影と現身のグリムガル~五つの欠片~   作:?BOX

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どうも、更新です。

後半から始めての戦闘描写となります。派手な戦闘はあまり期待されない方がいいと思います。パーティー的にも堅実な戦い方を想定してます。

では、本文です!


第五話 奇襲作戦

 

「まだ、誰も来てないのかな…?」

 

僕は今、オルタナの北門にいる。時間は恐らく十時数十分前。ここはギルドでの七泊八日の修練を終えたあとの集合場所だ。今日は朝ご飯を食べて師匠から弓と矢と剣鉈とちょっとした防具をもらっただけなので、色々と準備を整えた後でも、だいぶ時間があった。だから、早めに来てしまった。狩人ギルドも北区にあるから門にも近かったし。

僕は狩人ギルドでは主に弓と狩猟術について習ってきた。僕はけっこう非力だし、接近戦で敵と戦う度胸もないので剣鉈の扱いはうまくできそうになかった。師匠もそういっていた。だけど、おかけで弓の技術はかなり上達した。非力であるのと同時に身長的にも長弓(ロングボウ)は無理だったので合成弓(コンポジットボウ)を選択した。やはり、威力や有効射程では劣るから、そのうち狩猟術の毒草の知識を活かして毒矢を使えるようにしたい。そしたら、うまくパーティーに貢献できるかな。

 

「やっほー!チハルー、久し振りー!」

「おはよう」

「おはよう。七日振りだね」

 

カナちゃんとテルだ。カナちゃんは白に青いラインの入った神官服を着てる。ほんのり小麦色をした肌に白が映えていてけっこう似合っている。武器はメイスみたいだ。

テルは左手にルミアリスの紋章が入ったバックラーを装備し、背中にカバンと三叉槍を背負っている。三叉槍はテルの身長ほどの長さがある。防具は視界が開けた兜と籠手、鎖帷子を身に付けている。盾役にしては防具が少ないのかな。お金がないから揃えられないか。

あ、十時の鐘だ。そろそろみんな来てもおかしくないんだけど…。

 

「おっす、待たせたな」

「びっくりした!何でいきなり背後から出てくるの?!」

「あっ、コウタも久し振りー!」

「久し振りー。まあ、盗賊だからかな」

 

確かに盗賊らしいといえばそうだけど…。コウタは腰にダガーとウエストポーチ、防具は籠手とマントの下にボロめの革鎧を身に付けてるくらい。相変わらずヘアバンドは着けてる。

 

「あれ?シズクはまだか?あいつって遅刻するタイプだったのか、意外だな」

「シズクちゃん、大丈夫かなー?」

 

確かに意外かも。もしかして迷子になったとか…?

 

「…あれか?」

 

テルが僕の背後を指差す。走ってくる人影が見えた。フード付きで、黒い…いや、暗めの紺色のローブを着て、杖を持っている。肩から斜めにカバンをかけている。頭にはとんがり帽子を被っている。あの帽子って魔法使いっぽいイメージだけど、なんか意味があるのかな?

 

「…はあはあ。ごめん、ちょっと、道に、迷っちゃってっ」

「そんなに慌てなくてもよかったのに」

 

シズクちゃんは苦しそうに胸を押さえている。…押し潰されてる。…いや、やっぱり何でもない。

 

「シズクちゃん、大丈夫?」

「…ありがとう、カナちゃん。もう大丈夫」

 

息も整ったみたいだ。…あ、コウタも見てた?

 

「全員揃ったな」

 

おっと、そうだった。そんな場合じゃなかった。

 

「う、うん、そうだね。じゃあ、今日の予定を決めたの、ギルドに入る前だし、改めて確認しとこうか。僕たちは見習い義勇兵が一番最初に足を踏み入れるっていわれてる森に向かう。そこで泥ゴブリンをターゲットにして狩りをする。大丈夫?」

 

みんなの顔つきは真剣だ。僕も真面目なトーンで喋る。

 

「泥ゴブリンはダムローってとこのゴブリンより装備がしょぼくてやりやすいんだっけか?」

「うん、その通りだね。ただ、稼ぎも少ないけど。初戦の僕たちはそんなことよりもまず、安全第一だ」

「マナトさんがいってたグールってやつは?私たちでもやれるっていってたよね?」

「グールは昼間はほとんど動かないらしいけど、あんまり遭遇することもないみたい。だから、見かけたらラッキーって感じでいこう」

「うん、わかった。とりあえずは泥ゴブリンね」

「斥候は主にコウタ、余裕があるときは僕も。戦闘時の陣形はテルが前衛で、コウタが遊撃、僕が中衛、女の子二人が後衛って感じでいく。やっぱり、テルに負担かける形になっちゃうね、ごめん」

「大丈夫だ、任せておけ」

「さすが、心強いね。なるべく一体のゴブリンを狙おう。多くても最初は二体までが限度だと思う」

「だな、無理して怪我しても仕方ないだろ」

「うん。…それと、最後に一つ。コウタがいった通り、怪我をするかもしれない、下手をしたら死ぬかもしれない。僕たちはそんな状況にいる。それだけは絶対忘れちゃいけない」

 

僕の声はより張り詰めたものに変わった。

ギルドでも師匠がいつもそんなことをいっていた。楽観視してはダメだ、全ての命は無駄にしてはならない、と。みんなの表情が硬くなるのがわかる。

 

「カナ、それよくわかる。私が修練してる間にもひどい怪我した義勇兵の人が神殿に運び込まれてたから。中には亡くなっちゃった人も…。だけど、みんなは絶対そうさせない。カナが助けるからね」

 

カナちゃんはほんとにすごい。こんな話の中でも笑ってくれる。みんなの不安を取り除こうとしてくれる。

 

「うん、僕たちにはちゃんと仲間がいる。みんなで助け合えば大丈夫だよ」

 

みんなが頷いてくれた。何でだろう?みんなとは出会ったばかりのはずなのに、不思議と信頼できる。みんなも同じこと思ってるのかな?もしかして、記憶を失う前も一緒にいたのかな?だとしても、双子のことまで忘れてしまうのもおかしい…。いや、今は余計なこと考えてる場合じゃない。集中しないと。

 

「じゃあ、みんな準備はいい?」

「その前にあれ、やっとこうぜ」

 

あれ?コウタが右手を差し出す。…そういうことか。僕も黙って右手をコウタの右手に重ねた。あとは言わずもがなだ。

 

「…今日が僕たちの初陣だ。なにが起こるかやってみなきゃわからない。でも、なにが起こっても僕たちのパーティーならきっと乗り越えられる。よし、みんないこう!」

 

一度目はきれいに揃った。なら二度目も当然揃うに決まってる。

 

「「「「「おーっ!」」」」」

 

 

見渡す限り、木、木、木。まさしく森だ。歩きづらくてイライラする。木の根っこには足をとられるれるし、コケは滑る。若干の下り坂だから足元もそこまで安定してない。こんなとこでほんとに戦えるのか?テルなんてあの槍、振り回せないだろ。あー、でもあんまり振り回して使わないっていってたか。

森までの道のりでパーティーメンバーの七日間でできるようになったことは大体把握した。

チハルは弓での狙撃。命中率はけっこう高いといっていた。スキルというよりただの狩人としての基礎らしい。だが、その分、近接はからっきしらしい。

テルは槍で敵の武器や手を狙って動きを邪魔して時間を稼ぐ払い落とし(ラップオフ)を習得したらしい。今の実力でも、槍の間合いを活かしてうまくやれば二体の敵を引き付けることもできるらしい。熟練度が上がれば同時に相手にできる数をさらに増やせるみたいだ。修練が終わったばっかで二体も引き付けられるとか、素直に尊敬する。

カナは癒し手(キュア)という回復魔法を習得してきたらしい。少しでも時間があったら修師(マスター)に護身術の手解きを受けていたらしいので、スキルは習得していないけど、けっこう動けるようになったみたいだ。

シズクは魔法の光弾(マジックミサイル)を使えるようになったといってた。そんなに威力がないらしく、あまり役に立てそうにないと落ち込んでいた。

俺は鍵開け(ピッキング)手打(スラップ)を習ってきた。俺の助言者(メンター)は手打などの喧嘩殺法を好まないらしく、規定だから教えたといってた。個人的には盗賊作法を応用したものや道具を駆使した搦め手に近いスキルがオススメだといっていた。それだったらさっさと教えろよと思う。

 

「あ、ちょっと待って。あの野草…。採集してくるね」

 

チハルがよくわからない雑草を取りにいった。

周りには特になにもいないようだ。特に物音もしないし。木が多くて視覚ではわかりづらいが。

 

「なあ、チハル。もっと開けたとこの方が敵探すにも、周囲警戒にもいいんじゃないか?」

 

今は俺とチハルで先導、テルたちは十メートル弱後ろに付いてきている。現状では視界が悪すぎて周囲を警戒するのも一苦労だ。

 

「うん、そう思って水辺があるだろう方向に向かって進んでるんだけど、なかなかたどり着かないね」

 

狩人だからその辺りのことはわかるのか。

でも、さっきからけっこう無駄な方向転換が多い気がする。まあ、確かにちゃんと進んではいるけど。…うん?水の音?

 

「ストップ。水の音がする」

 

チハルは気づいてなかったみたいだ。後ろのグループにも合図を送る。チハルがキョロキョロと周りを見渡す。俺も同じようにする。

 

「多分、あっちに川があると思う。水面みたいのがチラッと光った」

 

俺もチハルが指差す方をしばらく見てみるが、そんな光は見えなかった。

 

「間違いないか?」

「うん、大丈夫。光が何度か見えたし。コウタ、ちょっと偵察お願いできる?僕たちはここで待ってるから」

「オッケー、いってくる」

 

しばらくいくと俺にも水面に反射してるような光が見えてきた。まだ若干距離がある。今のところは気配はない。川の流れも穏やかみたいだ。

少し茂みが薄くなってきた。さらに身を屈めて速度を落として進む。

もうすぐ、開けたとこに出る。特に気配はしない。…よし、いこう。大丈夫だ、気配はしない。大丈夫だから少し静かにしてろよ、俺の心臓。

……覚悟は決まった。いこう。

 

…カサッ

 

ふぅ…。よかった、とりあえずはなにもいないっぽい。でも、顔を出しただけじゃ全てはわからない。

茂みから体を出してみたが、周りを見渡してもなにもいないようだ。

うん、この川沿いなら比較的足場もあって広い。戦いやすそうだ。ここらへんを拠点に大きな荷物を置いてって索敵するのもいい。

 

…ガサッガサッ

 

向こう岸になにかくる?!ヤバイ、隠れないと。とにかく近くの茂みへ飛び込み、様子を伺う。

…ゴブリンだ。身長は小さく、不健康そうな肌の色だ。ここは逃げるべきか?いや、まだあいつはこっちに気づいてないみたいだ。下手に音をだしたら気づかれるかもしれない。見たところ武器らしい武器は持ってない。身に付けているのはボロボロの兜と腰布だけだ。とにかく様子を見よう。首からは袋を提げている。あれがゴブリン袋?でも、手にも袋を持ってる。

いや、あれは水筒代わりだ。川で水を汲み始めた。

早くいけよ、そろそろいっぱいになっただろ?

…よし、いった。下流か…。うん?ぬかるみに点々と足跡が残ってる。ラッキーだ。ここで準備を整えたらあとを付けてみるか。とりあえず、みんなと合流しないと…。戻ろう。

 

「チハル、今のところ川沿いは大丈夫そうだ。さっきまでゴブリンいたけど」

「えっ?大丈夫だったの?」

「大丈夫。うまくやり過ごせた。とりあえず、みんなを呼んで川沿いを拠点にしよう」

「そうだね、荷物が少ない方が森の中だと動きやすい」

 

チハルが後ろのグループへ合図を送る。川沿いに向かいながらチハルが状況を説明してくれた。

…ゴブリンを発見してから五分くらいは経ったか。準備は整った。あとを付ければゴブリンがいる。武器も持ってなかった。狙わない手はない。

 

「ねー、でも川どーやって渡るの?」

 

確かにそこが問題だ。川は浅いし、そこまで川幅はないから歩いて渡れないことはない。今はそこまで暖かい時季じゃないし、川の水も冷たそうだ。濡れるのは気が進まないし、体を冷やしたらあとにも響きそうだ。

 

「チハル、どうする?」

「とりあえず、対岸から足跡を追えるだけ追ってみよう。ゴブリンたちが住んでる訳だから丸太橋くらい途中で見つかるかもしれない」

 

なるほど。確かにあってもおかしくない。チハルの考えに反対意見はないようだ。

 

「じゃあ、出発だね」

 

今度は俺、テル、チハル、シズク、カナの順でまとまって進んでいく。テルは槍を既に両手に装備している。

しばらく歩いているが、対岸の足跡はまだ続いている。あのゴブリン、どこにいくつもりなんだ?

 

…ガサッガサッ

「グギャァァ!」

「ゴブリンきたっ?!」

 

茂みの音になにかの鳴き声、最後にカナの声だ。…何で?後ろからきた?くそっ、対岸に気をとられて気づけなかった。ヤバイヤバイヤバイ。

 

「カナっ?!」

 

シズクがびっくりして尻餅着いてる。カナは?…メイスでゴブリンの短剣を弾いてる。攻撃は食らってないみたいだ、よかった。いやいや、安心してる場合じゃないこの陣形じゃヤバイ。つーか、ゴブリンまだくる?!全部で三匹も?!

 

「みんな、落ち着いて!テル、すぐ前出て!ゴブリン一匹でいいからお願い!シズクはすぐ立って下がる!」

 

俺はどうする?どうすればいい?盗賊の役割ってなんだっけ?斥候?いや、今じゃない。背後から奇襲?回り込めるほど広さがない、無理。…とりあえず落ち着け。

そうだ、ゴブリン一匹くらい引き付けないと。ただでさえ、カナにやらせてしまってる。つーか、あいつ凄くね?短剣ゴブリンと普通にやりあってない?むしろ押してる?

棍棒ゴブリンAはテルが押さえててくれてる。相手を間合いに入らせないように槍を細かく払ったり突いたりしている。あそこも任せて大丈夫そうだ。

問題は棍棒ゴブリンBだ。下がってくるシズクを追いかけてこっちへ向かってきてる。チハルも下がって矢をつがえている。チハルもシズクも近接戦闘は向いてない。ここは俺が引き付けるしかない。でも正直、正面からはやり合いたくない。スキルだって鍵開けと手打しか習ってない。ろくな喧嘩殺法も使えないのにまともにやり合える訳がない。でも、やらなければ。俺以外にできるやつはいない。なんかいい方法はないか?…石?そうだ、石を当てて引き付ければいい!

 

「おい!こっちだ!」

 

…石はうまく棍棒ゴブBの肩に当たった。思ったよりダメージは入ったようだ。ゴブリンがこっちを向いて唸っている。うまく引き付けられた!念のためにダガーを抜いておく。次の石も拾っておいた。

 

…ヒュンッ

 

チハルの矢だ。棍棒ゴブBの右手を掠め、茂みに飛び込んでいく。棍棒ゴブBが痛みで棍棒を取り落としそうになった。…チャンス!石を投げて自分も駆け出す。

くそっ、外れた。だが、棍棒ゴブBをさらに怯ませるくらいの役には立ってくれた。

…今だ、手打!

よし、当たった!だが、手応えは微妙。でも、矢のダメージもあってか棍棒ゴブBは棍棒を落とした。

 

「マリク・エム・パルク!」

 

シズクの魔法の光弾だ。棍棒ゴブBの顔面に直撃した。かなりよろめいた。

すぐさま切り返して落ちた棍棒を拾って、川に投げる。これで棍棒ゴブBはただのゴブリンだ。よし、うまくいったぜ!

まだだ、まだ油断できない。ここは一旦距離を取っとく。

前衛は二人とも耐えてくれている。その間にこっちのけりをつけないければ。

 

ヒュンッ

 

チハルの矢がまた飛んできた。今度は脇腹に命中。けっこうなダメージが入ったはずだ。まだ倒れない?!くそ、ゴブリンタフすぎるだろ。

 

「グルル……グワアァ!」

 

武器が無くなって三人に囲まれている状況にも関わらず元棍棒ゴブBは脇腹を押さえながらも、威嚇を続けている。あんな形相をしている化け物の懐に飛び込む度胸は俺にはない。

…っ?!強行突破する気か?!ゴブリンがシズクの方へ突進していく。くそっ、早い!追い付けない!石拾っとくんだった。

 

ヒュンッ

 

ゴブリンがシズクの手前で勢いよく転んだ。チハルの矢が太ももに命中したらしい。だが、ゴブリンはシズクの足を掴んでいる。口を大きく開け、汚い牙を剥き出しにしている。そのまま噛みつくつもりのようだ。

 

「させるかっ!」

 

急げ急げ!一発で仕止めないとシズクの足に牙が…。どこだ?どこを狙う?心臓?首筋?どっちだ?首筋だ、首筋にする。できるのか?ダガーで一突きだ。ゴブリンはしぶとい。思い切ってやらないと仕止められない。やるしかない…!

 

ザグシュ…

「……ッガ…ガッ…グギィ」

 

肉、骨、血。そんな順番で感覚が伝わってきた。振り降ろしたダガーから脳に直接伝達されているようだ。気持ち悪い。命ある生き物を刺す感触を始めて知った。できることなら知りたくない感触だった。

当のゴブリンは絶命してはいないようだが、瀕死状態だ。なんとかシズクのことは守れた。間に合った。

 

「…っぐぅ!」

 

シズクの悲鳴を噛み殺したような声が聞こえた。くそっ、甘かった。ゴブリンが最後の力を振り絞り、シズクの足に爪を食い込ませていた。

素早くダガーを引き抜き、もう一度突き刺す。またあの感覚が体を走り抜ける。気持ち悪い。

 

「…グッ……ガァ………」

 

今度こそ動かなくなった。だが、シズクの足からゴブリンの手は離れていなかった。そのまま固まってしまったみたいだ。それほどの力を込めて握っていたようだ。

 

「テル、カナ!こっちは終わった!」

 

チハルが叫ぶ。だが、それとほぼ同時に短剣ゴブと棍棒ゴブAが逃げ出そうとする。カナとテルは追いかけようとしている。

 

「待って!深追いしちゃダメだ。…シズクちゃんも怪我してる」

「えっ?シズク!大丈夫?!」

 

カナがこっちは駆けてくる。ゴブリンの健を切ってシズクの足から離す。さっきからゴブリンの血のにおいが溢れかえっている。…これはかなり痛そうだ。

 

「テルと僕で周囲の警戒。カナちゃんはシズクちゃんの治療をお願い」

「うん、任せて。光よ、ルミアリスの加護のもとに……癒し手!」

 

カナのかざした手から光が溢れ出し、傷が目に見えて塞がっていく。ほんの十秒ほどで跡形もなく傷が消えた。

 

「…すごい、全然痛くなくなった。ありがとう、カナちゃん。もう大丈夫だよ」

「どーいたしまして。でも失った血までは戻らないから気をつけてね」

「…治療も終わったみたいだね。あのゴブリンたちも遠くまで逃げたみたい。今は特に気配はない」

 

これで一安心だ。そう思った瞬間、体が一気に重くなる。そんなに動いてないはずだ。何で?緊張が解けたからか?いや、ゴブリンを刺したからだ。命を奪う感覚はここまで苦しいものなのか…。

 

「コウタは大丈夫?それは全部返り血だよね?」

 

気がつかなかった。自分の腕はこんなに血まみれだったのか…。

 

「あ、ああ。大丈夫だ。怪我はない」

「川で流してきなよ。顔にも付いちゃってるから」

 

そうなのか。どうりで、においがすごい訳だ。とりあえず落とさなければ。

川に手入れると赤い血が煙のように水の中に広がっていく。…ああ、疲れた。今日はもう帰りたい。

 

「みんな、今日はこの辺にしとく?いきなり襲われて精神的にもダメージあるだろうし。シズクちゃんも怖かったでしょ」

「…うん、ちょっと怖かったけど、まだ頑張れないことはないよ」

 

明るく振る舞おうとしているが、俺の目から見ると無理しているように見える。

 

「俺も賛成だ。予想以上に実戦はつらい。正直なところ、一体で精一杯だった」

「カナも賛成」

「だな。今日のところは引き上げようぜ。…正直、俺も思ってたよりつらい。命を奪うってのはこういうことなんだな…」

 

みんなが俺の言葉に息を飲んだ。直接刃物で傷をつけたのは俺だけだ。みんなにはいまいち実感がないのかもしれない。でも、俺の表情がその悲惨さを物語ってるんだろう。

この感覚にはいつ慣れるのだろう。いや、慣れていいものなのか。でも、こうしなければ生活ができない。慣れないとつらいだけだ。考えても無駄だ。

…明日はもっとうまくできるのか?もう、今日みたいに誰かに怪我はさせたくない。

 

「今日は早めに帰ってみんなで反省会しよう。まだ、初日だからそんなに焦ることもない」

 

そうだ、まだ初日だ。でも、こんなこといつまで続けるのだろうか。この先が思いやられるな…。




読んでいただきありがとうございます。

物語も第五話となり作中のキャラクターや作者の書き方など少しずつわかってもらえてきたかなと思います。違和感などはあるかも知れませんが、その辺りはご容赦下さい。違和感なく書ける才能があったらプロ目指します(笑)

最近、まったくハルヒロたちの出番がなくてすみません。物語の前半の方はそこまで深く関わることはないかもしれません。
その間はオリジナルキャラクターを味わっていただけると嬉しいです。

ではまた次回に(* ̄∇ ̄)ノ
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