまで僕の想像なんだけど」

 

瞬はせめてヒントになればと、当時のことを思い起こし、話はじめた。

 

 

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同じ頃。

見滝原からほど近い、風見野市のとある結界で魔女と戦う二人。

ミーメと佐倉杏子だ。

 

ミーメの様子はいつもと変わらない。

使い魔を早々に片付け、魔女と相対する杏子の援護を的確に行っている。

 

「助かったよ。しばらくこっちを空けてたら魔女だらけになっててさ」

 

5体目の魔女にとどめを刺すと、佐倉杏子は変身を解く。

 

「力になれたのならよかった。とりあえず、近くの魔女は大体倒せたようだな」

 

ミーメもまた、神闘衣を解く。

役目は終わったと見滝原に戻ろうとするミーメだったが、引き留める杏子。

 

「ところでさ、あたしが聞いていいことかどうかわからないけど…」

 

杏子がおもむろに切り出す。

 

「あんた、最近どうしたんだ? 今みたいに落ち着いてると思えば、突然別人みたいになったりさ」

「何かと思えば。いや、それについては私もよくわからないのだ。何かがきっかけになっていることは間違いなさそうなのだが」

「そうかい、もしかしたら、お… いや、いいか。 えーと、あんたさ。このあと時間あるかい? ちょっと寄っていきたいところがあるんだけど」

「特に用事はないから構わないが、私を連れていくということは、何か考えがあるのだな」

 

そうか、こちらが本来の目的か。ミーメは杏子の言う場所へと足を進めていった。

 

 

「ここは…」

 

風見野の片隅、とある教会の跡地に二人は居た。

 

「食うかい?」

 

杏子はミーメに林檎を投げ渡す。

林檎を手にしつつ、ミーメは街の雰囲気とはあまりにかけ離れた、無残に荒れ果てた教会の様子を見つめている。

 

「あんたならわかるかもしれない、と思ってさ。ここは、魔法少女の願い、そのなれの果てさ」

 

杏子は、ぽつりぽつりと話し始める。

 

 

 

彼女の願い、それは「みんなが父親の話を聴くようになること」

聖職者であった彼女の父は、本来の教義にはないことを説き始めたことで教会からも信者からも見放されてしまい、杏子たち家族はその結果として窮乏の極みに至った。

そんな中、杏子の前に現れたキュウべぇ。

願いを伝え魔法少女となる契約を交わしたことで、父の元には信者が戻り、幸せな生活が戻った。

しかし、そんな生活は長続きしなかった。

杏子が魔法少女であり、彼女の魔法によって信者が戻ってきたことを知った父は、杏子を詰ると自暴自棄に陥った。

そして、あろうことか杏子一人を残して、妻と杏子の妹とともに一家心中してしまった。

 

「つまりさ、あたしにとっても「親の仇」はあたし自身ってことさ」

 

リンゴを齧りながら、杏子はつぶやく。

 

「(親の仇、か…)」

レグルスとラダマンティスの戦いの後、ミーメがつい呟いた独り言。

佐倉杏子だからこそ思うところがあったのだろう。

 

 

「そうか、君は気づいていたのだな」

 

何かに思い当たった様子のミーメ。

 

「その心遣い、礼を言わせてもらおう。ただ、大きな違いがある」

 

ミーメは杏子を静かに見つめている。

 

「君はきっかけの一つを作ったに過ぎない。私は、言い逃れようのない殺意を持って、自らの手で父を殺しているのだ」

 

そう言うと、ミーメは自らの生い立ちについて、淡々と語り始まる。

思ってもみなかったその内容に、杏子は息を呑む。

 

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「そんなことって…」

 

瞬の語ったミーメの生い立ちは、マミたちの想像をはるかに超えていた。

 

 

アスガルドの隣国の戦士であったミーメの実の父は、アスガルドの勇者フォルケルと戦い敗れた。

まだ幼子だったミーメの存在に気づき、父を見逃そうとしたフォルケルの隙を突こうとした父は、反射的に反撃したフォルケルの拳により、彼を庇おうとした母と共に命を落としたのだ。

それ以来、フォルケルはミーメの養父となり、実の子のように愛情を注ぎ、ミーメを育てあげたのだった。

 

一方、ミーメが神闘士になる運命に気づいたフォルケル。

神闘士が現れるということは、アスガルドにかつてない大きな危機が訪れるということ。

まだ幼いミーメに申し訳なく思いつつも、神闘士にふさわしい力を身に着けられるよう、フォルケルはミーメに厳しい修行をつけていく。

 

そんな中、ふとした偶然から生い立ちの真相を知ってしまったミーメは、怒りのあまりフォルケルを手にかけてしまったのだ。

 

父の命を自らの手で奪ってしまった。

その罪の意識から、ミーメはフォルケルと過ごした日々の記憶を偽りの記憶で塗り替え、友情や愛を軽蔑して生きてきた。

 

やがて迎えた、アスガルドと聖域との戦い。

青銅聖闘士フェニックス一輝との激しい戦いで彼の鳳凰幻魔拳を受け、実の親のように愛情を注いでいたフォルケルの記憶を取り戻したミーメ。

一輝との最後の戦いで倒れたミーメは、一輝を友として認めアスガルドの未来を託すと、神闘士たる自らの手でアスガルドを救えなかったことをフォルケルに詫びつつ、死を迎えようとしていた。

そのはずだった。

 

 

ミーメが何か思いにふけっていたり、我を失った時、彼の視線の先には必ず、親と子の姿があった。

生き永らえてしまったことで、神闘士の務めを果たせなかった悔恨、それ以上に親殺しの罪の意識もまた、心の内に抱えたままになっているのだろう。

 

 

言葉を失っている、マミたち。

 

一方、瞬の言葉を黙って聞いていた、さやか。

茫然としつつも、その表情にかすかながら浮かぶ困惑に、その場の誰も気づくことはできなかった。

 

「瞬さん、貴方のお兄さん、その…フェニックス一輝さんって、今はどちらに居られるのかしら」

 

マミは瞬に問いかける。

ミーメの記憶を蘇らせ、アスガルドの未来を託された男、一輝ならミーメを救えるかもしれない。

そう考えたのだ。

 

「僕も兄さんならミーメを救えると思うんです、でも…」

 

瞬は口ごもる。

 

「僕にも兄さんがどこに居るのか、わからないんです。ただ…」

「ただ?」

「兄さんは、まだその時ではないと考えているのかも知れない、と思うんです。誰よりもミーメのことを知っていて、信じている兄さんだから」

「そうなんですね、一輝さんがそう考えているのなら、まだ… え? こんな時に魔女、なんて…」

 

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魔女の結界は、マミのマンションからそう遠くない路地裏にあった。

かなり強力な魔女のようだ。放っておくわけにいかない。

マミ、さやか、ジークフリート、そして瞬。

4人は休む間もなく結界に足を踏み入れる。

幸い、使い魔の数はそれほと多くない。

手早く使い魔を片付けると、魔女が潜んでいるであろう、結界の最深部へと足を進める。

 

やがて彼女達の前に魔女が姿を現した。

巨大な狼のような魔女。

相手の出方を見つつ、慎重に立ち向かおうとしたマミ達だったが。

 

魔女の前に、すでに一人、見知らぬ男が立っている。

彼女たちに背を向け、どうやら魔女と戦っているようだ。

 

「フンっ! 行き掛けの駄賃にもなりゃしねぇな。さっさとくたばりやがれ!」

 

男はその巨体を揺さぶると、ゆっくりと両手を高く掲げる。

 

「喰らえっ! ローリングボンバーストーン!」

 

無数の巨岩が宙に現れる。

それらは男の掛け声とともに魔女に殺到する。

圧倒的な質量攻撃。

魔女は、叫び声をあげる間もなく岩塊に押しつぶされた。

 

「ふん、化け物め、他愛もない」

 

魔女を仕留めた男は、ゆっくりとマミ達のほうを振り返る。

 

「見ぃつけた」

 

男の表情は嘲笑で歪んでいる。

 

「魔法少女だかなんだか知らねぇが、小娘と青銅聖闘士風情、それにどこの馬の骨かわからないヤツ。さっさと片付けて俺の手柄にしてやるから、有難く思うんだな」

 

無数の岩がまた空間に浮かぶ。

空を埋め尽くす岩塊が、次の瞬間マミたちに襲い掛かる。

 

身構えるマミとさやか。

チェーンを手に引き寄せる瞬。

特に反応せず、棒立ちのジークフリート。

 

「なんだ、あっけねぇ… ん?」

 

無音。

 

岩同士がぶつかり合い何かを押しつぶす轟音。

男の意に反して、それは響かない。

何が起きたのか?

 

岩は全て、蜘蛛の巣のように張り巡らされたリボンに絡めとられていたのだ。

 

「どこのどなたかは知らないけれど、ずいぶんと乱暴ですのね。ただ、そんな雑な攻撃で私たちを殺そうなんて、舐められたものね」

「フンっ! 生意気な。黙ってやられておけば、痛い目に遭わずに済んだものを。」

 

今度は、先ほどとは比べ物にならないほど多くの岩が現れる。

 

「俺は、冥界の第3獄の守人、天角星ゴーレムのロック。俺様の手にかかること、光栄に思え」

 

巨体を覆う、漆黒の冥衣が怪しく輝いている。

辺りを包む巨大な小宇宙。

獄の番人を名乗るだけのことはある。

今度は防ぎきれるか?

 

マミたちに襲い掛かる岩。

今度は凄まじい轟音が響き渡る。

あたりを包む土煙。

岩塊は… 

 

一つ残らず粉々に砕かれていた。

 

次の瞬間、土煙が激しく波打つ。

四方に広がる衝撃波。

その中心から放たれた何かは、ロックの巨体を数十m以上も弾き飛ばした。

 

「ドラゴン・ブレーヴェスト・ブリザード。その程度かわせないとは、鍛錬が足りていないのではないか」

 

ジークフリートは、ゆっくりと拳を降ろす。

 

「貴様、こちらが手加減していれば、調子に乗りやがって。今度こそ皆殺しだっ!」

 

逆上したロックは、今度は全力で技を放ちにかかる。

マミ達の頭上だけではなく、四方八方に岩が現れる。

 

 

「これでパンドラ様もラダマンティス様たちもこんな街には用は無くなるってもんだ。さっさとか…」

 

腕を振り下ろそうとする、ロック。

 

しかし、そのままの姿勢で、まるで彫像のようにその動きが止まっている。

いや、動きを止められているのだ。

 

 

ギシッ… ギシッ… 

 

 

全力を込めて何かを振りほどこうとしているその腕は、不気味な音を立てて軋んでいる。

 

 

「なんだ、この巨大な小宇宙は… 神闘士でも聖闘士でも、これほどの小宇宙を持つものはそうは居ない」

 

ジークフリートは即座に身構える。

 

あたりを包む異様な小宇宙。

ラダマンティスのそれと比べても勝るとも劣らない。

彼らに近づく小宇宙の主を探してあたりを見回している、ジークフリート、瞬、そしてマミ。

 

 

「冥闘士が一人、地上に向かったと聞いて来てみれば。貴方は自分のしていることがわかっているのですか?」

 

どこかから、静かに声が響く

ロックは声のするほうをゆっくりと向く、いや、頭を何かに引っ張られ、強引に向かされているというべきか。

 

「俺様にそんな… ひっ! どうしてあなたか、ここに…」

「どうして、ですか。私だって、好きでこんなところに来ているわけではないのですが」

 

ロックの顔が恐怖に歪む。

逃げようとする彼だったが、その巨体は、ゆっくりと宙に浮かんでいく。

 

「命令違反を犯した愚かな冥闘士には、ただ、死あるのみ」

 

ロックの頭が、腕が、脚が、そして冥衣がありえない方向に曲がり、ねじられていく。

 

「ぐっ… や、やめてくれ… 助けてくれ… 俺はただ、ア…  ぐぎゃぁぁっ!」

 

「残念ですが、これまでです。コズミック・マリオネーション…」

 

関節が、骨が砕ける不気味な音と、叫び声があたりに響き渡る。

ロックの体は、人間のそれとは思えないような無残な形となって、地面に崩れ落ちた。

 

「貴方は、誰に命令されたわけでもなく、ただ功を焦って愚かな振る舞いに至った。そういうことにしておきますね…」

 

彼の体の向こう側から、ゆっくりと現れる一人の男。

 

 

「この度は、不心得者がご迷惑をおかけしたこと、ご容赦いただきたい」

 

丁寧で気品に溢れながらも、どこか冷酷さの漂う、冷たく感情に乏しい声が響く。

 

彼の体もまた、漆黒の冥衣に包まれている。

ロックのそれとは比べようのないほどに優美な意匠。

大きなメットで隠され、その表情を伺うことはできない。

そして、その背中には雄大な翼。

 

「北欧の神に仕えし戦士、そして魔法少女のお三方、私たちは貴方がたに危害を加えるつもりはありません。私たちに拳を向けるようなことをしなければ、ですが」

 

そう言うとロックの巨体を難なく担ぎ上げ、男はマミ達に背を向ける。

 

「待って、あなたは誰なの?」

 

立ち去ろうとする男をマミが呼び止める。

 

「そうですか、確かに名乗らずに去ろうとするのも失礼ですね」

 

男はゆっくりとマミのほうへ向き直る。

相変わらず、その表情を伺い知ることは出来ない。

 

「私の名は、ミーノス。ハーデスさまに仕える冥闘士を統べる冥界三巨頭、天貴星グリフォンのミーノスと申します。みなさんには再びまみえることとなりましょう。以後、お見知りおきを」

 

そう言うと、男は静かにその場から去っていった。

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