少しだけでも楽しんでくれたら、嬉しいです。
受付でチケットを購入し、水族館の入っていく。
「わあぁぁ~~、すっごーーーい!」
薄暗く館内に足を踏み入れたキャロが歓喜の声をあげる。時間帯が早いせいか周囲にいるのは数人の客だけだが、一斉に俺たちをジロリと視線を注がれかるく頭を下げた。
「キャロ。館内は静かにな、お客さまは俺たちだけじゃないんだからさ。」
「はーーーい。」
うん、全然聞いてないねこの娘は。
人の注意を聞かず元気よく走り出していき、大きなガラスの壁にキャロはへばりつく。
その目の前を、小さな魚の大群が横切っていく。
「きれ~~い、なんていう名前なのかな?」
キャロは目をキラキラと輝かせて、魚群を追ってガラスの端まで追っていく。
年相応の可愛らしさに、俺は微笑してしまう。
「だけど、それも仕方ないか。」
首を回して館内を見渡していく。
館内は一面がガラス張りになっており、大小様々な魚たちが泳ぎ回っていた。
元の世界でもこれだけの規模を誇る水族館は見たことがない。キャロが興奮するのもわかる。
流石は異世界、スケールのでかさに思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
『しかしいいのか相棒、最低限連絡をした方がいいのでは。』
(したくても出来んだろ、俺もキャロもデバイスを持ってないんだから。)
楽しそうに奥に歩いていくキャロについていく。
ドライグの言いたいことは分かるが、生憎俺は連絡するつもりはない。
デバイスは持ってはいたが、パワーを切ってある。
こいつで居場所がバレては元もこもないからな。
朝の一件とこの逃走ではやてたちが大層怒っているのは予想できる。
雷が落ちることも。
だから、夜になりほとぼりが冷めるまで帰るつもりはない
「お兄さーーん、はやくはやく。置いていっちゃいますよ。」
キャロの声に顔を上げる。
さっきまで近くにいたキャロが随分と先にいて、嬉しそうにこちらに手を振っていた。
「ああ、少し待ってくれ。」
「こっちこっち、遅いですよお兄さん♪」
スカートをなびかせて嬉しそうにキャロは走っていく。
やれやれと、俺は後ろ頭を掻きながら歩調を速くする。
今のキャロは水色の薄手のワンピースに、小さなカバンを肩から下げた格好だ。
服屋の開店と同時に入店して、マッハで選んで、試着室
で着せて購入した一品。服に対するセンスは絶無(ぜつむ)な俺にしては中々のチョイスだと思う。
小走りで追いついた俺はキャロと二人並んで道なりに進んでいく。
「きれーですね。」
「おー、旨そうだな。」
「お兄さん威嚇して威嚇。」
「駄目だ。俺が威嚇したら膨らむ前に気絶して浮く。」
「わあ~~、ペンギンさんですよペンギンさん。ふわふわしてて可愛いです。」
「そうだな。」
互いの感想を言いながら水槽を見て回る。
水の中を光輝き彩(いろど)りある小さな魚群れに歓喜して、ゆっくりと泳ぐハリセンボン(?)をガラス越しにつつき、ちょこちょこと動きまわるペンギンの姿に癒された。
「変な感触~~、おもしろ~~い。」
「強く握りすぎて殺すなよ。」
「すご~~い、イルカさんってあんなに高くジャンプできるものなんですね。」
「確かに大したジャンプ力だな。」
ふれ合いコーナーでは初めて触るナマコのぐにゃぐにゃとした感触を楽しみ。
イルカショーではボールを使ったジャンプの高さに驚き、人間の言葉を理解しているかのように動くイルカたちの頭の良さに驚いた。
一つ一つに感激するキャロの姿は年相応で、軍隊まがいな組織に属にしているのが嘘みたいだ。
楽しみながら歩き回っていると、ドンとキャロが男性とぶつかってしまう。
「ごめんなさい。」と頭を下げて謝るキャロだが、男は隣にいた女性とのお喋りに夢中で気がついていないのかそのまま歩き去っていった。
周囲を見渡せば先程までは閑古鳥が鳴いていたはずの館内に、親子連れや、恋人、友達など大勢の人で賑わい始めた。
俺は無言でキャロに右手を差し出す。
「えっと、お兄さん?」
「迷子になったら困るからな、はぐれないように手を繋ぐぞ。」
「はい。わかりましたお兄さん♪」
差し出された手をそっと握るキャロは、ニコニコと嬉しそうに笑いながらこちらを見上げる。
「やっぱり優しいですお兄さんは。」
「普通だろ。こんなこと誰でも思いつくだろ。」
「それでもです。」
頭を掻く俺をキャロは微笑ましく見つめると、えいっと言うかけ声と共にキャロは俺の腕に両手を絡めた。
柔らかい重みが腕に伝わってくる。
「これでもっと大丈夫ですよね。」
驚く俺にキャロは満面の笑みを浮かべた。
こんな表情を見せられれば嫌だとは言いにくい、嘆息をつきながら俺たちは歩きだした。
恋人というか親子のように他愛ない会話をしていく。
主にキャロが会話の主導権を握り、口下手な俺は相づちを打つ形だ。
本当に楽しそうに話すキャロに小さく笑い和んでいると、むっとした表情で注意された。
しばらく話し合いながら歩いているとお土産を売っている売店に通りかった。
俺は売店を指さす。
「キャロ、せっかくだしなにか買っていくか?記念にさ。」
「えっ、いいんですかお兄さん。」
「いいよ。好きな物を買ってくれ。」
売店に置かれている商品を順に見ていく。
お土産コーナーには様々な種類の魚の模型にキーホルダー、ヌイグルミ、パン菓子などが所狭しに置かれ。
ヱイ、イルカ、クジラ等の子供に人気がありそうなモノから、鯖(さば)、鮪(まぐろ)、鰤(ブリ)など渋すぎてどんな層を狙っているのかわからない物まで。
つーか買う人いるのか?
「…………以外と高いな。」
一番目立つ箇所に置いてある大きめのヌイグルミの値段を見て、俺は少し驚いた。
ゼロが予想よりたくさんある。
「そうですか?普通ではないでしょうか。」
「……………これぐらいは普通なのか?」
「はい。普通だと思います。」
学生時代に修行しかしなかったのが仇となった。
キャロはそれだけ言うと、大量に出ているグッズを物色し始めた。
「こんなのはどうでしょう。」
やがてキャロが俺に持ってきたのは、ガラス造りの置物だった。クリスタルガラスの内部に優雅に泳ぐイルカと海中の風景が精密に彫られている。
「……随分高そうなやつだな。いくらなんだ。」
「六千七百八十円。約七千円ですね。」
「たっか!なんでこんな小さいのに高いんだ。」
タバコ一箱と同じぐらい大きさだぞ。
俺の反応にキャロは置物を下げた。
「やっぱり高すぎてダメですよね。他のにしますね」
「ぐっ!ダメとは言ってないだろ。」
キャロの手から置物を強引に奪い取り、レジに行って会計をすませると、茫然とするキャロの頭の上に包装してもらった置物を置く。
「あっ。」
「ホラよ。せいぜい大事にしてくれ。」
こく、こく、こく、と何度も頷くキャロ。
両手で置物を愛(いと)おしそうに抱えこむ姿は、買ってやってよかったと不思議と思ってしまう。
水族館を出たあとも俺たちは手を繋いで並んで歩く。
つーか、キャロが離してくれない。
さりげなく横顔を見れば、キャロはジッと俺を見つめていた。
自然と目が合ってしまう。
その瞬間、キャロは心底嬉しそうに微笑んだ。
照れ臭くて後ろ髪を掻く。
「キャロ。歩くときは前を向いた方がいいぞ。なにかあったら危ないし。」
「平気です。なにかあってもお兄さんが助けてくれますから。」
「そりゃ、可能な限りは助けるけど….….….。」
「なら、大丈夫です。」
キャロはギュッと結んだ手に力がこめる。
ダメだな。これはなにを言っても無駄だ。
気がすむまでつきあうしかない。
道行く人達が微笑ましい視線で俺たちを見つめてくるが気にしない。
次は何処にいこうかと思案する中、視線を感じて足を止めた。
ーーーーーーなんだ、アイツは。
車が行き交う四斜線の車道を挟んだ向こう側の歩道に、男性がこちら側をーー俺を見てみる。
年齢は俺と同じぐらい。
黒く長い髪を後頭部の後ろで纏め、顔はかなりのイケメンフェイス。カジュアル系統の服装で身を包んでいる。
相手も俺が見ている事に気がついたのか手を上げて挨拶してきた。
『………..……相棒、あの男』
(ああ、言わなくても分かるよドライグ。)
…………かなり出来る。
細身に見える体形だが、凝縮された筋肉がついているのがわかる。動く動作の一つ一つに無駄がない。
まるで日本刀のように鋭い動き。
この男ーーーー間違いなく『領域』に達している。
「あの、少し痛いです。」
はっとして握っていた手の弛める。
思わず臨戦態勢になって力を込めてしまったらしい、キャロは少し困った顔でこちらを見上げていた。
「悪い、ちょっと気になることがあってな。」
再び顔を向ける。
が、そこには男はおらず、急ぎ足で行き交う人達がいるだけだ。
気を使い周囲を探っても何も見つからなかった。
魔力は使っていない。
気を上手く隠しているのだ。
何者だアイツと、警戒する俺の服をくいくいとキャロが
引っ張る。
「??お兄さんは何が気になったんですか。」
「いや、その、な、なんて言うか。」
「??お兄さん。」
口ごもる俺をキャロは不思議そうに顔を傾げる。
言えない。強そうな男を気になっていたなんてことは。
「ねーねー」と言い寄ってくるキャロに、俺は視界の端に映った遠くてデカイ建物を指さす。
「あれだよあれ。あんなデカイ建物何なのかな~って、もしかしたら格闘技場で強い奴と闘えるかな~~と思っただけだよ。」
我ながら苦しい言い訳だが、
キャロは俺の言葉と指した建物を見て、クスリと笑う。
「違うよ、お兄さん。あれは映画館なんだよ。」
「映画館?嘘だろ。東京ドームぐらいのデカさだぞ。」
キャロは手を可能な限り広げて映画館の大きさを表現しようとする。
「本当だよ。街で一番大きな映画館。すっごい数のスクリーンがあって、古い映画と新しい映画を毎日上映しています。フェイトさんと一緒に行った時はビックリしました。」
流石異世界やることの規模が違う。
無駄に大きい映画館に感心していると、キャロがじーっとこちらを見上げていた。
「お兄さんは映画に興味が有るんですか。」
「少しはな。元いた世界でも時々映画はみていたからな、この世界ではどんな映画が人気があるのか気にはなる。」
「それなら観に行こうお兄さん。私も観たい映画があるんです。」
キャロは笑いながらグイグイと俺の腕をを引っ張り歩き出す。時計を確認すると、正午を少し過ぎた時間。
まだまだ遊べるが、その前に。
「キャロ、映画館に行く前に軽く食事にしょう。朝から何も食べてないせいか腹が減って仕方がない。」
俺の腹がぐぅ~~となり、「その通りだな!」と主張すると、キャロは口に手を当てて微笑する。
「そうですね。私もお腹が空いてきました。」
「だろ。あそこで食おうぜ。」
四階建てのビルを指さす。
ビルには色々な看板が表示されるいたが、二階にカレーショップが手頃そうだ。
「はい」とキャロから了承をもらい、ビルに入った。
……………….….….カレーの味はビョーだった。
カレーショップで昼食を済ませた俺たちは、 バス停で映画館行きのかバスに乗り込む。
バスは別段混んでおらず、俺たちは空いている席に座った。信号で止まり、動き出すのを繰り返し数分で目的地に到着した。
ジャリンジャリンと金を払い、バスから降りる。
目の前にそびえ立つ映画館のでかさを改めて実感しながら、館内に入る。
館内は俺の想像以上に人がいた。
みんな映画のポスターやグッズ、映像の予告の映像を見て話して楽しんでいる。
俺は周囲に流れる映像に目を向けながらキャロに尋ねる。
「それでどの映画が観たいんだ。アクション?ファンタジー?SF?恋愛?ミステリー、ホラー、どれだ。」
「あれです!」
キャロが指さす方向に目を向けて、俺は思わずうめき声をあげてしまう。
「……………本当にアレなのか?右の映画じゃないくて?」
「はい。あれが観たいんです。」
「…………そうか。ならいいのだが……….……。」
もう一度キャロが観たい映画のタイトルを見る。
「戦え動物戦争」と表示されたポスターの下に、「大人気」とも書かれている。
そこに映るのは面白可笑しく戦う動物たちだけ。
……….ヤバイ、キャロには悪いが全然面白そうには見えない。しかし、観もにせずに決めつけるのは俺のポリシーに反する。
俺たちはチケットとポップコーンとジュースを購入して、上映するスクリーンに向かう。
長くて広い通路の最奥の一番広い部屋につく。
無駄に豪華な扉を開けば、上映時間ギリギリの為か席は全て埋り、子供たちが騒いでいた。
「すっげぇ人だな。しかも、子供ばっかで。」
席に座る七割が子供で、付き添いの親が二割、恋人が1割って具合。
なんでこんな映画にこれだけの人が集まるのか、カルチャーショックを受けてしまう。
呆然と立ち尽くす俺の服をキャロがクイクイと引っ張られ、我にかえる。
「お兄さん、私たちも席に座ろ。」
「おお、わかった。」
チケットで座席を確認しながら、キャロの手を引き階段を上がる。
その途中ーーーー、ヒソヒソヒソヒソと会話が耳につく。
「仲が良いわね~~あの二人。」「手、繋いでる。」「兄弟?」「違うだろ全然似てないし。」「女の子ほう可愛いな。」「男のほう目付きわるっ!」「不良?」「援交か?」「もしかして、あの子。」「バカ、縁起の悪いこと言うなよ!」「通報した方がいいのかな?」
震える手でデバイスを取り出した男を睨み、「気当たり」で寝かせつける。
ドサッといきなり気を失った男性に周りが騒ぐが、気にせず一番まで上がり隅っこの席に座る。
上映まで後三分ほどだ。
肘掛けに手を置いていると、キャロの手が被さる。
「映画、楽しみですねお兄さん♪」
キャロがこちらを見上げて目を細めてはにかむ。
ぐっ、言えない。地雷臭がプンプンだとは
俺はひきつる頬で強引に笑顔を造り上げ、
「………..そうだな。楽しみだ。」
「はい!」
待ち遠しいのかキャロは足をプラプラさせている。
やがて時間になると、ライトが次第に消され周囲が暗くなっていく。先程まで騒がしかった子供たちも沈黙する。
一体どんな内容なのか。
期待一割、諦め九割で俺はスクリーンを見つめた。
次は「出会い」です。
新しいロリが登場きます。
感想がありましたら、ガンガン下さい。
ただし、作者の心は障子紙より薄いので誹謗中傷は勘弁してください。
誤字脱字も気にせず読んで下さい。