戦姫絶唱シンフォギア+ 〜それでも、前を向く〜 作:まどるちぇ
やっぱり原作が一番てはっきりわかんだね。
「こ、これは……!?」
ペンダントと同じ色の皮膜に触れる。陶器のような、プラスチックのような、なんとも言えない硬い質感が手に伝わった。
「……よし!立花さん!一緒に逃げよう!このバリアみたいなのがあれば、ノイズも襲ってこれないらしいし」
翔は響の手を握る。
「は、はい!」
響は突然繋がれた手に驚きながら頷く。
二人はノイズの群れの中を走った。バリアに触れたノイズ達は先程のように黒く炭となって燃え上がった。
「よし!このまま」
「きゃああああ!」
悲鳴が聞こえ、翔がそちらを向くと、女の子が一人ノイズに襲われていた。
「人がいたのか!」
「助けましょう、翔さん!」
響が翔にそう言うと、翔はゆっくりと頷いた。
「ただし、助けるのは俺だけだ。響ちゃんは逃げてくれ」
「で、でも……」
「このよく分からない力がどこまで続くのか分からない!響ちゃんは……助けを呼んできてくれ!」
翔は響を逃がすことを最優先した。奏の残した命を、自分が絶つ訳にはいかないと思った。
「嫌です!私もあの子を助けたいんです!一緒に行かせて下さい!」
「駄目だ!君を危険に晒す訳には」
「奏さんなら!」
「!」
響は翔の言葉を遮り、叫んだ。
「奏さんなら……絶対、翔さんも、あの子も見放したりしません!だから、私も手伝います!それに……」
響は目を閉じて、決心したように再び目を見開いた。
「私は生きるのを諦めません!絶対に!それが奏さんとの約束なんです!」
そんな響の目に、翔は奏を感じた。
護るという、強い意志。
☆
数年前。まだ翔が小学生の頃。奏と翔の親は母方が姉妹で仲が良く、お隣さんというのもあってお互いの家によく遊びに行っていた。
そんなある日、翔は近所の中学生達に喧嘩を売っていた。三人組でたむろしている中学生の内、リーダー格らしき男が翔に近づく。
「おらおら弱ぇなあ!そんな弱さで俺たちに喧嘩売ろうってのか?」
「うるさい!お前らは奏姉を馬鹿にした!絶対に許さないぞ!」
何度も殴られたらしく、翔の顔は数箇所腫れ、身体中擦り傷と土で汚れていた。
「ハン!男女に男女って言って何が悪いんだよ!?第一、テメェが許さねえからって俺たちには関係ねえんだよ!」
中学生の蹴りが翔の腹に突き刺さる。
「ぐぶっ!げほっげほっ!」
翔は腹を押さえて蹲る。
「ほーらやっぱ弱えじゃねえか!お前みたいな弱い弟を持って、天羽も苦労してんだろうな!」
「ッ!」
その一言が、翔の怒りに火を注いだ。
「うおおおおッ!」
翔はリーダーらしき中学生に掴みかかった。
「奏姉に迷惑なんかかけるか!俺はお前らを一人残らず……」
「ッゼェんだよ!」
リーダーは翔を無理矢理振りほどき、地面に投げ捨てた。
「ッ……!」
「ムカつくぜテメェ!弱いくせに喧嘩なんか吹っ掛けやがってよ!このまま……」
「お前ら!何やってんだ!」
その時、奏が駆けつけた。奏は倒れている翔の元に走り寄る。
「大丈夫か翔!?こいつらに何されたんだ!?」
「アイツら……!奏姉を『男女』って馬鹿にしたんだ。だから、俺、許せなくて……」
「翔、お前そんなことで…………ッ!」
奏は翔を強く抱きしめた。翔の頬に、奏の涙が垂れ落ちる。その温かさに頬が緩んだ。
「奏姉……泣かないでよ。俺が、アイツらぶっ飛ばして謝らせるか……ら……」
「もう10分も殴られっぱなしのくせによく言うぜ!弱いくせに出しゃばるから……」
「黙れッ!!それ以上何も喋るなッ!」
奏が鬼の形相で中学生グループを睨む。取り巻きの2人は奏の迫力に恐れをなして逃げ出した。
「おい!待てよテメェら!」
「お前は許さない……ッ!」
奏が残ったリーダーの肩を掴む。
「うるせぇ!お前もボコボコに」
ドカッ バキッ ドゴッ
「つ、強い……」
リーダーは奏の殴打をモロに食らって倒れた。
「奏姉……」
翔は奏の目を見た。怒りと、優しさと、勇気。そんな強い意志が込もった目。翔を護るという、強い目だった。
翔はその後すぐに気を失った。次に目を覚ましたのは、奏の部屋のベッドの上だった。
「う……ん……?」
「翔!大丈夫か!?痛いところはないか!?」
奏が濡らしたタオルで翔の顔を冷やす。
「身体中、痛いよ。でも、一番痛かったのは……ここなんだ」
そう言って翔は自分の胸を掴んだ。
「奏姉が馬鹿にされた時、自分が馬鹿にされるよりも腹が立って、ここんとこがキュッて痛くなってさ。気がついたらアイツらに掴みかかってたんだ」
「翔……!ありがとう!アタシなんかの為に怒ってくれて!アイツらに立ち向かうの、怖かったろ?」
奏は再び涙を流した。それがあの時と同じ温かい涙だと、翔には分かった。
「うん。怖かった。でも、それ以上に許せなかったから……。奏姉、俺頑張るよ!勉強も運動も一杯して、奏姉を困らせないような男になる!」
翔はそう言って、右手の小指を差し出す。
「約束だ。絶対に守る」
「……うん!」
そう言って小指を絡ませる奏の笑顔は翔にとってとても美しく見えた。
☆
「……ちゃんと受け継がれてる」
翔は呟く。心の底から、熱い何かが溢れてくるのを感じた。
「よし!俺があの子の所に行って君に投げる!だからしっかりキャッチしてくれ!」
「ええ!?それは……流石に無茶なんじゃ」
「やればできるさ!行くぜ!」
翔は再びノイズの群れに向かって走り出した。
「うおおおお!」
走る、走る、走る。
一秒でも、一瞬でも、速く。あの子を助ける。それだけを考えて。
「間に合った!」
女の子をキャッチし、すぐさまUターンする。女の子は必死に翔にしがみつく。
「翔さん!急いで!」
響の呼ぶ声が聞こえ、翔は更にスピードを上げた。
「よし!このまま……」
ブゥゥゥ……ン
「!バリアが……」
瑪瑙色の皮膜が薄まる。じきに消えてしまいそうだ。
(やっぱりか……。何となくそんな気はしてた……)
翔は『こうなる』ことを直感的に予見していた。絶望を。ゲームオーバーを。
(けど、終わらせねえ……!俺は、前を向かなきゃいけないんだ!)
「立花!」
翔は響に向かって女の子を投げた。翔の予想通り、女の子はバリアを透過して響の元に向かう。
「え!?わ!えっと……えい!」
響は女の子を何とかキャッチした。
「良かった……」
後は翔がノイズの群れから逃げ切れば終わる。が、翔を護るバリアは、もはやほとんど残っていない。バリアに触れるノイズも、障害物にぶつかる程度のダメージしかない。
「悪い。奏姉」
翔は立ち止まり、空を見上げた。バリア云々よりも、足が動かないのだ。人ならぬ速力でのシャトルラン。翔の足は、とっくに悲鳴を上げていた。先程限界を迎えたらしく、翔はその場に尻餅を突いた。
「翔さん!」
「俺、もう駄目みたいだ……精一杯やったけどよ」
パキィィン
瑪瑙色のバリアが完全に消える。翔は諦観の笑いを浮かべ、目を閉じた。
(俺、最後の最後まで、前を向けたよ。ちょっと無茶したけど、大丈夫。奏姉の意志は、ちゃんとあの娘に……)
Balwisyall Nescell gungnir tron……
翔が聞いたのは、歌だった。
優しさと強さに満ち溢れた、温かい歌。
☆
「翔さん!」
響は悲鳴を上げた。
彼が、翔が、立ち止まってしまったのだ。
(嫌だ……!あの人を、私に『生きて』と言ってくれた人を……)
響の瞳が涙に揺れる。
「失いたくない!」
ドクン
「護りたいんだ!」
ドクン
Balwisyall Nescell gungnir tron……
響は、胸に浮かんだ歌を無意識に口ずさんだ。
☆
特異災害対策機動部二課・本部
「司令!ノイズの発生地点に高エネルギー反応!」
藤堯がモニターに響達の様子を映し出す。
(!奏……!?)
翼はモニターに映る翔に、奏の姿を一瞬見つけた。
(違う……。奏は、もう……)
翼は首を横に振る。
「これは……アウフバッヘン波形!?」
了子がエネルギーの波長を見て思わず声を上げる。
「波形の照合終わりました!解析結果、出ます!」
藤堯がそう言うと、モニターに解析結果が表示された。
[GUNGNIR]
「ガングニールだとぉ!?」
司令の風鳴 源十郎が驚きの声を上げる。
(そんな……!?それは、奏の……!?)
翼は理解するのに時間がかかった。
奏によく似た少年と、再び現れた奏の力。
(一体何が起こっているというの……?)
☆
光の柱。翔の目にはそう映った。
「なんだ……!?何が起きてるんだ?」
「ウゥゥヴアアアアーーーーッ!」
響の体から『何か』が飛び出した。
鎧。武器。力。勇気。歌。
「スゲェ…………」
翔は自身の置かれた状況を完全に忘れ去り、響に見入っていた。
「ハアアアァッ!」
光が収まると、響の姿が変わっていた。
最も顕著なのは服装だ。レオタードのような、水着のようなアンダーシャツに、装甲やスカートが付いた服。
「そ、その格好は……?」
「わ、私……?」
響自身も変身に戸惑っていた。
ノイズの一匹が響に襲いかかる。
「!危ねぇ!」
「きゃあ!」
響は咄嗟に腕でガードした。すると、響に触れたノイズが燃え上がるように消え去る。
「これは……俺のバリアみたいなのと同じ……?」
「歌を感じる……!この歌は……?」
響の言葉に耳を澄ませると、確かに音が聞こえる。
「絶対に……離さないッ!この繋いだ手は」
響は湧き上がる歌を歌う。何故だか力が湧いてくるのを感じた。
「こんなにほら、あったかいんだ 人の作る温もりは」
響は歌ったまま、女の子を抱えて翔の元へ走る。
(できる……!今なら翔さんも、この子も、助けられる!)
「難しい言葉なんて要らないよ 今、分かる 共鳴する Brave mind!」
「うおっ!」
翔は響に抱えられて驚きの声を上げる。
響はそのまま二人を抱えてノイズから離れていった。
(スゲェ……。少なくとも、女の子の腕力じゃない。この服と、歌の影響なのか……?)
翔は響の服をツンツンとつつく。
「わひゃ!?翔さん変なとこ触らないで下さい!」
「わ、悪い!って、前、前!」
勢いよく跳んだ響の目の前には、木の幹が。
「わ、わ!」
響は咄嗟に木を蹴る。その衝撃で木が悲鳴を上げてへし折れた。
(に、人間業じゃねえな……)
翔はもう余計なことはしないでおこうと誓った。
「紡ぎ合いたい魂 100万の気持ち さあ! ぶっ飛べこのエナジーよ!」
ポゥ………….
翔は、響の周りに小さな光の球が集まっていくのが見えた。
「開放全開! いっちゃえHEARTの全部で 進むこと以外……うわあ!」
響の歌が途絶える。ノイズの追撃で、体勢が大幅に崩れてしまったためだ。脇に抱えられていた二人はそのままのスピードで放り出される。
「のわ!危ねぇ!」
翔は放り出された状態で女の子をキャッチし、背中で着地した。背中に摩擦熱が集中し、痛みと化す。
「……ッ!」
翔は痛みに顔を歪めながらも、女の子をしっかりと離さない。
(この程度……奏姉の痛みに比べれば!)
「立花さん!大丈夫か!?」
「っく……!」
響はノイズの攻撃に防戦一方だった。
その防御すらまともに行えていない。
「クソッ!もう一回あのバリアみたいなのが出せれば……!」
翔はペンダントを見るが、ペンダントは沈黙を通していた。
「こんなものに頼ってちゃ駄目だ!とりあえず、この子を安全なところに……」
Imyuteus amenohabakiri tron……
響の歌が遮られるのとほぼ同時に、歌声が聞こえた。
鋭く、強く、凛とした歌だ。
「また、歌……?」
翔はその歌声に聞き覚えがあった。
美しく、気高く、それでいてどこか無機質な歌声。
「……風鳴 翼!?」
翔が見たのは、響と同じような格好でノイズに立ち向かう翼の後ろ姿だった。
「何で……?それに、あの格好……」
翔の頭の中で、ある結論が導き出されようとしていた。
奏の死は、ライブ中に発生したノイズに襲われたものだと政府の特務機関とやらから伝えられた。
ノイズの襲撃は、所謂地震やハリケーンといった突発的に発生する自然災害と同類だと教えられていた翔は、ノイズを恨むに恨み切れず、仕方がないものだと割り切っていた。
(もし、ツヴァイウイングというユニットが仮の姿だったら……?ノイズと闘う組織が、風鳴 翼と同じように、奏姉に闘わせていたのだとしたら……?)
翔の中で眠っていた感情が湧き上がる。
(許さねえ……ッ!!)
「去りなさい! 無想に猛る炎 神楽の風に滅し散華せよ」
翼の歌が聞こえるが、翔の耳には届かない。
(もしそんな組織があるのなら、そいつらが奏姉を殺したようなもんじゃないか……!)
翔は翼の後ろ姿を睨むように見つめながら怒りの感情を必死に抑え込む。目を閉じて深呼吸を一つし、熱された思考を冷やす。
(落ち着け……。前を向くんだ。あの人がノイズを片付けてる内に、この子を……)
「立花さん!一緒に逃げよう!」
「でも、翼さんが……」
「あの人が何の為に闘ってるか考えるんだ!俺たちがこの場から離れることが、あの人への一番の人助けだろ!?」
翔は語気を強めて響を諭す。
「で、でも!……分かりました」
響は戸惑っていたが、翔の目を見て決心を固めた。
「嗚呼絆に 全てを賭した閃光の剣よ」
[蒼ノ一閃]
翼の一振りで、蒼い衝撃波がノイズ達を次々に飲み込んだ。
(強い……!奏姉も、きっと、もっと強かった筈だ……!)
怒りを鎮めても、奏を戦場に駆り出した組織への強い負の感情は消えてはくれない。翔はそんな感情を押し殺し、女の子と響を連れて街道に出る道へと逃げて行った。
☆
ノイズは全滅し、後始末の為に特異災害対策機動部があくせく働いていた。
「…………」
翔はそんな光景の中ペンダントを握り締め、奏と機動部の関連性について逡巡していた。
「翔さん」
響が話しかけてきた。先程の変身は解け、元の服装に戻っている。
「…………」
しかし響の声は翔には届かなかった。
翔は黙祷のように目を閉じて黙り込んでいる。
「あの……翔さん?」
「……ん?ああ。立花さんか。ゴメン、聞いてなかった」
「大丈夫ですか?ノイズに囲まれた時、尻餅を突いて座り込んでましたけど……?」
「ちょっとふくらはぎが張ってるけど、しっかりアフターケアしてやれば元通りさ」
平然と受け答えをする翔だったが、その視線はいつの間にか翼に釘付けだった。翼は一人の男性に活動報告のようなものをしているらしく、真剣な表情で会話をしていた。
「……翼さん。一体何者なんでしょうか?」
「特異災害対策機動部」
翔は呟くように答える。
翔達が助けた女の子が渡された書類の隅にそう書いてあったのを、翔は見逃さなかった。
「立花さん。確か奏姉に助けられたって言ってたよね?まさか奏姉も、君達みたいに……?」
「はい。私や翼さんみたいに変身して、ノイズと闘っていました」
「そうか……やっぱりか」
翔は再び湧き上がる怒りに、必死で耐える。
(恨んだって、奏姉は帰って来ない!復讐なんて、前を向くとは真逆の行為だ……!)
「お楽しみ中失礼〜」
翔の深刻な雰囲気とは真逆の間延びした声がした。見ると、眼鏡をかけた研究者らしき女性がこちらに歩み寄ってきていた。
「私、櫻井 了子。デキる女と評判の、特機部IIの研究部門の顔よ」
「は、はあ……」
了子は声高に自己紹介をする。翔と響は温度差についていけずぽかんとする。
「突起物……?」
「特異災害対策機動部二課の略称なんです。と言っても、蔑称ですがね」
スーツ姿の男性がそう言いながら了子の前に出る。
「了子さん。ここは僕が」
「あらそう。残念」
了子は少し残念そうに眉を下げた。
「僕は緒川 慎次。二課の諜報活動を担当しています」
緒川と名乗る男は柔和な笑顔でそう言った。
「……それで?俺達に口止めでもしに来たんですか?」
翔は感情を出さないように素っ気なく尋ねた。
「まあ、似たようなものですよ。天城 翔君」
「!」
翔は赤の他人に自分のフルネームを呼ばれ、警戒の念を強める。
「……いい気はしないな。こっちは全然そっちのことを知らないのに、そっちは俺のことをよく知ってる。気味が悪いったらない」
「すみません。仕事上、事前調査は欠かせないものですので……」
緒川が申し訳なさそうに頭を下げる。翔はそんな緒川の態度を見て、こちらが申し訳なくなってくる。
「……そう言うと思って、少し意地悪してみました」
そう言って、翔は微笑んだ。
「おや、一本取られてしまいましたね。お二人とも、あったかいもの、どうぞ」
緒川はそういって紙カップに入ったホットコーヒーを差し出した。
「「あったかいもの、どうも」」
二人は紙カップを受け取り、中身を啜った。
「それで?俺達も書類か何かにサインすればいいんですか?」
「いえ。すみませんが、お二人にはもう少しお付き合い願います」
緒川がそう言うと、翔達の周りを黒服の男達が囲った。
「「!」」
「一般人の方には機密保持の契約と承諾書にサインしてもらうだけで済ませるんですが……」
ガチャン ガチャン
緒川が一瞬の隙をついて二人の手首に電子ロック式の手錠をかけた。
「貴方達は少し事情が異なりますのでね」
「な」
「なな」
「「なんで〜!?」」
翔と響の、人生初手錠であった。
次回予告
特異災害対策機動部二課に捕縛された翔と響。連行された先で、翔達は驚きの光景を目にする。
そして、奏と二課の関係が明らかになった時、翔は……。
次回【学校でも、前を向く】
オリキャラの学校回とかシンフォギアでやらなくてもいいんじゃ……。