お前どう?
アスファルトが揺れている。
煙をふかす轟音と馬の嘶きが、人っ子一人いない鏡面界に響く。
「ハハッ!どうしたツヴォルフセイバー、これじゃ俺のがまだまだ早いぜ!」
ハーレーに乗るツヴォルフセイバーと、ブケファラスに跨る上条。
実際二人の距離はそれなりに離れていて、かつ上条が有利だ。
ブケファラスは宝具でもあるため、その辺りの補正によってハーレーを上回ったのかもしれない。
『ッ_____!』
「は!?お前…ッ!」
突如、ツヴォルフセイバーが片手に持った剣から赤雷が発せられる。
優勢の上条が油断していたというのもあるが、レースで勝負しようと持ちかけてきたあちらからルールを破ってくるのは流石に予想できない。
いや、殺し合いだから何でもあり、ということなのだろうか。
(契約者。あの赤雷、恐らく彼奴の宝具たる赤剣より放たれしもの。我が剣なれば相殺も叶うはずだ)
「わかった!」
じいじ(山の翁)の助言で上条は剣を構える。
そして、再び飛んできた赤雷を剣で斬り払う。
青い炎が、空気を灼く。
「これじゃ埒が明かねぇ…引き離すぞ!」
応じるように嘶いたブケファラスが更に加速する。
あと数分もすればイリヤ達と待ち合わせたゴールまで到着するだろう。
だが、ココで変化が現れた。
距離を離したことで赤雷はことごとく地面に外れたが、赤雷を発する音そのものが止まったのだ。
「なんだ……?」
怪しく思った上条は思わず後ろを向く。
気づけば遥か遠くにツヴォルフセイバーの姿が見えた。
そして、その異様な光景に気づく。
ハーレーが、鎧を纏い始めたのだ。
赤い鎧を纏ったハーレーのフォルムは鋭く、針のように尖っていた。
「そっか、空気摩擦を…!」
新幹線と同じだ。
日本の新幹線はアヒルの口のようななだらかな流線形になっている。
これは先端を尖らせることで空気を流線形の斜面で受け流し、極力空気摩擦を減らすことでより速度を出すための工夫である。
それが、あの鎧のギミックなのだろうが、それだけでここまで追いついてこれるとは思えない。
何かマシンのスペック面を補うような何かがあの鎧にあるに違いない。
現に、どんどん近づいてきている。
「マジか、あの野郎…ッ!」
ブケファラスはまだまだ速度を出せるだろうが、これ以上速度を出すと人の身である上条の反射神経がついていけない。
一刻も早く彼等に合流する必要があるが。
そんな希望を抱き、角を曲がる。
「___いた!」
そこには、現実世界で先回りしたイリヤ達がスタンバイしていた。
この時間を稼ぐために上条はツヴォルフセイバーより前に出て、あえて遠回りをしていたのだ。
「よし、あと少しで___」
(契約者、背後に気をつけろ。何やら強大な気を感じる)
なに、と振り向くと、ツヴォルフセイバーの周囲が赤いオーラを纏っていた。
そのオーラの出処は___剣。
「野郎、宝具使う気かよ!?」
そして予想通り、剣から光線が発射された。
それは光線というにはあまりにも太く、力強い一撃だった。
「防げるか……!?」
上条は不安ながらも右手を差し出す。
宝具が右手と衝突する。
防げているようだが、それでも右手に強い圧を感じる。
「ぐ……ダメだ…圧が強すぎる……!」
今までの魔術の域を超えた攻撃に、上条はうろたえる。
いや、或いは。
こちらに来てから
「ッ___
「遅ェンだよ三下ァ!」
宝具の停止を確認した上条は、合図で横にそれる。
そこに、能力をオンにした
それはただの蹴りにすぎないが、能力をオンにした彼が本気で蹴れば、それこそ空間そのものを刺激する重圧となる。
『_____!』
その圧にハーレーの鎧も流石に耐えきれず、ハーレーは崩壊し爆発する。
だが、相手は
その程度で死ぬはずがなく、爆発の上から剣を振り下ろしてきた。
「おおおおおォォッ!!」
転倒しそうな低姿勢で、ブケファラスが駆ける。
跨る上条はその大剣でツヴォルフセイバーの剣を下から防ぎ、ブケファラスが姿勢を起こす衝撃で弾き飛ばす。
吹き飛ぶツヴォルフセイバーだったが剣を地面に突き立て自らを静止し、赤雷による加速で一気に接近する。
「みんな、作戦通りに!」
そう言い、一斉に散る。
イリヤと美遊は左右に。
「
上条は、同じセイバーの力を宿し正面へ。
白銀の拳と赤色の剣がぶつかり合う。
散る火花は文字通り花弁の如く、二人の戦いの激しさと、その闘争の美しさを物語っている。
そして、左右双方から迫り来るはイリヤと美遊。
杖から放つ魔弾は、ただ剣を握る手を狙っていた。
だがツヴォルフセイバーは上条を相手にしつつそれを弾き、一切の隙きを見せない。
後方からはクロと
しかし、四人が集中しており、かつツヴォルフセイバーが激しく動き回るため、狙いがつかない。
「クソ、あの野郎止まれってンだよ……」
このもどかしさに、
『f、ff、fffffZ!』
「こいつ____ぐっ」
一瞬の油断を突かれ、上条は吹き飛ばされる。
だが、今のは油断せざるを得ない。
なぜなら、ツヴォルフセイバーは今確かに「言葉」を話した。
恐らく地球上の言語ではないが、それは確かに言葉として成立するだろう。
『fZ!』
上条が消え攻めが薄まったところで、ツヴォルフセイバーは反撃に出た。
剣を地面に突き立て、それを軸として回転し飛ぶ。
飛んだ先にいたのは美遊だ。
「がはっ!?」
飛んできた勢いはそのままに、美遊の腹を壁のようにして跳ね返る。
もちろんその分の衝撃が美遊を襲う。
そして、美遊の反対側にいたのは___イリヤだった。
「な………
ズィーベンバーサーカーのカードを構え、
が、一歩遅かった。
「_____カ、は……っ?」
「ッ_______イリヤぁっ!!」
美遊が叫ぶ。
ツヴォルフセイバーが嗤う。
イリヤの腹には、一本の剣が突き刺さっていた。
「っ!」
間桐邸。
桜は目を覚ます。
ひどい汗だった。
服は引っ付き、髪は乱れ、枕には尿を漏らしたかのように染みができていた。
ああ。
また、あの夢だ。
「はぁっ___はぁっ____!!」
あの骸骨面とは違う、別のイメージ。
そこは丘だった。
夕暮れ時の、赤い空。
そして、地面も赤い。
夥しい程の死体の中に、彼女は立っている。
その手には、血濡れた剣が握られていた。
桜に相対するのは、一人の少女だった。
剣を失い、仲間を失いながらも少女は屈しなかった。
少女の手に、槍が握られる。
気付いた頃には、少女は目の前で桜の腹を貫いていた。
その感覚が、今でも残っている。
命が犯されるあの感触。
生温かい血が肉を伝うあの快感。
そして、言いようのない異物感。
まるで_____
「ひっ____!」
考えを巡らせていると、頭がおかしくなってしまいそうだった。
桜は掛け布団を翻し、膝を抱え込んだ。
歯はがくがくと震え、視界がちかちかと点滅する。
決して胡乱ではない、あの痛み。
明晰な死を、彼女は思い描かずにはいられなかった。
「___ひ、ひひっ___あはは__」
なぜ、こんな夢を見るのか。
なぜ、こんなにも苦しいのか。
なぜ、こんなにも可笑しいのか。
今の彼女にはわからない。
真実は、全てを失ってこそ明かされる。
ツヴォルフセイバーが剣を引き抜くと、イリヤから鮮血が溢れ出る。
イリヤは声もなく倒れた。
「マズイ、早くペインブレイカーを……っ!」
そうはさせまいと、血塗れのツヴォルフセイバーが立ちはだかる。
その愉悦に浸った笑顔に、上条は殺意しか覚えなかった。
「てめぇ……」
その時。
横から、叫びとともに一撃が入った。
美遊だ。
「あああああああぁぁぁぁーーーーーっ!!!!」
もはや
剣術もへったくれもないその暴力的な剣戟を、ツヴォルフセイバーは逆に防ぎきれない。
あまりにも乱れすぎているのだ。
「よし、今か……!」
斬り合う二人をよそに上条はイリヤのもとに駆け寄る。
そしてケースの中からフィーアキャスターのカードを取り出し、身に纏う。
「
いくら宝具の力であろうと、死んだ命を蘇らせる事はできない。
それはもはや魔法の域に到達しているからだ。
しばらくして、イリヤの傷が塞がり、彼女の寝息が聞こえた。
一安心だ。
「___にしても、美遊……」
それはまさにバーサーカーそのものであった。
サファイアをあまりにも強く握りしめているため、掌から血が出ている。
だが、彼女は恐らくそれにすら気付いていない。
「しねっ、しねっ、死ねっ、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね、死ねえええええぇぇぇえぇぇっ!!!」
ツヴォルフセイバーを殺すことにしか意識が向いていなかったからだ。
「オイ、どォしたアイツ。トチ狂いやがったか」
「……かも。前からイリヤに異様な執着があるのはわかってたけど、だからってあんな美遊見たことない………」
それは友情か、それとも愛情か。
イリヤに惹かれた美遊は、人知れず彼女を欲した。
雪のように白い肌も、宝石のように赤い瞳も、水滴のように艷やかな唇も。
もはや昔のようにはならない。
今、この二人は「友人」関係にはないのだ。
故に、彼女は怒り狂った。
イリヤを汚したその愚行を、許しはしないのだ。
「お、おい美遊!イリヤなら大丈夫だから落ち着けって…!」
「っ!」
その言葉を聞き美遊は我に返る。
「イリヤ!」
そして振り向きざまに、彼女の名を叫んだ。
白雪姫のように眠る彼女を見て、安堵した。
だが、彼女の意識は依然イリヤにあった。
背後からの攻撃に、気付くわけもない。
「美遊、後ろだ!」
ツヴォルフセイバーは魔力を放出させ、美遊のすぐ側まで迫っていた。
この距離では、振り向く頃には遅い。
その時だった。
後衛を任されていた
「あンまり手ェ出すンじゃねェ豚が」
地面と足とのベクトルを変換し、高速で接近したのだ。
その蹴りは腹に強くめり込み、ツヴォルフセイバーを吹き飛ばした。
『ッ、_____!!』
状態を立て直すには十分なほどの距離が空いた。
だが相手もすぐに攻撃を再開するだろう。
「美遊、しっかり!落ち着いてアイツを倒せ!」
「ごめんなさい……すぅ、はぁ___」
深呼吸。
彼女が心を休めるには、それで十分だった。
「さぁ、来るか______なに?」
上条はてっきり、ツヴォルフセイバーが突っ込んでくるものかと思っていた。
だが違った。
ツヴォルフセイバーは剣を両手で持ち、その場で止まっていた。
「あの姿勢、もしかして_______」
「何かわかるのか、美遊?」
「宝具が来ます!」
その剣は、赤雷を帯びる。
そして、その赤雷は巨大な剣と化した。
最も危惧していた事態。
対軍宝具の展開である。
「マズイ、あの規模はとうまの右手でも防ぎきれない!」
クロが叫ぶ。
確かに、あれは持続的に放射される魔力。
上条の右手で一気に消し切る事はできず、右手の範囲から溢れた余剰エネルギーが周囲を襲う。
「ああ。今の俺の右手じゃ、あれは無理だ」
だが、上条は前に出る。
確固たる自信を持って。
「なら、他の右手で立ち向かえばいい」
そう言い、フュンフセイバーを纏う。
その銀腕は、確かに輝いていた。
美遊ははっとする。
ズィーベンバーサーカーとの戦いで用いた、聖剣エクスカリバー。
その星の輝き、そのものだった。
「あの右腕_____」
「
その言葉とともに、銀腕は魔力を纏う。
聖なる剣をその身に宿し、己が魂を糧として放つ。
それを見て何を思ったのか、ツヴォルフセイバーも笑って剣を振り下ろした。
『_____
邪剣が放たれた。
禍々しき炎は真っ直ぐに上条へと向かう。
それに呼応するように。
上条もその
「
二つの光がぶつかった。
そこから放たれるのは火花ではなく、風圧でもなく、夥しい魔力。
銀色に輝く聖剣の如き一撃と、それを振り払わんとする邪剣。
お互いに差は無く、防ぎ切ることも攻め切ることもなかった。
「ぐ___おおおおぉぉっ………!」
だが、上条は一歩踏み出した。
一歩ずつ、ゆっくりとツヴォルフセイバーに迫る。
彼の強い意志は宝具を押し退け、右手を焼きながらも進む。
『u______!?』
人間が英霊に向かって突き進むというその異様な光景に、ツヴォルフセイバーは動揺する。
その瞬間。
一瞬、宝具の邪光が弱まった。
「ッ___行っけええええええええぇぇえぇえぇ!!」
上条は駆けた。
唯一訪れたチャンスを、無駄にしないように一生懸命駆けた。
そして、辿り着く。
見えたのは、冷や汗に濡れたツヴォルフセイバー。
「取った!」
銀腕の一撃が、ツヴォルフセイバーを切り裂いた。
それにもはや叫びはなく、彼女は光に呑まれていく。
「はぁ…はぁ…」
『_____ッ』
未だ、決着はつかず。
宝具を放ちお互いに疲弊し、もはや戦う気力も残っていない。
上条は、いつものウニ頭に戻っていた。
「おい、大丈夫か」
「
差し伸べられた手を取り、上条は立ち上がる。
それを同じくして、ツヴォルフセイバーも剣を突き、杖のようにして立ち上がる。
「アイツ、まだやる気か…っ」
然り。
彼女も泥に呑まれようとて騎士。
己が命が尽きるまで、その剣は止まらない。
そんな騎士道は、
「____新たな天地を望むか」
その一言で、潰えた。
次にツヴォルフセイバーが目にしたのは、血。
びしゃりと地面にへばりついた鮮血。
その水溜りには、一枚のカードが。
ツヴォルフセイバー。
心臓の代わりとなる自身の
『3____aa、45____』
次の瞬間。
ツヴォルフセイバーの残骸が、跡形もなく消え去った。
「一体何が____」
「何が、と言われても。自分でもわからないので」
声がした。
声の方を向くと、そこはまるで異空間だった。
青い光帯を背に立ちはだかる六人の人影。
黒衣に身を包んだ青年。
ローブで身を隠した男。
白衣を着た男性。
赤い髪の女。
白髪白髭の老人。
そして___どこにでもいそうな、制服の青年。
「お前達は……」
上条は問うた。
自身と対をなす、陰の陽たる存在に向かって。
「そうですね、自己紹介でもしましょうか。ではぼくから」
青年は名乗った。
その名は、この先ずっと上条達に付きまとう忌み名となろう。
「上里翔流………
無理してイリ美遊のフラグを建てる私
ペース上げれるよう頑張ります