神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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聖戦への覚悟

上条恭介が足繁く通う、ジュリアン・ソロとソレントが宿泊するホテル。

その前に佇む少女が一人。

美樹さやかだ。

 

ほんの一瞬だけ躊躇したさやか。

だが次の瞬間、意を決したかのように顔をこわばらせ、ホテルの中へと足を進めた。

 

ホテルのロビーで彼女を待ち受けていたかのように、一人の男が佇んでいる。

 

「ソレントさん!」

「さやかさん、そんなに気持ちを高ぶらせていたら、5キロ先からでもわかるというものです」

 

穏やかな笑みを浮かべつつ、それでいて一切隙の無い構えをとりつつ、ソレントが答える。

 

「場所を変えましょうか…」

 

ソレントに促され、さやかはホテルの裏へと足を進めた。芝生に腰を掛ける2人。

 

「さて、ここならだれに気兼ねもなく話せますし、いざという時にはジュリアンさまのところにも駆け付けられます… ん?」

 

傾きかけた陽ざしの中を歩いてくる、3つの影。

見覚えのある3人。

 

「お前たちは…」

「初対面のはずだが、さすがだな。南大西洋の守護者たる海将軍、海魔女(セイレーン)のソレントよ。ならばこちらも名乗るのが礼儀。俺は冥王ハーデスさまに仕える冥闘士、天捷星バジリスクのシルフィード」

「同じく、天魔星アルラウネのクィーン」

「同じく、天牢星ミノタウロスのゴードン。どうせ次は俺たちだろう?美樹さやか。ならば一度で済ましたほうがよいのではないか?」

 

ソレントの表情にわずかな緊張が走るが、そんな様子に構うことなく、3人はさやかの脇にすわる。

 

「そりゃ、そうだけどさ…」

 

微妙な表情をしているさやか。

ホテル裏の芝生に体育すわりしている、少女1人とガタイのいい青年4人。

はたから見ると、かなりシュールな光景ではある。

 

「ま、いいか。それじゃさっそく聞きたいんだけどさ…」

 

妙な空気にいたたまれなくなったさやかが口を開く。

 

 

「みんなにとって、地上は今も滅ぼさないといけない存在、なの?」

 

 

黙ってさやかを見つめる、ソレントたち4人。

 

「そうだった、ことは否定はしません。確かにあの時、私たちはポセイドンさまに仕えて地上を滅ぼそうとしていたのですから…」

「ただ、海底神殿での戦いで、私はアテナさまの大いなる愛に触れ、聖闘士たちと戦う中で地上にもまだ希望も可能性もあることを知ることができました」

「だからこそ、今こうしてジュリアンさまと贖罪の旅を続けているのです。ただ…」

 

ソレントは静かに目を瞑る。

 

「私が再び地上への希望を失なう、そのようなことがないことを望みます… 君たちは私にとって地上に瞬く灯、希望、愛、そして音楽… どうか今のまま、その眩さを失わないで欲しいのです…」

 

「そうなんだ…よくわからないけど、今のあたしたちをそう思ってくれるなら、頑張ってみる…」

 

照れくさそうに笑いながら、答えるさやか。

 

 

「お前はそうであっても、ポセイドンもそう、とは限らないだろうがな…」

 

見滝原のはるか先にある海のほうを見やる、シルフィード。

 

「俺たちはハーデスさまのご意思に従うまで。ハーデスさまが地上を支配することになれば、その清らかな御心によって、汚れ切った地上は再び美しさを取り戻すだろう…」

「それって、あたしたちも含まれるの?」

「……… 必ずしもそうでない者も居る、お前のようにな。それはわかっている。ただ、それでも自分たちの欲望のまま、醜い争いは止まず、地上は汚され続け、ついには宇宙にまでその手を伸ばそうとする。俺はそんな地上に希望を見出すことはできないのだ。それにハーデスさまは、こんな俺たちにも目をかけてくれた。男と言うのはな、自分を信じてくれた方のためなら命をも投げ出せるものなのだ」

「そうなんだ… じゃぁ、あんたたちが魔女を追っかけてるのも、もしかして、それと関係あるの?」

「それは俺たちにもわからない。ただ、それがハーデスさまのためであるのなら、命令されれば俺たちはそれを成し遂げなければならない。残された時間はあと2週間。ハーデスさまのためとあらば、俺たちは全力を尽くす。聞きたかったことへの答えはこれで十分だろう?」

 

シルフィードはそう言うと、静かに立ち上がり、その場を去ろうとする。

それに続くクイーンとゴードン。

 

「ちょっとま…」

 

呼び止めるさやかの声に、足を止め、振り返るゴードン。

 

「まもなく聖戦が始まるだろう。俺たちは聖闘士たちと戦い、今度こそ勝利する。美樹さやか、お前はどうする? 望むのなら、俺たちの側に立ってもよいのだぞ?」

「… うん、確かに地上には酷い人たちはいっぱい居る、許せない悪人だって。それでもね、ゴードン。あたしは恭介も居るこの地上を壊しちゃいけない、守りたい、そう思ってるんだ…  だから、あんたたちに付いていくことはできない、たぶん…」

「そうか… ならば仕方ない。美樹さやか、もしお前が聖闘士たちの側に立つのならば、こちらも一切手加減はしない。だから、その時は全力でかかってこい」

 

ほんの一瞬、寂しそうな表情を浮かべたゴードン。

遠くで待つシルフィードたちの方へ歩きだした彼だったが、再び足を止める。

 

「お前は確かに強くなった。ただ、俺たちと本気で戦うにはまだ圧倒的に力不足。それはお前もわかっているだろう? ならば明日、例の場所に来るんだな」

 

言いたいことは言い終えたとばかりに、ゴードンは歩き去っていった。

 

 

美樹さやか、ソレント。残された彼女たちを包む沈黙。

 

「ソレントさん? もし聖戦が始まったら、ソレントさんは地上のために戦ってくれたりはしないんですか?」

「たしかに地上には希望が残されています。ただ、それを守るのは聖闘士たち、聖域の役目です。私は、ただひたすらにジュリアン・ソロさまを守り抜く。それが、先の戦いで命を落とした海将軍たちへの約束、だと勝手に思っているのです。さやかさん、冥王軍は強大… 魔法少女とはいえ、本気の冥王軍と戦えばひとたまりもありません。聖域も、聖戦のたびに聖闘士がほとんど全滅するほどの犠牲を出しながら、かろうじて冥王軍を退けてきたのです。もし彼らと戦う決断をするのであれば、それ相応の覚悟が必要です。それを忘れないでください… ん? ジュリアンさまがお呼びのようです。それでは私も、失礼しますね…」

 

美しい見滝原の空間、ソレントは一礼すると、ホテルのほうへと立ち去って行った。

 

 

「さて、と。あたしも恭介のところへ行ってこなきゃ… ん。どうしたのさ?杏子」

 

その場にいつの間にか現れたのは、佐倉杏子だ。

ソレントや冥闘士たちと何を話していたのか。

勘のいい杏子なら気づいているだろう。

そうならば…

 

「杏子はさ、もし聖域と冥界の間で聖戦が始まったら、どうするの?」

 

すぐに答えず黙っている杏子。

なにか逡巡しているようだったが、意を決したかのように口を開く。

 

「あたしには関係ない。そんなのは魔法少女にはどうでもいいことだ…」

 

「… って、ちょっと前なら思っただろうね…」

「… でも…」

「… でもさ、レグルスと知り合って。今は少しだけ、あたしも夢とか、希望とか、また信じてもいいのかなって、ちょっとだけ思ってる」

「… それに、今あたしたちが居るここって、レグルスたちが命がけで繋いでくれた未来、なんだろ?」

「… ならさ、あたしはあたしの出来ることをするしかない、のかもな。それが何なのか、そうすべきなのか、イマイチまだわかってないけどさ… さやか、あんたが戦うってんなら、あたしも戦うしかないだろ… ん? そんなこと言ってる場合じゃなさそうだ。あいつじゃなさそうだけどな。行くぞ、さやか」

 

魔女の気配を察した杏子とさやかは、すぐ近くに現れた結界へと急ぐ。

 

「さやかちゃん!」

「まどか! 今助けるから!」

 

向かった結界に囚われていたのは、鹿目まどか、そして弟のタツヤ。

暁美ほむらもすでに結界に到着し、まどかを守る体制に入っている。

 

巨大なサメのような、シャチのような姿の魔女は、あたりを飛び回る数多くの使い魔とともにすでに彼女たちの目の前に迫りつつあった。

 

「なんででかい魔女だ、それに使い魔が多すぎる…こいつはちょっと手間取りそうだ。えーと、ほむら?だっけか。とりあえずまどかを連れて結界の外へ… え…?」

「わかっているわ、佐倉杏子。わたしはまどかをまも… え?何。これ…」

 

ほむら、杏子、そしてまどかはあたりを見回す。

彼女たちにもわかる、とてつもなく巨大な小宇宙。

星矢たちともジークフリートたちとも冥闘士たちとも違う。

黄金聖闘士のそれに似た、アルバフィカやデジェルにも勝るとも劣らない、圧倒的な小宇宙が結界に満ちている。

 

「…」

 

そこに居るのか、居ないのか。

小宇宙の主の姿は相変らず見あたらない。

それなのに。

 

「おい、ウソだろ…?」

 

結界の中を舞い飛んでいた使い魔たちは、撃ち落されるわけでもなく、叩きのめされるわけでもなく、まるで異空間に飲み込まれたかのように次々とどこかへ消えていく。

ものの数秒後、結界にはさやかたちと魔女だけが残された。

 

「ま、いいか。じゃぁあたしたちは魔女を…  !!!」

 

結界の中は、まるで宇宙空間のように無数の星々、そして惑星たちで埋め尽くされていく。

まどかもさやかたちも、魔女も、何が起こっているのかわからず立ち尽くしている。

 

「 … ギャラクシアン・エクスプロージョン!」

 

デジェルのオーロラ・エクスキューションとも、他の聖闘士とも違う、桁外れの圧倒的な破壊力。

巨大な魔女は抵抗することもできず蹂躙され、瞬く間に消滅していった。

主を失った結界は次第に消滅していく。

 

「誰だ!? 助けてくれたことには感謝するけど、姿くらいみせてくれたって…」

 

小宇宙の主はなにも答えない。

なおも呼びかけ続ける杏子、やがて気だるそうな声があたりに響き渡る。

 

「弱い犬ほど吠える、とはこのことか。何もできず助けてもらっておきながらキャンキャン吠えることしかできないとはな。その程度の力で、聖戦でなにか出来ると思っているのなら、呆れるほかあるまい。」

「なんだと! てめぇ!」

 

杏子の怒りを受け流すかのように、声の主は姿を現すこともなく、巨大な小宇宙とともに消えていった。

結界は消え去った。気を失っていたタツヤも意識を取り戻したようだ。

 

「大丈夫?怖かったよね…」

 

やさしく話しかけるまどかだったが、

 

「ねぇちゃ? こわかった? なにが?」

「え…?」

 

一時的な記憶喪失なのか。

タツヤはなにも覚えていないようだ。

 

「そういえば、この感じ、どこかで… もしかして、あの時の?」

 

聖闘士なのか、冥闘士なのか。

得体のしれない、巨大な小宇宙の持ち主。

 

姿こそ見えなかったものの、あの夕焼けの中で過ごした、穏やかであたたかなひと時、ふと感じていた何か、その記憶がまどかの中に浮かんでいた。

 

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243年前の冥界。

その最深部で、金髪の少年が少女に語り掛けている。

 

「地上には、苦しみ、悲しみが溢れている。そんな地上で暮らす人々に、僕は永遠の安らぎを与えたいと思っているんだ。この、冥王ハーデスの力で」

 

少女は黙って少年を見上げている。

 

「でも、テンマは、僕の親友はきっと、そんな僕を許さない。きっと全力で僕を止めに来るだろう。君のような子を、死による救済、ロストキャンバスへ迎えてあげたいのに…」

 

自分を救ってくれ、今こうして心の安らぎを与えてくれているこの少年。

彼を見つめる少女の心のうちに、ある願いが芽生え始めていた…

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