影と現身のグリムガル~五つの欠片~   作:?BOX

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どうも。更新です。

アニメブルーレイに書き下ろし小説をつけるのはずるいと思います。

今回ものんびり展開です。しかも長めです。
後半に原作キャラが三話ぶりくらいに登場します。

では、本文へどうぞ!


第六話 戦いのあとで

 

実戦は思っていた以上に動けなくなるものだ。それが今日の感想だ。

今日は実戦では百パーセントの力は出せないということを身をもって実感した。

まずは足場だ。聖騎士ならではの盾持ちスタイルは戦闘中は基本的に武器は片手で扱うことになる。そのため、戦士職と違って腕の動きだけでは対応できないことがある。その場合、重要になるのは足の動きだ。ギルドでは初めの三日ほどはその練習ばかりだったぐらいだ。元戦士だったヨシゾウ師匠がその違いを特に重要視していただけかもしれないが。とにかく、聖騎士として足運びは重要なのだ。しかし、実戦では足場が悪いなんてざらだ。ぬかるみの上で修練のときのように動ける訳がない。そして、想像以上に疲れる。

さらに実戦には恐怖がつきまとう。死、怪我、相手の威嚇など様々なものへの恐怖がある。よっぽどの強心臓でない限りはうまく動けなくなる。うちのパーティーではカナに限って、その恐怖はなさそうだったが。あれはあれで羨ましい。

最後になんといっても仲間の存在だ。大切な仲間だからこそ動きに影響が出る。悲鳴が聞こえたり、戦闘音がしていたら、やはり、そちらが気になってしまう。目の前だけをみていられないのだ。そこがパーティーのいいところであり、悪いところなのだろう。お互いもっと成長して任せるところは任せる、カバーが必要なところはカバーする。そんな関係にならなくてはいけないな。

 

「ふぅ、なんとかオルタナまでは無事に着けたね」

 

河原での戦闘後、荷物を回収した俺たちは森から抜ける途中に一度だけ、二人組のゴブリンを見かけた。今日はもう戦わないと決めていたので隠れてやり過ごすことになったが、その時間が果てしなく感じた。

 

「よかったぁ、これで一安心だね。まずは戦利品の鑑定にいかないとだよね?」

 

シズクの言葉にみんなが俺の持っているゴブリン袋に目を向ける。あまりたくさんの人に見られるのは好きじゃない。やめてくれ。

 

「だな。じゃあ、展望楼前の市場までいこうぜ」

 

コウタの一言でみんなの視線が外れた。助かった、ありがたい。

市場には何ヵ所かに買い取り商があるらしい。店によって若干買い取り価格が異なるらしいが、そこまで気にする差ではないようだ。一部を除いてだが。

今日の稼ぎはいくらになるのだろうか。ゴブリン一匹で一シルバー稼げたらいい方だという記事を図書館でみた。今日仕止めたのは森のゴブリンだ、そんなに期待しない方がいいだろう。

 

「どこの買い取り商がいいかな?」

「あそこでいいんじゃない?あのおじさん優しそうだし!」

 

カナがすぐ近くにあった買い取り商を指差した。あそこはダメだ。師匠がいっていた。師匠は食事のときに色々な情報も大量の食べ物と一緒に詰め込んできた。腹も脳もパンパンだった。とにかく、市場に入ってすぐの買い取り商はいい噂を聞かないらしい。

 

「いや、あそこは良くないらしい。他を探そう」

 

昼時でごった返しのメインの通りから外れてほどよく人の往来のある通りへ移動する。そこにもちょうど買い取り商があった。少し強面の店主がカウンターの向こう側に座っている。

 

「あそこはどうかな?」

「なんか、お店の人怖そうだよ?大丈夫かなー?」

「いこう」

 

他にいくあてもない。とにかく聞いてみるべきだろう。

 

「すいません、鑑定をお願いしたいんですけど…」

「おう、見せてみろ」

 

チハルにゴブリン袋を渡す。…俺が直接渡してもよかったか?

今日の戦利品は、水晶かなにかでできたおはじきのようなものが大小一枚ずつ、あとはなんのものかわからない牙が一つだ。

 

「…これはオークの硬貨だな。大きいのが五十カパー、小さいのが二十カパーってところだ。この牙はたいした価値はないが、まとめて売ってもらえるなら五カパーおまけしてやる。初来店のサービスだ」

 

相変わらずの強面だが、おまけとは意外に気さくな店主のようだ。商売はそうではないとやっていけないのだろうか?

 

「あの、それって黒狼の牙じゃないんですか…?価値があるって聞いたんですけど」

「いや、これは灰色狼の牙だ。しかもかなり小さい、ほとんど価値はない。不満なら他の店をまわってみるといい」

 

狩人のチハルのことだ。恐らく、ギルドで獣の知識も学んできたのだろう。俺には全くわからない。

 

「わかりました。一旦、そうさせてもらいます」

 

鑑定が正しいにしろ間違ってるにしろ他の店での鑑定額は聞いておいた方がいいだろう。

他の通りにある買い取り商をまわってみたが、どこも牙に価値はつかなかった。本当に灰色狼の牙らしい。さらにオークの硬貨に一番高値が付いたのは最初に訪れた店だった。

 

「…どうしよう。僕、間違ったこといっちゃったし、おまけまで付けてもらったのに断っちゃったよ…」

「ま、まあ、誰にでも間違いはあるよ」

 

シズクのフォローがむなしく響く。

だが、生活のためにお金は必要だ、この際仕方がない。恥を忍んでまたあの店にいくことになった。チハルは大丈夫だろうか。

 

「おう、やっぱり戻って来やがったか。オークの硬貨の買い取り価格はうちが一番高かったろ?」

「はい、その通りです…」

「うちの取り引き先にオークの硬貨を特に高値で買い取るやつがいるからな、当然だ」

 

店主は笑っていた。最初から戻ってくることを確信していたようだ。チハルは反対に落ち込んでいるようだ。あれは俺でも落ち込むな。

 

「…鑑定が間違ってるなんていって申し訳ないです」

「いいさ、素人にはよくあることだ。ちなみに、黒狼の牙は灰色狼の牙と違ってここまで黄色く変色しねぇんだ、覚えときな、坊主」

 

見分け方まで教えてくれるとは、店主は本当に人がいいようだ。坊主と呼ばれたチハルは少し顔を赤くしている。あれは怒っているのか、それとも恥ずかしがっているのか。

 

「それで、さっきのやつ、買い取ってもらえるんすか?」

「おう、いいだろう。ちゃんとおまけも付けてやる。全部で七十五カパーだ」

「じゃあ、お願いします」

 

チハルがゴブリン袋の中身と七十五カパーを交換した。一人当たり十五カパーの収入だ。多いとは言えないが倒したゴブリンも一匹だ、仕方がない。ゆっくり稼げれば十分だ。

 

「毎度あり。俺は店主のジードだ。また来たらおまけを考えてやらんこともないぞ」

「ありがとうございます!また、お世話になるかもしれないです」

 

ジードと名乗った店主はまたもや笑っている。これが商売上手ってやつか。俺にはそんな才能ないだろうな。

…鑑定も正しいし、買い取り価格も悪くない。乗せられている気がするが、行き付けの買い取り商になりそうだ。

 

 

戦利品の売却が終わったあとは宿舎に戻り、元々外で食べるつもりで用意していた昼食を摂った。さっき、二時の鐘の音が聞こえてきたからけっこう遅めの昼食だ。

カナちゃんだけは用意するのを忘れていたらしく、パーティーみんなで分け合って食べた。なんだか、楽しかった。これでも、さっきまで戦闘してたんだよなー。

 

「みんな、ありがとねー!今度、カナもなんかあげるからねっ」

「私はいいよ。今日カナちゃんに回復してもらったお礼ってことで」

「僕は楽しみにしてるね。…で、盛り上がってるところ悪いけど、そろそろ反省会もしないとね。早速だけど、今日悪かったところはなんだと思う?」

「…俺だ。俺が隠れてたゴブリンに気づけなかった。盗賊失格だ」

 

コウタが神妙な面持ちとなる。確かに盗賊には斥候としての役割がある。でも、あのときまで背後まで気を使えって言うのは無茶だ。

 

「違うよ、コウタだけのせいじゃない。僕たち全員の責任だ。みんな対岸の足跡に気を取られ過ぎてた」

「そうだ、チハルのいう通りだ」

 

シズクちゃんもカナちゃんも頷いている。コウタはそれを見て複雑な表情をしている。まだ、納得できないのかな。

 

「…みんな、ありがとう」

「とにかく、次からはまとまって動くとき、全員で同じ方向に意識を向けないように注意しよう」

「それに合わせてなんだが、隊列を組むときの殿は俺がやるべきじゃないか?」

「うーん、カナでもなんとかなると思うよ?」

 

今回はカナちゃんを殿にしてしまって、背後からの奇襲にカナちゃんを対応させることになってしまっていた。カナちゃんなら対応できるのかもしれないけど、やっぱり神官としてそれはよくない。

 

「いや、僕もテルがやった方がいいと思う。奇襲されたときに盾役(タンク)が前にいたら前線にいくのが遅れちゃうし。正面から堂々と襲ってくる敵もなかなかいないだろうから、後ろにいても問題ないんじゃないかな?」

「前方の敵はコウタが確実に見つけてくれれば、余裕を持って対応できる」

「ああ、さすがに前にいる敵は見逃すつもりはないぜ」

「じゃあ、後方の警戒がテル、前方がコウタ、側方が僕って感じになるね。女の子二人も主に側方の警戒がいいかな。なんか意見ある?」

「そうだね、それが一番安心できるかなぁ」

 

移動のときはこれで問題なさそうだ。次は…

 

「戦闘中はどうだと思う?」

「…私、奇襲されたときびっくりして尻餅着いちゃったし、ゴブリンが走ってきたときも怖くて動けなかった。ごめんなさい」

 

シズクちゃんが悪い訳じゃない。僕がもうちょっと早く射抜けていれば、もしくはシズクちゃんに逃げろと指示ができていたら結果は違ってたかもしれない。

魔法使いに、女の子に、一番最初に怪我を負わせてしまうのはパーティーとして、リーダーとして、どうなんだ?もっとできることがあったはずなのに。

 

「怖かったのはみんな同じだろ?シズクだけがビビってた訳じゃない。俺だってかなりビビってた。うまく動いてれば、ゴブリンを一発で仕止めてれば、シズクに怪我なんてさせなくて済んだ。…ごめんな」

 

そうだ、僕だって怖かった。最初に少し指示を出しただけでさっさと後ろに下がってただけだ。シズクちゃんに手を貸そうともしなかった。僕は後ろで弦を引くのに必死になっていただけだ。リーダーとしての役目を全然果たせていなかった。

 

「そんなことない!あのときコウタがすぐに動いてなかったらあんな軽い怪我じゃ済まなかったと思う…。だから、私はコウタに感謝してるよ」

「コウタは上手くやってくれたと思う。一番つらい役割もやってもらったし」

 

コウタはゴブリンを殺した。ほんとにあれはつらかったんだろう。あのときの表情ははっきりと僕の脳裏に焼き付いている。

 

「…いや、うん、ありがとう」

 

コウタはまたも納得いっていないような反応だ。でも、シズクちゃんに怪我をさせたのはコウタじゃない。

 

「シズクちゃんに怪我させちゃったのは僕だ。ゴブリンを囲むときもシズクちゃんを一人にすべきじゃなかった。僕の後ろに立たせるべきだったんだ。だから悪いのは…」

「ちょっと待って!コウタ、チハル、誰が悪いとかそーいうことじゃないよ!みんなで話し合うんでしょ?カナ間違ってる?」

「そうだ、カナのいう通りだ。終わってからなら誰でもなんとでもいえる。俺たちの問題はこれからどうするかだ」

 

そっか。そうだった。やっぱりいいな、仲間って。間違ってたら違うっていってくれる。大事なことだ。そして、僕はこの大切な仲間を導いていくリーダーだ。これじゃダメだ、もっとしっかりしないとね。

コウタも今度こそ納得したようだ。これからのことを考えないと…。

 

「カナちゃん、テル、ありがとう。…じゃあ、具体的に陣形の確認をしよう。シズクちゃんが後衛なのは当然のことだけど、極力一人で残さないようにしよう。護衛は主にカナちゃんか僕」

 

剣鉈は苦手だけどシズクちゃんを守れるくらいにはならないとだね。

 

「カナちゃんにはほんとにピンチのときだけ、前衛に上がってもらう。今日の動きは凄かったね」

「えへへ、修師(マスター)直伝だからねっ」

「戦法としては、テルが敵を引き付けている間に孤立させた敵をコウタが僕とシズクちゃんの援護で倒していく感じがいいと思うんだけど、コウタは大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。今日は初めての感覚にビビっただけだ。明日からはなんとかする。生きていくためには必要なことだからな」

 

コウタの表情を見る限り、まだ割りきれてないみたい。でも、それが普通なんだろう。簡単に生き物を殺せる方がおかしい。

 

「なんか、他に意見ないかな?」

「…今はないかな?やっぱり、やってみないとわからないし」

 

今日だって実戦をやってみてわかったことはたくさんある。とにかく、明日もやってみて、またこんな感じで話し合っていけばいい。

 

「そうだね、明日はもっとうまくやろう。じゃあ、今日のところはこれで解散でいいかな?」

「それなんだけど、今日の夜ご飯、お礼の意味も込めてマナトさんたちの分もみんなでつくれたらなぁって思うんだけど、どうかな?」

 

それはいい案だ。僕も火を起こせるようになったからそこは大丈夫だ。

どうやら、他のみんなも賛成らしい。

 

「じゃあ、男子で食料の買い出しにいくから、女の子は足りない分の食器とか調理器具お願いできる?余ってるものもあったはずだからそこまで多くならないと思うけど。一応、あとで確認しといて」

「オッケー!重いものあってもカナに任せて!」

「お金はあとで精算しよう。それと、六時前には戻ってきてね。じゃあ、それぞれ市場にいこう!」

 

 

これで市場にきたのは本日三回目。二回目は戦利品の鑑定のとき、一回目は朝迷子になっちゃったとき。でも、ここはオルタナの中心に近いから方角がわかりやすくてあとは間違えずに行けた。ここから宿までの道なら間違えないし、カナちゃんと二人でも大丈夫。えーと、買わなきゃいけないのはお椀とスプーンだっけ?宿舎に備え付けのお椀があったから買うのは二組だけでいいんだけど…。古かったけど、贅沢はいってられないし。

 

「シズクー、ここで売ってるよー」

 

あれ?いつの間にかシズク呼びになってる?全然嫌じゃないし、むしろ嬉しいくらい。

カナちゃんが手を振ってる雑貨屋さんまで小走りで向かう。

 

「これなんてどうかな?」

「いいかも!作りもしっかりしてそうだし、あ、でも…」

 

木製のお椀が九カパーでスプーンが三カパー。二組買うとなると二十四カパーか…。ちょっと高いなぁ。

 

「カナちゃん、他も見てみない?もっと安いのあるかもしれないし」

「うーん、セットで買ったら安くしてくれないかなー?…おばちゃん!これまとめて買ったら安くならない?」

 

カナちゃんがちょうど他のお客さんの応対を済ませた店主のおばさんに声をかける。あんなの私には無理だなぁ。カナちゃんのコミュニケーション能力には憧れるなぁ。

 

「…全部で二十四カパーだろ?うーん、二十カパーでどうだい?」

 

すごい、カナちゃん!うまくいったね。でも、まだちょっと高いよなぁ。

 

「もうちょっと!ダメかな?」

「じゃあ、十八カパーだ。さすがにこれ以上はまからないよ」

 

スプーン二つ分も割り引きしてくれた。これなら出してもいいかも…。

 

「おばちゃん!もう一声!」

 

まだ攻めるの、カナちゃん?!それはお店の人もさすがに厳しいよ。

 

「それはちょっとなあ…」

「あかんかなあ?おばちゃん。ユメからも頼みたいなあ」

 

後ろからふにゃぁんとした声がした。マナトさんのパーティーにいた人だ。ユメさんっていってたっけ?あ、後ろにはシホルさんもいる。魔法使いって聞いたから覚えてる。

カナちゃんもいきなりの援護にびっくりしているみたい。

 

「おや、ユメちゃんの知り合いかい?」

「そやんなあ、ユメのこーはい、かなあ」

「ユメちゃんの後輩っていうんなら、仕方ない。十五カパーにまけてやる。先輩たちに感謝するんだよ?」

「いつもありがとうなあ、おばちゃん」

 

ユメさんはふにゃあと笑ってる。っていうか、十五カパー?!お椀一個分も安くなった!これは買わないと。あ、お礼いわなきゃ。

 

「あの、ユメさん、ありがとうございます」

「ユメさん、ありがとー!」

「ユメ、そんなたいしたことしてないよ」

 

またユメさんがふにゃあと笑う。カナちゃんはおばさんに十五カパーを払ってお椀とスプーンを受けとってる。ユメさんはふにゃふにゃしてて可愛いなぁ。

 

「毎度ありー!また来てくれたら安くしとくよ!」

 

ユメさんとカナちゃんがおばさんに手を振ってる。今度なんか必要になったときはここに来よう。

 

「…シズクちゃんたち今日ギルドの修練終わったんだっけ?」

 

シホルさんがユメさんの後ろから顔を出して話しかけてくれた。人見知りなのかな?緊張してるみたい。前もあんまり話してなかったし。

 

「はい、そうです。今日、初めて森にいきました」

「…どうだった?」

「えっと、いきなりゴブリンに襲われて一体しか倒せなくて…。あとは逃げられました」

「悔しかったよねー。でも、少し稼げてよかった!」

「ほわぁ、すごいなあ。ユメたちなんか初日は穴鼠にやられてなあ。なぁんも稼げなかったなあ」

「うん、すごいよ。あたしは最初怖くてなにもできなかったし。魔法が全然当たらなかった…」

 

私も怖くてたいしたことはできなかったけど…。やっぱり最初はみんなそうなんだなぁ。

 

「ところで、ユメさんたちも買い物ですか?」

「ユメたちはなあ、見てるだけかなあ」

「新しい狩り場にも慣れてきて、最近はけっこう稼げるようになってきたから、なんか買ってもいいんだけど…」

「あ、そういえば、ハルくんがなあ、稼ぎに余裕あったら宿の中で着る服もあっていいんと違う?ってゆうてたなあ。ちょっと見てみようかなあ」

「じゃあ、私たちも少し一緒に付いていってもいいですか?」

 

私もウインドウショッピングしてみたい。まだ約束の六時までは時間もあるし、少しなら大丈夫だよね?

 

「ユメもシズクちゃんたちともっと仲よぉしたいしなあ。シホルもいいよなあ?」

「うん、あたしも女の子同士、仲良くしたいかな…」

「カナも仲良くなりたいっ!」

「じゃあ、ご一緒させてもらいます!」

 

断られなくてよかったぁ。

このあと、私たちは時間を忘れてショッピングに夢中になった。ユメさんは部屋着を買ってた。六時の鐘がなって慌てて四人で宿に向かうことになっちゃったけど、すごい楽しかったなぁ。

 

 

買い物のついでにテルが武器の手入れ用の砥石とかを見にいきたいというので、俺たちは今、南区の職人街に来ている。武具関係のものは職人街で買った方が安く済むらしいとテルがいっていた。俺もそのあたりの道具は揃えておきたかったしちょうどよかった。金はあんまり余裕ないけど、不十分な装備だと不安になる。

 

「師匠に紹介された店を探してくる。少し待っててくれ」

「オッケーだよ、いってらっしゃい」

 

職人街という割りには人通りが多いが、騒然とした様子はあまりしない。まだ入り口だからだろうか?

 

「ん?…あれって?」

「どうかしたか?」

 

チハルが見つめる先を見てみるが、特に疑問に思うことはなかった。

 

「いや、見習い義勇兵の団章と最初にもらった革袋を持ってる人が見えた気がして…。気のせいかも」

「新人が入ったってことなのか…?」

「どうなんだろうね…」

 

南区にいるってことは戦士ギルドに向かうのか?…まあ、あんまり気にしても仕方ないか。

 

「コウタ、チハル、待たせた。いこう」

 

テルが戻ってきた。職人街の奥へと進んでいく。

奥にいくにつれ、雑多な感じが出てきた。金属を叩く音が聞こえてきたり、弟子を叱る声なのか怒号も聞こえてきた。

 

「ここだ」

 

そこにはウィンドザール鋼材問屋という看板が掲げてあった。

 

「問屋?」

「ああ、昔は職人向けの鋼材や石炭なんかを卸してたらしいんだが、今は職人以外の人間でも紹介があれば売ってもらえるらしい。今の代からは武具自体も取り扱うようになったと師匠がいっていた」

 

テルの師匠はいい人みたいだ。俺のところはろくでもない人だからなー。ビビりだし。まあ、それは俺がいえた義理じゃないけど。

テルがドアを開けて入っていく。俺とチハルもそれに続く。来客を知らせるベルが鳴っている。

店内は無骨な雰囲気で、壁に剣や槍、ナイフなどが飾ってある。あれは売り物なのか?

 

「なんだ、お前たちは?お前たちのような若造に売るもんはない。帰った帰った!」

 

店の奥で鎧の手入れをしていた五十代くらいの男が愛想のない声で追い払おうとする。

 

「おい、親父!勝手に来た客を追い払おうとすんな!」

 

奥のドアから元気のいい声をした青年が出てくる。顔に煤が付いている。今までなにか作業をしていたのか?

 

「おっと、君たちは…?誰かの紹介かな?」

 

さっきの声とは違って優しい雰囲気の声だ。営業用か?

 

「聖騎士ギルドのヨシゾウ師匠の紹介だ」

「ヨシゾウさん…?!そうか、なるほど。聖騎士で槍使いは珍しいとは思ったが…」

「あいつの弟子なのか?」

 

無愛想なじいさんも驚きの声をあげている。そんなに有名な人が師匠なのか…?

 

「はい」

「…むぅ。あいつの弟子なら無下にする訳にいかんな。用はなんだ?」

「砥石と革製品を手入れするための布とオイルが欲しい。一番安いものでいい」

「砥石なら売り物にならない小石みたいなものならただで持っていっていいぞ。石の方を動かすからかなり研ぎにくいけどな」

 

ただで手にはいるならそれに越したことはない。包丁みたいな繊細なものを研ぐ訳じゃないし、なんとかなるだろう。

 

「布とオイルなら十カパーで売ってやる。オイルはサービスで多目にしといてやるよ」

 

確か市場でみたときはオイルだけで二十カパーはしたはずだ。半額以下かよ!テルの師匠すげえ。

テルが無言で十カパーを取り出し息子の方へ渡す。 

 

「どうも。今持ってくるからちょっと待ってろ」

 

奥へ入ってしばらく経つと大きめの紙袋を持って戻ってきた。

テルにその紙袋を差し出した。

 

「ほら、砥石も入れといたぜ。俺は長男のヨハネス・ウィンドザールだ。今は店主をやってる。武具に関することでなんかあったらここにこい。欲しいものがあれば売ってやるし、コネが欲しけりゃ紹介してやる。うちは職人街にならけっこう顔が効くからな」

「そうか、ありがたく使わせてもらう。じゃあ、またくる」

 

テルは袋を受け取って、そのままドアの方へ向かっていく。

 

「ありがとうございました」

「…どうも」

 

俺はチハルにつられて軽く頭を下げた。ヨハネスは笑顔で片手を上げただけだった。

 

「ふぅ、なんか息の詰まる空間だったけど、テルのおかげでいい買い物ができたね。今後も利用できそうだし」

「まあ、そうだな。じゃあ、市場へ向かうとするか。…ここからだと屋台村を抜けていくのが一番近いな」

 

職人街の近くには屋台村がある。グリムガルに来た初日、串焼きを食べたのもそこだ。市場にも同じような串焼きがあるがまだ食べたことはない。

 

「じゃあ、いこうか」

 

屋台村には誘惑が多い。そこかしこからいい香りがしてくるし、食欲を刺激するキャッチコピーが飛び交っている。

 

「うめぇな、これ!なんつったっけかなあ?」

「ゾルゾでしょ?」

 

ん?この声どこかで…。あ、モグゾーさんとランタ…さんだ。

 

「おい、テル、チハル。あそこ」

 

モグゾーさんとランタさんがいる屋台を指差す。

 

「…モグゾーさんとランタさんか。声掛けてみよっか」

 

チハルが屋台へ向かっていく。その判断の早さに少し感心だ。

 

「モグゾーさん、ランタさん、お久しぶりです」

「ぅんあ?お前は、えっとー、誰だっけ?」

「チハルくんだよ」

 

ランタさん、いやもうさんとかいらね。ランタはすっかり俺たちのこと忘れてやがる。

 

「あー、思い出した思い出した。オレ様の後輩だな。挨拶とはいい心がけじゃねぇか」

「あはは。あの、お二人はここでもうご飯済ませちゃうんですか?」

「んあ?悪いか?」

「いや、悪くはないんですけど、色々教えてもらったりしたお礼の意味を込めて、今日の夕飯をパーティーのみんなで作って食べてもらおうかと思ってたんですよ」

「そうなの?じゃあ、ぼくは一杯で我慢しとくよ」

「…仕方ねぇ、オレも一杯で我慢しといてやるよ。後輩の顔を立ててやるのも偉大な先輩の条件だからな。オレ様の優しさに感謝しろよな」

 

なんかいちいち気に障るいい方だ。もうちょい、いい方変えらんないもんかねえ。別に嫌いって訳じゃないが、尊敬する気にはなれない。

 

「ありがとうございます。で、これからその食材を買い出しにいくんですけど…」

「あ、ぼくたちもちょうど食材の補充したかったから一緒にいっても、いいかな?」

「はい、もちろん大丈夫です。じゃあ、食べ終わるまで僕たちは待ってますね」

 

どうやら一緒にいくことになったらしい。チハルがこっちに戻ってくる。

 

「よし、モグゾー!どっちが早く食べ終わるか競争すんぞ。スタート!」

「…え?ラ、ランタくん?競争?ってずるいよ、もう食べてるし」

 

なんか向こうでは早食い競争が始まった。モグゾーさん、ランタに振り回されてるなー。

結局、勝負はフライングしたランタの勝利で終わったようだ。なんか騒いでいるが、鼻水が垂れているからカッコ悪い。

 

「じゃあ、買い出しいきますか」

「値切りなら、このオレ様に任せとけ!値切り王といわれたこのオレに値切れないものなど存在しないぜ!」

 

やっぱりめんどくさい人だ。チハルがうまく相手してくれないかなー。

同じ前衛職だから気が合うのかテルはモグゾーさんと防具のこととかで話している。俺はランタの話を聞き流しながら歩いてる。あー、早く着かねぇかなー。

 

「食糧買うならこの辺りがいいかも」

 

モグゾーさんの一言で市場の端の方で買い物をすることになった。先輩がいるとそのあたりの事情がよくわかって、すごく心強い。

結局、市場では、ほんとに値切り王の力が発動したらしく、腐るんじゃないかってくらいの食糧を格安で手に入れることができた。この調子だと早めに宿に戻れそうだな。




読んでいただきありがとうございます。

今回の時系列はアニメでいう三話のハルヒロがパンツ値切って買ってたとこです。

また呪文のこと調べてたら火炎柱(ファイアピラー)火炎壁(ファイアウォール)の呪文が同じなんですよね。形態的には似てるからそうなってるんですかね。まあ、気にしたら負けですよね。

では、また次回で(* ̄∇ ̄)ノ
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