Spell10[此の夢、其の夢 Question_and_Answer.]
誰も、いない。
この虚無は、上条には耐え難い。
「ッ………士郎!イリヤ、クロ!みんな……どこなんだよ!!」
響く叫び。
それはただ虚しく、虚空へと消えた。
「クソッ………なんで、こんな……!!」
家を走る。
街を走る。
大地を走る。
ただひたすらに走っても、人一人見つからない。
この孤独に取り残された上条は、嘆く。
「はぁ………は、っ……」
地面に膝をつき、瞼を閉じる。
すると、周囲の色が変わる。
アスファルトは消え失せ、暗黒だけが上条の視界を飲む。
瞳を開き、前を見る。
そこは、地獄だった。
幾多もの骸。
肉亡き髑髏。
山のように積み重なったそれは、上条の心を侵す。
「あ__あああぁぁああぁああッ!!」
上条は無心で地面を右手で殴る。
この世界が偽りならば、覚めてくれ。
この世界が偽りだとしても、耐えられない。
なんて、残酷。
無惨。
暗黒。
虚無。
絶望。
上条の手は崩壊していた。
偽りだと信じ続けた男の、悲しき果てだった。
ふと目の前に、二人の人影が見えた。
白い修道服の少女と、セミロングヘアの少女。
「インデックス………御坂……ッ!!」
微かに捉えた希望へ、ただ足を進める。
希望は遠ざかることなく、上条へと近付いていく。
「二人共!これは、いった、い…………?」
二人の方に触れると、謎の違和感が上条を襲う。
これは肉ではない、なにか歯のような感触の固いもの。
歯と同じカルシウムでできている、骨。
「うそ、だろ______」
恐怖に怯える上条は二人から離れる。
そして、二人は顔をこちらに向ける。
ゆっくりと、迫り来る幽霊のように。
その貌は、
骸でできていた。
『な・ぁ・に?』
声が一斉に響くと同時に、二人は崩れた。
かしゃかしゃ、と。
骨は虚無となり、衣服のみが残った。
希望を絶たれた上条は、ただ立ち尽くす。
声を上げる気すら、もはや残っていない。
「怯えるな、殺戮者よ」
背後から。
何かが響く。
「この世界は真ではない、
何を、いっているんだ?
「わからぬか。貴様のその右手は、特異な右手などではない。怯え、願い、その全てを貴様は殺した」
訳がわからない。
もはや何語なのかすらも疑ってしまう。
「貴様の右手は全てを殺めし竜。人々の理想は潰え、虚無へと送られる。その切符たるものが、貴様だ」
そんなはずはない。
俺はこれで何度も____
「救ってなどいない。それは貴様の一方的な自己満足であり、凝り固まった精神の現れだ」
凝り固まった、精神____?
「白衣の修道女は救われただろう。
見方を?
「
いや、アイツは…………
「
重荷だなんて………
アイツは、一緒に笑える仲間ができて幸せに………!
「それだけではあるまい。思い返してみよ。今まで、その拳が貫いた頬の数を数えよ。その頬の数だけ、人は希望を失っている。そして、人は希望を得ている」
それは_____
「即ち、零。得しもの、失いしもの、共に無い。貴様の存在は、何も変えはしない」
そんなことはない!
俺がいなきゃ、インデックスは___!
みんなは____ッ!!
「貴様は虚無だ。喪失も、会得すらもたらさぬ虚無である。その右手で何を救った。その右手で何を殺した。___否、無い。貴様の存在を、望むものは在らぬ」
いや、俺は………確かに感じているんだ。
この生きている喜びを。
みんなに囲まれる幸せを。
「それは真か」
え、____?
「とうま……ずっと、何してたの?神の右席?神浄?どうでもいいよ、そんなの。私は?救うだけ救ったら、もうオシマイ?それじゃ空気と同じだよ!」
そんなはずはない!
俺は、ちゃんとお前のことも………
「上条ちゃん、どうしてあなたは私の願うような子に育ってくれないのですか?何をしても成績は上がらず、先生は悲しいのです!私では、力及ばずなのですか…?」
違う…違う!
先生は悪くない!
俺が、もっと努力しないから悪いんだ!
俺がもっと頑張れば……
「ねぇ。どうして、私の想いに気付いてくれないの?鈍感にも程が有るわよ。いつも御坂とかビリビリとか、そんなのは呼ばれ慣れてるっての。お願いだから__美琴って、呼んでよ」
確かに、俺は鈍感かもしれない。
もちろん俺もお前のことが好きだよ!
ただ………
それを言い出す勇気が、俺には_____
「汝、真の存在を望むか。愛し愛される、必要とされたモノに成りたいか」
______俺は。
みんなのことを守りたい。
みんなの思いに答えてやりたい。
いや、違う。
俺は_______どうしたいんだ?
「さすれば、往くべき道は只一つ______」
_______首を出せ。
「____っ!!?」
目が覚めた。
九月十三日、土曜日の朝。
ちゅんちゅん、と、まだ小鳥の鳴き声が聞こえる。
気温も下がってきた長月の中旬。
そんな朝に、上条の身体は汗に浸されていた。
「おはよう、当麻。なんか、うなされてたけど…大丈夫か?」
自分の布団を畳み終えた士郎が心配そうに上条に話しかける。
「ああ、大丈夫………夢を見ててな」
「こんな時に悪夢か。なんか、不吉だな」
月曜日が祝日なので、登校は十六日の火曜日からになる。
そして、そこから十九日の金曜日まで、一週間まるまる使っての中間考査が実施されるのだ。
即ち、明々後日からテスト。
「そんなことねぇよ。見なけりゃいいだけの話だろ?」
「まぁ、それもそうなんだけどさ…………」
「それにテスト明々後日からだし。今更気にしてらんねぇぜ」
それに対して士郎は、そうだな、と一言。
上条も着替えて布団を畳み始めると、ぐぅ、という音が鳴る。
上条の腹から。
「やっべ、腹鳴った……飯ってもう食った?」
「いや、まだだけど…時間的にそろそろ朝食時じゃないかな」
「そうだな。俺はこれ片付けてから行くから、先行っててくれ」
わかった、と士郎は立ち上がり、部屋を後にした。
誰もいなくなった部屋で、上条は額の汗を拭う。
「____なんだったんだ、あの夢__ッ」
あんなことを言っていたが、悪夢のことが心配でならない。
恐らく、あの時消失したゼクスアサシンのカードが何か関係しているのではないか。
と、上条は考えていた。
「……………考えてても仕方ないな」
ともあれ、今は腹が減った。
朝食を頂くとしよう。
今日の朝食のメインは白米に納豆だった。
白いご飯と納豆をメインと呼ぶのはどうかと思うが、朝食にはふさわしいメニューだっただろう。
朝食後に、凛が上条を訪ねてきた。
何でもエーデルフェルト邸の地下に捕縛している
そして今、上条は彼が捕縛されている部屋の前にいる。
傍らにはイリヤ、クロ、美遊、凛、ルヴィアの5人も。
バゼットはバイトのシフトが入っていたらしい。
彼女は特に
「…………アイツ、いろいろ大丈夫なのか?」
「ええ。
「ありがとう。じゃあ………事情聴取と行くか」
上条は唾を飲み、一気に扉を開け放つ。
そこには、かの
「……………テメェか三下」
「いい加減その呼び方はやめてくれ。それとも、俺を呼びたくないのか?」
十字架に磔にされぐったりとした
負けじと上条も精一杯の挑発をしてみる。
「そんなことはどォでもいい。……そこのガキ共もそうビクビクすンな。この布、そォいう効果なンだろ?」
チョーカーを破壊されても、頭の回転は早いようだ。
なら、まず最初の質問は____
「………お前、能力が戻ったのか?」
「俺が知るか。俺だって教えて貰えるンなら教えて貰いてェぜ。このワケわかンねェ状況をな」
本人も把握できていないようだ。
能力が復活したのには何らかの原因があるのだろう。
しかし、現時点ではその原因はわからない。
本人も知らないのなら、聞く意味は無いだろう。
次の質問は____
「何で……あんな酷い事をした…?
「________」
珍しく、
「俺は____わからねェ。自分でも、何をしたのか。ハッ、何だろォな………アレじゃ、ただの殺人鬼じゃねェか」
笑みを浮かべながら、語る。
その笑みは喜びからなるものではない。
彼のやりきれない気持ちが作り出した笑みだった。
「楽しかったンじゃねェか、多分?俺も、あの
「__________っ」
彼は
だが、それは決して許されることではない。
「心変わりしても、身体が覚えてたンだな。気付いたときには笑ってたぜ、俺は。俺のやることじゃねェってなァわかってる。今更こンなことしたって、なンも変わンねェってのもな。でも………止められなかった」
今まで、誰にも見せたことがない悲しい顔だった。
「俺は所詮殺人鬼だ。希望を奪ってく泥棒だ。学園都市の頂点は、こんなにもだらしねェ奴なンだよ。なァ、わかるか?俺の今の感情が。テメェのとこにも、あのシスターがいンだろ。ならわかるよな。テメェがその手を血で濡らして帰って、そのシスターのガキがどんな顔をするか。ハハッ……テメェみてェな善人じゃァ想像したこともねェだろォな。俺にはな、
誰にも見せなかった涙を、上条に見せる。
上条は、
どの感情が本音で、どの感情が建て前なのか。
もう、わからなかった。
「____ったく、俺が人前で泣くなンてな。やっぱガタがきたか」
路頭に迷ってしまった、自らの方向音痴を。
どちらに進めばいいのかわからない、自らの判断力の無さを。
そこに、上条の喝が響く。
「てめぇは……どうしてぇんだよ」
「______あァ?」
「てめぇは何になりたいんだ。殺人鬼か?正義の味方か?いい加減はっきりしろよ!そんなんじゃ誰も喜ばねぇぞ!もっと殺したいんなら殺せばいい。
上条の説教に、辺り一帯が静まり返る。
「……ンだよ。そンなのでいっちょまえに説教したつもりか?全然、響かねェじゃねェか…」
その言葉に、上条は一歩退く。
しかし、
「だが……考え直す気にはなった。俺は、しばらくここにいる。その選択肢を決めれるようになるまでな」
それと同時に、正義の味方であるという善を孕んでいた。
どちらの道を進むかは、本当に彼次第なのだ。
だからこそ、彼は悩むことにした。
悩むというのは、決して罪ではない。
生きるための選択なのだ。
殺人鬼だった
正義の味方だった
彼は、人間らしく、悩む。
それが、人としての営みなのだから。
「
「何言ってんだテメェ。気持ち悪ィンだよ」
そんな罵倒を、上条は笑って受け流す。
心の何処かで、こうやって分かり合えるのを、上条は心待ちにしていたのかもしれない。
「さァ………重てェ話はやめようぜ。まだ聞きてェことがあンじゃねェのか?言ってみろ」
「ああ、それもそうだな。じゃ、遠慮なく」
そして、上条は第三の質問を投げかける。
「_____誰に指示された?」
「_____それか」
急に見つめられて、イリヤはぽかんとしている。
「えっ、何?…………え、そういうのやめてよ!?」
「バカが。ンなこと言うと思うか」
最もなことを言われて、イリヤは我に返りしゅんとする。
変な反応をしてしまった自分を嘆いているのだろう。
「まァいい。そんな気分じゃいられなくなるだろうしな」
「え……?」
再び、イリヤはぽかんとする。
今度は、言葉の意図に対してだった。
「いいか。俺はアイツの名前を言う。それは、イリヤスフィール、クロエ、テメェら二人にとって
「一番近くて、一番遠い_____?」
そして、
その、忌々しくも愛しい名を。
「衛宮切嗣______テメェらの父親だ」
やっぱりなんか違う…