神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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冥府神の思惑

「ほう…眠りの神自ら赴いたのか」

 

冥界三巨頭、天貴星グリフォンのミーノスが拠点とする、トロメアの館。

紫のローブを纏った男が、呆れ顔でミーノスと話している。

 

「冥界広しといえど、アイアコスほどの者を抑えられるのは、冥界三巨頭か神しか居りませぬので。私が行かされるのではと半ば覚悟していたのですが、まさかヒュプノスが自ら出向くとは、意外でした」

 

同じく呆れ顔のミーノス。

 

「聖戦中でさえ、神が地上に赴くというのはよほどのこと。なにかあの街に行かねばならぬ目的が別にあったのかも知れませんね」

「ミーノス、心当たりがある。。わけではなさそうだな」

「ふふっ。あなたの前では隠し事はできませんね。はい。今はまだ単なる勘でしかありません」

「まぁいい。いずれわかることだ。それで、アイアコスは今どうしているのだ?」

「コキュートスに放り込まれているそうです。あそこで頭を冷やして、少しは懲りてくれるとよいのですが」

「そうか。。」

 

男はおもむろに立ち上がる。

 

「どこへ行くのです?」

「愚か者を冷やかしてくる」

「ならば雑兵を供につけましょう。冥闘士でない者が冥界をうろつき回っているのは、要らぬ騒ぎになりかねません故。マルキーノス、彼を案内するように」

 

やってきた兵を連れ、男は歩み去った。

 

 

 

「(ミーノスめ、ヒュプノスが自ら動く必要のあった別の目的に気付いたのはさすがだな。だが、圧倒的な力を持つ神という存在があのような大立ち回りをしでかした所以、思惑の根幹を揺るがされることへの焦りと危機感には思い至らなかったか…)」

 

男は、含み笑いを浮かべ、氷の大地を歩いてゆく。

 

「コキュートス。相変らず魂の芯まで凍り付きそうな空間だな。さて。。 あそこか」

 

首まで氷に閉じ込められた男が一人。不満そうな顔でこちらを睨んでいる。

 

「誰かと思えば。。 ミーノスがここで拾ったという、聖闘士でも冥闘士でも海闘士でもないどこぞの馬の骨というのは、貴様か」

「首から上も氷漬けにされるべきだったな。こちらの神は働き者なのだから、黙って言うこと聞いておけばよいものを」

 

薄笑いを浮かべ、男はアイアコスの頭を足で小突いている。

 

「その馬の骨にいいようにされている気分はどうだ?」

「貴様…」

「神代からの聖戦で冥界に刃向かった聖闘士どもにも、生きながらここで氷漬けになっている奴らがいるそうではないか。負け犬同士、しばらくはそいつらと愚痴でも言い合うのだな」

 

その後もしばし思いつく限りの罵声をあびせかけると、おちょくるのも飽きたとばかりに、男は足早にコキュートスから立ち去って行った。

 

怒り心頭なアイアコス。しかしコキュートスの氷にひとたび封じられれば、他の誰かに引き出されない限り脱出は不可能なのだ。

男が去り、再び静寂に包まれたコキュートス。

 

「神を恐れてか、部下どもも助けに来る気配なしか」

 

することもなくひたすら退屈な時を過ごしていたアイアコスだったが、先ほどの男の言葉がふと気になって。耳を澄ます。

確かに、どこからか判然とはしないが、風がごくたまにささやき声を運んでくる。

 

「…微かな小宇宙。魂まで氷漬けになっている聖闘士どもが恨み言でも呟いているのかも知れぬな。せいぜいそいつらを冷やかして、暇を潰すとするか…」

 

 

 

トロメアの館に戻ると、「少々調べたいことがある」とだけ言い残して、男は資料室にこもった。

 

「マルキーノス、わざわざコキュートスまで赴いて、あの男はアイアコスに何をしていたのですか?」

「はぁ、アイアコスさまを足蹴にしたり、さんざん罵声を浴びせていましたが、他には特になにも…」

「そうですか… この機会に何か仕掛けてくるかと思いましたが、単に底意地が悪いだけでしたか。どうやら私の買い被りだったようですね」

 

ため息をつきながらあきれ返っている、ミーノス。

 

「まぁよいです。その頭脳とやら、せいぜい聖戦が終わるまで冥界のために利用させていただきましょう。デルタ星メグレスのアルベリッヒ」

 

 

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「ねぇ、さやかちゃん。マミさん、話ってなんだろう?」

 

学校の門で話しているのは、まどかとさやか。

なんでも、マミから急な呼び出しがあったらしい。

 

「わからないけど、とにかく行ってみなきゃ。ここんとこバタバタしててマミさんともあまり会えてなかったし」

「そうだよね。お店の手伝いまでちょっと時間あるから寄ってみよう」

 

まどかはそういうといきなり走り出す。慌てて追いかけるさやか。

 

「………」

「え? 誰?」

 

何かの気配に気が付いたのか、いきなり立ち止まるまどか。

避けきれずにぶつかってきたさやかと二人、思いっきり転倒する。

 

「痛ぁっ、いきなりどうしたのさ、まどか」

「えーと、どこかから誰かに見られてる気がして…」

「うーん、とりあえず誰もいなさそうだけど。気のせいじゃないの? まどか」

「そっかぁ。たぶんわたしの勘違いかも… あ、急がなきゃ」

 

立ち上がると二人はそのまま駆け出して行った。

 

 

 

「ということで、この娘の世話を頼みたいのだ」

 

見滝原のマミの家。年頃の少女らしい、いや、すこし背伸び気味かもしれない、センスのよい家具がそこここに配置されている。

あからさまにその場に似つかわしくない厳つい男、辰巳の言葉をマミは戸惑いながら聞いている。

辰巳の横には、清楚で可憐な少女が一人。

二人を黙って見つめている、まどか、さやか、杏子。

 

「服や身の回りのものも見繕ってやってくれ。金はいくらかかっても構わん」

 

初めて見る高級感溢れるクレジットカードを怯えながら両手で受け取ると、マミは問い返す。

 

「それで…どのくらいの間、でしょうか?」

「そうだな、ざっと一週間、というところか。お前なら安心して任せられる、という沙織お嬢様の見立てだ。よろしく頼む」

「そこまで言われては、断れませんよね… ただ心配なのは、もし怪我でもさせてしまったら…」

 

頼られた嬉しさ、魔女や冥王軍との戦いでもし何かあったらという不安。

マミはなおも渋っていたが…

 

「それならば心配ない」

 

辰巳の後ろにいつの間にか現れた、一人の男が冷静に返す。

 

「あなたは…?」

「蠍座の黄金聖闘士、スコーピオンのミロ。彼女が元の時代に戻るまで、この私が命に代えても彼女を守り通すことを約束しよう」

 

 

「というわけだ。あとはよろしく頼む」

 

そう言い残すと、辰巳は慌ただしく去っていった。

 

「巴、マミさん。いきなり押しかけてしまってすごく申し訳ないのですが、これ以上ご迷惑おかけしないよう気を付けますので、しばらくの間、よろしくお願いします…」

少女は背筋をのばし姿勢を整えると、深々とお辞儀する。

年齢はマミたちと同じくらい。

纏っている服は200年以上も前の普段着らしく質素。

一方で、凛とした表情、澄んだ瞳、ほのかに紅潮した頬。

ざっくりと切りそろえられているが、流れるように美しい髪。

 

少女を見つめていたマミの目が、らんらんと輝きはじめる。

 

「アガシャさん、大丈夫、私に任せて! 磨かなくてもこんなに輝いている原石、私がもっと輝かせてあげるわ!」

 

このお姉さん、ほんとうに大丈夫なのだろうか?なにか勘違いしているのでは?と怯えつつも、アガシャと呼ばれた少女は頷いた。

 

 

 

「というわけで、アガシャさんのこと、みんな、よろしくね」

「ギリシャのロドリオ村から来た、アガシャです。こちらのことはまだよく知らないのですが、なるべくご迷惑おかけしないように頑張りますので、よろしくおねがいします!」

 

前聖戦のロドリオ村からやってきたこと。前教皇セージの計らいでこちらに来たものの、ちょっとした伝言以外には何か使命を帯びているわけではないことなどを、巴マミが手短に説明する。、

少女を紹介された佐倉杏子、美樹さやか、鹿目まどか。

この事態、特に聖域の意図が皆目わからず戸惑っていた彼女たちだったが、誠実で礼儀正しく、なにより可愛らしいアガシャの雰囲気は、彼女たちの警戒感を瞬く間に解いていった。

 

 

 

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その日の夕方、ミーメはアンドロメダ瞬とともに、鹿目まどかの護衛についていた。

体験学習で訪れていたブティックから頼まれ、彼女は美樹さやかと店を手伝っている。

一見すると何事も無いようだが

 

「アンドロメダ、気づいているか?」

「ミーメ、うん。間違いない。近くに誰かが居る」

 

巧妙に小宇宙を抑えてこそいるものの、聖闘士とも冥闘士とも違う、異様な小宇宙。

ただ、必ずしも攻撃的な意図は感じ取れない。

二人は緊張感を高めつつも、慎重に様子を伺うことにした。

 

やがて、店の扉が静かに開き、誰かが店の中へと足を進めてきた。

漆黒のローブを纏った男。美しい金髪に、金色の瞳。

ミーメがかつて出会った男。忘れるはず、忘れられるはずもない。

 

「ミーメ、あの人に見覚えがあるの? って、さっきから感じてる小宇宙、もしかして」

「アンドロメダ、そうだ、間違いない。あの男は、冥界の双子神が一柱、眠りの神ヒュプノスだ」

 

慌てて飛び出そうとする瞬をミーメは押しとどめる。

 

「こんなところで戦いを始めるわけにはいかない。意図はわからぬが、ヒュプノスは鹿目まどかに危害を加えるつもりはなさそうに見えるし、とりあえず様子を見よう」

 

確かに、ヒュプノスは店を見回すと、品のよい帽子をいくつか手に取っている。

まどかの頭上で舞っている冥界の蝶、フェアリーを一瞥したものの、まどかの意見も聴きつつ普通に品定めをしているようだ。

この間のパンドラ以上に場違いな客に戸惑ったのか、まどかが釣銭の金額を間違えかけたりはしたものの、何事もなくヒュプノスは店を去っていった。

 

「ヒュプノス、いったい何しに来たんだろう?」

「私にもさっぱりわからない。ただ、冥王軍が鹿目まどかになんらかの関心を持っているのは間違いない。引き続き護衛を続けるべきだろう」

 

 

 

森の奥の洋館。

 

「ヒュプノスさま、なにゆえに見滝原なぞへ?」

「パンドラよ、そなたが気にかけているあの少女、鹿目まどかといったか。インキュベーターが執拗に狙うからには、必ずなにか理由があるはずだが、ごくありきたりの人間であった。ただ…」

「何か…」

「理由こそわからぬが、あの少女、魂もその器たる肉体も一人のはずなのに、幾人もの生が織り込まれているように見えるのだ。さらに…」

「?」

「今はまだ力も自信も持たぬ不完全なありきたりの人間だが、神であるこの私にも掴めぬ何かが、あの少女には秘められている」

「では、今後いかがいたしましょう?」

「これまでと同じでよい。引き続き監視は必要だが、ただあのあからさまなフェアリーは引き上げることだな」

 

パンドラの表情が、困惑でほんの一瞬曇る。

フェアリーをまどかに張り付けたのは、ヒュプノスではないというのか。

 

「恐れながら、あれは私どもの送ったものではありませぬ」

 

ヒュプノスの表情を伺いながら、パンドラが返す。

 

「そうか。ミーノスも関係を否定していた。タナトスがあのような小細工を弄することもあるまい。それならば、あれはいったい… まぁよい。不問としよう」

 

ヒュプノスはなおも言葉を続ける。

 

「パンドラ、そなたはこれまでと変わらぬよう、鹿目まどかと接するがよい。インキュベーターへの牽制ともなろう」

「仰せのままに…」

 

これでその目立つ眉を隠すがいいとばかりに、購入した帽子をラダマンティスの頭へ放ってかぶせると、ヒュプノスは去っていった。

 

 

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一方、243年前の聖域。教皇の間。

 

「以前ならば、このような情報、何の価値もないものか、罠と見做して放っておいたであろうな」

 

教皇セージは、その日の朝、聖域の麓で捕らえられた冥王軍の雑兵が手にしていたという文書に目を通している。

地上に配された冥王軍へ送られた情報の体をとってはいる。

ただ、あまりにもあっさり聖域の手に渡ったたことも踏まえると、敢えてそう仕組まれた可能性も否定できない。

そして何よりも、そのあまりに信じがたい内容。

もし仮に本当ならば、それは今回の聖戦だけでなく、今後の聖域と冥界の在りようすら左右しかねない

それに賭ける価値はあるが、せめて何か信じるに足る傍証があれば。

 

そこに響く、雄々しくも穏やかな声。

 

「教皇、シジフォス、エルシド、ただいま任務より戻りましてございます」

「ご苦労であった。首尾はいかがであったかな?」

 

射手座の黄金聖闘士、シジフォスが答える。

 

「イタリア、イギリス、エジプト、さらに極東の島国まで回りましたが、ほとんどの地では、何も変化ないようでした。ただ…」

「ただ?」

「教皇の示した"かの地"にて、これまでに感じられたことのない小宇宙が現れておりました」

「ほう。たまには勘に頼ってみるのもよいものだ。して、小宇宙は何処から?」

「壁の奥に隠されたとある墓所から溢れているようでしたが、なんらかの結界が張られており、私たちでも近づくのだけで精一杯でした。これまで存在に気づけなかったのは、そのためかと。正体を確かめることができず、申し訳ありませぬ」

「気に病むことはない。そなたたちだからこその成果である。任務は大成功と言ってよいだろう。まずは体を休めるがよい」

 

答えに満足げなセージ。報告を終えるとシジフォス達は去っていった。

 

「(これは… あの情報、信じてみるのもよいかも知れぬ)」

 

セージは、窓から東の空へと視線を移す

 

「アヴニールよ。そなたならばいかがするであろうか…」

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