影と現身のグリムガル~五つの欠片~   作:?BOX

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更新です。

あらすじを変更しました。前のは適当すぎましたよね。

今回から原作キャラの視点も入ってきます。

※ハルヒロがまだ忍び歩き(スニーキング)習得していないのに使ってしまっていたところを修正しました。(五月七日)

では、本文です。


第十一話 ふたつのパーティー

──────          ──────

 

 

「昨日、みんなで話し合ったんだけどね。アトリ、正式に僕たちのパーティーに入ってくれないかな?」

「そ、それは本当か?」

「うん、もちろん。アトリがいてくれるととても助かるから」

 

アトリのお試し期間とやらは三日間あった。その三日でアトリのありがたさは身を持って実感できた。戦闘中はもちろん、収入面でもだ。アトリがいることで頭数が増えたにも関わらず、一人当たりの収入も増えた。やはり、盾役(タンク)が二枚いるとやりやすさが全然違う。…つーか、どーでもいいけど、このパーティー、テル以外全員一六○センチ以下じゃねえか。平均身長低っ。

 

「よ、よかった…。…それは願ってもない申し出だ。是非入れてもらいたい」

「大歓迎だよー!」

「俺も色々と参考にさせてもらう」

「一緒に頑張っていこうね!」

「まあ、よろしくな」

「うん、改めてよろしくね、アトリ。じゃあ、今日も張り切っていこう」

 

「「「「「……おー!」」」」」

 

アトリはさすがにまだこの流れには乗ってこない。まあ、毎日やる訳でもないし。どっちかというとやらない日の方が多いか。それでも、アトリとは会話もあるし、仲は悪くない。旨いって飯屋も教えてもらった。さすが地元民だ。ただ、この前近くを通ったときに覗いてみたら、女性向けのお店らしく、男一人で入れる感じじゃなかった。でも、すげーいい匂いはしてた。

それに比べてというか、向こうのハルヒロのパーティーはここんところ、雰囲気がギスギスしている。新しいメンバーのメリイさんとうまくいってないようだ。ユメもシホルも──この前宿舎でちょっと話したときに敬語はやめて呼び捨てにしてっていわれた。──最近はなんだか宿舎で二人きりでいることが多い。

 

「チハル、そろそろいける?」

「あ、ハルさん、いま話終わったとこです。いきましょうか」

 

おとといからダムローまではハルヒロのパーティーと一緒に向かっている。宿舎から北門に向かう時間も同じだし、自然とそうなった。だが、さすがにダムローについたら別だ。十二人で移動するのは目立ちすぎるし、人数差で驚いてゴブリンが逃げるかもしれない。

 

「ねえねえ、メリイちゃん。メリイちゃんの修師(マスター)って誰なの?カナの修師はタケミヤって人なんだけど」

「どうでもいいでしょ」

 

って感じの会話(?)が道中によく繰り広げられてる。カナは仲良くなりたいって思った子には特によく絡んでいくみたいだ。…ランタともよく絡んでるな。まあ、いいか。

カナにはチハルとはまた違ったコミュニケーション能力の高さがある。最初の方のメリイさんはイライラしてたけど、最近はもう諦めてるみたいだ。

 

「…もうすぐダムローだ。じゃ、おれたちはこっちからいくから」

「はい、またあとで」

 

ハルヒロたちは西側、俺たちは東側へそれぞれ向かっていった。

 

…午前中の結果はゴブリン四人組とはぐれゴブリンが二体で、数はまあまあだけど、戦利品がいまいちっぽかった。はぐれゴブリンがどっちもはずれだったのが大きい。

 

「じゃあ、そろそろお昼休憩にしようか。この辺りの廃墟で大丈夫だよね?…ここ、けっこう広いし使えそうだね」

「ああ、特に気配もないし問題ないと思うぞ」

「じゃあ、いつも通りコウタとシズクとアトリ、警戒お願いね」

「おう」

「了解した」

「うん」

 

廃墟の中で休憩をとる。俺たち三人は外で警戒にあたる。

ちなみにアトリは昼飯を食べない。食べると動きにくくなるらしい。前にカナが「少しだけでも食べたら?」といっていたけど、アトリは「少し食べると逆に空腹を感じて動きにくいんだ」といっていた。その気持ち、よくわかる。

 

「コウタ、シズク交代だよー」

 

アトリは昼飯を食べないからずっと警戒にあたってくれる。休憩は飯を食ってからの瞑想タイムにとってもらっている。

 

「ふぅー、今日はあんまりついてないね」

「そうだな。まあ、午後に頑張ればいいだろ」

「そうなんだけどね。…地図も少しずつできてきたし、大丈夫だよね」

 

地図は結局、主にシズクが書いている。俺の書いた地図はダメだったらしい。どうやら俺にしかわからなかったみたいだ。うまく書けたつもりだったんだがな。

そんな訳で、書くのはやってないけど、シズクの書いた地図の修正はシズクと一緒にやってる。シズクは絵は得意みたいだけど、空間把握は苦手らしい。俺は地図を読むのと道を覚えるのは得意だから、間違っている箇所を指摘してシズクに書き直してもらってる。まあ、細かいとこまでやると意外と時間かかるから宿舎に帰ってからその日の分をゆっくりとやってる。

 

「アトリも入ったことだしな。…なあ、俺の地図ってそんなダメだったか?」

「…え?まあ、あれは…ちょっとね、あはは」

「ちょっとなんだ?」

「…なんていうか、崩壊してた。それに、まさか、あれがゴブリンの絵だとは思わなかったなぁ」

 

地図が書き終わって暇だったから、落書きに描いたゴブリンを風呂上がりのカナとシズクに見せたらドン引きされた。自信あったんだがな。

 

「…まあ、いいか。さっさと食べようぜ」

「うん、食べよ食べよ」

 

絵なんてどうでもいいか。あんまり話してると時間ももったいないしな。

 

「ごちそうさま」

「ごちそうさま。よし、瞑想タイムか。カナとアトリと交代してくる」

「うん、ありがとう」

 

廃墟から外に出る。

 

「カナ、アトリ交代だ」

「そうか、ありがとう」

「カナ、今日はまだ少ししか魔法使ってないから、瞑想しなくても大丈夫だよ?」

「いざってときがあるかもしれないから満タンにしといて、カナちゃん」

「はーい、いってきまーす」

 

カナとアトリが廃墟の中へ入っていく。

 

「…最近さ、コウタとシズクって仲いいよね」

「俺とシズク?そうか?」

「けっこう一緒にいること多いでしょ?」

「…そういわれれば、確かに多いかもな。地図のこともあるし、昼飯もだいたいこの組み合わせだしな。悪いか?」

「いや、全然そんなことないよー」

 

チハルは少しニヤニヤしている。あれ、絶対下らないこと考えてるな。別に俺とシズクは今のところそんな関係じゃないし。…いや、今のところってなんだよ。

 

「警戒中だ。あんまり無駄話するなよ」

「あ、ごめんね。テル」

「おっと、悪いな」

 

おい、チハル、お前のせいで怒られたじゃねえか。

 

 

「あー、もうやってられっかよ!なんだあの女。酒だ、酒!おい、ビール追加ぁ!」

 

ランタさんの前にはすでに空になった陶製のジョッキが二つ並んでいる。

 

「ランター、飲み過ぎはよくないよー」

「うっせ、オレの勝手だろ。つーか、お前もだいぶ飲んでんじゃねえかよ、カナ」

「えへへ、ビールおいしいんだもん!」

 

ランタさんは意外とお酒に強いのかな?そこまで酔ってるようには見えない。カナははっきりいって酒豪だ。いっぱい飲むけど、まだ酔ってるとこ見たことない。テンション高いのはいつものことだし。

 

「ランタくん、今日は稼げたんだからそんなに文句いわなくても…」

 

ハルヒロさんたちのパーティーは今日はけっこう稼げたらしい。私たちはけっこうな数を倒したんだけど、あんまりよくなかった。

 

「うっせえぞ、モグゾォ!それとこれとは別なんだよ!お前も男ならもっと飲めぇ!うーし、こうなったら吐くまで飲んでやるぞ、吐くまで!」

 

うーん、やっぱり酔ってるのかも。でも、ランタさんっていつもこんな感じだっけ?どっちだろ。わかんないなぁ。

 

「ランタ、明日もあるんだからほどほどにしとけよ」

「レモネードなんか飲みやがって。相変わらずノリわりぃな、パルピロォ」

「…はいはい」

 

ハルヒロさんさうんざりしているみたいだ。見てる分にはおもしろいんだけどなぁ、ランタさん。

今日はアトリの正式なパーティー加入が決まったからみんなでシェリーの酒場でお祝いしようってことになった。肝心の本人は家の用事があるみたいで帰っちゃったんだけど。どうせならってことでシェリーの酒場にきたらハルヒロさんたち三人がいたから一緒に飲むことになった。

 

「っしゃー!ビールきた!おい、カナ乾杯すんぞ!」

「いいね!いくよー!乾杯はぁー、杯を乾かすぅー!」

「ちょっ!待て、一気かよ!…クソォ、負けてられっかよ」

「ごちそうさまっ!」

「はやっ!オレだって………うぇ、ジョッキ一気は…ゲプッ…無理だろ…」

「カナの勝ちー!」

 

うわー、すごいなぁ、あのノリ。…まだ飲むのかぁ。カナちゃんとランタさんはけっこう気が合うみたいだし、今はほっとこう。絡まれたら大変そうだし。モグゾーさんは止めようとしてるみたいだけど。

 

「ハルヒロも色々大変みたいだな」

「まあ、おれは仮にもリーダーっぽい感じになっちゃったからさ」

「メリイさんのことも大変みたいだけど、ユメちゃんとシホルちゃんは?最近、宿でもあんまり一緒にいないですよね?」

 

仲が悪い訳じゃないとは思うんだけど、最近話してるとこもあんまり見ない。

 

「いや、まあ、そうなんだよね」 

「ユメちゃんたち、寂しそうでしたよ。直接そういってた訳じゃないけど」

「…そっか、やっぱりそうだよな。いや、おれもよくないって思ってたんだけどね…。いっつもすぐ部屋戻っちゃうからさ。かといって、部屋までいって話すこともないし…」

 

ハルヒロさんの意気地なし。そりゃ、女の子の部屋にいきにくいのはわかるけどさ。

 

「うーん…。でも、やっぱり会話がないのはまずくないですか?戦闘でもうまく連携とれなくなりますし」

「私もハルヒロさんたちのパーティーの仲が悪くなっちゃうのは嫌です」

「…うん。ごめ…いや、ありがとう、シズクちゃん。明日から少し頑張ってみるよ」

 

少しかぁ。でも、ちゃんと伝えられただけよかったかも。マナトさんがいたパーティーをバラバラになんかにしたくないし、できることならずっとパーティーぐるみで仲良くしてたい。おバカなランタさんとホワホワしたユメちゃんの喧嘩とか、ちょっと毒づくシホルちゃんとか、ボケに鈍めなモグゾーさんとか、ハルヒロさんの気だるげなツッコミとか、それをうまくまとめるマナトさんとか。そんな感じのあのパーティー独特な雰囲気が私は好きだった。グリムガルにきたばかりでものすごく不安だった私はそれに救われた気がする。私が勝手に恩を感じてるだけだけど、恩返しができたらいいなぁ。

 

 

      ──────────

 

 

「…はぁ」

 

今日はこれで何回目のため息だろうか。ここ数日、息を吐く度にため息をついてる気がする。いや、気がするだけだけど。

昨日、シズクちゃんに頑張るといってみたものの、ユメやシホルに話を振ることもできず、ダムローまで残すところわずかとなってしまった。…シズクちゃんと目が合った。気まずい。別に責めてるとかそういう目線をしてた訳じゃないけど、気まずい。

リーダーだからってここまで気を使わなきゃいけないものなのか。色々なものに板挟みにされている気分だ。…いや、別に話しかけたくないって訳じゃない。むしろ、おれだってユメやシホルと仲良くしたい。もちろん、深い意味はないよ?仲間としてだ。

…マナトならこんなときどうしてただろう。いや、マナトならそもそもこんな状況になることもなかったはずだ。ダメだな、おれ。

 

「…うぇぇ、気持ちわる」

 

ただでさえ問題が山積みなのに、今日は問題がさらに一つ増えた。ランタが絶賛二日酔い中なのだ。いや、そもそもランタ自体が問題の一つだから増えるも減るもないのか?

とにかく、二日酔いのおかげでランタが静かになったこと自体はいいのだが、それを見たメリイの目がさらに冷ややかになった。ユメやシホルもランタを蔑むような目で見ていた。当然のことだと思う。

二日酔いはさすがにまずいので、光魔法ならなんとかできないかと思ってカナちゃんに聞いてみたところ、「二日酔いかー、聞いたことないなー。あ、もしかしたら浄化の光(ピューリファイ)なら治るかも!カナは使えないけど、メリイちゃんなら覚えてるかもよ?」ということだ。メリイにそんなこと頼んだら「は?私に二日酔いの治療をしろって?寝言は寝てからいったら?」とかいわれそうだ。ていうか、おれたち一応チハルたちの先輩なんだよな?立場なさすぎない?

 

「おい、ランタ。ほんとに大丈夫なのか?」

「あん?オレが二日酔いなんかに負けると思ってんのか?…うぇ」

 

ダメだ、こいつ。これはほんとに帰るべきなんじゃないか?ランタが怪我するぐらいなら別にいい。でも、周りにまで被害が及んだら大問題だ。

…でも、こんな話、切り出す勇気なんてねーよ。雰囲気悪すぎ。ランタが二日酔いだから尻尾巻いて帰るとか持ち出したら余計に日常会話なんてする雰囲気じゃなくなる。本格的に立つ瀬がなくなる。誰か代わりに切り出してくれないかな?

あれもこれも全部ランタのせいだ。ランタが飲みすぎるからだ。おれはちゃんと止めたよ?だからおれは悪くない…とはいかないのがリーダーなんだよな。リーダーつらすぎ。やめたい。

っていっても他にやる人いないし、おれがやるしかない。パーティー抜けるにしても途方に暮れるだけだし、結局、選択肢なんてない。

 

「…あのー、ハルさん。提案なんですけど、今日の狩り一緒にやりませんか?一緒っていうか交代交代みたいな感じで。ハルさんたちの戦い方見てみたいんですけど」

「……」

「…ハルさん?」

 

……タイミングがよすぎて言葉を失ってた。先輩を立てつつ、ランタが使えない状況をフォローできる最高の選択肢なんじゃ?チハルはわかってていったのか?わかってるんだろうな。こっち見て微笑んでるし。まあ、とにかく、素晴らしい提案だ。地獄に仏ってこのことをいうのか。

 

「…え、ああ。やっぱり他人の戦い方を見るのはけっこう経験値になるし、おれも見てみたいかな?みんなはどう?」

 

反対意見はないみたいだ。ていうか、反応自体が薄い。

 

「ちょっと待って。この人数でどう移動するっていうの?」

 

ここでまさかのメリイ?!あなた今まで特に意見なんていわなかったよね?どうして?いや、聞けないけど。

 

「あ、それは大丈夫です。この前、ここにいる人全員入れるくらいの廃墟見つけたんで、そこを拠点にして少人数で偵察に向かえば」

「…そう」

 

さすがチハル!いやでも、後輩に救われるおれたちって…。救われたのは主におれだけどね。

 

「じゃあ、いいですよね?」

「うん。メリイもいいよね…?」

「…ええ」

 

よかった、今日は素直だ。いや、いつも素直じゃないことはないか。

 

「じゃあ、よろしくお願いしますね」

 

…ダムローにつくと、コウタの案内でその廃墟に到着した。これは広い。出入りできるところは瓦礫で塞がれていて一つしかない。そこを押さえればかなり安全だろう。ボロボロだけど、机や椅子もある。今は生活してる痕跡はないけど、もしかしたら昔ゴブリンがここを拠点にしてたのかもしれない。

 

「偵察はおれと…コウタでいいかな?」

「オッケー。いいよな、チハル?」

「うん、問題ないよ。外の警戒はテルと…モグゾーさんにお願いしていいですか?」

「任せろ」

「う、うん。ぼくも頑張るね」

 

コウタは忍び歩き(スニーキング)を使用して偵察を開始する。おれは極力音を立てないようにあとに続く。…うまいな、忍び歩き。小さい体──一五五センチぐらいか?──を生かして素早く動き回ってる。戦闘は不向きかもしれないけど、偵察にはかなり適性が高い。偵察の方が性にあってるおれとしてはちょっと羨ましい。早くおれも習得しないとだ。

 

「なあ、ハルヒロ?」

「うん?どうした?」

「盗賊の中でだけ通じるっていう通り名ってもらった?」

「ああ、あれね…」

「聞いていいか?…いや、俺が聞いたんだから俺から名乗るべきか。…いいたくねえけど」

「その気持ちわかるよ」

「ハルヒロも?ならお互い様か。…じゃあ、いうぞ。俺の通り名は迷い子犬(ウェイバーパピー)だ」

 

子犬か…。確かにわからなくもない。でも、どっちかというと子猫っぽい気もする。

 

「おれは年寄り猫(オールドキャット)だ」

「なんていうか、どっちもどっちって感じだな」

「そうかも。…みんなの前では呼ばないでくれよ?絶対ランタにバカにされる」

「俺もそれはごめんだな。チハルとかからかってきそうだし」

「じゃあ、お互いいわないってことで。…しっ!」

 

おれは人差し指を唇に当てる。コウタの背後になにか動くものが見えた。

 

「いたか?」

 

さっきまでも十分小声だったが、これは実際に声が聞こえているのか、ただ口の動きで判断したのかわからないくらいの小さな声だ。

 

「たぶん」

 

おれは身振り手振りを使って二手に別れようと伝える。コウタが頷いた。伝わったみたいだ。

…こっちからはゴブリンが二体確認できた。石斧ゴブと弓ゴブだ。石斧ゴブはけっこうガタイがでかい。でも、だらだらしてるだけか。しばらくは動きそうにない。

コウタが向かい側の瓦礫の合間に見える。拠点の方を示す合図を送ってきた。戻ろうってことか。

 

「何体確認できた?こっちは二体。弓と石斧」

「こっちはそれに短剣ゴブが加わった感じだった。多分三体で全部だと思う」

「そっか。じゃ、一旦戻ろうか」

 

コウタはスルスルと瓦礫や建物の隙間を縫って進んでいく。おれはそれに続いてるだけだ。全然道わかんねーよ。くるときのルートならちゃんと覚えてきたけど、この辺りはまだ地図書いてなかったからか、他のルートは全然わからない。

 

「あ、モグゾー」

「ハルヒロくんにチハルくん、早かったね」

 

拠点までいつの間にか戻ってきていた。多分、コウタが最短ルートを選んでたんだろう。なんか、モグゾーたち衛兵みたいだ。でかいし威圧感がやばい。

 

「ちょっと待ってて。中のみんなに報告してくる」

 

コウタと二人で廃墟の中へ入っていく。相変わらずランタは気持ちわるそうだ。ほんと、情けない。

 

「お、帰ってきたー!」

「あ、おかえりなさい。どうでした?」

「ゴブ三体いた。弓と石斧と短剣だった」

「じゃあ、ハルヒロさんたちが先にお願いします」

「え?いいの?」

 

ダムローで三体の集団を見つけるのは運がいい方の部類だ。三体以下のゴブリンとの遭遇率は良くて三割くらい。

 

「はい。見せてもらいたいっていったのは僕たちですし」

「先に見つけたのもハルヒロだし、いいんじゃねえか?」

「じゃ、やらせてもらうよ」

「はい、色々見せてもらいますね。僕らはハルヒロさんのパーティーのあとに続くので、先に向かっててください」

「うん。みんな、いこうか」

「やってやんぞ、二日酔いなんかにオレ様が負けるか」

 

ランタはだるそうに立ち上がる。あいつに一体任せて大丈夫だろうか?

 

「いってらっしゃーい!」

 

カナちゃんが手を振ってくれた。反応しないのも悪いので手を振り返しておく。うちのパーティーもこんなに明るくなればいいんだけどな。

 

……さっきのゴブリンの発見場所の近くまで辿り着く。

 

「ちょっとこの辺で待ってて。いるかどうか確認してくるから」

 

モグゾーがすぐに無言で頷いてくれた。そのあとにユメとシホルも小さく頷いてくれる。メリイとランタは反応なしだ。はあ…。

なるべく音を立てないように移動し、ゴブリンを確認しに向かう。確認できたのは三体。大丈夫、増えてはなさそうだ。この距離ならシホルの魔法も当たるだろう。一旦引き換えそう。

 

「シホルはおれときて弓ゴブに魔法で牽制。その弓ゴブはおれとユメでやる。だから、ユメも一緒にきて。ランタはその短剣ゴブを抑えに、モグゾーは石斧ゴブをお願い。一番でかいから。メリイは…いつも通りで」

 

必要最低限の声で話す。メリイはいつも通り反応はないが、ランタは一応頷く。あれ、大丈夫かなあ?…いざってときはチハルたちも見てるし助けにきてくれるだろう。…見られてんのか、思ったより緊張する。

 

「よし、いこう」

 

シホルとユメを連れてさっきのポイントへ向かう。メリイもついてきた。

 

「シホル、お願い」

 

シホルは頷いてから立ち上がる。

 

「オーム・レル・エクト・ヴェル・ダーシュ……!」

 

ヴヲォンッ

 

影鳴り(シャドービート)だ。黒いもやが弓ゴブに向かって飛んでいく。…よし、命中。

 

「ユメっ!」

「はいにゃ…!」

 

ランタとモグゾーも少し離れたところから飛び出てくる。問題なく各個撃破できそうだ。

ユメと一緒に影鳴りによってブルブルと震えている弓ゴブへ向かって走っていく。

 

「ギャァギャァ」

 

短剣ゴブがモグゾーたちに気づいた。石斧ゴブも起き上がって石斧を握りしめる。

 

「…手打(スラップ)ッ!」

 

ザッ

 

震動が収まり始めていた弓ゴブに向けて駆け抜けるようにスキルを放つ。上手くいった。弓ゴブは左手の弓を取り落とす。

 

「ユメ、足!」

「刈り払い…っ!」

 

ザシュッ

 

力強く横一閃に剣鉈を振るう狩人のスキル。弓ゴブの左ももを深く切り裂いた。膝をつく。いける!順手に持ったダガーに力を込める背面打…(バックス)

 

「ギャァ!」

 

ガッ

 

痛っ!血?左肩から血が出てきた。無理矢理に振り向いた弓ゴブの右手には矢が握られている。これくらいなら大丈夫。掠り傷だ。どうせメリイは回復してくれない。このまま続けよう。

 

「ハルくん?!」

「大丈夫、囲もう!」

 

ユメが正面におれは背後だ。弓ゴブはうまく動けないので首振って前後を確認している。

 

「オーム・レル・エクト・ヴェル・ダーシュ……!」

 

調子のよくないランタと対峙する短剣ゴブにもやが飛んでいく。足に命中した。

モグゾーの方は苦戦しているようだ。鍔迫り合い(バインド)状態にうまく持っていければ…。いや、石斧と鍔迫り合いってできないか?

 

憎悪斬(ヘイトレッド)ォ」

 

浅い。あれじゃダメだ。スキルの名前を叫ぶ声もいつもみたいにうるさくないし。

 

「クソォ!気持ちわりぃんだよ!」

 

短剣ゴブに斬り返され防御に入る。さっさとトドメ刺してフォローいかないと。

 

「うにゃぁ!」

 

ユメが斬りかかる。おれも同時にいけば…。背面打突(バックスタブ)

ユメに気を取られていた弓ゴブにダガーが突き刺さる。少し浅いかも。

すぐに飛び退く。予想通り浅かったのか即死には至らなかった。

そこへユメが弓ゴブの胸の辺りを切り裂く斬撃を放つ。弓ゴブが地面に伏した。胸の傷や背中の傷から大量に血が溢れてくる。まだ動いているが、あれは時間の問題だろう。

 

「ユメ、ランタの援護!」

「ほいにゃ!」

 

モグゾーと石斧ゴブはお互いの武器を弾きあっている。あの石斧ゴブ、かなり力があるようだ。

よし、後ろに回り込もう…。

 

「ふもぉー!」

 

モグゾーが頑張って引き付けてくれている。背後とった。バレてないはず。

……え?なんだこれ?ゴブリンが、いや、モグゾーも全部が止まってる?…いや、動いてる。止まって見えるくらい遅いだけだ。

…線?白い線だ。手もとから石斧ゴブの背中までぐねぐねと伸びている。…そうか、これに沿っていけばいいんだ。わかる、そんな感じがする。

 

スッ

 

音がしたのかしなかったのかはわからない。とにかくなんの抵抗もなくダガーが入り込んでいった。手応えみたいなのは感じない。だけど、相手はもう動けないことはなんとなく確信できた。

バタンと石斧ゴブが倒れる。

 

「あ、ありがとう、ハルヒロくん」

「え?あ、うん」

 

ふと見るとランタとユメの方も終わっていた。ランタが少し怪我しているくらいだ。うまくいった。

…戦闘が終わったからか、なんだか体が熱くなってきた。熱すぎる気もする。あの線の副作用かな…?いや、でも、これはヤバいかも…。体がうまく動かない。

 

「ちょ、モグゾー、ちょっとヤバいかも」

「え?ハルヒロくん?大丈夫?!」

 

近くにいたモグゾーに倒れ込む。モグゾーはバスタードソードを放り投げて受け止めてくれた。優しいなあ、モグゾーは。

 

「メ、メリイさんっ!」

「…っ!見せて!」

 

メリイが走ってくる。いつもと違ってなんか焦った表情だ。それも綺麗だな。仏頂面なんてやめて表情豊かになったらもっと綺麗なんだろうな。

 

「…傷はそんなにひどくない。…まさか毒矢?!」

「ハルさん!大丈夫ですか?!」

「周りにゴブリンはいねえ。大丈夫だ」

 

チハルとコウタの声?ああ、そういえばどっかから観戦してたんだった。

 

「ハルヒロくん…?」

「ハルくんっ?!メリイちゃん、急いで!」

「わかってる、黙ってて!光よ、ルミアリスの加護のもとに……浄化の光(ピューリファイ)

 

熱さが引いていく。楽になってきた。毒矢っていってたから解毒でもしてるのかな?

 

「光よ、ルミアリスの加護のもとに……癒し手(キュア)

 

傷自体は大したことない。だからか、すぐに終わった。調子も大丈夫そうだ。これならこのあとも十分戦えると思う。魔法ってほんと便利。

 

「メリイ、ありがとう。ごめん」

「別に。仕事だから」

 

相変わらず素っ気ない。ちゃんと治療してくれたんだ、とにかく、お礼はいうべきだ。

チハルが顔を近づけてゴブリンが握っていた毒矢を確かめている。

 

「…これは?ハルさん、もしかして、体が熱くなって動かしにくくなったりしました?」

「あ、うん。そんな感じだったかも」

「じゃあ、アマノトゲハソウの根っこから抽出できる毒物かもしれませんね。矢から独特の臭いもしますし。ちなみに、毒の効果は動けなくなるようにする程度です。致死性はないのでもう大丈夫だと思います」

 

そっか。一瞬、おれ死ぬんじゃね?とか思っちゃったけど、大丈夫なのか。よかった。

 

「チハルって、毒に詳しいんだ」

「ちょっと自分でも調べてますからね。そのうち毒矢使いたくて」

 

なるほど。毒矢か…。ユメにはちょっと難しいよな。味方に掠りでもしたらヤバいし。

 

「そっか、いいね、毒矢。…じゃ、みんな戦利品の回収をお願い。終わったら今度はチハルたちのゴブリン探しかな?」

「そうですね、一旦拠点に戻ってからがいいですね」

 

あ、そういえば、ランタも怪我してたんだった。…治ってる?ああ、カナちゃんが治療してくれてたのか。

 

「じゃ、パーティーごとに分かれて撤退しよう」

「うん、みんなも撤退ね」

 

 

「今日もまた二人だね」

「そやんなあ。ハルくんたちなにしてんねやろ?」

「どうなんだろうね…」

 

はあ。ここ最近はずっとこう。ユメ以外とほとんど話せてない。話すとしてもカナちゃんかシズクちゃんぐらい。チハルくんも話しかけてくれるけど、ほとんどまともに会話はしてない。ユメとも話らしい話はできてない…と思う。戦闘以外だとよく、ぼーっとしてしまうことがある。いつの間にか時間が経ってるときも多い。絶対みんなに迷惑かけちゃってる。

そんな中でも今日は記憶に残ることが多い一日だった。ハルヒロくん、死んじゃうかと思ったし、ランタくんはお昼のあと吐くし。

あとはメリイさんが「…いいパーティーね」ってチハルくんたちのパーティーを観戦してたとき、呟くようにいってたのをすごく覚えてる。意外だった。でも、今日で少しほんとはいい人なのかもって思えた。ハルヒロくんが毒矢受けたときは駆け寄って回復してくれてたし。昔になにかあっただけなのかもしれない。

それに、チハルくんたちがいいパーティーってとこはあたしもメリイさんに賛成だった。なんていうか、みんな考えて動いてるって感じだった。そんなに声が飛び交う訳じゃないし、チハルくんだって指示はたくさん出す訳じゃない。あたしたちとはスタイルが全然違う。あたしたちはマナトくんの指示に従ってただけだ。今だって大して変わらない。マナトくんがハルヒロくんに変わっただけだ。だから今日もハルヒロくんを危険な目に合わせちゃったのかもしれない。

…やっぱり、あたしたちのせいなんだよね。神官は前に出るものじゃないってカナちゃんもいってたし。あたしたちが無理させちゃったんだ…。

 

「…ル?なあ、シホル?聞いとる?」

「あ、ごめん…」

「最近、ずっとそんなやなあ。気持ちはわかるけどなあ…」

 

気持ちはわかる、か…。ユメにはわかんないよ。だって、ユメ、恋なんてしたことないでしょ?恋がわかんない子にはあたしの気持ちは理解できないよ。好きな人に会えなくなる気持ち、好きな人と話せない気持ち、好きな人に触れられない気持ち、…好きな人が目の前で死んでいく気持ち。誰かに恋したことがある人にしかわかんないよ。

 

「…また、考え込んでえ」

 

ギュッ

 

「……っ」

「ごめんなあ。ユメ、いつもこれしかできんで。でも、ユメも悲しいときはぎゅってしてもらえたら嬉しいと思うねやんかあ」

 

……嫌だな。あたし、最低だ。いつも自分のことばっか。ユメはあたしのことこんなに心配してくれてるのにね。ユメは強い子だなぁ。ユメだってつらいはずなのにあたしのことばかり気にかけてくれた。お風呂のとき、カナちゃんとシズクちゃんも二人なりにあたしたちを元気付けようとしてくれてた。

あたしは太ってるし、顔もよくないし、のろまだし、自分の意見もいえないし、性格も悪いしでいいとこなんて全然ない。でも、そんなあたしのことを心配してくれるみんなに少しでもなにか返せたらいいな。

 

ギュッ

 

「うにゃ、シホル、苦しいよ」

「ありがとう、ユメ」




読んで頂きありがとうございます。

原作とは雰囲気が違うと思いますが、キャラの個性をうまく出せてるといいかなって思います。

モグゾーが一番難しそうです。

では、また次回(* ̄∇ ̄)ノ
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