Fate/Imagine Breaker   作:小櫻遼我

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第一章 光を失った伯爵
Spell1[狂う運命 Prisma_illya.]


学園都市

 

 

 

「ああっ、クソッ…どっかで見たぞこの展開!」

 

青年は今宵も街を走る。

殺される為に走るのだ。

 

「って、俺は勇者(メロス)かぁーーーーッ!!」

 

誰にツッコんでいるかもわからず、ただただ走る。

 

青年の名は上条当麻(かみじょうとうま)

夜の学園都市を、ひたすら走っていた。

 

学園都市というのは、東京の西部に位置し、東京都の約1/3の面積を占めている都市である。

また、この学園都市には、Level0(無能力者)からLevel5(超能力者)に分けられた能力を持った人間がウジャウジャしている。

 

発火能力(パイロキネシス)電撃使い(エレクトロマスター)なんかがそうだ。

 

「ったく…何処まで追ってきやがるんだアイツら!」

 

そう、上条当麻はただ走っていただけではない。

逃げていたのだ。

 

前にも同じようなことがあったが、今回も似たようなものだ。

 

まず彼は、不良に絡まれていた少女を助けようとしていた。

その少女は、御坂妹(みさかいもうと)という知り合いだった。

助けようとしたのだが、彼がイイ感じにカッコつけ始めたところで、不良の仲間がレジ袋を持ってやってきた。

しかも数人。

 

青年は勝機(自信)を失った。

 

そもそも、彼女を助ける必要があったのだろうか。

御坂妹は欠陥電気(レディオノイズ)という能力を持つLevel3(強能力者)で、五万ボルトの電撃を持っている。

その気になれば不良達を撃退するなんてことは容易かったはずだ。

 

しかも、逃げてる最中に通行人のバッグが腕に引っかかり、急いで外したもののひったくり扱い。

 

上条当麻も幻想殺し(イマジンブレイカー)という能力を持っているのだが、この状況では全く意味を成さない。

 

そして、聞こえた気がしたのだ。

「ふふふ…と、ミサカは愉悦に浸りほくそ笑みます」と………

 

愉しんでやがったな。

 

「御坂妹の奴……次あったら許さねぇ……!」

 

 

そう言ってるうちに、何かよく知らん学区まで来てしまっていた。

よく疲れないな奴ら。

 

「このッ……いい加減止まりやがれ逃走王!」

「るっせぇ!てめぇらこそカサカサ追っかけてくんじゃねぇよゴキブリ野郎!」

 

何という醜い争い。

この戦いはいつまで続くのだろうか…

 

 

 

「うう……不幸だあああああああああああああああああッ!!!」

 

 

 

ちなみに、ゴキブリは死の危険を感じ取るとIQが340にまで上昇するらしい。

 

 

かれこれ30分、やっと撒いたようだ。

しかもなんやかんやで知っている場所まで来ていた。

 

不幸中の幸いとは、まさにこのことである。

 

「ああーっと、もうこんな時間か。インデックスも心配してるだろうし、さっさと帰るかー」

 

と帰路に就こうとした瞬間、

 

上条当麻は何か邪悪な気を感じた。

 

「ッ……なんだ、この気配…?」

 

長年の経験から察するに、この気配は魔術師。

だが、いままで出会ってきた魔術師とは違う。

 

「どこだ……どこにいやがんだ!」

 

周囲を警戒する。

 

人通りは全く無く、勤務終わりの平社員(サラリーマン)の影すら無かった。

また誰かが人払い(Opila)でもかけてるのだろうか。

 

すると、

 

「これ(T)(P)(I)(M)(I)(M)(S)(P)(T)(F)と化す、ねぇ……()()()の魔術は随分と魔法的なもんだな」

 

街灯に一人の11歳ほどの少年が座っていた。

 

肌と髪は真っ白で眼は血のような赤。

一方通行(アクセラレータ)を彷彿とさせる見た目だが、どう見ても違っていた。

 

少女漫画を連想させる黒い杖に、全身黒いスーツ、肩からは外套がポンチョのように垂れ下がっている。

髪は女性のように長く、とても普段着(いつもの)と呼べる格好ではなかった。

 

「ただの子供…じゃねぇよな、何者だ?」

「まだ知らなくてもいい。知られると都合が悪いんでな」

「なんだよ、余計知りたくなるじゃねぇか…で、俺に何の用だ?」

 

少年は上条当麻を指差して、

 

 

「__________ガンド」

 

 

 

赤黒い魔弾を発射した。

 

「うおっ!?」

 

とっさの反応で前転を行い、魔弾を避ける。

コンクリートの地面が抉れ、破片が飛び散った。

 

「ほう…結構速い速度で撃ったつもりなんだが、それを躱すなんてやるじゃないか」

「この魔術……てめぇ、一体何処の魔術師だ!イギリス清教か、それともローマか!」

「そういうのは無しで頼む。歴史とかは苦手なんだよなぁ…」

「クソッ…舐めてんのか!」

 

少年は再び、上条当麻を指差した。

 

「ああもう、うるさいなぁ、ガンド!」

 

複数の魔弾が上条当麻目掛けて襲いかかる。

先程の一撃でパターンを読んだのか、今度は軽やかな動きで躱していく。

 

しかし魔弾のせいで地面は穴だらけ、つまずいてしまう。

 

「しまっ……ぐっ!」

 

魔弾が腹にかする。

それによってバランスを崩し、その場にとどまってしまう。

これでは躱せない。

 

(くっそー…できるだけ個人情報は晒したくなかったが、あっちも既に知ってるかもしれねぇ、やっちまえ!)

 

上条当麻の能力、幻想殺し(イマジンブレイカー)

その効果は_____________あらゆる能力や魔術を無効化する。

 

上条当麻は、飛んでくる魔弾に向かって右手を一気に伸ばし、触れた瞬間、バキンという音と共に魔弾は無効化された。

 

「おお…噂通りの能力だ…!」

「なんだ、やっぱ知ってたんじゃねぇか。じゃあもう聞くことは一つだな。俺に何の用があんだよ?」

「それは、だな………」

 

少年は不敵な笑みを浮かべる。

すると、手に持っていた少女漫画的(ファンタジック)な杖を振りかざし、

 

「やれ、オニキス」

「了解」

「え、杖が喋って…………のわっ!!?」

 

 

気が付くと自分の真下には奈落が広がっていた。

 

 

既に穴の中心にいた上条当麻は、為す術もなく落ちてゆく。

 

「うあっ、ちょっ、なっ、不幸だああああああああぁぁぁぁぁぁ………」

 

そして、消えてしまった。

 

「………彼をあそこに?あなたは一体、何をしようとしているのですか?」

「さあな、俺にもわからん。ただ………

 

面白そうなもんが見れる気がするんだよ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬木市

 

 

 

ごく一般的なある一軒家の和室。

少年は眠りから覚めようとしているところだった。

 

「ん、ぬうぅぁーーっ、はぁ………」

 

手を挙げ、大きくあくびをする橙色をした髪の青年。

そしてその傍らには、青年に抱きついて眠る褐色白髮の少女の姿が。

 

「すー…すー…ふふ…お兄ひゃ〜ん…だ〜いしゅき…くぁぁ……」

「んん………なっ!?くっ……クロ!!」

 

瞬間、引き戸を勢い良く開けて現れたのは、もう一人の白髮の少女

 

「なっ、ななぁっ、なななぁぁぁっ……」

「イリヤ!?いや、これは、その、本っっ当に違うんだ!毎回毎回、クロが勝手に部屋に忍び込んで……」

 

 

 

「やっぱり不潔ッ!!」

「なんでさっ!!!?」

 

甲高いビンタの音(モーニングコール)が、家全体に響き渡った。

 

 

 

『いただきまーす!』

 

数人の元気な声(ところどころ暗い)が食卓に広がる。

ここ”衛宮(えみや)家”は、5人の女性と、1人の男性という、なんとも性別的にも不釣り合いな6人の家族で構成されていた。

 

「……シロウさん、私はガッカリしました。2回の添い寝と1回の自称『勝者へのキス』では物足りませんでしたか」

 

白髪ポニーテールのこの女性はセラ。

衛宮家のメイドその1である。

真面目な性格で、家事はほとんど彼女がこなしている。

一見ショートカットに見えるが、ポニーテールである。

虚乳。

 

「……………シロウくんって、変態?」

 

パーマ気味セミロングのこの女性はリーゼリット、愛称はリズ。

衛宮家のメイドその2である。

マイペースな性格で、甘いモノが大好き。

イリヤやクロの通販代はほとんど彼女が払っている。

巨乳。

 

「まぁまぁ良いじゃない。いくらやり過ぎだからといって、思春期のオトコノコを責めすぎちゃダメよ?」

 

穏やかで長髪のこのマダムはアイリスフィール・フォン・アインツベルン。

衛宮家の妻であり、ドイツ生まれ。

衛宮家では絶対的な命令権を持っており、もはや神の壁を超えているらしい。

若くして子を生んだヤンママ。

『姉に勝る妹などいねぇ』と自負している。

 

「そうそう、ママの言うとおりよ。そんなにカッカしてるとイリヤ、シワ寄っちゃうわよ?」

 

青年に抱きついて眠っていたこの少女はクロエ・フォン・アインツベルン。

双子の妹(?)で、毎度際どい格好をしている。

今のところ妹だが、どちらが姉かというので、現時点で姉のイリヤと競い合っている。

運動神経抜群。

キス魔。

 

「うるさいぃっ!全く、お兄ちゃん、いいえシロウ!妹に手を出すなんて、兄に有るまじき行為なんだから!不潔、不潔よ!!」

 

このビンタ容疑者の少女はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

現時点では双子の姉、ということになっている。

日本人である父切嗣(きりつぐ)とドイツ人である母アイリとの間に生まれたハーフ。

毎回何かしらの面倒事に巻き込まれている。

魔法少女ヲタ。

 

「俺は……ぐすっ、俺はどう生きていけば………」

 

頬に赤い手形を残して泣きじゃくっているこの青年は衛宮士郎。

衛宮切嗣がとった養子で、イリヤたちの兄という立場にある。

高校では弓道部員。

正義の味方がなんとか言ってる。

料理に関して嘘は許さない。

 

「まぁ、シロウくんの件は置いといて、」

「えぇー………」

 

アイリが強引に話の話題を変える。

衛宮士郎に味方はいないのか。

 

「いろいろ大変なクロちゃんとイリヤちゃん、そして部活が大変なシロウくんの為に、今日はなんと、我が家で家庭教師を雇うことになりましたー!」

「はぁ。家庭教師ですか、奥様?」

 

セラが問いかける。

 

「ええそうよ!あなた達三人を指導してもらうつもりよ。家庭教師さんは正午にお見えになるから、ちゃんとおめかししておくのよ?」

「はーい…」

「はーい♪」

「ううっ…はい…」

 

バラバラな機嫌で返事をする三人。

しかし、やる気はあるようだった。

 

「ねえセラ」

「どうしたのかしらリーゼリット?」

「これで、私の役目は完全に無くなったんだねー」

「あなたは元からだらけてばかりだったでしょう…」

「………そっかー」

 

今日も平凡な一日が始まった。

 

”平凡”な一日が………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エーデルフェルト邸

 

 

 

「私家庭教師なんて初めてで……美遊はどう?家庭教師とかって経験有るの?」

「私は……無いかな」

 

衛宮家向かいのエーデルフェルト邸。

そこでは、イリヤとクロの親友、美遊・エーデルフェルトが暮らしていた。

 

すると、イリヤの髪の中から魔法陣を象ったような羽の生えた桃色の謎の物体が飛び出す。

 

「おやぁ?イリヤさんにクロさん、美遊さんまで揃って何を話しているんです?」

 

美遊の陰からも、同じような青い物体が飛び出す。

 

「姉さん、イリヤ様の家に訪れるという家庭教師の方の話です。聞いてなかったのですか?」

「あ、そうでした?すいません、寝てましたー♪」

 

彼女ら(?)はルビーとサファイア。

何者なのかというと、ある魔術礼装なのである。

 

実はイリヤと美遊は、それぞれ魔法少女なのだ。

昔はクラスカードというものを集める為に、夜な夜な家を抜け出して戦っていたのだ。

 

ちなみにクロは、イリヤの双子の姉妹ではなく、クラスカードのうちの一枚”アーチャー”のカードが核となっている、いわば擬似人間なのだ。

魔術によってイリヤとは痛覚を共有するようになっており、定期的に魔力供給を行わないと消滅してしまう。

 

ここでいう魔力供給というのは、相手の体液を摂取する行為のことである。

それ故のキス魔。

 

「イリヤ達は…家庭教師にどんなイメージを持ってるの?」

「う~ん……厳しくて…ちょっと怖い、かな…」

「私は…優しくて面白いって感じかしら。美遊はどうなの?」

「………色っぽくて…エッチな感じ…?」

「ちょ、どこでそんな知識を仕入れたの!?雀花、また雀花の仕業なの!?」

 

3人(と2つ)が話していると、一人のメイドが扉を開けて入ってきた。

 

「イリヤ、クロ、もう11時半よ。戻らなくていいの?」

「ああっ、そうだ!ありがとうございます凛さん!」

 

このメイドの名は遠坂凛。

イギリスから派遣された魔術師の少女である。

エーデルフェルト邸に居候中なのだが、じつはこのエーデルフェルト邸、共に派遣されたライバル、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトが家主のため、エーデルフェルトのメイドを命じられて好き勝手扱われている。

 

凛が言ったように、時間はすでに11時半。

あと30分もすれば自宅に家庭教師が訪れる。

 

その為、30分間のうちに部屋を片付けたり、身だしなみを整えたりしなければいけないのだ。

 

「衛宮くんがもう迎えに来てるわよ?」

「はいはい、わかってるってば!」

「ごめんね美遊。またね!」

 

「いつも妹達の面倒見てくれてありがとな遠坂、ルヴィア」

「いえいえ。シェロのためなら(わたくし)、何でもやって差し上げますわ!」

「くぅ〜っ…ルヴィアの奴しゃしゃり出やがって〜………!」

 

衛宮士郎にベッタリくっつく金髪ドリルの少女ルヴィアと、彼女を恨む凛。

どちらも、穂群原学園で衛宮士郎の同級生である。

この2人ともう1人のある同級生とで、よく三つ巴の争いが繰り広げられている。

 

「衛宮くんも、家庭教師の方と挨拶するんでしょ?着替えなくてもいいの?」

「いや、俺はこれで大丈夫だからさ。心配してくれなくていいよ」

 

衛宮家とエーデルフェルト邸の間で仲睦まじい会話が繰り広げられているその頃、

イリヤとクロの部屋では……

 

 

「ねぇ…どうしても魔力供給しないと……ダメ、なの………?」

「仕方ないでしょ?おめかししておけって言われたし、まだ今日1食もしてないような状態なのよ?」

「うう…お兄ちゃんは1食抜かすことなんてしょっちゅうあるのに……」

「お兄ちゃんは高校生だから。私は高校生でもJK(女子高生)でもないのよ。ほら、誰も来てない内に………」

「もう…………じゃあ、早くしてよね……」

 

ベッドの上で、何やら()しいことが行われようとしていた。

そう、魔力供給である。

 

魔術師における魔力供給というのは、自身の魔術回路を相手に接続し、その回路から魔力を受け渡すという、一見普通な方法だ。

しかし供給源であるイリヤが魔術回路を接続する術を知らないため、やむを得ず禁断の手法……体液摂取(キス)を行うしか無いのだ。

悲しい現実。

 

「行くわよ…………んっ」

「んんっ……ふぅっ、んぅ…………」

 

2人の(魔術回路)重な(繋が)る。

イリヤの唾液(魔力)が、貪られるようにクロに吸い尽くされる。

部屋はピンク色のオーラで満ち、クチャクチャという水が掻き混ぜられるような音が部屋に響く。

 

「ぁん…ちゅぱっ、はふっ………ねぇ、まだ……足りないの…?」

「昨日は1回しかシてなかったもの…まだまだ足りないわ…………ちゅっ…」

「あぁっ……んふっ、やぁっ……そんな、強く吸っちゃ……んんっ!」

 

口の中で舌を絡め合わせ、イリヤの舌を唇で包むようにして吸う。

目を瞑り、手を回す。

ベッドに倒れ、互いの肌が、腹が、胸が触れ合った。

 

念の為に警告してくが、これはただ魔力を供給しているだけの極めて魔術的行為である。

よほど心が穢れてない限り、この行為が卑猥な(エロい)行為には見えないはずだ。

 

「ふぅ………済んだわよ、ごちそうさま」

「もう……毎回激しすぎるよ……」

 

2人の頬はすっかり桃色に染まってしまっていた。

時間はあっという間に過ぎ、もう5分前だった。

 

「クロさーん、イリヤさーん、時間ですよー!」

「さ、あと5分しかないわよ、早く!」

「あんな状況からあと5分って言われても………」

 

セラの声が聞こえる。

そう、ついに衛宮家に、家庭教師が訪れるのだ。

まるで転校生が来るようなワクワク。

それが止まらなかった。

 

アイリは既に迎えに行っているとのこと。

だとすれば、急がなければ。

 

「よし、着替え終わりっと…!行こう、クロ!」

「言われなくても!」

 

2人は勢い良く部屋から出て、階段を駆け下りた。

 

 

「あ、イリヤにクロ。来たの?」

「ごめんリズ、間に合った?」

「うんギリギリ。ちょうど車が見えてきたところ」

 

リーゼリットも珍しくピシッとした正装で表に出ていた。

いよいよだ。

イリヤの心臓は、先程どと変わらず激しく脈動している。

 

金ピカにハートキャッチされるわけではない。

 

「おっ、来た来た!」

 

アイリの運転するメルセデス・ベンツ300SLクーペが到着する。

 

「ふう。お待たせみんな。じゃ、早速自己紹介してもらうわね」

「はい、マダム」

 

アイリの後に車から出てきたのは1人の女性。

黒いサラサラのセミロングに、黒い服。

凛々しい顔つきが、色っぽさや涼しさ、美しさを出していた。

まるで”暗殺者”のような静けさを持った女性が、口を開く。

 

 

「本日より衛宮家で家庭教師を務めさせていただきます、久宇(ひさう)舞弥(まいや)です。宜しくお願い致します」




いかがでしたでしょうか?
これから頑張りますので、よろしくお願いします!

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