神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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戦士たちの休息

戦士たちの休息

 

 

 

日本の城戸沙織邸。

 

ギリシャから一時帰国した沙織が報告を聞いている。

黄金聖闘士 蠍座のミロによれば、他の聖闘士や神闘士とくらべ、アルバフィカと魔法少女たちの関係は良好とはいえない。

特に、ただでさえ聖闘士や神闘士に対して微妙な感情を抱いている美樹さやか。

魔法少女たちに害が及ばぬようアルバフィカが彼女たちを遠ざけていることが原因だが、この状態が続けば、聖域と魔法少女の関係に思わぬ不安要素が生まれかねないだろう。

 

「アルバフィカは、自らの血により人々を傷つけるかもしれない、と恐れすぎています」

 

沙織は窓の外を見つめ、つぶやく。

彼が人を避ける理由。ただ、それは…

 

「彼の血は、彼の誇りでもあります。たとえアテナからの命であろうと、アルバフィカは聞き入れないでしょう」

 

ミロには、彼の気持ちが痛いほどよくわかる。

たとえそれで孤独のうちに生き、孤独に死すことになろうと、それで構わない。

アルバフィカなら躊躇なくそう言い切るであろう。

 

「実は、サーシャさんと申し合わせ、すでに手は打ってあるのです」

 

怪訝そうなミロに対し、沙織は微かな笑みを浮かべている。

なにかとんでもないことを思いついた時の顔だ。

 

「辰巳、辰巳は居ますか?」

「はい、沙織お嬢様」

 

何が起きているのかも知らず、部屋に入ってきた辰巳は沙織の前に足を進める。

 

「耳を貸しなさい」

 

小声で辰巳に何かを伝える沙織。

 

「例の件、実行に移しなさい。わかりましたね?」

 

辰巳の表情にあからさまな困惑が浮かんでいる。

 

「わかりましたね?」

 

沙織の圧に対し、何か言いたげだが言い返せない辰巳の足取りは重い。

引きずるように重い足取りで、辰巳は部屋を後にした。

 

 

その日の午後、見滝原のホテルの一室に魔法少女と神闘士たち、前聖戦組が集められた。

 

「魔女との戦い。休む間もなくみなさんに負担をかけていること、申し訳なく思っています」

 

アテナが厳かに話し始める。

 

「みなさんには息抜きが必要、そう考えています。そして…」

 

アテナから次々に厳しい任務や要求を押し付けられているわけでもないのにどうして?

集められた者たちは皆、怪訝そうな表情をしている。

マミはジークフリートとなにやらひそひそで話している。

 

「よくわからないんですけど、何か嫌な予感、しません?」

「…そうか? ただ、言われてみればなぜ唐突にこのようなことを…」

 

マミとジークフリートの胸中に漂う朧気な危機感。

 

「えーと、アテナさま。すみません、エイミー、のお友達の親戚の知り合いっぽい猫ちゃんにおやつあげてくるの忘れたのでちょっと見滝原に帰っても…」

 

さりげなく?逃げにかかるマミだったが…

 

「大丈夫ですよ。グラード財団見滝原支部で万全のケアをしておきますので、ご心配しないでくださいね…うふふっ」

 

にっこり笑う沙織。

マミたちの顔に冷や汗が浮かぶ。

どうするか? 助けを求めようとあたりを見回すジークフリートだったが…

 

「ミーメめ、逃げたな…」

 

城戸邸まで一緒に来たはずのミーメの姿は、忽然と消えていた。

 

 

 

「みなさんには思う存分休息をとってもらいつつ、親交を深めていただいのです。そのため、グラード財団の総力をあげて、ある企画を準備させていただきました」

 

ざわざわ… いったい何が始まるというのか。

 

「みなさんには… 今日これから、遊園地で思う存分遊んでもらいます! それではムゥ、よろしく」

 

 

 

次の瞬間、彼らは広大な園地の中に立ち尽くしていた。

見回すとそこには、アテナ神殿を思わせるギリシャ風の建物、巨大な観覧車、ジェットコースターやメリーゴーランドなどのアトラクション群。

 

「アテナ、いかに貴方の命令とはいえ、あれだけの人数を一度でテレポートさせるなど…」

「ムゥ、貴方には苦労をかけますね… でも、皆にしっかり休養をとってもらうためにはこうするしかなかったのです」

「あの、私の休養は… いえ、なんでもありません」

 

微妙に不服そうなムゥを横目に、沙織は高らかに宣言する。

 

「さぁみなさん、ここはグラード財団がその科学力と資金を存分につぎ込んだ遊園地。こころゆくまで楽しんでくださいね… あ、一つお伝えしておくことを忘れていました」

「ここでは男女ペアかグループで楽しむことになっています…。ということで、組み合わせは公平にくじで決めます。紫龍、例のものを」

 

呼ばれて現れた紫龍… 心なしか疲れて見えるのは気のせいか。

彼の手には人数分のくじが握られている

事ここに及んでは仕方ないか、とまず杏子が歩み出る。

 

組み合わせが決まった。

 

巴マミ と ジークフリート

佐倉杏子 と レグルス

暁美ほむら と 鹿目まどか

美樹さやか と ミロ

アルバフィカ と アガシャ

 

 

「…これ、どうなっているのでしょう?」

 

思わずマミがつぶやく。

あまりにあからさまな組み合わせもあれば、よくわからない組み合わせもある。

しかもこの場に居ない鹿目まどかと暁美ほむらの名前まで、いつのまにか混ざっている。

 

「神の見えざる手、って言うんだっけ… って、そういえばあんた、神様だったよな」

 

呆れ顔の杏子が言い放つも、城戸沙織は無言で微笑んでいる。

 

「それではムゥ、またよろしくお願いしますね」

 

すっかり無茶ぶりが板についた城戸沙織の声に答えて、はいはい、とムゥが動く。

空間に裂け目が生まれ、そこから鶏の卵のようにポロっとこぼれてきた、まどかとほむら。

さっきまで見滝原の街に居たはずなのに。

何が起きたのか理解できず、二人は辺りを見回している。

 

「えーとさ、とりあえず諦めとけってな」

 

かくかくしかじか。

佐倉杏子が事の次第を説明する。

まどかはまだ事態が呑み込めていないようだったが、ほむらは結果よければよしと開き直っているようだ。

地面にへたりこんでいるまどかの手を取ると、神闘士たちの横にすっと並ぶ。

 

「今日はこの他にも一般のモニター客も少し入りますけど、気になさらないでくださいね。ちょっと想定外もあったけれどそれは追々なんとかしますので、まずはこの組でみなさん楽しんでください。それでは、タツミーランド、開園です!」

 

城戸沙織にそう言われては、どうこうするわけにもいかない。

各組は、とりあえず遊園地のあちこちへと散っていった。

 

 

・ジークフリート・マミ組。

 

お互い変に意識する事情もない。師と弟子というわけでもなく、どちらかといえば少し年の差のある戦友といった二人。

二人ともあっさり開き直り、ジークフリートは、行先の主導権をうまくマミに握らせて園を回っている。

魔法少女組の中では年上とはいえ、マミもまだまだ子供、普通の女子中学生。。

普段はあまり見せないハイテンションで駆け回る姿を、ジークフリートは少し微笑ましそうに眺めている。

 

「やっぱりここは外せないですよね!」

 

マミがジークフリートを引っ張っていった先はゲームコーナーの片隅にある射的場。

棚には、流行りのキャラクターだけでなく、マミや杏子、神闘士や聖闘士たちなどを模したぬいぐるみがならんでいる。

まるで首都圏の巨大遊園地を思わせる施設に、夏祭りのような射的がなぜ? と思ってはいけない。

 

「さて、どれを狙おうかしら… それじゃぁ…」

 

マミはとりあえず杏子のぬいぐるみに狙いを定め、じっくりと狙う。

マミの腕なら難なく射止めるだろう、そのはずだったが。

杏子ぬいは、まるで意思があるかのように飛び跳ね、弾を難なくかわす。

 

「お前たちを相手に普通の射的をしても意味がないだろう?」

 

城戸家の執事、辰巳徳丸を思わせるスキンヘッドの着ぐるみが高笑いしながら言う。

タツミーランド… まさか…

 

あたりを見回すと、はつかねずみのような辰巳、マガモ風の辰巳、ハムスター風の辰巳から、かぐや姫風の辰巳。

あたりは様々なキャラを模した辰巳の着ぐるみで満ち満ちている。

 

辰巳着ぐるみA(辰巳)「そいつには、グラード財団が鋼鉄聖闘士を開発したときの技術をさらに改良して実装してある。一時的だが白銀聖闘士並みの機動能力があるから、容易には当てられないぞ」

「それを聞いてますます燃えてきました。これは私のプライドを賭けて、何が何でも当てないといけませんね」

 

いつの間にか魔法少女に変身しているマミ。

 

「トールさん、ちょっとお願い」

「…マミの頼みなら構わないが、それでいいのか…」

 

内に潜む神闘士トールの力も借りての、あたりを埋め尽くすほどのマスケット銃による一斉射撃から、杏子ぬいが逃げられるはずもない。

ほどなくして杏子ぬいはマミの手に落ちた。

 

「どう? ジークフリートさんもやってみる?」

「そうだな、さっきのを見て興味が沸いてきた… 銃の扱い方を覚えるうえでも経験してお… ぜひやらせてくれ。マミや辰巳がいかに立ちはだかろうともやり遂げて見せる!」

「え?どうしたのジークフリートさん?」

 

彼の豹変ぶりに驚いたマミが彼の視線をたどると、その先には見慣れない人物のぬいぐるみが置かれている。透き通るような空色がかった長い銀髪、気品のある微笑み。

 

「ここで出会ったのもきっと運命に違いない。必ずや手に入れて見せる! ヒルダさま(ニーベルンゲン・リング無しバージョン)のぬいを!」

 

彼は銃を手に、ヒルダぬいとの戦いを始めた。

さすが北欧最強の戦士。銃の扱いにもほどなく慣れ使いこなしているが、ヒルダぬいもそんな彼の弾を巧みに避け続けている。

そんな彼を見て、思わず手を貸そうとするマミだったが。

辰巳着ぐるみAは、首を振りながらマミの肩に手を置く。

 

「いや、これはアイツの戦いだ。他の者が手を出すべきではないだろう」

 

それならば。

 

「ジークフリートさん、その子の動きには確かに隙がないけれど、空中で方向を変える時、1000分の1秒だけ動きが止まって無防備になってるみたい。そこを狙えば当てられる!」

 

マミの助言にジークフリートは我に返る。

ヒルダぬいの動きを冷静に見抜き、弾の速度も頭に入れ、ジークフリートは弾を放つ。

 

ぬいはたまに黒くなり、いつの間にか装備した指輪から光線を放って反撃してくることもあったが、やがてひらひらと彼の手に舞い落ちた。

珍しく少し気の抜けた笑みを浮かべるジークフリートの姿に、マミもうれしそうだ。

 

それで満足したかと思えば、ジークフリートは再び銃をとる。

 

「すまない。もう一つ、欲しいぬいがあるのだ」

 

視線の先には、ふんわりとカールがかかった金髪が美しい、一つのぬいが居る。

手慣れた風で再び挑みはじめたジークフリート。

こちらはやけにトリッキーな動きをしていたが、それでも今度は瞬く間にぬいを手に入れた。

 

「いずれハーゲンも来るかもしれない。その時は、このフレアさまぬいを贈ってやろうと思ってな」

 

辰巳柄の包装紙と袋に二つのぬいを詰めてもらったジークフリートの表情は、それまでマミが見たこともない満足げなものだった。

いつかアスガルドに帰り本物のヒルダに再会できますように。

マミは心の中でそっと祈るのだった。

 

 

・佐倉杏子 と レグルス組。

 

 この二人もまた、特に何も意識することなく、真っ先に遊園地へ駆け出して行った。

遊んでもタダ、食べてもタダ、なら好きなだけ楽しむしかねーじゃねぇか! 

そんな勢いであちこち駆けずりまわっている。

 

ジェットコースター。

二人「うぉぉぉぉっ! 」

「キョーコ!、これすっごく楽しい、もう一回乗ろうよ」

「えー、レグルス、あたし次はフリーフォール行きたいんだけど」

「そんなこと言って、キョーコほんとは怖いんじゃない?」

「ち、ちげーよ… よし、辰巳さんよ、コースターのスピード2倍に頼むわっ」

「お前らなぁ…」

 

コーヒーカップ

「ギュンギュン回すよ、キョーコ!」

「おぅっ! あたしも負けねぇよ! うりゃぁっ回すぞーっ」

 

凄まじいい勢いでカップは回っている。

やがて…

 

「見ろ、あれはっ!」

 

穴だらけになったゲームセンターの屋根を直していた辰巳着ぐるみAが、空高く昇っていく流星を見やって叫ぶ。

 

チュロスとボルシチを売っていた辰巳着ぐるみ二人も、それに気づいて空を見上げる。

 

辰巳着ぐるみB(瞬)「空高く昇っていくあのコーヒーカップは、まさか」

辰巳着ぐるみC(氷河)「亢龍覇を使ったか…悲しいな」

辰巳着ぐるみB「ボケてる余裕あったら着地キャッチ手伝って!」

 

黄金と紅色の混じった流星は、ますます速度をあげて上昇し、やがて大気圏外に達する。

 

「なんだ、地球から上がってくるあれは… まさか紫龍がまた…」

 

宇宙を漂っていた、とある黄金聖闘士の残留思念は、猛烈な速度で近づいてくるただならぬ気配に気づく。

 

「レグルス、なんで宇宙空間に黄金聖闘士が居るんだ?

「あれは、星屑になってもアテナを護ろうとしたという黄金聖闘士カプリコーンのシュラ…キョーコ、どうしよう? 俺たちもせめて星となってアテナを護る?」

「俺をわけのわからんネタに巻き込むな! ここに来ていいのは紫龍だけだ。お前らは地球へ戻れ! エクス… ジャンピングストーン!」

 

黄金聖闘士、山羊座のシュラの残留思念は、万感の思いをこれっぽちも込めずに全力で技を放つ。

まさに第三宇宙速度に達しようとしていたコーヒーカップは、中の二人ごと地球へ打ち返された。

数分後、マミのリボンと瞬のネビュラチェーンに絡めとられ、無事に地上に戻ったレグルスと杏子の姿があった。

 

「まったく! 黄金聖衣と同じ素材で作られたコーヒーカップでなかったら、君たち宇宙の塵になってたんだよ!」

 

マミと珍しく怒り心頭の瞬を前に、レグルスも杏子も正座して大人しく説教を聞いている。

 

「(すごく貴重なオリハルコン、スターダストサンド、ガマニオン。そんなんでコーヒーカップなんて作っていいのかしら)」

 

心に浮かんだ疑問はさておき、さすがに二人も反省しているみたいだから、とマミが仲裁に入った瞬間。

 

「ごめんなさーい!反省してるからまた遊びに行くね!」

 

一瞬のスキをついて、二人はまた遊園地へと駆け出して行った。

 

 

 

その後も

 

フードコート

「すっげー! 1…10…100… とにかくいっぱい店があるよ。キョーコ、全部食えるかなぁ」

「レグルス、全品喰う気かよ… じゃぁさ、一品ずつ頼んで、二人で半分こすればいいんじゃね?」

「キョーコ、あったまいい! よし、全部食べるぞー!」

 

 

スプラッター・ヒル

「アスミタの出してくる曼荼羅みたいなところ抜けたら、今度はバンシーみたいな妖精がいっぱいだー」

 

レールの上をゴトゴトと動くカートに乗り、相変らず大騒ぎしている二人。

どうせこのカートもオリハルコン製だろう。

空を飛び回る得体のしれないクリーチャーに、杏子の表情は微妙に青ざめている。

 

「バ、バカ、こ、こんな子供だまし、怖いわけねーじゃん」

 

レグルス相手に強がっている杏子。

館の主(やたらと偉そうな辰巳着ぐるみD)は、そんな彼らが気に障ったようだ。

 

「そうか… このシャカの天空覇邪魑魅魍魎、君たちは子供だましと言うのかね。ならばこれ以上の慈悲は不要。六道輪廻…!」

「うわぁぁぁ!」

「餓鬼界、地獄界、畜生界、修羅界、人界、天界… そこの小娘は餓鬼界がお似合いだろう? 若獅子は、お前も餓鬼界かね?」

 

六道輪廻の目くるめく世界に面食らっていた二人だったが…

 

「そりゃレグルスは餓鬼界だろうけどさ、あたしは人界でしょ?」

「キョーコこそ餓鬼界かもしんないし」

 

六道輪廻そっちのけで小競り合いを始めた二人。

荘厳な仏教世界を背景に続く、なんとも子供っぽい兄弟喧嘩に、さしものシャカも集中力が切れたのか…

 

「どの世界も、君たちを迎え入れたくはないようだ… 早々に立ち去るがよい」

 

シャカの手により六道輪廻から叩きだされた二人、その先には。

 

「ヒャッハー! すっげー気持ちいい!」

 

華厳の滝を思わせる巨大な滝を、ス〇ラッシュマウン〇ンよろしくカートが滑り降りる。

思いがけず、当代最強の聖闘士の技を二つも満喫した二人だった。

 

 

 

ひとしきり各アトラクションで大騒ぎしまくり、いいだけ食べまくった二人。

さすがに疲れたのか、巨大な三叉の鉾のオブジェがそびえたつ、大きな池のそばでベンチに座り、休んでいる。

 

「今日は楽しかったねー、キョーコ」

「だな。最初はどーなるかと思ったけど、お前のところの神様もやるじゃねーか」

 

そよ風にのってかすかに聞こえてくるフルートの音色が心地よい。

 

「俺さ、小さい頃に一人きりになっちゃって、大きくなってからも聖闘士の修行ばかりでさ、こんなに楽しんだの、初めてなんだ」

「あたしも、こんなに楽しんだのはほんとうに久しぶり、なんだよね」

 

思いがけず巻き込まれた大騒動。

まるで本当の兄妹のようにふざけあい遊びあい楽しんだ一日を、二人はのんびりと振り返っている。

ほっと一息ついたせいなのか。

レグルスはやがて、杏子の肩に寄りかかって、くぅくぅ寝息を立て始めた。

 

「(あたし、わかってる。あんたさ、もうすぐ過去に帰るんだろ? あたしとあんたはそれっきり。もう二度と会うことはない)」

「(あのラダマンティス達や、神とだって戦うんだろ? あんたがどうなるのか、わかってる。おかげであたしが今こうしていられるんだしさ)」

「(魔法少女になる前みたいに家族と過ごした楽しい日々、もう二度と来ないと思ってた。でも、あんたのおかげで、こうしてもう一度だけ、いい夢見れたんだよね)」

「わかってる。わかってるけど、もうちょっとだけでいい、こうして一緒に居られたらな…」

 

そっとレグルスの髪を撫でながら、杏子は物思いにふけっている。

 

「むにゃむにゃ… ありがとう、キョーコ。こっちの時代に来て、よかった…」

 

夢でも見ているのか、寝ぼけているのか。レグルスがつぶやいている。

 

「…………………… こちらこそ。ありがとうな、レグルス……」

「むにゃむにゃ……もう、キョーコは甘えん坊さんだなぁ むにゃむにゃ」

「てっ、てめーレグルス!」

 

パコーーン!!

乾いたいい音が辺りに響く。

いきなり頭をはたかれて、寝ぼけ眼であたりを見回すレグルスだった

 

 

 

・暁美ほむら と 鹿目まどか組。

 

この組は、最初は遊園地プロジェクトの想定には入っていなかった。

デジェルが過去に帰って以来、単独行動をとっていることが多い、ほむら。

なにより、まどかは魔法少女ではない。

それでも。

 

「せっかくだから、呼べばいいじゃないですか」

 

アテナのこの一言で、あっさり招集が決まった。

 

「呼ぶのは、ムゥ、よろしくお願いします。一人二人増えたところであまり関係ない、ですよね?」

「お言葉を返すようですが、アテナ…」

「で・す・よ・ね…  うふふっ♪」

 

先日、聖域を勝手に抜け出して巴マミの家でケーキと紅茶を楽しんだことがアテナにバレていたので、それ以上何も言い返せないムゥだった。

 

なんだかんだいっても、まだ女子中学生な二人。

遊園地にはテンションがあがっているようだ。

 

辰巳着ぐるみB(瞬)からチュロスを買い、辰巳着ぐるみC(氷河)のボルシチを巧みに回避し、辰巳着ぐるみE(アイオリア)からはつかねずみ風の耳付き帽をお揃いでゲットすると、レグルス杏子組ほどではないにせよ、元気にあちこち回っている。

基本的にはまどかがリードしているが、まどかと二人というシチュエーションのせいなのか、珍しくほむらも微妙にハイテンションでまとかを誘っている時もあった。

満面の笑みなまどか。いつもより少しだけ表情が優しくなっているほむら。

 

各アトラクションの担当者にも、この組には「くれぐれもやりすぎないように」と指令がいきわたっているようだ。

スプラッター・ヒルの天空覇邪魑魅魍魎も、辰巳着ぐるみD(シャカ)の調整により通常よりも可愛げのあるポップなデザインで、コーヒーカップもジェットコースターもごく普通に動いている。

 

「あ、流れ星だよ! ほむらちゃん、なにかお願いしなきゃ! でも不思議だね?お昼なのに、しかも空に登っていく流れ星なんて、初めて見るかも」

「そうね… 珍しい流星ね、まどか…」

「あれ、今度は戻ってきた! もう一回お願いできるね!」

「(…杏子…)」

 

 

「ほむらちゃん、ここの射的、わたしとほむらちゃんのぬいもあるよ。あれ、欲しいなぁ」

「私にまかせて、まどか」

 

狙いを定めて弾を放ったほむらだったが、案の定、まどかぬいは巧みに動き回って狙いを外す。

 

「ほむらちゃん、こんなに動き回るぬいなんて初めてみたかも」

「そういうものなのよ。なにしろ聖域のぬいなんだから」

 

ツッコむのも面倒になっているのか適当に返してぬいを狙い撃ちし続けるほむらだったが、さすがにこれではらちが明かない。

 

カチっ!

 

「まどか、はい。手に入ってよかったわ」

 

何か言いたげな辰巳着ぐるみA(辰巳)だったが、二人を包むほんわかとした空気を察したのか、そのまま手を振って送り出していた。

 

その後も二人の間には、ゆっくりと穏やかな時間が流れていく。

(たまに遠くで轟音が響く他は)仲の良い普通の女子中学生が遊んでいるだけの、ごく普通な風景。

魔女や冥闘士に脅かされることはあったものの、幾たびも繰り返した1か月で、これほど穏やかな時が流れたことがあったであろうか?

 

もしあの時、デジェルやサーシャの提案を蹴っていたら。

 

「(今回で、必ず終わらせる。そして、まどかも自分も未来を生きる、許されるのなら、まどかと共に)」

 

「ほむらちゃん、どうしたの?」

 

珍しくぼーっとしているほむらの様子が気になったのか、まどかが声をかけてくる。

 

「ううん、ちょっと考え事をしていただけ。行きましょう、まどか」

 

二人はまた、どこかへ駆け出して行った。

 

「(デジェル、あなたは今、どうしているのかしら…)」

 

 

そんな二人を遠くから眺めている、辰巳着ぐるみ達。

 

「私たちは、地上の愛と平和を守るためにひたすら戦ってきた。そうしてきたことにもちろん後悔はない。ただ、自分たちがどんな人々を守ろうとしてきたのか、ようやく今、知ることができたのだな」

 

辰巳着ぐるみE(アイオリア)は、遠ざかる二人を感慨深げに見つめている。

 

「あなたは今更そのようなことを…。 ただ私も、これまでジャミールと聖域しか知らずに生きてきました。知っているか否かで戦いに影響が出るようなことはあってはなりませんが、今日この記憶は私たちにとっても尊いものであることには違いませんね」

 

テレポートで酷使されたぶん、着ぐるみを免除されたムゥも、穏やかな微笑みを浮かべている。

 

「ところでムゥよ。それはどうするのだ?」

 

ムゥの手に握られた、金色に輝く5つの何かを着ぐるみ越しにアイオリアは見つめている。

 

「そうですね。実のところ、私はまだ、これを彼女たちに渡すべきか、迷っているのです。いつか渡さなければいけないことは分かっています。出来ることなら渡さずに済ませたいのですが… 今日この日を知ってしまった今は、特に…」

 

穏やかだったムゥの表情がかすかに歪む。

 

「そうせずに済むよう、私たちがこれまで以上に力を尽くさねばなるまいな… ところで、ミロは上手くやっているだろうか…?」

「あなたも人の心配をするのですね。ミロなら大丈夫でしょう。私たちの誰よりも彼が適任ですし、それを意識せずに成し遂げられるのも彼だけですから…」

 

心配ない、と言いつつアイオリアをちょいちょい煽るのを忘れないムゥだった。

 

 

 

・美樹さやか と ミロ組。

 

さて、今回の「よくわからない組み合わせ」筆頭格であるこの二人。

これまで何か接点があったわけでもなく、組み合わせ抽選?が終わって一番驚いていた二人、でもある。

ただ、アテナの「見えざる手」で選ばれた以上、なにか理由があるのだろう。

まだどこか納得のいっていなそうな美樹さやかとは対照的に、蠍座の黄金聖闘士ミロは開き直ることにした。

 

「瞬、何かおすすめはあるか?」

 

ミロは、辰巳着ぐるみB(瞬)のワゴンを見つけると、さっそく声をかける。

チュロス、わたあめ、ソフトクリーム… さまざまな菓子のなかで瞬が選んだのは。

 

「ほう、これが信玄餅というものか。ふむ、初めて見るな」

 

瞬に手渡された小さな包み。

さやかは、興味深そうにそれを眺めているミロの様子を見つめている。

なぜ遊園地で信玄餅を売っているのか、考えてはいけない。

そして瞬がなぜわざわざ信玄餅を選んだのか、気にしてはいけない。

 

食べずらそう、でも黄金聖闘士なら無難にスマートに食べられるだろうから大丈夫かも。

自分もとりあえず食べようと包みを開けていたら。

 

「ゴホっ!ゴホっ!! 粉でむせた… こいつ、なかなか手ごわいな」

 

ミロはどうやら包みを開け、無警戒に食べようとして粉を吹き飛ばしたらしい。

粉だらけになっているミロの顔をとりあえずウェットティッシュで拭いてやる、さやか。

 

「えーとね、信玄餅はこうやって食べるんです」

 

餅を持ち上げると、粉と黒蜜を上手に混ぜ、それに餅を付けて一つ食べて見せる。

 

「ほう、上手いものだな」

 

ミロもさっそく手つきを真似し、今度は上手く食べることができた。

 

「さやかのおかげで信玄餅を美味しく食べることができた。感謝するぞ」

「いやー、感謝されるほどのことでもないんですけどね」

 

さやかもまんざらではなさそうだ。

 

その後も…

 

「うぉー!、速い!揺れる!落ちるー! ジェットコースターか、予測がつかない動きがこれほどスリルあるとは!」

「うむ、ここで司会の合図に合わせて応援すればよいのだな。 せーの、がんばぇー!」

「うゎ、ミロの声でっか! がんばぇー!」

「そうか、さやかもナポリタンが好きなのか。旨いものは人の心を幸せにする。二人で食べればなおのこと、だな」

「ミロも気に入ったんだね。見滝原にパスタの美味しいお店あるから、今度食べにおいでよ。ペペロンチーノってのがおすすめでさ…って、服にソース付いてる!」

「父親がはぐれてしまった、と。まかせておけ、すぐに見つけてやろう… (光速で確保) 見つかったぞ!」

「合流できてよかったね。このあともいっぱい楽しむんだよ~!」

 

テンション高めのミロに振り回されっぱなしかと思えば、さやかもなんだかんだで楽しんでいるようだ。

 

思い切り遊び倒し、二人は巨大な三叉の鉾のオブジェがそびえたつ、大きな池のそばでベンチに座り、休んでいる。

 

「どうなるかと思ったが、今日は思う存分楽しめた。これもさやかのおかげだな」

「あたしもさ、初めて会う黄金聖闘士と一緒にって聞いて正直困ってたけど、あんたとでよかったと思ってるんだ…」

 

妙に気を使いあうこともなく楽しみあえたことが、二人とも何より嬉しかったようだ。

 

「ミロ、ところでさ…」

 

ずっと気になっていたことを、さやかが切り出す。

 

「胸につけてるそのペンダント、それに付いてるのって、氷?」

「あぁ、これか。わが友、水瓶座アクエリアスの黄金聖闘士カミュが弟子である氷河を戦いから引き離すために作り出した氷の棺桶、フリージングコフィン。その欠片でな。カミュはもうこの世には居ないが、せめて今日この日を共に楽しめれば、そう思って連れてきたのだ… 湿っぽい話になって、すまぬな」

 

氷塊を陽にかざしつつ、感慨深げなミロ。

さやかは彼を静かに見つめている。

 

「あたし、正義の味方ってどんな時も正しくなくちゃいけない優しくなきゃいけない、迷ったり悩んだりふざけすぎたり、ましてや悪いことなんて絶対やっちゃいけない。そう思っててさ。だから、神闘士の二人が熱くなりすぎたり、昔のこととはいっても自分の父親を殺しちゃったのを、どうなってるのこれって思ったり、せっかく仲良くなろうとしてるのに近づけてさえくれないアルバフィカを、なんだこいつって頭にきたりしてたんだ。聖闘士や神闘士って全然正義の味方っぽくないじゃんって」

 

ミロもまた、さやかを穏やかに見つめている。

 

「でもさ、今日一日あんたと居て思ったんだ。正義の味方だって、同じ人間なんだって。怒ったりポカしたり取り返しのつかない失敗したり、暴走したり、子供みたいに遊んだり食べ物美味しいって思ったり笑いあったり、誰かの心配したり世話やいたり… 友達とか恋人みたいに特別に大切な人も居てさ… あたしたちとなんも違わないじゃんって。。 あたし、なに勝手に一人で、正義の味方ってこうじゃないといけない、なんて思いこんで怒ってたのかなって…」

 

「人は神ではないし、機械でもない。判断を誤ることもあれば、感情に走って過ちを犯すこともある。神でさえ完璧ではないのに、人が完璧たりえるわけはないのだ」

「えーとそれって、城戸沙織さんのこと言ってる?」

「い、いやそういうわけ…でもちょっと、いや、そんなことは断じてない… コホン、 私は地上の愛と正義のため、アテナを奉じて地上を護るため戦う聖闘士だ。守る人々の中には善人も居れば悪人も居る。だが、命が絶たれてしまえば、地上が滅んでしまえば、過ちを悔い改め、未来へ繋ぐこともできなくなるだろう。だから私はすべての人のために戦うのだ。それは神闘士たちも同じこと。彼らも決して消すことのできない悔恨を抱え、それでも人々の未来のために戦っているのだ」

「わかってくれと言うつもりはない。ただ、私がこう言っていた、そのことは心のどこかに留めて、さやかは今を、自分の未来を生きて欲しいのだ。どんなに過ちを繰り返えそうが、想いある限り、魂ある限り、人は悔い改め、再び前を向けるのだから」

 

「うん、そうだよね… 人間、どうやったって間違うことはあるけれど、やり直すことだってきっとできるもんね。…って、あたしそんなに過ち犯しまくりそうに見えるかなぁ、ちょっとショック」

「人並みには過つだろうな… 私も、さやかも。。 ん、ムゥか、どうした?」

 

ムゥからテレパシーでも送られてきたのか。

しばし目を閉じていたミロだったが、おもむろに立ち上がる。

 

「さやか、喜ぶのだな。やっと見つかったそうだ」

「え、なに? いきなりどうしたってのさ」

 

見滝原のほうから、こちらに向かって一直線に向かってくるヘリコプターが一機。

瞬く間にさやかたちの頭上にたどり着くと、そのままそこへ着陸した。

扉が開き、そこから誰かが現れる。

さやかがよく知っている、誰か。

 

「家に帰る途中でいきなり呼び止められて… え、さやか、なんでここに居るの?」

「そうか、あんたのこと探してくれてたんだね… よし、恭介、ちょっと遅くなったけど、これから思いっきり遊ぶぞー!」

「え、なにこれさやかいったい何がどうなって… ま、いいか、行こう!さやか」

 

瞬く間に小さくなっていく二人の姿。

ミロはその背中を、氷のペンダントを握りしめて見つめていた。

 

 

 

 

・アルバフィカ と アガシャ組。

 

 この組が間違いなく本命。

タツミーランドはこの組のために築き上げられたと言っても過言ではあるまい。

 

「アテナ、お心遣いには感謝申し上げますが、私には使命が…」

「それでしたら、いつもあなたに頼っている分、今日は他の聖闘士たちが担っております。警備も万全ですから、安心してくださいね」

 

「もし万が一、私の血がアガシャに害をなすことがあったら…」

「あなたも黄金聖闘士の一人。このようなところで怪我することなど有り得ないでしょう。グラード財団がその科学力と財をつぎ込んで。安全と安心を第一に築き上げたこのタツミーランド、万に一つもあなたの血を流させることなど無いと自信を持って勧められると考えていたのですが、そうですが、やはり心配なのですね…(グスン)」

「!! いいえ、アテナ、決して私そのようなことは心配なぞ…」

 

うつむいて涙ぐむアテナの姿に慌てて、全力で否定するアルバフィカ。

このあたり、一癖も二癖もある当代の聖域で揉まれたせいか、どこまでも清らかなサーシャよりも芸達者である。

 

「わかりました。アテナの御心にお答えするため、このアルバフィカ全力で…」

「遊んでくださいね」

 

さきほどの涙なぞどこへ行ったのか、にっこりとほほ笑む城戸沙織だった。

 

 

「アルバフィカさま、さっそくですけど、どこか行かれたいところございますか?」

 

アガシャに問われて、はたと立ち止まるアルバフィカ。

現代でもひたすら任務に徹していた彼ゆえ、遊ぶことなど思いもつかない。

 

「それでしたら、今日はわたしにお任せください。先ほどアテナさまからここのパンフレット頂いて、何がどこにあるか一通り把握してありますので」

「そ、そうか。それでは任せたほうがよさそうだな」

 

ロドリオ村に居る時は、距離を詰めてくるところはあってもどこか遠慮がちだったはずなのに、これはどうしたことだろう。

ふと疑問に思ったアルバフィカは、ようやく彼女のいでたちに気が付く。

 

薔薇の花を思わせるような鮮やかな深紅のブラウスに、動きやすいスラっとした純白のパンツ。いつもはざっくりと後ろで束ねてある髪は頭の両脇でツインテールにまとめられ、くるくると縦ロールにセットされている。胸には一輪の薔薇の花。

 

「ようやく気付かれたんですか、アルバフィカさま。実は、巴マミさんのご厚意でお洋服や髪型を整えて、こちらの時代でおしゃれを教えていただいたんです。くるくるドリルツインテ、似合ってますか?」

「……」

「似合ってますか?(笑顔)」

「…あぁ、いつものもよいが、こちらの時代の装いもとても似合っている」

 

ぐいぐい来るアガシャに押されてペースを崩されたのか、ついつい言わなくてもいいことまで言ってしまうアルバフィカだった。

 

 

「(よかった… マミさんにいつもよりちょっと積極的になったほうがいいとアドバイスされて頑張ってみたけど、いい感じにできてるみたい)」

 

攻めていくことでアルバフィカを怒らせてしまうのでは、と心配していたのだアガシャ。

しかし、体は触れたりはせずに、気持ちはちょっとだけ距離を詰めてみよう、というマミのアドバイスを聞いて、いつもより少しだけ頑張ってみたのがよかったのか。

彼が気を使ってくれていることもあるのだろうが、多少のぎこちなさはあるものの、普段よりコミュニケーションは取れているようだ。

 

「これ、チュロスっていうんですよ。イチゴ味とレモン味なんてあるんですね。せっかくだから両方買って半分こしませんか?」

「ほう、パンのようなものかと思ったのだが、存外甘いのだな。では私はこちらのワッフルとやらを試してみよう。これも半分にしてもらえるか、アガシャ」

 

いつものアルバフィカを知るアガシャが相手だからか、程よい間合いがつかめてきたせいか、アルバフィカも少しだけ積極的になっている。

 

「アルバフィカさま!あちらを見てください!流れ星です。願いを3回唱えると、願いが叶うっていうんですよ。空に昇っていくなんて珍しいですよね、「ムニャムニャ…」ほら、アルバフィカさまも早く早く…  あれ、流れ星戻ってきました…ま、いいか~ 「むにゃむにゃ」」

 

さっきまでのはしゃぎっぷりとは別人のように、神妙な顔で何かを願っている彼女。

その様子を見て、アルバフィカが口を開く。

 

「アガシャ、ずいぶん真剣に願っていたようだが、何を願っていたのだ?」

 

言って自分でも驚く。

自らの血ゆえに人と常に距離を置き孤独に過ごしてきて、それをよしとしていた自分。

まさか他人の願いに興味がわいてくるとは。

 

「えへっ、内緒です… ってそれじゃいけませんね。「私の大切な方が、よい生を送られますように」ってとこでしょうか」

 

自らの聖闘士としての定めを知っている、察している、だからこそこのような言い方になったのだろう。

ん、なぜ私は、彼女の大切な人が自分だと思っている、思い込んでいるのだろう?

ここに来て、彼女とともに時を過ごして、何かが確かに変わり始めている。

 

「さぁ、次はアルバフィカさまの番ですよ、ほらほら…」

 

そんな彼を、アガシャはじーっと見つめながら催促してくる。

 

「地上の平和がこれからも保たれるように、そのために自らが生を全うできるように… というところか」

「アルバフィカさまならそうおっしゃるのかなって、思ってました… アルバフィカさまならご自分で叶えられるのでしょうけど、それでも…願い、きっと叶いますように… さぁ、次はあれなんてどうですか?」

 

アガシャの差した方向には、今まさに坂を駆け降りるジェットコースターが見える。

その先頭で叫び声をあげながらお互いにしがみつきあっているのは、鹿目まどかと暁美ほむらか。

 

「きゃーっ!」

 

普段はどちらかというと大人しいアガシャが大声をあげている。

彼女の時代ではまず体験することのない高速で坂を下り、一回転し、水しぶきをあげながら水面を走る。

なにもかも初めての経験なのだろうから、大声をあげるのも当然というものだろう。

ふと気が付くと、アガシャの左手は何かを掴むでもなく、アルバフィカの傍らで震えている。

本当は自分にしがみつきたい。それを必死でこらえているのだろう。

ならば…

 

次の瞬間、彼は自分でも思ってもみない行動をとっていた。

手を握る、ことはできなくても、聖衣ごしの腕なら。

アルバフィカは、腕を彼女の手に差し出したのだ。

 

一瞬、驚いた表情を見せたアガシャだったが、次の瞬間嬉しそうな表情を見せると、思い切り腕にしがみついてきて…

 

「ぎゃぁぁぁー!!」

「怖いのはわかるが耳の傍で大声をあげるではないー!」

 

 

その後もアガシャのリードで、二人は園内のあちこちを駆け回り、陽が傾く頃…

 

「アルバフィカさま。次はあれに乗りたいです」

 

この頃には、アガシャはごく自然に彼の腕やマントにしがみつくようになっていた。

指さす方向には、巨大な観覧車。

 

「ねぇ、アルバフィカさま…」

 

ゆっくりと回る観覧車のゴンドラで、おもむろにアガシャが口を開く。

 

「今日は、ほんとうにありがとうございました。最初は、断られるんじゃないかって、内心ドキドキしてたんです…」

 

少しずつ赤味を増していく日差しがゴンドラにやさしく差し込み、二人を照らしている。

 

「アルバフィカさまはお優しい方。私たちを気遣ってくれて、いつもお一人でいらっしゃって。きっとこれから先の聖戦へもあなたは一人で向かわれる。私たちを守るために。仕方ないとはわかっていても、私、わかりたくなかった、理解したくなかったんです。聖戦が終わって、きっとその先もずっと生きていく私の記憶に残るのは、アルバフィカさまの後ろ姿だけなのかもしれないって」

 

「アルバフィカさまはきっと、聖戦で自分が生き残られることをよしとされない。私とアルバフィカさまの歩む道はそこで分かれてそれっきり。でもそんなの寂しすぎます。私、もっとアルバフィカさまのことを知りたい、アルバフィカさまの優しさに触れてみたい」

 

「こんなの、私のわがままだって、自分でもわかってます。叶うことはきっとないんだろうな、とも思ってたんです。そうしたらこちらの時代に来てからアテナさまにお声かけていただいて、こんな素敵な機会をいただいて。だから私、勇気を振り絞って頑張りました。おしゃれも、行動も。内心、嫌われちゃったらどうしようって思ったけれど、それでも頑張ったんです。しかもアルバフィカさまにも、出来る限りのことで応えていただいて」

 

「今日一日、私にとって素敵な想い出をいっぱい、いっぱい頂けました。この先の長い人生、きっといろんなことがある。それでも、アルバフィカさまの想い出があれば、一緒に乗り越えていける。そう思うんです」

 

アルバフィカは、普段からは想像できないほど言葉を繰り出し続ける彼女をじっと見つめている。

陽はさらに傾き、アガシャの服を、髪を、瞳を深紅に染め上げている。

 

「礼を言うのは私のほうだ。これまで私は人を避け生きてきた。孤独に生きることもよしとしてきた。ただ今日一日、君の、アガシャの勇気と気遣いに触れ続けてきて、自らを少し見直そうと思っているのだ」

 

アルバフィカはさらに続ける。

 

「私の血は私の誇りでもある。それ故、これからも人と距離をとることになるだろう。ただそれでも、私のことを大切に思ってくれる人が居るのならば、出来る範囲でとはいえ、その想いに応えたい。それで人が嬉しく思ってくれるのならば、私が居なくなっても残るなにかを残していきたい。その薔薇だけでなく。そう思えるようになったのはアガシャ、君のおかげだ。改めて… 感謝する…  いや、ありがとう」

 

じっと彼の言葉を聴いているアガシャ。

その瞳が輝いているのは、夕陽のせいなのか。

それとも彼女の瞳が少し潤んでいるせいか。

 

ゴンドラは、ゆっくりと、ゆっくりと出口へと近づいている。

 

「ねぇ、アルバフィカさま?」

「改まってどうしたのだ?」

「少しだけ、目をつぶっていただけませんか。私が、もういいよって言うまで…」

「それは構わないが…」

 

言われたとおり、彼は目を閉じる。

彼女の顔が少しだけ近づいた、そんな気配がする。

さらに近づくのか、このままだと肌が触れてしまう…いや、彼女ならわかっているはず。

目を開くことなく待っていると、ギリギリまで近づいていた彼女の顔が離れていく気配。

 

「んーと、いいよ、アルバフィカさま…」

 

目を開いたアルバフィカの目に飛び込んできたのは、真っ赤になったアガシャの顔。

夕陽の赤さだけではない。頬も耳も真っ赤に染まり、小さな唇もすこしだけ紅潮しているようだ。

 

「今、一体何を?」

「もー、聞かないでください!あたしだってはずか… いえ、いいです、もうっ」

 

さらに顔を真っ赤に染めたアガシャをよそに、きょとんとしているアルバフィカ。

 

「えー、お客様、ゴンドラはとっくに出口に着いているのですが…」

 

辰巳着ぐるみF(アルデバラン)が、若干言いずらそうに二人に声をかける。

それを聞いてあからさまに動揺しているアガシャ、やはりきょとんとしているアルバフィカ。

 

なぜか明後日の方向を見ている辰巳着ぐるみFをよそに、二人はとりあえずそそくさとゴンドラを後にした。

 

 

「アルバフィカさま」

「どうした?」

「今日は、ほんとうに、ほんとうにありがとうございました…そして、えーと…」

「?」

 

アガシャは何かを言いたくて、それでいて微妙に躊躇しているようだ。

それでも何かを決したかのように、再び言葉を繋ぐ。

 

「えーと、こうやって近しくなるのは、できたら私だけに… きゃぁぁー!」

 

ジェットコースターに乗っているわけでもないのになぜ叫ぶのだろう?

夕闇が辺りを覆い始めるなか、鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔で不思議そうにしているアルバフィカだった。

 

 

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