Fate/Imagine Breaker   作:小櫻遼我

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この一方通行なんか違う…


第四章 果てへと至りしモノ
Spell10[此の夢、其の夢 Question_and_Answer.]


誰も、いない。

 

この虚無は、上条には耐え難い。

 

「ッ………士郎!イリヤ、クロ!みんな……どこなんだよ!!」

 

響く叫び。

それはただ虚しく、虚空へと消えた。

 

「クソッ………なんで、こんな……!!」

 

家を走る。

街を走る。

大地を走る。

 

ただひたすらに走っても、人一人見つからない。

この孤独に取り残された上条は、嘆く。

 

「はぁ………は、っ……」

 

地面に膝をつき、瞼を閉じる。

 

すると、周囲の色が変わる。

アスファルトは消え失せ、暗黒だけが上条の視界を飲む。

 

瞳を開き、前を見る。

 

そこは、地獄だった。

 

幾多もの骸。

肉亡き髑髏。

山のように積み重なったそれは、上条の心を侵す。

 

「あ__あああぁぁああぁああッ!!」

 

上条は無心で地面を右手で殴る。

この世界が偽りならば、覚めてくれ。

この世界が偽りだとしても、耐えられない。

 

なんて、残酷。

無惨。

暗黒。

虚無。

絶望。

 

上条の手は崩壊していた。

偽りだと信じ続けた男の、悲しき果てだった。

 

ふと目の前に、二人の人影が見えた。

白い修道服の少女と、セミロングヘアの少女。

 

「インデックス………御坂……ッ!!」

 

微かに捉えた希望へ、ただ足を進める。

希望は遠ざかることなく、上条へと近付いていく。

 

「二人共!これは、いった、い…………?」

 

二人の方に触れると、謎の違和感が上条を襲う。

これは肉ではない、なにか歯のような感触の固いもの。

 

歯と同じカルシウムでできている、骨。

 

「うそ、だろ______」

 

恐怖に怯える上条は二人から離れる。

そして、二人は顔をこちらに向ける。

ゆっくりと、迫り来る幽霊のように。

 

その貌は、

 

骸でできていた。

 

『な・ぁ・に?』

 

声が一斉に響くと同時に、二人は崩れた。

かしゃかしゃ、と。

骨は虚無となり、衣服のみが残った。

希望を絶たれた上条は、ただ立ち尽くす。

声を上げる気すら、もはや残っていない。

 

「怯えるな、殺戮者よ」

 

背後から。

何かが響く。

 

「この世界は真ではない、(げんそう)だ。貴様の右手によって亡くされた幻想(ゆめ)の果てだ」

 

何を、いっているんだ?

 

「わからぬか。貴様のその右手は、特異な右手などではない。怯え、願い、その全てを貴様は殺した」

 

訳がわからない。

もはや何語なのかすらも疑ってしまう。

 

「貴様の右手は全てを殺めし竜。人々の理想は潰え、虚無へと送られる。その切符たるものが、貴様だ」

 

そんなはずはない。

俺はこれで何度も____

 

「救ってなどいない。それは貴様の一方的な自己満足であり、凝り固まった精神の現れだ」

 

凝り固まった、精神____?

 

「白衣の修道女は救われただろう。超電磁砲(レールガン)は救われただろう。それだけか?見方を変えてみよ。善から悪へ、陰から陽へと」

 

見方を?

 

黄金錬金(アルス=マグナ)はどうだ?ただ邂逅を望んだが故に、顔も記憶も変えられた。彼はもう、想い人を思い出すことすら叶わぬ」

 

いや、アイツは…………

 

一方通行(アクセラレータ)はどうだ?貴様の介入により、立場を失った。力さえも、住処さえも、その誇りさえもだ。今在りし友すら、彼には重荷に過ぎぬ。それを失った時、彼はどうなる」

 

重荷だなんて………

アイツは、一緒に笑える仲間ができて幸せに………!

 

「それだけではあるまい。思い返してみよ。今まで、その拳が貫いた頬の数を数えよ。その頬の数だけ、人は希望を失っている。そして、人は希望を得ている」

 

それは_____

 

「即ち、零。得しもの、失いしもの、共に無い。貴様の存在は、何も変えはしない」

 

そんなことはない!

俺がいなきゃ、インデックスは___!

妹達(シスターズ)は____!

みんなは____ッ!!

 

「貴様は虚無だ。喪失も、会得すらもたらさぬ虚無である。その右手で何を救った。その右手で何を殺した。___否、無い。貴様の存在を、望むものは在らぬ」

 

いや、俺は………確かに感じているんだ。

この生きている喜びを。

みんなに囲まれる幸せを。

 

「それは真か」

 

え、____?

 

「とうま……ずっと、何してたの?神の右席?神浄?どうでもいいよ、そんなの。私は?救うだけ救ったら、もうオシマイ?それじゃ空気と同じだよ!」

 

そんなはずはない!

俺は、ちゃんとお前のことも………

 

「上条ちゃん、どうしてあなたは私の願うような子に育ってくれないのですか?何をしても成績は上がらず、先生は悲しいのです!私では、力及ばずなのですか…?」

 

違う…違う!

先生は悪くない!

俺が、もっと努力しないから悪いんだ!

俺がもっと頑張れば……

 

「ねぇ。どうして、私の想いに気付いてくれないの?鈍感にも程が有るわよ。いつも御坂とかビリビリとか、そんなのは呼ばれ慣れてるっての。お願いだから__美琴って、呼んでよ」

 

確かに、俺は鈍感かもしれない。

もちろん俺もお前のことが好きだよ!

ただ………

それを言い出す勇気が、俺には_____

 

「汝、真の存在を望むか。愛し愛される、必要とされたモノに成りたいか」

 

______俺は。

みんなのことを守りたい。

みんなの思いに答えてやりたい。

いや、違う。

俺は_______どうしたいんだ?

 

「さすれば、往くべき道は只一つ______」

 

 

 

 

 

 

_______首を出せ。

 

 

 

 

 

 

「____っ!!?」

 

目が覚めた。

九月十三日、土曜日の朝。

 

ちゅんちゅん、と、まだ小鳥の鳴き声が聞こえる。

気温も下がってきた長月の中旬。

そんな朝に、上条の身体は汗に浸されていた。

 

「おはよう、当麻。なんか、うなされてたけど…大丈夫か?」

 

自分の布団を畳み終えた士郎が心配そうに上条に話しかける。

 

「ああ、大丈夫………夢を見ててな」

「こんな時に悪夢か。なんか、不吉だな」

 

月曜日が祝日なので、登校は十六日の火曜日からになる。

そして、そこから十九日の金曜日まで、一週間まるまる使っての中間考査が実施されるのだ。

即ち、明々後日からテスト。

 

「そんなことねぇよ。見なけりゃいいだけの話だろ?」

「まぁ、それもそうなんだけどさ…………」

「それにテスト明々後日からだし。今更気にしてらんねぇぜ」

 

それに対して士郎は、そうだな、と一言。

 

上条も着替えて布団を畳み始めると、ぐぅ、という音が鳴る。

上条の腹から。

 

「やっべ、腹鳴った……飯ってもう食った?」

「いや、まだだけど…時間的にそろそろ朝食時じゃないかな」

「そうだな。俺はこれ片付けてから行くから、先行っててくれ」

 

わかった、と士郎は立ち上がり、部屋を後にした。

 

誰もいなくなった部屋で、上条は額の汗を拭う。

 

「____なんだったんだ、あの夢__ッ」

 

あんなことを言っていたが、悪夢のことが心配でならない。

恐らく、あの時消失したゼクスアサシンのカードが何か関係しているのではないか。

と、上条は考えていた。

 

「……………考えてても仕方ないな」

 

ともあれ、今は腹が減った。

朝食を頂くとしよう。

 

 

 

今日の朝食のメインは白米に納豆だった。

白いご飯と納豆をメインと呼ぶのはどうかと思うが、朝食にはふさわしいメニューだっただろう。

 

朝食後に、凛が上条を訪ねてきた。

何でもエーデルフェルト邸の地下に捕縛している一方通行(アクセラレータ)から情報を聞き出してほしいらしい。

そして今、上条は彼が捕縛されている部屋の前にいる。

 

傍らにはイリヤ、クロ、美遊、凛、ルヴィアの5人も。

バゼットはバイトのシフトが入っていたらしい。

彼女は特に一方通行(アクセラレータ)とは関わっていなかったし、別にいいだろう。

 

「…………アイツ、いろいろ大丈夫なのか?」

「ええ。修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)で傷は完治、終末の泥に浸した抗魔布で能力も抑え込んでる。もう、アイツは何の抵抗もできないわ」

「ありがとう。じゃあ………事情聴取と行くか」

 

上条は唾を飲み、一気に扉を開け放つ。

 

そこには、かの聖人(イエス)のように抗魔布で磔にされた一方通行(アクセラレータ)がいた。

 

「……………テメェか三下」

「いい加減その呼び方はやめてくれ。それとも、俺を呼びたくないのか?」

 

十字架に磔にされぐったりとした一方通行(アクセラレータ)が、先日とは全く違う目で上条を睨む。

負けじと上条も精一杯の挑発をしてみる。

 

「そんなことはどォでもいい。……そこのガキ共もそうビクビクすンな。この布、そォいう効果なンだろ?」

 

チョーカーを破壊されても、頭の回転は早いようだ。

なら、まず最初の質問は____

 

「………お前、能力が戻ったのか?」

「俺が知るか。俺だって教えて貰えるンなら教えて貰いてェぜ。このワケわかンねェ状況をな」

 

本人も把握できていないようだ。

 

能力が復活したのには何らかの原因があるのだろう。

しかし、現時点ではその原因はわからない。

 

本人も知らないのなら、聞く意味は無いだろう。

 

次の質問は____

 

「何で……あんな酷い事をした…?妹達(シスターズ)の時は殺す理由があった。認めたくはないけどちゃんとした目的があった。でも…あれに目的はあったのか?」

「________」

 

珍しく、一方通行(アクセラレータ)の言葉が詰まる。

 

「俺は____わからねェ。自分でも、何をしたのか。ハッ、何だろォな………アレじゃ、ただの殺人鬼じゃねェか」

 

笑みを浮かべながら、語る。

その笑みは喜びからなるものではない。

彼のやりきれない気持ちが作り出した笑みだった。

 

「楽しかったンじゃねェか、多分?俺も、あの妹達(シスターズ)を殺るのは楽しかった。自分が強くなってるって感じがしたからな。でも今回は…………完全に、殺すのを楽しンでた気がする」

「__________っ」

 

彼は妹達(シスターズ)との戦いで、殺しの快楽にでも目覚めたのだろうか。

だが、それは決して許されることではない。

一方通行(アクセラレータ)も、そんなことはわかっていた。

 

「心変わりしても、身体が覚えてたンだな。気付いたときには笑ってたぜ、俺は。俺のやることじゃねェってなァわかってる。今更こンなことしたって、なンも変わンねェってのもな。でも………止められなかった」

 

一方通行(アクセラレータ)の表情が曇る。

今まで、誰にも見せたことがない悲しい顔だった。

 

「俺は所詮殺人鬼だ。希望を奪ってく泥棒だ。学園都市の頂点は、こんなにもだらしねェ奴なンだよ。なァ、わかるか?俺の今の感情が。テメェのとこにも、あのシスターがいンだろ。ならわかるよな。テメェがその手を血で濡らして帰って、そのシスターのガキがどんな顔をするか。ハハッ……テメェみてェな善人じゃァ想像したこともねェだろォな。俺にはな、打ち止め(ラストオーダー)がいンだよ。俺がこンなになっちゃァ______一体、どンな面引っさげて帰りゃいいってンだ」

 

誰にも見せなかった涙を、上条に見せる。

上条は、一方通行(アクセラレータ)という人間がわからなくなりそうだ。

どの感情が本音で、どの感情が建て前なのか。

もう、わからなかった。

 

「____ったく、俺が人前で泣くなンてな。やっぱガタがきたか」

 

一方通行(アクセラレータ)は、自らの愚かさを嘆く。

路頭に迷ってしまった、自らの方向音痴を。

どちらに進めばいいのかわからない、自らの判断力の無さを。

 

そこに、上条の喝が響く。

 

「てめぇは……どうしてぇんだよ」

「______あァ?」

「てめぇは何になりたいんだ。殺人鬼か?正義の味方か?いい加減はっきりしろよ!そんなんじゃ誰も喜ばねぇぞ!もっと殺したいんなら殺せばいい。打ち止め(ラストオーダー)を守りたいんなら守ればいい。俺は、てめぇのやり方にどうこう言う立場じゃねぇさ。でも、そうやって子供みたいにウジウジしてんのだけはほっとけねぇんだよ!てめぇは第一位なんだろ、ならこんな小さな選択肢で迷ってんじゃねぇ!てめぇにはもっと、やらなきゃならないことがあるだろうが!!」

 

上条の説教に、辺り一帯が静まり返る。

一方通行(アクセラレータ)はそんな上条のことを、鼻で笑った。

 

「……ンだよ。そンなのでいっちょまえに説教したつもりか?全然、響かねェじゃねェか…」

 

その言葉に、上条は一歩退く。

しかし、

 

「だが……考え直す気にはなった。俺は、しばらくここにいる。その選択肢を決めれるようになるまでな」

 

一方通行(アクセラレータ)は、確かに殺人鬼かもしれない。

それと同時に、正義の味方であるという善を孕んでいた。

どちらの道を進むかは、本当に彼次第なのだ。

 

だからこそ、彼は悩むことにした。

悩むというのは、決して罪ではない。

生きるための選択なのだ。

 

殺人鬼だった一方通行(アクセラレータ)

正義の味方だった一方通行(アクセラレータ)

彼は、人間らしく、悩む。

 

それが、人としての営みなのだから。

 

一方通行(アクセラレータ)。そう言ってくれてよかった」

「何言ってんだテメェ。気持ち悪ィンだよ」

 

そんな罵倒を、上条は笑って受け流す。

心の何処かで、こうやって分かり合えるのを、上条は心待ちにしていたのかもしれない。

 

「さァ………重てェ話はやめようぜ。まだ聞きてェことがあンじゃねェのか?言ってみろ」

「ああ、それもそうだな。じゃ、遠慮なく」

 

そして、上条は第三の質問を投げかける。

 

「_____誰に指示された?」

「_____それか」

 

一方通行(アクセラレータ)は、イリヤ達の方を向く。

急に見つめられて、イリヤはぽかんとしている。

 

「えっ、何?…………え、そういうのやめてよ!?」

「バカが。ンなこと言うと思うか」

 

最もなことを言われて、イリヤは我に返りしゅんとする。

変な反応をしてしまった自分を嘆いているのだろう。

 

「まァいい。そんな気分じゃいられなくなるだろうしな」

「え……?」

 

再び、イリヤはぽかんとする。

今度は、言葉の意図に対してだった。

 

「いいか。俺はアイツの名前を言う。それは、イリヤスフィール、クロエ、テメェら二人にとって()()()()()()()()()男だ」

「一番近くて、一番遠い_____?」

 

そして、一方通行(アクセラレータ)は名乗る。

その、忌々しくも愛しい名を。

 

 

 

「衛宮切嗣______テメェらの父親だ」




やっぱりなんか違う…
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