神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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「夏」の終わり

「来たか…ん?」

 

シルフィード、クイーン、ゴードンに連れられ、黄泉比良坂に現れた少女は二人。

 

「いいだろ? さやか一人だけ強くなるってのも、なんだかしゃくだしさ」

 

少女を無言で睨みつける、ラダマンティス。

 

「いつぞやの小娘か… いいだろう。お前には多少だが見どころがある」

「しかしラダマンティスさま?」

 

ラダマンティスの思わぬ答えに思わず口をはさんだシルフィードだったが…

 

「よい。もしこの者どもが敵になるとしても、強いほうが戦いがいがある」

 

黄泉比良坂。杏子にとっては初めて。

さぞ恐怖に慄いているだろうと杏子の様子を覗いたクイーンだったが…

 

「ここが黄泉比良坂なんだろ? 親父が言ってたから知っちゃいたけどさ。どう生きたって結局こんなとこに来るなら、やっぱ好きなように生きたほうがいいのかもしれないな…」

「どう生きようが、人は死ねば冥界で裁きを受ける。善く生きればエリシオンに行けるが、そうでなければ罰を受ける。それだけだ」

「ふーん? でもその「エリシオン」とやらには、果たしてどんだけの死人が行けるんだろな?」

「…そういうことだ。だからハーデスさまは聖戦を起こすのだ…」

「そりゃありがたいこって」

 

ラダマンティスは特に怒ることもなく、いつも通りの杏子に淡々と言葉を返している。

 

「今回は俺が相手をしてやる。二人まとめてかかってこい」

 

心得た、とばかりに杏子とさやかはラダマンティスへ切りかかる。

キレを増したさやかの剣、逃げ場を探す間もなく突きかかる杏子の槍だったが、ラダマンティスは微動だにしない。

いや、剣と槍を見切ったうえで巧みにかわしているのだ。

 

「杏子、ちょっと離れて!」

 

ラダマンティスから距離をとると、さやかは右手を高く掲げる。

 

空中に浮かぶ無数の剣。巴マミのマスケット銃を思わせる。

さやかが右腕を振り下ろすと同時に、それは一斉に放たれ、ラダマンティスへ叩きつけられた。

あたりを包む砂煙。さしものラダマンティスもかわし切れるはずがない… 少し離れたところから様子を伺う杏子だったが。

砂煙が晴れていくとそこには… すべての剣を指でつまんだラダマンティス。

 

「この期に及んで、人真似とは…つまらん」

 

剣のほとんどを地面に落とすと、残る二本の剣を彼は指でさやかに向けてはじき飛ばす。

 

「とか言って、あたしとやってることは同じじゃない。そんなの躱してみせ… え?」

 

さやかの目に飛び込んでくる剣は一本。それを弾き飛ばしたはよいが、もう一本はどこへ…

あたりをキョロキョロ見回すさやかと杏子だったが。

 

ザスッ!!!

 

さやかの足元に、どこからか飛んできた剣が突き刺さる。

いったいどこから。

 

「盲点、というものを知っているか? 美樹さやか」

 

きょとんとしている、さやか。

 

「学校の授業ですでに教わっているはずだが。さては惰眠を貪っていたか」

 

人間の目の構造上、映像を捉えることができない点。

まさか。

 

「先に放った剣ばかり見ているからだ。だから、盲点を突くように放ったもう一本を、お前は捉えることができなかった。無駄に多くの剣を闇雲に放ったところで、魔女ならともかく俺のような戦士には通用せん。せっかく二人居るのだから、もう一人の動きを利用することで虚をつくこともできよう」

「佐倉杏子と言ったか。お前もだ。相手が多数の剣に気を取られれば必ずそこに隙ができる。ただ突っ立っていないで、せっかくの好機を生かすことを考えるのだな。多くの剣のうち1本でよい、ほんのわずかでも軌道を変えることができれば、全てを見切ったと思いこむ慢心が逆に仇となるものだ。剣や槍ではなく、自らの分身を多く作り上げ幻惑を誘うのでもよいだろう。そうでなければ、自分よりも圧倒的に強い相手、増してや冥王軍に勝ちを収めることなど出来ぬ。」

 

その後も、技のキレ、戦機、戦略、油断、慢心、錯視、欺瞞。スタミナ配分、急所を外す技術、思い込みの排除… 技術だけでなく、精神論、思考、ラダマンティスの「講義」は続く。

ズタボロになりながらも、食らいついていく二人。

 

「よし。ここまで」

 

ラダマンティスの、全く乱れのない声が響く。

全身傷だらけで、息も絶え絶えな二人が見上げる。

 

「教えたことを忘れず、精進し続けることだ。そうならば、俺たちはともかく、下級の聖闘士や冥衣に頼り切った冥闘士くらいは相手できるようになるだろう。お前たち、こいつらを地上まで連れて行ってやれ」

「だ、ラダマンティス…」

「次は敵同士、だ。それまでに、俺の名前くらいちゃんと呼べるようになっておけ…」

「そうだ…ね。あ、ありがとう…」

 

ゴードンたちに連れられ、というか担がれ、二人は黄泉比良坂を後にした。

 

 

 

「…礼を言われるなど、いつ以来だろうな…」

「ラダマンティスさま…」

 

どこか寂し気な背中へ向けられる声。

 

「バレンタインか。早かったな。タナトスは、何と?」

 

双子神の一柱、死の神タナトスに呼び出されて、教練に参加していなかったバレンタインだ。

 

「あの魔女をまだ仕留められないことを延々と叱責され、罵倒された…いつも通りです」

「相変らず、か。双子神の命令がこうも違うと… いや、仕方ないか。俺とパンドラさまにはヒュプノス、お前たちにはタナトスが命令を下す、俺たちはそれに従うしかないのだからな… 一方で、ミーノスやアイアコスには、双子神は聖戦の準備以外、特段の指示を出してはいない… 何を考えているのかわからない双子神はともかく、ハーデスさまはこの状況、いかに考えておられるのやら…」

「はい… ただ…」

「どうした?」

「あの魔女の討伐は、今日をもって当面行わないこととなりました」

「そうか…」

 

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「ねぇ、ゴードン?」

 

黄泉比良坂からの帰り道。杏子は疲れ切ったのか、うつらうつらしている。

不意に、ゴードンの背中からさやかが声を発した。

 

「どうした?美樹さやか」

「えーとさ、聖戦始まったら、私たち、やっぱりあんたらと戦わなきゃいけない、のかなぁ?」

「言ったはずだ。お前が冥王軍の側に立たない限りは、俺たちとお前はどうあっても敵同士。もしかすると直接拳を交わすことになるかもしれないのだからな」

「………」

 

さやかは答えない。業を煮やしてか、答えを待ちきれないのか、ゴードンは続ける。

 

「どうあっても、地上側に立つ、のだろう? お前なら、もしかするとわかってくれるかも、と思うこともあったんだが…」

「うん。正直、あたしだって地上の人たちが嫌になることはある、心の底になにか黒いものが湧き上がってくることもある…気に入らない何もかも、ぶっ壊したくなることがなかったわけじゃないし…他の連中はわからないけど、あんたたちはすごく真っすぐで真面目でなんだかんだいって人間らしくて、すっごくいいヤツらだってのもわかるし。でも、あたしにとって大切なのは、会ったこともないハーデスじゃなくて、恭介やマミさん、まどか、杏子、そして正義の味方のわりには色々アレなとこもあるけどそこがちょっと可愛い聖闘士さんや神闘士さんたち、なんだよね… だけど…」

「…?」

 

だけど? さやかは言葉を濁す。

 

「あたし、思うんだ。あたしたち、こういう形じゃなく、もし普通に会えてたら、すごくいい友達になれてたのかもって。まどかたちと一緒に楽しく遊んで笑いあってバカやって、喜んで怒って泣いて、勉強してスポーツしてたまに先生に怒られて、誰かに恋して失恋して、とか… ほんとに神様が居るってわかっちゃったからさ、どうして神様はあたしたちをこういう出会い方にしちゃったんだろうって…」

「…言っても仕方のないことだ、現に俺たちはこういう出会い方をしてしまったのだから… もうすぐ地上だ。着いたら、決してこちらを振り向かず、そのまま歩き去るようにな」

 

あたりに陽の光が差し込み始めるなか、思いがけないゴードンの言葉に、さやかは思わず聞き返す。

 

「え?どうして? もしかして振り向いたら神話にあったみたいに冥界へ引っ張り戻されちゃう、とか?」

「はぁっ? まったくお前は…エウリュディケみたいな絶世の美女ならともかく」

「えー!? ひっどーい!」

「…聖戦が間近に迫っている以上、こうしてお前たちを鍛えられるのは、今回が最後… 地上へ出たらもう、お前とこうして言葉を交わすことは無くなるだろうからな。次に会う時は敵同士。命の取り合いをするだけだ。敵の顔をわざわざ見返す必要はあるまい?」

「…… うん、そうだよね。だからゴードンもさ、未練たらしくずっとあたしの後ろ姿見てたりせずに、すぐ戻るんだぞー あ、着いちゃったね」

 

黄泉比良坂から地上への道のりの終着点。そして、さやかとゴードンたちの不思議な交流の終着点。

言われたとおり、さやかは杏子と二人、振り向かずに前へ前へと足を進めていく。

後ろ姿を見送るゴードンたち。

クイーンとシルフィードはすでに踵を返し、ゴードンは…まだそのまま立っている。

二人に促されてゴードンもようやく引き返そうとした、その時。

 

さやかが、ゆっくりと振り返り、あらん限りの声で、大きく手を振りながら。

 

「じゃぁね!ゴードン!みんな!」

 

目のあたりが少し光っているのは、陽の光か、それとも。

 

「じゃぁな!美樹さやか!」

 

ゴードンが、そして振り返ったシルフィードとクイーンもまた、両手を大きく振って応える。

しばし手を振り合っていた彼ら。

一人振り向かなかった杏子が、さりげなくさやかの肩を叩く。

彼女に促されるようゴードンたちに背を向けると、今度はもう振り返ることもなく、さやかと杏子はその場を後にした。

 

「…いくぞ、ゴードン… どうした?」

「今行く、だからシルフィード、こっちを見るな」

「…そうか」

 

冥衣を纏った3人の少年もまた、もう振り返ることもなくその場を後にした。

 

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その頃、現代の聖域では。

 

「あら、また鏡が。今度は誰が来るのでしょう?」

 

光始めた鏡を、城戸沙織と、たまたまアテナのもとへ参じていたアイオリアが見つめている。

現れるのは聖闘士か、それともアガシャのときのように意外な誰かか。

やがて、鏡からは金色の光が溢れ出る。

 

「次代のアテナさま。先代の聖域より参りました、射手座の黄金聖闘士、シジフォスにございます」

 

 

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