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衛宮家、イリヤの部屋
夜11時を回った。
音はなく、たまに車の走行音が聞こえる程度だ。
家族全員が寝静まった頃だが、二人は起きていた。
「ほらイリヤ、もう11時よ」
ベッドの横で、赤い外套の戦闘服をまとったクロが呼びかけてくる。
未遠川での
「わかってるって……
「かしこまりましたー!」
ベッドの中から光が溢れる。
マジカルルビーの機能による
これによって魔法少女へと転身したイリヤが布団から出てくる。
「う~ん…転身したにしても、まだ時間あるよねこれ……」
「じゃあどうする、私としばらく魔力供給でもする?ていうかして?ちょっと魔力が……」
「えぇ…するの…?」
「ゴチャゴチャ言わずにさっさとベッドの中入る!」
イリヤを強引に寝かせ、隣に自分も寝そべる。
ベッドの中がもう狭いので、お互いの吐息が掛かるくらいの顔の距離だ。
「はぁ…はぁ…クロの息、ちょっと熱いよ…」
「アナタだって……ちゅっ」
「んふっ…やっ、そんな急に…んんっ!」
唇を合わせ、イリヤの口内から唾液を吸い取る。
クロはそれだけでは足りないらしく、唇の周りに付着したものや、イリヤのカラダに垂れたものなども舐めとる。
「クロっ…そんなとこまで、舐めちゃ……んあぁっ!」
「静かに…先生が起きちゃうわよ………?」
「ぐぬぬ…こうなったら、クロのも吸ってやるー!」
「へ…!?ちょ、イリヤやめ……んふぅっ!」
遂にイリヤも攻め始めた。
復讐心からか、クロよりも激しく吸い、じゅるるっという音を立てる。
魔力を吸って出しての連続なので、なかなか魔力がクロに供給されない。
「ああん、ああ…すっご……気持ちいい…」
「な、何が気持ちいいよ!こうなったら、魔力全部吸い取ってやるんだから!んっ…ちゅ…ふっ……」
「んむっ、んん…!この……!」
するとクロは、イリヤのスカートの中に手を入れ、彼女のパンツに手を掛ける。
「アンタのパンツの中も弄り回して……!!」
「え!?いやっ、それは…!」
クロがイリヤのパンツを脱がせようとした、その時、
「んん…イリヤ、ちゃん………?」
『!!?』
久宇舞弥の声が聞こえ、2人の身体がビクンと震え上がる。
布団から顔を出して確認する。
「むぅ…いりやちゃ……すー…」
どうやら寝言だったようだ。
「……静かにしようか…」
「そ、そうね…!やっぱり静かが一番ね!」
その後しばらく魔力供給をし、万全の状態で家を出た。
「……で、なんでバゼットまでいるのかしら?」
未遠川、河川敷。
午前零時きっかりにそこに集まったイリヤ、クロ、美遊、凛、ルヴィアの5人。
と、もうひとり……
「決まっているでしょう。私はクラスカード回収のために派遣された者。クラスカードのこととなれば飛んできます。ちょうどバイトのシフトもありませんし」
白い筒を背負った彼…のように見える彼女は、バゼット・フラガ・マクレミッツ。
赤紫色の短髪に茶色のメンズスーツ、つまり男装の麗人だ。
実は、クラスカード回収のために魔術協会から派遣された封印指定執行者。
時速80kmの高速パンチを放つことができ、単純な戦闘能力なら歴代執行者一だと自負している。
諸事情によりバイトのシフトが凄まじい。
「ちょうど戦力も不安だったし、呼んだのよ。いや、貴方達が弱いってことじゃないわよ?敵は強大、念には念を入れて、ね」
「それより、報酬は貰えるのでしょうか?タダで私をコキ使うなんて図々しいにも程がありますよ。片腹痛いわ」
「ビーフジャーキー1袋(¥400)でいい?」
「充分です」
「充分なんだ……」
金欠により、もはやビーフジャーキー1袋でも満足らしい。
さすが
「さあイリヤさん、出撃ですよぉっ!」
「わかった、
「かしこまりぃ!」
イリヤたちの存在する現実世界とカードの眠る目的地である鏡面界を繋ぐのはカレイドステッキであるルビーとサファイアの仕事だ。
「半径2mで反射路形成、鏡界回路一部反転します!」
半径2mの範囲に魔法陣が描かれ、輝く。
2つの世界をルビーが繋いでいるのだ。
「行きますよ〜………
グワンと、地面と視界が大きく揺らぐ。
表現しようのない幻想的な空間が辺り一面に広がる。
そして視界が眩い光に包まれ______
______辿り着いたのは、鏡面界の未遠川。
冬木、新都
人っ子一人いない新都を歩く青年、上条当麻。
今までの時間で、上条当麻は多くの情報を得ていた。
まずここは、冬木市という学園都市とは全く縁のない市だということ。
次に、上条当麻は冬木ハイアットホテルというところに落ち、紫の霧は未遠川という川から出ているということ。
そして、ここは人の住む現実世界ではないということ。
「ホント、何もねぇなー……」
先程は夕方だったのに、ホテルで休み過ぎたせいですっかり夜も更けている。
この新都は、冬木市の中では比較的発展した区域であり、未遠川によって区切られている。
とは言うものの、未遠川沿いにはちゃんと住宅地も存在するらしい。
現在、住宅地に入ったところだ。
「……なんか
上条当麻は夏の頃の思い出にふける。
これによって彼の心には強いトラウマ(?)が植え付けられた。
「うぅ…あれは嫌な事件だったな………」
あんなことはもう二度と体験したくない。
女の子が大男になったり、大男が
などと考えていると、
未遠川の方が一瞬光り輝いた。
「なっ、なんだ!?」
先程まで全く音がなかったのに、なぜか川の方が一層騒がしくなった。
打撃音や宝石の砕け散る音、魔力が放出される音や肉が裂かれ血が噴き出る音。
___何かが戦っている。
「誰かいんのか…!?クッソ、急がねぇと!」
上条当麻は走りだす。
鏡面界、未遠川
この場所には、前も訪れていた。
ずっと前、まだ美遊がイリヤのことを”イリヤ”と呼ぶ前だった。
5枚目のクラスカードの
あの頃に活躍したアインスアーチャーのカードは、今はクロの
しかし、その場にいたのは……
「………ナニコレ、タコぉ!?」
周囲一帯に跋扈する緑に青紫のタコのような怪物。
川にいる紫の霧を放っているこの巨大な肉塊が例の
おそらくあの中にいるのだろう。
「使い魔の大量召喚……キャスターですか」
「なるほど。9枚目、ノインキャスターってとこね」
七柱あるサーヴァントのうちの一柱、
高い魔力を持ち、陣地作成能力と道具作成能力にも長けている。
その反面身体能力は極めて低く、他のサーヴァントは殆どが対魔力の耐性を備え持っているため、キャスターは”最弱のクラス”とまで言われている。
アインスアーチャーとツヴァイランサーを単独で撃破したバゼットならイチコロだろう。
しかし、そうもいかない。
問題なのは、使い魔の量だ。
キャスターは皆揃って大量の使い魔を使役しているのだが、この使い魔共は幾ら何でも多すぎる。
周囲の使い魔を殲滅しないかぎり、ノインキャスターが入っている肉塊に辿り着くことすらできない。
さらに、あの巨大な肉塊は未遠川の中央に鎮座しているため、とても戦える状態では近付けない。
アーサー王の精霊から受けた加護とやらがあれば水上歩行も可能になるのだが、そんなものはない。
たとえ辿り着いたとしても、中からどんなのが出てくるかは検討がつかない。
おそらくノインキャスターは肉塊に籠もってずっと出てこないだろう。
奴を外に連れ出すにしても、至近距離で作業を行うことになるため、そんな状態で襲われたらただじゃ済まない。
「くっ、邪魔ですわねこのタコ!私、生憎タコは嫌いでしてよ!」
「ほんっとキリがないわね!あとルヴィア、あんた全国のタコ好きジャパニーズに謝ってきなさい!」
「こ、こんな状況でもツッコミは欠かさないんだね凛さん……おっとっと!」
「ありゃあもう意図的じゃなくて無意識ね……っと、近寄らないで!」
それにしてもタコが多い。
ろくに会話もできやしない。
たとえキャスターだとしても、この量の使い魔を召喚できる魔力は異常だ。
何か別のものを魔力源としているのだろうか…?
「……わかったわ!あの肉塊に近寄れないのなら、遠距離から狙撃すればいいのよ!美遊、
そういうとクロは弓を投影した。
突き立てた対象の魔術効果を無効化するというその短剣は、まさに
どうやって取り出すのかというと、
「うん……フィーアキャスター、
美遊がサファイアにフィーアキャスターのカードをかざすと、カードが光り出し、奇形の短剣__
そのカードを、その
ちなみに、クロの投影した弓は、本来アインスアーチャーのカードで
矢は別売り。
美遊はクロに
「何に使うの?………まさか!」
「そう、そのまさかよ!」
クロは、
矢の代わりにして撃ち出した。
「なるほど、
撃ち出した
「よし、これで中身が……!」
肉塊から出てきたのは、魚人面の男だった。
肌は病的なほど白く、長い髪はボサボサで、狂ったような笑みを浮かべている。
皮膚には、血飛沫が布に染みたような痕があった。
青と赤紫の道化師のような服装だが、腕や脚など、白い鎧の一部が残っているところもある。
鋭い爪の生えた手には、赤く光る、人の皮膚で出来た本のようなものが握られていた。
『フッ、フフッ、フヒヒ、ヒハ、ヒハハハハハ……!』
精神が狂っているような笑い。
仮にも英霊なんて呼べるようなものじゃなかった。
「あの本がノインキャスターの魔力源ね…さて、水上のアイツにどう攻撃するか……」
遠坂凛は考えようとしたが、使い魔に邪魔されてなかなか考えられない。
「もうっ、邪魔ね!…そうだ、いいことを思いついたわ!」
どうやら、彼女に考える時間など必要なかったようだ。
「アーサー王は水霊の加護を受けてたのよね?賭けになるけど、フュンフセイバーを
力を自らに上書きするサーヴァントの疑似召喚、いわば自分がサーヴァントになるということだ。
これによって、宝具は本来のモノとほぼ同じ性能で現界することができる。
「さぁ、やりましょうイリヤさん!」
「わかった!
フュンフセイバーのカードをルビーにかざすと、瞬く間にイリヤが光に包まれる。
そしてイリヤは、
清楚な白いドレスに、ポニーテールになった髪。
そのドレスは、花畑に咲く美しい一輪の白百合の花のようだった。
そして右手には金色の剣……
「水の上は……」
フュンフセイバーを
すると、水面には波紋が広がるが、イリヤは沈まない。
遠坂凛の仮説は正しかったのだ。
「歩ける!なら、考えてる暇なんてない!」
イリヤはそのまま走りだした。
フィーアキャスターまではかなりの距離があるが、
邪魔しようとする使い魔を斬り伏せ、水上を突っ走る。
そして、あっという間にノインキャスターの目の前に辿り着く。
「行ける……はああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
しかし、
『ゥ…アアァ、オオアアアアアァァァッ!!』
ノインキャスターは、余っていた右腕でイリヤの腹を思い切り殴った。
「ごっ……かはっ…!?」
「イリヤっ!!」
計り知れないほどの衝撃がイリヤの腹を襲い、血を吐き出してしまう。
痛みはバゼットに殴られた時以上だった。
「何よアレ……話が違うじゃない、本当にキャスター!?」
遠坂凛にとっても想定外の事態だったようだ。
単純に筋力が強い個体なのなら、イリヤはただ殴り殺されてしまうかもしれない。
「う…げほっげほっ、おえぇっ……!」
イリヤは座り込んでしまい、まだ立ち直れない。
このままでは本当に殴り殺されてしまう。
「ぐっ…何やってんのよイリヤ!早く戻って来なさい!」
クロには遠坂凛によって呪いがかけられているので、イリヤが痛いとクロも痛い。
つまり、このままではクロも死んでしまう。
だが、ノインキャスターはうずくまっているイリヤの腹を蹴り続ける。
『アアッ!アアッ!アアアアアァァァァッ!!』
「ぐっ…ううっ……がっ…!」
「くはっ…コッチにまで、痛みが…!」
果てしない痛みに2人は恐怖を覚えていた。
すると今度は水中から複数の触手が飛び出てくる。
同時に、地上からも触手が飛び出る。
間違いなくノインキャスターによるものだろう。
イリヤはその触手に投げ出され、地面に身体をぶつける。
それに続き、ノインキャスターもゆっくりと上陸する。
「ぐあっ!はぁ…はぁ…」
「イリヤ…!」
しかしこれで勘弁してくれる筈もなく、今度は触手がイリヤとクロを拘束する。
『フ、フフフ、フフフフフ…!』
「2人を離して…
美遊は触手目掛けて魔力砲を発射する。
しかし、見た目に反して触手が強靭で、なかなか破壊できない。
ルヴィアが宝石魔術で触手を攻撃しながら美遊に話しかける。
「何をしているの美遊!このままでは、2人共死んでしまいますわよ!」
「わかってます!!わかってるけど、けど……ッ!」
「ぬうっ……ふんっ……!…ダメです、びくともしません」
バゼットもなんとか触手を引き剥がそうとするが、力が足りない。
そうこうしているうちに、イリヤ達2人はどんどん危険な状況に追い込まれている。
「ぁ……うぅ…りん、さ……」
「くっ…こうなったら、本体を直接叩いて…………きゃぁっ!」
ノインキャスターに宝石魔術で攻撃しようとするが、触手によって吹き飛ばされてしまう。
「ぐはぁっ!あぁ……イリヤ……!」
「クロ……こんなお姉ちゃんでごめん、ね……」
「誰が…お姉ちゃんよ…………くぅっ!」
『フハハハ、アヒャヒャヒャヒャヒャ、ヒャァーーッハッハッハッハッハッハ!!』
相変わらず狂笑を絶やさないノインキャスター。
このままでは二人共死んでしまう。
あぁ…私達はこんなにもあっさり終わっちゃうのか………
そう思っていた、次の瞬間、
「おい、テメェ……」
どこからか声がした。
「いい年してんのによ……」
声は冬木大橋から聞こえてくる。
ノインキャスターのほぼ真上だ。
「幼い女の子を……」
声の主は冬木大橋から飛び降りると、
「____いじめてんじゃねぇぞッ!!」
ノインキャスターを数mも殴り飛ばした。
『ボハァッ!ア、アアァッ!!?』
ノインキャスターの意識が触手から外れたため、イリヤとクロが拘束から解かれて落下する。
「イリヤ…!!イリヤ、大丈夫…?」
「う、うん……もう大丈夫…それより、あの人は……?」
橋から飛び降りてきたのは青年だった。
Yシャツにズボン、どこかの学校の制服だろうか。
どうセットしているのか、髪はウニのようにボサボサになっている。
一変何の変哲もないただの青年だ。
なのに、なぜ鏡面界にいるのだろうか。
「___見たところ、あの本が魔力源だな」
「……それで、どうする気なのよ…?」
「決まってんだろ……」
青年は退屈そうにつぶやく。
「……消す!」
すると、青年は使い魔が蔓延る中に走っていった。
「ちょ、ちょっとアナタ、危険すぎますわ!ただの高校生が……」
「ただの高校生だからこそ……魔術も能力もナシで
青年が使い魔を右手で一発殴ると……
バキンという音を立てて使い魔は砕け散った。
「え…うっ、嘘ぉッ!!?」
「使い魔を……一撃で倒した…!?」
「いや、アレは倒したというより……”消した”の方が正しいわね」
青年は次々と使い魔をその右手で消していく。
「なるほどな…この使い魔も魔力で構成されたもんだから消せるってことか。てかコッチの世界の魔術にも通用すんのな」
予想外の展開に、ノインキャスターも流石にビビる。
間近まで接近した青年がノインキャスターに殴りかかろうとする。
ノインキャスターは、慌てて頭を後ろに引く。
『ヒ、ヒィッ!!?』
「わりぃけど、俺が殴りてぇのは…」
「そっちじゃねぇんだっ!」
ノインキャスターの左手を右手で殴る。
その手の中には、魔力源の本が。
『オ、オオ、オオオォォ……』
本は青年の右手によって、消滅した。
それに続いて使い魔も次々と消滅していく。
「よし今だ!コイツを丸腰にした、やっちまえ!!」
「
イリヤがルビーから魔力の刃を放つ。
その刃はノインキャスターへまっすぐ進み………
ノインキャスターの半身を真っ二つにした。
『アァァ、アアアァァァ……ジャ……ジャン……………ヌ…………』
ノインキャスターは黒く霧散して消えた。
残ったのは、老人の絵が描かれた一枚のカードのみ。
「では、回収しちゃいましょう、イリヤさんっ!」
「うん。………クラスカード、ノインキャスター、回収…完了ーーーーーッ!!」
周囲から安堵の声が聞こえる。
………バゼットだけ、どこか悔しそうだったが。
「うぁーー、疲れたぁぁーーーー!……で、ここどこだろう」
「とりあえずそこのアナタ。カード回収に貢献してくれたのはありがたいわ。でもあの右手、ただものじゃないわよね。一体誰なの?」
「ん、俺か?俺は上条当麻_______
__________ただの高校生、ってな」
数時間後、朝、エーデルフェルト邸
「ぐがーーー……ごぉーーー……」
上条当麻はベッドで眠っている。
あの戦いの後、上条当麻は行き先がない、ということで少しの間エーデルフェルト邸で世話になることになった。
疲れきっていたので、今ではもうすっかり夢の中だ。
「……うわぁー下品、しかも寝相悪っ…普段どんなとこで寝てんのよ……」
メイド服で箒を片手に持った遠坂凛は上条当麻をキツイ眼差しで見ている。
ちなみに上条当麻が眠っているのは、エーデルフェルトの執事オーギュストの部屋だ。
「あら遠坂凛、彼のことが気になって?」
「ばっ……そ、そんなわけないでしょ!まだあって半日足らずなのに…」
「………まぁそうですわよね。今時、こんな類人猿に興味を持つ方が珍しいですわ」
地味にひどい発言をするルヴィア。
同じ高校生でも衛宮士郎と
違ってくれ。
「ん〜……まぁ、興味は持ってるんだけどね。右手に」
「そうそう、
そう、上条当麻の、この異常な右手。
ノインキャスター戦にて、使い魔達や、魔力源たる本を消滅させたのだ。
「彼がこの屋敷に入ってから、どうも結界が機能していませんの」
「結界が?なんで?」
「この右手が原因なのは確かなのだけれど、
「恐ろしいわね…こんなの即封印指定よ封印指定」
2人は考える。
そして、考えついた結果は……
「お願いイリヤ、そっちであの上条とかいうのを引き取って!」
唐突なお願いにイリヤは少し驚く。
「えぇ…なんでうちなんですか?」
「実は、アイツがエーデルフェルト邸にいると、右手が作用しているせいか結界が機能しなくなってるのよ。それに男子なんてアイツだけよ?それに対して、そっちの家は結界もないし、男子だったら衛宮くんがいるでしょ?だから、ね?お願い!」
イリヤに向かってこんなに頭を下げている遠坂凛は初めてだ。
隣では、ルヴィアと美遊も頭を下げている。
「いいんじゃないかしら?男が2人もいたら、なんか楽しそうだし!」
「えー…これ以上男が多くなると、暮らしにくくなっちゃうじゃん…しかも居候だよ?」
「細かいことはいーの!さ、あの人はうちが引きとるわ。良かったわね3人共!」
「ちょっ、勝手に決めないでよ!私の意見も……あれ?」
気が付くと3人はもうとっくにいなくなっていた。
代わりに、目の前には上条当麻がいた。
「……………………」
「…………………♪」
「………………何か俺の扱いひどくね?」
「というわけで……新しく当麻くんが家族の一員に加わることとなりましたーー!」
喜々として家族全員に報告するアイリ。
「……………( ゚д゚)」
なんとも言えない顔でいるセラと衛宮士郎。
「………………(#・∀・)」
頭に血管を浮かばせながらクロを睨むイリヤ。
「…………………( ´∀`)」
笑顔のクロ。
「……………………(・_・)」
真顔の久宇舞弥とリズ。
「えっと、これは自己紹介した方がいいよな…か、上条当麻です。少しの間お世話になりますので……よろしくお願いします…」
「な、なんて言えばいいのでしょう…?」
「…これで俺の影が更に薄くなるぞ……は、ははは…」
どうやら衛宮士郎とセラは動揺しているようだ。
どちらも苦労人、さらに苦労することになるのだろう。
「私は普通に嬉しいのですが。ねー」
「ねー」
いつの間に仲良くなったんだ、と突っ込みたくなる久宇舞弥とリズ。
仲良くなるのはいいことだが、とにかくこの2人は上条当麻を歓迎しているらしい。
そして、イリヤがこの場で嫌だと言える筈もなく。
「ク〜〜〜ロ〜〜〜〜〜?」
「はいはい、わかったから。……いい加減受け入れたらどうなの?」
「…もう、仕方ないな……今回だけだからね!」
「と言っておいて何度も優しくしてくれる優しいお姉ちゃん♪」
「なっ………何よこのぉっ!!」
遂に切れたイリヤが、クロに襲いかかる。
「うわはぁっ!?ちょ、やめてやめて!私が悪かったからーーーー!!」
「イリヤさん!?喧嘩はいけませんよ!けっ喧嘩はぁぁ……」
「なんでさぁぁぁーーーーーーーーーッ!!!」
たちまち大乱闘へと発展してしまった。
アイリ、リズ、久宇舞弥は相変わらずの態度でいる。
そして、
「……はは、全くいい家族だな…」
そう笑顔でつぶやく上条当麻なのであった_____
翌日、和室
同じ高校生同士ということで、上条当麻は衛宮士郎の部屋に居候することとなった。
いつも居候させている立場の自分が、まさか居候することになるなんて思いもしないだろう。
「ぐぉぁぁ、ふぁぁ〜っ……ん、士郎はまだ寝てるのか……って、んんっ!?」
部屋にいるのは、起きたばかりの上条当麻。
隣の布団で眠っている衛宮士郎。
そして、何故か下着のままで、何故か上条当麻に抱きついて眠るクロだった。
「すー…むにゃむにゃ……もう…入んないよぉ…すぅー……」
「くっ………クロ!!?」
「ん〜…?クロがどうかしたのか当麻〜……って、ああっ!!遂に当麻にも矛先が……!!?」
そして、いつも通り奴……あの白い悪魔はやってくる。
同じように、戸をガラガラッと開けて。
「ぁぁぁぁああああああああ…………」
「いや、違うんですおぜう様!これは俺が小五ロリという悟りを開いたのではなくてですね……!」
「とうまの不潔ッ!!」
「不幸だっ!!!?」
さて、イリヤさんと上条さんが交流なさいました。
上条さんの不幸に染まっていくさまをご堪能くださいまし。