影と現身のグリムガル~五つの欠片~   作:?BOX

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更新です。

いまだにミニライブも見れてない作者です。
早く原作一巻の内容終わらせたいんですが、なかなか進みません。書きたいこといっぱいあるのに…。だから進まないんですけどね。

では、本文です。


第十四話 悩みごと

──────          ──────

 

 

「人がいっぱいいてるなあ。ユメはお酒飲みたくないから、ジュースでいいかなあ」

「…あたしも、お酒は。すごく、賑やか…」

 

そうか、ユメとシホルはシェリーの酒場にくるのは初めてだったな。つーか、十人分も席空いてるのかね。

 

「あ、こっちこっちー!テーブル一つちょうど空いたみたい!」

 

そういえば、入ってくるとき団体客とすれ違ったな。タイミングがよかった。

しかし、飯食ったばっかりだから腹いっぱいだ。なに飲むかな。

 

「おい、おまえら、落ち着け。な。何の変哲もねーただの酒場なんだからよ。頼むぜマジで」

 

いかにも常連みたいな面でランタが椅子に腰かける。ほんと、ランタの言動はいちいちイライラすんだよなぁ。

ランタに続いて他のみんなが席に座っていく。だいたいパーティーごとに別れて座った。ちなみに、俺とランタは机の対極にいる。

少し話しているとすぐに給仕がきて飲みものの注文をとっていく。俺は蜂蜜酒(ミード)を頼んだ。

 

「コウタって甘いもの好きなの?」

「まあ、嫌いじゃないな。蜂蜜酒を頼んだのはそういう気分だっただけだ」

 

それぞれ思い思いのことをしゃべりだす。チハルはシホルにお礼をいわれている。ハルヒロとランタはメリイさんのことを話しているみたいだ。

 

「あ……」

 

モグゾーが口を開けて店の出入口の方を見ている。それにつられて目線を向けてみると…。噂をすればなんとやら、メリイさんだ。

他のみんなの視線も徐々に集まっていく。

 

「あ、メリイちゃーん!」

 

メリイさんはこっちをちらっと見たけど、見て見ぬふりをしてカウンターの席へ座った。相変わらずの態度だ。さすがにあれは俺もちょっと気に食わない。

 

「なんっだよっ!あの態度は!仮にも同じパーティーなんだからよ!ちょっと頭下げるとか、最低でもそれくらいはするだろ普通!」

 

珍しくランタと意見が合う。さすがにあの態度はいただけないよな。

 

「メリイちゃんはなあ、普通の感覚があんまり通用しない子ぉやからなあ。今のはユメも、すこぉーし胸がちくっとしたけどなあ」

 

ユメ、普通の感覚が通用しないのはあんたも同じだぞ。

 

「…で、でも、あたしたちも、挨拶とか、カナちゃん以外しなかったし。どっちもどっち…かも」

「まあね、なんか、無視されそうって身構えてたようなとこはあったかな。で、やっぱり?みたいな。こういうのもよくないのかな」

「ほらほら、みんなもカナのこと見習えっ!何度玉砕しても突っ込む!それが愛!みたいな?」

 

なぜそこで愛なのか。カナはメリイのこと愛してる訳じゃないんだし。まあ、カナのことだからいつものノリだろ。つーか、カナも普通の感覚通じないよな…。

 

「ふっざけんじゃねーよ。なんでそこまでオレらが気を使わなきゃなんねーんだよ」

「そんなんやから、ランタは女の子全般にめっちゃ忌み嫌われるねん」

「うっせーな!ちっぱいごときが、勘違いして女全般を語ってんじゃねえ!」

「ちっぱいゆうな!」

 

きたきた。ユメとランタの口喧嘩。

 

「また始まったな」

「私はけっこうおもしろいから好きだけどね」

 

まあ、おもしろいことは否定しないけどな。子どもの喧嘩を見てるみたいだ。

 

「むぅぅぅぅぅぅぅ」

「ユメはちっぱいなんかじゃないよっ」

「そりゃ、お前と比べたらだいたいの女がちっぱいじゃねーよな」

「仕方ないじゃん!カナにおっぱいがないのはわかってるもん!」

「カナ、お前のはおっぱいとはいわん!雄雌の雄で雄っぱいだ、雄っぱい。もはや、男と変わりねーだろ」

「せめてちっぱいといえー!ちっぱいと!」

 

カナが交じって余計おもしろくなってきた。間に挟まれるハルヒロはうんざりした顔、モグゾーはどうやって止めればいいのか悩んでいるみたいだ。

シズクのは大きいのに、どうしてこうもうちのパーティーは胸囲の格差が激しいのか。いや、何で俺はシズクのを凝視してんだ。

 

「雄っぱい雄っぱい雄っぱい雄っぱい」

「むーぅ!ランタのだってどうせ大したことないミニサイズなんでしょ!」

「…はっ?な、なにいってんだ!見たことねーだろ、オレの息子!黙ってろ、平原が!」

「カナのだって見たことないでしょー!」

「はんっ、そんなの一目瞭然だろーが!もはや、無さすぎて嘆かわしいくらいじゃねーか、嘆きの平原」

「な、嘆きの平原っ…!」

 

カナがガクンと肩を落とす。嘆きの平原って。最悪な表現だけど笑えてしまうのが悔しい。

 

「なあなあ、ランタって息子いるん?それにランタは男やから小さいのが当たり前やないの?」

「ユ、ユメっ…!息子っていうのはそうじゃなくて…」

 

これは笑いが止まらない。シズクとチハルまで笑っている。シホルはユメになんて説明するつもりなのか。

 

「そうやなくて?」

「…え?あ、いや、…それはまた今度ね。とにかく今は気にしなくていいから」

「そんなら、また教えてなあ、シホル」

「う、うん…」

 

ほんとどういう風に教えるつもりなのか。気になる。

 

「…あれは?」

「テル?どうかしたか?」

「い、いや、なんでもない。ちょっと考え事をしていただけだ」

「そうか」

「…誰かが、メリイさんに、話しかけてる」

「お、ほんとだ」

 

振り返ってさっきメリイさんが座ったカウンターの方を見てみると、マントを羽織った男が立っていた。マントには七つの星の紋章みたいなのがある。

 

「あれ?オリオンのシノハラさんだ」

「オリオン?…うぉ、マジだ。オリオンっつったら、わりと有名なクランだよな。つーか、シノハラってたしかオリオンのマスターだろ。ま、どうでもいいけどな。あの女のことなんて。おっ、飲みものきたぞ。乾杯しよーぜ乾杯。乾杯!」

「か、乾杯」

 

ランタ、意外とクランのこと詳しいんだな。酒場でいろいろ情報集めてるのか。

 

「なあなあ、くらん、てなに?」

「えーと、なんていうか同じ目的を掲げて結成したチームみたいな?ほら、前に話した光の護法(プロテクション)って神官の光魔法。あれの対象が六人までだからパーティーは基本的に六人までってやつ」

「だけど、六人だけじゃどうしようもないときのために結成するチームがクランってやつですよね」

「そうそう、チハルのいう通り。ていうか、おれのセリフ取るなよ」

「あはは、すみません」

「そうそう、クランの話だっけ?…で、名が知れてるクランってものいくつかあって。凶戦士隊(バーサーカーズ)とか、鉄拳隊(アイアンナックル)とかね。あと、女の人だけの荒野天使隊(ワイルドエンジェルズ)とか。そっか、オリオンも有名なんだ」

「なんだ、ハルヒロ、そんなのも知らねーのか。見ろよ、マントにXみたいな七つ星の紋章がついてんだろ。あれがオリオンのシンボルだぜ。そのへんにも何人かいるじゃねーか」

 

確かに、だいたいの人が身綺麗で礼儀正しそうな雰囲気をしている。騒いでもいないし、統率のとれたクランみたいだ。

 

「じゃあ、ユメたちも仲ええし、くらんみたいなもんなん?」

「や、おれらは違うかな…?共通の目的がある訳じゃないし」

「確かにないですねー。…あ、どうせなら結成しちゃいます?クラン」

「…へっ?クラン結成してどうすんの?」

「目的は…生き抜くこと。みたいな?…まあ、冗談なんですけどね。わざわざクランなんか結成しないでも仲良くしていけたらいいと思ってます」

「それもそう…かな?別にいちいちクランとか名乗ってもね。おれたち最底辺にいる訳だし」

 

最底辺か…。さっさと這い上がっていきたいもんだな。

 

「あ、おれ、シノハラさんに一言挨拶してくる。話し終わったみたいだし」

「…ソウマ」

「ソウマじゃねえか」

「ソウマだ!」

「ソウマ!」

「ソウマ…!」

 

ハルヒロが立ち上がったと思ったら急に周りが騒がしくなってきた。口々に同じ名前を呼んでいる。

 

「…ソウマ?そうだ、思い出した!アトリがいってたガーラン・ヴェドイー公の晩餐会に招待されたっていう義勇兵の人だ!」

 

そんなにすごいやつなのか。…ああ、あの人がソウマなんだろうな。風格が全然違う。鎧なんてオレンジ色の光が漏れてるし、長い刀も小振りな刀もすごいものっていうのが一目でわかる。うしろに続くドレッドヘアの男も、目が死んでいる小さい子どもも、腕の長すぎる仮面の人形みたいなやつも、全てが普通じゃない。俺でもあれが規格外だってことがよくわかる。

でも、それよりも目を惹くのはさらにうしろにいる美女二人だ。一方は年上の妖艶な雰囲気を醸し出すお姉さんって感じ、もう一方はなんていうか、もはや、彫刻のような非の打ち所がない完璧な容姿だ。いつまでも眺めていたくなるような美術品、人間じゃないかのようだ。いや、ほんとうに人間ではなさそうだ。

 

「…エルフじゃねーのか、あれ」

「エルフ…」

 

そうだ、エルフ。エルフじゃなかったらあんな美貌なんてありえない。なぜかわからないけど、そんな気がする。

 

「コウタはああいうのがタイプなの?」

「…は?な、なんでだよ」

「なんかずいぶん見惚れてたみたいだから」

「い、いや、確かに綺麗だと思うけど、そういうんじゃねぇよ。あんなの次元が違いすぎて惚れるとか惚れないとかの域じゃないって」

「ふーん。確かに綺麗だよなぁ。羨ましい」

 

なんで俺はこんな言い訳がましいんだよ!別に見惚れるくらい問題ないだろ?

 

「ヨォーヨォー!ハルっちランタんモグちんユメぴーシホルんにチハルんテルルコウタんにカナち、おシズじゃーん!あってるよね?元気元気?俺ちゃん大元気!ねえ見た見た見てる?すっげーよねソウマ!いやぁ拝めると思ってなかったよ俺ちゃんラッキー!みーんなラッキッキー!だね!」

 

相変わらず一方的に話す人だ。こういうのなんとかトークっていったよな?なんだっけ?まあ、いいか。悪い人ではないしな。

 

「…キッカワ、ソウマって?」

「なぁーんだよぉー。ハルっちソウマ知らないの?!マジで?!ソウマはあれだよ、ナンバーワン義勇兵だよ。義勇兵オブ義勇兵。まあ実力はどうなのかとかいろいろいわれてるみたいだけど、ネームバリューは文句なしでトップだよね。俺ちゃんも初めてみたけどさあ。違うねえ!違うわ!かっくいーっ!俺ちゃん女だったら抱かれたい!ソウマ、愛してるーっ!うん、嘘。そこまでは思ってない。でも、すげーよなあ。憧れるよね。どうせな、あんなふうになりたいよね」

「だな!男ならよぉ!義勇兵なら!目指すべきだよな!クッソ!あの鎧どうやったら手に入るんだよ!着てえ!」

「…ぼ、ぼく。か、兜、が、ほしいな。テルくんみたいな。できれば、板金の鎧も。そうしたら、少しは…」

「…魔法を、覚えたい。みんなを助けられるような、魔法を。今のあたしじゃ、まだ…」

「ユメはなあ。ユメも鎧をな、どうにかした方がいいかもとか思うねやんかあ。ユメ、チハルみたいに弓矢使えへんから、前に出ること多いしなあ」

「私はもっと氷結魔法(カノンマジック)を使いこなしたい。色々覚えて、組み合わせて使えるようになりたい」

「僕は早く毒矢を使いこなしてみんなをサポートできるようになりたいかな。明日から、やっとスキル習えそうだし」

「カナはねーとにかく強くなりたい!あと、おっぱい大きくなりたい!」

「俺は早くトリストラムに慣れなければな」

「おい!テル!なんだそのトリ…なんたらとかいうかっこいい名前は!」

「ああ、俺が師匠から譲り受ける予定の武器の名前だ」

「クッソ!羨ましいな、おい!」

 

みんな色々考えてんだな。…俺はいったいなにがしたいんだ?この武器が使いたい!とか、こういう戦い方をしたい!とか、ない。目標とかない。…これでいいのか?

明日は()()()()()背面打突(バックスタブ)を習うだけだ。明確な理由はない。グリムガルにきてから俺はとりあえずとかで、適当に生きてきた気がする。みんなに頼りきりだった。俺もそろそろちゃんとした自覚を持たないといけないんじゃないのか…?

…ハルヒロは盗賊としてどういう風に立ち回りたいとか考えて行動しているのか?あるなら、聞きたい。正直、俺にはどうしたらいいかよくわからない。俺の助言者(メンター)がそんなアドバイスなんてくれるとは思えないし、他に盗賊としての先輩はハルヒロだけだ。とにかく、このままじゃダメだ。自分で考えて成長しないといけない。

 

「おいキッカワ!ソウマと友だちになっちまおうぜ!今のオレらならいけんだろ!」

「いくぅー?!ランタん、いっちゃいますかぁーっ?!」

 

立ち上がったキッカワとランタはいつの間にか肩を組んでいた。それを見て笑っているシズクと目が合う。

 

「どうかした?」

「いや、なんでも」

 

 

「おはようございます、サクラさん。今日はスキルを習いに来ましたよ」

「おはよう、チハル。何のスキルが習いたいの?」

「アマノトゲハソウの根っこの麻痺毒を抽出するスキルが欲しいです」

「アマノトゲハソウの麻痺毒…?それだと…」

「製毒法・麻痺其ノ一です」

 

狩人のスキル名ってだいたい見たまんまだよなー。分かりやすくていいけど。

 

「そんな名前だったわね」

「ギルド職員なんですからそれくらいしっかり覚えておいてくださいよ」

「仕方ないじゃない。自分が教えられないスキルの名前なんて普通覚えてないわよ」

 

…え?教えられない?それじゃあ、僕は誰に教わればいいの?

 

「確かに、苦手とか、詳しくないとかはいってたと思いますけど、教えられないってどうしたらいいんです…?」

 

僕のプランが…。毒矢でみんなをサポートするプランが…。

 

「ま、待って。そんなに落ち込まなくても大丈夫よ。ちゃんと教えられる人はいるから」

「え?ほんとですか?」

「そうよ、私は狩人のスキルでは弓術と狼犬とかの動物に関する狩猟術以外はからっきしなの」

 

はい、知ってます。他にも色々欠点があると思いますが。

 

「だから、私の担当する弟子に関してはもう一人の剣鉈術と植物とか罠、毒物のことを専門にしてる子と二人で担当することになっているの」

「つまり、そのもう一人の方に毒のことは習えばいいんですね?」

「そういうことね」

 

ということはそれぞれ専門家からスキルを習えるってこと?…正直、サクラさんは弓バカで結婚と狼犬にしか興味ないみたいだから、ちょっとはずれの師匠かなとか思ってたけど、それならラッキーかもしれない。

 

「それなら、さっそく案内してくださいよ!」

「そんなに目を輝かせていわれると逆に連れていきたくなくなるわね」

「そういうのいいですから、早くいきましょうよ」

「……そうね」

 

…どこまでいくんだろう?階段を降りてきたから地下まできたはずだ。暗いし多分地下で間違いなさそう。

 

「ここよ」

 

サクラさんが扉の目の前で止まる。特に変わったところはない。

 

「えっと、入る前にいっておくけれど、中にいるのはサヤっていう子。一応、私の親友」

 

親友に一応ってついて大丈夫なの?

 

「人見知りって訳でもないんだけど、とにかく口数が少ないの。私でも、なに考えてるかわからないことが多いわ。でも、必要なことはちゃんと教えてくれるはずよ」

 

なに考えてるかわからないって…。サクラさんとは逆で表情が乏しい人なのかな?

 

「とにかく、会ってみないことにはわかりませんよ」

「それもそうね。じゃあ、そうしましょうか」

 

コンコン

 

「…サヤ、入るわね」

 

特に返事はなかったが、サクラさんが扉を開けて入っていくので、黙ってそれに続く。

 

「この前いった弟子、つれてきたわよ」

「…ん」

 

声にならない小さな返事と共に視界の中にフードを被った小さな女の人が現れた。魔法使いのローブみたいなだぼっとした格好をしていて身体のラインは見えない。でも、剣鉈の使い手って聞いたし、引き締まった身体をしてるんじゃないかな?身長は僕よりは小さいみたいだ。すばしっこい動きが得意そうだ。

 

「…じー」

 

フードからは、色白の肌と肩に届かないくらいのツヤがないけど綺麗な黒髪、熱心に僕を見つめる茶色とも黄色ともいえない色の少し眠そうな眼が覗いている。いくつなんだろうか。僕とそんなに離れてなさそうだけど、ギルド職員だから実際はもっと上なのかもしれない。

そんなに見つめられてもどうしたらいいのか。とりあえず、自己紹介かな?

 

「あ、あの、僕、チハルです。今日は製毒法・麻痺其ノ一を習いたくてきました」

「…じー」

 

ああ、僕こういうタイプ苦手だ。押しても引いても自分のペースに持っていけなさそうだし。助けて、サクラさん。

 

「サヤ、あんまり見つめすぎないであげて」

「…ん」

 

…手?握手しろってこと?

 

「…っ!ちが…お金…」

「あ、そういうことですね。えーと、五シルバーでしたっけ?」

 

今回習う製毒法・麻痺其ノ一は製毒法でも基礎中の基礎なのでけっこう安く教えてもらえる方だ。

 

「…ん。さっそく…やる」

「あ、その前に質問いいですか?」

「…いい」

「毒物の材料って自分で探すしかないですか?市場じゃ売ってなかったんですけど」

「…売ってる…スラム街に。でも…高い」

「じゃあ、アマノトゲハソウとかは森で採取した方がいいですか?」

「…うん。でも…すごい…よく知ってる。…初めてなのに」

 

サヤさんは眠そうだった目を見開いて驚いている様子だ。それはそうだ、僕だって伊達に勉強してた訳じゃない。

 

「自分で下調べくらいはしてますからね」

「…それ…大事」

「楽しそうにしてるとこ悪いけど、私はそろそろいくわね。ちょっとやりたいことあるから」

 

楽しそう?僕は普通のつもりだし。もしかしてサヤさん?

 

「…ん。じゃ」

「サクラさん、ありがとうございましたー」

「頑張るのよ、チハル」

「はい」

 

サクラさんは手を振りながら部屋から出ていった。

 

「…じゃ。やろーか…チーくん」

「あ、はい」

 

チーくんって僕のことかな?その呼び方嫌いじゃないし、いいけど。

 

 

      ──────────

 

 

「グギャォ!」

「っ…!」

 

ゴブリン!近すぎるっ!

 

「ボケッとしてんじゃ…ねえよ、クソ女が…ッ!」

「誰がボケッとなんか…!えいっ!」

「ギャッ!」

 

…危なかった。真っ先にわたしたち、後衛組を狙ってくるってことはそこそこ頭のいいゴブリンかもしれない。

 

「モグゾー!一匹お願い!ユメはランタと一緒にもう一方を!」

「ふもぉー!」

「んにゃ!」

 

でも、ゴブリン二匹なら普通にやれるはず。初っぱなからダメージも与えられたし。だけど、焦ったらダメ。

 

「オーム・レル・エクト・ヴェル・ダーシュ…!」

「どぅもーっ!」

 

影鳴り(シャドービート)からの憤怒の一撃(レイジブロー)。このパーティーの鉄板コンボが決まった。いける!…いや、まだ。あのゴブリンだいぶしぶとい。…頭突き?!大丈夫。あのダメージならたいした力は残ってない。

 

「背面打突…!」

 

一匹は終わった。もう一方も満身創痍だし、もう終わりそう。誰も怪我はないみたい。

 

憎悪斬(ヘイトレッド)…ォ!…っしゃー!ヴァイスゲットォ!」

「あの、さっきは、ありがとう」

「なんのこと?」

「…ははは。シホル、怪我はない?」

「うん、大丈夫だよ、ハルヒロくん」

 

実際、お礼をいわれるようなことはしてない。これは仕事。わたしはやるべきことをやっただけ。

 

「よし。まさか、オルタナに戻ってる途中にゴブリンと遭遇戦になるとは思わなかったけど、なんとかみんな無事だったね。じゃ、戻ろうか」

 

今日は何でか知らないけど、もうひとつのパーティーがいなかったから、いつもより気が楽でよかった。

 

「はい、メリイ。今日の分の分け前」

「…確かに」

 

今日はちょっと汗かいた。早く帰ってお風呂に入りたい。

 

「あ、メリイ、ちょっと待って」

「まだなにか用?」

「用ってほどのことでもないんだけどさ、飯、一緒に食わない?それから、そのあとみんなで酒場にでも」

 

ご飯?わたしを?そんなこといわれたのは初めて。性悪だとか、戦利品泥棒とかは散々いわれたてきたけど。なんでこのパーティーはこうもわたしに構おうとするの?

 

「…結構です」

「…なんで敬語?」

「っ…!…特に意味はない」

 

間違えた。恥ずかしい。ほんとになんで敬語になったの?びっくりしたから?

 

「あ、そうなんだ。ごめん、変なとこにツッコミ入れちゃって」

「別に…」

「……」

「また、……」

 

明日。っていおうとした?わたし。今日はなんかおかしい。変な汗まで出てきた。とにかく、早く帰ろう。お風呂、入らないと。

 

 

──────          ──────

 

 

あー、つっかれたなー。浄化の光(ピューリファイ)癒し手(キュア)とか癒光(ヒール)と違ってなんか難しいー。意外と魔力使うし。

 

修師(マスター)、前線出なくてもみんなをサポートできる魔法とかないのー?」

「最初の七日間でだいたいのスキルのこと教えたろ。咎光(ブレイム)で敵の動き止めるとか、光の護法(プロテクション)とか守人の光(アシスト)で身体能力向上とかあるだろ」

「なんかもっとばーんって感じで強いやつはー?」

「そんな都合のいいスキルある訳ないだろうが」

「むー。修師はどう戦ってたの?」

「俺か?俺はそういう補助魔法はほとんど使わなかったぞ。だいたいもう一人の神官に任せてた」

 

そっかー、パーティーに二人神官いたらカナも前に出れるかなー。でも、いまからじゃ無理か。

 

「あれ?例えば、光の護法を二人で一緒にかけたらどうなるの?もっと強くなるの?」

「いや、それはないな。せいぜい効果時間が延びる程度だ」

「だよねー。さすがにないか。便利すぎるもんね」

「…カナ、お前そんなに後衛が不満か?」

 

うーん、不満なのかな?確かに退屈だけど…。

 

「不満っていうよりは、役に立ってる気がしないから、みんなのためになんかしたいなーって感じ?」

「そんなにすることないのか?」

「うん、最近は特に傷の回復も少ないし、盾役(タンク)の二人がうまく引き付けてくれてるから仕事がないのー」

「んじゃ、狩り場のレベル上げたらどうだ?」

「んー?ダムローの新市街とかまでいくの?」

「いや、あそこは数の暴力がヤバい。ゴブリンを一撃で仕留められるくらいにはならないと狩り場にはならないな。ま、セオリーに従うならサイリン鉱山だな」

「サイリン鉱山?」

「コボルドの棲み家になっている鉱山だ。少し遠いが、ゴブリン狩りよりはだいぶ効率がいいぞ」

「コボルドってどんなの?」

「簡単にいうと二足歩行の獣だ。獣といえど、頭はそんなに悪かない」

 

二足歩行の獣…。なんか怖そー。カナたちでも戦えるかな?

 

「そっかー、とりあえず、チハルに相談してみないとなー。アドバイスありがとー、修師」

「んじゃ、そろそろ俺は帰るかな」

「えー、最後に手合わせしようよー」

「お前、さんざん疲れたってぼやいてただろ」

「あれは魔力使いすぎたからだよー。体力は別ー!」

「最近、愛しのマイハニーがお冠でな。お前を担当する日だけ遅いって焼きもちやいてるんだよ」

「じゃあ、一回だけ!スキルも使っていいから!」

「あー、はいはい。わかったよ。一回だけな、さっさと終わらせて帰るからな」

 

ふっふっふー、やっぱり、修師は甘いなー。奥さんには悪いけど、最後の一回、全力で凌いでやるっ!




読んでいただきありがとうございます。

ソウマの登場シーン、蛇足かとも思ったんですけど、アニメではないシーンのためなるべく省略しないようにやりました。
スキルにバリエーションが増えてくると戦闘にも華ができそうですよね。頑張ります。

オリジナルキャラクター紹介第三弾!

◆コウタ
性別 男
身長 一五四・九
外見 顔はチハルと同じ。髪はヘアバンドで上げているので幼い印象は受けにくい。少し、目付きが悪い。
性格 他人に流されやすいところがあり、自分で物事を決めることがあまり得意ではない。意外と優しいところがあって面倒見がいい。親バカになりそうなタイプ。少し離れたところから物事を見たがるお年頃。
その他 実はアトリの次に身長が小さい。本人はシズクより大きいと思っているが、それはシズクが猫背だから。七話の後書きで戦闘センスが一番下だとあった通り、パーティーの中でも戦闘に対する意識も一番低い。絵が絶望的に下手。道は一度で覚えられる。地図も簡単に読める。耳がいい。
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